ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
「・・・なんてこと、できるんだろうか」
「いきなりあきらめるなよ」
イッセーは数日で挫折しかけていた。
それをあきれ半分で見ながら、一夏はとりあえず話を聞く。
「イッセーは素人なんだから、そう簡単に仕事ができるわけでもないだろ? レヴィアから聞いたけどアンケートはすごくいいんじゃないか。そういうのめったにないぞ?」
「そうだけどさぁ。仕事がうまくいったわけじゃないんだから微妙っていうか・・・」
イッセーはそういいながら、これまでの仕事の戦績を思い返す。
一日目は、小猫のお得意さまがダブルブッキングしたのでそこに行くことになった。
だが、コスプレをしてお姫様抱っこしてもらいたいという倒錯的な願いだったのでイッセーでは無理だった。ちなみに依頼人は男である。
そこで物は試しと莫大な財宝や美女を願った依頼人だったが、悪魔の機器で試してみたところ、目にすると同時に命を代償にされるという悲惨な結果が出てきてしまった。
人は平等ではない。それが悪魔の代名詞だ。現実は、非常に非情である。
「それで、朝までドラグ・ソボールごっこして遊んでたんだ。おかげでいい返事がもらえたけど、依頼は一つもできなかった」
「そうか、面白いもんな、ドラグ・ソボール」
うんうんとうなづいたが、しかし少し同情する。
可愛い系の小猫とエロすぎるだけで普通の男子であるイッセーとでは客層が違いすぎる。リベラルすぎないだろうか?
だが、真の問題は次の夜だった。
今度は新規に客が来たので、今度こそと気合を入れてイッセーは自転車で向かった。
そこにいたのは、
「魔法少女ミルキーオルタナティヴ・・・だったっけ?」
「うん。その魔法少女のコスプレをしてた」
イッセーの言葉に一夏は脳裏に想像する。
ボディビルダーかプロレスラーか・・・とでも形容するしかない筋骨隆々の男が、そんな魔法少女のコスプレをしてる姿を。
五秒間想像して、素直な感想を口に出すことにする。
「なんていうか・・・すごいな」
「ああ、すごかった」
願いもすごかった。なんでも魔法少女にしてくれと来たらしい。
当然そんなことを言われても困るので、仕方なくアニメ全話鑑賞という形になった。
「最近の魔法少女って燃えるんだな。熱血ヒーローものって感じがしたよ」
「俺、ヒーローもの苦手なんだよ。あいつら人を救うシステムみたいな感じがしないか?」
「どんな中二病だよ」
「レヴィアにも言われたんだけど、それ」
一夏として素直な感想だったのだが、なぜか理解を得られない。
レヴィア曰く「フィクションの演技なんだから仕方がないじゃないか。一夏くんはもうちょっとそういうところで融通を利かせようよ。僕は好きだよ勧善懲悪」と返された。
どうも自分は変なところがあると、最近思ってきている。
「ああ、それなのに好いてくれてる蘭にはちゃんとしっかり答えてやらないとな」
「おい、のろけてんじゃねえよ!」
イッセーとつかみ合いになって一分後。関節をひねりあげて一夏が勝利した。
「痛い痛い痛い! くそ、お前なんでそんなに強いんだよ!!」
「これでも篠ノ之流を習ってたからな。一般人には負けないって」
イッセーをサラリと制したのは当然といえば当然だ。
一時期は古流武術を習い、そこそこできるようになったのが自分だ。
姉である千冬にはかなわなかったが、それでもたいていの喧嘩には負け知らずだった。
とはいえ、レヴィアには圧倒されるし、冥界の実力者相手にはやられることも多い。落ち込んでいる暇はないと思うが、少しは自信があったのでショックを受けたこともある。
それよりも、レヴィアの眷属になってから喧嘩をした時にレヴィアに説教されたことの方がショックではある。
『一夏君。月並みな言葉だけど、大いなる力には大いなる責任が伴うって言葉を知るといいよ』
普段は柔らかかつ余裕の表情を浮かべることの多いレヴィアが、その時は真剣に目線を合わせて言ってきたので、今でもよく覚えている。
『どの越えた正義は間違いなく悪だ。力を持つものは、力を持たないものに対して節度をもって接さなくてはならない。今の君はただの乱暴者だ』
正直言って、昔の一夏は結構容赦がない性格だった。
女の子をいじめるようなものに手加減をしたことはないし、そんなことをするような連中に手加減をする必要はないとすら考えていた。
相手が悪いのにその親が怒ってくることに関しても、その程度だからその程度の子供ができるんだとすら考えていた。
今にして思えば子供ゆえの理不尽さなのだろう。
小さい子供は自分を中心に世界を考える。自分が正しいという根拠のない正義を掲げるものだ。
それを、レヴィアは真正面から叩き壊してくれた。
今の自分があるのはレヴィアのおかげだろう。
「ま、今の俺もまだまだなんだけどな」
だから、素直にそういうことができた。
「そっか。そのまだまだなお前に歯が立たないんじゃ、俺は最もまだまだなんだろうな」
と、イッセーはさらにため息をつく。
「どうしたんだよ? 何かあったのか?」
「いや、俺、戦闘でも役に立たないからさ・・・」
そういってイッセーは、昨夜起こったはぐれ悪魔との戦いについて話してきた。
