ダンジョンに全身凶器がやってきたのは何かの間違いだ 作:モルモルモット
穏やかな日差し、穏やかな風を受けて、馬車が一台、草原を進んでいた。ガタゴトと荷台が揺れ、そのリズミカルな振動は不快感にはならず、むしろ睡魔に誘われるような心地よさであった。現に荷台に乗り込んでいる男は、商品の間にぴったり納まり自身の荷物袋を枕にグースカと眠りこけている。
「お~い!そろそろ到着だぜ、あんちゃん!」
御者の中年男性が、居眠り中の男に呼びかける。すると、以外にも寝が浅いのかすぐに体を起こした。
「ふぁ~あ。あー、よく寝た」
目覚めた男は凝り固まった筋肉を伸ばし、実にすっきりした顔だ。長時間同じ体制で眠っていたせいで体を伸ばす度バキゴキと鳴っていたが。御者の男も「よくそんな固いところで熟睡できるな」と呆れ顔だった。聞くところによると、この居眠り男は冒険者になるためにオラリオを目指しているそうだ。未だ柔軟体操を継続している様子からはとても想像がつかない。だが見た目はおよそ十代後半に差し掛かっているだろう年頃だ。自分の力を試したいのだろう。と、御者は心の中で完結した。若者の荷物の中に彼の得物らしきものが一切ないということは考えずに。
「あんちゃん、冒険者になるんだったよな?」
「そうだよ」
「さっき言ったじゃん」と、あくびを噛み殺しながら返事をする。しかし、御者はなにも物忘れが激しいわけではない。単に、若者にある情報を伝えるための前置きだ。
「残念だが今のオラリオじゃ、たぶん冒険者登録できねえぞ」
「はあ!?どういうことだよおっちゃん!きっちり吐けよおい!!」
突然の話に、語気を強め御者の身体を揺する。首じゃなく肩に手を掛けているあたり、本気と言うわけではないが、それでも焦ってはいるだろう。
「続きが……おい……話を聞け!!」
なんとか若者の手を振りほどく。若者は、機敏な動きで極東式の座り方、正座で話を聞く姿勢を示す。
「……今のオラリオは祭りの最中だ。街は神さまやダンジョンに行かない冒険者で溢れかえってっから、ギルドの職員もあちこちで見回りしてる。つまり、そっちで大忙しだから冒険者志望者の面倒なんか見てる暇なんかねえっつうわけだ」
「わかったか?」と言う頃には、若者は理由を理解し、意気消沈していた。今度はうつ伏せで寝る気か?
「……まあ、冒険者になれんのはちと後回しになっちまうが、あんちゃんにとっては丁度良い予習になると思うぜ」
その言葉で耳をピクリと動かし若者は、顔だけをこちらに向けた。ただし、表情は怪訝なままだが、御者は言葉を続ける。
「それと言うのもな、ガネーシャっつう物好きな神様がいてな、その神様のファミリアが、年に一度主催してやってんのがその祭りよ。その祭りじゃ、本物のモンスターを観客の前で調教すんだ。つまり、お前さんはダンジョンに入る前に本物のモンスターを拝めるわけよ!その名も、
話が進む毎に体が起き上がり、終いには訝しげだった顔もキラキラと子供のように輝いている。
「おっちゃん、その話マジかよ!スゲーなあ……オレもそれ出れんのかな!?」
「出れるわけねえだろ!」というツッコミはしないでおいた。また落ち込まれるのも面倒だったから。そのままテンションが振り切った若者の「最強の冒険者になる宣言」を聞いているうちに、共通の目的地、オラリオに着いた。心地よい揺れが収まり、馬車が停止する。
「よし、到着だ!気い付けてけよ、あんちゃん……って……あれ?」
振り返るとそこにやかましかった若者の姿は既に無く。
「名前、聞きそびれちまった……」
代わりに数枚の硬貨が置かれていた。