その運命に、永遠はあるか   作:夏ばて

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三月中にセリス編を終わらせたら神。

でもセキロウ出るから無理。



四十四話

大規模な事件が今まさに発生した。

 

何の前触れなしに地中より湧いて出てきた謎の触手が、手当たり次第に暴れ狂う。

誰よりも先に反応したシオンが生徒を守ろうと、『月華』の二刀で反撃するも、広大な範囲を一人でカバーしきれるはずがない。

 

〔バカドラ、よくやった〕

 

〔えへへ、誉められたー〕

 

いち早く警鐘を鳴らしたミハイルは無邪気に喜んでいた。

 

地中より迫る幻神獣の気配をシオンは読み取れはしなかったが、竜の嗅覚は誤魔化せないらしい。

 

「まさか負けそうになったからって、お前が召喚したんじゃないだろうな」

 

演習場の中心に陣取る巨大な頭と、突き出た紫の眼球が特徴的な烏賊型の幻神獣を指しながらシオンは問いかける。

 

これまで遭遇した中でも、断トツで醜い姿形をして不快極まりない幻神獣により、辺り一面から生えている触手は動かされているようだ。

 

「冗談を言っている場合ではありません」

 

出遅れはしたものの、セリスもシオンに続き救援活動を行っている。

 

一本一本は難なく片付けられても、この数の前にはセリスを味方につけたシオンといえど簡単に局面を打破できず、飛び交う悲鳴も相まってかいらつきが募り始めていた。

 

非常事態に余力のある生徒は装甲機竜を転送して応戦するも、尽く返り討ちにあっている。

それでも何とか一矢報いろうと、手持ちの武装を触手に投げ捨てるが………その心意気だけは買っておきたい。

 

「この数で奇襲されちゃ、そりゃ混乱するわな。何だよこの烏賊は。生理的に受け付けないんだが」

 

「恐らく各遺跡の最深部に存在するという終焉神獣でしょう。調査書に記載されていた特徴と一致しています」

 

聞き慣れない名称の幻神獣は数週間前の決闘で、バルゼリッドが意気揚々と討伐宣言をしていた災害級の化け物だ。

手遅れになる前に体勢を整えなければ、取り返しのつかないことになる。

 

「シオン! セリス先輩!」

 

試合の途中で棄権し、体力有り余るルクスが触手の群れを掻い潜り、シオンたちの元へ合流した。

 

「守備専がのこのこ現れようが意味ねえんだわ。役立たずは引っ込んでろ」

 

「凄い酷い言われようだね……。 僕だってリーシャ様から預かった障壁牙剣があれば……って、僕の障壁牙剣はどこにあるの?」

 

「そこら辺の地面に突き刺さったブレードのどれかだよ」

まるで他人事。

 

悪そびれる風もなく、口をあんぐりさせたルクスから顔を逸らした。

 

「クルルシファー。サヤカを頼めるか」

 

サヤカの身に何かあれば、オウシンやシズマにどやされるのは自分だ。

まず身内保護を優先させるために、目視で起動を確認できたファフニールに竜声を繋ぐ。

 

『ええ、分かったわ。貴方も無事でいてね』

義理の姉を守るイベントをクルルシファーが拒否するわけがなく、二つ返事で了承してくれた。

 

「余裕だろ。無傷で帰還してやるよ」

 

『少しくらいなら怪我をしても良いわよ。私が昼夜付きっきりで看病してあげるもの』

 

特殊な嗜好に目覚めてしまったクルルシファーから向けられる愛が重い。

 

通信もほどほどに、触手の暴れっぷりにも参ってくるので、手近な触手を跳ね飛ばして活路を見出そうとするも、如何せん本体までの道のりには障害物が多く近づけない。

 

一定範囲内ならば自由に移動できる神装を持つセリスは既に終焉神獣に肉薄しており、急がなければ戦果を独り占めされてしまう。

 

無理を承知で強行突破すればうまくいきそうだが、う~んと頭を悩ませるシオンであった。

 

すると荒々しい咆哮が演習場を揺るがせた。

 

膨大な熱量が巨大な光の柱となって空間を貫ぬくと、射線上の触手が飲み込まれる。

 

「どうだ思い知ったか! これがわたしの≪七つの竜頭≫の力だ!」

 

援護射撃をしたのはリーシャ。

 

彼女はティアマトの特殊武装を声高らかに褒め称える。

 

順調に数を減らしてはいるが、終焉神獣の高い再生能力が破壊された組織を修復し、やられる前と同じ状態で活動を再開する。

 

厄介なことこと上ない。

 

狙いを本体だけに絞り特攻をかけるか。

 

戦では本城を制圧すれば支城もじきに落ちるとも言われているので、偉大な先人の知恵に従うとしよう。

 

「ん?」

 

シオンが方針を固めていると、横やりの竜声が入る。

 

このシグナルは………ノクトからだ。

 

「あいよ。超忙しいから手短にしてくれ」

 

『申し訳ありません。しくじりました』

 

ドォン!

