シルヴァリオグランドオーダー   作:マリスビリ-・アニムスフィア

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第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン 3

 特異点へと落下し、降り立ったのは地獄だった。

 全てが燃えていた。燃えていないものなど、ありはしない。建物も、自然も、人も。あらゆる全てが燃えている。

 燃えていないものなどありはしない。血みどろに染まっていないものなどありはしない。

 大気は例外なく穢れている。血と腐臭、あらゆる瘴気が混ざり合って、穢れてしまっている。まさしくここは冥府の底。地獄に他ならない。

 地獄の柘榴がはじけて、世界を染めているかのようであり、地獄絵図は現在進行形も消えない炎によって更なる地獄と化している。

 

 こんなところに人間が生きているはずがない。そう思える。さらに――。

 

「先輩、アレを見てください」

第二太陽(アマテラス)……!」

 

 この時代のフランスという国にはありえないものが上空に口を開いている。空一杯に広がる、第二太陽の威光。降り注ぐ星辰体(アストラル)が、これが特異点であると告げている。

 新暦にのみ存在するはずのものが、ここに存在している。それは明らかに異様であった。それも、明らかに新暦よりもこちらに近い。

 空を覆うほどの第二太陽などどんな冗談だ。

 

「それに、この惨状」

 

 ――生き残りはいない。なんだこれは。

 

「すべて破壊されている、か」

「副所長に連絡を取りましょう。あちらで観測しているのなら、どこかに生き残りがいるかわかるかもしれません」

「そうだね」

 

 星辰体(アストラル)を用いた、星辰奏者の間でのみ使用できる電位差を利用した通信機。これを用いてカルデアと通信する。

 すぐに通信は繋がった。

 

「こちらリツカ。カルデア、応答をお願いします」

『こちら、オルガマリーよ。到着したかしら』

「無事に到着しました。こちらの状況を報告します」

 

 あらゆる全てが破砕され、破壊され消えない炎で燃え盛っていることを報告する。この場所は都市から離れているために、そこまで炎の影響を受けないが、それでも酷いありさまであることに変わりはない。

 逃げようとして殺されたのだろう。ありとあらゆる死体が転がっている。死体の万国博覧会と言われてもいいくらいだろう。

 

 そのどれもが、銃で殺されている。明らかに近代の兵器だ。それだけならいいが、あってしかるべきものがない。

 転がっている死体のほとんどは女子供であるが、中には鎧を身に纏った兵士のそれもある。だが、敵と思われる死体はどこにもない。

 

 全てが同じ銃でやられている。斬撃や大砲といったものでやられた痕跡は一切見当たらない。回収したとしても回収した跡は残る。

 それもないとなれば、敵は一体も倒されていない。それだけ隔絶した差を持っているということだ。

 

『わかりました。アナタたちは引き続き調査をお願いします。そちらの情報につきましては――』

『私の担当だよー』

 

 突然割り込んできた声。それは、ダ・ヴィンチちゃんだった。

 

『新暦のことはわからないから勉強中だけど、旧暦については任せたまえ。この万能の天才ダ・ヴィンチちゃんがなんでもお答えしよう。というわけで、早速なんだけど――そちらに向かっている敵影が――』

「先輩!」

「――ッ!!」

 

 マシュの言葉とともに反応して身体は勝手に回避行動をとった。瞬間、爆裂する死体。俺たちの目の前にあった死体が爆裂した。

 それだけではない、連鎖爆裂し、爆煙が上がる。

 そして――。

 

Zwangvolle Plage! Müh' ohne Zweck!(ああ、苦しい。なんと無駄な徒労であろうか)

「なんだ――!」

「なっ――」

 ――こいつらは。

 

 そこに現れたのは異形の鎧を身に纏った兵士だった。統一規格という言葉すら生ぬるいほどの同一性。もはや全てが同じ個体と言われても信じられるだろう。

 次から次へと増殖する気配。それらは円軌道でこちらを包囲にかかる。いや、既に包囲されている。この場は、奴らの殺戮領域(キリングフィールド)だ。

 そう理解した瞬間、即座に距離を取るべく行動を開始した。

 放たれる光弾。雨のように降り注ぐそれらは、着弾とともに爆裂する。それらをマシュの盾で防ぎながら、距離をとると、それらの姿がよく見えるようになった。

 

