日向の拳 作:フカヒレ
あくまで二次創作なので、必要ない所はカット。
「中忍選抜試験か……テンテンはどうする?」
「私はどっちでも……ネジはやる気なさそうだねぇ」
テンテンがやれやれと肩を竦める。
ネジ的にはどっちでもいい。中忍への憧れがあるわけでもないし、最近はヒナタとの二馬力になったおかげで家計も安定している。
そんなこんなでローテンションなネジとは対照的に、いっそ無駄と言えるほどにハイテンションなのはリーだった。
「やりましょうネジ、実力を試すいい機会です!」
「だってさ、ネジ」
リーに付き合ってあげなよ、とテンテンが言外に訴えかけてくるが却下だ。
無理をして中忍選抜試験なんて受けるメリットは全くない。むしろ一生下忍でもいい。安全な下働き万歳である。
しかしテンテンは駆け引きすら挟まず、最初から交渉のための切り札を切ってきた。容赦のない少女であった。
「ヒナタ達も参加するらしいし、様子見ってことでどう?」
「ヒナタが……?」
その瞬間、ネジはどこからか電波を受信した。大事な場面でくる、いつものアレだ。
「ネジ、目が光って……」
「待てテンテン、何か来そうなんだ」
これは中忍試験の会場だろうか。おびただしい量の血を吐きながら倒れるヒナタ様の姿が脳内で再生された。これはいかん、
天使ヒナタの危機である。これはネジが馳せ参じてお守りせねばなるまい。
「おのれ、許せん!」
「えっ?」
「参加する! 参加してヒナタを守る!」
態度が急変したネジを、テンテンが間の抜けた表情で見つめていた。
リーがガシリとネジの両手を掴んだ。
「やる気になってくれましたか、ネジ!」
「ああ、ヒナタを害する連中を抹殺するぞ!」
「根本的なとこで噛み合ってないんだよね、この二人……あーあ、大丈夫かなぁ」
そんなわけで第三班は中忍選抜試験を受けることになった。なったのだが。
一週間後、中忍選抜試験、第一次試験の受験会場にて。
「おいテンテン」
「どうしたのネジ?」
「リーのやつはどこへ行った?」
あの野郎、参加を決めた張本人だっていうのにどこ行きやがった。
こういう試験は三十分前行動が基本だというのに、十五分前になっても姿が見えない。
「白眼で見つけられないの?」
「こんな大量の人間が居る場所で個人の顔なんてイチイチ識別していられるか」
試験前の会場は人でごった返していた。ここからリーだけを白眼で絞り込むのは難しい。
このタイミングで何かイベントがあったような気もするが、いつもの電波は飛んでこない。つまりリーの用事とはその程度にはどうでもいい内容だということだ。
そんなどうでもいいことで試験を無為にしようとしているなんて、リーは何を考えているのか。ふつふつと怒りが湧いてくる。
「……ネジさ、なんか随分と燃えてない? ヒナタさえ守れればオーケーじゃなかったの?」
「何を言っているテンテン! イベントは最前線まで出て盛り上がるのが基本だろう!?」
最優先はヒナタとしても、イベントに参加するのなら徹底的にやる主義だ。中途半端に手を抜くなんてあり得ない。
熱くなれ、燃え上れ。タオルは持ったか。水分補給は万全か。準備が出来たならさぁ行こう。
「お願いだから落ち着こう、ね? ネジがやる気出すと大変なことになるからお願い……お願いします!」
縋りつくように懇願されてしまった。涙目の美少女が縋っているという酷い絵面のせいか、周囲の視線が凄まじく痛い。
ここまでされてしまうと流石に引き下がるしかない。座してリーを待つことにした。テンテンがあからさまにホッとした顔をしている。
「ネジ兄さん、あんまりテンテンさんいじめちゃダメだよ?」
「……ヒナタか」
殺伐とした中忍試験会場に天使が。これも天のお導きというやつだろう。
ほら見ろよ参加者の下忍諸君。これが癒しというものだ。これに勝てる存在が居るというのなら今すぐここに連れてきて貰いたい。異教の神として祭壇の片隅に祀ろう。
「シバ丸はどうした?」
「しばまる?」
