ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット   作:グレン×グレン

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戦闘校舎のフェニックス 8

 

 戦いは、圧倒的だった。

 

 たとえ傷つこうと、炎の中からよみがえるフェニックス。

 

 彼らはレーティングゲームが始まって以来、その力を思う存分振るうことによってのし上がってきた家系である。

 

 その意味を、イッセーたちは十分に理解していなかった。

 

「・・・ゴメン、なさい」

 

『リアス・グレモリーの戦車(ルーク)撃破(テイク)

 

 負傷から回復した小猫が、こんどこそ倒れ伏す。

 

「く・・・こんな、ところで」

 

『リアス・グレモリーの騎士(ナイト)、撃破』

 

 イッセーとの共闘で敵の半数近くを屠ってきた木場が、焼き尽くされる。

 

「い、イッセー、後を、頼む・・・っ」

 

『リアス・グレモリー様の兵士(ポーン)、撃破』

 

 アーシアを狙った攻撃を、アーシアを投げ飛ばして何とか防ぎながら、松田が吹き飛ばされた。

 

「す、すまんイッセー。俺は、もう・・・」

 

「ようやく捕まえましたわ! 焼き尽くされなさい!!」

 

『・・・り、リアス・グレモリーさまの兵士、撃破』

 

 レイヴェル相手に洋服崩壊をかまして、追いかけまわされていた元浜も叩きのめされた。

 

 それは圧倒的な光景だった。

 

「くそ、くそ、くそぅ・・・っ!」

 

 イッセーは、息も絶え絶えになりながら、しかしそれでもライザーに殴りかかる。

 

 だが、ライザーはそれをあっさりかわすと、拳をみぞおちにねじ込んだ。

 

「・・・ぐぁ・・・っ」

 

「その辺にしておけ。もうお前は限界だよ」

 

 ライザーの言う通り、イッセーはすでに限界だった。

 

 度重なる倍化の限界を超え、神器はすでにバースト状態に陥っていた。

 

 これではどう頑張っても神器を使うことはできない。そしてそれでは試合に勝てない。

 

 この試合に勝つための最も有効な策は、イッセーの神器を限界まで倍加させて、それをもってしてライザーを倒すこと。

 

 その前提条件が、イッセーの限界で崩れ去っていた。これでは勝ち目がほぼなくなっているようなものである。

 

 すでにイッセーもボロボロで、アーシアも術式で封じられた。

 

 朱乃と一夏はまだ無事なようだが、しかし敵の女王に足止めされている。

 

 完全に、詰んでいる。

 

 だけど、それでもイッセーはあきらめない。

 

「やめて、もうやめて、イッセー! もういいから! もういいから!!」

 

 さっきからリアスの声が聞こえるが、しかしイッセーはライザーに殴りかかるのをやめなかった。

 

 ああ、そんな声をしないでください、部長。

 

 イッセーは、リアスがなぜライザーと結婚したくないのかを思い出す。

 

 合宿のある日の深夜。たまたま目が覚めたイッセーは、リアスに直接聞くことができた。

 

 ・・・ただのリアスとして愛してくれるひとと結婚したい。

 

 はっきり言ってよくわからない願いだ。

 

 イッセーにとってリアスとは、すなわちリアス部長のことであり、グレモリーとかいうわけのわからない家系のこととは直接的に頭の中で結びつかなかったのだ。

 

 それを素直に伝えたとき、なぜかリアスが顔を赤くしていたのだけはよく覚えている。

 

 そして、そのあと特訓が伸び悩んでいると思っていた自分をしっかり慰めてくれたこともだ。

 

 ああ、自分はきっといい主に選ばれたんだと、その時本当に理解した。

 

 わがままなところはある、スパルタなところもある。だけど本当にきれいで、可愛いところのある主だ。

 

 その主、ただのリアスではなくグレモリーのリアスとしてみる男が目の前にいる。

 

 ああ、そうだ。

 

 そんな男との結婚は・・・。

 

「・・・断じて、絶対、許さねねぇ・・・っ」

 

「この、化け物がっ!」

 

 ついにライザーは炎を展開すると、それを全力で展開する。

 

 これまでのレーティングゲームで一切見せたことのないその出力に、外の観客も何人かが立ち上がった。

 

 下級悪魔があれクラスの攻撃を受ければ、レーティングゲームのシステムでも死なさずには済ませられないかもしれない。

 

 そして、その攻撃が放たれようとしたその時。

 

「・・・もういいわ!」

 

 リアスが、ライザーにぶつかってでも止めに入った。

 

「り、リアス?」

 

「もういい。もういいから、もう、いいから・・・っ」

 

 そのまま涙を流しながら、リアスは動き出そうとするイッセーを押しとどめた。

 

「ありがとう、イッセー。本当に頑張ってくれてありがとう・・・」

 

