シルヴァリオグランドオーダー   作:マリスビリ-・アニムスフィア

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第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン
第一特異点 邪竜百年戦争 オルレアン 1


 百年戦争中のフランスに突如として、名を広げた傭兵団があった。

 その名は、強欲竜団(ファブニル)。暴虐竜の名を冠する、その傭兵団はある日突然、フランスを血の海に変え始めた。

 イングランドの先兵かとも思われたが、強欲竜団の狙いは、フランス、イングランドその両方であり、完全に全てを敵にしていたのである。

 

 まるでこのフランスの全てを滅ぼしてやるのだと言わんばかりの恐慌。生きている者はつかまり、死んでいるものは捨て置かれ屍山血河となってフランスを汚していく。

 それはまさに異常な光景だった。傭兵とは金銭で動く戦争屋のこと。卑しい戦場のたかりやという認識しかこのころはない。

 だが、強欲竜団の連中は、金では動いていなかった。どれほどの大枚を約束されても、金銀財宝の宝石を差し出しても、彼らは決して寝返らない。

 

 誰かが言った。聖女ジャンヌを殺したから、きっと神が怒っているのだと。

 誰かが言った。聖女ジャンヌが蘇ったから、フランスに復讐しているのだと。

 誰かがいった。いいや、あれはもう、ただ全部壊したいだけなのではないかと。

 

 その言葉は正しいのか、正しくないのかはわからなかったが、少なくとも、わかることがある。強欲竜団を止めなければ、フランスは滅びてしまう。

 だが、それがどうしたと欲竜の主、滅亡剣(ダインスレイフ)はただ笑う。滅んでしまえこんな世界と彼は言うだろう。

 其れこそが邪竜である己の全てであるがゆえに。だからこそ、彼は待ち焦がれている。この地に来るであろう英雄の到来を。

 

「ああ、早く来い、愛しの英雄(ジークフリート)(おまえ)が滅ぼすべき邪竜(かいぶつ)はここにいるぞ」

 

 まるで恋でもしている乙女のように、切に切に、天へ恨みの咆哮(さけび)を轟かせながら、英雄の到来を待ち望む。

 

「本当に、来るんでしょうねぇ、ダインスレイフ?」

「さて、どうだろうねぇ」

 

 先ほどまでの乙女顔はどこへやったのやら、飄々と、呵々笑いに舞い戻る邪竜。

 その笑みは、雇い主たる女に向けられている。

 その女は、つい先日火刑に処されたばかりの女であった。確かに死んだはずの女だ。

 竜を従える女。竜の魔女。地獄より蘇り、守ったはずのフランスの零落を切に切に願う者。

 

「舐めてんの」

「舐めちゃいねえよ。あんたが、オレをここに呼び出したってことは雇い主ってことだ。本来なら帝国以外とは戦わないところなんだが、聞くところによると、英雄が来るっていうじゃねえの」

「その聞くところによるってのが怪しいんだけど」

「ヒャハハ、まあいいじゃねえの。来るにせよ、来ないにせよ。一国を蹂躙できるんだ。行き掛けの駄賃としては妥当なところだろうよ」

 

 国ひとつを潰すことをその程度のこととして、ダインスレイフは話している。守るためにあれだけの犠牲を払ったというのに、滅ぼすのはたったその程度。

 まったくもって世の中は理不尽に出来てる。どうして正道を進むことの方が苦しく、逆の道はこれほどまでに楽で、快楽的なのだろうかと。

 

「それでどうする――」

 

 のかと、ジャンヌ・ダルクが言おうとしたとき。ダインスレイフに一つの連絡が入った。

 

「へぇ、なるほどなるほど。ちょっくら用事ができた。近くの反抗勢力潰すついでに行ってくるわ」

「払ったお金分の仕事はしてほしいところね」

「期待してな。オレはいつだって本気だ。本気になればどんなことだってできるさ。ヒャッハハハ」

「本当にわかってるんでしょうね」

「老若男女の区別なく、殺す。

 異教信徒の区別なく、殺す。

 あらゆる全て平等に、殺す。

 わかってるさ、雇い主さんよ」

 

