その運命に、永遠はあるか   作:夏ばて

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よるか=日本刀
しおん=中国剣

古都=日本+中国



二十話

手軽に持ち運べる簡易テントなだけあって二人入るだけでも窮屈だ。

またぺらぺらの布を芝生に敷いているだけなので、これならテントなんて破り捨てて直に転がったほうが、空間にゆとりがとれるだけマシではないか。

 

しかし時には我慢が必要。

忍ぶは花、耐えるは風、忍耐は愛なのだと、偉人が唱えていたのを思い出す。

 

「ん」

装衣の上から寝巻を重ね、荷物袋から櫛を取り出したクルルシファーに、寝っ転がりながら手を差し出すと、困惑したように櫛と手のひらを視線が行き交う。

 

ようやく意図を読み取とれたクルルシファーは、疑問符を浮かべ櫛を顔の前まで持ち上げた。

 

「これ?」

「梳いてやるから寄こせ」

魅力的な女性の条件に必ずあげられるのは髪が綺麗な事。

 

罪人となった芸妓は命ではなく髪を払うという逸話もあるだけに、いかに重要なのかが窺える。

 

床に届く長い蒼の髪を、個人的に好いているシオンの申し出に、黙ってクルルシファーは櫛を手放した。

 

自分から持ち掛けておいて何だが、べたべたと触られるのを嫌がりてっきり断るのだろうと。

まさか乗ってくるとは予想を裏切られた。

 

長い髪というのは根元から櫛歯を入れたら傷みやすいため、毛先から上へ徐々にほぐしていくのがお手入れの作法。

サヤカからの教わった方法で丁寧に梳いていると、不意にクルルシファーが声を漏らした。

 

「未だにあなたの生態が掴めないわ」

気まぐれに流される、自由奔放な生き様はそんなもんだろう。

 

その時の気分によって言動がコロコロと変わるので、自分でもこの先何を仕出かすのなんて分からない。

 

クルルシファーの髪の毛のお手入れを手伝っているのだって、その場の思い付きなのだから。

 

「俺にとってはクルルシファー・エインフォルクの生態がまだ掴めてないけどな」

「掴むチャンスを逃したのだから自業自得よ」

湖畔での一件、例の秘密とやらを打ち明けようとしていたところで、シオンは待ったをかけた。

 

「聞きたくねーし知りたくもねーし。女が抱え込んでる隠し事を好んで探る男ほど、みっともねえ生き物はいねえよ」

そう言えば反乱軍とのやり取りで、リーシャが旧帝国の所有物がどうたらこうたら、という話をしていたのを思い出す。

 

きっとあれもリーシャにとっての秘密のようだが、他人の過去など道端に転がっている犬の糞並みにどうでもいい事だ。

 

「それにしては随分尽くしてくれる彼氏なのね」

「やわらかくて温かい。俺にとっても役得だな」

相変わらずのストレートな発言に、苦笑するクルルシファーのうなじを、指先で優しくなぞる。

 

くすぐったい感覚に僅かに背を反らしたその身体が、シオンの腕の中にすっぽりと納まった。

人肌に恋しくなってしまうような純情な心は持ち合わせていないが、肌の一部に触れて体温を感じていると安心するのだ。

 

「いやらしい男」

「イヤか?」

「下心の見え透いている気取った紳士よりはマシよ」

それは経験談なのか。

貴族の社交界では、そういう邪まな考えを腹にしまって、話しかけてくる男がいたかのようだ。

 

というより、シオンが知る内にも一人いる。

 

「四大貴族もエロい目つきで肉体観察していたな」

酒場でシオンが存在感を消していたときには、華奢なクルルシファーへ肉付きが悪いと不満を垂らしていた。

 

気取った紳士とは、バルゼリッドのことを指しているのだろう。

 

「負けたらクルルシファーはあの野郎の性奴隷か……」

女なんて道具として思っていなさそうなので、どうせ下女でも侍らせて毎晩昨夜はお楽しみでしたね状態であるのは容易に想像つく。

 

