その運命に、永遠はあるか   作:夏ばて

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ヴァシュロンリスペクト。

ちんべるちゃんは可愛い。



四十五話

リーシャは過度な特別扱いを嫌う。

新王国の王女として担ぎ上げられてからは、より一層嫌いになった。

 

今更仕方のないことだけれど、顔色を伺われる生活というのは、同じ人間ではなく異なる何かとして見られているような気がしてしまうから。

 

だから家格による序列が存在しない学園の生活は、多少堅苦しさは残っていても王都での生活と比べてしまえば快適そのものだ。

 

けど、この扱いはあんまりだとリーシャは思った。

 

「なああああああああああ!」

キレると強くなる系少女リーシャは、シオンの指示に従い学園を襲撃してきた多数の機竜使いを相手に孤軍奮闘していた。

 

先に動いていた騎士団の面々は撃墜されていて、数に押されまいと『ティアマト』の武装をフル開放してリーシャは暴れまわっている。

 

「ああああああああああああああ!」

声にならない声を上げて、朱の機甲殻剣をぶんまわす。

 

八機の《空挺要塞》が意思を持つかのように動き、正体不明の機竜使いを翻弄する。

 

「ああああああああああああああ!」

お決まりの台詞も忘れて絶叫すれば、《天声》を発動して相手の機動力を殺し。

 

「ああああああああああああああ!」

その叫びを乗せたキャノンをぶっぱなして地道に数を減らしていた。

 

リーシャがキレている原因。

それはシオンにあった。

 

あの状況であれば、好き勝手にやられる前に誰かを送りださなければならなかったのは認めよう。

 

だが単体はないだろう。

 

クルルシファーはサヤカに付きっきりで、フィルフィは調子を崩して医務室にいる。

 

観客席にいた神装機竜使いがリーシャを除いて戦えなくても、リングには三人もの強力な機竜使いが残っていたのだ。

 

せめてもう一人こっちに回してくれたら、というより回して双方で戦力を保つのが普通ではなかろうか。

 

常識知らずのシオンには人を、特に王女様を敬う心が致命的に足りていない。

これが落ち着いたら殴ってやろう。

 

真正面からでは手も足もでないので、背後からグーで殴る意志をリーシャは固める。

 

「なんだこの喚き散らかしている喧しい女は」

交戦中の敵の口からそう溢れると、すかさず味方が反応した。

 

「この髪の色に、瞳と同じ赤い装甲機竜……。 いつか聞いた新王国の王女の詳細と一致しているな。身柄拘束するか?」

 

「はあ? こんな下品な女が王族だと? そんなわけあるか」

 

「だとするなら赤い神装機竜はどう説明すればいいんだ。確か『朱の戦姫』と呼ばれているのだろう」

 

「奇声発する下品な王女がいるわけないだろ。どうせ替え玉だ替え玉」

そして、それぞれが武装を構えて陣形を整える。

 

黙って聞いていれば、いい気になりおって。

こっちは少々訳有りだが、正真正銘の新王国第一王女で影武者などではない。

 

不届き者に目にものを見せてやろう。

 

神装機竜の全力で迎え討とうとリーシャが機甲殻剣を握りしめると、突然一条の光が天から降り注ぎ、前方の装甲機竜を貫いた。

 

何事かと全員が上空を見やると、狙撃した本人らしき人物が困ったように頭をかいていた。

 

「やべっ、当たったよ」

装甲の一部に新王国の紋章が刻まれている≪ワイバーン≫を纏う男に、リーシャは見覚えがあった。

あの時、シオンとバルゼリッドの決闘の後処理を押し付けられていた軍人の男だ。

 

確か、名前は……

 

「殺せっ!」

呼びかけるのを待ってくれるはずがなく、中央の無精髭を生やした乗り手が物騒に叫ぶと、隊を半分に分けてリーシャ達に襲い掛かる。

 

リーシャも上空へ飛んだ。

 

「お前、ベイル・シンガだったな。シオンのとこの領主の放浪子息である」

参戦したベイルの元で集結し、機甲殻剣を振って《空挺要塞》を八機追加召喚した。

 

計十六機の《空挺要塞》が周囲を警戒することで切り込みをけん制する。

 

「軍からの援軍か?」

 

「いやいや、この介入は自分の独断で決行しただけなんでね。警備部隊が到着するまでは暫くかかりそうだな」

 

殺気を向けられているのにベイルは飄々とした振る舞いだ。

あのシオンの悪友だけあって肝が座っている。

 

「ならお前は何故ここにいる」

 

