ダンジョンに全身凶器がやってきたのは何かの間違いだ   作:モルモルモット

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プロローグ「イチャイチャすんならよそでやれ」

迷宮都市オラリオの地下には、無限に連なる大迷宮、ダンジョンがある。

その奥深くでは、激しい戦闘が繰り広げられようとしていた。

襲い来るは絶え間なく生み出されるモンスターの大群。大小、種族の異なるそれらが、床から天井に至るまで一切の隙間も許さないように犇めいている。迎え撃つはたった二人の人間。二人はモンスターの群れを見渡せる高台にいた。

 

片や身の丈とほぼ同じほどの長大な十字刀を背負った黒ずくめの男。その男の装いはまさに騎士のようだ。頭には羽飾りのついた帽子を被っている。

片や小柄な女。背丈は隣の男の腹あたりで、武器の類は全く身に着けていない。強いて言えば終始両手の指を鳴らしている。

 

二人は互いに視線を合わせ、そして同時に飛び降りた。

 

着地のタイミングに合わせ、男は背負っていた太刀を薙ぎ払う。すると、目の前にいたモンスターはおろか、その遥か後方に控えていたモンスターにまで斬撃はおよび、男の前方にいたモンスターたちは全員きれいに一刀両断された。男が刀を振るえば間合いなどお構いなしに切り裂かれ、魔法が放たれればそれごと斬られた。気配を消すことに長けた者が男の背後から襲いかかろうとするも、初めから知っていたかのようにそちらを一瞥することもなく斬り捨てた。

 

その間に女は全身に赤い闘気を纏い、群れの中心に飛び込む。モンスターは餌にありつけたとばかりに女に飛び掛かり、ある者は食らいつき、ある者は切り付け、ある者は殴り掛かる。しかし、それでも女の服には傷1つつかず、露出している肌の部分にさえ、外傷は無かった。女は近くにいたモンスターの頭をわしづかみにし、一瞬で握りつぶした。次にうろたえたうちの一匹を掴み上げぶんぶんと振り回す。その背丈からは想像もつかない怪力を見せ付けたかと思えば、瞬く間に飛び上がり天井や壁を蹴りながら、まるでゴム毬が跳ねるように移動し次から次へとモンスターを殴り、蹴り飛ばした。お次はモンスターを投げつけようと、ひと際大きなモンスターを持ち上げた時、そのモンスターはバラバラに切り刻まれた。呆気に取られた女が斬撃の飛んできた方に目を向けると、そこには悪戯っぽく口角を上げる男の姿が―――。

 

―――女はキレた。

 

そこからは大災害の嵐だった。発生源は本来無力な存在であるはずの、人間の男女。被害者はその場にいた全てのモンスター。斬撃と拳撃による衝撃波は階層全体を揺るがし、たちまち崩壊させた。当然下にいたモンスターは下敷き。階層自体も原型のない瓦礫と魔石の散らばる山に成り下がってしまった。それがあと四度と続いたところで災害は終息した。

 

*****

 

「……で、いつまで拗ねる気だ?」

 

オラリオへの帰路、ずっとふくれっ面のまま一言も話さず早足で進む女に痺れを切らし、男は自分の方から沈黙を破った。女は頬を膨らませたままチラッと振り返り、またぷいっとそっぽを向いてしまった。こういったやり取り自体は、十代そこそこの二人の見た目通りのものだ。つい先ほどダンジョン数階分の床をぶち抜いて一フロアにしてしまった犯人とはとても思えない。

 

「はぁ、そう怒るなよ、ちょっとからかっただけだろ」

 

それを聞いてまた機嫌を悪くしたのか、歩みが早くなった。男の自業自得だろう。何せ、そもそもの発端はこの男だ。二人はダンジョンに潜る時、狩ったモンスターの数を競う。そして、負けた方がその日の飯を奢る決まりだった。もはや二人の間では日課のようなものだ。それが今回、女の困った顔を見てみたいという出来心に負け、結果、ダンジョンは崩落しモンスターは巻き込まれ、倒した数が分からなくなってしまった。それが、女が不機嫌になった経緯である。因みに言うと男の方はしっかり数えていた。女の分も含め二人分。それを、拗ねた顔を見るのが面白いからという理由だけで、女にはまだ伝えていない。どこまでもイタズラ好きな男であった。

