ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
沈黙が響いた。
戦場が一瞬静寂に包まれる中、イッセーは真剣な表情を浮かべてリアスに懇願する。
「断言できます。今俺に足りないのは、リアス部長の乳首です!!」
「いや、なんでそうなるんですか?」
近距離で気の狂った発言をきかされてなお、ソーナ・シトリーは冷静に突っ込みを入れる。
あらゆる意味で非常識極まりない発言だ。
だが、言い切ったイッセーの目は、むしろ曇りなく澄んでいた。
アザゼルとの会話以降、イッセーの心の一部はそれに支配されていたといっても過言ではない。乳首というブザーを押すといういまだとどなく新境地に、イッセーは心を魅了されていた。
この渇望をかなえたその時こそ、イッセーの心は新たなる境地へと飛翔すると彼は確信している。
そして、その精神的成長こそが禁手にいたるのに必要不可欠だと断言できた。
でもたぶん怒られるんだろうなぁとは思っている。自分でも非常識なことを言っている自覚はある。
「……わかったわ。それで、あなたの想いがかなうのなら」
なのでこの返答は正直予想外だった。
拒否でも叱責でもなく了承。それを聞いたその場にいるほとんど全員が、リアスの正気を疑ったのは言うまでもない。
「リアス、ちょっと落ち着いてください」
「何を言っているのソーナ。イッセーが至るかどうかの瀬戸際なのよ? この不利な状況で逆転の可能性にかけるのはそんなにおかしなことかしら?」
ソーナに対する返答は、すなわちつつけばいたる可能性をリアス自身考慮しているということに他ならなかった。
あまりといえばあまりの展開に、言ったイッセー自身が割と動揺している。
「お、俺は本気で言ってますよ!? 本当にやりますよ!?」
「ええ。そして本当にあなたは禁手にいたると信じてるわ」
「信じないでください!!」
蘭渾身のツッコミが飛んできた。
「イッセー! お前、こんなところで女の人の胸をあらわにさせるとか最低だろ! 本当に切るぞ!!」
「させるか! それで禁手にいたってくれるなら俺としても止めさせるわけにはいかない!!」
一夏にいたっては攻撃の矛先をイッセーに変えようとすらしているが、しかしライバルの覚醒をもくろんだヴァーリに本気の妨害を受けてしまう。
「ねえ美猴! こんなのが白音の同僚だとか本気でかわいそうになってきたんだけど!!」
「あきらめろ! 赤龍帝はきっと俺っちたちとはまったく違う思考回路で動いてんだ!!」
「僕のかわいいイッセーくんと君たちチンピラの思考回路が一緒なわけないじゃないか!!」
黒歌と美猴の言葉に、レヴィアは懲りずに挑発を繰り返すがそれはともかく。
とにかく許可をもらったので翻さ餌れたりしないうちにつつこうとして、イッセーはとんでもないことに気が付いてしまった。
「あ、あの、誰か!!」
「どうしたの、イッセー? さすがに恥ずかしいのだけれども」
さすがに人としての一線は保持していたリアスに対して、イッセーは愕然とした表情で告げる。
「乳首は左右にあるの忘れてました! どっちをつつけばいいでしょうか!!」
「死ね!」
「死んでください!!」
「あの、本当に死んでくれませんか?」
一夏と蘭と小猫から非常に辛辣な言葉が届いた。
「大体左右どっちつついたっていいだろ? そんなの変わらないって!!」
「何寝ぼけてんだ!! 右と左が同じなわけないだろ織斑!! 俺の初ブザーだぞ、人生かかってんだ!!」
「やり直せそんな人生!!」
「じゃあお前はどっちつついたかもわからないそんないい加減な人生でいいのかよ!!」
「俺の人生にそんなものどうでもいいよ!!」
一夏とイッセーが渾身の言い合いをしている中もそろそろ戦闘が再開されかかっている。
「っていうか完璧にセクハラよね? 死ねばいいのに」
「受け入れるグレモリーもグレモリーだろ。痴女か?」
むしろ外野としてディスられている。
そしてそんな中、何とか少しだけ結界をこじ開けたレヴィアが渾身の想いを込めて叫んだ。
「そんなみみっちいこと言ってないで、両方つついたらいいじゃないか!! 手は二つあるんだよ!?」
その言葉に、イッセーは天啓を受けたかのように体を震わせた。
