ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
そこにいる男の言葉は、全員が耳を疑うようなものだった。
ベルゼブブの名を持つことはいい。今回の下手人は旧魔王派なのだから当然だ。
人類統一同盟のメンバーであることはいい。そのISが襲撃してきたのだから当たり前だ。
だが、それがふたつ合わさっていることは驚愕以外の何物でもない。
「やっぱりお前か。お前は昔から人間に興味を持っていたからな。旧魔王派の代表はお前か?」
「旧魔王派とは同盟を結んでいるが、しかし彼らと一緒にされるのは心外だ。私は人間とのハーフだし、何より悪魔である以前に人間だとも」
シャロッコは不愉快そうにそう告げると、視線を校舎の方へとむける。
そこにいるサーゼクスたちの視線が向けられていることを確認すると、彼は視線をアザゼルたちの方へと戻し、そして両手を広げた。
「さて、今回私がここに来たのは、貴方方にある程度事情を説明した方がいいかと判断したからだ。…聞きたいことがあるなら、私の権限の範囲内で答えよう」
「じゃあきこうか? …お前らどういうつもりだ?」
アザゼルの質問は単刀直入だった。
禍の団のメンバーとしての襲撃事件は、すなわち人類統一同盟が三大勢力に対して戦争を仕掛けてきたということと同義である。
ただでさえ世界各国相手に戦争を仕掛けておきながら、これは明らかに悪手としか思えない。
だが、シャロッコは何の躊躇のなく首肯した。
「ああ、そもそも我々の最大の敵は貴方方だ」
「三大勢力が敵だって? おいおい、俺たちは人間世界に深入りするつもりはないぜ?」
「否、そういう意味ではない」
シャロッコは首を振ると、鋭い視線でアザゼルをにらみつける。
「我々人類統一同盟は人類の発展を妨げる物。すなわち、統一政府をつくろうともしない現国家及び、異能の力を人類に広めないあらゆる神話宗教勢力の打倒を目的としている」
まっすぐな瞳でシャロッコは告げる。
「我々人類統一同盟は、今の人間世界を見限った者たちの集いだよ。・・・それは、地球という狭い世界で勢力争いを続ける愚かな者たちを排除し、あまねく銀河にはばたくものを目指すものだ」
シャロッコは答える。
「宇宙開発用にISが開発されて約十年。にもかかわらずISは軍事及び競技用としてしか使用されていない。・・・実に嘆かわしいとは思わないかね」
「否定はしねえよ。いつの世も最先端の科学は軍事に転用されるもんだ」
技術者としてアザゼルはその思想に一定の肯定を示し、しかし鋭い視線で敵意を向ける。
「だがな? だからこそうかつな技術公表はできない。傲慢かもしれないが、人間が本格的に異能を知れば、その欲望は大きな破壊を生み出す方向で使われる。・・・過剰な発展は急激な軋轢を生むぞ?」
「見解の相違だな。科学の発展に犠牲はつきものだし、生みの苦しみを否定しては進化はない。・・・我々は君たちの管理に対して反逆する」
その言葉とともに、中が割れる。
そこから姿を現すのは空を飛ぶ戦艦。そしてその子機と思わしき兵器の数々。
戦艦は数こそ少ないが、子機と思われる兵器は百を超える数が浮かんでいる。
「まあ、今回はあくまで挨拶だ。だからこの祝砲をもって終わりとする。・・・生き延びて見せろ、三大勢力」
シャロッコが指を鳴らすと同時、艦隊からの一斉砲撃が放たれた。
それはいい。まさかそのまま帰るなどということはあり得ないのだから。
だが、その破壊力が想定外すぎた。
上級悪魔クラスの砲撃が少なく見積もっても百。それだけの砲撃が一斉に放たれたのだ。
「では、これにて失礼するよ。次は戦場で会おう」
その言葉とともに、砲撃が着弾した。
…緊急特別報道を開始します。
本日深夜3時。日本○○、駒王町の駒王学園にて大規模な爆発事件が発生しました。
その十分後に人類統一同盟が、敵対勢力の重要人物を狙った強襲作戦の一環だという犯行声明を発表。国際連合はISを使用した強襲作戦ではないかと判断して調査を進めています。
しかし現時点において国家首脳陣や軍事関係者で駒王町の駒王学園にいた者はおらず、政府は御情報に惑わされたのではないかと見識を発しております。