「それには深~い理由がありまして―――あー、聞こえてるか」

リーシャとの会話を一時中断してベイルは竜声を送る。

 

『あ? なんでベイルがいるんだよ』

勿論、対象はシオンである。

 

「学園が襲撃されてるから助けてと、アルフィンが泣きついてきたんだよ」

個人として乗り込んできたのは、裏でアルフィンが手回しをしていたのか。

仕事が早過ぎる気もしたが、リーシャは考えるのは後にして頭を切り替える。

 

「王女殿下と合流したところなんだが、これから俺はどう動けばいいんだ?」

 

『手があいてんなら外の奴らの相手でもしてろよ。軍人でもお前暇なんだろ』

 

「あのなぁ、軍人を暇人扱いするな。人手不足で大変なんだぞ」

 

『暇だから学園なんぞに飛んできてんだろうが。まっ、死なない程度に頑張ってくれ。もしミスって死んじまったら、俺が地獄まで迎えに行ってやるから思う存分やっちまえ』

 

「おい、地獄行きを決定事項にするな」

 

『親より早く死んだら地獄に行くって相場が決まってんだよ。お前の両親まだぴんぴんしてんだろ。あっ、親父の毛根は死んでるけどな』

 

『うるさいわ!』

 

と、そこで通信が途絶えるとベイルはをどっと疲れが出たようで、大きな息をため息をついた。

 

同士だ。

傍若無人な暴君に振り回される大変さを共有できる、貴重な人材にリーシャは巡りあった。

 

「それじゃあ、サクッと片付けますか」

 

戦意を問うような目配せに答える。

 

シオンが送り出したのなら実力不足ということはありえないだろう。

 

「だな。 一仕事するとしよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、シオン達はというと……。

 

地中を掘り進んできたポセイドンの影響で地面が陥没して危機を免れていた。

 

「外は大丈夫みたいだな。お前ら俺とアルフィンに感謝しろよ」

竜声でベイルが駆けつけた旨を報告する。

アルフィンの成果は自分の成果と、まったく筋の通らない理論を展開しているシオンは偉そうに胸を張った。

 

だが返事はない。

上で暴れているポセイドンの咆哮しか返ってこない。

 

ともに穴へ落ちた者同士、仲良くやりたいのに無視は酷い。

 

とはいえ、洒落の一つも言えない雰囲気でありながら、あえて空気を読もうとしないシオンにも問題がある。

 

セリスの行動原理を紐解けば、中心にいるのは旧帝国体制で虐げられていた少女たち。

その代表格というのが裏切ったサニアだ。

 

見るからに落ち込んでいる。

動揺の余り機竜を解除して、跪いて頭を垂らしている状態だ。

 

四大貴族とあろうものが、あまりにも情けないポーズを決めている。

 

家名に傷をつけている自覚はあるのだろうか。

 

「いっちょ前に落ち込んでんじゃねーよ。お前には百年早いわ」

 

どんよりとした雲がかかっているセリスの脳天を機甲殻剣の鞘で叩いた。

結構強めに。

 

ゴンっ、と鈍い音が響くと、負傷個所を両手でおさえるセリスが面を上げ、涙ながらに訴える。

 

「――い、痛いです……」

痛くしたのだから当然だ。

これで痛くないと強がるものならもう一発プレゼントしていたところだ。

 

「友はどこに置く?」

 

「……友とは?」

 

「シャリスの姉御みたいな友人は、どの距離に置いておくのが最適解なんだって聞いてんだよ」

唐突な問いかけにセリスは疑問符を浮かばせているようだった。

 

「ええと、手の届く範囲ですか?」

 

「違うな」

 

シオンも≪ワイバーン≫を脱ぎ捨てると、転がっている機甲殻剣を拾い上げた。

数歩下がりセリスとの間隔をあけ、雑に剣を薙ぐ。

 

「この振っても届かないこのぐらいの距離だ。 次、敵はどこに置くよ?」

 

更に続く意味深な問いかけにセリスはぎこちなく答える。

 

「もっと遠くにですか?」

 

「違う。敵は、この距離だ」

 

そしてシオンは空いている手で自分の機甲殻剣を掴むと、今度は研ぎ澄まされた一手を放つ。

 

手足の筋肉に依存することのない力は、初動は遅くとも真の速さを生み出す。

 

体幹から末端の順で身体を動かし、結果流水の如くふるわれた剣の切先はセリスの首筋で止められた。

 

「友は近くに、敵はより近くに、だ。近すぎるのなら逆に疑い、ひと振りで斬り殺す用意もしておけ。寝首をかかれましたじゃ遅いしな」

 

