スルー推奨の設定的な何か
・ゼロと薄紅は同一人物ではなく、親と子の関係と解釈
・ワンちゃん達はゼロのコピーなので、多世界から観察すると『一人』として数えられると解釈
・音ゲーでミハイルがウタで相殺できたのは、フォウを食べてウタのチカラを得たから+ウタのチカラに呑み込まれなかったのは竜族がやべえから解釈
・ブラッドゲージの存在から、ウタのチカラは血中に含まれると解釈→フォウを食べたミハイルは、ウタウタイの血が混ざっている
・人間だけどシオンが体内に竜のアレをぶっこまれても平気なのは、つまりそういうこと
翌日の教室では、黒板にでかでかと書かれた昨日の選抜戦の結果に、一同揃って俯いていた。
朝っぱらから湿った空気感に嫌気がさしながらも、教員室で忙しそうにしていたしていた担任の代理で、朝礼を取り仕切るシオンが鼓舞するように手を叩くと、やはり揃って面を上げた。
「入学前から多少齧ってるやつもいたから、ラッキーパンチぐらいはあってもお天道様は許してくれそうだったが、そう上手くはいかないな」
残念ながら、このクラスからの出場者の成績は悲惨なことに全敗。
昨朝の盛り上がりが嘘のように、ネガティブな方へどんどん引きずり込まれている教室のムードは最悪だった。
「その代わり、二年が頑張ってくれてひっくり返せる点差を保ってくれているので一安心だな。今日も彼女たちに期待しよう」
「……他力本願ですか。情けないですね」
教室の中央付近に座るアイリがぼそりと漏らす。
「そこの首輪付き。聞こえているぞ」
「他力本願なんて情けないですね!」
「なんだ、急に怒鳴って。反抗期の訪れか?生徒指導室に連れ込んでエロいことす――る胸もねえか。悪い」
「――っ!」
文官も含めて定期開催されるマラソン大会では断トツの最下位。
機甲殻剣もまともに振るえぬひ弱なアイリが投擲したペンが、一直線に飛んでくる。
運動音痴のアイリがこんな見事な一打を放つなんて、人の感情とは摩訶不思議だ。
なんて感想を抱くシオンは、咄嗟に持ってきていた木剣へ手を伸ばしかけるが、間に合わないことを察すると素手で鷲掴んで難を逃れる。
シオンは手のひらでペンがくるりとまわし、その先端を指先でつまんでひらひらと振るうような仕草から手首を軽く捻る。
投げるというほどの動作でもないが―――ズカッ!
指から離れた瞬間、ペンは恐ろしい勢いで正面に飛び出し、アイリの机に突き刺さった。
「「「お、お~」」」
オンとアイリの高度なコミュニケーションに歓声が上がり、まばらな拍手まで沸き起こる。
片手をあげて歓声にこたえ、飛び道具の扱いも錆びついていないことにも満足していたシオンがアイリへ視線を送ると、隣に座るノクトが慰めているようで。
「アイリの体型にも必ず需要はあるはずなので、そんなに嘆かないでください」
「そうだぞアイリ。ぺったんこだからって悲観的になることはない。ぺったんこでも外見よりも中身を見てくれる王子様が、いつか白馬に乗って迎えに来てくれるだろうよ」
「セクハラで訴えますよっ!」
『ぺったんこ』を強調したフォローをかけると、我慢の限界を超えてしまい大声で怒鳴りつけられた。
品行方正で通っていたアイリのキャラが一気に崩れたことで、一部から押し殺した笑い声が聞こえる。
はっとアイリが我に返ると、己の失態に赤面して小さく縮こまるのだった。
「――師匠、只今戻ったぞ!」
そろそろ二日目の初戦が始まる時間が迫ってきているため、解散の合図をかけようとしていると、学園きっての有名人が教室に飛び込んだ。
その人物とはリーズシャルテ・アティスマータ。
額に汗をにじませる彼女は、抱えていた紙袋をシオンに押し付けて、
「特性メロンパン、これでいいんだろう」
入門試験として一番街区に使いっ走りとして送り出され、一日三十個限定のメロンパンを購入しただけなのに、さも大役を果たし終えたかのように胸を張った。
突然の訪問者に教室が騒然する中、黙って紙袋を受け取ったシオンが中身を確認する。
メロンパンを片手に教壇に立つシュールな光景。