Das beste Schwert, das je ich geschweisst(心血注ぎ、命を懸けた、我が最高の剣さえ ) nie taugt es je zu der einzigen Tat!(竜を討つには至らぬのか)

Das beste Schwert, das je ich geschweisst(心血注ぎ、命を懸けた、我が最高の剣さえ ) nie taugt es je zu der einzigen Tat!(竜を討つには至らぬのか)

 

 機械と鋼鉄を身に纏った異形の兵士たち。それは知っている。

 

「こいつら――!」

強欲竜団(ファヴニル)!」

 

 強欲竜団。それは、かつて古都プラーガを中心とした東部戦線において活動していた傭兵団の名前だ。古都プラーガの戦乱において壊滅したとされている存在。

 そして、こいつらは――。

 

「初めて見ますが、これは――」

「粗悪すぎる!」

 

 人倫を無視した醜悪な人間兵器(ワーグナー)。準星辰奏者。素養のない人間を無理に星辰奏者の如く運用する、人と星辰奏者の中間に位置する兵科。

 その凶悪さは、質ではなく、一定の質を有した量にある。量産不能、個体差の激しい星辰奏者とは異なり、量産化と個体差を排した悪魔の兵器だ。

 かつての古都プラーガにおける戦乱において、この機械化兵士たちが出した被害をまた聞きなれど知っている。

 

「来る――!」

 

 それが、こちらに襲い来る。

 敵を必ず殺すという恨みが形になったような、生理的嫌悪を想起させる異形の兵隊。出力は安定せず、膨れ上がっては、凪いだり、凪いでは膨れ上がる。

 適正のない者に無理やり感応させているからの現象が、ただただ気持ち悪くこちらの精神を乱してくる。これが狙いなのだとしてたら、これの開発者は人間ではないだろう。

 

Zwangvolle Plage! Müh' ohne Zweck!(ああ、苦しい。なんと無駄な徒労であろうか)

Das beste Schwert, das je ich geschweisst(心血注ぎ、命を懸けた、我が最高の剣さえ ) nie taugt es je zu der einzigen Tat!(竜を討つには至らぬのか)

 

 壊れた歌声はまさしく、壊れている証に他ならない。だがそれでも、そうなってまで、成すという恨みがある。壊れた歌声こそが彼らの咆哮。

 ただただ敵を殲滅し、彼の帝国に復讐すること。ただそれだけの為に、彼らは寿命を削り、文字通り魂を燃やしながら、敵を殲滅する。

 

 空間に飽和するほどに打ち込まれる弾丸。連鎖する爆裂。

 

「ぎがァァァ――!」

「きゃああ――!!」

 

 休みなく撃ち込まれる弾丸。こちらは未だに戦闘態勢へと持ち込めない。その隙が全く無い。密接な連携もそうだが、最悪なのはこの場所だ。

 所かまわず放置された死体は、全てが(トラップ)だった。全てが爆弾だったのだ。ただの爆弾ではない。何等かの星が付与された爆弾。

 爆裂すれば最後、嚇怒の炎があらゆる全てを焼失させる。そんなものが、ここには大量に置かれているのだ。

 

 こちらはそれらに気を配り、敵の異常な速度と威力の弾丸を躱しながら接近して、敵を倒さなければならない。

 

「マシュ!」

「はい、マスター!」

 

 意気を整え、反撃の隙を探るべく、発動値(ドライブ)へと移行。

 

 ――任せろ。あの程度ならば何ら問題になりはしない。

 

 そうこちらが本気で建て直せば相手にはならないだろう。心眼がそう告げる。だが――。

 

「そうさせてくれればね!」

 

 相手はこちらをよく知っている。連携は密であり、弾丸は途切れない。近づこうにも近づけないというのは最悪だった。

 こちらの武器は、剣と大盾。近づかなければ意味をなさない。何より、あの弾丸は、

 

「重いッ」

「マシュ、大丈夫か!」

「はい、行けます!」

 

 マシュですら後ずさるほどの重さだ。威力が桁違いすぎる。

 

Her den Ring!(宝を寄こせ!)

Her den Ring!(すべてを寄こせ!)

