ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット   作:グレン×グレン

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放課後のラグナロク 4

 

 それは、間違いなくこの場で最強の存在だった。

 

 そう断言できるほどの寒気を覚えさせる狼が、そこにあった。

 

「あれが、神喰狼《フェンリル》……っ!!」

 

 その姿に、レヴィアは歯ぎしりをする。

 

 その威容に、レヴィアはおろかオーディンとアザゼルすら目を見開いた。

 

「フェンリルか。まさかそこまでするとはのぅ」

 

「言っただろう。ここで黄昏を執り行うと」

 

「全員! あの狼には決して触れるな!! 特に爪と牙にはな!!」

 

 オーディンに対してロキがそう答える中、アザゼルは全力の体勢をとりながら声を張り上げる。

 

「奴は全盛期の二天龍とだって渡り合える、最大最悪の魔物の一匹だ!! 神すら確実に殺せる牙を持った化け物、赤龍帝の鎧でも持たないぞ!!」

 

 その言葉に、状況を完全には把握できないイッセーたちも脅威度を理解する。

 

 神すら確実に殺せる牙。それは、この場で最大クラスの戦闘能力を持つオーディンですら倒しうるレベルの戦闘能力を持っていることの証明だった。

 

「その通りだ。こいつは我が開発した魔物の中でも最悪。たとえオーフィスとグレートレッドの次に強いシヴァ神であろうと殺せると自負している」

 

 そういいながらフェンリルをなでるロキは、その手を部長へとむけた。

 

「本来、北欧の者以外に使いたくはないが、ほかの者たちの血を覚えさせるのもいい経験だろう。……やれ」

 

 その瞬間、フェンリルは遠吠えとともに一瞬でリアスに迫りくる。

 

 その、誰もが間に合わない瞬息の一撃に、しかし反応できたものがいた。

 

「リアスちゃん!!」

 

 たまたま近くにいたレヴィアが、リアスをイッセーに向かって投げ飛ばす。

 

 そして、そのまま障壁を展開するとフェンリルの牙を()()()()()

 

 結界には牙が食い込んでいるが、しかしそれに勢いを殺されて肌を貫通することはない。

 

 それどころか、結界に牙を食い込ませてしまったことでフェンリルは次の攻撃を放つことができなかった。

 

「……なん、だと」

 

 ロキが絶句する中、レヴィアは全力で歯を食いしばりながら、しかし挑発の笑みを浮かべて見せた。

 

「終末の獣はこの程度かい? これなら終末どころか終末すら乗り切れないよ?」

 

「四大魔王すら凌ぐ耐久力を秘めたレヴィアタンの娘か。噂には聞いていたがこれほどとは……っ」

 

 その圧倒的な防御力に、ロキはおろか全員が唖然となる。

 

 夏季休暇の特訓でその防御力に磨きがかけられたと聞いていた。ヴァーリに覇龍を使わせるほどと彼女も自負していた。フェンリルは覇龍を使った二天龍と同格であった。

 

 まさに、彼女はそれを証明して見せた。

 

 そんな光景に、ほとんどのものが戦闘中であることも忘れて驚愕する。

 

 そして、意外にも最も早く冷静になったのは自慢の魔獣の一撃を防がれたロキだった。

 

「……見事! 防御結界を張っていたとはいえ、我が子の牙を受け止めて無事で済むなど神々でも困難だ。貴様は先代レヴィアタンをはるかに凌駕した防御力を持っている」

 

「もちろんだとも。それだけならどの悪魔にも負けないつもりだからね!!」

 

 そう自慢げにレヴィアが告げる中、しかしロキはにやりと笑った。

 

 最強の手札をいきなり防がれておきながら、だがロキは余裕を見せるという暴挙を行う。

 

 そして、それは決して慢心ではない。

 

「だが、その心までは頑丈かな?」

 

「へ?」

 

 その言葉とともに魔方陣が生まれ、そしてイッセーは唖然となる。

 

 常に余裕を持ち、歴代最強の二天龍を前にしても挑発すらできるレヴィアは、イッセーにとって余裕という言葉の具現化だ。

 

 そんなレヴィアはすなわち精神的にもタフなはずであり、そんな言葉が向けられるなどありえない。

 

 そんな疑問が浮かぶ中、イッセー達の周囲の光景は一瞬で切り替わった。

 

「これは、幻術?」

 

 リアスがつぶやく中、その光景が形となっていく。

 

 それは、破壊された工場だった。

 

 爆発による破壊は天井を壊し、そして炎が燃え盛る。

 

 そして、その足元には鮮血がまき散らされいていた。

 

 その血だまりを生み出しているのは、重なり合うようにして倒れる二人の子供。

 

 その子供は、まるでどこかで見たような―

 

「………お前ぇええええええええ!!!」

 

 その瞬間、大量の魔力砲撃がロキを襲う。

 

 それを放つのはセーラ・レヴィアタン。

 

 だが、その表情はいつものレヴィアではない。

 

 目は見開いて血走り、青筋すら浮かべているレヴィアは、持てるすべての魔力を放って攻撃を放っていた。

 

 だが、その砲撃をロキは片手を振るうだけであっさりとかき消した。

 

 もとよりレヴィアの攻撃力はこの場のメンツの中でも低い部類だ。それほどまでにレヴィアはその戦闘能力を象徴が斃れぬための防御力に割り振っていた。ましてや相手は北欧の神々の中でも高位に位置するロキである。

 

 当然、レヴィアごときの攻撃が通用するはずがない。

 

 そして、そんなレヴィアの攻撃は渾身の魔力を込めて放たれていた。

 

