ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
「……なあ、レヴィア」
トレーニングを終えてシャワーで汗を流しながら、一夏はレヴィアに聞きたいことがあった。
「なんだい、一夏くん」
「……自分の真の力って、そんなにこだわらなきゃいけないものなのか?」
レヴィアの目に映る一夏の目は真剣で、レヴィアはいつもより少し真面目になることを決める。
「それは朱乃ちゃんのことかい? それとも―」
「小猫もだよ」
一夏はそう告げる。
「そう。誰から聞いたんだい?」
「イッセーに相談された。アイツは俺が知ってるもんだと思ってたらしい」
なるほど、とレヴィアは納得する。
塔城小猫は妖猫である。
元々は親を失い姉と一緒に過ごしていた妖怪だったが、優れた素質を持つ姉に価値を見出した悪魔の手によって、拾われることとなる。
だが、姉はその後暴走した。
ごく一部の妖怪などといった、一握りの存在だけが使える仙術。
それを使えるものは非常に強大であるが、同時に周囲の気を取り込むため、使い方を誤ると悪性に堕ちる。
小猫の姉は、まさにそのたぐいだった。
彼女は主を殺して逃亡し、今やSS級のはぐれ悪魔だ。
「そういう意味だと、小猫ちゃんも立派にグレモリー眷属してるんだよね。……リアスちゃんに拾われるその時に、不幸じゃなかった子なんて一人もいない」
「確かに、イッセー先輩も結構ひどいですよね……」
念願の彼女ができたと思ったら、それが暗殺のための刺客だったなどというのはかなり不幸だろう。
そして、それがましな部類であるということにグレモリー眷属の業がある。
「とはいえアザゼル先生の言うことにも一理ある。この世で最も成功する確率があるのは勤勉な天才。努力だけでも才能だけでも簡単に成功を許すほど、世の中は甘くできていないしね」
非常に優れた才があり、それが求める方向性と一致しているのなら、それを使わないのは愚行というほかない。
今後の激戦を考慮するのであるならば、小猫は間違いなく妖怪としての特性を考慮するべきだ。
そうしなけれな、高確率で天才ぞろいのグレモリー眷属で取り残されるだろう。
だが、一夏の考えは違ったようだ。
「……俺は、今更剣の才能がないからほかの道を進めって言われても多分受け入れない」
ぽつりと一夏はそういうと、自分の両手を見つめだす。
「だって俺は自分の道をもう決めてる。其れなのによそから違う道を強制されてそっちに進んだって、心が納得するわけない。そんな曇った力で勝てるわけがないだろう?」
「なるほど、一理あるね」
レヴィアはそう告げるが、しかし静かに寂しげにほほ笑む。
「だけど、どちらにしても姉に関するわだかまりはどこかで解消するべきだ。そうしなければ、きっとこの先転げ落ちる」
おそらく、自分たちは禍の団に目をつけられている。
少なくともヴァーリはイッセーにもレヴィアにも千冬にも興味を持っている。そして彼は自分のチームを持っている。
禍の団との戦いが本格的に始まれば、間違いなくヴァーリたちとはかかわることになるだろう。
彼らに対抗するためにも、若手悪魔程度の戦闘能力でいるわけにはいかなかった。
「まあ、今はそんなことを忘れてパーティを楽しもうか。……僕はあいさつ回りで苦労しそうだけどねぇ」
そういうと、レヴィアは軽くため息をついた。
若手悪魔たちを祝うパーティというのは建前で、実際のところは大人たちが楽しむためのパーティだ。
すでにメインゲストのはずのレヴィア達が来る前から出来上がっているのがその証拠。まあそれでも、レヴィアなどはあいさつ回りに忙殺されているわけだが。
「……すごいよなぁ、ここ」
「ですよねぇ」
その非常に豪華な光景に、一夏も蘭も圧倒される。
レヴィアは本来こういう世界で暮らすことが当たり前なのだと思うと、少し同情してしまうほどだ。
割と庶民臭いレヴィアには、こういう光景はあまりに合わない。
「ふむ、一夏も蘭もこういうのは慣れてないのか。まあ私もだが」
はむはむと食事を食べながらのゼノヴィアの言葉に、少し緊張が解けた。
しかしそれにしても大きなイベントであり、その高貴な姿にイッセーは少し気圧される。
「でもこれすごいよなぁ。俺たちも上級悪魔になったら積極的に参加しなきゃいけないのかぁ」
「ぼ、ぼぼぼ僕には縁のない話ですので安心ですぅ。……ああ、意識が遠く……」
「ギャスパーくん、しっかりして」
対人恐怖症気味のギャスパーは意識を遠のかせ、木場に支えられる体たらくだ。
そんな光景の中、一夏はふと視線を周りに向ける。
―そこに、走り出す小猫の姿が映った。
「……まずいな、あれは」
なんとなく嫌な予感がして、一夏は立ち上がるとすぐに追いかける。
そして、そこにイッセーが並んで走っていた。
「小猫ちゃんは俺たちの仲間だしな」
「いうと思ったよ」
そういい合いながらすぐにエレベーターを確認すると、すでに小猫が乗ったと思われるエレベーターは一階に向けて降りていた。
すぐに追いかけようとエレベーターを押せば、さらに近づいた影が一つ。
「どうしたの、イッセー?」
「部長? なんで、こんなところに?」
「貴方のことはいつでも見てるもの」
へえ、眷属のことが心配なんだぁ、と一夏は納得した。
一階まで下りた三人は、使い魔ですぐに小猫の場所を確認すると追いかける。
「でもなんで小猫ちゃんは急に降りたんだ?」
「そういえばそうだな。なんでだ?」