 

演習場の外から伝わる衝撃音。

そちらに体を向けたシオンは、上空に展開された『ワイバーン』数十機を視認する。

 

「今の爆発で事情は大体察した。まだ動けるのならレリィの回収頼めるか?」

 

「Yes,すみませんがよろしくお願いします」

 

「ほいほーい」

 

これが野郎の失敗なら、伸ばした手を踏みつけていたことだが、ノクトみたいな美少女の尻拭いは大歓迎である。

もう直に尻を触ってあげたいくらいだ。

 

この場を潜り抜ければ、財布も膨らみ、美少女からの好感度も上がり良いことずくめ。

 

「ここは私に任せ、あなた方は学園側の救援にまわってください」

 

なので飛んでくるセリスの指示なんてくそくらえだ。

 

「姫様、お前は外の奴らを蹴散らして来い」

 

「はあ!? おまっ、わたし単機でやれと言ってるのか」

 

「いいから行け。さっさと、ダッシュで」

 

「だ、だが……」

 

「師匠命令な。これ、絶対」

 

訓練生が教官に絶対服従のように、弟子は師匠に絶対服従。

如何なる要求であろうと有無を言わず取り掛かる義務が弟子にはある。

 

「パ、パワハラだぁぁぁ!」

 

シオンの圧力に負け、叫びながら学園の防衛を引き受けたリーシャだった。

しかしシオンの無理難題は止まらない。

 

もしあの程度の数に遅れを取るような破門にしてやると、リーシャが聞いたら本気でキレる条件を付け足した。

 

弟子に修羅の道を歩かせ、早期成長を促す優しい師匠である。

 

「ここにあなたは不要です」

 

「この腐れ烏賊は俺の獲物だ。そんな心配ならお前が抜けろ」

 

貴重な稼ぎ時だというのに、持ち場を離れる阿呆がいるか。

意地でもしがみついてやろうとシオンは気を吐くも。

 

「ですから言ったはずです。あなたの出る幕はないと」

 

切断された触手の断面を雷撃で焼き、再生の進行を遅らせたことによりスペースを確保したセリスの方が一足速かった。

 

終焉神獣ポセイドンをつつく過程で、核の位置を正確に把握しているセリスは急上昇。

 

再度連結された雷光爆破が破壊対象に狙いを絞る。

完全に仕留める態勢に入った。

 

「待ちやがれ! 抜け駆けだなんて卑怯だぞ!」

 

臨時収入のことで頭が一杯のシオンは当然危機感を抱いた。

 

なりふり構わずポセイドンまで直進し、進路を妨害する触手を千切っては投げ、千切っては投げを繰り返す。

 

戦果を独り占めされるなんてたまったものじゃない。

 

なりふり構わないアタックを敢行するも、その距離を一瞬で詰めることが不可能なシオンが間に合うはずもなかった。

 

足止めを食らっているシオンはその一部始終から目を反らしてしまっていたが、暴れ馬のように蠢いていた触手が機能を停止させたことで本城が陥落した事実を理解した。

 

「俺の小遣いが……ぐへっ!」

 

勝敗は決した。

掴みかけていた大金を失ったシオンが悲しみに暮れ虚ろな瞳で忘却の彼方を覗いていると、突然奇声を出して地べたへ這いつくばった。

 

リンドヴルムにより押し潰されたのだ。

 

上空からの落下による突進でポセイドンの体内に眠る核にまで到達し、至近距離から主砲を直撃させたため、爆発をもろに受けたセリスが空から降り、運悪く茫然自失になっていたシオンに直撃した。

 

「セリス先輩! 大丈夫ですか!?」

 

大急ぎで駆け寄ってきたルクスの手には、シオンが放置した『障壁牙剣』があった。

 

「わざわざ探すまでないのに、何やってんだあんたは。暇人か」

 

「いやだって、折角リーシャ様が僕のために考案してくれた武装だし、大切にしないとって気持ちが強いから」

 

何故かルクスは照れ臭そうに頭を掻いている。

 

なんちゃって皇族の立場で、当時から他者からの何かを贈られることが少なかったからなのか、たかだか武装の一つでこのご機嫌ようだ。

 

「おーい生きてっか。俺の上で死なれるとか勘弁な」

生存確認の為にシオンはリンドヴルムの装甲を叩いた。

 

「御気遣いはいりません。次は学園側の脅威を取り除かなければ……」

 

エネルギーを使いきる寸前まで装甲機竜を酷使していれば、使用者の負担も相当なものだ。

それでもなお、学園の為に体に鞭打って援軍に向かおうとする根性は賞賛に値する。

 

「ハッハッハッハァー!」

 

下卑た高笑いが響いたのはそんな時だった。

 

今時子悪党でもそんな笑い方しねえよ、と自分を棚にあげて内心突っ込みを入れつつ観客席を見ると、漆黒のローブを纏った不審者がふんぞり返りながらこちらを眺めている。

 

