シオンは左から入った。
地を這う影の如く体を沈め、左手へまわり込みながら踏み込むと、バルゼリッドへの接近を阻むように浮かび上がる光の靄。
「貴様の力で、この三重障壁が砕けるか!」
破れなかった三重の障壁を改めて前にしたシオンは、左手の剣を伸ばし食い込ませる。
斬る
これが結構勘違いしている人が多く、剣で叩いても障壁は切り裂けない。
刃で叩くと、斬るはまったくもって別物として認知されるべきだ。
刃で叩くとは当てる、押し込むに近い。
人体以外の対物破壊に重要視されていて、鎧や盾を切断するための技法であり、硬度の高い剣を用いれば威力は大となるが相応の力量が求められる。
そしてもう片方の斬るは、人体をより徹底して破壊するための技法のひとつとして位置付けられている。
無駄打ちをすることなく、一振りで敵の片腕を奪う、首を飛ばす等のために考案された、叩くを『剛』と表せば斬るは『柔』の技。
シオンはそれを障壁を突破する技に置き換えた。
そう、こんな感じに。
ほんの少し切るだけでいい。
継ぎ目を開き、そこに刀身を滑り込ませさえできれば、人も障壁も大したことはない。
それが三枚が重なったものだとしても、慎重に撫でるようにして刃を入れてしまえば、もうこっちのもん。
右手の剣も、刀身に添わせ滑り込ませ、あとは両の剣を外に払えば――切り開ける。
「一丁あがり」
自慢の障壁が突破され、歯ぎしりをするバルゼリッドだったが、迷いなく戦斧を振るった。
≪財禍の叡智≫で数秒先の未来を見た事による、間隙を突いた策だった。
払いきった剣を戻していれば間に合わないスピードで、正面より迫る≪アジ・ダハーカ≫の戦斧。
計算を覆したのは、シオンの退き足。
身体を十字に開けば、戦斧は≪ワイバーン≫を擦るか擦らないかの惜しいと思わず口にしたくなる空振りに終わる。
「なんだとっ!?」
顔が強張るほどの驚きに打たれたバルゼリッドの攻撃動作はいつも大味なので読みやすい。
また全体を視野に入れていれば、バルゼリッドの中心線の歪みにより予備動作も読めるので、未来など見えなくとも躱すのは楽勝だ。
体勢を維持したまま、装甲機竜の重さを真横に使って、触れんばかりの距離から押し飛ばすような後ろ回しの蹴り。
「――ぐッ!」
外壁に突っ込んだ≪アジ・ダハーカ≫からものすごい音がした。
あっけなく死んでくれていればいいが、装甲機竜を纏う機竜使いのしぶとさを舐めてはいかん。
くりぬかれた外壁の先から発射された光線を伏せることで通過させると、重心を下げたままのシオンは再度地を這う。
そして≪アジ・ダハーカ≫まで約十mlの地点で、跳んだ。
身体を反らして月を背負う幻想的な姿は、決闘という荒事とはかけ離れていた。
「落ちろ!」
バルゼリッドが叫びながら投擲したダガーは、≪ワイバーン≫の肩口に吸い込まれていくも、飛翔型の特性である飛行能力すら活用しない旋転により弾かれ重力に従い落下した。
勢いを殺さずに、お返しに片方の≪月華≫を投げつけ、左肩のキャノンを貫通させる。
足音も立てずに降り立ったシオンに、馬鹿の一つ覚えと苦言してやりたくなるような戦斧での横薙ぎを、前方への宙返りで≪アジ・ダハーカ≫の頭を越えて逃げる。
その間に残る右肩のキャノンへ一振り入れ、間髪入れずに中段の蹴りで刈る。
「動きが単調だけどもうバテた?」
「こ、の――」
息を荒げるバルゼリッドは振り向きざまの一閃でシオンを葬り去ろうと力を込めるが、瞬時にその選択を破棄しその場から飛びのいた。
頭上から剣っ先を下に向けて≪アジ・ダハーカ≫脳天から貫こうとするシオンが、≪財禍の叡智≫を通して見えたのだ。
あえて畳みかけることはせずに、拍子に合わせて体を揺り動かしているシオンは、投擲した≪月華≫を拾い上げると、両腕を交差させる。