 大笑いして、報告があった場所に向かう。

 そこでは、こちらの兵士が負けていた。強欲竜団の一兵卒。改造された、準星辰奏者とは名ばかりの使い捨ての醜悪なりし機械化兵(ワーグナー)

 その死体が、転がっている。

 

 だが、これはありえないことであった。敵に、これを倒せるものはいない。なぜならば、今は、十五世紀。新暦ならばいざ知らず旧暦である。

 技術格差は酷いものだ。蟻が竜を殺そうとするのと同義くらいの差が存在している。

 

 何より生身と星辰奏者よりは劣るものの、確実に人間よりも高い性能。武器は連射可能な銃に、広範囲を破砕する自爆。

 対して、この時代の武器と言えば、大砲や剣、槍である。

 

 そんなもので対抗できるのは星辰奏者くらいであるが、この時代、その技術は生まれていない。あるとすれば、世界が召喚する英星くらいだろうが。

 それらもこの滅亡剣(ダインスレイフ)にかかれば、対処可能。一騎当千の力を持った星辰奏者を屠った実績を持つ強欲竜団にとって、英星が相手であろうとも関係ない。

 

 足りないのだ。

 英星は、足りない。

 ダインスレイフは、英星を何度も倒している。思うことはただ一つ足りない。

 

 なんだそれは、そんなものが本気なのか? どうして覚醒しないんだ。

 仮にも英雄を名乗るのならば覚醒するのは当然だろう。寧ろ息を吸うように当たり前に覚醒できなくてどうして英雄になったんだとすらダインスレイフは言うだろう。

 

 ここに来るまでに潰した英星は数人は、どいつもこいつも名ばかりの英星だった。あんな有り様のものが英雄であるはずがない。

 覚醒できない英雄など英雄なわけがない。本気になれない奴らが英雄を名乗る資格などありはしない。人類史に刻まれたから英雄? ふざけるのも大概にしろとダインスレイフはその牙の如き篭手剣を怒りに振るわせる。

 

 英雄というものは、何よりも鮮烈に輝いているはずなのだ。機械化兵にやられるような凡愚ではありはしない。英雄を名乗るならば、燦然と輝き余裕をもってワーグナー程度乗り越えなければ嘘だろう。

 だからこそ、英星に対してほとんどダインスレイフは興味を失っていると言っていい。だというのに、この特異点で未だにジャンヌ・ダルクの下についているのにはやはり理由がある。

 

 期待しているのだ。

 だってそうだろう? こんなに邪悪な(てき)がいるのだ。ならばこそ、必ず現れるはずだ。

 

 たった単騎(ひとり)で麻薬製造の本拠地を蹂躙した断罪の刃のような者が。

 最新鋭の銃や兵器で応戦されても、それらを歯牙にもかけず蹂躙するような者が。

 

 そうじゃなければ、道理が合わない。

 祖国(たから)を蹂躙されて、悔しくないのか。

 友人(たから)を奪われて、悔しくないのか。

 

 悔しいのなら、本気になれるはずだ。本気になれば、出来るはずだ。本気になれば、敵を倒せるはずだ。

 この時代には早すぎるから不可能? なんだそれは、あの男ならやるぞ。

 

 だからこそ、今回の報告はダインスレイフとしては、殺されたという報告は、ついに待ち望んだ報告に他ならない。

 これを倒した英傑がいるということ。英星であるはずもなし、英星であったとしてもただの英星ではない。まさしく、英雄に相応しい。

 

「ああ、わかるさ、心臓が叫んでやがる。いるんだろう、我が愛しの英雄(ジークフリート)。待ってたぜぇ」

 

 死体を見聞する。見事な人たちによってことごとくが粉砕されている。

 あとは星辰光の影響だろうか、高密とエネルギーにより広範囲を薙ぎ払われてもいるらしい。期待した英雄の姿ではないが、戦闘痕を見ればわかる。

 見事な技巧と凄まじい胆力だ。この相手は死を恐れてはいないのだろう。あるいは、攻撃を食らっても問題ないほど頑丈なのか。

 

