その運命に、永遠はあるか   作:夏ばて

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庶民サンプルってアニメありましたよね。
カオス要素あって面白かった記憶があります。



三十一話

「せっかちな女は男から嫌われるぞセリスティア。レリィみてえに婚期逃したくないなら、大人しくこの俺を受け入れることをお勧めする」

 

中央の机を挟んで左側には、背筋をまっすぐ伸ばした理想の姿勢で座っているセリスが。

 

対面の右側には、机に身を乗り出そうかという勢いのリーシャと、それを宥めるルクスが。

 

奥の学園長席には、引き合いに出されたことで鬼の角を生やしかけているレリィが。

 

突然の乱入者に、学園長室にいた面々が、一斉にこちらを見た。

 

「いくら俺が神々しいほどの美少年だからって、そんなに見つめんなよ。照れちまうぜ」

おどけるようにその場で一回転をして、ポーズを決めるシオンに対して、セリスとリーシャがとった選択は。

 

「だから特例としてルクスの在学を許可すればいいだけだろ。来るべき共学化に向けてのサンプルとして、これ以上の逸材はいない」

 

「ですから、その話は既に決着がつきました。共学化の計画があるのは事実ですが、まだ創設して七年は経っていません。生徒の御両親が寮生活に同意しているのも、学園が男子禁制だからです。大体、そのような実験的な試みは在学中にはされないと、あなたも入学前に説明を受けたはずです」

 

「だ・か・ら、そこを特例として認めろと言っているんだ!」

 

無視して論争を続行している。

 

極めて冷静なセリスとは正反対に、感情的になって詰め寄るリーシャも、数か月前までは男への興味は薄かっただろうに。

そこまで愛しいルクスと離れたくないのか。

 

「シオン、ちょっと」

リーシャの横にいるルクスが、そう手招きをしてきた。

 

「リーズシャルテの授業中の態度が悪いと、ある教諭から報告が入りました。主要学科の成績はクルルシファーと比べても見劣りしませんが、それ以外で大きな差を付けられていますね。今後、改善の兆しがみられないようなら、工房への立ち入りを禁止させることで手を打っておきましたので、よろしくお願いします」

 

「それとこれとはまた別の問題だろ!ぐぬぬっ、こんな卑怯なやり口を使うとは、四大貴族も落ちたものだな!」

 

論争というよりかは、もはやただの口喧嘩となりつつある美少女二人の邪魔にならぬよう、ソファーの裏側にまわり込む。

 

小声でルクスからこうなった経緯を聞かされたところ、項垂れたくなったが、反対派であるセリスの主張の方が筋が通っていた。

 

学園を創設して七年間は女子生徒のみを入学させると約束をしていたようで、もうお手上げ。

正攻法で言い包めるのは困難となった。

 

「シオンのほうも、結構反感買っているみたいだね」

「口は災いの元ってやつだな。マジチョベリバっすわ」

「なにそれ……」

 

巷で流行っている若者言葉を引用してみたのだが、流行りに乗り遅れているルクスには伝わらなかったようだが、神妙そうに。

 

「それにしても、変だよね」

言いたいことは分かる。

個室で対話した時との差に戸惑いを覚えるくらい、今のセリスの意志は固かった。

 

ポンコツなセリスと厳格なセリス、どちらが本当の彼女かを探っても、光明が差すわけではないので一旦保留にしておこう。

 

「ルクスさんがセリスティアの胸じろじろ眺めて、『変』だって。詰め物してんじゃないのか疑ってるよ」

場を和ませるためのジョークを一発ぶち込み、セリスにつっかかってるリーシャを引き剥がす。

 

「ま、またお前かエロルクス!しかもよりによってセリスにだと。もう味方してやらないぞ!」

 

「誤解ですって。変ってそういう意味じゃなくて――ちょっとシオン、誤報流さないでよ!」

 

「にゃはは、王族コンビはそっちでイチャついてな」

今度はルクスに掴みかかるようにして追及するリーシャを尻目に、そろそろ立っているのもと思ったシオンが、机にどっしりと腰を落とす。

 

正面のセリスはキツイ目つきで睨みを利かせる。

 

対するシオンはいつもの人を見下すような薄ら笑い。

不意にその指先が、セリスの顎を掴んだ。

 

「あなたの戯言に付き合ってはいられません」

瞬間、動揺の片鱗すらなく叩き落される。

 

「こりゃ礼儀のなってない嬢ちゃんだ。碌な躾もできねえお師匠さんの御尊顔を拝んでみたくなっちまったよ」

 

「その言葉、そのままそっくりあなたにお返しします。荷物を纏めて、一刻も早く去ってください」

 

「勝手に決めんなや。俺は他人に指図されるのが大っ嫌いなんだよ。特に生まれが良いだけで地位を掴んだ、お前みたいな凡愚にされちゃ死にたくなる」

 

挑発すれば多少は態度が崩れるとみていたが、煽り耐性が高いのなんの。

こりゃ駄目だ。

 

そもそもルクスの件では、レリィとリーシャが約束を破ったことが今回の騒動の発端となっており、どう足掻いても言い負かされるのがオチだ。

 

で、我が身に降りかかっている災難は、完全に自業自得。

 

セリスが出て行けと命じれば生徒もそれに従い、娘に泣きつかれた出資者からの圧力をかけられ、どこぞの誰かさんのように楽園から追放されてしまう。

まだリンゴに手を付けてないというのに。

 

「レリィ」

出しゃばって後戻りできなくなるより早く後任へバトンタッチする。

 

「あら、売れ残れたおばさんに出来ることがあるのかしら?」

自虐ネタに走るレリィは笑っているが笑っていない。

 

