その運命に、永遠はあるか   作:夏ばて

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これまで何をしていたかというと
今更ダクソ3DLC購入→フリーデにマジギレ→息抜きにマリア様に会いに行く→なぜか聖杯ダンジョン突入→地底人へ

ブラボは封印したのでもう大丈夫です。


三十話

セリスティア・ラルグリスは不器用である。

他からどう映っているかはいるかはさておき、セリスは己が不器用であることを認めていた。

 

男嫌いなんて噂が独り歩きしていることから、異性には興味がないと誤解されたりしているのも、その表れだと思う。

 

宣言してもよかった。

そんなこと、断じてない。

 

言い方はおかしいが、セリスは男性が好きである。

いや、まだ恋愛経験などないため、異性に惹かれると確定しているわけではないが、まあ同性を好んでいることは否定しておきたかった。

 

どう男の人と接していいのか悩んでいるうちに、学園の女生徒達にはそのような噂が拡散されてしまったが、騙しているみたいで気分は決して良くはない。

 

改善の兆しがあるとすれば、あの二人とはそれほど緊張もせずに普通に会話ができたことだ。

 

恩師の孫であるルクス・アーカディアは心優しい性格で、学園で人気が出るのも当然だ。

旧帝国の皇子でありながらも、女性を軽んじない心を持っている。

 

他方、もう片方の師の子息、シオン・ステアリードは賛否両論な意見が寄せられている。

 

『旧帝国からの刺客』

『口が悪く態度も横柄で好きになれそうもない』

『男尊女卑を体現している男』などなど。

 

主に上級生からは批判的なものが大部分を占めるものの、一部の下級生には。

 

『外見と内面のギャップ萌えが逆に良い』

『話してみたら印象が変わった』

『一緒に湖で水遊びしたときに、水着姿を褒めてもらった』

と、関りがある人の友好的な意見もちらほらと。

 

リーシャら学園の中心人物とは良好な関係を築けているため、根っからの性悪ということではなく、自分と同じく噂が独り歩きしてしまっただけだろう。

 

確かに王都で遭遇した際に色々あって、第一印象はこの上なく最悪だったが、話してみると意外と普通だ。

 

職人や商人などが暮らす、その地形上から下町や下王都などと呼ばれている城下地区で、シオンについての聞き込み調査を行ったところ、かなり住民からの支持を集めているようだった。

 

誰も彼もが「世話になっている」や「お得意様」と笑顔で返し、老若男女を惹きつける魅力がシオンにはあるのだ。

 

だから単に誤解されやすいだけで、一たび仲良くなれば好感が持ててしまう男の子なのだ。

 

例の騒動で共に居合わせていた友人たちには、恩師の顔に泥を塗る可能性も否定できなかったので、王都でシオンとトラブルがあったことを口外しないでほしいと伝えておいた。

 

言いつけは守ってくれたみたいだったが、別件でシオンが『いつかセリスに素足を舐めさせる』宣言をしたことで反感を買ってしまっているため、努力は水の泡となった。

 

そんなシオンだったが、オウシンと仲違いしている話題を出すと、大急ぎでルクスを引き連れて逃げてしまった。

 

もっとあの二人と話してみたかった。

 

どちらも中性的な容姿をしているため、そこまで緊張しないでいられる。

この機会に自分も変わっていこうと、新たな気持ちが浮上してきたけれど、押し殺さなければならない。

 

「セリス姉様?」

「――サニアですか」

反射的に声のほうへ向くと、同学年でありながらお姉様と慕ってくれるサニア・レニストがいつの間にか扉の前に立っていた。

 

いつもは学園の施療師に頼んでいるが、外出中なのか見当たらなかったため、マッサージを得意としている知人を呼びに行ったサニアがようやく戻ってきた。

 

彼女も旧帝国の制度の被害者であり、父親や兄弟からひどい仕打ちを受けてきた。

またサニアだけではなく、学園にはまだ男性への苦手意識を克服できていない生徒たちが多く在籍している。

 

そんな彼女たちを守る使命が、セリスにはある。

 

しかし今回の一件は、流石にやりすぎだ。

 

「サニア。彼らを陥れないと誓ってください」

日頃から護衛のように付きまとうサニアにも、男嫌いと誤解され続けている。

シオンとルクスがこの部屋に迷い込んだのも、偶然だったのではなく、敵対させ追い払おうとサニアが誘導してきたのだと、セリスは確信していた。

 