これまでは準備運動。久しぶりに扱う二刀の振り心地を全身に馴染ませていただけ。
これからが本番。軛を外すことで体現される奥の手其の一。
蛇だと思っていたものは、実は巨大な龍の尻尾だった。
嘘か真かは神のみぞしる言い伝えで、特にこれといった意味はない。
道場の若い師範代理と、その道場で、貧民街で野垂れ死ぬ寸前のところで前任の師範に拾われ、下働きとして生きながらえていた男の話だ。
師範代理は男の腕を買っていた。
正式に入門さえすれば、道場でも三番手か四番手までよじ登って来れると思っていた。
しかし周囲の弟子たちは下働きが自分たちと同格の地位になることなど認められるはずがない。
なら実力を証明させて黙らせてやればいいと、師範代理はよかれと思い下働きの男のために戦技賽の推薦枠を確保した。
そこからは二つの説に分かれる。
師範代理も賽に出場し、あろうことか格下に見ていた下男に破れてしまった説。
下男が賽を制覇してしまい、しがない道場の三番四番手など比較するのも失礼な、国直轄の教導団の剣術指南役に推挙された説。
どちらの説でも、共通するのは下働きの男は実はかなり腕が立つ武人であったということだ。
北に山脈、南に平地、東西に流水と大道が通った、風水でいうところの龍穴に位置する丘で、来る日も来る日も套路を練り、地中から気を吸い上げていたことから、彼は『龍』を宿す者と一躍時の人となり、師範代理は龍を宿す男を蛇と本質を捉えそこなったことで痛い目を見た。
寡黙そうな人が駆けっこで一番をとった。
悪ガキが悔しさのあまり泣いた。
おばあちゃんが言う。
――それはあんたが蛇だと決めつけていたんだよ
醜女に旦那を寝取られた。
妻が悲しさのあまり泣いた。
おばあちゃんが言う。
――それはあんたが蛇だと決めつけていたんだよ
通りがかった店に入り、飯を食った。
不味すぎて吐いた。
おばあちゃんが言う。
――それはあんたが略
意味は特にないが、うまいこと出し抜かれたり、蹴落とされたり、裏切られたり、そんなような時に使う便利な言葉だ。
蛇だと思っていたものは、実は巨大な竜の尻尾だった。
そうと気付かずに、竜を飼い慣らすシオンを排除しようとしていたバルゼリッドは、敗北の心配など事前にするわけがなかった。
前年のトーナメントでは三位、その気になれば頂点に君臨することも可能な『王国の覇者』、対するはトーナメント参加者だが目立つ戦績は残せず、知人繋がりで下っ端として働いている、光の当たらない脇役。
これが公式試合で、もしもジャイアントキリングが起きれば翌朝はその話題で町中は持ちきりになる。
下馬評通りなら大した評判にもならないのに、ひっくり返れば騒ぎ立てる。
持つ者は勝って当然。
持たざる者は負けて当然。
だとするなら、シオンは持たざる者で、負けて当然と慰められる立場にいるとでも。
それを否定しているバルゼリッドがいた。
斬られたと認識できていないのなら、己の未熟さを笑うことができよう。
だが、バルゼリッドには何が何だか分からなかった。
距離を空けていたはずなのに、知らぬ間に眼前のシオンが、≪アジ・ダハーカ≫の分厚い装甲に刃を通していたのだ。
「ボケ面さらしてっと、あっさり逝くぜ」
耐久性の高い陸戦型にはちょっとやそっとの攻撃は通じない。
薄汚い笑みを恐怖の色に染めてやろうと、反撃に転じるも、拙速すぎるその一手はシオンの二度の足技に不安定な振りにしかならず、後方に跳び逃げられる。
シオンの本命はやはり剣だ。
徒手の技はあくまで駆け引きの道具、ここぞというタイミングでは長剣で攻めてくる。
そこまでは分析したとしても、あの間合いを詰め方は解せなかった。
片膝立ちの屈伸運動でリズムを取っているシオンを警戒していても、懐に入られてようやく、そこにいると気が付いた。
