恋姫無双 黄金の獣と聖杯大戦   作:月神サチ

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「最初の一歩というものはなかなか踏み出せないし、それを良い方向で後押ししてくれる人はなかなかいない。■■と出会えたのは、そういう意味では間違いなく最高の出会いだったといえるだろう」

~~白き御遣いと呼ばれた男の、晩年の日記より。一部検閲により削除~~


序章 白き御遣い
白き御遣い 華北に立つ


「―――――」

 

顔に降り注ぐ日差しが、夢の中のまどろみから俺の意識を現実に引きずり出した。

 

ほとんど反射的に手で顔にかかる日光をさえぎりながら、目を開く。

 

「……アレ?」

 

俺の視界に広がるのは、見慣れている塗装された天井ではなく、歴史ある旅館のような板張りの天井だ。

 

その事実に首をかしげながら上半身を起こし、周囲を見渡す。

 

格子のつけられた窓、木製の机と本棚、壁、そしてベッドの寝具。

 

いずれも俺の知らないものばかり。

 

「一体どういうことなんだ……?」

 

すると、遠くから足音が近づいてきた。

 

このときパッと思いついた選択肢は3つほど。

 

一つは普通に起きておく。

 

もう一つはドアの死角に隠れ、扉を開けて入ってきた瞬間を狙う。

 

最後の一つは狸寝入り、つまりは寝たふり。

 

――普通は一つ目でいいはずだが……。

 

だんだん近づく足音を聞いていると、不意に不安が湧き出た。

 

(普通に起きてるよりも、寝ているほうが、やってきた相手の対処がしやすいかもしれない)

 

俺はそう思い、寝たふりをするという選択肢を選んだ。

 

(呼吸を少し深めに、そして間隔を長めに……)

 

そう思いながら扉に背を向ける体勢で目をつぶっていると、扉が開く音がした。

 

「……まだ寝ているみたいですね」

 

声からして女性、あと予想だが、自分とそこまで歳に差がない気がする。

 

そう思っていると、再び扉が開く音がした。

 

「輝理、御遣い様の様子は」

 

「まだ寝てるみたいです」

 

男の人、それも結構な御歳ではないかと思われる、ややしわがれた声に対し、女性の声がこたえた。

 

(……御遣い?)

 

俺の頭の中に浮かぶ疑問符。

 

「……のう、輝理や」

 

「どうしました?」

 

なんか歯切れの悪い態度の男に対して、首をかしげるような女性の声。

 

「……あの管輅の占いを教えた儂が言うのもあれなんじゃが、本当にこの男が大陸に平和を齎す天より遣わされし、御遣いの片割れ『白き御使い様』何じゃろうか?」

 

「だって『輝く白き衣を纏いし白き御遣い』って言われていましたし、こんな洋ふ……衣を見たことありますか?」

 

『質問を質問で返すな』って、じいちゃんがこの場に居たら突っ込みそう、などと思いながら、俺は話の続きに意識を向ける。

 

「……絹でも、流石にここまで綺麗に光る物はない。儂の知る限りではこんな衣見たことないわい」

 

「皇帝の財を管理する少府卿を務めたことのある秦様が見たことない衣なら、この大陸のどこを探してもきっと見つかりません。ならば、天の国で作られた物、と考えれば納得できるのでは?」

 

「……しばらくは、様子見じゃな」

 

男がそういうと、1人分の足音がして、扉が開く音がした。

 

「儂は城に行って来る。今日は休みにしておくから、その方を頼んだよ」

 

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

女性の言葉と共に、扉が閉められる音が聞こえた。

 

「……さて、そろそろ寝たふりをやめて起きてください。私が来た時点から、寝た振りしてるの、気が付いているので」

 

足音が聞こえなくなったころ、彼女は俺のほうに向かって、そう告げた。

 

「……」

 

カマ掛けかと思ったのと、なんか指摘されて、じゃっかん後ろめたさがあったことから、俺は行動が出来なかった。

 

すると、近寄る気配と、寝台に自分以外の体重がかかる音が響く。

 

そして……。

 

「――――!?」

 

自分の耳にそーっと吹きかけられるどこか甘い香りの吐息。

 

予想外のことに俺は思わず体を反応させた。

 

「……さて、これで起きないのでしたら、もう少し過激なことをしましょうか。まあ、御使い様がそういう趣味がおありなら、このまましても構いませんが……」

 

「ごめんなさい。起きます」

 

これ以上寝たふりをしていると、何が起きるか分かった物ではなかったので、即座に返事をして、ほぼ同時に無理やり体を動かして、彼女のほうを向いた。

 

――さて、ここで問題だ。

 

耳に息を吹きかけることが出来る体勢の女性のほうに、寝転ぶように向いたら何が起きる?

