ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
授業参観という特大のイベントが終わった日のこと、レヴィアはある情報を耳にした。
「なんでも、リアスちゃんのとこのギャスパーくんが解禁されるらしいよ」
「え?」
風紀委員としてのデスクワークを終わらせながら、蘭が聞き返す。
ギャスパー・ウラディはリアス・グレモリーの眷属悪魔の一人だ。
「アイツ、確か対人恐怖症だったよな? 大丈夫なのか?」
一夏がそういうのも仕方のないことだった。
ギャスパー・ウラディは対人恐怖症の引きこもりである。加えて自分が好きだからおしゃれをするタイプの女装癖がある。
イッセーやゼノヴィアをも上回る変人だ。そこに関してはレヴィアも否定はしない。
正直そういうタイプは、男らしさを求める一夏とは合わない雰囲気があるが、意外にも一夏はギャスパーを否定したりはしない。
これまたそれもグレモリー眷属の共通点が原因となっている。
「まあ、リアスちゃんのところはいろいろあるからね」
レヴィアはそう言って苦笑する。
はっきり言って、木場やアーシアのケースはめずらしくもなんともない。少なくともリアスの眷属からしてみれば。
信仰の大本がすでに死んでいるという事実を教えられたゼノヴィアは軽い方だ。
イッセーですら、悲劇の時間こそ短いもののかなりえげつない死に方をするところだった。それがすべてを物語っている。
・・・ギャスパー・ウラディの半生は、地獄といっても過言ではないだろう。
吸血鬼最大の欠点ともいえる日光に対して強大な耐性をもつハイデイライトウォーカーのウラディ家という名門に生まれたギャスパーは、しかし生まれたときから愛されなかった。
人間との間の混じり物として生まれたことは大した原因ではない。問題は、生まれ持った神器にある。
非常に強力な神器であるが、ギャスパーはこれを使いこなストができなかった。
普通の精神でいつ時間が止められるかわからないなどという状況に追いやられれば、疑心暗鬼に陥るのは当然といえば当然だ。必然的に彼らもギャスパーを恐怖した。
そして追放されたギャスパーは吸血鬼狩りに襲われて致命傷を負い、そのときリアスに救われたらしい。
だが、追放された人間社会でも迫害を受けたギャスパーは対人恐怖症の引きこもりとなってしまった。
加えて冥界でも彼をリアスが制御できないだろうと判断したことで封印措置が取られており、そういう意味でも状況の悪化に拍車をかけている。
さすがにそんな過酷すぎる過去を持つギャスパーに、気合を入れろとは一夏も言いずらい。むしろ、そういうことをしたギャスパーの家族たちに殴り込みをかける方がたやすいだろう。
「だけどさ、そのまま引きこもってるわけにもいかないし、いい機会なんじゃないか?」
「ま、それはそうだろうしリアスちゃんもそういう方向で行くんだろうけどね」
一夏にレヴィアも同意するが、しかしそれはそれとしてうまくいくかは別問題だ。
さて、これからどうなることか不安になってきた。
不安なのでいつものメンバーで来てみれば的中した。
「さあ、滅されたくなければ走れ! デイライトウォーカーなら大丈夫だろう!!」
「ひぃいいいいいいいいい!!!」
「何やってるのかなそこは!!」
よりにもよってデュランダルを引き抜いてギャスパーを追いかけまわすゼノヴィアに、レヴィアは躊躇なく飛び蹴りを叩き込んだ。
「痛いじゃないか! 今私はギャスパーの対人恐怖症を治そうとしているのだぞ?」
「トラウマ刻み込んでどうするのかな? ショック療法は素人が試しちゃいけないからね!!」
心的外傷を持っている人物に、ショック療法は非常に危険だ。
