その運命に、永遠はあるか   作:夏ばて

44 / 54
四十三話

まるで伝播するかのように広がっていく歓声に、思わず耳を塞ぎたくなった。

 

脱落した立場のもどかしさを解消するには、シオン達に勝ってもらう人任せの方法しかなかったが、大人しく戦況を見守っていればこの試合は胃に悪すぎる。

 

まあ気まぐれに生きているシオンならと納得できてしまうが、それでももっと地に足つい

た堅実な戦いは出来ないものだろうか。

 

「あれもお姫様が仕込んだのかしら」

 

並んで座るクルルシファーの発言に、言い付けを守り木剣を垂らしているリーシャは否定から入った。

 

「いや。私はただ近接用の後付武装をできるだけ沢山用意してくれって指示に従ったまでだ」

 

昨日の夜に工房を訪れたシオンから頼まれた時には想像もつかなかった。

ブレード、ダガー、ワイヤーテイル、そして希少武装の月華の四点がシオンのワイバーンの基本構成。

 

容量自体には余裕があったので、適当に入れておいたのだが、まさかあんな使い方で魅せてくるなんて夢にも思わない。

周囲の囁きを耳にしたはいいものの、特別機竜使いに馴染みが深くないサヤカはいまいちぴんと来ていない顔をしていた。

 

「ねえ、あれって凄いことなの?」

 

「技術的には出来ないことはない。予め設定されている転送座標軸に沿った形で動けば真似できなくはないが、掴み損ねたことを考えれば実践には不向きだな」

 

ましてやあのセリスが相手だ。

下手に隙を見せようものなら雷光穿槍(ライトニング・ランス)の餌食になるというのに、リスクは考えていないのだろうか。

 

「あいつ、やっぱり馬鹿だろ」

 

隣に義理とはいえシオンの姉がいるのに、リーシャは容赦をせず言い切った。

 

「昔っから駄目だった時のことはは考えない子だから。それで家出したようなものだし……」

シオンとはしょっちゅう言い争いをしているサヤカも、あの無鉄砲な性格には頭を悩まされているみたいだ。

気持ちはリーシャもよく分かる。

 

「行動力のある馬鹿ほど厄介なものはないな」

 

「あら、口は達者だけれど行動に移さない人よりかは断然マシではないかしら?」

 

「あいつが異常な行動力を有しているとともに、数歩歩けばホラを吹く男であるのを忘れたのか?」

 

「貴方、シオン君との付き合いが長い割には全く彼を理解していないわね。あれは自分の本質を悟られないために、嘘の鎧できかざっているだけなのよ」

 

さも私はシオンを分かっていますアピールをするクルルシファーに、リーシャは絶句する。

駄目だこの女。

恋心に蝕まれて、シオンの信者に成り下がってしまったか。

 

「にしてもセリスの奴、動きが悪いな」

 

あらゆる状況を想定し、その対策を頭に叩き込んだのセリスといえど、破天荒なシオンのスタイルは完全に計算外のはずだ。

チェスをしていると思ったいたら、盤上に別のボードゲームの駒が出現したようなものなので、誰だろうが手間取るだろう。

 

しかしそれを差し引いても、逆転の糸口を見つけあぐねているセリスの動きは、いつもより数段鈍かった。

 

「多分だけど、しーちゃんって実際に戦ってみないと、その強さを実感できないんだと思う」

アップルパイがたんまりと入った袋を胸に抱くフィルフィが、いつもの調子を崩さず言った。

 

「……? ここから見えてもシオンの強さは嫌ってほど分かるだろ」

 

「ううん。きっと対峙してみないと分からない。ここから見えるしーちゃんも強いけど、セリス先輩から見えるしーちゃんの方がずっと強い」

 

武術を身につけた者同士で共感し合える点があるのか、セリスが劣勢の理由をフィルフィは気付いたみたいだ。

大食らいのフィルフィがお菓子にあまり手をつけていないことも気になりはしたが、リーシャは首をかしげて。

 

「何故そう思うんだ?」

 

「しーちゃん前に言ってた。殴り合いで勝つ秘訣はミスを無くすんじゃなく、ミスを減らすことだって」

 

瞬間瞬間で生きる機動戦においては、必ず最善の選択が取れるとは限らない。

歴戦の猛者でも死に直結する過ちを平然と犯してしまうこともある。

 