 そう優しくなでながら告げられるリアスのことばに、イッセーの緊張が解けたのか動きが止まる。

 

「朱乃、祐斗、小猫、アーシア・・・松田君に元浜くんに一夏君。それいイッセー・・・ふがいない私のために、ここまで頑張ってくれて、本当にありがとう」

 

 だが、これ以上は見てられない。

 

 これ以上、傷つくイッセーを黙ってみていることなんてできやしない。

 

 だから、もういいのだ。

 

「ライザー、・・・私の―」

 

 負け。

 

 その言葉を言うより一瞬早く、アナウンスが鳴り響く。

 

『ライザー・フェニックス様の女王(クイーン)、撃破』

 

 それが、戦局を再びひっくり返す大きな布石だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・な、なんだって?」

 

 赤龍帝の執念に魅入られていた悪魔たちは、観客席という見やすい場所にいながらこの展開に驚いていた。

 

 追い詰められたユーベルーナがフェニックスの涙で逆転を図っていたところまでは見ていたが、そこからは赤龍帝に畏怖されてそちらに視線が言っていた。

 

 そして、ライザーの目の前に一人の男が立つ。

 

『まだだ。まだ終わってないぜ』

 

 ぼろぼろになった制服を纏い、体中に血をにじませながら、しかし彼はしっかりと立っていた。

 

「やれやれ。君は本当にヒーロー体質だねぇ」

 

「リアス先輩にフラグが建たないといいんですけど」

 

 やれやれといわんばかりに苦笑しながら、レヴィアと蘭はしかし誇らしげな気持ちで画面を見る。

 

「よくも、俺の仲間や友達相手にここまで大暴れしてくれたな」

 

 一瞬でアーシアを封じていた結界をたたき切ったその少年は、その刃の切っ先をまっすぐ突きつける。

 

「リアス先輩。悪いけど、もうちょっと待ってもらいます。こいつは、切らないと気が済まない・・・!」

 

 セーラ・レヴィアタンの戦車。レヴィアの双翼の片割れ。

 

 そして、世界最強の人間の弟。

 

 織斑一夏が、そこに立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 兵藤一誠は、まどろみの中にいた。

 

 全身が痛いような気持ちいいようなわけのわからない感覚の中、しかしイッセーは何かに引っ張られるように焦っていた。

 

 ―まずいよな・・・早くしないとレーティングゲームが・・・。

 

 ライザーを早く殴り倒さないと、リアスが望まぬ結婚をしてしまう。

 

 記憶も定かではないが、しかしこれだけは断言できる。

 

 最後に覚えているリアスの顔は、泣いていた。

 

 ああ、自分は馬鹿だから細かい事情などはさっぱりよくわからない。

 

 わからないが・・・それだけで十分だ。

 

 愛する主を泣かせた男がいる。そいつが女の旦那になろうとしている。

 

 そんなものは断じて認めるわけにはいかない。意地でも婚姻は破壊する。

 

『ほう。あまりに才能がなくて残念だったが、しかし思ったより見どころはあるじゃないか』

 

 イッセーの耳に、声が届く。

 

 その声のする方に視線を向け、イッセーは少し覚醒した。

 

 十メートルを超える巨体の赤い龍が、そこにいた。

 

―あんた、誰だ?

 

『俺か? 俺はお前の神器に宿るドラゴンだよ。赤龍帝ってのは本来俺の名前なんだ』

 

 そういえばそんなことも言われていた。

 

 ウェールズの伝承における赤い龍。赤龍帝ドライグ。

 

 それを封印したのが赤龍帝の籠手だったが、なるほど、こいつがそうなのか。

 

『しっかし根性は見せたがそれでも無様だな。俺の宿主なんだからもうちょっと成果を上げてくれ。出ないと俺が白い奴に笑われる』

 

 白い奴というのが気になったが、しかし成果を上げるという点においては同感だ。

 

 たぶんだが、まだ決着はついていない。

 

 誰かが必死になって食い下がっている。

 

 だったら、ここでぼんやりしていていいわけがない。

 

『敗北は糧になる以上、負けるのが悪いとは言わない。だが、負けたままで終わるような奴に赤龍帝は名乗れない。・・・だから、勝つための力を代償付きでくれてやろう』

 

 ―代償付き? ・・・わかった、くれ。

 

 イッセーはすぐに答え、それを聞いたドライグはあきれたような軽く笑う。

 

『おいおい、そういうのは具体的に何が代償か聞いてからするもんだぞ? 魂とか言われたらどうするつもりだ?』

 

―は? 何言ってんだアンタ。

 

 心配そうに言ってくるドライグに、イッセーはあきれながらはっきりと言い切った。

 

―俺の魂ぐらいで部長の涙が止まるなら、安いもんだ。

 




松田と元浜の戦闘シーンを期待していた方はごめんなさい。テンポ的なあれを重視しました。

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