その運命に、永遠はあるか   作:夏ばて

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六十二話で4巻は終了すると予想



五十二話

 

 

体力的な面を考慮して、遺跡調査が午後に控えるこの日の午前中は、リーシャとセリスには自由時間を与えた。

 

ルクス組は演習場で体を動かしているみたいなので、二人もそこに交ざっていたようだ。

 

やることもないシオンは部屋で軽く套路を舞ってから、調査のための支度を整える。

 

そして早めの昼食をとり、空腹が満たされたシオンは睡魔に負けて爆睡してしまう。

 

何時までたっても降りてこないシオンを呼びに来たアルフィンが叩き起こすまで。

 

「くあー、やっぱ昼にすることと言えば昼寝に限るね。この国は昼寝を義務付ける法を作るべきだぁ」

 

「まあ今回ばかりは寝坊したお陰で、ひと悶着生まれずに済みましたので助かりました」

 

まさか肯定されるとは思わず、アルフィンの顔を見返した。

 

「何かあったのか?」

 

「いずれ分かると思います」

 

今この場で説明してくれてもいいのでは?

ただアルフィンが行けば分かると言うので追求しないことにした。

 

「そういやアイリとレリィも同行するんだったな。お前はどうすんだ?」

 

自衛手段を持たない人間を連れていくのは勿論危険だが、今回は護衛となる機竜使いが多いので、そういう編成となっている。

 

アルフィンはどうするのかを尋ねると。

 

「待機です」

 

「サボりか。偉くなったもんだなお前も」

 

「レリィ学園長からおつかいを頼まれましたので、サボりとは違います」

 

そう言ってレリィから与えられたらしい分厚い財布を見せてきた。

 

「お釣ちょろまかすなよ」

 

「よければバレない程度に抜いておきますが?」

 

「………三枚、いや四枚やっとけ」

 

「分かりました。では後程レリィ学園長にも報告しておきます」

 

自分から誘っておいて何だこの従者は。

表情を崩さないアルフィンに遊ばれるシオンはやれやれと首を振る。

 

 

「遅いぞ馬鹿者! 集団行動をしているのだから規律を乱すでない!」

 

『方舟』が近付く沿岸部へ到着すると、耳の奥に響く声量でリーシャに怒鳴られた。

いつも通り軽く手をひらひらとさせて五月蝿いというジェスチャーを送っておこう。

 

レリィも最早自由人のシオンを縛り付けようとするのは諦めたようで、苦言を呈してはこなかった。

 

「もう皆準備万端だから、最後に一言貰ってもいいかしら」

 

ただ別に一言求められた。

 

「じゃあ、宝を根こそぎ奪っていきましょー」

 

「一応あなたは騎士団の指南役なのだから、もっと気のきいた台詞をお願いしたいわ」

 

気のきいた台詞を貰ったくらいで動きに影響が出るとは思えないのだが、何故か期待した眼差しを生徒から向けられてしまっている。

 

そういやちょっと前にも似たようなことがあったな、と校内選抜戦の初日に教室で一年に発破をかけた時を思い返す。

 

今はあの新米だらけの時とは違い、学園の代表たちを前にしている。

 

「とりあえず困ったら俺を呼べ。幻神獣だろうが終焉神獣だろうがぶっとばしてやる」

 

化物退治は得意だから、お嬢様方にかわって率先して引き受けてやろう。

 

これ以上ない頼もしい言葉。

メンバーの期待にも答えることが出来たようだ。

 

「僕も呼んでもいいの?」

 

答えるまでもない疑問をルクスが投げてきた。

 

「おう、さっさと死ねや」

 

「相変わらず僕への対応だけ厳しすぎっ!」

 

当然ルクスは対象外だ。

 

 

島に隣接している『方舟』の内部へ潜る方法は、現時点では甲板中央部の円模様に一定時間立ち続ける方法しか確認されていない。

 

まずは岩場から甲板に移るために装甲機竜を召喚する。

 

シオンも機甲殻剣を振って《ワイバーン》を呼び出すと、やや不機嫌気味のミハイルがわんわん騒ぎ始めた。

 

