ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
「レヴィア、結界は任せる」
「お任せあれ」
千冬に促され、レヴィアは即座に結界を強化する。
一瞬でシトリー眷属総出で張った結界を遥かに凌ぐ結界が、さらに強化された。
その出力に堕天使たちは失神するものすら出てくるほどの魔力。その魔力量は明らかに魔王クラスのものだった。
その圧倒的な結界を見て、コカビエルは哄笑を上げる。
「フハハハハ! なんだ、思ったより楽しめそうじゃないか! 次の相手はお前か、セーラ・レヴィアタン」
「貴様の耳は節穴か? 私はレヴィアから切っていいといわれたはずだが?」
即座に罵倒を返しながら、千冬が一歩前に進み出る。
その姿を見て、コカビエルは馬鹿にしたように笑う。
「お前が俺を? ・・・寝言は寝てから言うがいい。誰が見ても分かるぐらい、お前には力がない」
むしろお前が寝言を言っていると、表の人間なら応えただろう。
最強の戦術兵器であるISの、さらに最強の使い手が目の前にいる。公式戦においては最強で、モンド・グロッソの二連覇こそ逃したもののそれはイレギュラー故。まともに戦っていれば優勝は高確率でなされていたと判断されているのが彼女だ。
だが、コカビエルの発言は決して的外れではない。織斑千冬はある意味で最も最弱だった。
この業界では戦闘能力とはすなわち異能の力といっていい。それほどまでに魔力や神器の力は強大で、単純な火力や耐久力ならISなど歯牙にもかけない者がゴロゴロいる。
なにせISの火力は第二世代が使用する実弾武装なら戦闘車両の火器をベースにした者が基本だ。ロケットランチャーを使うにしても、攻撃ヘリや戦車クラスに毛が生えた物が限界だろう。レールガンなどの第三世代以降の装備をもってしても、艦載兵器クラスに到達すれば偉業といえる。
下級悪魔でも火力重視ならロケットランチャークラスの火力は平然と出せる。そしてそれを連射することも用意。上級悪魔クラスなら山肌を削る火砲部隊クラスの攻撃をポンポン出せる。そして魔王クラスなら小規模な山なら吹き飛ばせるだろう。
例えるならば、核シェルターすらやすやすと切り裂き撃ち抜けるナイフや拳銃とでもいうべき存在。それこそが、ISという超兵器や、かつて核兵器が登場しても異形社会が自分たちの優位性を確信できる理由だった。
核兵器は確かに最強の戦略兵器だ。だが被害範囲が広すぎて一対一の戦いで使えるようなものではない。
ISは確かに最強の戦術兵器だ。だが速さ以外は上級悪魔どころか中級クラスにすら届かない。
そして、千冬が持っているのはただの霊刀。それがISサイズに大型化された特注品だ。
確かにそこそこ強力だろうが、聖魔剣やデュランダルには及ばない。普通に木場が使う魔剣の方が強力だろう。それは最上級の存在を相手にするのには心ともなかった。
そして異能の気配もない。織斑千冬は、驚異的な才能を持っているが神器は持っていないただの人間だった。
そんな存在がおもちゃを持った程度で、最上級クラスの存在と戦えるわけがない。
そう思いやれやれとため息をつこうとした瞬間、コカビエルはとっさにその身を横にずらした。
「・・・さっきからぺらぺらとしゃべっているので、いつ来てもいいものかと思ったぞ? まさか本当に油断していたとはな」
そんな千冬のあきれとともに、コカビエルの首筋に赤い筋が走る。
千冬は、ただの霊的強化をされた刀でコカビエルに刃を届かせたのだ。
その光景に愕然とするのは木場とゼノヴィアだ。
コカビエルが放つ圧倒的な力のオーラは、聖魔剣やデュランダルをもってしても届くかどうかわからないものだった。
にもかかわらず、少し高い金を払えば買えるような霊刀が、コカビエルの防護を突破した事実が信じられない。
「あり得ない。あんな刀が聖魔剣やデュランダルに並ぶなんて・・・」
「武器の性能だけで物事を図るとは、愚かな判断だな」
そんな木場に対して、千冬の言葉が鋭く突き刺さる。
「どれだけ優れた刀匠が作り上げた名刀だろうと、使い手が武の理念すら知らぬ愚か者が振るう限り、ナマクラにすぎん。逆に武の理を極めたものが振るうのならば、ナマクラでも名刀と称されるような斬撃が可能となるだろう」
そう教師ができの悪い生徒に説明するかのように言葉を紡ぎながら、千冬は切っ先をコカビエルに向けた。
「切れる刃も届く足もある。・・・これでも不服か? ならばそのおごりのまま死ぬがいい」
まさに切れ味の鋭い日本刀と称せるような鋭い殺気を向けながら、千冬はコカビエルをにらみつけた。
「我が弟とその友人を、下らぬ欲望で傷つけた報いを受けるがいい」