「シノwithキバ&赤丸、略してシバ丸」
一括りにしたら、どこぞのヒップホップグループみたいな名前になってしまった。第十班の猪鹿蝶的なものを目指したのだが方向性の違いだろうか。
「シノ君達ならあっちだよ」
視線を向けるとシノとキバは軽く会釈をしてくれた。赤丸もワンと吠えている。挨拶のつもりらしい。
すまない。シバ丸なんて変なグループ名を作り出してしまって。あいつら思っていたよりずっと良い子だった。今度手製の鹿肉ジャーキーを土産にやるから許してほしい。犬用の無塩タイプもある。
心の中で彼等に謝罪をしていると、テンテンがヒナタに泣きついていた。胸に顔を埋めている。欲望に正直なことを言えば変わって欲しい。おそらく信仰が溢れて死ぬだろうが本望だ。
「うえーん、ヒナタぁ……ネジが怖いよぅ!」
「えーっとその……うちのネジ兄さんがごめんなさい?」
「ヒナタは良い娘だねぇ……うちの班ときたらネジはこの調子だし、リーは愛と青春がどうとかわけわかんないこと言って飛び出しちゃうし! もうなんなのさ!」
ピクン、とネジの眉が跳ねた。テンテンが今、大事なことを言った。
天使に対して欲を抱くなんていう罪深い行いをした己は後に自戒するとして、今はテンテンの言葉だ。
「……テンテン」
「な、なにかな?」
「お前まさか……リーの居場所を知っているのか?」
「し、知らないよ?」
「本当だろうな」
「ほ、ホントだよ、やだなぁ……あはは」
ネジは無言で手裏剣を取り出すと、いきなりそれを宙へと放り投げた。
「シャアッ!」
そして手裏剣に向かって手刀を一閃。手裏剣はスライスされて二枚になった。手裏剣は斬ると増える。常識である。
もし知っていて黙っているようなら次はお前がこうだぞ、と視線だけで脅す。テンテンの顔は真っ青になった。
「ごめんなさい、知ってますぅ!」
変わり身の早い少女であった。テンテンはあっさりとリーの居場所を吐いてくれた。
リーはピンク髪の少女に一目惚れした挙句、その少女が所属する小隊のメンバーに喧嘩を売りに行ったらしい。
「つまりなにか? リーはこの大事な時に色恋なんぞにかまけていると?」
「いや、ネジも似たようなものなんじゃ……」
聞こえない。テンテンが戯言を言っているようだが何も聞こえない。
あくまでもネジは己が信仰に従ってここに居るのである。ただただ崇高な精神がそこにあるのみで、浮ついた感情は一切ないと思っていただいて構わない。
ヒナタと別れ、入口付近でイライラしながら待っていると、ようやくリーが現れた。開始五分前。かなりギリギリである。
「お、お待たせしましたネジィィィイッ!?」
「大事な試験前に他班へ喧嘩を吹っ掛けるとか、何を考えている」
開幕アイアンクロー。慈悲はない。
リーの頭蓋がメリメリと鳴り始める。ずっと奏でていたくなるような音色だ。ぐぐっと更に二割くらい増しで力を籠める。
「ストップ、ネジ! 出ちゃう、リーの中身が出ちゃう!」
「止めてくれるなテンテン。コイツみたいなタイプはな、体に直接叩き込まないと覚えないんだ」
「それは知ってるけど試験前だから! 再起不能にされると困るからぁ!」
「ちっ」
舌打ちをしつつリーを解放してやると、ひーひーと情けない声で鳴いた。
恋は人を盲目にさせるというが限度がある。喧嘩を売るなど片腹痛いわ未熟者め。
「それでお前の意中の相手とやらはどいつなんだ?」
「あ、あちらのサクラさんです!」
視線だけを向けると、そこにいたのはピンク髪の少女だった。
まさかのピンク。色々な人間を見てきたが、なんだろうこの戦隊モノのヒロイン感は。このネジをしても初体験である。
「ああいうのが好み、なのか……?」
「えっとその……はい」
「そうか……」
リーがポッと頬を染める。美少女ならともかく、リーだと濃くて気持ち悪い。
女性の趣味にまでとやかく口を出すつもりはないが、どうにも脈はなさそうだ。例の彼女の視線を辿る限り、本命は同じ小隊のメンバーである黒髪の少年のように見える。
