善吉君の戦いはまだまだこれからだったようです   作:ショート

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どうもこんにちは。
私です。

なんの気まぐれか、数年温めていたこのクロスオーバーを書いてみました。

無性に書きたくなったんです。
善吉君。

一応、連載とはなってますが、基本合間合間に投稿するので、ただでさえ遅いのが、より一層遅くなります。
さらに、途中で辞めてしまうかも知れません。

あくまで主軸は直人さんなんで…。
すいませんね本当…。

でも、これを書くことによって「アッチ」が遅くなることはないんで、安心してください。
安心院だけに。

…………。
はい。では、どうぞ。


プロローグ

とあるビル群の、その路地裏。

ボロきれのような布を纏った童顔の少年が、息を切らしながら走っていた。

 

その日その場所には、霧のように細やかな雨の粒が待っていた。

しとしとと静かに降るその趣深い音を、少年は無粋な足音でかき消していく。

 

白く曇った息を絶え間なく吐き出す口とは裏腹に、彼の足取りは軽いようだった。

 

なんの気まぐれか、少年は頭を振って雨を払おうとする。

しかし当然、雨の中にいる限り彼の頭が乾くことはない。

少年は溜め息をつきながらも、まるで無邪気な子供のような笑みを浮かべている。

ひたすら怠惰にヘラヘラと。

 

しかし、体力が皆無の彼には、この決死の逃避行は、ここいら辺りが限界なようで。

 

――球磨川禊は足を止めた。

 

何処からとも無く巨大な螺子を取り出し――異形の二人に向かい合った。

 

その後数秒。

断末魔の叫びが、強烈にこだまする。

 

それは勿論彼。

圧倒的に過負荷で、何においても過負荷で、誰と比べても過負荷の、球磨川禊。

彼の声であった。

 

「また勝てなかった…。」

 

彼は薄気味悪い笑みを浮かべて、路地の暗闇に消えていった。

 

○●○●

 

ふと目を開けると、そこは教室だった。

自分は椅子に、座っていた。

 

爽やかな陽が、窓から差し込む。

カーテンがそよそよと揺れる。

 

失礼なことに、教卓に寄り掛かって座るセーラー服の彼女が見える。

 

その時、激しい電流が背中を襲った。

 

「どういうことですか……()()()さん。」

 

あんなに悪かった視界が、まるで眼球ごとごっそり移植したかのように鮮明に映る。

肌だって、しわがれていないし、髪に至ってはとっくに染め直した筈の金髪だ。

 

その異変に、()()()()所謂(いわゆる)「嫌な予感」を覚えた。

 

「どういうこと…とはどういう意味かな、人吉君?」

 

安心院さんは、とぼけたように首を傾げる。

 

「もしかして、今の君の状態のことを言っているのかい人吉君。」

「もしそうだとすれば、説明せざるを得ないね。」

「そうだろ?()()()。」

 

「御託はいいんですよ安心院(あんしんいん)さん。」

 

善吉が「安心院」と読んだ少女は、その端正な顔に、悪戯めいた表情を浮かべる。

(正確には()()()。)

 

「そんなに怖い顔しないでくれよ人吉君。」

「萎縮しちゃうじゃないか。」

 

「……すいません。」

 

善吉は、そこで物言いたげに押し黙った。

 

「相変わらずせっかちだなぁ君は。」

「80年ぶりだってのに、感傷に浸る時間もくれないなんて。」

 

「もう…そんなになるんですね。」

 

心做しか元気が無い善吉は、そんな言葉を返す。

 

「ああ、そうさ。」

「そして――君の伴侶が死んで…もう2年になる。」

 

安心院は、意地の悪い笑みを湛えてそう言った。

 

善吉は、その言葉に何の反応も示さなかった。

ただ黙っているだけだった。

 

「何でもできる筈の彼女に、できなかったことができた訳だ。」

「旦那の死に顔を見るっ…てことがさ。」

「皮肉なもんだよね。」

 

そう言って、安心院は教卓から小さく跳ね、音もなく床に着地する。

 

「ま、だから僕はもう…もう死ねるんだけど…。」

「でも、そうは行かなくなった。」

 

善吉を中心にゆっくりと回っていた安心院は、一周して善吉の正面に戻ると、スッと彼に向かいあった。

 

「球磨川禊を止めて欲しい。」

 

善吉は、「球磨川」という言葉に酷く反応を示した。

弾かれたように肩を震わし、安心院を見つめる善吉。

その善吉の表情には、驚きの他にもう一つ。

疑いのような感情が浮かんでいた。

 