「あなたの境遇は理解しているつもりですが、そのやり方は許可できません。今晩はしっかり反省するように」

恥ずかしい格好を晒してしまったが、男と一つ屋根の下に暮らしたくないサニアの我慢と比べてしまえばどうということはない。

 

「申し訳ありません、セリス姉様」

「では行きますよ。明日から忙しくなりそうです」

腰を上げたセリスが、へこたれるサニアの頭を軽く撫でる。

 

神聖な学び舎に新たな風を送り込むつもりは毛頭ない。

不要な存在は取り除くために、明日からまた戦い続ける。

 

 

 

 

 

王都ロードガリア。

 

新王国の中心の牢獄に、三つの影が侵入していた。

この階層は最も厳しい罪を犯した咎人が収容されるエリア。

先日この殺風景な空間とは不釣り合いな男へ要件がある黒ローブ姿の女が、先の曲がり角を曲がったところで、待機を命じられた残りの二人の足が止まる。

外からの光が届かない構造となっている牢獄。

唯一の明かりである松明の火の粉の被害を受けない位置で、石壁に背を預けていたフギル・アーカディアは、両目を閉じたまま身動きひとつしない。

 

「同行を求めた目的を伺ってもよろしいでしょうか?」

フギルの回想を遮った透き通る声の主は、黒ローブの商人の付き人として、いつもは傍らに佇んでいるラヴィニアだ。

彼女は感情が潜んでいない、作ったような笑みを張り付かせている。

 

二人組での行動が目立つラヴィニア達だったが、今回は珍しくフギルも行動を共にしている。

わざわざ直訴してまで同行したことを、ラヴィニアは不可解に感じたようだ。

 

薄暗い通路の奥で、四大貴族のバルゼリッド・クロイツァーが獄中生活を送っている。

裏で様々な組織に手をまわし、それが発覚しこの牢獄に収容されたためだ。

 

「自我を備え持つ人と対峙して、ようやく満足感を得ることができると、奴は常々口にしていた」

獣では欲を満たせず、人なら良い。

嘘を嘘で塗り固めたような性格をしているシオンではあるが、こればかりは嘘偽りのない本音なのだと、フギルの直感が告げていた。

 

初決闘の武勇伝を、蘇った興奮を抑えきれず、瞳孔を開いたまま語っていたのだから、あの高ぶった状態で嘘を吐けるとは到底思えない。

 

達観している一面ばかりが印象に残っていても、シオンは年相応の少年だった。

当人が誇らしげだったのも無理はないだろう。

まだ十にも満たない当時の年齢で、大の大人と斬り合った経験があるのだ。

暴力にまみれた、治安もくそもない貧民街出身ならまだしも、社会的特権を認められた身分で、幼少期に果し合いの経験があるのは、世界中見渡してもシオンくらいなものであろう。

 

本格的な手合わせをしたことがないフギルにとっては、囚われているバルゼリッドが羨ましく思えているのも事実。

汎用機竜で挑んだのが丁度よいハンデとなり、生と死の狭間での決闘にシオンも心より楽しんでいたことだろう。

 

一方で神装機竜≪アジ・ダハーカ≫を駆使しても、バルゼリッドは超えるができなかった。

神装機竜を譲ってまで準備をしたのにと、裏で操っていた彼女は酷く激昂していたが、はなからバルゼリッドなんぞに期待するのが間違っていたのだ。

 

 

想起されるのは、地下施設のとある拷問部屋。

壁から伸びた鎖が手かせ足かせとなり自由を奪われ、剥き出しになった上半身は乾燥した血液で赤黒く塗られていた。

鞭打ちを受けてから数時間が経過したと思しき無残な姿になり果てたシオンの姿。

 

翡翠の双眸は死んではいなかった。

それどころか、死にかけているのにも関わらず、飢えた野生の獣のように噛みついてくる圧力が、シオンにはあった。

 

「一か零か」

そのように返したことを、フギルははっきりと覚えている。

 

「じゃあさ」と彼は消え入りそうでありながらも、重みのある口調で言った。

面を上げると黒髪がわかれ、隠れていた素顔が明らかになった。

シオンは希望や絶望、喜びや悲しみ、様々な感情が入り混じった表情をしていた。

 