「おい姫様、なんだお前が買ってきたこのメロンパンは?」
「えっ」
「えっ、じゃねえだろ」
身分を笠に着て不正をすることはせず、開店にあわせて早朝から列に並び、人気商品を入手したリーシャは気抜けしたようにポカンとしてしまった。
言いつけ通り目的の商品を買ってきたら、何故かシオンが怒りをため込んでいる。
むしろ褒められるべきでは、そう思うリーシャに、メロンパンを眼前に突き出したシオンは。
「表面のつぶつぶが溶けてんだろ。こんなのメロンパンじゃねえ。買い出しも出来ねえならお前はもぐにゃもぐにゃもぐにゃもぐにゃのん」
「文句言うのか食べるのかどっちかにしろ!」
人を怒らせることに定評があるシオンは今日も絶好調である。
前々から目をつけていたメロンパンの美味を堪能してから解散の声をかけると、徐々に教室から人が去っていく。
「担当を持つことになったと聞いた時は耳を疑ったが、一応うまくやっているみたいだな」
傍で控えているリーシャが感想を漏らす。
命令したシオンが思うのもアレだが、自分の教室に帰らなくても大丈夫なのだろうか。
遅刻常習犯なので、そろそろ本格的な制裁が下されるかもしれないが、その前にライグリィ教官による物理的な制裁は確実に下される。
心の中で合掌。
「最悪です。これまで培ってきた成績優秀容姿端麗性格完璧社交性抜群の私は過去の人となってしまいました。これでもしクラスメイトから浮いてしまったらシオンを呪うことにします」
「煽り耐性の高いアイリが取り乱したのは意外でした。そこまでコンプレックスを抱いていたと気付けず申し訳ございません」
「勝手に変な解釈しないでくださいっ!」
そうしていると、廊下へ流れなかったアイリとノクトが、じゃれ合いながらシオンの元へ集まる。
「それでリーシャ様、先ほどシオンを師匠と呼んでいましたが……」
ジト目を浴びせてくるアイリを無視していると、彼女は一呼吸置いてから問いかけると、リーシャはよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに、両の瞳を爛々と輝かせた。
昨晩はこんなテンションが高くは無かったが、一晩寝れば気分が一転することは良くある事。
「実はな、シオンと師弟関係を結んでやんだよ。いや~、どうしてもこのわたしに技を授けたいと頭を下げてきてな――あてっ!」
誇張されて腹が立ったので、脳天に軽い手刀をお見舞いしておいた。
そしてリーシャ用にと武器庫から頂戴した木剣を投げ渡す。
「ほらよ。ヒヨっ子はこれを肌身離さず持ち歩いて、暇さえあれば見よう見まねの胴払いでもやっておけ」
「正式な鍛錬はいつから始めるんだ?」
色々と吹っ切れたらしいリーシャは肩を回して気合を入れていた。
その心意気は大切でも、身体と剣が分離している素人に教えてやれることは一つもない。リーシャにはスタートラインに立ってもらわなければならない。
「まずは手に馴染ませて神経を繋げろ。素振り稽古でなくても、柄を握ってるだけでも効果はある。サボらずに続けていれば、いつか指の感覚を失い、柄から離れなくなる日が来る」
「いつかって、具体的に何日かかるのだ?」
「姫様の剣への愛情次第だ。授業中も、食事中も、睡眠中も、手放さなければ案外すぐかもな」
自分がひと月かかったので、ひと月以内に柄に固まった指を解くのは現実味がない。
半年後か、一年後か、十年後か、もしくはもっと早くか。
剣術に限らず、芸事がちょっとやそっとでものになるなら誰も苦労はすまい。
時間がかかりすぎると弱音を吐くなら、そもそも自分の見込み違いだったということにして、見映えだけ優れた実用性皆無の奥義でご機嫌をとる方針へ変更するつもりでいたシオンだったが、
「腹を括って日々精進しろということだな。了解した」
リーシャは驚くほど聞き分けがよかった。
前日の模擬戦で軽傷を負ったリーシャは再び検査を受けなければならず、木剣を担いだまま嵐のように去っていってしまう。
「いつも以上に元気でしたね、リーシャ様」
「Yes, ただ張り切りすぎていて少し不気味でした」
