ノゲゼロ夫婦が異世界へ来たようですよ? 作:駄作者
「そっそれは……」
ジンは言葉に詰まる。そして自分が大きな失態を犯した事を自覚する。と言うのも彼は黒ウサギとある隠し事をしていたのだ。リクはその動揺を見逃さず畳み掛ける。
「もうこれ以上。隠し通そうとしても、逆に不信感をこちらに植え付けるだけだぜ? 多分ジンのコミュニティは弱小のチームか、もしくは訳あって衰退しているんじゃねえか? だから組織の強化の為に飛鳥達を呼び出した。ちがうか?」
ジンは何も言えない。何故ならジンのコミュニティまさにその状況にあるのだから。
そしてそれを見ていたガルドは獣の顔を元に戻し、含みのある笑顔を浮かべると。
含みのある笑顔と演技の入った声音でリクに話し掛ける。
「そうですとも、貴方の言う通りだ。コミュニティの長として、自身のコミュニティに付いてを話すのは当然の義務。しかし彼にとってそれは酷というものでしょう。よろしければ〝フォレス・ガロ〟のリーダーである私が、小僧ーーではなく、ジン=ラッセル率いる〝ノーネーム〟のコミュニティを客観的にですが説明をしましょうか?」
「……そうだな。話してくれ」
「承りました。まず、コミュニティとは読んで字のごとく複数名による組織の総称。まぁ受け取り方は種によっては様々です。人間なら大小で家族や組織ともコミュニティを言い換える事もありますし、幻獣なら〝群れ〟とも言い換えれる」
「それで?」
「はい、確認までに。コミュニティは活動する上で箱庭へ〝名〟と〝旗〟を申告する必要があります。特に旗印はコミュニティの縄張りを主張する大切な物。この店にも大きな旗を掲げているくらいです」
そしてガルドはカフェテラスの店頭に掲げられている〝六本傷〟が描かれた旗を指さす。
「あの旗は、この店を経営しているコミュニティの縄張りを示しています。もし自分のコミュニティを大きくしたいと望むなら、あの旗印のコミュニティに両者合意で『ギフトゲーム』を仕掛ければ良い。私のコミュニティもそうして大きくしましたから」
ガルドは自慢げにタキシードに刻まれた虎の模様をモチーフにした刺繍を指さす。
リク、シュヴィ、飛鳥、耀の四人は辺りを見回して、広場周囲にある店頭から建築物に同様の紋が飾られてる事に気付く。
「まぁ……この店頭は南区画に本拠があるので手出し出来ませんが。この二一〇五三八〇外門付近で活動可能な中流コミュニティは全て私の支配下です。残すのは本拠が他区か上層のコミュニティ、または奪うに値しない名も無きコミュニティぐらいです」
ガルドは嫌味を込めてクックッと笑いを浮かべる。ジンは顔を背けたままローブを握りしめる。
「さて、ここからが貴方様方のコミュニティの問題。実は貴方様方のコミュニティはーー数年前まで、東区画最大のコミュニティでした」
「ほー以外だな」
「とは言えリーダーは別人でしたがね。ジン君とは比べようもない優秀な方だったそうですよ。ギフトゲームに置ける戦績で人類最高の記録を持ち、東区画最強のコミュニティだったらしいですから」
一転してつまらなそうに言うガルド。現在この近辺の最大手であるコミュニティを保持している彼には、どうてもいい事なのだろう。
「彼は東西南北に分かれたこの箱庭で、東のほか南北の主軸コミュニティとも親交が深くてね。ジンの事は毛嫌いしてますが、南区画の幻獣王格や北区画の悪鬼羅刹が認め、箱庭上層に食い込むコミュニティだった事は嫉妬どころか尊敬するくらいに凄いのですよーーまぁ
「…………」
「〝人間〟の立ち上げたコミュニティではまさに快挙、数々の栄華を築いたコミュニティしかし!……彼らは敵に回してはならないモノに目を付けられた。そして彼らは『ギフトゲーム』が支配する箱庭の世界において、最悪の天災によって滅ぼされた」
「天災?」
リク、飛鳥、耀は同時に聞き返す。それほど巨大な組織を滅ぼしたのが、ただの天災とは不自然な気がしたからだ。
「えぇそれは比喩にあらず、彼らは箱庭で唯一最大にして最悪の天災ーー俗に〝魔王〟と呼ばれる者達によって!」