専門家ですらためらうような所業を素人が行えば、どうなるかなど非を見るより明らか。
ゆえに、レヴィアとしては強引にでも止めに入らねばならない。
「第一、健全な精神は健全な肉体に宿るものだ。引きこもっていれば精神は腐る一方だろう?」
「それは誤用だからね」
非常に残念なことに、健全な精神と健全な肉体は人が幸せになるために願うべきというのが正しい語源である。
「・・・ギャーくん、ニンニク」
「いやぁあああああ! 小猫ちゃんの意地悪ぅううううう!!!」
「小猫ちゃん! 追い打ちかけちゃだめだから!!」
視界の端では小猫が
「ああもうこのスパルタ集団は! いいかい? 心と体が弱っている子に過酷な修練は専門的知識と適切な用法要領を把握したうえで行わなければ意味がないわけで、当然そんなの知らない君たちが行っていいことじゃ・・・」
レヴィアは速攻で説教を始めるが、しかしこれで止まってくれるかどうかすごく不安である。
そして、そんな光景を眺めながらイッセーと一夏はため息をついた。
「なあ、やっぱ女装って駄目だと思うんだよ。男らしくない」
「お前はいつも通りだけど同感。俺も精神的にきついって」
思うところは別々だが、しかし一緒にため息をついた。
「よお兵藤に織斑。そこにいるのがリアス先輩の眷属か?」
「ああ、レヴィアと蘭にかばわれてるのがギャスパーだ」
一夏がさらりと答えるが、なぜか匙の顔は赤くなっている。
その理由がさっぱりわからないのが一夏の一夏たる理由だが、イッセーはその理由にすぐに思い当たった。
思い当たったがゆえに、涙を流して肩に手を置き、そしてそのまま首を振る。
「あれは・・・女装男子だ」
そして、匙はそのまま崩れ落ちた。
「引きこもりなのに女装男子って、意味わかんねぇ・・・! 俺の、俺の喜びを返せ!!」
「お前らそこまで落ち込むなよ。いや、俺も女装はどうかと思うけどさぁ」
なんというか男らしくない。いや、心と体の性別が違うのならばわかるのだが、別にギャスパーはそういうわけでもないだろう。
ミルたんもそれはそうなのだが、あれは男を通り越して
まあ、そういうわけで男三人が多少かみ合ってないがギャスパーの女装に落ち込んでいた時、枝が折れる音が響いた。
「おうおう。こんなところで何喧嘩してんだ?」
その声に一同の視線を向ければ、そこには見慣れない男がいた。
人間でいうならば三十台ぐらいの風貌。いわゆるチョイ悪系の風貌をしているが、和服を着ているためなんというかやくざの親分をイメージさせる。
「あの、この学校関係者以外は立ち入り禁止なんですけど・・・」
蘭がおずおずと声をかけるが、しかしレヴィアはその肩に手を置いて押しとどめる。
「気を付けた方がいい蘭ちゃん。その男は―」
「―アザゼルっ!!」
イッセーが叫びながら、赤龍帝の籠手を展開する。
その言葉に思わず全員が疑問符を浮かべた。
この緊張状態に、堕天使の長がこんなところに来るなど信じられない。加えていえば、イメージと全然違う。
だが、肝心の当人がそれに肯定するかのように片手をあげた。
「よ、赤龍帝。この前の夜以来だな」
そしてその声に反応して、ゼノヴィアと一夏も剣を構えた。
「まさかこいつがアザゼルだというのか!?」
「堕天使の総督って・・・マジか!!」
コカビエルと同格以上。堕天使を統率する組織の長。
そんな男が本当に目の前にいる事実に、全員が緊張する。
「おい、マジかよ兵藤!」
「ああ、こいつとは何度もあってるから間違いねえ!」
イッセーの真剣な表情に、匙もまた警戒心を強めて神器を呼び出す。
子猫や蘭もすぐに戦闘態勢に入り、ギャスパーは慌てて木の陰に隠れる。
そんな中、レヴィアは一歩前に踏み出し―