「そ、その手があったか!!」
「……おい、誰かあの変態ぶち殺せよ」
「お前がやれよ俺は嫌だよ」
「男どもがやってよ、あんな変態触れたくない」
いい加減IS乗り達からの白い眼が限界に達しかけている。
このままでは攻撃が再開されるかもしれないと思い、イッセーは震える両手を突き出した。
…………つん
「…………いやん」
その感触と、その反応。
イッセーは心の底から感銘を受けて、感想を漏らす。
「これが、真理」
「おめでとう、イッセーくん」
心の底から慈愛に満ちた声で、レヴィアが祝福した。
そしてその瞬間、莫大なオーラがイッセーの全身から放たれる。
『至った! 本当に至りやがったぞぉ!!』
『Welsh Dragon Balance Breaker!!』
ドライグの叫びとともに放たれるそのオーラは、生半可な上級悪魔を凌駕するほどの出力が込められていた。
少なくともリアスとソーナの二人では太刀打ちできないほどの圧倒的なオーラ。
それを放出しながら、イッセーは全身に鎧を展開する。
物質化したオーラでできた、赤い龍を模した鎧。これまでの不完全なモノとは違い、龍の翼すら背中から生えていた。
「
『おめでとう、相棒。だが泣いていいか?』
「おめでとうイッセーくん! 僕は今、最高の至り方を目撃したよ!!」
「眷属やめるぞ馬鹿主!!」
「本当に辞めますよ馬鹿主!!」
ショックで泣きそうなドライグと歓喜で泣きそうなレヴィアに対して、もういろいろとうんざりとした一夏と蘭の声がむなしく響く。
「「「「「「「「「「本当に至ったぁあああああああ!?」」」」」」」」」」
そしてあまりにいやらしい至り方に、外野のIS達は一斉に叫んだ。
まあ、それはそうである。
「ふ、ふふふふふふふ」
兵藤一誠の禁手をみて、誰よりも何よりも歓喜している者がいた。
そう、ヴァーリ・ルシファーである。
「ようやくだ! ようやく正しい意味で俺と戦う土俵に上ってくれたか、兵藤一誠!!」
白龍皇である自分の宿敵である赤龍帝。
それが遂に、自分と同じ領域へと一歩近づいたことに、ヴァーリは心の底から歓喜する。
思えば、最初に存在を知ったときは心から落胆したものだ。
魔王の血を引き白龍皇を宿す自分に対して、偉業どころか異能すらまったく関わってない血筋の者として生まれた赤龍帝。
はっきり言ってスタート地点からあまりにも差がありすぎており、心の底から落胆した。
だが、その評価は少しずつだが変わっていっている。
なにせ、これまでの歴史において女の乳を生まれて初めてつついたことが原因で禁手にいたった赤龍帝など聞いたことがない。それどころは白龍皇でもない。そして知りうる限りのあらゆる禁手でそんな事態はない。
こんな想定外の進化を遂げる赤龍帝ならば、下馬評を覆して自分を追い込んでくれるかもしれない。
そんな期待を胸によぎらせながら、ヴァーリは戦闘を開始する。
「さあ、その力を俺に見せてくれ!!」
あまりの光景に唖然として隙だらけだった一夏を引き離し、ヴァーリは躊躇なく殴りかかる。
それに対して、イッセーもまた躊躇なく殴りつけた。
「ふん!」
「おらぁ!!」
衝撃が二つ同時に響き、お互いの顔面に拳が叩き込まれる。
そして鎧が砕け、二人の鋭い視線が交錯した。
「そうだ! それでいい! それでこそ俺の宿命のライバルだ!!」
「ふざけんなこの野郎! 俺の人生に野郎の宿敵なんて必要ないんだよ!!」
そういい合いながら、二人は激突を繰り広げる。
なりたての禁手にもかかわらず、イッセーの攻撃は確かにヴァーリに響いていた。
「強い、強いぞ赤龍帝!! 強くなったじゃないか兵藤一誠!!」
「あったりまえだ! 強くならないとハーレム王になんてなれないからな!!」
ヴァーリが放つ無数の魔力弾を、大火力の砲撃でまとめて吹き飛ばしながらイッセーは突撃を敢行する。
それをひらりとかわしたヴァーリだったが、しかしさっきを感じて身をひるがえす。
そしてそのわずか一瞬先で、一夏の剣が空を切った。
「外したか!!」
「貴様! 二天龍の決闘を邪魔するか!!」
かなりうれしい時間を邪魔されてヴァーリは激昂するが、その隙をついてイッセーの拳がヴァーリに叩き込まれる。