そして巻き戻されるようにリズムを踏み出すと、意識がそちらへ傾けられる。
一歩二歩、急ぐでもなく躊躇うでもない足取りで踏み込んでくるシオンを、バルゼリッドは注視する。
見失わず、飛びついてくるところに戦斧を合わせれば、軽量化されている≪ワイバーン≫ごとばらけさせてやろう。
左から、鈍器で殴られたような鈍い衝撃がバルゼリットの全身に走った。
地べたを回転しながら、なんとか視界の端で捉えたのは、双剣を振り終えたシオンだった。
また見えなかった。
≪財禍の叡智≫の発動タイミングさえ逃してしまうバルゼリッドには、どんな戦闘が繰り広げられているか、さっぱり理解することができない。
せいぜい理解出来たことは、世に溢れるほどいる機竜使いとは別種の、機竜使いらしからぬ戦法を好んでいるということ。
機動力に秀でている飛翔型でありながら、自由自在に空を駆け巡らず、地上戦で≪アジ・ダハーカ≫とやり合おうとしている。
そしてなにより、機竜使いをとしての戦法をシオンは捨てている。
攻撃を受けそうになれば、障壁にエネルギーを注いだり、基礎技術である≪機竜咆哮≫で弾き飛ばしたりするのではなく、躱しきるのは実際に装甲機竜を纏っていなければ致命傷を負うのを想定しているためだと思われる。
絶対の自信があった三重障壁もあっさりと破られてしまった。
剣術を見下していたことは確かだったが、認識は改めなければならない。
これまで出会った剣を操る機竜使いを凌駕している、装甲機竜に技術を組み込むことができる使い手だと。
しかし何より危険なのが独特な接近方法だ。
また不気味な拍打ちが繰り返されるのを、ぼけぇっと傍観していては相手の思うつぼと判断したバルゼリッドが、≪アジ・ダハーカ≫の脚部の車輪を高速回転させ、仕返しとばかりに間合いを詰める。
≪双頭の顎≫は二門とも破壊されてしまっては、頼りになる武装はこの戦斧のみ。
予備武装として他にも積んでいるが、あまり有効活用できそうにないなら、使い慣れている重量武器で、多少の被弾を覚悟して迎え撃つしかない。
接触できなければエネルギーも吸い取れず、自ずと機能停止に陥るのはこちらになる。
短期戦が唯一の望みだ。
いざという時のために控えさせているクロイツァー家の私兵と、金で雇った愛国心を持たぬ戦争屋の傭兵は頼るまでもないと言い聞かせているのは単なる強がりであった。
純粋に勝ちたいとつまらない意地を張っているだけで、わざわざ群れで袋にしなくても、この手で断罪できる、そんな驕りにも似たその感情がバルゼリッドを突き動かしていた。
この短時間で意識革命が起こったわけではないが、士官学校でもトーナメントでも直面しなかった、初めてぶち当たる聳え立つ高い壁に逃げては『王国の覇者』の名が廃る。
新王国で対等に渡り合えるのは、救世主として名の通った『黒き英雄』や、新王国No.1の呼び声高いラルグリス家の長女ぐらいだと思っていたところで、例外が現れた。
ここを乗り越えられないようでは、王座に座るのは夢のまた夢。
戦うべき時は今。
その一心で、打ち砕く。
武術において、新たに拳法や剣法を創り出すのは容易いことではない。
武芸が立ち、卓越した才知がなければ、枠を破って、新しい技を創り出すのは難しい。
数百年の歴史をもつ名門のほとんどが、技や型の一つ一つが、いずれも千回万回の研鑽を経たのちに編み出された物であり、多少変えるだけでも非常に困難である。
ましてや一から新たな剣術を編み出すのは、言うまでもない。
オウシンが手放した理由をシオンは知っていた。
でも出て行ったことに後悔はしていない。
第四路・剣舞
浅くは剣術であるが、深くは剣術ではない、シオンが生んだ型である。