「確かにお前は無駄に重ねた年齢が欠点だが、女王に信頼を寄せられるほど優秀な人材だ。ごり押しでルクスさんを編入させて、強引に生徒に納得してもらおうとは、最初から考えてないだろ」

 

対抗策は必ず用意しているはずだ。

 

人差し指をクイクイっと動かすジェスチャーで、シオンが策を提示させようとすると、諦めたような顔つきのレリィが指を組み、こう提案してきた。

 

「投票で決着をつけましょうか」

夢中でルクスの胸を拳で叩いていたリーシャも、その手を止める。

 

「なるほど、その手があったか」

 

「せっかく男の子と触れ合う機会を設けて上げたのに、発展も無しに追い出すのは勿体なくはないかしら。だからそこにいるルクス君、ついでにシオン君とあなた達三年生も、もっと関われば考えは変わるかもしれないでしょう。判断するのはそれからでも遅くはないわ」

 

もともと王都での合同演習に参加するため留守にしていたセリスら三年が帰ってきてから、一か月後にルクス編入の賛否を決める投票を実施しようとしていたらしい。

 

生徒がルクスを気に入ってくれさえすれば、出資者からのクレームも愛する我が子が泣きつくことで防止できるし、ずる賢い案を練っていたものだとシオンは感心する。

 

「必要ありません」

「セリスさんも頑固ね……」

短く突っぱねるセリスに、苦笑しながらレリィは頭を掻いた。

 

「あり得ないくらい融通の利かない女だな。そうだ、こうしよう。三年で公式戦無敗のお前と、同じく二年で無敗のわたしが模擬戦をする。勝った方の要求をのむというルールで」

 

「それも必要ありません。第一、リーズシャルテでは私の相手にはなりません。研鑽を積んでから出直してください」

 

「むっかついたぁ!さっさと装衣に着替えてこい!お前なんか昼食後の軽い運動のついでに倒してやる!」

 

「リーシャ様っ!こんな所で暴れないでください!」

 

堪忍袋の緒がとうとう切れたリーシャを羽交い絞めにし、何とかルクスが被害を最小限に抑える。

 

もうそろそろ昼休憩も終わるというのに、またリーシャは授業に出席せず出席点を落とす気だったのか。

 

正面のセリスは優雅なティータイムをとっているし、まさにカオスな空間だ。

 

その時だった。

偶然シオンの視界に入り込んだのは、扉に張られていた一枚の宣伝用の張り紙。

 

「ねえ、あれって俺が参加出来たりする?」

首だけを捻ってレリィへ確認をとったのは、校内選抜戦についてだ。

 

「士官候補生による大会だから、流石にあなたが全竜戦に出るのは無理があるわよ」

 

「ちゃうちゃう。そっちじゃなくて校内戦。スペシャルゲストとかで参加できんの?」

 

遺跡調査権をかけた格国の争いが全竜戦。

士官候補生が出場する枠もあり、その出場メンバーに選ばれようと、学園の猛者が校内選抜戦で競い合うのだ。

 

「ええ、まあ勝ち星が多ければ代表になれるわけでもないから、参加自体は可能よ」

遺跡を調査する権利がかかっているのだから、そこら辺は学園側も組み合わせで左右されないように、ちゃんとした選考基準を定めている。

レリィの返答に安堵したシオンは肩をすくめて言った。

 

「このままじゃ平行線をたどるだけで埒があかねえ」

そしてとろとろと扉まで歩み寄り、張り紙を引き剥がすと、それをセリスの顔のぶつけるかという勢いで突き出した。

 

「音楽家が音で語るように、機竜使いは力で語れ」

 

校内選抜戦を持ち出し、自分が要求せんとしていることはセリスに伝わっているはずだ。

挑戦状を受け取るのも、破り捨てるのもセリスの自由。

 

圧倒的な存在感を放つセリスとの睨み合いが硬直していると、咳ばらいを挟んだレリィが「開けていいわよ」と、恐らく扉の向こう側で聞き耳を立てている少女たちに声をかけた。

 

静かな音とともに扉がゆっくり開くと、大勢の生徒が気まずそうに立ちつくしている。

 

「ここはシオン君の言い分に従い、機竜使いは力で語ってみましょう。三日後から始まる校内戦で男子を支持するかしないかの二組にわけて、より良い成績を叩きだした要求をのむっていうのはどうかしら?もちろん、どっちの勢力に味方するかはあなたたち自身が決めていいわよ」

 

「学園長、いい――」

――加減に、と繋げたかったであろうセリスだったが、そこから先は詰まってしまった。

シオンが張り紙をセリスの顔に押し付けたことによって。

 

 

「あなたはどっちの味方に付く?」

「とりあえずお試し期間は欲しいかな。逃がしてから後悔するのはもったいないもん」

 

 

全生徒を巻き込んだ催しにしてしまえば、いくら発言力のあるセリスであろうとどうすることもできない。

あのタイミングで一喝が飛んでいれば女生徒たちも押し黙っていただろうが、もう事態が混乱して収拾がつかなくなっている。

 

「反対派の要望はルクスの退校とシオンの解職だったな。こっちの要望は一か月間の猶予を与え、最終的にvoteでこいつらの処遇を決めること。異論はないな!」

セリスの介入する隙を作るまいと、早口でリーシャがまとめると、騒ぎは一段と大きくなった。

 

張り紙を両手で握りしめ、小刻みに震えているセリスのことなど、シオンを除いて誰一人注目していなかった。

 

「流れは渡しませんよ、せーんぱい」

「………」

涙目になって負の念を送ってくるセリスに悪いとは思いながらも、シオンは煽るように最後の一言を付け足した。

 




ルクっち『黒き英雄』
リーシャ『朱の戦姫』

シオンの一名は『誘惑の蛇』で決まりですね。
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