呆然と成り行きを見守っていたアイリとノクトが、開きっぱなしのドアを見つめながらそう言った。
「ところで師匠。対戦表の確認はしなくてもいいのですか」
と、茶化してくるノクトは本当に憎めない性格をしている。
初日に出場しなかったシオンが、ほぼ間違いなく本日出番があるため、二人を引き連れて演習場を目指す。
その途中でリーシャに剣を教えることとなった経緯の質問攻めにあったが、適当に受け流していると、演習場入口正面の掲示板で足を止める。
シオンの名前はすぐ見つかった。
第一試合の欄に。
「兄さんもその後に続くそうです」
アイリが指差したのは、一段下の第二試合。
そこにはくじ運に恵まれていたのか、ルクスの名だけではなく、三年のサニア・レニストの名もあった。
徐々に視線を落としていくと、第十四試合にも出場が決まっていた。
「うわぁ、午後にも一戦あるよ。超ハードスケジュールだな。クルルシファーとデートの約束しているのに……」
「愛しの婚約者候補との楽しいお出かけに気を取られて、惨敗したら面白そうですね」
「Yes, そうなったら『ざまあみろ』と笑ってあげます」
うん、同年代組の自分へのあたりが厳しい。
この二人の態度は必殺の色目を使っても改善されなかったので、シオンもやや諦めかけていた。
初陣を迎えるシオンはリングへ出る通路に入るために、一応表面上の薄っぺらい激励を受けてから彼女たちと別れる。
対戦相手は関りのない『騎士団』の三年。
実力は把握できていないが、まあ負けるはずはない。
薄暗く狭い通路の先、差し込む光に目を細めたシオンは機甲殻剣に手を添えた。
〔シオンはいつになったらボクを使ってくれるの!!〕
今回の校内対抗戦で纏うのは≪ワイバーン≫としているシオンは、≪ミハイル≫の鞘を自室に寝かせたままにしている。
そのことに不満たらたらなミハイルが、心のなかで叫んだ。
イラつかせるほどの理想論を掲げるミハイルと一緒に幻神獣と交戦したこともあるが、「話し合いで解決しよう!」なんて無邪気に言われたこともある。
平和を愛するミハイルが進んで協力を申し出てくるのは意外だったが、喧嘩ではなく模擬戦であることを理解しているのかもしれない。
「機会があればね」
〔ワイバーンなんかより、ボクのほうがずっと速く飛べるのに!!〕
「キミの翼は大空を自由に羽ばたくためにあるのだろう。なら、こんな窮屈なフィールドはキミに相応しくない」
諭すようにミハイルを宥めるシオンがリング上へ降り立つと、演習場は熱気に包まれていた。
特に観戦の義務はなく、外出しなければ好きなように行動していいとされているが、催し事を好む生徒が多いようで、かなりの数の観客席が埋まっていた。
相対する装衣姿の少女は、さほど緊張した様子もなく、審判役の合図を待っている。
〔キミは特等席から俺の華麗なる戦いっぷりを見ているといい〕
〔えー、ボクだってシオンとお空飛びたいのに……〕
〔このごたごたが一段落着いたら、好きなだけ付き合ってあげる。いいですね?〕
〔はあい〕
汎用機竜より操作難度が格段に上がる神装機竜。
数え切れないほど乗ってきたから腕が鈍ることはないと思うが、適度に慣らしておいて損はない。
目先の校内戦を制したら必ず遊ぶことを約束すると、引っ込んでくれた。
「それでは校内戦二日目第一試合を、これより執り行う。両者準備を!」
審判役の教官の声と同時に柄のボタンを握り、無詠唱の高速機竜召喚で≪ワイバーン≫と接続をする。
さも当然のように高等技術を披露するシオンに対して、見事に動揺した少女はやや遅れて≪ワイアーム≫を呼び出し、大型のブレードを構える。
こちらもメインウェポンを転送。
はなから正々堂々と挑むつもりはない。
奥の手をそう易々と披露するほど、シオンはセリスを侮ってはいなかった。
「バトル、スタート!」
合図がかかった瞬間、シオンが構えたのは代名詞といえる剣ではなく、ライフル。
「俺の銃弾は地獄への片道切符だ!」
不敵な笑みを浮かべるシオンのまさかの戦術に、場内にはざわめきが一層大きくなった。