「せめて言葉を選んで欲しいわね。でも、勝てばいいだけよ」

勝てばいい、言うだけなら誰でも言える。

相手は機竜使いとして、トップクラスの腕を持つ、バルゼリッドとアルテリーゼ。

 

その二人から勝利を掴み取るのは、簡単なことではないのはクルルシファーも百も承知だ。

 

「なんとかなるだろ。肩の力抜いて気楽に行こうぜ」

いつものテンションでそう呟くと、無言ではあるがクルルシファーが、二本の指で片頬を抓ってきた。

賭けの賞品となった彼女にとっては、他人事のような返しをしたのが気に入らなかったみたいだ。

 

「そんな心配なら天使様にでも祈ってろよ。案外物好きな奴で、ハープ担いで天界から決闘場に降ってきてくれるかもしれないだろ」

 

ぽんぽんと、クルルシファーの頭を叩く。

歴史に名を残した十人のうち九人は、果報があるとは限らないが、神や天に祈り迷いと決別した。

 

祈って楽になるならそうすればいいと思う。

 

「天使ではなく機竜使い、歴とした人間よ。そんな人跡未踏の山奥に潜む古人に、祈りを捧げる気はないわ」

「それは現実的なことで」

ただ、祈りの対象である神と天使への信仰心は持っていると。

 

人里離れた山に住まい鹿の生肉を喰らう野蛮人と、伝承に名が記されているだけの存在。

どちらも表に顔を出さないのだから、どっちもどっちだというのが本音だ。

 

「ま、勝つも負けるも俺たちの出来次第。万全の体調で挑むためにも、そろそろ眠りに落ちるとするか」

このまま駄弁っていても明日の疲れが残るだけなので、手首のスナップを利かせて櫛を投げる。

荷物袋の口へと吸い込まれるのを確認したシオンは、よろよろと立ち上がった。

 

「横にならないの?」

「寝ぼけて手ぇ出しちまったら大変だろ」

股から血を垂れ流しながら決闘に挑めば笑いものになってしまう。

これも明日への備え。

クルルシファーが何か言いかけるも、そそくさとシオンは仕切り布を潜り外へ出た。

 

たき火で暖を取っているルクスの隣に座り込む。

「眠れなかった?」

「振られた」

「……ああそう」

 

いつもの冗談として受け取ったルクスは、火持ちをよくするために薪に手を伸ばした。

 

ベイルを引き連れた前回は、日帰りだったので細かな部分に気をかけてはいられなかったが、外と連動して明るくも暗くもなるように作られているとは、末恐ろしい技術だ。

こうしてちまちまと薪を足さないと、すぐ辺り一面暗闇で覆われてしまう。

 

「シオンってさ、結構秘密主義なとこあるよね」

ぼんやり天井を見上げていると、ルクスがそう口にした。

脈絡のない問いかけに思えるが、先ほどの剣の語りが真実ではないとルクスは看破していたのだ。

 

出会った当初からシオンは多くを語らない。

 

機竜の扱いは誰から教わったのか、剣はどうか、生まれは旧帝国だったのか、いくつか質問しても、それっぽい答えで毎回はぐらかされていて、真面目に語ったことといえば、地下施設での生活の一部ぐらいなものだ。

 

事実を言っているようでただの出まかせで場を凌ぐ、たちの悪い性格であるのをルクスは十二分に理解している。

 

「人間、誰もかれも大なり小なり秘密を抱えて生きているもんですよ。俺もルクスさんも、お姫ちんだってフィーちゃんさんだって。当然あそこで寝てるクルルシファーも」

「僕やリーシャ様は分かるけど、フィーちゃんやクルルシファーさんも?」

リーシャは言わずもがな、ルクスとて秘密と呼べるほどではないが密かに抱えてる目的がある。

もちろんシオンも大っぴらにしたくないことなど山ほどある。

むしろ生きているのに隠し事の一つや二つない奴がいたら、怪しいすぎて交流など持ちたくもない。

 

