「……見えるというのも、考え物だな」
私は左目を抑えながら、そうつぶやきながら、眼下にある洞穴を一瞥した。
2人を乗せた後、
そこは森の中にある山のふもとで、天然の洞穴が一つ存在した。
私は振り返り、2人に告げる。
「しばらく卿らはここで待っているといい。万一がある。卿らを人質にとられると面倒だからな」
「分かりました」
「……(コクッ)」
私は二人の反応を確認した後、
自由落下で、徐々に加速していくが、宝物庫にある宝具を発動して緩やかに着地する。
「……」
私は風の流れを確認した後、洞窟の入り口にあるものを置いた……。
――*――*――*――
「なんだ、今日も収穫なしか?」
「へ、へい。すいやせん」
ヒゲ面の男に対し、傷の男はへこへこと頭を下げる。
「……まあいいだろ。あの上玉2人いるしよ」
「片方変わってますがね」
「美人には違いねえが」
ヒゲの男の周囲にいたほかの男たちがそういうと、げらげらと品の無い笑いを響かせる。
「さてと、今日もあいつらまわすとすっか」
「お頭、最近それしかしてませんぜ、俺たち」
「まあ、良いんじゃねえか? しばらくは食ってまわして寝る生活でも困らんしよ」
ヒゲの男たちがそういっていつもの部屋に行こうとしたが……。
「あん? 何だこれ」
足元に煙のような物が地面を這うように押し寄せてくる。
「おい、誰だよ入り口に火をつけた馬鹿は……。おい、ちょっと見てこい」
ヒゲの男は舌打ちすると、傷の男に命令する。
「へ、へい……あれ」
入り口に向かおうとしたが、傷の男はそのまま倒れてしまう。
それにつられるように、他の賊たちも倒れていく。
「おい、どういう……」
困惑しているヒゲの男もふらりと体が揺れてそのまま倒れた。
「お、お頭……。ちからがはいらねえよ……」
賊の一人の言葉に、ヒゲの男は答えられなかった。
「ふむ、神経毒の量は、まあ問題ない範囲のようだな……」
代わりに、入り口のほうから歩いてきた金髪の男が興味深そうに賊たちを見ながらそうつぶやいた。
「だ、誰だてめえ。人の根城に勝手に入り込みやがって……」
ヒゲの男が言葉を続けようとしたが、傷の男とその部下2人が割り込む。
「お、お前……!!」
「約束が違うぞ!! 今回は見逃すっていっただろ」
「嘘付きやがったな!?」
3人の抗議を聞いた男は、首をかしげる。
「奇妙なことを。私は確かに前回卿らが悪事を行いかけたことを見逃しただろうに」
そういった後、彼は続けた。
「だが次にあったときに皆殺しにしないとはいっておらんよ」
彼はそう告げると、指を鳴らす。
すると賊たちの頭上に黄金の波紋が現れ、そこから聖剣魔剣を始めとした様々な武器が顔を出す。
かれは賊たちの横を通り過ぎた後、ある部屋に繋がる扉に手をかけた。
「おい、てめえ、何するつもりだ!!」
賊の頭に対し、男は呆れた顔で答える。
「簡単なことだ。卿らを皆殺しにした後、ここにいる2人を回収する。……ただそれだけだ」
彼は扉を開くと、中から漂う匂いに顔をしかめた後、部屋に足を踏み入れた。
そして部屋の扉を閉める前に振り返る。
「では、Auf Wiedersehen Diebe」
その言葉と共に、彼らの頭上にあった武器が射出され、同時に彼は扉を閉めたのだった……。
――*――*――*――
意図的に嗅覚をカットしていなければ確実に顔をゆがめるであろう匂いが満ちた部屋の中、私の目の前には二つの牢屋があった。
「……ん? 今日は1人なのか」
その片方から、声がしたのでそちらを向くと、某良妻を名乗る狐のアルターエゴともいえるキャットが眠い目をこすりながらこちらに問いかけた。
「……外にいる賊は皆殺しにした。卿らが望むならばこちらで保護する」
「おう、それは助かる。……と言いたかったが、もっと早く来て欲しかった」
私の言葉に一瞬笑顔を見せたタマモキャットだったが、格子で隔てられた隣の部屋を悲しげな目で見て言葉を零した。
「……」
私は隣の牢の寝台に寝かされた虚ろな目の女性を見たあと、問いかける。