 

答えは――。

 

「えっ」

 

「――――!!」

 

俺の目の前に見えたのは、黒い服の上からでもわかる、とてもたわわに育った双丘です、本当にありがとうございました。

 

ハッとした様子の彼女が少し慌てて後ずさりしながら、自分の胸を腕でかばうように隠す。

 

「あ、その、そういうつもりじゃあ……」

 

俺が彼女の反応を見て慌ててそういうと、彼女もハッとする。

 

「す、すみません。しばらく本格的に体を洗っていませんので、不快なにおいを感じさせてしまったかと思い、つい……」

 

彼女はそういった後、扉のほうを向いてなにやら1人でぶつぶつ言い出した。

 

「だ、大丈夫だよね。私汗臭くないよね……? でもやっぱり……が……い……」

 

そのあとため息をついて、少しすると、彼女はこちらに振り返った。

 

そこで改めて彼女を見ることが出来た。

 

身長は俺の頬くらいまでの、女性としては少し背が高い部類に入るだろう。

 

体格は出るところは出て、締まるところは締まっているモデル体系。

 

髪はやや紫っぽさがある黒に近い色で、肩にかからないくらいの長さ。

 

やや幼さのこる顔つきで、濃紺の瞳の左下に泣き黒子がある。

 

服装はチャイナドレスを参考にしたような、少し変わった黒地の服だ。

 

「はじめまして、私は徐庶。字は元直といいます」

 

「俺は、北郷一刀だ。一刀って呼んでくれ」

 

彼女の言葉を聞いて、俺は反射的に答える。

 

挨拶と自己紹介は大事と言われたことを思い出していると彼女が問いかけた。

 

「えっと、姓が北、名が郷、字が一刀で合っていますか?」

 

「……(あざな)?」

 

俺が聞きなれない言葉を鸚鵡(おうむ)返しすると、彼女がハッとした。

 

「あ、もしかして天の国では字がないのでしょうか」

 

「ちょっと待って。このまま話しているとなんか致命的な食い違いを起こしそうだ。ひとまず一つずつ互いに質問する形で良いかな?」

 

俺が提案すると、彼女は少し考えた後、頷いた。

 

「じゃあ、先がさっきしてた質問にこたえるね。君の名乗り方でいくと、姓が北郷、名が一刀になる。一刀って呼んでくれ。字ってのはよく分からないから、教えてくれるかな?」

 

俺がそういうと、彼女は頷いた。

 

「字はまあ、名の代わりに名乗る自分でつけた名前です。真名はもちろん、名を勝手に変えることなんて言語道断ですからね。でも名で呼ばれたくないとかの理由がある人は、字を名乗ることで、真名を預けるまでは、字で呼んでもらえるという利点があります。ただし」

 

彼女は強調するように一度切って間を空けた。

 

「ころころ字かえるとかすると、なんて呼べばいいかとか混乱して、人が寄り付かなくなるので一度決めて名乗ったら、名乗り続けるのが基本です。なのでそれを考慮して字を考えない人もいますね」

 

「まあ、妥当だよな」

 

姓名をしょっちゅう変えてるやつ相手が友達に居ようものなら、会うたびに名前を確認する必要があって、辟易してしまうだろう。

 

「えっと、では私が質問して良いですか?」

 

彼女がおずおずといった具合に問いかけてきたので、俺は質問を促した。

 

「私、秦さん……あ、これあの人の真名(まな)なので、あの人に預けられるまで口にしては駄目ですよ。……気を取り直して。あの人には貴方を白き御遣いと言いましたが、本当に天の白き御遣い様なのでしょうか?」

 

「白き御遣いが何なのか分からないから、分からないけど、たぶん違うと思うよ」

 

俺が天の御使いとかいう仰々しいものだとは思えなかったので、否定しておく。

 