「クルルシファーさんは、今回の遺跡調査に参加したことと関係あるのかな?」

目線だけで聞いてくるルクスに、そっけなく「さあ」とだけ返す。

 

危険が付きまとい、生きて帰って来れない可能性がある任務に、わざわざユミル教国のお役人と掛け合ってまで関与してきたのだ。

何かしらの理由があるに違いないのは分かっている。

 

「さあって、一応クルルシファーさんの恋人なんでしょ?」

「恋人でも所詮は一週間の仲、余計な詮索をしてもね。ましてや、そこまで物好きじゃないんで」

「あっさりしているなぁ……」

「内緒を暴露されても面倒なだけだろ。お人好しのルクスさんには難しいと思いますけど」

それが困りごととあれば、どうせルクスは人助けのために走り回るだろう。

 

学園に編入することになったのだって、お世話になった少女のポシェットを咥えた猫を追いかけていたのがきっかけだし。

 

正義感、または責任感から来ているかどうかは知らんけど、もはや呆れを通り越して尊敬してしまう。

 

「えー、そうかな。シオンも意外と世話焼きだよね。あの近所の、エミリアちゃんだっけ――」

久しぶりな男だけの会話は良く弾む。

 

明日は報酬が絡んだ決闘だが、たまにはこうして野郎だけでバカ騒ぎ――とまではいかないが、語りつくすのもありだろう。

こうして夜が更けていく。

 

 

 

 

 

翌朝は寝坊した。

いつの間にか寝落ちしていたみたいで、見張りも疎かにしていたシオンは、クルルシファーに叩き起こされた。

そこから説教、遅めの食事を取ってから中心部である祭壇へと移動を開始する。

 

「祭壇まで歩く?それとも訓練がてらに走る?」

巨大な正方形の建造物である『箱庭』といえど、徒歩だとしても数時間で中心にはたどり着く。

疲労も考慮しておくと、今夜の決闘までは装甲機竜を纏い体力を消費するのだけは避けたい。

 

ちょうどこの区画からの道のりは一直線で、幻神獣を発見したとしても交戦するまでは余裕がある。

幻神獣用の抜け道があってもいいよう気を配りながら、歩きで時間をかけて目指すことになった。

 

道中は特に無駄話を挟んだりせず、各自警戒に当たりつつ、中間地点で小休憩を入れると再度歩き出す。

 

「ついたわね」

人工的な道を抜けた先には、クルルシファーが言ったように、目的である祭壇が待ち構えていた。

円形の床の周囲に、白い柱が立ち並び、中央の台に載った銀の玉石は、不思議な光を帯びている。

 

「えーと、確かレリィ学園長によれば、この笛が謎を解き明かすカギとして使える可能性があるとか……」

ルクスが取り出したのは、奇妙な形をした黄金の笛。

先日、反旗を翻した旧帝国近衛騎士団長ベルベットが所持していた、幻神獣を操る力を持つ角笛だ。

 

「ふむふむ、コレを使えと……」

シオンもこの祭壇までは来れた。

中心部に位置する場所なので、重要な手がかりがあると思っていたが、祭壇を殴っても叩いても、うんともすんともしなかったので通過するしかなかった。

 

レリィから託された角笛を用いれば、新たな道が開かれる。

 

最初に足跡を付けるのは探検の醍醐味、シオンは角笛をルクスの手から引っ手繰り、台座まで大股で近寄ると

「おらああああああっ!」

白く光る玉石を、角笛で殴りつけた。

 

「ちょっとシオンさんっ!? 何やってんの!!」

慌ててルクスが駆け寄る。

 

「んだよ。文句あっか?」

「大ありだ! 壊れちゃったらどうするんだよ!」

 

「でもほら、昔から傷口に唾つけときゃ治るっていうだろ。だからここも叩けば何かしらの仕掛けが作動するくね?」

 