 ダインスレイフの好みであれば前者だ。死を恐れない本気の男ならば文句なし。

 戦闘痕から読み取れる相手の情報は、単騎であり、剣で戦う者であり、星辰光を持っているということ。しかも、心臓が反応するのならば、これは紛れもなく英雄だ。

 

「ああ、待った甲斐があった。喰いでがありそうな獲物だ」

 

 ゆえに、滅亡剣は抜き放たれる。さあ来いよ、英雄(ジークフリート)

 おまえが望む邪竜はここにいるぞ。

 

 フランスを蹂躙する邪竜の群れが、今ここに、英雄(てき)を見定めた。

 よってこれより先にあるのは滅亡のみ。

 止めたければ本気を出せよ、人間ども。

 本気を出せば、不可能などありはしないのだから。

 

 暴虐の邪竜が、人間賛歌を謳いながら猛撃を開始する。なぜならば、本気だから。

 光の信奉者たる男は、止まらない。

 本気になった男は、停まることは、ない――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「ん、あぁ――」

 

 酷い全身の倦怠感で目を覚ます。戦いの反動が、まだ残っているのだろう。傷の方は星辰奏者としての回復力によってほとんど治っているが細かい調整が必要なようだった。

 あの戦いで割と無茶をした検査もある。何より発動体の調整が、これから戦うために必要だ。なぜなら、自分はどういうわけか二人分の人間が一つの器に入っている状態。

 であれば、必然、発動体は二つ必要になる。この前は無理矢理であったがちゃんと調整しておいた方が良いだろう。

 

「いらっしゃいませー、ダ・ヴィンチちゃん工房にようこそー」

「今日はどうしますか? 私たち? それとも店長? 今ならお安くしておきますよ」

 

 出迎えてくれる双子。相変わらず言っていることはアレだったので、スルーするとして。

 

「いや、発動体の調整をお願いしたいんです」

「ふむふむ、店長とねっちょりと。了解です」

「店長指名はいりましたー。さあ、しっぽりぐっちょり楽しんできてくださいね」

「いや、楽しまないからね?」

 

 昨日会ったばかりだが、この二人についてはわかってきた。本気で取り合ってはいけない。きっとそれはもう大変なことになるに違いないのだ。

 だから、無視して、さっさと目的を果たすに限る。

 

「むむ、あまり芳しい反応ではないですねぇ、アッシュさんとかグレイさんとか、とってもいい反応でしたのに」

「そうそう。今回はじつにつま――平凡で、ツマラナイですね。絶対モテませんよ」

「君ら本当に容赦ないな!?」

 

 いや、無視だ、無視。この二人に関わってはいけないと本能が叫んでいる。

 なので、さっさと奥へ向かうとダ・ヴィンチちゃんがいる。

 

「やあ、おはよう。朝早くに私のところに来るんだ、何か重大な用事かな?」

「いえ、発動体の調整をと。それからもう一本発動体がほしいんです」

「ふむふむ、二本ね、君は二刀を使うとは聞いてないけど理由は聞かない方がいいのかな?」

「出来ればお願いします」

 

 あまり頭の中にもう一人いるとか言わない方がいいだろう。きっと頭のおかしい奴呼ばわりされる。特に、あの双子には。

 

「まあ、なにやらとても不愉快なことを思われた気がしますよ」

「これは報復ですね。報復に童貞をマシュさんにいただいてもらいましょう。みんなの前で」

「マシュにまで被害をいかせるのはやめろー!?」

「おっと、これは良い反応」

「弱点発見発見、にしし」

 

 しまった、ものすごい墓穴を掘ったぞ、これは。

 

「はいはい、双子は店番に戻って、それじゃあ調整を始めよう」

 

 ダ・ヴィンチちゃんに調整を施してもらう。二刀目は、違う設定にするとけげんな表情をしていたけれど、完璧に調整してくれた。

 

「ありがとうございました」

「良いよ良いよ。世界は君たちにかかってるんだ。私もできる限りは支援するとも。何かあったらすぐに来るんだよ」

「はい。失礼します」

 

 双子の追撃を逃れて工房を出ると俺を呼びに来たらしいマシュと会った。彼女は昨日のまま鎧姿だ。まだ慣れていないのか元の服には戻れていないらしい。

 いい加減早くどうにかしてほしいとちょっとだけおもう。その目のやり場的な意味で。いや、別にそんな不埒な視線は断じて向けていないとも。

 