 

「オーケー、わかったよ降参だ。俺が悪かったよ」

 

イタズラ好きは引き際も心得ていた。

 

「……謝ったって、カウントは帰ってきません。今回はレンさんが責任とって奢ってください」

 

「まあ、奢るかどうかは置いといて、『レンさん』は止めようか。それあっちの名前だからさ、ランちゃん?」

 

「じゃあ私のこともあっちの名前で呼ばないでください」

 

「いや、俺の方はともかく、ランちゃんの名前呼びづらいじゃん。たしか……パ?パー、パトなんとか」

 

「パトゥーサです。いい加減覚えてください。もう十五年は経ってるんですから」

 

傍から聞けば意味の解らない会話だが、この言葉で全て説明できる。

 

彼らは転生者だ。

高校の先輩後輩だった二人は、仲良くトラックに轢かれ、この世界にやってきた。それぞれ特典を授けられて。

 

レンは漫画「ONE PIECE」に登場する覇気と、剣術・体術を授けられ、名をジュラキュール・ミホークと変えた。この世界では、名・姓のため、本来はミホーク・ジュラキュールになるところだが、彼は「ジュラキュール・ミホーク」の形にこだわったため、ジュラキュールが名前に、ミホークが家名になった。恰好も原作のミホークに寄せており、背負った刀は黒刀・夜に酷似している。

 

ランは漫画「ドラゴンボールZ」に登場する界王拳を授かった。理由は特になく、ただ体を動かすのが好きだからその関係で役に立ちそうなものを適当に決めた。そしてパトゥーサ・ポレモスと言う名を与えられた。

 

こうして、こちらの世界ではタメになった二人だが、精神年齢的には相変わらず先輩後輩のため、関係はそのまま引き継いでしまっている。

 

「じゃあパトでいいや、呼びやすいし。で、話し戻すけど、どこで食おうか?」

 

「……もういいですパトで。というか、ほんとに奢ってくれるんですか?どうせ今回も私の負けでしたよね」

 

ため息混じりにパトは肩を落とした。彼女は冒険者になって以来一度も、ジュラキュールに勝てていない。そのため「どうせ今回も」と落ち込んでいるのだ。その様子を見て彼は先の悪戯を込めた笑みではなく、優しさを含んだ笑顔を見せた。

 

「それがさ、今回はパトの勝ちみたいだ。二匹差で」

 

それを聞いたパトは、たちどころに表情を一変させ、花が咲いたような笑顔を浮かべ、その場で飛び跳ね、全身で喜びを表現した。

 

「じゃあ、この前ファミリアのみんなで行ったあの店が良いです!初勝利祝いですから!」

 

そう宣言するパトの顔にはほんの数時間前にジュラキュールがしたものとそっくりな悪戯顔を張り付けていた。なんだかんだこの二人は似た者同士である。

 

「おいおい、マジでか。あの店めちゃくちゃ高いとこじゃねえか!女将も怖えし。財布持つかな」

 

「そんなの私気にしませんから。ズルした罰です」

 

そのやりとりの間も二人の笑顔は消えない。

二人の帰り道は最後まで笑いが絶えなかった。

 

*****

 

ここは迷宮都市オラリオ、冒険者の街。

様々な種族が行き交い、分野は違えど皆力を求めてこの街に集まってくる。

その結果、この街では、数多の英雄譚が生まれた。それは、大地も海も越え、世界の果てまでその名を轟かせた。

その中に、異彩を放つ物語があった。それは英雄譚に描かれる者としては珍しく、愛の物語であった。

主人公の名はジュラキュール・ミホーク、そしてパトゥーサ・ポレモス。二人は時に親友、時に好敵手として互いに競い合い切磋琢磨していく中で、いつしか恋に落ち、やがて結ばれた。そして二人は、後に「剣と拳(けんとけん)」と呼ばれ、夫婦ともに最強の冒険者の称号を得ることになった。という物語だ。

そこに至るまでには様々な出会いがあり、様々な試練があり、様々な冒険があった。しかし、それを語るのは別の機会にしよう。なぜなら、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼らはこの物語の主人公ではないのだから。

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