ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット   作:グレン×グレン

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セーラ・レヴィアタン人生最大の失敗が、いま明かされる



放課後のラグナロク 7

 

 目についた男たちを全員戦闘不能にしたうえで、レヴィアはすぐに少年たちを救出した。

 

「まあ、所詮は異能も知らない只の人間か。せめて対戦車兵器でもあれば話は違ってけど、建物の中でできるわけがないしねぇ」

 

 そう評しながら、レヴィアは手早く一夏と蘭の拘束を解除する。

 

 この場所は、モンド・グロッソの会場から少し離れたところにあるオフィス街だった。

 

 こんな場所で銃を使えば人に気づかれるかもしれないと思われがちだが、いまは休日でモンド・グロッソがすぐ近くで開催されている。

 

 そのためこのあたりはほぼ無人となっており、それゆえに隠れ家としてはうってつけなのだ。

 

 しかも、このビルはすでに企業が撤退して空きビルとなっている。多少こそこそしていても勘付かれたりはしない。隠れ家としては最高の環境だった。

 

 だが、レヴィアは子供とはいえど優れた悪魔であり、それを超える能力を持っている。

 

 上級悪魔相当の力を持ち、また、祭り上げられるのなら壊れないようにと頑丈さは特に鍛えている。

 

 耐久力だけならば、若手悪魔どころか武闘派の上級悪魔にも引けを取らない自信に満ち溢れていた。

 

「はい。もう大丈夫」

 

「あ、ああ。助かった!!」

 

「ありがとう、ありがとうございます!!」

 

 少年には丁寧に頭を下げられ、少女の方には抱き着かれるレヴィアは、とても楽しく思っていた。

 

 なにせ、こんな愉快痛快な正義のヒーローをやる機会など普通はやってこない。

 

 まだ子供であるレヴィアにとって、これほど楽しいこともなかった。

 

 そんな優越感に浸っていると、レヴィアは泣きついているこの顔を見て、ふと気づく。

 

「……あれ? きみ、もしかして僕がチケットを贈った子かい?」

 

「………へ?」

 

 急な言葉に涙を止めた蘭の前で、セーラはにやりと笑うと携帯を見せる。

 

 そこには、蘭が送ってきた友達の写真が映っていた。

 

「あ、ああああああ!? お、お姉さんがそうなんですか!?」

 

「そうなんだよ! ああ、なんていう偶然だろう!!」

 

 思わぬめぐり合わせに、セーラは敵である聖書の神の思惑すら感じてしまう。

 

 自分が二度も助けることになるとは、運命でもあるのかと思いたくなる。

 

 そして、それはセーラのテンションをいろんな意味で押し上げることになり―

 

「………てやる」

 

 震えながら立つ男の存在に、セーラは全く気づかず―

 

「……あ、あいつ!!」

 

 立ち位置から一夏が気づいた時に大きく反応してしまい―

 

「まっかせてよ!!」

 

 ゆえに、なんの対処もせずに二人を放置してレヴィアは駆け出し―

 

「……まとめて殺してやるぞぉあああああああああああ!!」

 

 誘拐犯は、スイッチを押した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に調べて分かったことだが、この誘拐犯は相当のプロの大組織がかかわっていることが判明した。

 

 織斑千冬の二連覇による日本の政治的発言力の上昇を恐れた各国の暴走した者たちが共通で出資し、国際犯罪組織を雇って起こしたのが今回の事件の真相だ。

 

 そのため、万が一にでも正体が露見すれば国際社会は大きな混乱に見舞われる。

 

 ゆえに、組織は万が一のために証拠を残さないよう自爆装置をしっかりとしかけていた。

 

 その爆発は跡形も残さないようにするためにかなり強力なものを設置しており、また当時のセーラ・レヴィアタンではそこまで正確な防ぎこみもできず―

 

 ビルの各所で、大規模な爆発が発生した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あ、一夏、さん」

 

 熱気に包まれた部屋の中、腹部に特に強い熱を感じて、蘭は目を開けて事情を把握した。

 

 そんな蘭をかばうように乗り掛かりながら、一夏はもうろうとしている意識の中蘭の方を見る。

 

「大丈夫か、蘭?」

 

 状況を理解できずにそう尋ねる一夏に、蘭は心からほっとする。

 

 ああ、自分が大好きな男の子は、本当にかっこいい男だったのだ。

 

 あんな突然の緊急事態に巻き込まれながら、子供ながら自分を気遣ってくれた、いまも大の大人で反応できないような非常事態に対して、自分の身よりも先に私をかばってくれていた。