「極端に考えてしまえば、いかにミスを減らし、相手のミスを見逃さないかが勝敗を左右する鍵となるな」

 

それを実行出来るかどうかは、また別の話だとリーシャは思う。

一つの動作に対して熟考する余裕があれば良いが、生憎そう言ってはいられない。

 

「リーシャ様は、ここから見てしーちゃんに付け入る隙はあるように見える?」

 

「ん。まあ、トリッキーではあるけれど、あの数の武器を操っていれば精度は落ちるだろ。現に大味な攻撃になっているし、そこを突いていけば持ちこたえられそうではあるな」

 

「うん。でもセリス先輩には精度が落ちてるようには見えてないんだと思う。綻びが生まれる最大の原因は迷いなんだって。唯一無二の一打を放っても、その一打で敵を倒せると信じられなければ、意外と簡単に弾かれてしまうんだよ」

 

何となくであるが、リーシャはフィルフィが言わんとしていることが先読みできた。

9の確信があっても1の迷いがあれば、それだけで脆くもなるし弱くもなる。

 

「しーちゃんは迷いを捨てるのが上手いよ。最善の答えとはかけ離れた選択をしても、あたかも必殺の手であるように見せつける狡猾な振る舞いが特に。普通、あんな自信満々でいられないよ」

 

そう纏めるフィルフィの顔つきが、いつになく引き締まったのように見えたのは見間違いではないはずだ。

そして最後にこう付け加えた。

 

「私はしーちゃんとは戦いたくないな。余計な神経磨り減らして凄く疲れそうだから」

 

「初めて意見があったな。それについてはわたしも同感だ」

 

普段は自由奔放でのらりくらりとした、どうしようもない生き方で周囲を騒がせる駄目男。

しかし、いざ頭が切り替わるとそんな駄目男は姿を消す。

培ってきた読みと超人的な反応速度を融合させた回避術と、その不気味に輝く二振りの剣で全てを魅了する何かに変貌する。

 

少なくとも、リーシャはその片鱗を覗く機会があった。

生身で、多数の機竜使いを本気で切り殺そうと円陣を描いた男の姿を。

 

その男は今、学園の頂点に君臨する支配者を下界に引きずり下ろそうとしている。

きっとこの戦いにも勝利を収めるだろう。

 

あいつは性格が悪い。

リーシャがドン引きしたエピソードが数えきれないほどあるくらい性格が悪い。

 

あいつは頭も悪い。

下級階層への昇格するための筆記試験で、二割しか点数が取れないくらい頭が悪い。

 

それでも、他が真似出来ないことを平然とやってのける。

まさに今、自分が初日にあっさり捻られたセリスを手玉に取っているように。

 

「ところで天然娘。さっきから手が止まっているがどうしたんだ?」

 

先ほどから気になっていた事をリーシャはとうとう尋ねた。

本調子のフィルフィならばあっという間に消える量のお菓子が、まだ半分以上残っている。

 

「ちょっと、頭痛い」

ぼーっとしているのは変わらず。

顔色が悪いように見えなくもないが……どうだろうか。

 

「医務室で診てもらってきたらどうだ。お前もまだ生き残り組なんだ。自分の体を第一に考えろ」

「うん。じゃあそうする」

体調面を気遣いフィルフィを送り出す。

ゆったりとした足取りで進む背中を見送るリーシャは「大丈夫か?」と内心ぼやくのだった。

 

 

 

 

 

 

昔、旅芸人の集団に出会ったことがある。

父に連れられて町並みを見て回っていた時の事だ。

 

ショーの光景は鮮明に脳裏に刻まれていて、父の手の温もりと共に忘れようにも忘れられない思いでの一欠片でもあった。

 

成長した今となっては、当時のパフォーマンスを前にすれば、きっと数年のうちに忘れ去られてしまうであろう演技だが、心身ともに未熟だったあの頃は派手な技の数々を純粋に楽しみ、手を叩いて喜んでいた。

 

第十試合も終盤を迎える中、どうしてかセリスは懐かしき古い記憶を辿っていた。

 

その集団には確か、軽業で路上を沸かせ数多の剣を自由自在に操る曲芸士が所属していた。

 

目の前の少年は曲芸師なのかもしれない。

 