「全然繋がりが見えないのは僕だけ!? 傷口が云々はまだいいとして、叩けば直る理論はどこから持ってきたのさ!?」

 

「あー、もううっせぇな。すぐキレる現代人って怖いわ。少しはこの忍耐のシオンと恐れられてる俺を見習えよ。ぶっ飛ばすぞ?」

「言ってるそばからキレたよこの人!!」

 

間の抜けた舌戦を繰り広げるシオンとルクス。

対等に渡り合っているルクスの底知れないツッコミ力、ルクスのツッコミは神にも通用する。

 

「馬鹿ばっかりね」

その応酬が面白かったのか、憂いのない素直な微笑み浮かべて、クルルシファーは台座までの段差を上がる――その時だった。

 

『≪鍵≫の存在を確認しました。特殊コードの解錠を行います。問題がなければ、転送を始めます』

天井より聞こえる無機質な機械音声。

 

明らかに異変と断定できる状況に、シオンは即座に機甲殻剣へと手をかけた。

床に描かれていた模様から、光が立ち上る。

片手で機甲殻剣を振り、光のカーテンを切り払うと、そこには見覚えのない景色が広がっていた。

 

「ここは――?」

「新しいエリアに飛ばされたんだろ」

「そのようね」

きょろきょろと辺りを見回すと、青白い金属板で囲まれている空間には、ここで崩落でも起きたのらしく、無数の瓦礫が転がっていた。

 

広間には人が入ったような形跡はない。

 

何年も放置しているにも関わらず、金属板には錆び一つもない。

永続的な効力のある錆防止の塗料でも、塗りたくっているかのようだ。

 

近場に転送されたと思い、金属板に耳を押し当ててみるも空気の流れは感じられなかった。

 

『鍵の認証を確認。レベル制限による開封が可能です』

その音声で振り返る。

 

遺跡内には、機竜の部品や古文書が収められた箱、『ボックス』が存在する。

 

特殊な構造をしているこの箱は、いかなる手段でも開けることは出来ず、装甲機竜の力技で中身を取り出すのが一般的であるが、クルルシファーが触れた途端、開くはずのなかった『ボックス』が開いていく。

 

「クルルシファーさん?」

連続して起こる不可解な出来事に、緊張を帯びたルクスの声が響く。

 

「お前が動かしたのか?」

クルルシファーを見やることはしなかったが、『ボックス』を覗き込みながらシオンは返答を待った。

そこから紙束を抜き取り、いくつか流し読みしてみるが、古文書の内容はさっぱりだ。

 

「……ええ」

「そっか」

深く追及せずに、シオンは『ボックス』に眠っていた古文書を回収する。

 

王都の解読班の他に、学園でも報酬の出る依頼として掲示板に張り出されていることがあるため、アイリはよくそこで稼ぎ借金返済のアテにしている。

 

これがかなり効率よく稼げるらしいのだが、生憎脳が足りていないシオンには手の出せない仕事なのだ。

 

遺跡調査は、迅速に済ませるのが鉄則だとリーシャに教わっているので、とりあえず片っ端から『ボックス』の中身を持ち出そうとシオンは動き出すも――

『危険です。振動により内部が崩落します。安全な場所へ避難してください』

突然、異音と共にそう発せられ、天井がピシィ、と音を鳴らし亀裂が走る。

 

「おいおい、とんだ欠陥建築だな。歩いた振動だけで崩れるとか、そんなんじゃ名建築家の称号は与えられないな、設計者よ」

 

「いや、そんな余裕ぶっこいてる状況じゃないでしょ……。早くどこかの部屋に逃げないと」

両腕を組み偉そうにしているシオンと、立ち尽くしていたクルルシファーの手をルクスが引き、すぐ近くの小部屋へ逃げ込んだ。

 

 

 

 

 

 