神事の際に舞われる奉納舞の一種、優美さに重きを置いた剣の舞が原点になるが、神慮を慰めるという本質を、戦闘技術に塗り替えるのは、常人のなせる業の域を超えている。
シオンが天賦の才の持ち主である所以はそこにある。
頭でっかちに理論をこねくり回すだけでは創り上げることは叶わない、お互いを引き寄せるための天性の感覚。
そして実戦で働かせるために実戦で試し、試行錯誤を重ねた末に、基礎術理を舞の動作に落とし込んで、なんとか体系立った技術としてまとめあげることに成功した。
小手調べとして出したのは、バルゼリッドが反応しきれなかった接近法。
トリックは、リズムをズラすだけだ。
刻んでいる存在のリズムを無意識のうちに相手に刷り込ませ、その状態で自分はズラしたテンポで移動すれば、一瞬消えたと錯覚する。
破るのは意外と簡単で、力むことで自分のリズムを狂わせたりすればよく、そもそも一挙手一投足に気を配らなければ、ひっかかることはない。
バルゼリッドは見事にかかってくれたが、もう同じ手はくらわないように自ら突進してくる。
シオンが一歩前に出る。
その一歩を≪財禍の叡智≫で予知し狙っていたバルゼリッドは、戦斧の柄を短く持ち、小振りで膝関節を砕こうと試みる。
無駄口が減った。
外野のことも忘れ、己の覇気と戦場の鼓動がかみ合い始めたのを感じているのは、バルゼリッドもだろう。
勝つため、殺すため、ただそれだけのために、引き出せる力を全て注いでいる。
シオンが踊った。
重心が出した足に流れるよりも早く左の膝を抜くことで成立させた、半円を描く足運び。
左肩をロープで引っ張られたように崩れながらも、後ろに残された軸足はしっかりと固定されており、右の脚部が潰されるのは間一髪で免れた。
剣の真髄は圧倒的な後の先。
果たして双剣の剣尖の間合いにいるか
半ば背を向けた格好のまま首を捻ると、長引かせずここで沈める決意を固めたバルゼリッドによる、戦斧の切り返しの兆しを掴んだ。
持ち込まれたのは、装甲と装甲がぶつかりそうなほどの、機甲殻剣を伸ばせば届きそうな超近接戦。
横の回転を加え振り切った双剣は追いきれぬ速度で、上がりかけていた戦斧を叩き落し機先を制すると、バルゼリッドが絶望を飲み込むような顔つきへと変貌した。
敗北を呼び来む二振りの刃が、冷え冷えと光り輝き、闇に燃え立つような残像を走らせる。
手順の決まりきった套路を分解した動きは淀みを知らず、自由となって解き放たれていく。
雄剣はバルゼリッドの利き腕であろう右腕の装甲を吹き飛ばす。
技を繰り出す前の兆しが読みずらい、独特の剣法を操るシオンの攻撃の対応に遅れたバルゼリッドは、ようやく三重障壁を展開し、勢いを殺さず左斜め下に落とそうとする雄剣を対処するつもりだ。
障壁破りの前には紙切れ同然の三重障壁に、寄り添うように≪ファフニール≫の特殊武装≪竜鱗装盾≫が組み合わさった。
特殊武装すら奪う≪アジ・ダハーカ≫の神装。
いくらシオンとてさらに重ね掛けされたら、突破は初見では厳しい。
得物が身の内でなければならぬなら、機竜使いにとっての得物は装甲機竜とシオンは答える。
剣なら腕の延長として先端まで神経を通らせなければ、肉体の一部になりはしない。
装甲機竜を肉体の一部として動かせるかは、乗ってみれば誰だって分かる。
だけどせっかく乗るからには見出したかった。
密度の濃く深い集中力を発揮して僅か一分、いや数十秒という短い時間でもいいから、発揮される人間的な動きを、自分が意識化しながら行うことを目指し、『吞む』には至らない瀬戸際を維持し、たどり着いた極致。
この時だけでいいから同調させろ。
一回り二回りもデカい機械装甲を身につけようと、これが自分の身体である。
バルゼリッド、そして外から観戦中の二対の眼をもってしても事の経緯を正確に捉えることのできない前足の踏み下ろしにより発生した力を、足裏から腰に、腰から背中に。
