古宮 咲の暗殺教室   作:隔離場

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8話 計画の時間

テストが終わり早1週間。椚ヶ丘はすでに次の行事の準備に入っていた。

 

修学旅行。本来ならその名の通り学年の最後の方にやる行事だが、椚ヶ丘は1学期ですでに行くことになっている。速すぎると思われるかもしれないが修学旅行を早めに行うことで2,3学期の勉強を詰め込んでするという魂胆だ。今だけは楽しめとかそういう事だろうか。

 

私達は4つの班に分かれ、それぞれで暗殺を仕掛けることになっている。鳥間先生曰く『国の派遣した腕利きの狙撃手(スナイパー)が何名か派遣された』とこと。狙撃手が狙いやすい場所を選んで観光しなければならない。別にいいけども。

 

私は1班。磯貝悠馬、木村正義、前原陽斗、岡野ひなた、片岡メグ、倉橋陽菜乃、矢田桃花と一緒に行動することになった。人数オーバーにならないか殺せんせーに聞いてみたが、『楽しめればいいんですよ』みたいなこと言われた。私が自分から人を誘うとか恐れ多くてできないからお言葉に甘えさえてもらった。

 

「皆、暗殺のコースはどこにする?」

 

班長の磯貝が先導して意見を集め始める。こういう時リーダーシップのある人がいると話がスムーズに進んでくれるから助かるんだよな。

 

「狙撃に適した場所よね…?」

 

片岡が暗殺観光のテーマに困惑しているのが分かる。テーマは『狙撃しやすくて楽しめる場所』なのだが、あいにく私たちは狙撃の訓練はしていないのでどこがいいのかがあまり分からない。

 

「狙撃についてはあまり知りませんが、開けた場所、見晴らしが良い場所が狙いやすいのではないでしょうか」

「成る程……京都で見晴らしが良さそうって言ったら清水寺とか保津峡の嵯峨野トロッコ列車か?」

「あ、トロッコ列車良いですね。清水だと目立ちますし」

「動いてる列車に乗ってる殺せんせーを撃って貰うってことか?難しいんじゃないか?あと殺せんせーはどこ行っても目立つと思う」

「この列車、鉄橋の上で少しだけ停車するんだよ。川下りしてる船を乗客に見せる為に」

「じゃあ、殺せんせーが船を見る為に窓から顔を出した所をズドンッと撃って貰うんだね」

「そういう事。まぁ、顔出すように誘導とかはしないといけないだろうけど、どうだ?」

 

そういって前原は皆を見渡す。列車なら席が区切れてるからころ先生に対して違和感感じる人が少なくなって…くれるかな?

 

「俺は特に訂正する部分は無いな」

「できれば殺せんせーに対先生物質を下に敷き詰めた滝に清水の舞台から飛び降りてほしかったですが、そちらのほうが成功率が上がりそうですね。特に私からもありません」

 

私の言葉が言い終わったくらいで磯貝が周りを見渡すが、皆から反対意見が上がることはなかった。

 

「それにしても古宮君時々毒吐くよね…普段からあんまり話さないけど」

 

いや、あった。観光場所じゃなくて私への意見が。

 

「…矢田さん?私は思ったことを口にしただけですよ?」

「あ、そういやずっと古宮に聞きたいことあったんだよ」

 

矢田の意見に訂正を加えていると今度は前原が口を開いた。

 

「なんで古宮自分のこと私っていうんだ?」

「確かに。普通俺とか渚みたいに僕じゃないの?」

 

おい、そこまで大した質問じゃないじゃないか。お前の気になるはその程度か。岡野も賛同すんな。あと渚を例に出す必要ないだろ。

 

「私が昔見た漫画の執事に影響されていますね。本来の一人称はもちろん私ではないのですが、いつの間にか私の方に慣れてしましました」

「取るなら早いほうがいいらしいぞ?」

 

……ちょっとイラっとした。取らんわ。

 

「…そういうことは渚君に言ってください。私はそういった予定はないので」

「それもそうか…」

 

するとこれまで壁にもたれていたビッチ先生が不意に口を開いた。

 

「…フン、皆ガキねぇ。日本の旅行なんかで浮かれちゃって、世界中を飛び回った私には今さらだわ」

「じゃあ、ビッチ先生留守番な」

「花壇に水やっといて~」

「あまりやりすぎると今度は根が腐るので慎重にお願いしますね」

 

自慢というべき言葉なのかは不明なのだが、大人の余裕を全開にしていたビッチ先生は1班のメンバーによって一刀両断された。なにがしたかったのか…。

 

「それより2日目どこ行く?」

「やっぱ東山からじゃない?」

「今年は受験なので北野天満宮で早めの合格祈願とかどうでしょうか?」

「あー、それもあったなー……受験かぁ…」

「そ、それもいいけど最初にどこに行くか決めようか!」

 

そんなことを話していると、留守番係を一瞬にして任命されたビッチ先生が胸元から小さな拳銃…デリンジャーだったか、を取り出した。

 

「何よ!!私抜きでで楽しそうな話をしてんじゃないわ!!」

「あーもー!!行きたいのか行きたくないのかどっちなんだよ!」

 

脅しとはいえ銃口をこちらに向けられるのはいい思いがしないのでビッチ先生を素早く拘束して遊んでいると、殺せんせーが急に口を開く。

 

「まったく…、3年生も始まったばかりのこの時期に総決算の修学旅行など片腹痛い。先生あまり気乗りしません」

 

『ウキウキじゃねーか!!』

 

殺せんせーの後ろに置いてある荷物は殺せんせーと同じくらいの体積があり、明らかに気乗りしていない人の持ち物ではない。

 

「あの、なぜ曲線定規が入っているのですか?」

「きれいな曲線を描くのに役立つでしょう」

「では卓球のラケットは?向こうに置いてあるのを使えばいいのでは?」

「何事も自分の気に入った物を使うのがいいでしょう」

「…この巨大なリュックサックはどこで購入したのですか?」

「とあるジャングルにお願いして送ってもらいました」

 

……いくつか強制的に取っ払いたいものがあるが、おそらく即座に回収されてしまうのでスルーすることにしよう。これは逃げではない。

 

「あぁ、それから皆さんに渡すものがあります」

 

そう言って殺せんせーリュックから取り出したのはアコーディオンのような謎の冊子。

 

「1人1冊どうぞ」

 

皆に配られていく冊子(鈍器)もちろん私のところにも来た。うん、厚さ・重さ共にものすごいけど、六法全書よりはマシか。

 

「重っ…」

「なにこれ殺せんせー?」

 

「修学旅行のしおりです」

『辞書だよこれ!!』

「内容はイラスト解説付きの観光スポット、お土産トップ100、旅の護身術入門から応用まで、昨日徹夜で作りました。初回特典は組み立て紙工作金閣寺です」

「どんだけテンション上がってんだ!!」

 

 

皆が殺せんせーに突っ込んでいる中、ビッチ先生の拘束を解き、金閣寺をササッと完成させて内容を確認していると、冊子が挟まれているページが一番に開かれた。『拉致実行犯潜伏対策マップ』?……覚えといて損はないか。一応全部まとめるのもいいかもな。暇つぶしに。

 

あとこのしおりは優さんに渡してみよう。どんな反応するか今から楽しみになってきた。


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