ガルドはそう話しを締めくくる。リクはそんなガルドの話を聞いて思い出すのは、嘗て自分がまとめていた二千人弱ほどの人々と過ごした日々、神々の勝手な都合で幾度と無く住処を追われたあの頃、リクは顔にこそ出さなかったがその手を血が滲むのではと言うほどに握りしめる。
「この箱庭でもそんな胸糞悪い理不尽があるんだな……」
そしてリクは愉悦に浸っているガルドに気付かれない位に小声で呟いた。
そんなリクとは別に飛鳥が口を開いた。
「なるほどね。大体理解したわ。つまり〝魔王〟はこの箱庭の特権階級を振り回す神様等を言い、ジン君のコミュニティは彼らに玩具として潰された訳ね……」
ガルドはカフェテラスの椅子の上で皮肉に笑いながら両手を広げる。
「名も、旗印も、主力陣の全てを失い、残ったのは膨大な居住区画の土地のみ。もしも新たなコミュニティを結成したなら、前のコミュニティは有終の美を飾れたでしょう。ですが今や名誉も誇りも失墜した名も無きコミュニティでしかない!」
「……」
「そもそも考えて見てください。名乗る事を禁じられたコミュニティに、どんな活動が出来ます?
「そうね……誰も加入したくないでしょうね」
「そう。彼は出来もしない夢と過去の栄華に縋る恥知らずな亡霊でしか無いのですよ!」
ガルドはピチピチなタキシードを破きそうなくらいに下品で、豪快な笑顔でジンとコミュニティを嘲笑う。
ジンは泣きそうなくらいに顔を真っ赤にして、膝の上で両手を握りしめる。
「もっと言えばですね。彼はコミュニティのリーダーとは名ばかりで殆どリーダーとして活動はしていません。コミュニティの再建を掲げてはいますが、実際は黒ウサギにコミュニティを任せっきりの寄生虫」
「……っ」
「私は黒ウサギが本当に不憫でなりません。ウサギと言えば〝箱庭の貴族〟と呼ばれ強力なギフトの数々を持つ、何処のコミュニティでも破格の待遇で愛でられる存在。コミュニティにとってウサギを所持しているということはそれだけで大きな〝箔〟が付く。なのに彼女は毎日毎日糞ガキ共の為に身を粉にして走り回り、僅かな路銀で弱小コミュニティをやり繰りしている」
「……そう。事情は分かったわ。それでガルドさんは、どうして私達にそんな話を丁寧にし話してくれるのかしら?」
飛鳥は含みある声で問う。ガルドもそれを察し待ってましたとばかりに笑う。
「単刀直入に言います。もし宜しければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに来ませんか?」
「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー!?」
ジンはあまりの怒りにテーブルを叩き講義するが、ガルドは獰猛な瞳でジンを睨み付ける。
「黙れ、ジン=ラッセル。そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材はコミュニティに残ったはずだろうが。それを貴様の我儘でコミュニティを追い込み、どの面下げて異世界から人材を呼び出した?」
「そ……それは」
「何も知らない相手なら騙し通せるとでも? その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるなら……こっちとて箱庭の住人として通すべき仁義があるってもんだぜ」
先程の同じ鋭利な輝きをした獰猛な獣に似た瞳に貫かれ、ジンは怯む。しかしガルドの言葉よりも、リク達に対する後ろめたさと申し訳なさがジンの心を汚染する。
ジンのコミュニティはそれ程までに崖っぷちなのだ。
「……で、どうですか? 皆様方。返事はすぐにとは言いません。コミュニティに属さずとも皆様方には箱庭で三十日の間は自由が約束されていますゆえ。一度、自分達を呼び出したコミュニティと私達〝フォレス・ガロ〟のコミュニティを観察して見て、十分に検討してから入ってみてはいかがでしょうか?」