これに対して人類統一同盟は「作戦こそ失敗したが間違いなくターゲットはそこにいた。それを公表していないことこそ我々の敵が君たちであることの証明である」と発表し、あくまで成否はともかく作戦そのものに誤りはないというスタンスを崩しておりません…
「やってくれるな、オイ!」
アザゼルは衝動的に地面をける。
砲撃を受けた駒王学園は半分ほど消滅していた。
敵対勢力のほとんどが撤退もしくは死亡していたタイミングであったため反応が遅れたが、しかし奇跡的に首脳陣はもちろん、若手悪魔たちは無事だった。
それに対してはもはや感謝するほかなく、サーゼクスはレヴィアに対して頭を下げる。
「君は本当に礼を言うほかない。リアスたちをかばってくれてありがとう」
「お気になさらずサーゼクス様。僕にとってもリアスちゃんたちは大切な友達ですから」
そう笑みを浮かべるレヴィアは、しかし全体的に力がない。
攻撃がある程度ばらけていたからこそ何とかなっていたが、しかしそれでもこれだけの攻撃の防御はレヴィアにとっても大変だった。
はっきり言って消耗が激しく、すぐに意識を失いそうになるが、しかし気合で耐える。
なにせ、生き残っている悪魔たちの視線が集中しているのだ。せめて彼らの視界から消えてから気絶しなければ、後々不安に襲われてしまうだろう。
「悪い、本当に助かった」
「いいっていいって。眷属を助けるのも主の仕事だから」
一夏にレヴィアは笑って答えるがしかしやはりぎこちない。
確実に無理をしているのは誰が見ても明らかで、すぐに帰ることになった。
「んじゃ、皆は悪いけど後始末よろしくね。…ホントは僕も手伝いたいんだけど―」
「いいから休め。そんな疲労困憊で手伝われても迷惑だ」
バッサリ千冬にたたき切られるが、しかし出席簿は飛んでこない。
それだけ憔悴していることを見抜かれていることの証明だった。
「んじゃ、そろそろ帰るよ。あとはよろしくね」
レヴィアはそういいながら、魔方陣を展開して転移する。
「…うん、こんどは守れてよかったよ」
小さな、その言葉を残して。
「………」
一夏はその言葉に少しの間とまるが、すぐに出席簿の直撃を喰らった。
「痛いって千冬姉! 俺にも少しぐらい休ませてくれよ」
「馬鹿者、レヴィアはともかく私やお前にそんな余裕はない。被害者も多いのだから急ぐぞ」
そういうと、千冬は破壊された校舎の復旧に参加するべく歩き出した。
それにとぼとぼとついていこうとする一夏に、最後の一言だけ残す。
「…まあ、最後の瞬時加速はなかなかだったな。お前も少しは成長したな」
その言葉に、一夏は少しだけきょとんとすると、しかしこぶしを握り締める。
ISの技量で千冬に評価されるなどそうはない。しかしブリュンヒルデにそういわれることが、どれだけ価値があるかぐらいは少しはわかる。
とはいえ、それを心から喜ぶわけにもいかないのだが。
「あんな顔、しないでほしいんだけどな」
レヴィアのあの顔は、昔のことを思い出してしまうので嫌な気分になる。
『ごめんなさい』
あんな顔をレヴィアが浮かべるのは二度とごめんだ。
守るために強くなろうとしてきた一夏にとって、もう一人の姉ともいえるレヴィアがあの顔を見せることは負け以外の何物でもない。
「………一夏さん」
隣に並んだ蘭も、同じ思いなのか少し暗い顔をしていた。
「強く、なりましょう」
「ああ、本当にな」
「旧魔王の末裔に人類統一同盟。禍の団はすでに相当の戦力を保有しているようですね」
一通りの処置が終わった後、ミカエルは苦い顔でそう告げる。
人類統一同盟は人間世界の脅威だと今まで判断していた。
うかつに人類の選んだ道に干渉するわけにはいかないとしてきたが、しかし向こうから仕掛けてきた以上話は別だ。
ましてや彼らの発言が本当ならば、おそらく魔法技術などを率先して科学と組み合わせている可能性もある。
そんなことになれば、ISはもちろんIS以外の兵器も中級悪魔では相手ができないような脅威になりかねない。少なくとも、技術がこれまで以上に急激に発展する。
人間の欲望は力を発展させすぎる。それが異形世界の共通認識であり、それゆえに彼らは人類の裏側に存在することを基本としてきた。