「随分と険しい顔つきをしているが、大丈夫なのかい?」

同時刻の城塞都市。

豪邸が立ち並ぶ一番街区の居住区の一画、クロイツァー家の別邸にて、黒いローブを纏った存在の口元が歪み、そう告げた。

 

対面するのは『王国の覇者』、常に相手を見下し、高慢な態度をとる男にしては珍しく、怒り血走った瞳で虚空を睨みつけていた。

 

「まあいいさ。ところでクロイツァー卿、例の決闘でしくじるような真似はしないでくれよ」

「分かっている!」

 

反射的にバルゼリッドが声を荒げ、カップが置かれた机を叩きつける。

 

失態。

過剰な表現ではあるが、シオンにまんまとやられたのは、バルゼリッドにとって最大の屈辱であった。

 

「………取り乱してすまない」

大切な客人を前にハッと我に返る。

 

ソファーに座る、フードを目深に被る彼女は、滅多に市場に出回ることのない神装機竜の取引に応じてくれた。

 

素性は知れない怪しい商人だが、王座につく道筋を立ててくれた恩がある。

 

「安心してくれていい。盟友から買った≪アジ・ダハーカ≫の神装は最強だ。同じ神装機竜の使い手のあの女だろうと、汎用機竜で悪あがきをするヤツだろうと、負けはしない」

「その一声を聞けたのならもう満足さ。なあラヴィニア」

 

室内の壁際に控えている異国風の衣装で着飾った少女、ラヴィニア。

呼びかけられた彼女は笑顔を崩さず、この話し合いを見守り続けていた。

 

「上ばかりに気を取られ、足元をすくわれてしまえば、新王国の王となる夢も儚く散ってしまいますので、どうか慢心はなさらずに」

生ける人形のような、可愛らしいラヴィニアに笑みを向けられたら、大抵の男はコロッと落ちてしまっても致し方ない。

 

しかしバルゼリッドは、どうしても彼女に好感を持つことができなかった。

 

「おっと、悪いね。この街にはまだ用があって、ここらで失礼させていただくよ」

それだけを言うと商人は、手を付けていなかった紅茶を一口飲み、部屋から立ち去った。

その後をラヴィニアが追うも、部屋から出る直前に何かを思い出したのか振り返る。

 

「蛇かと思い掴んだソレが、実は――などという話をお聞きしたことはありませんか?」

愛想がいい人間ほど信用ならない。

 

笑顔とは防御の姿勢の表れでもあり、騙したり、誤魔化す手法。

 

頻繁に笑う人間には必ず裏があるとされているが、そんな迷信に惑わされるバルゼリッドではない。

 

内側に黒いものを潜ませている。

旧帝国の時代から覇権の乗っ取りを画策していたクロイツァーと同類なのが、この女だ。

 

ならあの黒ローブも同類だろう。

見返りも求めず、何から何まで親切な商人ではあるが、まだ良からぬことを企んでいることは何となく伝わってくる。

 

その付き人であるラヴィニアは、ローブ姿の商人に寄り添い、従っているフリをしているような――とにかく胡散臭い。

 

「初耳だな」

「うっかり蛇退治のつもりで挑んでしまえば、痛い目をみることをお忘れなく」

「あの男と縁があるのか?」

 

クロイツァー家の使いを駆使し、情報を集めさせたところ、トーナメントの下位ランカーであることや、様々な噂が報告された。

 

黒ローブは対戦相手であるシオンについて、歯牙にもかけず笑い飛ばしていたが、ラヴィニアは風の噂で耳にしたのを覚えていたのだろうか。

 

「ではバルゼリッド様、ご武運を」

何事もなく、ラヴィには身を翻す。

 

心にもないことを、よくもまあすらすらと言えるものだと感心してしまう。

意味ありげに残していったラヴィニアの言葉を反芻してみる。

 

つまりシオンが蛇なのか。

 

蛇とは相手を陥れるために策を弄した人間に対した比喩。

意味のままに捉えるなら、蛇になるのは自分の方だが、ラヴィニアは蛇対峙とはっきり言った。

 

