ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
今から数年前。まだセーラ・レヴィアタンがレヴィアという通り名を使ってなかったことである。
セーラは、数人いた護衛を何とか引き離して、一人の時間を満喫していた。
「あ~もう! あんなにボディガードがいたら目立つのに!! 邪魔なんだから!!」
そうぼやきながら、こっそりくすねた小銭でソフトクリームを舐めるレヴィアは、近くにあるモニターで一つに試合を見ていた。
モンド・グロッソ。ISの国際大会だ。
それを見ていたらふと気づき、セーラは携帯を操作する。
出した画面はメール画面。そこには友達と一緒に笑顔を浮かべている少女の写真があった。
「……おかげでみんな一緒に観戦に行けました、か。うんうん、僕もチケットが無駄にならなくてよかったよ」
それは、セーラの珍しい我儘。
本当に興味があったのが数割。たまには人をからかって遊んでみたいと思ったのが数割。
そして、セーラの無理難題に対して、怒るという反応を人が下すかどうかが約半分。
それだけの比率をもって、セーラは冥界に無理を言った。
「……モンド・グロッソを生で観戦したい」
……結果として、チケットが四枚手に入ってしまった。
いろいろなところで言ったせいで、別々に動かれてしまったのが原因だ。これはさすがにレヴィアも反省した。
とりあえずチケットは仕方がなかったので、ネットで調べて友達四人組の内一人しかチケットが手に入らなかったという少女に匿名で送り付けた。
その感謝のメールをみて、レヴィアは一回会ってみようかなどという感情を浮かべる。
……セーラ・レヴィアタンはうんざりしていた。
家紋だけを見て、それに見合う能力があるかどうかを深く考えない今のレヴィアタン家はもう終わりだ。そしてそんな家がトップに立つことを喜んですらいる旧魔王派も見限った。
ベルゼブブ家も同様だし、アスモデウス家とルシファー家にいたっては末裔が家を出るという事態にまで陥っている。
若く自由な彼らは、旧魔王派が滅びの道を歩んでいることにすでに気づいているのだろう。
だから、レヴィアもそうした。
そんなことをすれば、落ちぶれた生活が来ることを理解して、もしかすれば体を売って生活するしかなくなるかもしれない。
もし許されるなら象徴として人々の心を少しだけでも軽くしたい。それが事実上の幽閉であってもかまわない。
そんなことすら覚悟して、レヴィアは一部の協力者とともに脱走した。
そして、彼らの犠牲をもって魔王領へと逃げ込むことになったのだ。
……だが、レヴィアの生活は変わらないどころかよりよくなった。
なにせ四大魔王はお人よしだ。慧眼を発揮して自分たちのところに逃げてきた彼女を手荒く扱うような真似は決してしない。
血統主義の大王派ももちろんそうだ。むしろ彼らからしてみれば、貴重な血統が味方に付いてくれたようなものである。できる限り厚遇し、現政権のイメージアップに貢献させた方がいいと判断したのだ。
だから、金も物も集まってくる。
十代前半にして、レヴィアは人間世界を含めても、上位二けたに入る財力を持っている。
何度も何度も懇願して、領地だけはこじんまりとしたものにしてもらったが、それでも有数の観光名所という非常に豪華な土地だ。
ならば、取られたものは悔しがるか? 否、自分が管轄していた土地が真なるレヴィアタンに与えられるという事実を、ある種の栄誉として受け取っている。
まだ、その少女はただの子供なのにもかかわらずだ。
「……一部はともかく、全体的には大差ないなぁ」
これなら、人間界にでも逃げ込んだ方がまだましだったろうか?
