ソイツは昔と何ら変わりない無邪気な笑みで楽し気に笑う。急に光と共に現れたソイツに言葉をなくした俺は何も言えずにただただあっけにとられていた。
――なっ!?
そんな驚きの言葉を漏らしたのは誰だっただろうか? 俺だった気もするし、ソイツの目の前に立つ青い槍兵だった気もするし、はたまたその奥の赤い外套に身を包んだ黒い肌の兵士だったかもしれない。いや、はたまた全員が知らず知らずの内に漏らしていた可能性もある。ただ一つ分かることはこの場にいたソイツ以外の全員がソイツの急な登場に少なからず驚いていた。
「久しぶりだね、先輩。まさか、こんな再開になるなんて」
ソイツは昔から俺の事を先輩と呼んでいた。そして、敬語を使わないのも昔のままだった。記憶よりも少しだけ大人びていたソイツは驚愕の色を隠せないでいる俺に「詳しい話はまた後で」と言って笑うと前を向き、青い槍兵と向き合った。
「まさか、嬢ちゃんがサーヴァントになって召喚されるなんてな」
「久しぶりだね、クーフーリン。私自身もビックリだよ。まさか、召喚されるなんて」
どうやらソイツと槍兵は知り合いらしく、言葉を交わしていた。少なくとも俺はあんな槍兵なんて見た記憶もないため、ソイツが海外に行っている間に知り合ったのだろう。
「エミヤも久しぶりだね」
ソイツはさらにその奥の赤い外套を着た男にも声を掛けた。その声は気軽な様子でまるで旧友に挨拶をするかの様だった。どうやら赤い兵士とも知り合いだったらしい。海外でどんなバイトをしていたのか俺は知らないが、どんなバイトをすればこんな人種の人達と知り合いになれるのだろうか。
まさか海外で傭兵まがいのことでもやっていたのだろうか……。
そう、考えて自分でないないと内心首を振る。確かにコイツは運動神経はいいほうだが、あくまでも同年代の女子の中では、という前置きが付く。目の前の青と赤の兵士たちみたいな人外と張り合えるほどの力はない。
「あぁ、久しぶりだな、マスター。いや、この場合は立香と呼んだ方がいいのかな?」
「そうだね、エミヤのマスターは今は違う人だしね。それを考えれば名前で呼んだ方がいいのかな……? いや、これが聖杯戦争だと考えるとクラス名で呼ぶのが正解?」
「クラス名か……。そう言えば、キミのクラスは何のクラスになるのか?」
エミヤと呼ばれた赤い兵士の問いかけに、立香は笑って、
「さぁ、何だと思う?」
こう返した。
「キミの今の姿からするに、キャスター辺りが本命なのだろうが……まぁ、別に何でもいい。どうせ誰が来ようともあの場にいた英霊なら誰しもがその真名を知っているのだからな」
「というか皆顔見ただけでもう真名が分かるんだから、クラス名で呼び合うなんて無駄なことをしなくてもいいのかもね」
「それもそうだな。あの場所にいた英霊ならみんな顔見知りになるし、それにあの場にいなかった英霊がこの聖杯戦争に呼び出される可能性は皆無だろう」
未だに蚊帳の外の俺を置いて立香とエミヤ、そしてクーフーリンは笑い交じりに会話を続ける。先ほどまではあれだけ殺気に溢れ俺を殺そうとしていたというに今では雑談交じりの会話となっていた。
「本当言えばこのままのんびりあの場所の様に雑談に花を咲かせてーんだけどな。生憎ここはあのカルデアじゃねぇ。そして、俺が呼ばれたのは聖杯戦争と来てる。このまま駄弁っている訳にはいかねぇだろ」
そう言ってクーフーリンは右手に持っていた朱槍をクルクル回して、構え直した。その後ろのエミヤの手にもいつの間にか、二本の刀が握られていた。
――雰囲気が変わった。
槍兵は槍を構え獲物を仕留める猛禽類の表情になり、後ろの赤い外套の兵士は何時でも斬りかかれるように重心を沈める。
――心臓がうるさい。
殺されそうになったからこそ分かる。目の前の兵士たちには絶対に勝てないと。
そう彼らは人の枠を超えている。格闘技どころか喧嘩すらろくにやったことのない俺では一万回やったところで一万回殺される。
「いやー、二人ともやる気だねぇ」
