ダンジョンに死人が居るのは間違っているだろうか   作:風風

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男と少年と美しき少女

少年は駆ける。

石造りの狭い通路を、時に段差に足を取られながらも白い髪を振り回しては全力で駆ける。

 

「ハァ、ハァ、ハァ…………ッ!」

 

足に乳酸が溜まっているのが感じられた。

 

――構うもんか。

 

心臓が煩わしい程に脈を打ち、肺も悲鳴を上げている。

 

――構うもんか!

 

全力疾走の影響で酸素が足りず、そのせいか視界が僅かにぼやけてしまっている状態だ。

 

――構うもんかッ!!

 

一言で表すなら満身創痍。

通常であるならとっくに歩いて耐力を回復する場面だが、少年にはそれが出来ない理由があった。

 

「ブモオオォォォ!!」

 

通路――ダンジョン内に怒号が響き渡る。

牛の頭に巨大な人間の体躯を持つ怪物ミノタウロス。現在少年は、その怪物に追われている真っ只中であり、どうにか逃げ延びようと抗っていた。

 

「うわあぁぁぁ!!」

 

振るわれる豪腕。

当たれば重症は免れないであろうそれを紙一重で回避し、少年は尚も駆ける。

きっとこの先に出口、または運良くミノタウロスを倒せる人物に出会えることを願って。

 

「なっ…………!」

 

しかし現実は厳しく、ダンジョンの角を曲がった先には袋小路になっていた。

 

「フゥ、フゥ…………!」

 

振り返れば戦闘態勢に入っているミノタウロス。明らかに目が血走っていて、少年は否が応でも最悪の事態を想像して壁に背を着けてへたり込んでしまう。

 

「オオォォォアアァァッッ!!」

 

そして遂に、豪腕が振るわれた。

 

(ああ、じいちゃん。ダンジョンで出会ったのは可愛い女の子じゃなくて、筋骨隆々の恐ろしいモンスターだったよ……)

 

世界が全てスローに映る。

俗に走馬灯と言うのだろうか、少年は祖父から聞かされた『ダンジョンで女の子と出会い、ハーレムを作る』その言葉を思い出し、実に虚しい結果に心底落胆する。

 

数瞬先に自分は生きていないだろう。

諦め、目を閉じようとしたその時――。

 

「…………え?」

 

――ミノタウロスの腕が飛んだ。

 

「君、無事かい?」

 

一体何が起きたのか。

原因を見つけ出す為に聞こえた声の方向へ加顔を向けると、ミノタウロスの傍らに人が立っていた。

 

「は、はい……」

 

「なら良かった。急いで此方に向かった甲斐もあったものだな」

 

声から察するに男だろう。

細身の紅い刀剣を片手に佇む姿は堂に入っており、全身を覆うこれまた紅いフードが更に異端者の風格を漂わせていた。

 

そしてその男は悶えるミノタウロスを見逃す程甘くはなく脇、足の腱、首筋などを斬りつけた後、袈裟斬りにて魔石を残してその存在を葬り去った。

 

「……凄い」

 

僅か数秒の出来事に少年の口から自然と感慨の念が漏れる。

 

「さて。問題なく対処したところだし君を地上に送ろうと思うんだが……。すまない、返り血の事まで頭に入っていなかったよ」

 

見ると少年は血塗れになっていた。

自身の血ではなく、ミノタウロスの血であることが不幸中の幸いか。

 

「い、いえ!気にしないで下さい!こうして助かったのも貴方のお陰ですし!」

 

「そう言って貰えると助かる。それじゃあ早速…………ん?」

 

地上へと送ろう。

男はそう言いかけて、近づく足音に先を詰まらせた。

 

一定で軽快なリズム。

男は恐らく人間の女性でないかと当たりをつける。

 

果たしてそれは間違いではなかった。

 

流れる金糸のように美しい髪。白雪を思わせる肌に、目を見張る整った顔立ちはまるで女神に出会ったような感覚。一種の芸術作品のような少女に、男は思わず息を飲んだ。

 

「ほ、ほ」

 

しかしその出会いは少年の何かを駆り立てたようで――。

 

「ほわああぁぁぁああ!!」

 

ミノタウロスから追われていた頃より遥かに上回る速度を出しながら、ダンジョン内を駆けていった。

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