ここは友としてスッパリ諦めるように言うべきなのだろうか。それとも多少強引でも上手くいくように応援すべきなのだろうか。
相手を一目惚れさせる秘孔なんて代物もあるが、そんな紛い物の恋心をリーは望まないだろう。つまりこの恋が実る未来はないということだ。
「強く生きろよ、リー」
「はい、頑張りますネジ!」
リーには一ミリも伝わらなかったが、テンテンには伝わったらしい。彼女もとても優しい目でリーを見ている。
頑張れリー、負けるなリー。君の青春はこれからだ。儚き恋については一旦忘れて、中忍選抜試験に目を向けよう。
「さぁ二人とも……サクッと終わらせるぞ」
で、サクッと終わらせた。
筆記試験はアカデミーに通っていなかったネジにとって難関どころの騒ぎではなかったのだが、なんでもありの試験において白眼はとても役に立つ。
要するに透視と望遠能力でカンニングして乗り切った。以上だ。他にコメントはない。
リーもテンテンの力を借りつつカンニングしていたらしいので、三班でマトモに試験を受けたのはテンテンだけだろう。
そういうわけで中忍選抜試験の舞台は第二試験、死の森へと移る。
パチパチと薪の弾ける音と共に、赤い炎がゆらゆらとテンテンの白い肌を照らす。
「焼けたぞテンテン」
「ありがとう、ネジ」
テンテンと一緒に、ネジが獲ってきた鮎を頬張る。
驚いたのだが、死の森にある川では鮎が獲れた。人が立ち入らないため良い餌場になっているのかもしれない。大漁だった。
脂が適度に乗っていて、身はホロロと崩れる。味付けは塩だけだというのに、その身のなんと味わい深いことか。
「あちっ……あちちっ……」
「落ち着いて冷ましてから食えテンテン、慌てなくとも誰も取ったりはしない」
「いやいや、取る奴は居なくても敵は来るでしょ?」
「周辺一キロに敵影はない。安心して食え」
「……ああ、そういう……もう何も言わないことにする」
そうしたほうがいい。どうせ三班に感知系などネジしか居ないのだから、その辺は任せてくれたまえ。
ガイ先生含めてそちら方面で誰も役に立たなかったので、結果的にこの一年と少しでネジの感知能力はかなり鍛えられることになった。
一キロ四方であれば敵影を一瞬で感知できるし、集中すればこの森全体を自在に見通すことだって出来る。そろそろ千里眼を名乗っても良いのではないだろうか。
というか今更になって思うのだが、この班は些か武力方面に偏り過ぎてはいないか。ガイ先生がアレだからというのもあるが、忍術と書いて物理と読むような集団になりつつある気がする。
「で、その武闘派筆頭であるリーがまたしても居ないわけだが」
「知らないからね!? 今度は私も知らないから!」
必死である。どうやら今回は本当に知らないらしい。むしろ今回も知っていたらそれこそスライスの刑だ。肌の角質層だけ綺麗に剥ぎ取ってやる。
思いのほか持久戦になったため、リーには周辺を探索した後にここへ集合するよう言いつけていたのに。何をしているのか時間が過ぎても戻って来ない。
仕方がないから休憩がてらに魚を食って消費したチャクラを回復しているところだ。川を通りかかった時に見えた鮎が丸々と太って美味しそうだったからでは断じてない。
だから敵の捜索そっちのけで漁に勤しんでいたなんてこともない。そのおかげで極上の鮎に舌鼓を打てているなんてこともない。
「……あむっ……白眼で探せないの?」
テンテンが鮎を頬張りながらそんなことを尋ねた。正直“当たり”もつけずに探すのは骨が折れるのだが、緊急事態であることだし少しは働くとしよう。
仕方ないと印を結んでチャクラを白眼へと込める。どうせどこかで道草を食っているんだろう。こっちは魚を食っているしお相子かもしれないが。
大まかな“当たり”をつけるべく、周囲のチャクラを感知する。戦闘らしきチャクラの高まりが感じられるのは数か所。そこを順番に探し、見つけた。
「西方二キロの地点……交戦中だ」
「えっ?」
件の恋のお相手であるピンク少女が居る。第七班だ。どうもリーは彼女に吸い寄せられたらしい。