アクロバットに動き回り、何もない空間から幾つもの武器を呼び出し自由自在に操る姿が、その曲芸師の面影と重なった。

 

緩みそうになった口元を引き締めつつ、セリスは鋭い槍の連続攻撃をやり過ごす。

 

接近戦では分が悪い。

 

関節可動を駆使した、撓らせるような軌道を描く変則的な攻撃や、静と動の相反する性質を併せ持った予測が極めて難しい攻撃を完璧に捌くなど夢のまた夢で、決定打はもらっていなくとも、傷ついた装甲がセリスの劣勢を物語っていた。

 

ならば逆に一気呵成に攻め立てるのも一つの手だと思ったが、セリスの技量では人間離れしているシオンの反応速度を捕まえることは出来ない。

 

遠距離ならば逆にセリスに分がある。

星光爆破(スターライト・ゼロ)の爆撃に飲み込めば、シオンを倒すことも可能だろう。

だがシオンは巧みに外壁付近で立ち回っている。

 

着弾点を演習場の中心に定めれば、演習場の約八割を埋め尽くす広範囲攻撃となる一方で、一歩間違えたら観戦中の女生徒達にも被害が及ぶ。

彼女たちを守る障壁は展開されているも、安全を考えれば中心に落とすしかないが、シオンをおびき寄せる自信はなかった。

 

卑怯とは言えないにしても、小賢しいとは言える。

他に遠距離からの決め手を持っていないのならば、残るは雷光穿槍(ライトニング・ランス)による中距離からの雷撃。

 

システムダウンを誘発すれば自ずと勝利は手中に。

しかしそんな簡単にいくはずがない。

 

彼にはそれだけの力がある。

必ず掻い潜り、絶対の自信を持つ領域に踏み込み、アイリ・アーカディアのために、彼は剣を振るうはずだ。

 

それがどうしたとセリスは奥歯を噛み締めた。

シオンがいくら大義名分を翳してこようが、負けられない理由ならセリスにもある。

負けられない意地もある。

 

ならば、ここは出るしかあるまい。

シオンの想像を超えることが、勝利への至上命題だ。

 

覚悟を決めたセリスは主砲の接続を開始したが、リンドヴルムの最強武装が発射されるまで、シオンがお行儀よく待ってくれるはずがない。

リンドヴルムの肩に星光爆破(スターライト・ゼロ)が連結されたのを見るや否や、双剣を構えて飛びかかる。

 

狩れる確信があるなら迷わず狩る。

それがシオンという生き物だ。

 

遺跡調査でのゴーレム撃破時の無茶な特効を聞いているセリスの思い通りとなった。

 

だが星光爆破(スターライト・ゼロ)のチャージが完了よするりも早くシオンの刃は届く。

 

そこでセリスは一旦、エネルギー供給を星光爆破(スターライト・ゼロ)から別の武装へと切り替えた。

それはキャノン。

 

こちらも発射までに溜めを要するも、星光爆破(スターライト・ゼロ)に比べてしまえば一瞬だ。

 

戦いの中で閃いたアイディアであるため、冷静という言葉を繰り返し唱える。

セリスが引き金を引くのが先か、シオンが振り下ろすのが先か。

どちらの未来も訪れない。

 

セリスがキャノンを投げた。

次の瞬間、爆発が起きる。

 

キャノンの過負荷保護装置を切ったことで、エネルギーの供給過多を引き起こした結果だ。

 

ディアボロス戦の話を聞いて、即興で試してみたのだ。

障壁で守られている装甲機竜へのダメージはほぼ皆無でも、操縦者の視界は爆風で塞がれる。

 

シオンの間合いから外れつつ、星光爆破(スターライト・ゼロ)を再チャージ。

照準を演習場の中心に定め、溜まった瞬間に発射する。

 

演習場の大部分を埋め尽くす爆撃は、その範囲もさることながら、破壊力も申し分ない。

装甲を削って機動力を底上げしているシオンのワイバーンが飲み込まれたら、確実に耐えきれない。

 

セリスは信じていた。

 

シオンならば爆風に包まれた瞬間に、星光爆破(スターライト・ゼロ)が及ばない外壁の側へ逃げることを。

 

「これで終わりです」

 

リンドヴルム最高の火力である星光爆破(スターライト・ゼロ)は本命なんかではない。

 