〔ボク最近シオンと飛んでないよぉ! ワイバーンなんかよりボクと一緒にお空飛んだほうが、絶対に楽しいのに!〕

 

駄々をこねる子供に、シオンは無視を決め込みたい気持ちでいっぱいだった。

 

その時が来たなら呼び出そうとは思っている。

 

今のところ《ワイバーン》でも十分な戦力となっているわけで、神装機竜は強力な分、精神と体力の消耗が激しいので、必要とならば召喚する程度。

 

〔はいはい、また別の機会にな〕

 

それでもミハイルはわんわんと騒ぐのをやめない。

 

頭の中が煩くなってきたので、アルフィンにも援護をしてもらおうと試みるが。

 

「それじゃあお留守番よろしく頼むわね」

 

「了解しました。どうかご無事で」

 

飛び立つ直前のレリィとのやり取りが終わったアルフィンは、こちらに一瞥もくれずに宿舎に戻ってしまった。

 

言いくるめられそうにもないので、強制的に意識からミハイルの声を締め出すことで事なきを得た。

 

まだ子供なので、時間がたてば他に目移りして不満も忘れるだろう。

 

「フィーちゃんさんは休まなくていいの?」

 

ぶっ倒れたと聞いているフィルフィも、今回の遺跡調査には参加する予定らしい。

 

「ん、元気」

 

一応その身を案じてみたのだが、フィルフィは力こぶを作ってアピールしてみせた。

 

本人はそう言ってはいるが、実際のところは強がりなだけにも見えるので、コチラでも気にかけておくことに。

 

そうこうしていると、周りの面々が次々と甲板に上がっていた。

 

シオンも遅れないように飛翔して、先行しているメンバーの後を追いかける。

 

広い甲板の上をゆったりとした速度で飛んでいると、お目当ての古代文字で描かれている円が見えてきた。

 

しかし様子がおかしい。

 

学園の生徒のみならず、見覚えのない男たちも混じっている。

 

揉めている雰囲気ではなさそうなので、シオンは静かに降り立つ。

 

「先頭にいるのが、つい先ほどこの島に上陸したお姫様の親族よ。遺跡調査に協力すると申し出ていたのだけれど……」

 

近寄ってきたクルルシファーから説明を受ける。

 

髭を生やしたハゲ――ドバル侯爵と名乗った男とそのお供も遺跡調査に加わるとありがた迷惑な提案をし、自分が爆睡しているうちに話が進んでいたとの事だ。

 

「皆で仲良く宝探し~、って感じでもなさそうだな」

 

「ええ。協力といっても別々で探索する取り決めになったわ」

 

味方よりかは敵と認識するべきだ。

 

どう立ち回るか分からない以上、最悪こっちも命を落としかけない。

 

最後に転送先に幻神獣の群れが集まっていたという最悪な状態を回避するために、こちらを先に送り出す予定が、向こうの読みがズレて鉢合わせてしまった。

とクルルシファーは付け足した。

 

確かに内部に入った瞬間に幻神獣と顔を合わせ出鼻を挫かれたら士気も下がる。

 

ハゲてる癖に利口な貴族だ。

 

もし調査中に暇があったら、適当な瓶に海水を貯め、遺跡で発見した髪が生える液体として与えてやろう。

 

屑な遊びを思い付いたシオンは、愛用武器である《月華》を両手に握りしめた。

 

「どけお前ら。まずは俺だけ行かせろ」

 

円の中心に立ち、ドバルらを追い払うように剣を薙いだ。

 

「学園長、この怖いもの知らずの彼は噂の?」

 

「申し訳ございません。うちの怖いもの知らずで礼儀知らずの馬鹿が失礼を」

また馬鹿扱いされた。

だがそんなのは今はどうても良くて。

 

「もしこの先に幻神獣がうじゃうじゃ湧いてたら、お前とお前が危険だろ」

 

抜いた機甲殻剣で、機竜使いではないアイリとレリィを指す。

 

「邪魔と、そう言いたいんですか?」

 

突っかかってきたのはアイリだった。

 

抑揚のない声から感情は図れなかったが、シオンはありのままを伝えた。

 