隠れているようだが、近くの草むらには第十班の猪鹿蝶も居る。なるほど、どういう状況なのかサッパリわからない。
「リーは……怪我をしているな……」
「ええっ!?」
色恋にかまけているからそうなる。アイツには良い教訓になっただろう。そこから学べるかはまた本人次第ではあるが、ネジは学べないほうに賭ける。
相手は額当てからして音隠れの下忍。装備の形状等から推察すると音波による攻撃が主体と見た。リーは三半規管をやられたのか、足取りが覚束ない。
「どうするのよネジ!」
「……うるさいなテンテン、集中出来ないだろう」
白眼での遠視にどれくらい集中力が必要なのかというと、望遠鏡で女湯を覗くくらいの集中力が要る。
丁度いい視点にセッティングできた所なんだから邪魔をしないで欲しい。隣で叫ばれると折角セットした視点がズレてしまう。
「いやそうじゃなくて! 助けに行かなきゃ!」
「……必要あるのか?」
リーは切り札である八門遁甲を使っていない。つまり本気を出していないということだ。
一見すると今にも負けそうなくらいにボロボロだが、切り札を温存する程度には余裕なのだろうし、そこまで焦って救援に向かう必要があるとは思えなかった。
しかしテンテンがあまりにも必死に頼むものだから、ネジは重い腰を上げた。
「リーがそう簡単に負けるとは思えないがなぁ……」
「いいから行くの!」
現場に急行すると、ボロボロになり片膝をついたリーの姿が。
リーが苦悶の表情で謝罪の言葉を口にする。
「面目ありません、ネジ、テンテン……」
「嘘だろう、本当に負けてやがったぞ……信じられん」
「ほら、私の言った通りピンチだったでしょ!」
テンテンが鬼の首を取ったと言わんばかりに喜んでいる。いいのかそれで。仮にも仲間のピンチだったわけだが、いいのか。
不意打ちくらってピンチになるなんて信じられない。常日頃から感知を他人に任せきりにしているからそういうことになる。
とりあえずリーは
「油断した挙句、格下に足をすくわれるとは……情けないやつめ!」
「ノオォォォォ! いけませんネジ! いけません!」
「……ちっ」
一通りリーの頭蓋の感触を楽しんだ後、舌打ちをしつつ解放してやる。相変らず無駄に良い形の頭蓋骨だったとだけコメントしておく。
「そら、これで治っただろう」
「え? お? おお! 流石ですネジ、絶好調です!」
どうも三半規管辺りにダメージを受けていたようだったので、秘孔を突いて回復させてやった。
完全に破壊されているとお手上げだが、不調程度ならばネジでも治療できる。
「早く戻るぞ、折角の鮎が駄目になってしまう」
「……ネジはこんな時でもその調子なんですね」
リーが苦笑しているが、お前にだけは言われたくない。
ともかくさっさと帰ろう。鮎は遠火にして焼き上がり時間を調整してある。今から帰れば丁度食べごろ。だから帰らなければ。
「ま、待って!」
「なんだピンク色」
「ぴ、ピンク色……」
「何にショックを受けているか知らんが、用がないなら引き止めてくれるな。極上の鮎が俺を待っているんだ」
食の前においては全ての事象が破却される。常識である。なお日向の天使達だけはその例外だ。常識である。
なんとも言えない空気が場に流れた。十班のポッチャリだけがじゅるりと唾を飲み込んでいる。アイツは同志なのかもしれない。
「あ、あなた医療忍者なんでしょ!?」
「いや違うが」
「……えっ? でも今リーさんを……えっ?」
混乱するピンク色の肩を、テンテンが優しく叩いた。
「ネジのやることを深く理解しようとしちゃ駄目よ、頭がおかしくなるからね」
「あ、はい」
「オイどういう意味だテンテン。文句があるなら武で語ろうじゃないか」
「うっさい! この子はまだ木ノ葉色に染まり切ってないのよ! 貴重な人材なの!」
まるで木ノ葉が変人の巣窟のように言いやがる。失礼な奴め。
「あのっ、こんなことを頼むのは気が引けるんですけど……」