転生悪魔といえど、すべてが主である上級悪魔に忠実というわけではない。
上級悪魔の中には、能力が高いと見るや無理やり転生させる悪質な悪魔もいる。転生悪魔の中には、強大な力を手にしたことで暴力に酔いしれる悪魔もいる。
そういった手合いが主の元を脱走して、好き勝手に暴れるのをはぐれ悪魔という。
秩序の維持のため、冥界では基本的に彼らの討伐が行われる。イッセーが参加したのもそんな仕事の一つだ。
その中で、イッセーは自分の無力を痛感した。
転生悪魔は、チェスの駒を模した役割を持つ。
魔力を強化する
速さを強化する
力と硬さを強化する
そしてそれらすべてを強化する
その力を最大限に駆使したリアス・グレモリー眷属の戦いぶりに、一夏はだいぶ自身を喪失していた。
「木場も小猫ちゃんも朱乃さんもむちゃくちゃ強かった。俺は何もできなかったよ」
心底落ち込んだという顔で、イッセーは沈み込む。
それを見て、一夏はため息をついた。
「お前、何言ってんだ?」
「何言ってんだじゃねえよ。・・・だって、皆はぐれ悪魔相手に全然苦戦しなかったんだぜ?」
「そうじゃないって。俺が言ってるのは、だったら落ち込んでる暇なんてないって話だよ」
その言葉に、イッセーは顔を上げる。
そこに映った一夏の表情は何かつらいものを耐えている者の顔だった。
「俺だって、自分が強いだなんて思ってない。少なくとも、俺より強い悪魔なんて何人もいる。木場たちより強い悪魔だって何人もな」
「マジかよ。そんなのでも上級悪魔になれないのか?」
「ああ、冥界は貴族主義が多いらしいし、まがい物が大きな顔をするのは誰だっていやだろってレヴィアは言ってたけどな」
そう返しながら、一夏は昔のことを思い出す。
今でも手に取るように思い出せる。
あれは自分の弱さの象徴だ。
最も敬愛する姉の栄光に泥を塗った。
自分を愛してくれるものを巻き込んだ。
そして、敬愛する主の心に大きな傷を負わせた。
その原因の一つは間違いなく自分の弱さであり、そしてそれを払拭くできないでいる。
「月並みな言葉だけどさ、だったら強くなるしかないだろ」
「・・・織斑はむちゃくちゃ強いだろ? それでもまだ足りないのかよ」
「ああ、足りない。全く足りない」
一夏はそういうと、空を仰ぐ。
「俺は、ISよりも強くなりたいんだ」
「ISより!? おいおい、すごいこと言うな」
イッセーが驚くのも無理はないだろう。
ISは世界最強の兵器だ。
連合艦隊をたった一機で手玉に取るほどのポテンシャルは伊達ではない。最高級の戦闘機に匹敵する最高速度で、まるでゲームのようにGを感じさせない運動性能を発揮するのだ。そして万が一当たっても、機銃の一発や二発では落とされてはくれないほどの頑丈さも持っている。
男と女が戦争すれば、世界は三日も持たないとはたとえではあるが伊達ではない。ISという圧倒的な兵器の差は、それほどまで揺らがないのだ。
それを倒すだなんてむちゃくちゃだと思うが、しかし一夏の表情はなんとことがない顔だった。
「実際、上級クラスにもなればISを一対一で倒すことだって不可能じゃないんだぜ? 機動力では苦戦するけど、火力と防御力が違いすぎる」
「そんなに違うのか?」
「あ。下の上だって戦車と攻撃ヘリを足して二で割らないぐらい。上になればそれが束になったって圧倒できる」
実際そういう世界だから笑えない。
ドラグ・ソボールほどではないが、たった一人の精鋭が万を超える軍勢を蹂躙することだって、決して不可能ではないのがこの世界だ。
少なくとも上級悪魔なら一撃でイージス艦を航行不能にすることだってできるだろう。
「最上級悪魔クラスが暴れれば、地方都市ぐらいなら更地になるからな。ISでも一機じゃ倒せないのがこの世界だよ。・・・そして、そんな領域に俺達だってなれるんだ」
「なれるか、それ?」
「なれるさ、少なくとも俺はなる」
拳を握り締め、一夏はそう断言する。
それは、誓いだ。
弱い自分を払しょくし、強くなることを決意した男の誓い。
「俺は、女を守れる男になりたいんだ」
かっこいいからとかそういうわけではない。
今時男が女より強いだなんて時代錯誤だ。
ISの使用者はいまだ女性が多いとかそういう話ではなく、科学の発達は男女の垣根を削っていくものだからだ。
冥界の実力者のも女は多く、レーティングゲームの序列二位や四大魔王の1人など、桁違いの実力者が多くいる。
それでも、それでもだ。
「男の意地ってやつだよ。ISを超えることができるなら、超えて守れるぐらいじゃないと駄目だろ?」
そういう一夏の顔は決意に満ち溢れており、イッセーは素直に感心した。
「お前、変わってるって言われるだろ?」
「元女の敵に言われたくねえよ」
そういうと二人して自然と笑うが、そこでイッセーは話を続ける。
「ま、先ずはリアス部長に怒られないようになることから始めてみるさ」
「そうなのか? レヴィアはリアス先輩はお前のこと気に入ってるって言ってたけど」
「いや、実はシスターを道案内して怒られてさ・・・」
そういいながら和気あいあいと話す姿は、かつて叩きのめされた側と叩きのめした側だとはとても思えなかった。
このあたり、兵藤一誠は人徳がある少年だということだろう。