眼が覚めると俺は白玉楼に用意された客室だった。昨日はいつ寝たんだっけな?幽々子を布団に寝かしてからは、確か桜を・・・!俺は!
「うっ!」
焦って身体を起こすと、身体に痛みが走った。
「やっと起きたのね。」
「紫。俺はどうなってたんだ?」
「庭で倒れていたわ、それも血だらけでね。」
「あの時俺は自分で自分を…。なぁ紫、あの桜なんだろ?俺がこうなった原因は。」
「察しがついてるなら早いわ。あなたが自殺願望に捕らわれたのはあの桜、西行妖の呪いよ。」
「西行妖?」
「あの桜に魅入った者はもれなく自殺してしまうの。幽々子や妖忌、私もそれぞれの理由でその呪いからは逃れているのだけど、あなたは無理なのよ。」
「呪いから逃れる手段があるなら、教えてくれないか?」
「無理よ。妖忌は半霊、要するに半分死んでるから体質的に効かない。私は生と死の境界を操って呪いを誤魔化してるわ。」
「それじゃあ幽々子は?あいつは半霊でもないし境界も操れないだろ?」
「あの子は、西行妖に魅入られたのよ。実を言うとあの桜に魅入られた彼女にも西行妖と同じ呪いを持っているわ。」
「それじゃあ俺はどうして幽々子の前では無事だったんだよ?」
「私があなたの生と死の境界を操っていたのよ。幽々子の呪いは西行妖と比べれば弱いから、私が他人を守る事はできるわ。でも西行妖の妖力は異常なの。私の能力でも私自身を守るのが精一杯なのよ。」
「そう言う事だったのか。悪いな、約束を守らなくて。」
「この際構わないわ。もう時期あなたにも話すつもりだったしね。」
「ところで、幽々子や妖忌は?」
「もう寝てるわ。あなたはわからないでしょうけど、今は丑の刻。真夜中もいいところよ。」
「丸一日寝てたのか…。」
「何言ってるの?一週間よ。あなたは一週間も意識を失ってたの。」
「一週間⁉︎俺そんなに寝てたの?」
「幽々子もあなたの看病でなかなか寝ようとしないから、さっき無理やり寝かしたのよ。後で感謝とお詫び、忘れないことね。」
「そうだな。起きたら言っておくよ。」
「それじゃあ、あなたも峠は越えたし私は失礼させてもらうわ。怪我はまだまだ治ってないんだから、これから二度寝する事を勧めるわ。」
「あぁ、それじゃあまたな。」
「えぇ、また様子を見に来るわ。」
そう言って紫はスキマへと消えていった。まだ身体は痛く、眠気もなかなか強い。今日のところはおとなしく二度寝するとしよう。
目が覚めた。周りには誰もいない。身体の傷はひどいが、動けない程じゃない。俺は壁にもたれながら歩き、誰かを探した。誰かと言っても幽々子か妖忌しかいないんだけどな。
<少年探索中・・・>
どこにもいない。俺が行ってないのは例の西行妖のある渡り廊下だけだ。
「近づくのは危険だし、千里眼だな。」
能力の応用で習得しておいてよかった。おっいたいた。妖忌も幽々子もいるみたいだな。どうやら紫もいるようだな。しかし幽々子は寝てるのか?いや、何かが溢れてる…これは、血⁉︎
「幽々子!」
俺は急ぎ二人の元へ走った。西行妖も身体の傷も関係ない。そこへたどり着くと二人ともこちらを悲しい目で見た。
「智慧殿…」
「妖忌、紫、幽々子は?何があったんだ?」
「実は昨晩、幽々子にあなたの意識が回復したのを伝えたのよ。そして朝、遺書を残して自ら命を絶っていたわ。」
「そんな…なんでそんなこと⁉︎」
「全てここに書いているわ。幽々子の考えも、最後の想いも。」
そう言って紫は俺に遺書を差し出した。
「紫、妖忌、智慧、勝手なことをしてごめんなさい。私は今までたくさんの人の死をあの西行妖とともに見てきたわ。辛くはあったけど耐えられないほどじゃなかった。けど智慧、あなたが倒れているのを見た時、私は耐えられなかった。私の親しい人までこの呪いで傷つくのはもう見てられないの。紫、あなたは私の意図をわかっているわよね。後のことは頼んだわ。それから智慧、こんな時に言うのはずるいかもしれないけど。私智慧のこと、好きだったわよ。」
「・・・幽々子。」
本当にずるい。そんなこと今言われたって返事もできないじゃないか。
「幽々子様…。」
「二人とも、西行妖を封印するわよ。」
「できるのか、そんなこと?」
「幽々子の身体を媒体とすればできるかもしれない。それでもこれは賭けよ。失敗する可能性もある。」
「失敗すればどうなる?」
「幽々子の肉体は西行妖に取り込まれ、その呪いはより強くなる。そうなると、もう二度と封印の機会はなくなるわ。」
「それが、幽々子の願いなんだよな。」
「ええ、そうよ。」
「妖忌。」
「主人の願いなら当然従うまで。」