「サクラちゃん! こんな得体の知れねぇ奴に頼み事なんてする必要ねぇってばよ!」
「アンタは黙ってなさいナルト!」
オレンジ色が急に飛び出してきたが、ピンク色の拳に沈められていた。実に腰の入った良い拳だった。
彼女からはテンテンには及ばないもののツッコミの才能を感じる。
「それで俺に何の用だ、ピンク色」
「その……サスケ君を診てほしくて……」
「サスケ?」
ピンク色呼ばわりには既に反応しなくなった辺り、素晴らしい順応力の持ち主だ。やはりネジの目に狂いはなかったらしい。
ところでサスケというと確か今年のナンバーワンルーキーの名だが、もしやこっちの黒い奴がそうなのか。
ジッと“眼”を凝らす。なるほど良い“眼”をしているが、同時に闇へと即落ち二コマしそうな気配も感じる。二律背反、光と闇が合さって最強に見えるアレだ。
「必要ない、俺はこのくらい……」
「ダメよ、フラフラじゃない! サスケ君のことが心配なの!」
突如として森の中でラブコメを始めたピンクと黒。なんだろう、もう帰っていいだろうか。
乳繰り合うなら他所でやってほしい。リーもアレだが、こいつらも大概だ。下忍っていうのはこんな奴等ばかりなのか。まともなのは俺だけかとネジは肩を竦める。
「ネジにだけは言われたくないと思うなぁ……」
「だからテンテン、文句があるのなら武で語り合おうと何度も……」
「あー、はいはい。そういうのはいいから、サスケ君を診てあげてねー」
「ちっ、仕方がないな」
渋々サスケ君とやらを診察すると、首筋の辺りから呪印による浸食を受けていた。
こう見えてネジは呪印のエキスパートだ。長年あの籠の鳥の呪印について研究を重ねてきたからには当然だ。
だから大抵の呪印であれば鎮静化させるくらいは容易い。
件の呪印とやらを白眼で観察する。顔色の悪いオカマが蛇のように舌をデロデロと出している姿をなぜか幻視した。
「……うーむ?」
「どうしたのネジ」
「テンテン……俺はもしかすると疲れているのかもしれない」
「はぁ?」
てめぇに疲れなんていう概念はないだろう、みたいな顔をされた。すごく納得がいかない。
呪印部分に指を当て、そこから秘孔を突く要領で呪印内部のチャクラを乱す。オカマは筆舌にし難い表情で萎んでいった。
こんなものが見えるということは、やっぱり疲れているのだと思う。決めた、中忍試験が終わったら休みを貰おう。
呪印が沈静化したおかげか、サスケの表情が幾分か和らいでいく。
「これでマシにはなったと思うが」
「……ああ、恩に着る」
「礼には及ばん」
すこしだけ当たりが柔らかくなったサスケが礼を言った。これがツンデレなのかと少しだけ感動する。ネジの周りには居ない新しいタイプだ。
とはいえ呪印の件が根本解決したわけではない。時間をかければどうとでもなるが、流石にこの場で呪印をいじり回すのはネジにも不可能だ。検証を重ねてからでないと、どんな害があるかわからない。
なので一段落ついたら担当上忍にでも状態を説明して、一度ちゃんと診てもらったほうがいいだろうということを併せて伝えておく。
「治療も終わった。今度こそ帰るぞ……おい、リー?」
「少しだけ時間をください、ネジ」
リーは恋のお相手らしいピンク色の所に行って、二言三言なにやら話しているようだ。
「青春よ! リーから青春の香りがするわ!」
「……そんなものを感じ取れる辺り、テンテンもだいぶガイ先生に毒されてきたな」
テンテンがキャアキャアと姦しく騒いでいるが、よく考えて欲しい。アイツが青春しているのはいつものこと。つまりは平常運行ということだ。
人間というのは極限状態でこそその本質が現れる。つまりはそういうことなのだ。まともなのはやはり俺だけだ。ネジは悟ったような儚い瞳で昇り始めた朝日を見上げた。
グルメSSです(断定
続ける気はないと言ったな、あれは嘘だ。
主人公と絡ませたいのに、登場が一行だけで終わってしまったので反省。
とはいえ、そのうち絶対に絡むことになるので無理はしなくてもいいかと判断。