「君の言いたいことは分かるよ。」

「僕は、僕以外のことなんかに毛ほども興味はない。」

「僕の前では皆等しく塵と同じ…。」

「それは確かにそうさ。」

 

自らの言葉に自ら頷く安心院。

善吉はその様子を、相変わらず無言で眺めていた。

 

「だから、球磨川君がどれだけ暴れて、例え人類を滅亡させちゃっても関係ない訳だ。」

 

まぁ、無理だろうけどね。

安心院は静かに笑った。

 

「だが。」

 

善吉が瞬きをすると、目の前には安心院が。

ほぼゼロ距離で、安心院は言う。

 

「球磨川君は…そうだな…。」

「言うなれば僕の弟子みたいなものだ。」

「いくら悪平等(ノットイコール)を掲げている僕と言えど、ある程度愛着はあってね。」

「その可愛い可愛い弟子に、いい思いをさせて上げたい。」

「そう思うのが普通の人としての情じゃないか、と思ったんだ。」

 

「普通って…よりにもよって貴女に使うんですか。」

 

「それもそうだね。」

 

と、彼女は笑う。

 

「と、違う違う。」

「駄目じゃないか、話の腰を折っちゃあ。」

 

安心院は、まるで幼い赤子を叱るように善吉に詰め寄った。

 

「早く話を進めてくれと言わんばかりだったから、安心院さんお得意の前書きならぬ前語りを省略して、話始めたと言うのに。」

 

やれやれと言うように手を肩まで上げて首を振る安心院。

 

「や、すいません安心院さん…。」

「続けて下さい…。」

 

釈然としない絶妙な表情で、善吉が言う。

 

「仕方が無いなぁ人吉君は。」

「それじゃあ、続きから行くよ?」

 

安心院は、人差し指を口元に当て、何やら思案しているようだ。

 

「あ、そうそう。」

「球磨川君にいい思いをさせたいって話までしたかな。」

 

スッキリとした表情になった安心院は、意気揚々と、善吉に身体を向ける。

 

「ま、だから…君と球磨川君の、80年越しの因縁の対決を演出してあげようと思った次第さ。」

 

得意げに、安心院はそう言い切った。

 

そんな安心院に、善吉は何とも言えない微妙な表情で「は、はぁ…。」と、気のない返事をするしかなかった。

 

「でも、それならめだかちゃんの方が適任じゃあ…。」

 

「何を言っているんだい人吉君。」

「黒神めだかは…もう死んでるじゃあないか。」

 

と、安心院は躊躇いもなくそう言う。

 

善吉は寂しいそうに目を細め、歯を食いしばった。

 

「でも…安心院さんなら…。」

 

「生き返らせれるって…?」

「やだなぁ人吉君。」

「そんな奇跡的なこと、できる筈ないじゃあないか。」

「それに君は――」

「ただめだかちゃんに、会いただけだろう…?」

 

そんな安心院の声に、善吉はあからさまに動揺した。

 

その様子を見て、安心院はクスクスと笑う。

セーラー服が似合う女子とは思えない程に、妖艶な笑みを浮かべながら。

 

「違っ…。」

 

「違わないね。」

「君は会いたいんだ。」

「おこがましくも、そんな絵空事を望んでいる。」

「でもね……。」

 

と、安心院はそこで言葉を切った。

 

「後は分かるよね?」

そう言わんばかりに。

 

「…………。」

「どう…すればいいんですか…。」

 

安心院は、口角を思い切り引き上げてこう言った。

 

「いい子だ――。」

 

○●○●

 

事の始まりは、中国軽慶市。

"発光する赤子"が生まれたというニュースだった。

 

以降、各地で「超常」は発見され、原因も判然としないまま時は流れる。

 

いつしか「超常」は「日常」に。

 

架空(ゆめ)」は「現実(げんじつ)」に。

 

世界総人口の約8割が何らかの"特異体質"を持つ超人社会となった現在

 

混乱渦巻く世の中で、かつて誰もが空想し憧れた、一つの職業が脚光を浴びていた。

 

超常に伴い爆発的に増加した犯罪件数。

 

法の抜本的改正に国がもたつく間、勇気ある人々がコミックさながらにヒーロー活動を始めた。

 

超常からの警備

悪意からの防衛

 

たちまち市民権を得たヒーローは、世論に押される形で公的職務に定められる。

 

彼らは活躍に応じて与えられるのだ。

 

国から収入を。

人々から名声を。

 

これは"無個性"の少年『緑谷出久』の、最高のヒーローになるまでの物語。

 

そして、前時代の遺物。

普通(ノーマル)過負荷(マイナス)の、社会を巻き込んだ因縁の()()の物語だ。

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