傲慢な考えといわれれば否定できないが、しかし不安定な世界のバランスを考慮すれば、うかつなまねができないのも事実。人類統一同盟を放っておくわけ位にはいかなかった。
おそらく人類統一同盟も即座に公表するつもりはないだろうが、それでも本格的に複合運用してくることは間違いない。
そのための対策をとる必要があった。
「カテレア・レヴィアタンにシャロッコ・ベルゼブブ。今回の首謀者は旧魔王の末裔だ。完膚なきまでにこちらの不手際だな。…すまなかったミカエル」
サーゼクスは沈痛の表情で頭を下げる。
その影響力から抹殺することが困難な旧魔王末裔であるが、しかしこれだけのことをしたのならば本格的に事を構えるほかない。残念だが、魔王末裔の大半には断絶してもらうことになるだろう。
それらのことを考えて気が重くなっていることを察して、ミカエルは手を出して収めるようにする。
「いえ、バチカンの立場から人類統一同盟をけん制することはできたのです。我々にも責任はあります」
「だな。俺のところもヴァーリが迷惑かけて悪かった」
アザゼルもまたそう告げるが、しかしその表情はわずかに暗い。
「アイツを抑えきれなかったことが今回の事件の根本のきっかけだ。それがなければもう少しましになったろう」
「仕方がないことでしょう。それに、我々が手を取り合うことができるということがどれだけ世界にとっていい影響を与えるかなど言うまでもありません」
ミカエルはそう告げ、そして天使たちに顔を向ける。
「とはいえ、今後離反する者たちも多いでしょう。そんな彼らの受け皿となるのが禍の団ということですか」
「ま、それは仕方ねえだろ。長年いがみ合ってきたんだからな」
アザゼルはそういうと、堕天使たちに顔を向けると声を張り上げた。
「俺は今後和平を選ぶ! それが納得できないなら、出ていくなり禍の団に入るなり好きにしろ。だが、敵になるなら俺は容赦なくお前らを殺すぞ! ついてきたいやつだけついてこい!!」
『『『『『『『『『『我らの命、アザゼルさまとともに!!』』』』』』』』』』
堕天使たちが一斉に声を張り上げる中、サーゼクスもまた声を上げた。
「悪魔も同じだ。悪魔という種族のため、そして何よりこの世界のためにも戦争は不必要。これ以上のいがみ合いは無しにしようではないか」
その声に、悪魔たちからも歓声が上がった。
そんな歓声の中、イッセーはミカエルを見つけると駆け寄った。
「ミカエルさん! …あの、一つお願いがあるんですけど!」
「どうしました赤龍帝? 私にかなえられることでしたら何なりと」
「…悪魔が神様に祈るとダメージを受けるのは、聖書の神が作ったシステムのせいなんですよね?」
イッセーはそう前置きしてから、意を決して切り出した。
「アーシアとゼノヴィアが祈る分だけでも、お目こぼしできないでしょうか?」
その言葉に、多くの者たちが目を見開いた。
むろん、アーシアとゼノヴィアも同じように驚いている。
「いつもアーシアとゼノヴィアはついお祈りしては頭を抱えるのがかわいそうで。…無理っすかね?」
「…そうですね。教会に近づかないという条件があれば、二人分ぐらいは何とかなるとは思います」
そう考え込むと、ミカエルは二人に尋ねる。
「アーシア、ゼノヴィア。神は不在ですが、それでも祈りを捧げますか?」
その問いに、二人はかしこまって姿勢を正しながらも、しかしまっすぐに答えた。
「はい。主がいなくても、祈りを捧げたいと思います」
「同じく、主への感謝とミカエル様への感謝を込めて」
その言葉に、ミカエルは微笑を浮かべてうなづいた。
「わかりました。神に祈りをささげる悪魔が、二人ぐらいいても構わないでしょう」
「確かにな。これはまた面白い悪魔が出てきたもんだ」
「ああ、まさに和平の象徴ともいえるだろう」
アザゼルとサーゼクスも笑みを浮かべ、そしてイッセーは二人に振り向くと親指を立てる。
「良かったな二人とも! これでこれからは祈り放題だ!!」
「「ああ、主よ!」」
感極まり二人は両手を組むと天へと祈り―
「「あう!?」」
…まだシステムを調整してはいないのである。