「決まりだな。紫、俺たちは何をすればいい?」
「封印は私がする。妖忌は抵抗する西行妖から私を守ってちょうだい。智慧、あなたは幽々子を西行妖の下に埋めてちょうだい。あなたなら幽々子の身体を操れるでしょう。」
「わかった。身体を埋めたら俺も守りに徹するよ。」
「智慧、西行妖を封印するとなると間違いなく抵抗するわ。あの呪いはあなたには容赦なく襲いかかるから、最も危険に晒されるのはあなたよ。その覚悟はできてるの?」
「当然だ。覚悟ならできてるさ。」
「それじゃ、やるわよ。」
俺と妖忌が頷き、紫の足元に封印のための魔法陣が現れた。
「智慧、お願い!」
「わかった!」
紫の合図とともに俺は幽々子の身体を宙に浮かし西行妖のもとへ運んだ。
「妖忌!」
「わかっております。」
西行妖は紫に向かって急激にその枝と根を突き刺すように伸ばした。封印に集中しているのでそれを防ぐことはできず、そばにいる妖忌が紫を守っている。
・・・・死にたい・・・・
あの不気味で甘美な衝動が俺を誘う。やらなければいけない。幽々子を埋葬しなくちゃいけないとはわかっている。だが、いっそ幽々子とともに死んでしまえたら、死んでしまえば、また幽々子と会えるだろうか。手紙の返事を言えるだろうか。
「智慧!しっかりしなさい!」
「智慧殿!幽々子様はあなたの死など望んでおられませんぞ!」
「そ、そうだよな。まだ死ねないよな!」
そうだ、まだ死ぬわけにはいかない。幽々子の願いを叶えるまでは何があったって死ねない!
「紫、幽々子の埋葬が終わった。後の封印は頼む!」
西行妖が最後の抵抗を見せてきた。その根と枝はより数を増やし伸びる速度も上がっていた。
「あと少しよ、二人とも耐えてちょうだい。」
「今から防壁を作る。二人ともそこを動くなよ!」
俺は俺を含む三人を囲む壁を生成した。分厚く作ったがこの猛攻だといつまで持つかはわからないな。
「わるいがいつまで持つかわからない。妖忌、頼むぞ。」
西行妖の猛攻は驚くもので俺の生成した壁は10秒程度で貫通された。
「妖忌!」
「任された。」
そう言って妖忌が貫通してきた枝を斬り飛ばした。
「術式が完成したわ!最後まで油断しないでよ。」
紫の術式が完成すると足元の魔法陣が巨大になり、西行妖の周囲にも巨大な木を囲い込むほどの巨大な魔法陣が現れ光を放ち始めた。
「成功よ。二人ともよくやったわ。」
紫がそう言った先には散り果てた西行妖があった。桜なんて春にしか花を咲かせない。それを考えるとこの枯れ木のような姿が桜の本当の姿なのかもな…。
「あなた達は私のこと知ってるのかしら?」
「「「幽々子(様)⁉︎」」」
「幽々子、それが私の名前なの?」
「幽々子、お前なんで…。」
「どうなってるんですか紫様?」
妖忌も珍しく動揺している。しかしこの状況は俺には理解できない。千里眼で地中を確認したがそこには幽々子の身体が間違いなく埋まっている。
「どうやら、西行妖の封印にこの身体を使ったことでこの木に縛られた亡霊として現れたようね。」
ただしその亡霊に生前の記憶はないようだ。それはここにいる皆が理解していた。
「えっと、お前は西行寺幽々子、それでこの二人が、」
「私は八雲紫。あなたの親友よ。」
「魂魄妖忌、あなたにつかえるものです。」
「俺は智慧。幽々子の…。」
俺って幽々子の、なんだったんだろうな。友達?想い人?でもそんなの言っても気持ち悪いし。
「・・・俺が幽々子にとって何なのかは自分で決めてくれ。」
「変わった人ね。でもこんなにたくさんの人に迎えられて私嬉しいわ。」
そこに居たのは間違いなく幽々子だった。記憶は無くとも彼女は幽々子だ。それがわかると、何かが切れたように俺の身体はそこに倒れこんだ。
「智慧?」
「ごめんもう限界だ。」
能力で力みすぎて身体の傷が開いている。妖力も消費しすぎたみたいだ。俺はそのまま意識を手放した。
目を覚ますと俺は縁側に寝かされていた。まだ近くに封印された西行妖が見える。どうやら一番近くの縁側まで運ばれて寝かされているようだ。
「あっ、起きたのね。」
「幽々子。」
上には幽々子の顔があった。頭元には幽々子の膝が、これが膝枕か。
「二人はどうしたんだ?」
「すこし出払ってもらったわ。あの二人には早々にわがまま言っちゃったけど、こうしたかったの。」
そう言って幽々子は俺の頭を優しく撫でた。改めて感じる、生前の記憶はないけど俺の目の前にいるのは間違いなく幽々子だ。
「すごい嬉しかった。けどごめん。」
「どうしたの?独り言?」
「独り言、ではないかな。まぁあんまり気にしなくていいよ。」
「そう、それなら気にしないでおくわ。」