「ふ、ふふふ・・・ふははははは!!!」
その姿に、コカビエルは声を上げて歓喜の笑みを浮かべる。
正直に言えば前座と割り切っていた。
それほどまでに若手と実力者の能力の差は大きいのがこの業界で、そこに表の人間が現れた程度でどうこうなるわけがないのが本来の形だ。
だが、今ここにいるのは間違いなく自分を殺すことができるだけの強者。
ISというおもちゃも、世界最強人間と称される女傑が振るえばこれほどまでに使えるのかと、コカビエルは実に納得した。
「面白い! そうだ、これでこそ戦争だ!!」
いうが早いか、こんどはコカビエルが一瞬で千冬を切り裂ける間合いに入る。
そして同時に光の剣が生まれ、千冬を切り刻まんと振るわれ―。
闇を切り裂く閃光が二つ。そして刃の音とそれによって生まれる風も二つ。
コカビエルが放った光の剣は、瞬く間に弾き飛ばされる。
そしてその瞬間に、十の翼が刃となって一斉に襲い掛かる。
しかし、その攻撃が届くより早く、千冬は間合いの外に下がっていた。
「なるほど。曲芸も化け物が使えばここまで凶器になるか。私も少しなめていたな」
「そうか、ならこんどは曲撃ちと行こうか!」
続けてコカビエルが放つのは光の槍。
だが、これまでのそれとは数が違う。
槍が一瞬で数十発も生まれ、そして千冬に襲い掛かる。
それは対ISの基本戦術。上級以上の異形存在だからこそできる、ISという戦術兵器を打倒するための戦闘方法だった。
ISの機動力は確かに目を見張る。異形存在でも速度に特化した上級存在でなければ互角の速度は出せないだろう。最上級クラスでも鈍足な部類なら確実においていかれるレベルだ。
だが、しょせんは使うのはただの人間。
いかにPICが存在しようと限度はある。運動性能においてはどうしても使い手が人間であるが故の限界が存在する。単純に体がもたないのだ。
そして、何より耐久力と火力は下級でも対抗できるクラスでしかない。それがISという兵器の限界。
ゆえに、対ISの最適解はある程度の面制圧による広範囲攻撃。
さらに、結界に囲まれたこの空間はISの本領を発揮するには狭すぎる。
ゆえに最新鋭のISと国家代表クラスが運用したとして、それでもコカビエル相手には一分持てばいい方であり―
「・・・なるほど、ではこちらも曲芸で挑もう」
真正面からたたき切って懐に飛び込むなど、コカビエルは想定できるはずがなかった。
―決着は一瞬。コカビエルの胴体に深い断絶が生まれ、鮮血が飛び散った。
「・・・悪いが、私はエネルギーには強いんだ。戦術を間違えたな」
「れ、零落白夜、だと!?」
コカビエルは驚愕する。
零落白夜。織斑千冬の
千冬のそれはエネルギーの無効化。これにより敵のISのエネルギーをゼロにするという戦法こそが、織斑千冬が最強たるゆえんの一つ。
だが、それはあくまでISの業界での話であり、異形存在の魔力や光力などに対して試されたことはこれまでなかった。
否―
「試しておいて正解だった。おかげでためらいなく戦術に組み込めるしね」
そうレヴィアが得意げに笑い、コカビエルは敗北の理由を悟った。
そう、それは戦争における基本的な戦術の一つ。
敵手の能力を知り、そして自陣営の能力を隠し通す戦いの基本。
その名を、情報戦。
コカビエルはその一手で明確な敗北を喫した。
「す、すげえええええええええ!!! 抱いてください!!」
「あ、あれが人類最強ブリュンヒルデ! しかもISスーツエロい!」
「よし、お前らそこになおれ」
煩悩を垂れ流しながら絶賛する松田と元浜に、一夏は躊躇なく剣を向けた。
マジで切ってしまおうかといわんばかりのその姿に、全員が止めるべきか真剣に考慮するレベルだった。
「松田さんも元浜さんもストップ! 一夏さんシスコンですから本当に危険です!!」
「うんうん。一夏君は千冬さんが好きすぎるからそういうのはやめた方がいいよ?」
割と真剣な表情で蘭とレヴィアが警告する中、千冬は鋭い視線を堕天使たちに向けていた。
その視線と成果に、堕天使も悪魔祓いもすくみ上る。
「に・・・」
ほどなく、限界は訪れた。
「逃げろぉおおおおお!」
「う、うわぁあああああ!!!」
「勝てっこねえ!」
蜘蛛の子を散らすように、その場から全力で逃走する者たちを、しかし千冬は追いかけない。
「・・・ここから先は貴様らの仕事だ。さっさと仕事をするといい」
そんなことを明後日の方向に向けて千冬は告げる。
「あの、そこのあなた? どこに向かって言っているの?」
その光景にリアスが心配そうに声をかけたとき、それは舞い降りた。
「・・・気づいていたのか。コカビエルをやるだけのことはある」
そこ似たのは白い龍。
純白の鎧に身を包んだ男が、倒れ伏すコカビエルの隣に立っていた。