「てめえら。よくもオレの可愛い終焉神獣をヤってくれたなぁ」

 

どの角度から見ても可愛くない。

こいつは視覚機能は正常に働いていないのだろうか。

 

「折角時間をかけてここまで連れてきてやったのに台無しにしやがって。こっちは殺戮の限りを尽くしたショーを求めてたのによ」

 

偉そうだな。

いつも偉そうにしているシオンがそう思えば、偉そうな不審者は黄金の角笛を手に取った。

前回の遺跡調査で、シオンが台座に殴りつけたあの角笛と酷似している。

 

「だが一安心するのはまだ早いぜ。本番は、これからだ」

言い切ると、その人物は角笛を口にあてがい、息を吹き込む。

 

イィィイイイイイイ!

 

そういえば、この角笛の音色は初めて聞く。

音と音がお互いに喧嘩しているような不協和音で思い返したのは、アマオケ結成後初の通し練習で奏でられた、移調を間違えて混沌に片足突っ込んだ演奏だった。

 

聞くに堪えない不協和音に思わず顔を歪めた直後、あり得ない現象にシオンは目を擦る。

 

「ヴァァアアアアアァァアアアア!」

 

地を揺らしてゆったりと起き上がったのは、活動を停止したはずのポセイドン。

 

お洒落のつもりなのか全身に赤黒い線が走らせ、眼球も赤く染まり余計にキモくなった。

ダメージを負った数百の触手は徐々に再生されており、完全に回復のは時間の問題だ。

 

「そんなはずありません。確かに核は破壊したはずです」

 

「ならコレはどう説明するよ。最近の死後硬直はまるで生き返ったように動き回るんだな」

 

そうおどけるシオンは絶好の機会が巡ってきたことで、内心大いに喜んでいた。

お金の神様はまだ味方をしてくれている。

 

臨戦態勢に入ったその時、思いがけない方向からの射撃がセリスを襲った。

 

「危ないっ!」

被弾する寸前で、ルクスが反射的に機竜咆哮を張ったお陰で最小限のダメージで抑えられたが、とある人物の登場が更に場の混乱を招くことになる。

 

「どうして、あなたが……」

その光景が信じられないであろうセリスは大きく目を見開く。

 

そして空から彼女を見下すのは、あのサニア・レミスト。

セリスを姉と慕っていた少女が、殺伐とした雰囲気を纏い乱入者として現れた。

 

「何をしているのですか、サニア……」

理解はしている。

それでも事態を飲み込めないセリスの声は震えていた。

 

「酷く顔色が悪いように見受けられますが、如何されましたかセリス姉様」

 

「答えてください。今日は一日、寮で安静を取っているのではないのですか」

 

「今朝の発言は嘘です」

 

分かりきっているのに諦めようとしないセリスを突き放す言い方だ。

やり取りを傍観していたシオンは、埒が空きそうにもないので現実を突きつけた。

 

「敵なんだろ。こいつ」

2年以上関係を築いてきた相手が裏切り者。

騙される方も騙される方だが、裏切る方もかなり性根が腐っていなきゃ出来ない所業だ。

 

「ほう、動じる素振りすら見せないとは面白い」

 

「そりゃどーも。あの烏賊とペアルックの機竜身に付けてるセンスないお前に誉められたところで、全く嬉しくねーけど」

 

サニアはセリスへ向き直った。

 

「その男の言う通りですよ。今朝の話だけではなく、関係性の全てが偽りだと思ってもらっても構いません。お姉さま、なんて呼んでいますが別に姉だと思ったことは一度もありませんし、慕ってもいません」

 

「なら、私は何の為に戦っているのですか。私は苦しんでいたあなたの為に……」

 

「ああ、そんな設定もありましたね。無駄な戦いご苦労様です」

 

シオンでさえ軽く引く程度の煽りっぷりだ。

他者の為に力を振りかざすことを良しとしないシオンにとっては、セリスの精神状態を汲み取るなと不可能に近い。

 

「マジもんの脳筋かよ。いい加減気付けよな。そいつがお前に近づいたのも、この学園に入り込んだのも、全てはスパイ活動の一環ってわけだ。サニアはなぁ、ヘイブルグの軍師を務めてやってるこの俺が送り込んだ忠実な犬なんだよ!」

 

客席側から吠える黒ローブ。

後方で偉ぶってればいいものの、居ても立ってもいられず、前線にしゃしゃり出てきている辺り、どうせ内部の人間には軍師に笑を付け足されて馬鹿にされているに違いない。

 

「つーか何時まで無駄話に花を咲かせているつもりだ。やるべき事をさっさとやれ」

 

「……了解しました。というわけでセリス姉様、終わりにしましょう。何もかもを」

 

そして、サニアは赤黒い刻印の浮かんだキャノンを構える。

動揺により手足が震え、動こうにも動けないセリスへと発射された。

 

 

 

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