「・・・あの、面倒だから帰ってくれない?」
すごく自然体で文句を言い放った。
「・・・レヴィアさぁあああああん!? 油断しすぎ!?」
思わず絶叫するイッセーだが、しかしレヴィアはまったく気にしない。
「大丈夫だって。コカビエルを止めに白龍皇を送り込んだんなら、ここで騒ぎを起こすつもりはないって」
「まったくだ。俺は戦争なんて御免なんだよ。悪戯はするが限度はわきまえるさ」
アザゼルはそういいながら周りを見渡すが、そしてすぐに肩を落とした。
「聖魔剣の坊主はいねえのかよ。あいつを見に来たってのに」
「そういうのは会談が終わってからにしてくれないかな? ・・・ああ、イッセーくんも勝てないから戦闘態勢取らない。一夏くんと蘭ちゃんも収めて納めて」
手早く慌てている仲間をまとめながら、レヴィアは軽く視線を向ける。
「自分の強大さを自覚して自重してくれないかな? 下級悪魔の心臓に悪すぎるんだよ、貴方は」
「へいへいシェムハザみたいに小うるさいことで。別に下級悪魔にいじめやるほど落ちぶれちゃいねえってのに。・・・ん?」
うんざりしながら肩を落とすアザゼルの視線が、しかしすぐにギャスパーに映る。
「おい、そこのヴァンパイア」
「ひぃっ!? な、なんですかぁあああああ!!!」
絶叫しながら腰を落とすギャスパーをまじまじと見つめながら、アザゼルはその目に指を突き付ける。
「その邪眼、全く使いこなせてねえな? さっさと補助器具を用意しろって・・・ああ、悪魔は研究進んでなかったな。感覚で発動させるタイプは使い手のキャパがないと暴走するんだが・・・」
そうペラペラしゃべりながら自分の世界に没頭するアザゼルに、レヴィアは迷惑そうな視線を向ける。
「だったら迷惑料に補助器具おいてってくれないかな?」
「あいにく持ってきてねえよ。まあ、代用品ならそこにあるぜ?」
そういって匙に指を突き付けるアザゼルの表情は自信満々だった。
「な、ななななんだいきなり!?」
「お前の
さらりと言われたその言葉に、匙はおろかイッセー達も目を見開く。
匙の神器がラインをつなげた相手の力を吸い取ることは知っていたが、そこまで器用なことができるとは思わなかった。
「へえ。そんな能力まであるんだ」
「そんなことも分からねえほど研究が進んでねえのかよ。悪魔の研究は遅れてんなぁ」
心底あきれながら、アザゼルは神をぼりぼりとかく。
「いいか? 黒い龍脈は五大龍王の一角である黒蛇の龍王《プリズン・ドラゴン》ヴリトラの魂を分割封印した神器の一種だ。どんなものにもラインをつなげれば力の吸収と拡散が可能で、ラインを切り離すことで別々のものにつなげる者もできるっつー優れモノだ」
そう自慢げに語るアザゼルの顔は、知識をしゃべりたがるマニアのそれだった。
「きいたのはレヴィアさんですけど、そんなにしゃべっていいんですか?」
あまりのペラペラ具合に、思わず蘭が心配して尋ねるがアザゼルはまったく気にしていなかった。
「なに、どうせこの程度の情報は悪魔側にも知られるからな。先に一つ出しといても何の問題もないさ。ま、手っ取り早く強化するなら赤龍帝の血でも飲ませろ。力あるドラゴンの血をヴァンパイアに飲ませれば自然と力がつくさ」
そういうなり、アザゼルは踵を返してその場を去ろうとする。
しかし、その歩みを止めるとアザゼルはイッセーに振り返った。
「おお、ヴァーリが―白龍皇が迷惑かけたのは謝るぜ。あいつは根っからのバトルジャンキーだが、未熟な状態で赤白対決するタイプじゃねえから安心しとけ」
「正体隠して接触してきたあんたの方は謝らねえのかよ!」
思わず突っ込みを入れるイッセーだが、その返答はからからとした笑い声だった。
「そりゃぁ俺の趣味だ。謝らねえよ」