握る≪月華≫の剣っ先を肘の延長と見立て、分散させずに伝える。
あの日、学園長質の机へ当てたように一点に集め、叩き込む胴払い。
爆音。
三重障壁、そして≪竜鱗装盾≫は、鐘突きの撞木で打たれたガラスのように破片が飛び散る。
その衝撃に右手の剣が十時の方向に飛んでいくも、雌剣は導かれるまま水平に振るわれると、≪アジ・ダハーカ≫の両脚を切断した。
「楽しかったよ、バルゼリッド」
視線を少し下げ、片腕しか残されていない≪アジ・ダハーカ≫を纏うバルゼリッドに別れの言葉を捧げる。
唇を噛みしめているのは、悲鳴をあげたいのを堪えているためにも見えてくるが、そうだとするならなかなか度胸のある男だ。
一思いに殺してやろうと、上段に雌剣を掲げる。
背後。
何者かの気配を感じ、即応したシオンは、右回りの斬撃を飛ばす。
「さっきから殺伐としすぎよ、あなたは。誰も首をははねるまでやれとは言ってないわ」
完全に蚊帳の外だったクルルシファーが≪凍息投射≫の銃口をこちらに向けていた。
お気に入りの武器である≪月華≫は、冷気を帯びたら尚更格好良かったなどと感想を抱きながら、文句を吐く。
「えー、だって命賭けた決闘でしょ」
「賭けているのは、この私と婚約する権利なのよ。あなた、それでも私の彼氏なのかしら?」
「明日できっかり一週――」
「黙りなさい。撃つわよ」
マジで撃つ5秒前のクルルシファーはどっちの味方だ。
これ以上怒らせ、報酬に影響があったら困るシオンが両手をあげ、降参の意を示す。
すると、
「その決闘、そこまでだ!」
空から降り注いだのは五機の≪ワイバーン≫と三機の≪ワイアーム≫と、その二機を混合させた≪キメラティック・ワイバーン≫。
纏っているのはもちろん、開発を手掛けたリーシャだ。
他にも学園方向から三和音と≪テュポーン≫を纏うフィルフィが、目をまわしている機竜使いや、装甲機竜を引きずって姿を現した。
「うんうん。私は学園で出会ったころから目をつけてたから驚きはしないかな。トーナメントランク3撃破おめでとう、しおりん!」
「Yes, 残るは2位と1位のみになりました。このまま一気に駆け上がりましょう」
「ついでに『無敗の最弱』にも土をつけておくのはどうかな、シオン君」
ぱふぱふぱふっと楽器を鳴らすティルファーとポーカフェイスが決まっているノクト、茶目っ気を出すシャリスは相変わらずのノリだ。
眠そうにしながらついて来たフィルフィも、シオンの勝利は嬉しいようで、やわらかい微笑みと親指を立てて祝ってくれていた。
それに応えつつ、ふざけている三和音はまとめて無視しておき、ダイナミックな登場の仕方をしたリーシャに顔を向ける。
「大勢で乗り込んできたけど、ご用件は?」
「この男に問い詰めなければならない件が山ほどある」
そう言い、リーシャはへたりこんだままのバルゼリッドの前に、≪ワイアーム≫を一機放り出す。
「そうか。じゃあ俺は帰るわ」
戦闘後の余韻ほど虚しくなる空気はないし、なにより久々に暴れてもうクタクタだ。
≪ワイバーン≫を解除したシオンは、機甲殻剣を鞘に納めて踵を返そうとする。
リーシャも今は勝手な振る舞いに注意することはせず、バルゼリッドを見おろしていると、やがてその口端に不気味な苦笑が浮かぶ。
「次は……、貴様を殺す」
シオンは月が佇む空を仰ぎ、諦観交じりの息をついた。
けっこう楽しかったのも本音だし、嫌われているから殺意振りまいて襲い掛かってくれるのはバルゼリッドぐらいか。
だからこれも本音だ。
「暇になったらまた遊んでやるよ」
バルゼリッド謎の心変り→少年漫画の拳と拳で殴り合って目覚めちゃうやつ。
ジャイアントキリング→天皇杯やFAカップのイメージ。
套路→型稽古。
次で二巻は終了。