「じゃあ、今度は俺の番だ。ここはどこで、今西暦何年なんだ?」

 

さっき彼女が名乗った名前が、記憶のどこかに引っかかるのと、この建物が現代の物とは思えなかったので、とりあえず問いかけてみた。

 

「ここは華北にある冀州ギョウ近郊にある邑です。西暦というのは暦みたいですが、聞いたことが無いのでよく分かりません……」

 

「……」

 

俺は彼女の言葉を聞いて、自分の知識を総動員して仮説を導く。

 

(華北というのは、確か中国大陸の北のほうを指す言葉。でもそれなら、西暦を知らないのはおかしい)

 

それから首をかしげた。

 

(というか、中国ならなんで言葉が通じてるんだ?)

 

あるはずの言語の壁がないことに首をかしげていると、彼女が問いかけてきた。

 

「大丈夫ですか、一刀さん」

 

「あ、うん。大丈夫」

 

俺は一度思考を切り上げて彼女の質問に答えた。

 

「ではこちらから。貴方はどこから来たんですか?」

 

「日本の……って言っても、たぶん分からないと思う」

 

「……すみません。日本という国は聞いたことがありません」

 

申し訳なさそうに答える徐庶さん。

 

「で、では。一刀さん質問どうぞ」

 

「……えっと、真名(まな)って何? さっき言ってたけど」

 

俺が問いかけると、彼女は少しの間目を丸くした後、ハッとした。

 

「えっと、真名(まな)というのは、親、あるいは親代わりにつけてもらう大切な名前です。呼ぶことを許されてない相手の真名を呼ぼうものなら、その場で殺されても文句が言えないほど神聖な物です」

 

「思ったより物騒な代物だった!?」

 

もしうっかり誰かの真名を呼んでいたら、俺はその時点で死んでいたかもしれない。

 

(その前に知ることが出来てよかった)

 

俺はそう思い、胸をなでおろした。

 

すると、彼女は補足をする。

 

「大抵は、信頼の証として、真名を呼ぶことを許すようになります。真名を預ける、とも言います。ただ、中には込み入った事情などから真名がなかったり、結婚した伴侶か両親以外教えられないという例も少なからずあります。ですので、真名が預けられないからといって、信頼されていないともいえません」

 

「へぇ……」

 

俺はその言葉に頷きながら、答える。

 

その直後、どこからか、空腹を告げる音が響く。

 

「あっ、ごめんなさい。昨日の朝に見つけてから、水と(あつもの)以外貴方のおなかに入っていないの忘れてました」

 

ハッとしてそういうと、彼女は俺に告げた。

 

「今からご飯作って持ってきますから、少し待っててくださいね!!」

 

徐庶さんはそういって、部屋を慌てて後にした。

 

「……えっと、俺は……?」

 

一人置いていかれた俺は、どうすればいいのかと本格的に頭を抱える。

 

「と、とりあえず分かる限りの情報をまとめよう」

 

俺はそういって、復唱するように、知ったことを声に出す。

 

傍からみると馬鹿みたいだが、案外口に出すと考えが整理される……ような気がするので、書く紙などがないときは、そうしている。

 

「ここはたぶん中国。でも西暦が通用しなかったのは奇妙だ。あと言葉が普通に通じていた」

 

現代なら、大体西暦で通用するはず。

 

だが通用しなかった。

 

代わりに日本語(俺の言葉)は通じていた。

 

「……あと徐庶って、どっかで聞いたことがあるんだよな」

 

しばらく考えた後、俺は電球が灯されたようにひらめく。

 

「あ、思い出した。確か三国志で劉備の軍師を一時期やってて、孔明のこと教えた人だ」

 

しかしその後俺は首をかしげた。

 

「あれ、でもたしか、その人男だったはず。それにもしあの人が本当に徐庶なら、俺はいま、三国志の世界に居るってことになる」

 

ありえない、その一言をつぶやこうとして、俺は言葉をとめた。

 

「……俺を見てるのは誰だ?」

 

唐突に感じた空気の変化。

 

俺はその変化がもっとも大きかったほうを向いて問いかけた。

 

すると、壁際に『ソレ』は現れた。

 

まるで老若の判別がつかず、影絵のように造形をはっきりしない姿。

 