表では取り繕った顔をしていても、裏で敵意を潜ましているかもしれないのだから、人を疑う勇気がなければ使い勝手の良い駒で終わるだけだ。

それが嫌なら近寄ってくる輩は漏れなく疑い、よからぬ真似をすれば頭部と胴体を切り離してやればいい。

 

「んで、ルクスさんは何やってんすか? 小銭でも見つけた?」

やや呆れ気味のシオンは、すぐ後方で伏せているルクスに問いかける。

 

「シオンが剣を振り回した時に、後ろにいた僕に当たりそうだったの!? なに、シオンにとっての僕は敵なの!?」

 

「小せえ事にいちいち突っ掛かりやがって。そんな器の小さい男だからお前はフギルの手のひらで踊らされてたんだよ」

 

「人の古傷さらっと抉るな! そろそろ本気で怒るよ!」

 

「そんな事より、あれの鎮圧が最優先だろ。さっさと烏賊ちゃん丸焼きにしようぜ」

 

「そんな事扱いするなよ!」

 

――あーうるさ。

 

今日もシオンは平常運転。

 

地上に戻って終焉神獣討伐にあたろうと、ルクスのもう一本の機甲殻剣へ指を差す。

ここから先が、これまでさほど役に立たなかったガン盾の王子様の見せ所だ。

 

「俺も本気出すから、そっち使って」

 

汎用機竜でも≪月華≫さえ振れるのであれば負ける気はしないが、大物を狩る際には、それ相応の得物でぶつかるのが最大の敬意。

終焉神獣相手ではワイバーンの装備では火力不足と見ているのルクスも同じ考えだったのか、首肯で同意の表明をする。

 

満を持して、装甲機竜《ミハイル》の登場だ。

 

内面世界でミハイルが跳び跳ねながら喜んでいるのを感じながら、シオンがその柄に手をかけようとすると……おかしいな。

 

異変に気付たルクスも、すかさず突っ込みを入れた。

 

「≪ミハイル≫はどこにあるの?」

 

「………………部屋に忘れちゃった。テヘっ」

 

「可愛い子ぶっても駄目だからね……」

 

ドジっ子アピールをしてみるが、受けはよくないみたいだ。

 

模擬戦で神装機竜を使う予定のなかった《ミハイル》は、リーシャから回収して以降は部屋の隅に立て掛けている。

 

人間とは失敗する生き物である。

失敗を繰り返して成長するのだ。

ならば、取り返しのつく失敗に腹を立てるのは筋違いではなかろうか。

 

ルクスはもっと寛容な心を養うべきだ。

他人のミスを執拗にぶり返す性質のシオンは切に願った。

 

「お前もまだやれんだろ」

 

サボり、いくない。

危険を顧みない特攻で、一時的にだがポセイドンを戦闘不能に追い込んだセリスにも働かせようと指を立てる。

 

「ちょっとシオン、セリス先輩は深手を負っているんだから」

 

確かにルクスの言う通り、活動限界ギリギリのセリスに役割を振ろうとするのは酷だ。

 

「無理強いはしねえよ。まあ、ただ……」

 

一拍間を取り、

 

「肩を並べてこそ信用に足る。それが出来なきゃただの足手まといだ。お前はどっちだよ、セリスティア」

 

しばし、躊躇うような沈黙が返ってくる。

割り切れていなくとも、足手まといになりたくなければ、その両足で立ち剣を取れ。

 

「私には使命があります」

 

揺らいでいた瞳がシオンを定めた。

 

「例えこの身が朽ちようとも、果たさなければならない使命が」

 

意を決したセリスは答える。

学園の危機に一人見物していられないという思いがひしひしと伝わってくる。

 

「ほれ、早く」

シオンが目で合図を送る。

 

観念したようにルクスは新たなもう一本の機甲殻剣を引き抜き、柄のボタンを握りながら声を上げる。

 

「顕現せよ、神々の血肉を喰らいし暴竜。黒雲の天を断て、《バハムート》!」

契約者の声に応じ、漆黒の機竜が姿を現す。

 

「黒い、神装機竜……」

それを見たセリスは呆然と呟く。

 

「お膳立てぐらいはしてやるよ。厨房に立ったことすらなさそうな大貴族のお嬢ちゃんに、烏賊料理は荷が重そうだしな」

留めは譲るが、報酬は譲らん。

ただし、第一の戦果が必須。

 

先陣切って飛び出したシオンは、女生徒たちが手放した武装の中からブレードを選択して手に取とると、待機していたサニアを越えポセイドンの眼前に迫った。

 