いつか婚姻する際の予行演習として、レヴィアは夜伽の訓練をきちんと受けている。そしてその際すごくはまっている。
できることなら不特定多数の男子や少女と、そういうことをして楽しんだ生活を送れればいいと心から思っている。
法律が許す年になってから決断していたら、間違いなくそういう業界にダイビングしていただろう。
否、むしろ今からダイビングした方がいいのでは―
「―ん?」
と、ふと気がついて窓から外を見てみると、奇妙な光景が映った。
車に向かって、人を俵を抱えるようにして運んでいる男が数人いたのだ。
しかも、その運ばれている少女はつい先ほど見た写真の少女だった。
……この時、レヴィアの中にいくつもの感情が浮かんだ。
一つは、その子たちがかわいそうという人として当たり前の感情。それはレヴィアもきちんと持っており、何より平均値より上であった。
一つは、明らかに誘拐という卑劣な手段をとっている犯罪者に対する怒り。人並み以上の正義感を持っているレヴィアは、当然のごとくそれに憤慨することができる。
………そして、最後の一つは少なくない量の歓喜。
ここで自分が正体を隠して助ければ、あの子たちの中でセーラの存在は心に残る。
それも、レヴィアタンの末裔という厄介なものがない状態でだ。
ましてや何年間も実績なしの持ち上げに辟易していたこともある。セーラにとって、今の状況は楽しいおもちゃといっても過言ではなかった。
「ふふふ。待っててねお二人さん♪ すぐに助けてあげるから!!」
そういうがは早いか、レヴィアは車に向かって駆け出した。
当然のことであるが、セーラの行動はあらゆる意味で間違っている。
そんなものは素人がすることではないし、まず真っ先に警察に連絡することだ。
しかも護衛をつけずに一人で行くなど、正義感の暴走としか取れないだろう。
………むろん、彼女はそのツケをしっかりと払うことになる。
「くそっ! だせ! だせよ!!」
倉庫の扉を何回もたたきながら、織斑一夏は無駄だとわかっていても脱出を試みていた。
ここに自分がいるということが、どれほどまでに何人もの人間に迷惑をかけるのかがわかっていたからだ。
第二回モンドグロッソ。世界最大のIS競技会。
一夏は、姉である千冬が参加しているそれを応援するべく、観戦に来ていた。
友達と一緒に参加できなかったのが残念だと思ったところに、しかしなんの奇跡かチケットを譲ってくれるという奇特な方に出会い、特に関係の深い友人四人で観戦しに来たのだ。
とはいえ、こんな大量に人がいるところでは子供四人では迷子になってもおかしくない。
そんなこんなで鳳鈴音と五反田弾の二人とはぐれてしまい。弾の妹である蘭と一緒にさまよっていたら、いきなりさるぐつわをかまされてこの始末だ。
なんでこんなことをしたのかはわからない、だが、このままでは千冬に迷惑がかかるのだけは幼い頭でも理解できる。
だから、いっそのこと舌を噛んで死んでしまうべきかとも考え―
「い、一夏さん……」
―すぐ後ろにいる蘭のことを思い出して、思いとどまる。
目の前で友達が死んでしまえば、いくらなんでも心に大きな傷を負うだろう。
織斑一夏は男らしい男になることが目的なのだ、こんなところでその誓いを破っていいはずがない。
「大丈夫だ、蘭。すぐに助けが来るはずだから」
そんな根拠もないことを言いながら、一夏は情けなくなって泣きたくなる。
男が女を守る、そんな本来当たり前の光景を、しかしできるどころか足を引っ張るこの始末。
ああ、いっそのこと全て壊れて死んでしまった方が心が楽になるのではないのかとすら考える中、それは起こった。
「う、うわぁあああああ!! 化け物だぁ!!」
そんな悲鳴が、扉の向こうから聞こえてきた。
次の瞬間には大量の銃声が響き渡り、あっという間に騒がしくなる。
「弾が、弾が効かねえ!!」
「ISの反応もねえ、冗談だろ!」
「や、やめろ、来るなぁ!?」
悲鳴を上げていく男たちの声は、どんどん少なくなっている。
その事態に、一夏は警察が来たのかとすら思い、声を上げた。
「……ここだ!! 俺たちはここにいる!! 助けてくれ!!」
「だれかぁあああああああ!! お願い、早く!!」
蘭も泣きながら声を張り上げる中、すでに声を出すものは自分たちしかいないということに二人は気づかない。
それが何十秒か続いたと思った時、扉の奥から声が響いた。
「大丈夫大丈夫。扉壊すからちょっと離れてて?」
その言葉に従って、二人は数メートルほど下がる。
そして、その直後分厚い鉄の扉は蹴り破られた。
部屋に光が差し込み、そしてそれが開けた者を照らし出す。
まるでルビーのように赤く美しい髪を持った、自分達と歳のあまり変わらない少女がそこにいた。
これが、一夏と蘭の来世の主であることを、まだ誰も知らない。