幽香さんhshs
私は生まれた時から妖怪に好かれやすかった。
妖怪といっても賢者様のような力のある妖怪は見向きもしない。
私に懐いてくるのはいつだって言葉すら理解しない最下級の妖怪たちだ。
私にとって遊び相手はそんな妖怪たちで、里の子供にしてはかなり浮いていたと思う。
そんな普通とは言い難い生活が終わりを告げたのは私が十を過ぎる頃。
寺子屋で妖怪女と蔑まれ、虐められた私は、自身の家族に泣きついた。
その時の家族の顔を見て気が付いた。
母のひきつった顔。父の気味悪い物を見たような顔。姉の嫌悪をむき出しにした顔。
兄の化け物を見たような顔。
そうか、私は家族にも疎まれていたんだ、と。
その瞬間、私は家を飛び出して、里も出て行った。
着の身着のままで飛び出した子供が里の外で生きていけるはずもない。
そんな愚かな私を助けてくれたのはやっぱり妖怪だった。
犬の妖怪が私を背中に乗せてくれ、蜘蛛の妖怪がだれも住んでない廃墟を見つけてくれた。
埃だらけの床で寝ようとすると、大きな鳥の妖怪が私の体を包んでくれた。
それから私は人里から離れて暮らすことにした。
幸い、廃墟があった場所は元々村だったみたいで、畑の跡のようなものもあったし、近くに枯れてない井戸もあった。
畑を耕す私の隣で、大きなミミズの妖怪がせっせと私の何倍もの速さで耕していく。
井戸水が重くてくみ上げられない時は、クマの妖怪が手伝ってくれた。
そんなこんなで十年近くたったと思う。
捨てられた村では暦なんてあるはずもないので四季から大雑把に把握しているだけなのだけど。
私は相も変わらず妖怪たちに手伝ってもらいながら生活していた。
心配した慧音先生が一度訪ねてきたものの、里に戻る意思はないことを伝えると心配そうな顔をしながらも里へと戻っていった。
そんなある日、起きた時に私は違和感を感じた。
いつもだったら起こしてくれる蟲の妖怪が今日に限って来なかったのだ。
珍しいこともあるものだと畑仕事のため外に出ると、手伝ってくれるミミズの妖怪もいない。
とうとう妖怪にも愛想を尽かされたかな、とため息を吐くと自作の花壇の前に誰かが座っているのが見えた。
蜂や蛾の妖怪のために作ったそれは、そこらに咲いてた花を寄せ集めただけの粗末なものだ。
そんな誰も見向きもしない場所に、日傘をさしてしゃがんで熱心に花壇を見つめている人がいた。
ここは妖怪のたまり場として知られているから、人は寄り付かないんだけどな、と疑問に思ったら、その人が私のほうへと振り返った。
綺麗な緑の髪に、引き込まれそうな赤い瞳。
現実離れした美貌に、ああ、妖怪か、と一人納得する。
振り返ったその人は、笑みを浮かべると、良い花壇ね、と褒めてくる。
そうだろうか、と素人丸出しの花壇を見て首をかしげると、花が喜んでる、と頭を撫でてきた。
この人は風見幽香という妖怪らしい。
近くにあるひまわり畑に住んでいるのだとか。
ここに来たのは花に案内されたから、らしい。たぶんそういう能力を持っているんだろう。
私は好かれるだけで意思の疎通はできないから羨ましい。
私を怖がらないのね、と聞かれてまたしても首をかしげる。
殺されかけたわけでもないのになぜ怖がらなければならないのだろう。
妖怪に育てられたといっても過言ではない私にとって、随分と的を外した質問に思えた。
そして、畑仕事そっちのけで幽香さんと話をしていると、日が傾いてきた。
そろそろ行くわ、と幽香さんが立ち上がる。
楽しかったからまた来てね、と伝えると大声で笑われた。なんで?
幽香さんが去ってしばらくして、妖怪たちが恐る恐る姿を現した。
どこ行ってたの、と聞いてみると、私の機嫌を取るように体をこすりつけてくる妖怪たち。なんなの、だから。
幽香さんが座ってた場所に近づこうとしない妖怪たちを見て、ようやく幽香さんが怖かったのだと理解できた。
あんなに優しい人を怖がるなんて君たちも薄情だな、とナメクジの妖怪をつつくと、プルプルと震える。そこまで怖いの?
週に一回来るようになった幽香さんに花のお茶をごちそうするようになった。
遠巻きに見つめる妖怪たちを見て笑いながら、幽香さんと穏やかな時間を過ごすのだった。
毎週金曜は、妖怪に好かれた女と花妖怪の秘密のお茶会。