 だが、こちらも健全な男なのだ。こう、扇情的な恰好をされるとクるものがある。

 

「おはようございます、先輩、そろそろブリーフィングのじか――きゃっ!?」

「キュゥゥ……」

 

 などと思っていると、フォウさんがすっ飛んでマシュへと突っ込んでいく。マシュは避けられずフォウさんがぶつかる。

 

「ごめんなさいフォウさん、避けられませんでした……。でも、朝から元気なようで嬉しいです」

「おはよう、マシュ」

「はい、おはようございます。よく眠れましたか?」

「うん、まあまあかな」

 

 管制室に着くと笑顔のマリスビリーが俺たちを迎えてくれる。ドクターロマンも一緒だった。レフやオルガマリーさんもいて全員集合という風情だった。

 

「やあ、おはよう。待っていたよ、二人とも。早速だが、ブリーフィングを始めよう」

 

 まずは、マリスビリーがやるべきことの確認を行う。

 俺たちがやるべくことは、まず特異点の調査と修正。

 その時代における人類の決定的なターニングポイントになっているらしい特異点へ赴き、調査、そこで何が起きているのかを解明し、元の人類史に沿うように修正すること。

 

 そうしなければ人類は破滅したままである。そのままカルデアが新たな年を迎えた瞬間、すべては終わってしまうというのだ。

 そうならないようにする。これがその作戦だ。

 

 二つ目。星辰体炉心(せいはい)の調査。

 聖杯という、特異点発生の鍵である超級の星辰体炉心を回収し、調査することで時代の修正を行った後、もう一度、時代が改変されないように管理する。

 それがグランドオーダーの主目的になるという。

 

「ここまではいいかな?」

「はい、大丈夫です」

「よろしい。では、次だ。特異点での基本行動と方針になるが、拠点を確保してほしい。特異点にある特定のポイントに拠点を設置することで、カルデアと君たちとの間で物資のやり取りが可能になる。他にも様々な支援ができるはずだ。この前のように孤立無援ではないから安心してほしい」

「……理解しました。拠点。安心できる場所。屋根のある建物、帰るべきホーム、ですよね、先輩」

「ああ、マシュは、いいこと言うね」

「そ、そう言っていただけると、わたしも大変励みになります。

 英星(サーヴァント)として未熟なわたしですが、どうかお任せください。がんばりますから!」

「キュー!」

「ああ、みんなで頑張ろう」

 

 決意を新たに、特異点へ向かうために準備をする。

 

「さて、ではこれより第一次特異点修正作戦を開始する。リツカ君、マシュ君、君たちの働きに期待する。では、ドクター、あとは頼むよ」

「はい、所長」

 

 マリスビリーは管制室を出ていった。彼には彼の仕事があるのだという。

 あとにはドクターが引き継いで、俺たちを万全の状態で特異点へ送るための準備をする。

 

「さて、それじゃあ二度目だけど、緊張してないかい? 何か異常があればいってくれよ」

「大丈夫です」

「はい、わたしもフォウさんも元気いっぱいです

「フォ、キュー!」

「良いことだ。それじゃあ、オルガマリー副所長」

「ええ、レフ、シバをセットして」

「了解、オルガ」

 

 シバがセットされ座標が決定される。

 

「これより、第一特異点の修正に向かいます――」

 

 転移開始。

 これより向かうは、邪竜はびこる激戦のオルレアン。

 血で血を洗う戦乱の地で、邪竜と英雄が邂逅する――。




すまないさん本気おじさんにロックオンされるの巻

強欲竜団のおかげで、既にフランスは壊滅状態です。人なんぞほぼ残ってません。
すまないテンションの低いジル。

とりあえずフランスは、蛇遣い座の大虐殺みたいなことになってます。
あれの規模が、フランス規模になったものと思っていただければ、フランスは現在燃えています

あとこれに愉悦を期待している方はたぶん期待通りにはならない。
これは光の物語なので。
希望あふれる光の英雄の物語です。
絶望も愉悦もありはしないと思います。
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