古宮 咲の暗殺教室   作:隔離場

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4話 大人の時間

翌日の英語の授業、イェラビッチ先生はかなり苛立ったように手元のタブレットを操作していた。

 

黒板には大きい字で【自習】と書かれている。よし、今のうちに高校の範囲も少しやっておこう。あのタコ毎回テストの範囲私だけ全教科のテストを高校に入るギリギリのところを引っかけを駆使して出題してくる。制限時間はみんなと一緒。点数を保つの大変なのに。いじめかなんかかっての。

 

 

「あはは、必死だねビッチねえさん、あんな事されちゃプライドズタズタだろうねぇ~」

 

隣でカルマが呟く。教室がシンとしているせいでよく聞こえるよ。

 

「つーか咲君なんでそんな必死に勉強してんの~?」

「殺せんせーの小テストに対抗するためです。どんな問題かは口では説明しかねるのでこちらをどうぞ」

「うっわ、なにこれ。『円周率が3.05以上であることを証明せよ』?」

「頑張って解いたら殺せんせーがムキになってもっと難しい問題を提示してくるようになりました」

 

 

カルマとそんな会話をしていると、磯貝がイェラビッチ先生に話しかけた。

 

「先生。授業してくれないなら殺せんせーと交代してくれませんか?一応俺ら今年受験なんで…」

「はん!あの凶悪生物に教わりたいの?」

 

イェラビッチ先生の言葉に生徒の顔色が僅かに変わった。そうだな。凶悪(問題を考える)生物だな。

 

「地球の危機と受験を比べられるなんて…ガキは平和でいいわね~」

 

イェラビッチ先生は生徒たちの表情の変化に気づかず言葉を続ける。……この人ホントめんどくさいなぁ…

 

「それに聞けばあんたたちE組って…この学校の落ちこぼれだそうじゃない。勉強なんて今更しても意味ないでしょ」

 

この言葉に全ての生徒の表情が変わった。私は特に何も思わないが、隣のカルマの表情にも少なからず変化が見られる。

 

「そうだ!!じゃあこうしましょ、私が暗殺に成功したらひとり500万分けてあげる!!あんたたちがこれから一生目にする事ない大金よ!!無駄な勉強をするよりずっと有益でしょ?だから黙って私に従い…」

 

その言葉が続けられることはなかった。イェラビッチ先生の髪を掠る形で消しゴムが投げられからだ。先生の体は予想外の反抗に驚いたのか硬直する。おいおい、プロがこの程度で固まってどうする…。

 

「…出てけよ」

 

小さな声とはいえ、その言葉はクラス全体に届いただろう。問題を書き取る手を止めて先生を見る。

そういえばこのクラスでは初めての面と向かっての拒絶だな。よくもまぁここまで皆のヘイトを溜めれるよなぁ。

 

「出てけくそビッチ!!」

「殺せんせーと変わってよ!!」

 

「なっ…何よあんた達その態度っ、殺すわよ!?」

「上等だよ殺ってみろコラァ!!」

 

盛大なブーイングと共に飛び交う様々なもの。消しゴム、紙くず、シャーペン、罵声にペットボトル、水風船。……水風船!?いつ準備したんだよこれ。

 

「そーだそーだ!!巨乳なんていらない!!」

 

様々のものが投げられる中、唯一掲げられた紙には【脱巨乳】。いや、そこじゃないだろ。

 

教室の外では烏間先生が頭を抱えているのが確認できた。お疲れ様です。

 

 

◇◆◇

 

 

「んじゃ、今日も頑張ろうぜ」

 

「「うん!!」」

 

時は流れて翌日の昼休み、生徒の一部はこの時間に遊びがてら暗殺のトレーニングを行う。内容は鳥間先生から教わった『暗殺バドミントン』通常のバドミントンと違い、ラケットではなく木製のナイフを使うため当てにくくなっている。

 

テニスコートの半分を使って行うこのトレーニングだが、私は参加せずに観戦しながら木陰で小説を読むのが定番となっている。誘われたらやるが。

 

理由は……

 

「おっし!やろうぜ咲!」

「前回のリベンジだ!」

「了解しました」

「じゃあ1対6ね」

「構いません。やりましょう」

 

そう言って片方のコートに私が一人。対するコートに磯貝、前原、岡野、木村、杉野、矢田が入った。確か頻繁にバドミントンをやっていて、なおかつ機動力に自信があるメンバーだったか。まぁ、何の問題もない。

 

 

 

「試合終~了!!3対18で古宮さんの勝ち!