「卿に聞く。彼女は卿のマスターか?」
「……正解ではあるが、はずれだ。パスこそあるが、今起きてる聖杯戦争とは関係ないのでな。サーヴァントのマスター」
眉を下げながら答えた彼女に対し、私は目を細めながら続けた。
「なるほど……。ではもう一つ。これは現在私が出せる提案だ。1つは一思いに楽にさせる。2つ目は私が一時的に保護し、自然に立ち直るのを待つか。3つ目は私の荒療治を受けさせるか……だ」
「……3つめを選んだ場合何が起きる?」
タマモキャットは私の知識で知りうるよりも冷静に問いかけた。
「成功すればすぐにでも社会復帰できるだろう。失敗すれば程度にもよるが、立ち直るための期間が長引くなるかもしれん」
「……」
彼女は真面目な顔でしばらく表情を硬直させた。
だんだん眉をひそめて言った後、こちらを見つめて――
「アタシを奴隷のようにこき使ってくれて構わない。この体を嬲り者にしようと一切文句は言わない。だからどうかご主人だけは助けて欲しい」
土下座をした。
「――……」
私は少々驚いて硬直した後、私は自らを嗤った。
「良かろう」
私はそういって宝物庫から
「これでも着るといい」
私は宝物庫から適当な服を見繕ってタマモキャットの傍に出現させるが、彼女は首を振る。
「アタシは魔力で編むから不要だ。……それよりこれをご主人に着せてもいいか?」
「ああ。……ついでにこっちも使え。ないよりましだ」
私はそういってタマモキャットの傍に水の入った桶とタオル数枚を出した。
その後私は扉のほうへ向いて告げる。
「綺麗にして服を着せたら言うといい。荒療治をするからな」
「無駄に紳士ぶりだが、今はそんなこと言っている場合ではないと思うが?」
私は彼女の抗議を聞いた後、ため息を付きながら振り向いた。
そしてうつろな目の彼女の傍まで移動し、タマモキャットと共にタオルを水につけて倒れている女性の体を清めていく。
そこで気がつく大小の傷や痣、そしてそれらが直った痕がある時間の流れを感じさせる存在の数々。
「……キャット」
「どうした、恩人」
女性にノースリーブの服を着せながら聞き返すタマモキャット。
何故このタイミングで呼称が変わったことにいささか首をかしげながら問いかけた。
「私のサーヴァントは治すことに特化している。彼女なら荒療治なしで心も体も元に戻すことが出来るだろう」
「むっ、それは朗報。では早速行くぞ」
彼女はそういうと、女性をお姫様抱っこして扉の前まで移動する。
「……恩人。扉が開けられぬ」
「……下がれ、キャット。扉の向こうはまだ麻痺毒のガスが残っているはずだからな」
私はそういって彼女を下げると、宝物庫を開き、芭蕉扇を取り出して扉を開けるとすぐに芭蕉扇で風を起こし、同時に宝物庫から風を出してガスを総て洞窟からあらかた追い出す。
「……これはひどい。もし暇なときにこの現場を見たのなら、メイドはミタをせねばならなかっただろう……」
ガスが消えた後に見えた部屋の惨状を見たキャットはそう零す。
全員頭をカチ割られたり、心臓を貫かれた状態で発見されて部屋が血の海だからだ。
(後で足も洗ってやらぬとな)
キャットの足を見てそう思いながら、私はキャットと共にその場を後にした……。
――*――*――*――
「ラインハルトさん!!」
洞窟から出ると、そこには
「……
「は、はい」
彼女はそういうと、どこからとも無く短剣を取り出した。
「コルキスの女王の宝具か……。アタシのご主人を助けてくれ」
キャットはそういうと、抱きかかえていた女性をそっと下ろした。
「……あれ!? ラインハルトさん、この人サーヴァントですよ!?」
短剣を使おうとしたメディアだったkが、はたと止まった後、キャットを見て混乱した様子でこちらに問いかけた。
「確かにサーヴァントだが、今回の聖杯戦争に関係は無い。とにかく治療をしてくれ」
「は、はいっ!」
私の言葉に対し素直に頷いた彼女は真剣な顔をした。
「どうか誰も傷つけぬ、傷つけられぬ世界でありますように……【