「・・・私たちが来る前から来ていたな? 大方神の子を見張るものとやらの使いだろうが、なぜ出てこなかった?」
千冬は明らかに敵意すら込めた質問を送る。
返答次第では貴様も切る。そういわんばかりのことばだった。
はたから見ている側ですらすくみ上るような気配。メンタルの弱いものならそれだけで失神してもおかしくないようなレベルだった。
そして、そんな警告を受けながら、白い鎧の男は平然と答える。
「なに。俺は強いものと戦うのが好きなんでね、見所があるので様子を見ていた」
次の瞬間に、すでに千冬は間合いに入っていた。
『Divid!』
そして、その音とともに霊刀がはじかれる。
「悪いが、コカビエルごときを倒せたからといって俺まで倒せると思われては困る」
男は平然とつぶやきながら、展開している光の翼を魅せつける。
「
「・・・チッ」
舌打ちをしながら、しかし千冬は距離を開けない。
半端に距離を開けてさらに半減の発動を許せば、勝ち目がないことがわかっているからだ。
そんないつ戦闘を行っても構わないといわんばかりの気配に、男は震える。
恐怖ではない。それは、武者震いだった。
「ああ、実にいい。もし貴女がエクスカリバーの使い手になれば、とても楽しい殺し合いができそうだ。・・・だが」
そういうと、男は肩をすくめながらコカビエルを抱える。
「悪いが戦闘はアザゼルに禁止されてるんでね。今日のところはもう帰るさ」
「・・・あ、そうなの? なんていうか、サンキュー?」
状況が呑み込めないイッセーはなんとなく礼を言うが、そんなイッセーを男はあきれたような視線で射貫く。
「まったく。仮にも俺の宿命のライバルがこんな様子では調子が狂うな。・・・まあ、有望な若手と優れた剣士を見れたから良しとするか」
「あのねえ。そういうのやめてくれないかな?」
ため息をつく男の視線からイッセーをかばうように、レヴィアが間に割り込んだ。
その視線は警戒心よりもあきれが色濃く、どうしたものかという感情を移している。
「白龍皇。コカビエルを止めに来たのが仕事なら、ここで僕たちと事を構えるのは問題なのはわかるだろう? あと十分もすれば現ベルゼブブ及び現アスモデウスの勅命を受けた部隊も来る。そろそろ帰った方がもめ事が少なくてうれしいんだけど?」
「ふむ、そんな実力者ならぜひ戦ってみたいが、さすがにそんなことすればバラキエルあたりに殴られそうだ。今日のところは帰るとするか」
そういうなり、男は翼を広げると空に浮かぶ。
『無視か、白いの?』
その背中に、赤い籠手から声が投げかけられる。
『・・・久しぶりだな、赤いの』
返答は、男ではなく白い翼から放たれた。
『せっかく出会えたが、この状況ではあれだな』
『まったくだ。だが、いずれ戦う運命だ』
『しかしどうした? 以前のような敵意が伝わってこないが?』
『それはお互い様だろう? それに、今ここで事を構えるのは本意ではない』
『なるほどな。お互い、いまは決着以外にも興味の対象があるということか』
『そういうことだ。長い付き合いだ、たまにはそういうこともあるだろう』
『確かにな。じゃあ、またなアルビオン』
「・・・えっと、もういいのか?」
赤い籠手と白い翼の会話が終わったようなので、イッセーはなんとなく聞いてみた。
というより、なんていうか状況が読めてないものも多くどうしたものかという空気になってしまう。
それを感じ取ったのか、男は翼をきらめかせると声を響かせる。
「俺は今代の白龍皇。いずれ命を懸けてそこの赤龍帝と雌雄を決するものだ」
そこにあるのは敵意でもなければ殺意でもない。しかし、明確な戦意があった。
「君たちがその戦いを邪魔するというのなら構わない。その時はまとめて相手をするさ。それまで己を鍛え上げるといい」
その言葉を最後に、白い男は一瞬で空の向こうへと飛び去って行く。
長い二天龍の歴史においても、類を見ない特異な才能を発揮する二天龍の使い手の、それが初めての邂逅だった。
攻撃力・・・及第点ギリギリ
機動力・・・最上級のそのまた上
防御力・・・アウト
戦闘技量・・・最上級
以上が、IS装備状態の織斑千冬のスペックになります。零落白夜でごり押ししましたが、あれがうまくいかなければ長期戦になって勝敗はわからなかったでしょう。
現実問題、ISは機動力だけが突出しているためまともな異能社会の実力者なら対処はよほど相性が悪くない限り容易です。ライザークラスなら少してこずる程度で済みます。
ですが使い手が世界最強ともなれば、そして通用する得物さえ用意することができれば、こういうことも可能なポテンシャルを秘めているのがこの作品におけるISです。