「………一つ、心当たりがあるわ」
首をかしげる二人に対して、リアスは懸念の表情を浮かべると考え込む。
「小猫のことについては、二人とも知ってる?」
「ああ、すいません。織斑に言っちゃいました」
「そういうわけで知ってます」
二人がうなづいたのを見て、リアスはすぐに話を続ける。
「小猫の姉である黒歌は、僧侶《ビショップ》として非常に優れていたわ。その中には、使い魔の扱いも含まれているわ」
その言葉を聞いて、二人は嫌な予感がした。
そして、リアスはその予感を形に変える。
「たぶん、あのパーティ会場にその使い魔がいたんだと思うわ」
「マジかよ!?」
一夏はそれを聞いてペースを早くする。
そうだとするならば、小猫はSSランク級のはぐれ悪魔の元に一人で向かったことになる。
それを放っておけるわけがなかった。
そして、幸か不幸か小猫の姿を発見した。
「待ちなさい織斑くん! まずは様子を―」
「小猫!!」
リアスの静止を振り切って、一夏はすぐに飛びだした。
考えなしといえば言うといい。それでも、仲間が危機かもしれない状況下でこっそり様子を覗き見るなんて男らしくない真似はごめんだった。
「……織斑先輩っ?」
「探したぞ! 何を見つけたのかはなんとなくわかってるけど、とにかく一人で動くなって」
一夏は油断なく警戒しながら、周りを確認する。
残念なことに気配は感じないが、しかしなんとなく嫌な予感はする。
「……へぇ~。姉と妹の感動の再会を邪魔するなんて、なかなか面倒なやつにゃん」
そして、黒い女性が現れた。
着物を着崩した女は、木の上で器用に寝ころびながら小猫を見据える。
「はぁい白音。元気だったようでお姉ちゃんはうれしいにゃん♪」
「姉様、なぜここに?」
剣のある表情で尋ねる小猫に、黒歌は笑顔のまま軽く答える。
「簡単よ。暇してたら悪魔の会合が開かれるって聞いたから、ちょっと覗き見に来たの」
「そんな理由で来るだなんて、はぐれ悪魔ってのは暇なんだな」
一夏は剣を構えながら、油断なく周囲を警戒しながら黒歌をにらむ。
目の前の女の行動で小猫がひどい目にあっていることを知っているからこその警戒だが、しかし黒歌は平然としていた。
「ええ暇なの。だからついヴァーリに誘われて彼のチームに所属することになったにゃん」
その言葉に、警戒心が一気に跳ね上がった。
あのチンピラの顔を思い出すたびに、怒りがこみ上げる。
ただ、自分がより強い敵と戦いたいという理由だけで、何の罪のない人間を二人も殺そうとする悪鬼外道。なんであんな男をなんだかんだで面倒見がいいアザゼルが見逃していたんかわからないほど敵意が沸く。
レヴィアや現四大魔王はもちろんのこと、仮にも王になろうとしたカテレアの方がまだましではないだろうかとすら思うのだが、黒歌にしてみればヴァーリの方が好みということだろう。
「……そんなにあのチンピラがいいのかよ。男の趣味悪いな、アンタ」
「あら、ヴァーリはヴァーリで面白い奴よ。少なくとも、アンタみたいな朴念仁よりかは一緒にいて楽しいわね」
静かに敵意をぶつけながら、二人は攻撃のタイミングを見計らう。
そして、その状況がさらに変化した。
「おいおい黒歌。そんなところで何してるんだ?」
「……美猴!」
これは面倒なことになったと、一夏は警戒心をさらに強める。
そんな中、美猴と黒歌は自然体で、会話を始めた。
「どうしたのよ。もうそんな時間?」
「ああ、シャロッコがそろそろ動くっていうし、この辺で帰った方が面倒がなくていいぜい?」
「それなら白音は連れていくにゃん? 私の妹なら才能もあるし、オーフィスも納得するんじゃないかしら?」
「いやいや、さすがにグレモリーの眷属を連れて行くのは、シャルバあたりがうるさいんじゃねーの?」
「だったらそこにいる赤龍帝の首も持ってけばいいにゃん。それなら向こうも黙るでしょう?」
「……ふざけるなよ」
何の問題もない、といわんばかりの言葉に、一夏は怒気すら込めてにらみつける。
「同感ね。さっきから黙ってみていれば、そんなことを許すと思ってるの?」
「……あら心外ね。私は姉なんだから当然の権利だと思うけれど?」
リアスの怒気にも動じず、黒歌は余裕の表情すら浮かべてそう告げる。
そして、その黒歌の顔に、一夏は剣の切っ先を突き付ける。
「黙ってろ。お前は小猫の家族でも何でもない」
「……は?」
一夏は小猫をかばうように前に立ち、冷たい視線を黒歌へとむけた。
「血がつながっていれば家族だって? ふざけるな。お前は血はつながっているかもしれないけど、小猫の家族でも何でもない!」
「言ってくれるわね。だったらあんたが家族になるっていうの?」
「いうまでもないわね」
そう言って、リアスは小猫を抱きしめる。
「この子は私の眷属、塔城小猫。あなたが与えなかった幸せは、私がこの子に与えてあげるわ。……貴方なんかには渡さない!!」
「ああ、なんだかわからないが俺も邪魔するぜ!!」
イッセーもまた、赤龍帝の籠手を呼び出しながら黒歌をにらみつける。
「小猫ちゃんは俺たちの仲間だ! それを無理やり連れてこうってんなら、俺が、俺たちが許さない!!」
「一夏さん、リアス部長、イッセー先輩……っ」
自分をかばう三人の姿を目に焼き付け、子猫は目に涙を浮かべる。
「私は、私は塔城小猫ですっ! 私は、リアス部長たちと一緒にいます!!」
「ああ、わかった!!」
その言葉とともに、一夏は黒歌たちへと切りかかった。