「うん。邪魔でお荷物。だから万が一に備えて俺が先に突入して安全圏を確保してやるって言ってるわけ。俺ってばレディファーストってやつだから、超優しいでしょ」

 

「それ意味違うよ」

 

ルクスが的確なツッコミを挟んだ。

 

レディファースト云々は置いておき、安全に調査をスタートさせようと、シオンなりに気を使った結果だ。

 

「ここは彼のご厚意に甘えるのはいかがでしょうか」

 

へらへらとした顔つきで賛同してくるドバルに、シオンはいけ好かないと鼻を鳴らした。

 

別にこいつらのために動いているわけではない。

 

もし中で仕掛けてきたら、幻神獣よりもヒトのほうが恐ろしいってことをその身で分からせてやろう。

 

「よろしく頼めるかしら」

 

「あいあいさー」

 

レリィの承諾も得られたので、転送システムが起動されるまで剣をぶんぶん振り回して気合を入れる。

 

巣を掘り返されたアリのように幻神獣があふれていたら、《ミハイル》の出番があるかもしれない。

 

〔もしかするとキミが必要になるかもしれない〕

 

再度ミハイルに思念を送る。

 

〔えっ、やったぁ。ボクすっごい頑張るから、見ててねシオン!〕

 

確定したわけではないのにこのはしゃっぎっぷりは、すっからかんだった場合の事を考えたら、またヘソを曲げる恐れがある。

 

何はともあれ、まずは内部の状況を確認しなければ始まらないわけだが、シオンの予想はばっちり的中した。

 

 

〔嘘ついた! シオンが嘘ついたよ!〕

 

〔五月蠅いなキミは。かもしれないと前置きしただろ〕

 

幸か不幸か、歓迎をしてくれる幻神獣は一体も見当たらなかった。

 

やる気に満ち溢れていたミハイルから、嘘つき呼ばわりされながら後続を待つ。

 

ぼんやりと遺跡の構造を眺めての感想は、なんというか味気ない。

 

まるで夜盗に荒らされたあとの民家ように、足場すら確保できない世界が広がっていた。

 

その気になれば観光スポットとして整備できそうな『箱庭』と比べたら、あちこちに瓦礫の山が形成されている『方舟』はどう足掻いても観光地化は望めなさそうだ。

 

廃墟ツアーと銘打ってみたら可能性はありそうだが……無理か。

 

辛気臭くて入場料が取れそうもない。

 

遅れてレリィ達が船内に姿を現すと、まず一帯の惨状について疑いの目を当てられた。

 

人の事を破壊神か何かだと勘違いするのはやめていただきたい。

 

自分は手をつけていないことを伝えると、調査内容の最終確認をして行軍を開始した。

 

 

 

 

 

「それにしても、過剰戦力じゃありませんか?」

 

部隊を幾つかに分けて探索をしている最中に、同行しているアイリがぼやいた。

 

アイリを囲むように進んでいるのは《ワイバーン》が二機に《ドレイク》が一機。

 

「No,組み合わせでは各部隊、神装機竜使いが最低2人以上になるので、過剰戦力ではありません」

 

「それは分かっていますが……」

 

ノクトが諭そうとしても、どこか腑に落ちない表情のアイリだった。

 

ただの神装機竜使いの力関係が横一列に並んでいるのなら話は変わるが、抜きん出た二人がこの部隊に振り分けられているなら、過剰という表現でも正解だろう。

 

「ルクスさん、どうやらアイリは反抗期に突入しちまったみたいだぞ。お兄ちゃんとの遺跡調査は嫌みたいだ」

 

「いや、そういう意味でいってるんじゃないでしょ。僕とシオンが一緒の部隊にいるのが可笑しいってことじゃない」

 

「攻撃手段ないからじゃね? 敵が出現したらルクスさんは撒き餌にしかなれねえんだし」

 

「撒き餌って何だよっ!? せめて囮って言ってよ!! あとリーシャ様に作ってもらった武器の存在を忘れないで!!」

 

アイリから見て右には兄であるルクスが。

 

左にはクラスの副担当であるシオンが。

 