「無駄だ! 終焉神獣に正面から挑んで勝てるはずがない!」

サニアがそう主張するも、シオンは鼻で笑って一蹴した。

 

「身の程知らずだと笑ってるから、お前はいつまでたっても凡百の域からは抜け出せねえんだよ」

 

恐ろしくデカい敵だ。

下手すれば一瞬の油断でお陀仏ということもありえるだろう。

 

それでも、死後の世界と現世の狭間にいるこの瞬間には唯一無二の感情を抱ける。

 

下段からの突きより、シオンの攻撃は始まった。

 

振り回される触手は数知らず、ブレードはもはや疾風の如く、呼吸に合わせて七手立て続けに繰り出す。

 

次第に数の暴力は勢いを増していく一方だった。

 

飲み込まれまいと、シオンはブレードを投げては、刺さっているものを引っこ抜き、手近の触手を断ち切る。

 

孤独に終焉神獣へ立ち向かっていても、恐怖心は生まれず。

 

段々と意識と無意識の境が外れる感覚に、シオンは一種の高揚感を抱いていた。

 

今も昔も、追い求めていたのはこの一時だ。

 

ただし自制をかけようと、いつもより深い呼吸をとることで込み上げてくる激情を無理矢理抑え込ませる。

 

殺し合いにも限度ってものがある。

 

それを履き違えてしまえば、面白味に欠ける殺戮ショーにしかなり得ない。

 

殺るか殺られるかの紙一重に生きるからこそ楽しいのだ。

 

段々と内と外が混合し、次第に構築される剣の届く間合いだけの世界。

それはそれでまた一興。

 

だけども、男の武芸者なんてのは誰も彼も根底には、チャンバラ遊びに精を出していたあの頃の幼心が失われずに残っている。

 

その集団の一部が、ただ強さを競い合うだけでは飽きたらず、木剣で殴り合うだけでは飽きたらず、街中で真剣を抜く。

 

勝ち負け以前に、特有の中毒性に魅了された連中だからこそ、一方的な蹂躙は好まない。

 

シオンも例に漏れず、一方的な蹂躙は好まない。

 

張り合いがあるのならば、人でも獣でも化け物でも何でもいい。

 

伸びてくる触手を避け、すれ違い様の一刀を浴びせる。

剣身を鏡代わりに、がら空きの後方を確認すると、無防備な背中を狙われていた。

 

剣を引き戻すのは現在の力に反していて余計な動作を生む。

ならば振りぬいた姿勢から更に回転を加えるか。

 

『シオン君よね。こっちはこっちで大忙しだから、話があるなら簡潔に纏めてちょうだい』

 

最悪なタイミングで竜声が繋がった。

 

無事ノクトはレリィを回収をしてくれたようだ。

 

触手の大軍に囲まれながらシオンは、簡潔に纏めた一言をレリィへ伝える。

 

「金」

『用意してあげるから、被害が拡がる前に倒しなさい』

シオンの扱いにも慣れてきたレリィとの竜声は、たったそれだけのやり取りで終了した。

 

話が早いのは非常に助かる。

だが資金面の不安が解消されたことに安堵して、のんびりとしてはいられない。

 

「おらよ」

 

相手の出方を見た上での対応では、どうしても遅れが生じてしまう。

 

ポセイドンは種類によっては高い知能を持つ幻神獣の親玉だけあって、その遅れを突き続ける連携をとっているに違いない。

 

だからこそ機先を潰すための投擲が非常に有効に機能していた。

 

ところが墓標のように立っている武器の数も限りがある。

 

当然、拾って投げるを繰り返していたら数は減る。

 

実はシオンは地元に伝わる『剣豪将軍』の逸話に憧れていた時期もあり、地面に数々の武器が突き刺さっている景色を前に、古都の男児ならば胸を高鳴らせずにはいられない。

 

≪月華≫を出し惜しみしているのはそんな理由だったりする。

 

剣豪将軍ごっこに夢中になり過ぎて、手の届きそうな範囲のブレードの数を見落としていたシオンは焦った。

 

辺り一面の武器をすべて投げてしまったことで隙を晒してしまい、ポセイドンは好機とばかりに攻めたてる。

 

しかし、真横からの風切り音がシオンの鋭い感覚を刺激した。

高速で吸い寄せられたそれ――ブレードをキャッチすると、まるで踊るような剣捌きでその場を凌ぐ。

 

「助かったぜ王子様」

 

「どういたしまして」

 

