ダンジョンに全身凶器がやってきたのは何かの間違いだ   作:モルモルモット

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第一話 お祭り騒動ど全身凶器 後編

今、オラリオでは、陽気さと恐怖の双方を孕んだ騒々しさを放っていた。陽気さは言わずもがな、怪物祭(モンスターフィリア)だ。そして恐怖は、逃亡したモンスターたちによるためである。そんな矛盾を抱えたお祭り騒ぎの中、一切の音が消えてしまった区画があった。

そこでは、ある一点を中心にドーナツ状に人が囲い、皆が一様にその中心を凝視していた。視線が交わる点にいたのは、一人の少年。旅装束に身を包んだ黒髪に金色の虹彩を持つ平凡そうな少年だ。当の少年は、注がれる視線など気にする風もなく、肩を大きく回していた。

 

「ふう~、やっぱ外のモンスターなんかよりずっと手応えあるな。ま、それでも全然弱いけど」

 

そう、この少年こそ、逃げ出したモンスターの一体、オークを打倒した当事者である。それもパンチ一発で魔石にしてしまう程の偉業を成し遂げた上でだ。

信じられない光景を目にした大衆は、しばしの沈黙の後、一斉に大歓声を上げた。その大きさたるや、街全体の賑わいを塗りつぶしてしまうのではないかと思える程だ。

それはつまり、その少年が成し遂げた信じられない光景を受け入れたことに他ならない。それも当然だろう。この街は冒険者の街。冒険者とは、それぞれが仕える神に恩恵を授かり、己の器を昇華させる。そうなれば、自身より遥かに大きなモンスターを打ち倒すこともできるのだ。大衆は、オークを倒したこの少年も冒険者の一人である、と解釈したということだ。

大衆の歓声を聞き、少年は拳を掲げそれに応える。

 

「ふう……、一時はどうなるかと思ったが、助かったよ少年」

 

赤い象の仮面を着けたこの男は、モンスター退治の任を受けた、ガネーシャ・ファミリアの団員だ。一般人に危害が及ぶかもしれないという切羽詰まった状況での、この少年の行動は、彼の肝を大いに冷やした。が、それも少年が解決してくれたおかげで、幾分か安らいだ。

 

「ん?なんで礼を言われるのか判んねえけど……モンスターってまだいんの?」

 

「ああ、全部で十数体いる。協力して貰えないか?」

 

「嫌だね」

 

「はあ!?」と、声を上げようとするが、口から出てくることはなく、結果絶句してしまった。一応疑問符は入れたが、この流れではまず、断られるとは思ってもみなかったのだ。「なぜ」と理由を問う前に、少年の口から答えが語られた。

 

「やっぱズルは良くねえよ。こう言う勝負事ってさ、自分の力で勝った方が気持ちいいじゃん!」

 

男には、無邪気な笑みを見せるこの少年が何を言っているのか、まるで理解できなかった。人命が掛かったこの状況下で、ズルだの勝ち負けだの言っていられる場合ではない。困惑の渦に捕らわれているうちに、少年は踵を返し、何かを思い出したようにこちらに振り向いた。

 

「そう言えばさ、一番多く倒したヤツってどんな景品が貰えんの?……あ!やっぱ言わなくていいや!楽しみは後に取っとこー」

 

それを聞いてようやく男は理解した。この少年は街中に逃げ出したモンスターの退治を、怪物祭(モンスターフィリア)の催し物だと勘違いしているのだ。

 

「君!!ちょっと待ちなさい!!」

 

静止の言葉届かず、少年は一蹴りで石造りの屋根に飛び乗ると、猛スピードで走って行ってしまった。残された男は、ズレかけた仮面を直し、次のモンスターを探しに駆け出した。

 

*****

 

少年はモンスターを求め、オラリオ中を駆け回る。

並の人間では到底出すことは不可能な速度で、屋根から屋根へ飛び移り、モンスターの下へ向かう。そして出会い頭、モンスターの命を刈り取って行った。

 

「はい、鹿ああ!虫いい!また豚ああ!犬うう!もういっちょ犬うう!」

 

拳打、蹴り、手刀、回し蹴りを二発。

モンスターは少年の存在を補足する暇すら与えられず、ただ魔石を残し、消えていく。

少年が通った後は、モンスターだった灰が、悲しくサラサラと舞っていた。

 

「さってさてお次はどこかな〜?」

 

他の建物より比較的高い物に登り、キョロキョロと見回す。

ここに至るまで、少年は七体のモンスターを仕留めていた。そろそろ数も減り、見つけるまでに時間がかかる頃合いだ。残りわずかになったモンスターを一体でも多く、自らの手で仕留めるため、鋭い感覚を更に研ぎ澄ませていた。