蛇かと思い掴む。

 

蛇かと思い掴んだソレが、実は蛇ではなかった。

蛇は蛇だ。

見間違えることなどそうそうない。

 

「馬鹿馬鹿しい」

考えるだけ無駄だと結論付けたバルゼリッドだったが、机に横にしてあった機甲殻剣を蛇に見立て掴んでみる。

 

掴んだのは装甲機竜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

閉じ込められた。

逃げ込んだ小部屋の出入り口は、崩落の影響で瓦礫の山が積もり、塞がれてしまった。

 

装甲機竜の武装で掘り進めそうなので、飢えて死ぬなんて悲劇にはならないが、不測の事態に疲れてしまい、その場で各自休息をとっていた。

 

「さっきのは、クルルシファーさんも分かっていたの?」

ためらいながらルクスが尋ねた。

こういった役回りは本来シオンが担当するべきことなのに、本人は腕を枕にして仰向けに寝ている。

 

「あなたたちが見たまでのことよ。私はユミル教国の遺跡内部で発見された、遺跡の生き残りなのよ」

 

「遺跡の生き残りって、そんなことが……」

「事実だからこそ、遺跡が私に反応し、奥部へと到達できたのよ」

そしてクルルシファーが手をかざしただけで開いた『ボックス』も、疑いを晴らす証拠となる。

 

「でも確信したのはつい先ほどね。それまでは、私を引き取った義理の父と兄が話しているところを偶然聞いてしまっただけで、何かの間違いであってほしいと願ってたこともあったわ」

 

「それにしては、清々しいような……」

それを確認するために、クルルシファーは遺跡調査に価値を見出したのだ。

これまでの歩んできた人生を、根底からひっくり返すような真相が暴かれたのだが、クルルシファーはどこかすっきりした表情をしている。

 

「どうやら私も、彼の適当さに感化されてしまったみたいだわ」

適当な人間コンテストを開催すれば、二位をぶっちぎりに引き離して優勝するようなシオンだ。

 

興味あることにしか関心がなく、興味がなければ無関心。

旧帝国の王族の悪名などには揺さぶられないからこそ、悪名高い旧帝国の王族ともシオンはつるんでこれた。

 

「そーそー。お前ら良家生まれはもっとはっちゃけて生きなきゃ損するぜ。それに自国を滅ぼした雑用王子や、ドリル教のお姫様、その他大勢の癖の強い女たちに埋もれないためには、遺跡の鍵っ子ぐらいの強烈な設定が丁度いいんだよ。これで多少俺に釣り合う女になったんじゃねーの」

 

べらべらと調子がいい事でまくしたてるシオンの姿勢は、ここにきてもぶれていなかった。

 

ユミル教国の遺跡で発見されたという特殊な素性を明かされはしたが、『人でなし』と付き合いがあったシオンとしては、つまらない人間よりもいいと幼少期の頃から思っている。

 

己も癖の強い人種であるのは自覚しているし、『人でなし』の仲間入りができる異端児の自覚もあるが、言い換えれば普通とは違う特別な存在でもある。

 

「じゃ、じゃあ黒き英雄を探していたのは?」

その『黒き英雄』本人であるルクスが問いかける。

 

「遺跡出身者である私の機竜適正値は、ユミル教国でも学内でも飛びぬけて高かったわ。一晩中装甲機竜を駆った『黒き英雄』も、もしかしたらと考えていたのだけど、期待外れだったようね」

「え、なんか地味に傷ついたんですけど……」

両肩を落としてルクスはへこんでしまった。

 

「そんなに落ち込まないでくださいよ。俺はルクスさんなんかに期待したことは一度もありませんから」

「それ慰めになってないからね……」

 

たまには親切に扱ってやろうとしたのだが、むしろ逆効果でルクスの心を更にえぐってしまったみたいだ。

隅っこで膝を抱えていじけてしまったルクスの事は放置しておき、シオンはクルルシファーに一瞥を投げた。

 