自らの意志であのような取引を持ち掛けてきた、十にも満たない子供は、人の皮を被った化け物なのだろう。

作られた化け物なんかではなく、化け物の親から産まれた化け物の子。

そんな化け物に、人が叶う道理なんてあるはずないのだ。

 

「ぐああああああぁぁ!!!」

悶え苦しむ悲鳴が、フギルを現実に引き戻した。

 

交わしたという再戦の約束は、叶わぬ夢となり砕けた。

 

 

 

 

 

 

これまでセリスへぼっちぼっちと連呼していたシオンだったが、彼は人の事を言えない。

学園の屋上でぼっち飯をかましていたからだ。

 

ルクスやリーシャなどから昼食のお誘いは受けていたものの、アルフィンだけを送り出し孤独に昼休みを過ごしていた。

昼ぐらいはゆっくりしたい。

そのため人気のない屋上で時間を潰すのが日課となっていたシオンだったが、最近は同伴者が寄り添うようになってきたため、ぼっち飯は卒業した。

 

「二日酔いでダウンとか勘弁してくれよ」

手すりに寄りかかって座るシオン。

そのシオンに寄りかかるようにしてクルルシファーが背を預けている。

 

セリスとの交渉に挑もうとも思ったが、話してみた感じだと急いで説得するような相手ではないため、昨夜は撤退した。

 

十日ほどかけてゆっくり口説いていくことを決意し、工房に忘れた機甲殻剣を回収しに戻ると、優等生で通っているクルルシファーが酔いつぶれていたことに目を疑った。

 

千鳥足でこちらに迫ってきたクルルシファーを介抱するために、アルフィンに付き合わされたものの、一晩ではアルコールが完全に抜けず、こうして世話をしている。

 

倒れるぐらいきついなら休めばよかったのに、身体に鞭打ってクラスに這って出て、授業も寝ずに受けていた。

教室を通りかかった時にその頑張りを目にしたシオンは、ご褒美として甘やかしてあげている。

 

「もう大丈夫、大分治まってきたわ」

頭痛が酷いと訴えてきたので、申し訳程度に症状を和らげようと額に当てていた右手を下げ、クルルシファーの顔を覗き込むと、心なしか元気になっているように感じた。

 

「息抜きも大切だけど羽目を外しすぎるのはいかんよ」

まるで他人事のようにシオンは振舞っていても、クルルシファーが荒れてしまった原因は把握していた。

 

王都の町娘を片っ端から惑わしたことを、クルルシファーは快く思わなかったと、ゴミを見るような目つきをしていたアイリとノクトから報告が入っている。

 

男女の性交には、日に日に溜まっていく厄を落とす効力があると言い伝えられてきた古都で育ったのだから、文化の違いと言い訳を並べておくこともできる。

習わしに則って行動していたに過ぎないので、辛辣な言葉を投げかけられたとしても、悔い改めることはない。

 

「というか飲酒は信仰上アリなんか?」

ユミル教国の宗教事情が頭によぎったシオンが問いかける。

 

酒類は好ましくなく禁忌としている宗教も少なくはないとしても、敬虔な信者のクルルシファーがタブーを破ることはないと思われる。

まあ飲酒戒なんて戒律があっても、構わずにがぶ飲みする連中もいたりするが、あいつらとクルルシファーを同一視するのは失礼だろう。

 

「禁止はされていないけれど、お酒に依存するのは神への冒涜とされているユミルでは、なるべく自制するようにしているわ」

 

「自制した結果、昨日はあんなに乱れたのか」

 

「昨夜のあれは私の演技。あなたの優しさを受けるために、悪酔いした可憐な乙女を演じていただけよ」

 

じゃあこのぐだっとしているのも演技だとするならば、クルルシファーは相当な役者だ。

変な意地を張るクルルシファーによれば、神の雫であるワインだけは肯定されていて、いくら飲んでも浴びても許されるのだとか。

 

「あなたは見かけによらずお酒は敬遠しているタイプよね」

「ん、言ったっけ?」

酒場には良く立ち入ったりはするが、悪酔いするほど飲みはしないように心掛けているのは事実だが、それをクルルシファーへ伝えた記憶はなかった。

 

どこか勝ち誇ったような笑みを見せたクルルシファーが、服の上からシオンの左肩をそっと撫でる。

 