 

「だー!また負けた!」

「なんであんなカーブする球打てるのよ…」

 

そう、理由は私が打った球は変則的な動きをする。もちろん狙ってのことだが、これが結構使える。でも不覚を取ってノーマークだった矢田に刺突で点と取られたのがなんか悔しい。

 

「思いっきりこっちに向けて斬撃してんのにその場に打ちあがるだけってなんなんだ…」

 

下からボールを救い上げるように手首だけ動かしただけなのだが…今の仁和にはこれが攪乱に最適だったりする。刺突を細かく行って相手コートまで運んで足元に落とすとか。

 

悔しがる皆を見て背筋がぞくぞくするほどの幸福感に襲われていると予鈴が鳴った。次は英語。またクレームが出ないといいのだが。

 

 

◇◆◇

 

イェラビッチ先生は教室に入って早々クラスの厳しい視線を浴びながらも黒板に英文を書いた。筆記体かよ…。

 

「You're incredible in bed!言って(リピート)!!」

 

いきなりのことで皆呆気にとられている。……なんて英文だ。ひどい。

 

You're(あなたは)incredible(信じられない)in(~の中)bed(ベッド)

 

直訳でベットの中のあなたは信じられない。色仕掛けのプロが言うのであればほぼ確実に房中術のことだろう。読まんぞそんな文。

 

「これはアメリカでとあるVIPを暗殺した時、まずそいつのボディーガードに色仕掛けで接近したわ、その時彼が私に言った言葉よ。意味は『ベッドでの君はすごいよ…♡』」

 

しょっぱなからやらかしたなこの人……思春期男女の教育には毒すぎるだろう…。

 

「外国語を短い時間で習得するにはその国の恋人を作るのが手っ取り早いとよく言われるわ。相手の気持ちをよく知りたいから、必死で言葉を理解しようとするのよね。私は仕事上必要な時…その方法で新たな言語を身につけてきた」

 

確かイェラビッチ先生は十か国語を操るんだったな。仕事の回数とほぼ同じか。私も一応四か国語は話せるが幼少期の教育込みでこれだ。イェラビッチ先生がどのくらいから暗殺の仕事をし始めたかなど興味もないが、かなりの努力を必要とするはずだ。

 

「だから私の授業では…外人の口説き方を教えてあげる。プロの暗殺者直伝の仲良くなる会話のコツ、身につければ実際の外人と会った時に必ず役立つわ。受験に必要な勉強なんてあのタコに教わりなさい、私が教えられるのはあくまで実践的な会話術だけ。もし…それでもあんた達が私を先生と思えなかったら…その時は暗殺をあきらめて出ていくわ……そ、それなら文句ないでしょ?…あと、悪かったわよいろいろ…」

 

最初のプライドを掲げたわがままな態度はどこへやら、今のイェラビッチ先生は生徒からの批判に怯えるほど気が弱くなっている。すっごい嫌がらせしたいが体裁を保つために抑えなければならない……。

 

クラスからは笑いが起きる。皆も最初とのギャップが面白いと見た。

 

「何ビクビクしてんだよ、昨日まで殺すとか言ってたくせに」

「なーんか普通に先生になっちゃったな」

「もうビッチ姉さんなんて呼べないね」

 

「あんた達…分かってくれたのね…!」

 

岡野の言葉にぶわっと目じりに涙を浮かべるイェラビッチ先生。あれが感涙というやつか。

 

「考えてみりゃ先生に失礼な呼び方だったよね」

「んじゃ、これからは普通に読んであげないとね」

「じゃ、ビッチ先生で」

 

ビキッと、イェラビッチ先生からそんな音が聞こえた気がした。涙は、消えた。

 

「えっ…と、ねぇキミ達、せっかくだからビッチから離れてみない?ホラ、気安くファーストネームで呼んでくれて構わないのよ」

「でもなぁ、もうすっかりビッチで固定されちゃってるし」

「うん、イリーナ先生よりビッチ先生のほうがしっくりくるよ」

 

うっわ、可哀そうに( ´∀` )

 

「そんなわけでよろしくビッチ先生!!」

「授業始めようぜビッチ先生!!」

 

 

 

「キーーーッ!!!やっぱりキライよあんた達!!」

 

 

こうして、E組に新しい暗殺仲間がやってきた。色仕掛けのプロ、イリーナ・イェラビッチ先生。これから彼女がどんな活躍をするのか楽しみでならない。

 

あと、イェラビッチ先生改めビッチ先生のことは優さんに無線機を通して先に伝えておいた。おそらく机であろう物をドンドンと叩く音がしたので恐らく悶絶しているのだろう。楽しんでもらえて何よりだ。

 




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