そういって女性の心臓に短剣を振り下ろすと、短剣が輝き、女性の体に光が移る。
そして女性の全身を包み込み、徐々に様々な傷を癒していく。
「……」
目の前で起きている出来事に呆然とする陳元龍。
そして、光が完全に消えたると、女性はゆっくりと目を開いた。
「ご主人!!」
キャットは涙をポロポロと零しながら女性に抱きついた。
「きゃ、キャット? あれ、此処はどこですか……?」
彼女はサーヴァントに驚いた後、周囲を見ながら首をかしげる。
「あの、申し訳ございませんが、此処はどこなのでしょうか?」
私たちに気がついた彼女は首をかしげながら問いかける。
「陳元龍。すまぬが答えてくれるか?」
「……徐州下ヒ郡。正確に言えば豫州との境に近いはずだよ」
少し思い出すようなそぶりで陳元龍はそう告げた。
「……そ、そうですか」
そう言葉を口にする女性。
しかし彼女の様子がおかしい。
「顔色が悪いが、何かあったのかね?」
「あ、あれ? 私の宝具はちゃんと発動したはず……」
私の言葉に不安そうな顔をするメディア。
「だ、大丈夫です。今までの記憶が一度に流れてきたので……」
そう答えた後で続けた。
「しかし困りました。私たち、行くあても帰る家もありません」
「なら、ボクの家に来る? 使用人でよければ仕事も用意するよ」
考えるそぶりを見せた後、陳元龍が問いかけた。
「あ、それもありがたいのですが……」
女性はこちらを見て続けた。
「そちらの方に助けていただきましたので、もしよろしければ、私の出来る範囲で恩返しをさせてください。こう見えてもタマモキャットからメイドとしての技能は一通り叩き込まれていますので、炊事洗濯はお手の物です。……賊に汚された女など近くに置きたくないとおっしゃるのでしたら、諦めますが……」
彼女に対し、私は目を細めて問いかけた。
「……野宿かも知れんぞ?」
「構いません。今までの生活に比べればなんと言うこともありません」
「私の気の向くまま犯されるかも知れぬぞ」
「ぜひとも汚れてしまった私の体を、貴方様の色に染めてくださいませ」
「奴隷のようにこき使うだろうな」
「生きる意味を見出せぬ私に生きる意味を与えてくださるのでしたら、大歓迎ですわ」
「……」
私は内心頭を抱えながら自問自答を始めた。
――何故此処まで好感度(?)が高い?
――あと
――それに彼女を私は何故
疑問が浮かぶが、解決することは無く溜まるだけ。
私は最終的にため息をついた。
「分かった。卿には色々私の身の回りのことをしてもらおう。ついでにそちらのタマモキャットも来てもらえるかね。それならば離れ離れにもならぬだろう」
「!! ありがとうございます、旦那様」
「おうさっ。今後ともよろしくなのだぞ、グランドなご主人」
二人の発言を聞いて、私は突っ込みを入れた。
「キャットの私への呼称も大概だが、そちらの卿の呼称も何故そうなった?」
「……何故か分かりませんが、そう自然と口から出ていましたので……」
女性は律儀に答えた後、はっとする。
「これは失礼を。まだ自己紹介していませんでした。私は孫乾、字を公祐と申します。そして真名を
「ご主人が主と認めたのだから、恩人はアタシにとってご主人のご主人。だからこそのグラマス。だがこれでは違う意味にとられるからグランドなご主人と呼ぶことにした。この野生のタマモ、飼いならされた以上この身朽ちるまで犬馬の労を惜しまぬ所存である。ぜひともタマモキャットと呼ぶと言い、グランドなご主人!」
主が主なら、従者も従者と言うことなのだろうか。
私が呆然としていると、同じく呆然としていたメディアが陳元龍と話していた。
「……ど、どうしましょう。話が急転直下過ぎて、私話についていけないんですが……」
「安心して……とはいえないけど大丈夫。ボクも同じだから」
知らないうちに絆を深めている2人に少々驚いた後、私はメイドな主従に告げた。
「美花、タマモキャット。私と共に来る卿らを、私は歓迎しよう」
こうして私は、優秀だがどこかおかしいメイドを2人仲間にすることとなった……。