数秒もしないうち、少年の飛びぬけて良い視力が、新たな標的を補足した。

 

引きちぎった鎖を振り回す、白い大猿の姿を。

 

*****

 

途中の屋根を踏み砕き、爆散させて飛んで来るほど張り切っていたものの、少年は現在、お預けを喰らっていた。先客がいたのだ。

 

陽光を照り返す白髪を汗と砂埃で汚し、身体のあちこちに傷を作ってなお戦おうとする、若き冒険者が。彼の瞳は紅く闘志を宿し、その手に漆黒の短剣を構え、大猿の身体に少しずつ斬り込んで行く。彼の技はまだまだ拙く、弱い。一振り一振りが軟で、少年の眼から見れば素人同然の駆け出しだということが手に取るように判った。だが、少年はその若き冒険者の中に潜在する何かを感じ取ったため、屋根の上で観戦することにしたのだ。

 

結果として、勝利を掴んだのは冒険者の方だった。

大猿は、胸の中心に短剣を突き立てられ、呆気なく倒れた。

 

「はあ……結局出番なしかー」

 

腹八分目といった不満げな雰囲気を出す少年だが、その目は溢れ出る期待の色に彩られていた。今、目の前で勝利を収めた冒険者の秘められた器に、高揚する心を押さえられていない。

少年の心は決まった、どこのファミリアに入るのか。

 

(そうと決まれば、大事なのは挨拶だよな)

 

思い立ったが吉日。

少年は、湧き上がる住民たちの中で自身の勝利に呆ける兎みたいな冒険者と、その分を全部体現している女神の下へ向かおうと、重心を前に向ける。そこに……。

 

今まで倒れていた白き大猿が息を吹き返した。

 

何かに引っ張り上げられるかのように起き上がり、街中に響かせていた時とは段違いの咆哮を挙げる。大気は震えあがり、辺りの窓ガラスを粉々に吹き飛ばす。それを合図に全身の体毛が逆立ち、赤黒く染め上げられた。

それは、ありえないことだった。モンスターの急所は体内の魔石。それを少しでも砕けば、たちまち息の根を止めることができる。先ほどの戦いでも、刃渡りは短いが確かにシルバーバックの心臓部を捉えていた。だというのに、再び立ち上がり、自身を強化して見せた。

 

周囲が困惑に包まれる中、異変にいち早く反応し、少年は上空へ飛び上がる。

どよめく人々が豆粒ほどの大きさに見えるくらいまで着くと、今度は身体を上下反転、天井を蹴るように、文字通り、空を蹴った。

鳴り響く大砲のような音。

それを置き去りに少年は急降下する。

 

「鉄塊!」

 

そして全身に意識を巡らせ、硬化する。

 

鋼鉄の隕石と化した少年は、拳を標的に向け一直線に落下する。

 

「砕!」

 

一切の慣性を逃がさず、全てまとめて大猿の脳天に叩き込む。

ゴンッ!と鉄同士の衝突音が轟いた。

突き出された拳を通して流し込まれた衝撃は技の名の通り、大猿の脳髄に浸透し、そこから体内を、順に砕きつま先まで届いた。

屈強な身体を内側から破壊された大猿は、呆気なく灰に帰った。

 

華々しい復活を果たしたシルバーバックは、その脅威を知らしめることなく、二度目の命を散らしたのだった。

 

*****

 

オラリオは、冒険者が集う街だ。つまり、それに伴い様々な最先端の技術も集うことになる。鍛冶も然り、医療も然り、そして、料理も然り。

何が言いたいかと言うと、この街には美味いものが多い。と、言うことを少年は身を以て体感していた。

 

ここは豊穣の女主人。かの最強ファミリア、ロキ・ファミリアが長期遠征の打ち上げに、贔屓している店だ。女将、ミアが振る舞う料理はどれもこれも一級冒険者の舌を唸らす、一級品ばかりだ。ただし、料金も馬鹿にできないほど高いが、それは少年にとって大した問題ではない。彼はこの街まで持参した大金で、店のメニューを端から順にオーダーしている。しかし、運ばれてくる料理は渋滞することなく少年の胃袋に呑み込まれ、高級料理を乗せていた皿は綺麗にテーブルの隅に積まれていく。

 

店を構えて以来初の大食漢の喰いっぷりに、女将は気を良くし、魔法陣から召喚するように次々とメニューを具現化する。そんなチキンレースが始まっているものだから店員達はおおわらわだ。特に、彼をここに招いた張本人、シル・フローヴァは激しく後悔していた。

 

最初はほんのお礼のつもりだったのだ。自身が想いを寄せるベルとその主神を助け、ここまで運んで来てくれたお礼に店で食事を摂って貰おうという流れになったのだ。しかしこんな未来想定できるわけない。本当なら、今頃ベルにアピールできていただろうに。