かろうじて認識できることは、暗い海のような色の長い髪と、ソレに近い色のぼろぼろのローブっぽいマントを羽織っていることだろうか。

 

「はじめまして、天の御遣い殿。私はカール・クラフト。しがない魔術師だ。少々理由があって貴方の前に姿を現した。貴方が乱世を生き延びられるよう、手助けさせてもらう」

 

どこか芝居がかって鬱陶しさを感じさせる声に少し困惑しながら、俺はその影に話しかけた。

 

「なんで俺なんだ?」

 

「貴方が天の御遣いであるから。そして私の目的に一番適している存在だから。この2つに尽きる」

 

「……アンタが胡散臭すぎて信用できないんだが」

 

俺がそういうと、影は笑った後答える。

 

「無論、私の言葉に耳を傾けないというのも一つの選択肢だ。ただし、それによって不利益を被ったとしても責任は持てないがね」

 

「……」

 

俺が黙り込むと、影が謳うように語りだした。

 

「では、まず今御遣い殿が置かれている状況を語るとしよう。この世界はどのような世界なのかも含めてね」

 

「!!」

 

俺が目線を向けると、そのまま続きが始まる。

 

「この世界は外史といって、「もしも」の可能性が具現化した世界だ。この世界は『もしも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?』という可能性が具現化した世界だ」

 

「……ありえない」

 

俺がそう零すと、影は告げた。

 

「ならば彼女が戻った後に頼むと言い、『何でも良いから本を見せてくれ』と。そして今の君主は誰か、国の名前は何だ、と問いかければよい。前者は漢字のみの文章の本が手渡され、後者は劉宏、国の名は漢という答えが返ってくるだけだ」

 

影はそういうと、揺らめいて消えてしまった。

 

しかし、気配は残ったまま。

 

そして別れの挨拶とばかりに声が響く。

 

『必要になったら呼ぶと良い。私が必要なときは姿を見せよう……』

 

その言葉とともに、気配は消え去った。

 

「……」

 

俺が影の消え去った場所を見ていると、扉が開く。

 

「ご飯できましたよ。一刀さん」

 

徐庶がそういって部屋の机の上に料理を置いてくれた。

 

「……悪いんだけど、徐庶さん」

 

「別にさん付けは必要ないですよ?」

 

首をかしげる彼女に対して、俺は若干不安になりながら問いかけた。

 

「じゃあ、徐庶。2つ質問と、一つお願いがある」

 

「出来る範囲なら答えますし、お願いも聞きます。何ですか?」

 

何故かおてんばな弟を見る目で見られている気がするが、俺はそれを無視して問いかけた。

 

「この国の名と、誰が今君主なのか。質問はこの二つだ。お願いは特に指定しないから、何か適当な本とか見せて欲しい」

 

「この国の名前は漢。君主様は皇帝であらせられる劉宏様です。あ、本は少し探してきますので、椅子に座ってご飯食べててください」

 

そういった後、彼女は部屋を去っていった。

 

「……」

 

俺はとりあえず出された食事を見る。

 

「粥と……豚汁っぽいやつか」

 

俺はレンゲと手に取り粥を一口。

 

「薄味だけど、なんかホッとするな」

 

そして箸に持ち替えて豚汁もどきを一口。

 

「……おいしいといえばおいしいけど……」

 

これじゃないと思ってしまったあと、出された食事にけちをつけた自分に自己嫌悪する。

 

そのあと、食事を続けていると、左手の甲になにかが付いているのが目に入った。

 

「……?」

 

おれがそっとそれを見ると、赤い色の紋章みたいなものが俺の左手の甲に浮かび上がっていた。

 

「な、何だこれ……?」

 

角度を変えてみてみるが、それが何なのかまったく分からない。

 

そこでふと、先ほどの『影』を思い出す。

 

「……あいつなら、分かるかもしれないが……」

 

今呼んでも姿を現すとは思えなかったのでやめた。

 

そう思っていると、徐庶さんが部屋に戻ってきた。

 

「えっと、私が持っている本は、私が好きだった母の作ってくれたこの本だけなんですが……。これでも良いでしょうか……?」

 

そういって彼女が差し出したのは、何度も読まれたのか表紙の端などがすこし破れている本だった。

 

「大丈夫、ちょっと確認したいことがあったから」

 