≪バハムート≫の特殊武装≪共鳴波動≫。

周囲の物質に干渉し、特殊な力場を発生させて物を動かす能力。

物質を直接ぶちあてるほどの威力はないが、ルクスは落ちているブレードを手元に引き寄せ、それをシオンに投げたのだ。

 

ちらりとルクス側の戦況を伺えば、ポセイドンと遊んでいる間に、ルクスはサニアを戦闘不能に追い込んでいた。

 

盾になってくれたり、武器の搬送係りになってくれたり、雑用のスペシャリストだけあって中々使えるルクスであった。

 

ガン盾の称号から解放されたルクスも交戦を開始し、地上ではシオンの錆びることのない剣が光るが、腐っても終焉神獣。

描いたシナリオの通りには進ませてくれない。

 

シオンが跳躍しようとした時だった。

地中に潜んでいた触手が顔を出し、ワイバーンの脚部に絡み付いた。

 

機動力ありきのスタイルというのはシオン自身が一番良く分かっている。

 

それが封じられてしまえば恐れるに足らない。

 

片脚をとられたままのシオンは即座に切り落とそうとするが、装甲機竜の重量をものともしないポセイドンに持ち上げられてしまう。

 

舌打ちを交えながら体勢を整え反撃に移ろうとするが、そのまま客席へ打ち付けられた。

 

逃げ遅れた生徒が巻き込まれる最悪の事態にはならなかったが、観客席の一部はがれきの山と化した。

シオンの安否は白煙に包まれ、所々から漏れる悲鳴が悲惨さを物語っている。

 

だが幾度も死地を越えているシオンの悪運は強し。

 

軽く小突かれたくらいで眠れるほど軟弱な鍛え方もしてはいない。

 

「アァアアアアアアアアアアアッ!!」

狂声が空気を揺るがし、立ち込める白い埃が四散した。

瓦礫を払いのけ、息を乱しながらも立ち上がる。

 

砕けた装甲の破片により開いた傷口からの流血を気にも留めず、瞳孔が開ききった瞳でポセイドンから視線を外さないでいる。

 

人によっては一生もののトラウマを植えつけられるに等しいショックも、血が騒ぐ刺激としか感じていないシオンには逆効果。

 

恐怖心を煽られるどころか、むしろテンションがハイになっていた。

 

「はん。素直に死んどけば楽だったものを」

その様子を嘲笑ったのは、最前列に腰を下ろしている黒ローブだ。

対してシオンは、額より漏れる血を拭いつつ、眼光炯々とした異相でこう返した。

 

「まさしくその通りだ。天命から見放されたら悪足掻きをせず、柔順に受け入れてこそ生を全うするってもんだ。分水嶺を越えちまったら、その馬鹿はもう手遅れ。脳みその皺が倍になるってくらい考え込んでも、天に逆らってでも生き永らえた価値を見出だせず、この世に生を授かった事自体が過ちのように思えてしまう」

 

結局のところ、ノータリンこそが 亡霊や死人にも縛られず、意気揚々と技を磨いていけるのだ。

 

道を極めようとする熾烈な人の姿は、端から見れば狂人かと疑われさえするものである。

 

狂った人と書いて狂人。

 

ならば己は狂人か。

 

否定は出来ない。

 

剣は殺人をもって大願とする、なんて思想で人斬りを業としているイカれた奴とさほど大差ないのだから、それに該当するだろう。

 

道を極めようとした過程で、狂人へと生まれ変わったとしても大いに結構。

 

悩みに悩んで、道も悟れず技も進まず、混迷をさ迷い諦めの嘆息が出て、終いには剣を捨てようとする。

 

そんな中途半端な生き方をするより、狂人であることを誇りに持ちたい。

 

「まだ死にたくねえんだわ。だからお前が死んでくれ」

二つの眼で睨み殺そうとするかのような凄まじい形相でシオンは告げる。

 

死の宣告を受けたポセイドンは異常な気迫を感じ取り、本能が危機の排除を命じたのか、巨体を引きずりシオンの正面に位置を取った。

 

愛剣を呼び戻して雄剣を逆手に握り直す。

 

やっぱりコレがしっくりくると、シオンは思わず笑みをこぼした。

 

立身中正を絵に描いたような立ち姿、からシオンの体は高く踊り上がる。

 

「――舞うぞ、≪月華≫」

 

 




古都の歴史を遡れば、ボンバーマンがボンバーしたり、遠距離兵器OMIKATAが活躍したり、全速前進で撤退したド田舎の侍が妖怪首置いてけと化したりしていたんだと思います。
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