 

「おかわり!」

 

このデスマーチが一晩中続くのかと思われたころ、発端となった残りの二人が二階から降りてきた。

 

「おお、神さん!元気になった?」

 

少年は食事を続けながら、空いている手で「ここだ」とブンブン振る。それを見つけられない訳もなく、二人は料理にがっつく少年のテーブルに着く。

 

「うん、おかげさまでね!ベル君に聞いたよ、ここまで運んでくれたんだって?ありがとう!少年」

 

「ま、困ったときはお互い様ってやつだよ。それに良い戦いも見れたしな」

 

少年の関心は席に着いたもう一人、ベルに向けられる。

 

「え!?いや、僕なんて全然大したことないですよ!」

 

「おいおい、謙遜すんなって。ベルっつったっけ?結構粗が目立ったけどさ、ナイスファイトだったぜ!」

 

少年の手には、いつの間にやら、エールの注がれたジョッキが握られていた。この少年、戦闘に乱入した時もそうだったが、行動を察知させないのがかなり上手いのだ。冒険者志望でなかったのなら、暗殺者という道もあっただろう。とは言え、少年の目標は暗殺者では達成できないため、ならないだろうが。

 

ベルもまたジョッキを持ち、少年のそれに打ち付ける。

これがこれから何度も交わすことになる、少年との最初の乾杯だった。

 

*****

 

すぐに打ち解けた二人と一柱は次々と運ばれてくるご馳走に手を伸ばしながら親睦を深めた。

 

「ところで、君はどこのファミリア所属なんだい?」

 

ヘスティアは出会ってからずっと気になっていた疑問を口にした。

あの時、少年は籠手すら装備していない状態の素手でとどめを刺していた。

それほどの腕を持つ冒険者なら名も通っているはずだ。ここで、まだ少年の名を聞いていないことを思い出したヘスティアだが、問いを追加するより早く、少年は爆弾を落とした。

 

「いや、オレまだどこにも入ってないよ。今日ここに着いたばっかりだし、モンスター狩るの楽しくて、ギルドにも行ってない」

 

奇跡的に、店内は大いに賑わっていたため、少年の言葉はテーブルの内に留まった。と言ってもそれを聞いてしまった二人は内容が内容なだけに見事に凍結した。

その反応は当然の結果だ。

ダンジョンに生まれるモンスターは常人が束になってかかっても敵わないほどの脅威だ。例え最弱のゴブリンであっても、そうそう倒すことはできない。それを神からの恩恵を賜ることで、いとも容易く葬ることができるようになるのである。つまり、恩恵の有無は天地の差があるのだ。

それをこの少年は恩恵も無しに中層一歩手前の階層のモンスターにとどめを刺した。あり得ないそう言いたかった。だが、実際に目の前で見せ付けられた以上信じる他ない。

 

「そこで相談なんだけど、神さんのファミリアに入れてくんない?」

 

その話で、二人の凍結は溶けた。

 

「え、入ってくれるのかい?」

 

「おう!なんか二人とも楽しいしな!」

 

「ってことは、僕の、後輩?」

 

「うん、そうなるな」

 

それを聞き、ベルとヘスティアは顔を見合わせる。段々と表情が輝きだし、

 

「「やったー!!!」」

 

今度は逆に歓喜の熱で舞い上がる始末だ。

新たな眷属、それに恩恵無しでもモンスターを倒すほどの逸材、喜ぶのも無理もない。一通りはしゃぎ回った後、ヘスティアはさっき続けようとした問いを改めて、少年に向けた。

 

「歓迎するよ、少年!今更だけど、君の名前を教えてくれないかい?」

 

ヘスティアは、新たな眷属(子供)に手を差し伸べる。ファミリアの入団はそれぞれ試験を設けていたりするが、ヘスティア・ファミリアは零細のため、そういったものは用意されていない。だが、この瞬間は少年の大きな節目となる重要な儀式だ。場所は酒場の片隅だが、そんな些細な事は関係ない。そしてヘスティアは、これよりかけがえのない家族となる少年の名を訪ねた。

 

「あ、そういえばすっかり忘れてたな、自己紹介」

 

うっかりしていたと頭を掻いて少年は席を立つ。

そして、彼女の手を優しく握り返した。

 

「オレはいずれ、世界最強になる男、アルギュロス!アルギュロス・ミホークだ!よろしくな、ベル、神さん!」

 




ここまでお読みいただきありがとうございます!
本当はここまでで一話として考えていたのですが、思ったより量が多くて、
分割という形になりました。

さて、今後の予定なんですが、要所要所の構想は出来てるので、すこし期間は開くと思いますが、形にできるよう頑張りますのでよろしくお願いします。

それでは、次回をお楽しみに!!
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