 

 防御はマシュ、なら。

 

「行くぞ、ゲーティア!」

 

 ――無論だ。

 

 平地、死体トラップ。まさしくこちらを嵌め殺す殺し方は出来上がっている。二人に対して、物量は圧倒的であり、今もなお上昇中とあれば、勝ち目などは薄いと思える。

 更に同士討ちでもしてくれればと思うが、円軌道で順次放たれる弾丸。つねに仲間の射線から外れるように汲み上げられた射撃順(ローテーション)は完ぺきで一切隙が存在しない。

 

 だが、それでもこんなところでむざむざとやられるつもりはなかった。オレたちが行動しなければ、世界は救われない。

 だったら、行くだけだ――。

 

 抜き放った刃でもって、飛翔する弾丸を切り落とす。刀身を伝い、腕が痺れるほどの衝撃だが、弾丸は両断で来た。

 あの時の感覚を思い出しながら――。

 

「はあああああああ――!!」

 

 弾丸の雨の中を疾走する。

 発動する星はゲーティアのもの。それから引き出すは、己の中に存在する数多の流星群の如き技術目録。そこから出すは、一で手数を補う技巧。

 アマツの剣士が使ったという、一度に三度の斬撃によって飛ぶ鳥を落とす刀法。そんなもの俺程度では再現できないが――。

 

 ――補助(サポート)は任せるが良い。

 

 細かいところはすべてゲーティアにぶん投げた。

 

「燕返し――!!」

 

 発生する一刀三連の斬撃。一刀が三つに分裂し、なおかつ同時に存在するという不条理が顕現する。発生した結果は飽和した空間射撃の空隙。

 そこに身を滑り込ませ、さらに前へ。

 

「わたしも、行きます!」

 

 マシュは最も単純な方法を選んだ。盾を構え、星辰光(アステリズム)にものを言わせた吶喊。無謀に見えるが、それが正解だ。

 まずは距離を詰めることが何よりも肝要。マシュの星辰光(ほし)は、盾に対する空間断層の付与だ。空間断層を用いれば反物質だろうとも防ぐことは先の戦いで実証済み。

 今回の敵の銃撃なんてものは確実に防げる。だから、あとは――。

 

 ――こちらの出力を振り分ける。

 

 光帯は、エネルギーの塊。現状二つ。ならば、星辰体のラインを通して深くつながっているマシュとの間でシェア可能。

 こちらも細かい調整は全部ゲーティアにぶん投げた。

 

 身体能力は出力に合わせて向上し、衝撃に負けずに突破可能なだけの性能を得る。

 

「やあああ!!!」

 

 肉薄し、機械化兵に一撃を入れる。完璧なリズムに生じたわずかな歪み。その隙は逃さない。

 即座に俺もまた彼女が穿った穴に対して突撃する。

 

「おぉおおおお――!!」

 

 技を接続、さらに、二本目の発動体も抜いて二刀として扱う。一本ではさすがにこれだけの数を倒すのには足りない。

 ゆえに、二刀。先の燕返しは二刀では使えないが、もうここに至っては必要ない。内部に入った。ならば、もうここは、

 

「俺たちの距離だ」

 

 光帯を刃に付属し、切り伏せる。

 反撃の暇など与えない。連続で相手の首を斬り飛ばす。マシュが生んだ隙を決して逃さず、二刀の連続切りで相手の肉体を解体する。

 

「マシュ!」

「はい!」

 

 ただひたすらにやることは変わらない。相手の反撃、相手の攻撃をマシュが受け止めて、その空隙に必殺の刃を差し込む。

 光帯の熱量は莫大であり、それを付与された刃に切れないものはありはしない。敵の装甲など意味をなさず消し飛ばす。

 

 本当ならば広範囲にわたって殲滅してしまいたいが、周りにある死体が厄介だ。あれが連鎖爆裂でもしてみろ。被害は甚大所じゃない。

 さすがのマシュでも爆発の外側ならまだしも内側にいては防御不可だ。盾は正面しか防がない。全方位からの爆発なんてものを防げる代物ではないのだ。

 

 だが、こちらはもう一人いる。周囲の状況をどうやって把握しているのかは、定かではないが、ゲーティアは俺たち以上にこの場を把握している。

 

 ――三時方向から敵だ。

 ――跳べ、爆発する。

 

 司令塔として敵の動きを教えてくれる。

 

「これじゃ、どっちがマスターかわらないな」

 

 ――なに、これは、あくまでもあいつから学んだことだ。貴様でもできる。

 

「そうだと良いけど!」

 

 だからこそ、もう怖くない。せっかく積み上げて来た殺し技なんだろうが、もうこちらには通用しない。防御と攻撃。揃って連携が取れている。余裕を取り戻せば、何とかなる。

 そう思ってしまった。これを緩みと取らずしてどうするのか。作業になり始めたその時、突きを放った。

 

「なに――」

 

 感じたのは違和感。直感が、心眼が、叫ぶ。

 

 ――跳べ!