俺はそういってそーっとその本を受け取り、開く。

 

(……あの影の言葉はどうやら正しいみたいだな)

 

漢字のみの文章と、たまに挟まれる挿絵を見ながらそう結論付けた。

 

俺はそっと閉じて、割れ物を扱うようにそっと本を返した。

 

「ありがとう。知りたかったことを確認できたよ。俺文字読めないらしいってことも」

 

「えっと……」

 

俺の声のトーンが急に変わったことにオロオロする徐庶さん。

 

そして何を血迷ったか、俺の手をとって彼女が告げた。

 

「だ、大丈夫です。私が教えます!!」

 

「あ、ありがとう……?」

 

唐突な発言に俺は思わず疑問系でお礼を言った。

 

その後、俺の手を離した彼女が思い出すように告げた。

 

「あ、一刀さん。好きなだけこの屋敷に滞在してくださって構いませんからね」

 

「えっ?」

 

俺が思わず問い返すと、彼女が目を丸くして問いかけた。

 

「……もしかして私の食事では質素すぎました?」

 

「い、いや。そんなことは無い! だけど、俺何も返せる物が無い……」

 

俺がそういうと、彼女は優しげな微笑を浮かべて答える。

 

「別に無理に何かを今すぐ返そうとしなくて良いんです。今は鳥が餌を食べ、空へ羽ばたくための力を蓄えるように、出来ること、やりたいことを見つけてください」

 

「……なんで、俺にそこまで……?」

 

俺がやや面食らいながら問いかけると、彼女は少しだけ悪戯っ子のような笑みを浮かべる。

 

「私、人を見る目はあるんです。どれだけうまく取り繕ったってその人の本質を一目見ればすぐに分かるくらいには。……貴方は道を外さなければ大成する、そう私は判断しました。なので、その始めの一歩を助けてみようかなって思いました」

 

「……やさしいんだね」

 

俺がそういうと、きょとんとしたあと、口元をかすかに吊り上げながら彼女は答えた。

 

「さて、それはどうでしょうか。もしかしたら白き御遣い様をうまく使って何かをしようとする悪女かもしれませんし、大成したときに貸しを返せといってふんだくる小悪党かもしれません」

 

「じゃあ、そういうことにしておくよ。……とりあえず、しばらくはよろしくね」

 

俺がそういうと、彼女は笑顔で答えた。

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

――*――*――*――

 

 

 

 

 

その後、簡単に家の中を案内された。

 

そのときに、俺はまるで数ヶ月運動していない人みたいに体がガタガタであることが発覚し、同時に倒れた。

 

そしてあろうことかお姫様抱っこされて部屋に連行された。

 

色々なショックで悶絶しているところに昼食を振舞われ、気分転換代わりに文字の勉強をしていたが……。

 

「輝理、おるか?」

 

ノックもなしに扉が開いたおかげでびっくりして書いていた文字がのたくってしまった。

 

幸か不幸かそれに徐庶は触れずに男の声に反応した。

 

「あ、秦様。私はここに居ますよ」

 

「ちょっと困ったことになった。太守がまた蒸発したらしい」

 

「またですか? だから中央から派遣された人は信用できないんですよ」

 

呆れたようにそう返す徐庶さん。

 

俺は一度振り返る。

 

そこに居たのは老人といっても差し支えなさそうな、白い髭をたくわえた男だった。

 

「えっと、徐庶さん。今の会話の意味がよく分からなかったのですが……」

 

俺が問いかけると、老人が一瞬徐庶さんを見る。

 

それに徐庶さんが目線を合わせたあと、俺の問いかけに答えた。

 

「えっと、太守というのは、この郡を治める人で、蒸発というのは、文字通り蒸発したように居なくなってしまったことをさします。まあ、理由はなんとなく分かりますが……聞かないでください」

 

「アッハイ」

 

俺は厄ネタに感じたので素直に頷いておいた。

 

すると老人が口を開いた。

 

「輝理、そちらの方は……」

 

「白き御遣い様です。北郷さん、自己紹介をお願いします」

 

徐庶さんに促されたので、俺は挨拶する。

 

「姓を北郷、名を一刀と言います。できれば、北郷、または一刀と呼んでいただけると、ありがたいです」

 