あの音声が聞き間違いでなければ、遺跡はクルルシファーを鍵と認識している。

これから先、調査の進行具合が早くなるような影響力があるであろうクルルシファーの正体は、まだ一部の人間にしか漏れていないはずだ。

 

 

「遺跡人だというのは証明されたけど、古文書でも漁って実の親探しでもする?」

エインフォルク家の当主が重要人物を押し付けてきた理由が気になりはしたが、まずはクルルシファーから意見を聞くべきだ。

 

真っ直ぐ目を合わせたクルルシファーは

「今は目先の勝利に拘りましょう。後のことはそれから、時間をかけて考えればいいわ」

力強く言い切る。

 

立ち止まっているようでは成長はしない。

どうでもいいと自暴自棄になっても成長はしない。

下を向いても成長はしない。

 

地下牢の吊り手枷に繋がれ、打ちひしがれていたあの時も、始まったのはクルルシファーのように前を向いてからだ。

 

「だったら、早くこんな所から抜け出さないとな」

≪ワイバーン≫を召喚して壁を削っていけば、どこかしらの通路に出るだろう。

その案でシオンが詠唱符を唱えようとした矢先、裏側から耳鳴りのようなうるさい音がした。

 

「おーい、元気にしてたかー!」

破られた壁の奥からは≪キメラティック・ワイバーン≫を纏うリーシャの笑顔が見え、その右腕につけられたドリルの回転が止むと、ぞろぞろと室内に色とりどりの装甲機竜が入り込む。

シャリスにティルファー、ノクトの三和音だ。

 

「よくここが分かったな」

「私の≪ドレイク≫で位置の感知は出来ましたので――御無事でなによりです」

掘り進むのに最適なドリルで迎えに来てくれたため、ちまちまと剣で削る手間が省けたので、本質から外れた使い方をしなくてすんだ。

 

「でも学園の男子を独り占めって、いいなークルルシファー」

本気で羨ましがっているティルファーに、興味深げなシャリスが耳を傾けた。

 

「おや、ティルファーも彼らに囲まれてみたかったのか?」

「そりゃもう、青春ど真ん中花の十代だからこそ、どんどん男を捕まえないとね」

「私も見習わなければならない意気込みだ」

その貪欲な姿勢を世の全ての独身女性にわけてやってほしい。

 

特に士官学園の学園長室でふんぞり返っているアイングラム家の長女に。

 

「お前たちと逸れていた内に、こっちで発掘作業は行っておいた。あとは遺跡から脱出すればいいだけだ」

誇らしげなリーシャを中心に、すらすらと任務を遂行してくれていたらしい。

流石は我らが王女様だ。

≪キメラティック・ワイバーン≫の肩にシオンは飛び乗のると、発破をかけるように手を叩いた。

 

「家に帰るまでが遺跡調査だってことを忘れるなよ。幻神獣に噛み殺されたくないなら気を引き締めて帰るんだぞ。ほら行けリーシャ姫、出発進行だ」

「人を馬のように使うな!」

とは言いつつも、無理矢理振り落とそうとはしないリーシャ。

 

可もなく不可もない、まずまずな評価で終わった此度の遺跡調査は、内部では幻神獣と鉢合うことがなく個人的には不服であったが、全員無事だったのでいいとしよう。

 

あの幻神獣と曲がり角で接触したらどうしよう!

そんなワクワク感が足りない遺跡調査であった。

 




古都での前日譚は外伝とし、分けて書こうと思っています。
肉体戦がメインとなりますので。

ラヴィニア…… cvは沢城さん。ラスボス。

シズマ……帝国の第二皇子らしき人物の四天王的な一角。サウンドドラマではラヴィニアとサヤカのポイズンクッキングで死にかける。

オウシン先生……何故か和風。屋敷は隙間風ビュービュー。流派は刀術。和服。皇帝専属の騎士だったような。

サヤカ……先生の娘。父と違って洋服を着ている。

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