「馬鹿野郎! 最初から一対一何て考えてねえよ!!」
「ああ。レヴィアからも「見つけたら数でボコれ。遠慮はいらない僕が許す」って言われてるしな!!」
もとより、和平を妨害する手合いを自らの楽しみのためだけに連れてくるような輩に遠慮など無用。
あくまでただの障害として倒そうとするイッセーと一夏に、ヴァーリは残念に感じながらも昂らせた。
決闘ではないのが残念だが、しかし素晴らしい戦いであることには違いない。
この戦いを乗り越えることで、自分の夢にさらに近づけるのだと思うと歓喜の感情すら浮かんでくる。
ああ、そうだもっと来い。
より強い敵が、より聡い敵が、より硬い敵が、より早い敵がほしい。
そしてそれを乗り越えて強くなる先に、真なる白龍神皇の道が―
「……ん?」
そう思った瞬間、ヴァーリは全身を虚脱感が襲っていることに気が付いた。
そして、気づいた瞬間に体に力が入らなくなる。
「なんだ? まだそこまでダメージは―」
「ようやく、効果が現れましたか」
戸惑うヴァーリに、それまで迎撃を続けていたソーナが、静かに告げる。
「貴方は致命的な油断をしていた。それがあなたの敗因です」
「馬鹿な、確かに兵藤一誠も織斑一夏も強敵だが、致命打などもらっては―」
そう言いかけて、ヴァーリは気づく。
そういえば、自分はそれ以外にも一撃をもらっていた。
「まさか―っ」
とっさに匙元士郎を叩きのめしたときにカウンターで接続されたラインを引きちぎる。
そこから漏れたのは、魔力ではなかった。
赤く、わずかに粘る液体。鉄の匂いを発する人間にとって最も重要な液体の一つ。
すなわち、血液である。
「知っていますか? 人間は、血液の総量の半分を失うと生命活動に支障をきたす。半分は人間である貴方もその影響は大きいでしょう」
眼鏡を持ち上げ、ソーナはポケットからラインにつながった袋を取り出す。
それは、間違いなくリットル単位で給っていたヴァーリの血液だった。
「元々、イッセー君とレーティングゲームで戦うことになったときに行う予定だった戦法なのですが、匙はとっさによくやってくれました」
あの時のカウンターは、本当にアドリブ以外の何物でもなかった。
それほどまでに不意打ちに近かったし、何より匙が触れることすら奇跡に近い芸当だった。
だが、それは確かに白龍皇という巨大な堤防に、アリの巣ほどの穴をあけていた。
そして、今まさに白龍皇という堤防は決壊したのだ。
その一撃を叩き込んだ眷属を誇りに思いながら、ソーナははっきりとヴァーリ・ルシファーに断言する。
「覚えておきなさい白龍皇。今日ここであなたを倒したのは、兵藤一誠でも織斑一夏でもない。匙元士郎という一人の転生悪魔です!!」
「……まさか、俺が、白龍皇が、禁手にも至っていない半端ものの神器ごときに…‥っ!」
あまりの事態にヴァーリは平静を保てないが、しかしそれは狼狽ではない。
それは歓喜。ジャイアントキリングを、驚愕の大番狂わせを達成された事実に対する、心からの驚喜であった。
「素晴らしい、素晴らしいぞ!! いるじゃないか、世界にはこんなすごい男が!!」
「言ってる場合じゃねいぜぃヴァーリ!!」
と、美猴が黒歌を携えながら、即座にヴァーリをかっさらう
見ればIS部隊もすでに後退を始めており、戦闘が終了したことを物語っていた。
「どうやら時間切れだ! 今日のところは負けを認めようや!!」
「白音は連れて帰りたかったけど、増援も来てるし仕方ないわね」
「そうか。ああ、俺はまた負けたのか」
美猴と黒歌に支えられながら、ヴァーリは満面の笑みを浮かべてイッセー達を見る。
「禍の団にきて正解だった。こんな経験を何度もできるなど、うれしくてたまらない。ああ、これからどうやって勝ち越すのか考えるだけで気絶するほど歓喜に打ち震える……っ!」
「マジ勘弁してくれよ……」
それに心底うんざりとした表情を浮かべるイッセーだが、ヴァーリの視線は彼には向けられない。
代わりに向けられるのは、気絶している匙元士郎だった。
「起きたら彼に伝えてくれ。もし禁手にいたったときは、俺は全力をもってお前ともう一度戦いたいといっていたと」
その言葉とともに、ヴァーリたちは霧に包まれて消えていった。