「これはこれは。儂は陳琳。村の役人をやっている老いぼれですじゃ」

 

互いに自己紹介が終わると、陳琳さんと徐庶さんが話し始める。

 

「御遣い様はしばらく私が世話をしていいですか?」

 

「儂は別に構わんが……」

 

一度こちらを(たぶん正確には机の上を)見てから、陳琳さんは問いかけた。

 

「みたところ、文字を書いているようじゃが、何を書いておるんじゃ?」

 

「えっと……」

 

徐庶さんが言いよどんでいるので、俺が答えた。

 

「この大陸の文字がまだしっかり読み書きできないので、徐庶さんに教えてもらってたんです」

 

すると陳琳さんがほう、と零した後続けた。

 

「自分の出来ないことを認めて、出来るように努力する。なかなか出来ないことをするとは流石は白き御遣い殿ですな」

 

そういった後、陳琳さんが少し困った顔をする。

 

「ところで輝理さんや。もうそろそろ夕食の時間なんじゃが、何か作ってもらえるとありがたいのう」

 

「えっ、あっ、嘘!!」

 

夕暮れ時になっている窓の外を見て、ハッとする徐庶さん。

 

「一刀さん、ごめんなさい。今からご飯作ってきます。勉強の続きはまた明日ということで!!」

 

そういって彼女は全力で部屋を後にした。

 

「……御使い殿」

 

「は、はい」

 

陳琳さんがただならぬ雰囲気で声をかけてきたせいか、少し上ずった声で返事した。

 

「儂に何か合ったら、儂に代わってあの子を頼んでもよいか?」

 

「えっ」

 

俺が驚きながら問いかけると、陳琳さんは笑った。

 

「冗談じゃよ。いくら白き御使い様じゃろうと、初対面の相手に親友の孫娘を託すつもりはないわい」

 

「……ん? 親友の孫娘?」

 

俺が引っかかった言葉を反芻すると、陳琳さんが頷いた。

 

「人に歴史ありといいましてな、色々あったとだけ言わせてもらいますぞ。それゆえ、あの子はわしにとっても孫娘みたいなもんですじゃ。ただ……」

 

「ただ……?」

 

俺が問いかけるも、陳琳さんは首を振る。

 

「年寄りの世迷言ですじゃ。忘れてくだされ」

 

そういった後、陳琳さんは部屋を出ようとする。

 

が、一度手を止めてから、少し悩むそぶりを見せてから、こちらを向いた。

 

「では、御遣い殿。儂はこれで失礼させてもらいますぞ」

 

そういって陳琳さんは去っていった。

 

「……??」

 

俺は首を傾げるしかなかった……。

 

 

 

 

 

このあと、徐庶さんがやってきて、用意してくれたご飯を2回おかわりした。

 

あとお風呂(と、明かり)が貴重な物であることを知って、カルチャーショックを受けたのはここだけの話。

 

 

寝台に横になる俺は、暗くてよく見えない天井を見つめながら、ため息をつく。

 

(……ここはあの『影』のいうとおりの世界なのかもしれない)

 

もしそうなら、どうしようか悩むが、答えは出ない。

 

(とりあえず、夜は早く寝ておこう。基本みんな日が沈むと寝るらしいし)

 

俺はだんだん重たくなるまぶたに抗えず、目を閉じた。

 

どうするのかとかは、……明日……考え……よう……。

 

 

 




いかがだったでしょうか、感想、(出来れば良い)評価、誤字脱字の指摘をお待ちしています。


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【次回予告?】

某爺が言った言葉が気になって文字の読み書きが手に付かない北郷。

それよりも、根本的に気になるところがあったはずだけど!?

そんなところに賊がやってきたという村人からの突然の知らせが届く。

それをきいた徐庶は、身の丈ほどある大剣を手に、1人賊に立ち向かう。

だが、彼女は一騎当千の強者ではない。

徐々に追い詰められる彼女。

しかし、自分が言っても足手まといになるだけだ。

見ているだけしか出来ない自分に歯噛みしていると、その左手の紋章が輝いて……?


次回、序章 白き御遣い編 第2話 「問おう、お主が儂のマスターか?」

乞うご期待!!

《注:あくまで予告です。この内容、タイトルと本編の相違点について作者はは一切の責任を負いません》





















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