攻撃全振りの撃剣家と、ガン盾の王子様が両翼に控える最強の布陣でアイリの周囲を固めている。

 

「大体よ、どうして年齢が一つ上のあんたが混じってんだよ。同い年の奴らにハブかれてんのか? 大丈夫? 友達いる?」

 

攻撃全振りの撃剣家は、野郎との遺跡調査がお気に召さなかったようだ。

 

ルクスがいなければ美少女二人と楽しく遺跡を回れたのにと、嫌味を吐いた。

 

「そ、そんなことないよ。リーシャ様でしょ、クルルシファーさん、フィーちゃんにティルファーもいる。クラスの皆も優しくしてくれるし……」

 

「学園では男は希少な存在だからな。動物ふれあいパークにいるうさぎに優しくするのと一緒ですよ。ルクスさんだから特別ってわけじゃない。むしろそのポジションにうさぎを配置してたら、ルクスさん以上に可愛がられていただろうな。お前はうさぎ以下だよ」

 

「その例えやめてくれないかな? 今ちょっとシオンのこと嫌いになったよ」

 

「よっしゃあぁぁぁぁ! これからどんどん好感度落としていくぜ! 誰も男からの好感なんか求めてねえんだボケぇぇぇぇ!」

 

「お前無敵かよっ!」

 

ああだこうだと中身のない言い合いをしているが、共に周囲の警戒は怠っていない。

 

「兄さんとシオンはもっと緊張感をもってですね……」

 

初めて遺跡内部に踏み入れたアイリは、あまりの緊張感のなさにこめかみをおさえた。

 

馬鹿騒ぎしていて幻神獣が寄ってきたらどうするつもりだとアイリは言いたげだ。

 

「ところで」

 

と、前置きをして、意地の悪い視線を送るノクトがアイリへと耳打ちをする。

 

「願ったり叶ったりの展開になり良かったですね。ルクスさんとシオンをひとり占めできる機会なんてそうそうありませんから」

 

「なぁっ!」

 

思わず大声を張り上げそうになったアイリだったが、咄嗟の判断で口を塞ぐ。

 

「ひとり占めって、ノクトもいるじゃないですか」

 

「私の事は気になさらず、どうぞこの空気を楽しんでください」

 

「私だってもう兄離れしていますし、構ってもらう時間がなくても寂しくなんてなりませんからね。それにシオンを独占するって、恋する乙女じゃないんですから」

 

「別にそこまでは言ってません」

 

ですが、と挟んでからノクトはアイリを真っ直ぐに見据えた。

 

「シオンがアイリを特別扱いしているのは事実ですし、アイリがシオンに懐いているのも事実ではないかと、客観的な立場からは分析できます」

 

「……誰が誰を特別扱いしていて、誰が誰に懐いているんですか」

 

「特別扱いしてくれるシオンに、アイリが懐いています」

 

一言でまとめられてしまう。

 

特別扱いをされているか否かについては、アイリも思い当たる節がないわけではなかった。

 

先月の選抜戦で反対派一蹴の依頼をほぼタダ働き同然で動いてくれたのは記憶に新しい。

 

アイリとレリィには、必ずシオン、ルクス、セリスの誰かを必ず付けると提案したのだってそうだ。

 

特別扱いなのかは定かではないが、謎の甘さがあることくらいは、アイリでも察しがついた。

 

「やはりアイリは保護欲が掻き立てられるからでしょうか」

 

「やはりってなんですか」

 

それでは病弱だったあの頃からちっとも変わっていないではないか。

 

結局は誰かに守られていなければ生きていけない。

 

少なくとも、目の前でどうでもいい論争を繰り広げている男たちには、そのように見られている。

 

「私もシオンに剣を習うのはどうでしょうか」

 

最低限の自衛手段を持っていれば、彼らの見方も変わるのではと期待を込めたが、ノクトからの返答はNoだった。

 

曰く、アイリの運動神経では危険だと。

 

名案だと思ったのだが、こうも親友に真っ向から反対されるともなると、やりきれない思いが胸を曇らせる。

 

そしていつもの如く、自身の運動神経の無さを呪ったのであった。

 

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