ダンジョンに全身凶器がやってきたのは何かの間違いだ   作:モルモルモット

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第二話 初迷宮 初報酬

神とその眷属たちは、しばしば自分らのことを「家族」と形容する。しかし、それは物の例えではない。

と言うのも、眷属の背に刻まれる恩恵のためである。ヒトの器を効率よく昇華させるために神が与えるその恩恵は、神の血によって根を下ろす。まさに「血を分けた家族」になるのだ。

 

因みに、どの神であっても受ける恩恵は同じだ。団員の頭数で地力が上がる訳でもないし、大手だろうが零細だろうが、結局どう強くなるのかは本人の努力次第なのだ。

 

それはさて置き。

 

本日、ヘスティア・ファミリアの新団員、アルギュロス・ミホーク。通称アルは、ヘスティアの血を分け与えられ、名実ともに新たな家族の一員となった。

 

そして今、晴れて兄弟となったベルと共に初のダンジョンに潜っていた。

 

「アル!下がってて!」

 

叫び、ゴブリンの群れに突進するベル。その心境は、初めてできたパーティで冒険ができる喜びと、後輩の前で格好の悪い所を見せる訳にはいかないと言うプレッシャーが大半を占めていた。

 

主神から貰った短剣を手に猛然と飛びかかろうするベルであったが、その威勢は哀しくも無意味に終わった。

 

「だいじょぶだいじょぶ。こいつら超弱ぇし」

 

ロクに装備も身につけず、ほぼ私服でここに来たアルは、あくびを噛み殺しながらゴブリンたちをボールでも扱っているかのように次々と蹴り飛ばしていく。と言うよりボールにしか見えない。かなり哀れなゴブリンたちである。

 

すっかり意気消沈してしまったベルは、目の前の弟分ー実際はベルの方が一つ年下なのだがーがどんな存在なのか意識から抜けていた。

 

アルは恩恵なしで中層間近のモンスターを相手取ることが出来るほどの実力を持っていた。その彼が恩恵を受けたとあれば、上層のモンスターなど屁でもないという事は少し考えれば解った筈だ。

 

「ああ、うん。そうだよね……。」

 

ベルの心は折れかけていた。

 

*****

 

ベルとアルは現在、ダンジョンの7階層での探索を終え、地上への帰路に着いていた。

途中、ベルの先輩としてのプライドが、形成されるよりも速く砕かれるという一幕はあったものの、それ以外は特に問題なく進んだ。

 

今回のダンジョン攻略の目的は二つ。

一つは、ベルと加入したばかりのアルとのパーティに慣れるためである。

今までパーティを組むどころかサポーターすら雇っていなかったベルにとって、仲間と連携しての戦闘は未知の領域だ。パーティというのは、ただ前、中、後衛を寄せ集めて「はい、完成!」という訳にはいかない。誰が攻め込み、誰が守るのか。回復、魔石やドロップアイテムの回収は誰がするのか。そういった緻密な打ち合わせと、それを滞りなく行う為の経験が必要なのだ。

 

それがベル、そして今まで単独での戦闘経験しか積んでいないアルには、連携を覚える必要がある。そのための実地訓練だ。と言っても両者共に前衛職という致命的な欠陥は拭いきれていないのだが。ベルは軽やかな身のこなしで突っ込み、アルは多彩な体技と鍛錬を積んだ肉体そのものを武器に突っ込む。前向きに捉えるなら、前進あるのみの特攻ツーマンセルだ。

 

そしてもう一つは、アルのステイタスの把握である。

通常、初めて恩恵を授かると、数値化されるアビリティは全て0の値を示す。それでも恩恵の有無は天地ほどの差がある。つまり、今までの感覚で屈伸すれば、うっかり天井を突き破るような無様を常に晒さなければいけないのだ。それを防ぐため、身体を慣らすために幾らでも壊していいダンジョンに入った方がいいのである。恩恵無しで化け物じみた戦闘力を発揮するアルギュロスは特に。

また、アルにはもう一つ把握しなければならない事がある。

スキルの発現だ。

 

スキルとは、発現者の固有能力であり、発現自体が稀少な代物であるが、一度発現すれば今後の戦闘が大いに楽になる便利なものばかりある。その種類は千差万別。中にはさらに珍しいレアスキルもあり、ベルもまた、成長を大幅に助けるレアスキルを発現している。

 

アルは恩恵を受けて早々、そのスキルを発現したのだ。

 

その名も【過重縛鎖(ヘヴィチャージ)

 

これは、自身に通常のx倍の重力が掛かっているに等しい負荷を掛けるものである。今回も通常の10倍の負荷を掛けながらダンジョンに挑んだのだ。

そんなハンデを背負った状態であっても全く引けを取らないあたり、化け物と言う他ない。

 

「ところで、本当に良かったの?装備着けないで来ちゃって。エイナさんに怒られるよ?」

 

ようやく心を修復したベルは、このあと見ることになるであろう美人アドバイザーの憤怒の形相を思い描きながらアルに尋ねてみる。

 

「あ〜、大丈夫じゃね。鎧とか邪魔なだけじゃん」

 

「まあ、アルの技ならケガとか心配してないけど、さすがに武器は必要じゃない?折角ギルドから支給されたナイフだって失くしてるし」

 

先ほども言ったように、今のアルはロクな装備も身につけていない。アルにとっては「ちょっと近所まで買い物に」という程度なのだが、周囲の目には見栄っ張りのバカな若者にしか写らないだろう。

武器に関しても、アルには元々修行で身につけた、いくつもの体術があるためそこまで重要視していない。

 

「そう言われれば無いな、ナイフ。ま、どっかで落としたんだろうけど。そっちも大丈夫だろ!安物のナイフっぽいし」

 

初めてあった時と一寸も変わらない調子で、アルは能天気に笑い声を上げる。ベルはここまで賑やかな帰還をするのは、自分たちだけじゃないかと、このあと鼓膜に突き刺さるであろう怒声のことから目を背け、そんなことを考えていた。

 

*****

 

因みに、アルがモンスターをちぎって投げまくった結果、初報酬、30000ヴァリスとなった。


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