最強の戦法こそが本命であった。

描いた勝利への筋書き通りに動いたシオンを狙うのは、セリスが絶対の自信をもつ『重撃』。

 

破裂した光弾により戦場は狭まり、さらには外壁も相まってシオンは逃げ場を失う。

ダガーを射ち、七色の光輪に包まれたセリスは勝利を確信した。

これ以上ない形に追いやった。

 

「良い夢は見れたか?」

 

今まで多くの機竜使いを葬ってきた奥義が、全てを終わらせるはずだというセリスの想いは儚く散る。

 

シオンに対するセリスの情報源は、主にルームメイトのシャリスによるもの。

遺跡調査や四大貴族との決戦での活躍を直接知る彼女からの情報が、シオンをここまで追い詰めた。

 

しかしシャリスは知らない。

 

シオンが過去野良試合で生計を立てていたことを。

四年前のシンガ村から王都へ渡った時点で、三人を同時に相手にできる実力が既にあったことを。

 

武道において、複数人を相手にする稽古というのは大別して二種に分けられる。

一つは間を置かず連続で挑む、囲み稽古。

 

そして二つ目。

間を置かず一斉に飛びかかり、他方向からの同時攻撃を防ぐ、がかり稽古が存在する。

 

――やったあ。僕重撃を攻略したよ

 

――前後左右でかかればお前死ぬな

 

古都の中心に住まう武人であるならば、二方向からの同時攻撃など片手間に処理しなければ笑い種になってしまうのだ。

 

ダガーだけではなく裏手で大槍を突き立てるセリスを、剣身の反射ではっきりと捉えている時点で、彼女が逃れる術は残っていなかった。

 

雷光穿槍(ライトニング・ランス)が雷を帯びるよりも先に、シオンの戦形が嵌まった。

セリスの出鼻を封じる位置に、宙に浮きながらも軸足を踏み込むために、旋転して右半身を作る。

 

目と鼻の先を、ダガーが唸りを上げて通過したが、シオンは構うことなくセリスを注視し続けている。

 

ダガーの進行方向に対して半身になったことで最小限の動作でやり過ごし、振り向き様の上段が大槍にぶちあたり、一発でセリスの軸芯を崩した。

 

次に順番は回さんとばかりの返す一刀は、ぎりぎりの所で身を逸らしたため受けずにすんだが。

 

「――かはっ!」

所詮そいつは九死に一生を得て、意識が緩んだ一瞬を狙うための罠。

斬り上げの勢いを殺さずに利用した回し蹴りが、セリスを外壁に打ち付けた。

 

危うく意識が弾き飛ばされそうになったセリスは、その瞬間に自分の敗北を認めかけた。

 

己に課せられた使命や、自身を慕う少女達の期待を踏みにじる行為だと気づき、直ぐ様挽回の兆しを探そうとするも、最早手遅れ。

 

希望を摘む最速の陣突が迫っていた。

 

警戒は怠らなかった。

瞬き一つすら厳禁というのは大袈裟な評価ではないと言い聞かせ、全力でぶつかり砕け散ったに過ぎない。

 

それでもセリスの意志は死んでいない。

まだ負けていない。

 

無様だと笑われたとしても、敗北を告げられるまでは、どっちに転ぶかは分からないと気を吐いた。

 

取ったと思ったら逆に取られた。

 

シオンも今は取ったと確信しているに違いない。

ならばまた取り返してやればいい。

 

極限に追い詰められたセリスは勝つためには形振り構っていられなかった。

 

自分を装甲機竜からパージして、機攻殻剣でぶった斬るなんて考えてしまう程度には取り乱していたが、一体全体どうしてしまったのだろう。

 

目の前でシオンが失速し、僅かに口を動かした。

 

「……何か来るらしいぞ」

その呟きに呼応するように地面を抉り出現した数本の触手。

 

無造作に暴れ狂う触手に、障壁を張るために配置されていた機竜使いも吹き飛ばされる。

 

「な、なにコレ。誰か、助けて!」

 

客席の女生徒が叫ぶ。

伸びた触手はそのまま無防備な観客席を叩き付けようとしたが、即座に反応した影の介入によって被害は抑えられた。

 




あと少しで終わる……

四巻は手抜きします
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。