しかし、俺の目の前に立つ後輩はカラカラと能天気に笑う。立香も分かっているはずだ。そいつらと知り合いであれば、絶対に勝てるわけがないということを。それでも、立香は笑った。表情は見えずともその声色だけでそれがただの強がりではないことがわかった。伊達に付き合いは長くない。
「嬢ちゃんに一つ聞きたいことがあるが、嬢ちゃんは戦えるのかい? 確かに嬢ちゃんは世界最高のマスターなのは認めるが、戦闘能力は一般の魔術師並みだった筈だ」
「うふふふふふふ。クーフーリン、貴方も分かっているんじゃない? 今、私は聖杯戦争に召喚された。それだけで答えとしては十分じゃない?」
「――あぁ、そうだな。それだけで十分だった」
聖杯戦争やら、マスターやらよく分からん単語が飛び交っているので、俺には何や何やらさっぱりなのだが、クーフーリンもそして、後ろに控えるエミヤも立香の答えに納得したのか首を縦に振っていた。
「それじゃあ、嬢ちゃん、得物を出しな。昔の好だ。それくらいの時間は待ってやろう」
「へぇーいいの、クーフーリン。そんな余裕ぶって?」
「余裕も何も、嬢ちゃんの力が気になるだけだ。確かに嬢ちゃんを知らない英霊はいないだろう。でも、英霊の中だけで有名なだけで、一般人に嬢ちゃんのことは知られてない。知名度がないにも等しい。そんな嬢ちゃんがよもや守護者でもなく英霊として呼ばれたんだ。その力気になるに決まっているだろう?」
「なるほど、それはクーフーリンらしいね。なら、待ってもらうのも何だから早いうちに手の一つを見せてあげるよ」
立香は、そうクーフーリンに言うと、クルリと振り向きこちらを見た。
「先輩、少し待っててね。直ぐに終わらせるから」
その笑みは俺の知っているころよりも少しばかり大人びており、何と言うか……こう、美人になっていた。まぁつけあがるため本人には死んでも言ってやらんが。
「さぁって、なら期待に応えて手の内の一つを見せるよ」
彼女はクーフーリンの方に向き直り、元気にそう言うと、ローブのような服の袖から何やら一枚の御札のような物を取り出した。
「「それはまさか!?」」
俺にはただの御札にしか見えないのだが、クーフーリンもそしてエミヤもそれを知っているようで驚愕の声を揃って上げる。何だか分からんが凄いものらしい。これは後から立香に聞いた話になるが、これは呼札と呼ばれるものだったらしい。
「さぁ、何が出るか、誰が出るかはお楽しみ――」
さっぱり状況が分からん俺を置き去りにして、立香はさらに続ける。
「――抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
まるで、どこかの中二病患者が考え出したようなイタイセリフを立香が言う。これで何も起きなければ本当にただの痛い奴だ。ついでに笑える話にもなった。ところがどっこい現実はそうならず、またもや、飛んでも現象が起こるのだった。
立香がそう言い放ったとき、立香の目の前――立香とクーフーリンの間――に突如光り輝く魔方陣が出現した。それと同時にそこから飛び出す、嵐にも似た風。そして立香は手に持っていたお札をそこに投げ入れた。
――光が強くなる。風が強くなる。
思わず目を閉じた。
光と風が止んだのは直ぐだった。
「――なっ」
そして目を開けた時、魔方陣は消え去っていた。その代わり魔方陣があった場所には一人の人物が立っていた。クーフーリンと同じく赤い槍を携える女性。太もも辺りまで伸びる長い艶のある黒髪が夜風に揺れた。
「影の国よりまかり越したスカサハだ。お主は……ほう、なるほど、今朝ぶり……いや、この場合は久方振りという言葉が正しいか……。なにやら面白いことになっているようだな立香」
いきなり現れた謎の女は自らをスカサハと名乗るのだった。
「そうだね、久しぶりだねスカサハ」
「なっ――まさか!」
「なんで、アンタが……」
立香、エミヤ、クーフーリン、と三者三様のリアクションをとるなか、このとんでも状況についていけない俺はただただ黙ることしか出来なかった。
俺からして見れば、よく分からん状況でさらによく分からん人物が現れやがった、ってな感じだ。もうこの際誰もいいからいい加減説明してくれ。