「いくら探りを入れても自分を包み隠すあなたが、お酒に飲まれてボロを出すことはしないと読んだだけよ」

旧帝国の紋章が刻まれているのは、すでにクルルシファーにはバレてしまっている。

焼き印を押された経緯や、他にもオウシン邸に転がり込む以前の事などを、クルルシファーは遠回しに尋ねてきたが、毎回それっぽいことで躱し続けてきた。

 

さらけ出す必要がないだけで、隠しているつもりはないのだが、クルルシファーの推理は当たっていた。

王都でも頻繁に酒場には通いはしてたが、あらぬことを口走らないように、酒はほどほどにしている。

 

「俺ってそんなに秘密を抱えて生きているように見える?」

「ええ」

短くクルルシファーは断言した。

 

遺跡『箱庭』で一晩過ごした際も、就寝前にルクスから秘密主義者と呼ばれたが、全くそんなことはないと個人的には思う。

ぺらぺらと自分語りをするのは性に合わないが、遺跡の鍵っ子である事実を暴露したクルルシファーへの見返りとして、特別に遠い記憶を蘇らせる。

 

「昔さ、仲が良かった友達がいたんだよね」

 

たった一人の友人、唯一無二の親友。

 

道場の師範や一番弟子、近所の老舗菓子屋の看板娘に鐘つきの寺男、そして人間性を失った少女といった豪華な知人はいたものの、友として接していたのは彼だけだ。

 

「昔? まさか――」

切り出した途端、いきなりクルルシファーが口を挟んだ。

出だしから不穏な空気を察したようだ。

 

「うん。多分もう会えないだろうね」

古都は滅んだと聞かされた。

 

具体的にどんな流れで滅亡したのか、恐らく説明は受けただろうが、きっと無意識のうちに聴覚を遮断していたので詳しくは知らない。

 

編纂された戦記でも紐解いてみれば、古都国の情報を手に入れることは容易に出来るのに、進んでそうしないのは、情けないことに可能性に縋っているせいだ。

 

もしかしたら生きているかもしれない。

そんな期待を抱きたいがために、過去と向き合おうとせずに逃げている。

 

でも理解はしている。

再開の日など訪れないことは。

 

あまりにもあっけらかんとしているシオンが心配になったのか、クルルシファーが正面から抱き着くような姿勢をとった。

 

「出会いがあれば別れもあるさ。いちいち嘆いてちゃ、心が幾つあっても足んねえよ」

 

「そうやって気持ちを隠して気丈に振舞うのが、あなたの悪い癖よ。素直に生きることは、恥ずべき行いではないわ」

 

「辛気臭いのは嫌いなんだよ。悲しみを笑い飛ばせるぐらいの神経がないと、この先不幸になる一方だぜ」

 

何事も前向きに考えることこそが、幸せへの近道となるのだ。

 

どんなに苦しく辛い目にあっても、膝を抱えて俯く時間は出来る限り減らした方が良いというのが個人的な信条で、少なくとも自分はそうして修羅場を潜り抜けてきた。

 

とはいえ、暗澹たるものが胸の中で広がることが無いといえば嘘になるが、そんな気持ちを悟られてはいけないと、クルルシファーの首に手をまわし、優しく引き寄せた。

 

と、一息ついたその時だった。

 

「大変大変大変!変態じゃないよ大変なんだよ!」

階段を駆け上がる大きな足音。

 

後ろで纏められた髪の毛を揺らすティルファーが、転がり込むようにして現れた。

 

緊急事態が発生しているのかと思える慌てっぷりのティルファーだったが、シオンとクルルシファーを確認するや否や。

「はいそこ、イチャイチャタイムは終了!二人が揃ってると絵になるし、目の保養にもなるけど、節度は弁えてね!」

人差し指を突き立てた。

 

「今日は一段と喧しいな。猿のがよっぽど落ち着いてんぞ」

「ひどっ、わたしとクルルシファーとで対応に差がありすぎて泣きそう!」

学園の元気印はいつでもどこでもテンションが高い。

 

膝をついて悔しがるティルファーを尻目に、シオンはクルルシファーの真っ直ぐな青い髪に手をやり、指で挟むようにして梳いて遊ぶのだった。

人目をはばからずにスキンシップを求めるのはもはや日常茶飯事。

慣れとは恐ろしいもので、何事もないかのような顔でクルルシファーが用件を聞きだす。

 