 フェンリルの牙を防ぐために魔力障壁を全力で展開している状態で、である。

 

 そんな状態で防御に割り振っている魔力を使えばどうなるかなど言うまでもない。

 

 肌がへこむ程度で済んでいたフェンリルの牙が、レヴィアの体に突き刺さった。

 

「……あ……ぐ」

 

 レヴィアの口から血が噴き出、鮮血は腹からも流れ出す。

 

「「レヴィアさん!?」」

 

 眷属である松田と元浜が叫ぶ中、しかし本来声を張り上げるべきもう二人は動けなかった。

 

 織斑一夏と五反田蘭は、顔を蒼白にさせて棒立ちしていた。

 

 仲間思いであり女を守る男であろうことに命を懸ける一夏ですら、絶句していた。

 

「な、なんで、お前がその光景を知ってる?」

 

 震えることで、一夏はロキを見据える。

 

「ふむ、大したことではない。今のは相手の深層心理に刻まれた心の傷を映像として周囲に見せる魔法だ。我が開発した精神攻撃用の新たな術だよ」

 

 そう平然と答えるロキは、面白そうに一夏と蘭を見た。

 

「しかしなるほど。悪魔の駒は死者すら条件次第でよみがえらすと聞いたが、そういうことか」

 

 そう面白そうに、ロキは言葉を紡ぐ。

 

「眷属を作らぬことで有名なセーラ・レヴィアタンが眷属を()()()()()()状況に追い込まれた。ゆえにこその防御力を引き上げる戦車の眷属悪魔……といったところか?」

 

「「っ!?」」

 

 ロキの推測の言葉に、一夏も蘭も狼狽の表情を浮かべる。

 

 それは、どこまでも完ぺきに事実であることを物語っていた。

 

 その狼狽に、多くの者たちが動揺する。

 

 そして、その瞬間にフェンリルは二人の後ろへと回り込んでいた。

 

「言っておくが、我が子の武器は牙だけでもなく爪もだぞ?」

 

 その言葉とともにフェンリルは牙を振り下ろし―

 

「さ……せるかぁああああ!!!」

 

 反応が遅れた二人を、魔力障壁が守り通す。

 

 口から大量の血を吐きながら、レヴィアは目を見開いて渾身の力で二人を守っていた。

 

 己が死にかけている状況下で、それでもレヴィアは二人を守り通した。

 

「二度も! 僕の目の前で、そんな真似は許さない!! 悪神ロキにフェンリル!! ぶち殺すよ!?」

 

「その状態でそこまで吠えるとは見事だが、果たして今の貴殿に何ができる!!」

 

 ロキの嘲笑はまさしく事実だった。

 

 だが、彼は失念していた。

 

 なぜなら、ここにいるのはレヴィア達だけではない。

 

「おい、そこのワン公……」

 

 何より、この場には―

 

「いつまでもレヴィアさんを加えてんじゃねえ!!」

 

 赤龍帝兵藤一誠の渾身の拳が、フェンリルの顔面に突き刺さって殴り飛ばす。

 

 その衝撃でフェンリルはレヴィアを放し、それを祐斗が拾い上げてアーシアのところまで運んでいった。

 

「アーシアさん、早く!!」

 

「はい! し、しっかりしてくださいレヴィアさん!!」

 

「わ、悪いね。ちょっと頭に血が上って」

 

「いいからしゃべるな!! あの状態で無茶しやがって……っ」

 

 弱弱しく微笑むレヴィアに、アザゼルが大声で黙らせる。

 

 それほどまでにレヴィアのダメージは大きく、それだけの威力をフェンリルは持っているということだった。

 

 あのヴァーリ・ルシファーの渾身の一撃すら余裕で受け流すレヴィア・聖羅を、長時間ダメージを与え続けていたといえどこれほどまでに追い込む牙。

 

 もはや危険を通り越して絶望ともいえる脅威だ。

 

 なにせレヴィアですらこのありさまなのだ。この場にいる他の誰でも、あの牙を喰らえば致命傷だろう。

 

 そして、それを見逃すロキでもない。

 

「我が子の牙を受けてなおあそこまで動けるとは。貴殿はここで消した方がよさそうだな」

 

 そういい、ロキは大量の魔方陣を展開してさらにはフェンリルも牙をむく。

 

 そして、脅威が襲い掛かろうとしたその時―

 

「いや、そこまでだよ」

 

 目の前に、白銀が舞い降りた。

 

「生きているようだな、兵藤一誠にセーラ・レヴィアタン」

 

「ヴァーリ・ルシファー!?」

 

 その存在に、リアスは唖然となる。

 

 ここにきて禍の団すら来襲するなど絶望以外に何物でもないが、しかしヴァーリの敵意はロキとフェンリルに向けられていた。

 

「悪神ロキ。兵藤一誠とセーラ・レヴィアタンは俺の獲物だ。……横から奪おうとするならば、滅びることになるぞ?」

 

 そう戦意をみなぎらせて告げるヴァーリに、ロキは面白そうに笑うと魔方陣を展開する。

 

「なるほど。二天龍の共演を見られて満足した。今日のところは引くとしよう」

 

 その言葉とともに、魔方陣がロキとフェンリルを包み込む。

 

「次会う時はこの国の神々との会談の日だ。その時こそ、その首を落とさせてもらうぞ、オーディン!!」

 

 そう言い残し、ロキたちは姿を消す。

 

 ……人類統一同盟と真悪魔派たちに率いられる禍の団。

 

 彼らとの戦いに忙しい中、神という強敵が立ちふさがろうとしていた。

 

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