 

 ゲーティアの言葉のその前に、俺は既に跳躍していた。だが遅い――。

 

Ja denn! Ich hab' ihn erschlagen!(然り! これぞ英雄の死骸である!)

Ihr Mannen, richtet mein Recht!(傍観者よ、我が栄光を認めるがいい!)

 

 機械化兵士が爆裂した。装甲と脳漿、骨、人体を構成するあらゆるものがはじけ飛び、散弾として俺を襲う。

 

「ぐぁああ――!!」

「マスター!!」

 

 全身に突き刺さる、人体爆弾の損傷。辛うじて光帯の防御が間に合ったからよかったが、躊躇なく自爆したことに戦慄が止まらない。

 報告でわかっていたが、これは悪辣だ。酷いとしか言いようがない。

 

 最悪なのは、この自爆によって、周囲の死体爆弾も味方ごと俺を巻き込んで爆発したことだ。全方位から襲う人体散弾。

 防御が間に合わなかったら確実に死んでいただろう。

 

「本当に、最悪だな!」

 

 躊躇なく突っ込んでくる人間爆弾。損傷がひどい者ほど躊躇いなくこちらに迫ってくる。なりふり構わないということはこのことで、最悪なのはそれすらも攻撃リズムに組み合わされているということ。

 こちらは、爆弾を避けなければならないが、あちらはそうではない上に、味方が射線上にいようとも撃ってくる。

 それがトリガーとなって予想もしないタイミングで爆裂するから、対応も難しい。

 

「くぅう」

 

 先ほどまでの優勢はどこに消えたのか。

 

Her den Ring!(宝を寄こせ!)

Her den Ring!(すべてを寄こせ!)

 

 再び、強欲竜団に優位が移っていた。

 

 自爆の危険から接近を封じられた。かといえば、あちらは死体を投擲して自爆させる。射程距離の差はいかんともしがたい。

 光帯を放射したいが。

 

「こうも死体爆弾が多いと、ここら一体が消し飛ぶぞ」

 

 光帯で消し飛ばすのと爆弾で消し飛ぶのどっちが悪いかといえば爆弾だ。光帯の被害なら、俺たちにはあまり聞かないが、爆弾となると前にも行ったが、防ぎようがない。

 

 いや――。

 

 なりふり構っていられないか。

 

 ――そうだ。気力で耐えろ。

 

「マシュ!」

「はい、マスター!!」

 

 起死回生の光帯掃射(アルス・ノヴァ)を放つ。全方位に向けての放射。莫大な熱量と同時に、連鎖爆裂する。

 あらゆる全てを巻き込んで爆裂した死体爆弾。強烈なまでの閃光は、俺たちごと全てを呑み込んだ――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 激震が特異点中に広がった。

 

「へぇ」

「これは――」

 

 オルレアンに座す女主と邪竜は、英雄が来たことを知った。

 

「……これは、なんという」

「凄まじいな」

 

 近隣にいた聖女と竜殺しは、その凄まじい激震に何かの到来を予知する。

 

「ジークフリートさん、行きましょう」

「行くぜぇ、竜の魔女さんよォ、どうやらお待ちかねの相手が来たようだ」

 

 図らずも、役者は、今、運命に導かれた英雄の下へ集おうとしていた――。

 




明日からは、更新が遅くなるかもしれません。
本気を出せばどうにかなると思っていますが、リアルの事情には勝てないんだ……。
というわけで、明日からは遅くなる可能性が高いですが、よろしくお願いします。
感想を貰えたら露骨に頑張るけど確約は出来ぬ。すまぬな?

次回は、リツカのラッキースケベ。るんたたるんたたします。

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