「ところで、大慌てで上って来たわけを教えてもらえるかしら?」

「えーと、一応良いニュースもあるんだけど悪いニュースもあってね。どっちから聞きたい?」

好きな料理はあとに残す主義のシオンは。

 

「悪いニュースから」

「あのね、セリス先輩がルクっちを退校させようと学園長室に乗り込んでて、しおりんも巻き添えに解雇されそうになってんだよ!」

身振り手振りを交えながら早口でそう説明するティルファーから、焦りがひしひしと伝わってくる。

 

昨日は邪険なムードにはならなかったのに、一晩寝て気が変わったのか?

 

「ちっ、これだからせっかちな女は嫌いなんだよ」

苛立たし気に舌を打つシオンが重い腰を上げた。

事件は屋上で起きているのではなく、学園長室で起きているのだから、当事者の自分は足を運ばねばならない。

 

「私も付き添うわ」

セリスの好きにはさせない。

そのような想いを瞳に宿したクルルシファーも続こうとしたが、シオンは片手で制する。

 

「俺の卓越した話術で言い包めてきてやっから、お前は休んでろクルルシファー」

リーシャみたいな睡眠学習ができず、午後の授業も気合いで乗り切るんだから、出来る限りの休息はとっておいた方がいい。

留学生は大変だ。

 

「しおりん、ふぁいと!」

「う~い。学園最強を捻り潰してくるぜ」

ティルファーからの声援を受けながら、目的地へと歩みを進める。

 

 

階段を下ったシオンは、人込みであふれる学園長室前の廊下で呆然と立ち尽くしていた。

あまりの野次馬が多さに、もっと有意義に昼休憩を使えと唱えていると、こちらに気が付いたシャリスとノクトが小走りで駆け寄ってきた。

 

「状況は既に伝わっていますよね。セリス先輩がシオン達を追い払おうと学園長室に殴り込みを仕掛け、先ほどルクスさんとリーシャ様も乗り込み、中では壮絶な舌戦が来る広げられているところです」

だからこんなにも人で溢れかえっているのかと、呑気なシオンは一人で納得をする。

 

「別に俺は生徒じゃないから、けっこー楽観視してんだけどさ。ルクスさんは不味い感じなの?」

「ところが、シオン君もうかうかとしていられなくなっているんだよ」

「へ?」

貴族子女のために設立された王立士官学園に、生徒として編入を果たした立場のルクスとは異なり、シオンはただの一般職員だ。

 

他にも男性の職員はいるし、そこまで深刻な問題ではないと考えていたシオンであったが、虚を突かれたように口を半開きにして声を漏らした。

 

「君に近い我々には内密に事を運ばれ、署名活動がされていたみたいなんだ。最悪、解職という事態もあり得る」

水面下でそんな働きかけがなされていたなんて思いよらなかった。

発起人は例のサニア・レニストだという。

 

「煽っているのはサニアだけのようだし、君がここを離れることが決定したわけでもない」

 

「ですが彼女の背後にはセリス先輩がいます。反シオン派の色に染まるのも、時間の問題でしょう」

弱肉強食の社会で生き抜くため便利な、長い物には巻かれろなんて言葉もあるが、あのポンコツにそんな凄まじい影響力があるというのか。

子猫に話しかけるような奴なのに。

 

裏を返せばそのセリスさえ篭絡すれば、この学園の子女たちは味方になったも同然なので、分かりやすいといえば分かりやすい。

 

「音楽家は頭が固いのが多いからな。上手くいくのやら」

そうとだけ呟いたシオンは歩みを再開した。

廊下は人の波でごった返しており、目的の学園長室にたどり着くだけでも一苦労だろう。

 

始まりは群れの最後尾からだった。

シオンの存在が目についた一人が、ハっと顔を強張らせ、逃げるようにして壁に背をつけた。

揺らぎは段々と広がっていき、それまで声を押さえて議論していた少女たちが、次から次へ端へ寄り、自然と一本の道が出来上がると。

 

「どけどけー、千両役者のお通りだー」

 

緩やかに床を踏みならし、棒読みで台詞を吐いたシオンがど真ん中を悠々と行進するのだった。

 

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