 

 それが、とてもうれしくてだから悲しい。

 

「い、一夏、さん」

 

「あ、重かったか? ごめんすぐ起き上がるから―」

 

 そういって一夏は起き上がろうとするが、しかし何かに突っかかっているかのように起き上がれない。

 

 その理由を蘭は、文字通り痛いほど理解していた。

 

 だからよくわかる。

 

「一夏さん、……だめです、おなか」

 

 蘭はだからそう教え、そして腹を見た一夏は絶句する。

 

 直径十数センチはあるような鉄骨が、二人を串団子にでもするかのように腹部を仲良く貫通していた。

 

 古流武術の経験上、一夏は人がどういう時に死ぬのかを少しは理解している。そしてそんなものがなくても、蘭もこれがどういう状況下を理解している。

 

 これはもう、手遅れだ。

 

「蘭、ごめん……っ!」

 

 その事実を受け止めて、一夏は歯を食いしばって謝った。

 

「俺は男なのに、友達一人守ることもできないなんて―」

 

 蘭の目の前で、一夏は絶望の表情を浮かべていた。

 

 女尊男卑の今の世の中で、一夏はさらに数世代以上前の男の在り方を目指していた。

 

 すなわち、男が矢面になって女を守る。そんな時代遅れの理念を、一夏は体現して見せようと頑張っていた。

 

 だが現実はあまりにも非常。楯になって死ぬどころか、見事に道連れにしてしまった。

 

 その絶望を理解して、蘭はだけど認めなかった。

 

 自分が死ぬのは、なんとなく受け止められてしまった。

 

 家族も友達も悲しむだろうが、しかしもう手遅れだ。

 

 だけど、一夏が絶望するのだけは我慢できない。

 

 我慢できなくて―

 

「一夏さん」

 

 声をかけ、

 

「……なに……ん」

 

 その唇を奪い取った。

 

 無理に体を動かしたせいで、さらに激痛が走るが構うものか。

 

 今は、一夏の心の方が大切だ。

 

「私は、一夏さんのことが好きです、女として愛してます」

 

「え……ええ?」

 

 思わぬ展開に、一夏は唖然となる。

 

 当然といえば当然だろう。

 

 織斑一夏の朴念仁は筋金入りだ。

 

 校舎裏で付き合ってくださいと言われて買い物に付き合ってほしいなどとしか考えることができない超弩級。最早常識知らずといっても過言ではないレベルだった。

 

 だが、こんなタイミングでド直球で攻めれば、さすがにわかる。

 

「愛してます。できれば大人になって結婚して、子供を何人も作ってしまいたいぐらい愛しています」

 

「ら、らん?」

 

 出血が大きいせいかろれつが微妙に回っていない一夏の前で、蘭ははっきり思いをつたえた。

 

「だからいいです。好きな人にかばわれて死ぬなら、怖いけど素敵な死に方です」

 

 死の恐怖にわずかに震えるが、しかしそれと同じぐらいスッキリした。

 

 心の底から思っていた想いを、まっすぐに言うことができたからだ。

 

「あ、鈴さんもそうなんですよ?」

 

 ついでに鈴のフォローも忘れない。

 

 こんな形で勝ち逃げされたら鈴もいろんな意味で立ち直れないと思ったからだ。

 

「だから、答えは言わなくていいです。だけど―」

 

蘭は、すでに自由に動かなくなっている両腕を何とか動かして、一夏の背中に手を回す。

 

「……ぎゅっと、してください」

 

「………ああ、わかった」

 

 一夏は、悔し涙を流しながらも、だけどしっかりと抱きしめる。

 

「ごめんな。俺、女を守れる男になりたいから、今のままだと答えられない」

 

「でも、天国で真剣に考えてくれますよね?」

 

 それは少なくとも断言できる。

 

 男らしい男を目指す一夏に限って、気づいてから不誠実な対応をするとも思えない。

 

 そう、だから、怖くても耐えられる。

 

 それを最後の慰めとして、蘭はそのまま目を閉じようとして―

 

「……まだ、早いよ」

 

 声が、聞こえた。

 

 目を開ければ、そこには自分たちを助けに来てくれた少女がいる。

 

「今の僕では、君たちを救うことはできない。だけど、選択する機会は与えてあげれる」

 

 震える声と震える体で、少女はチェスの駒のようなものを取り出した。

 

「人間として死ぬか、人間をやめて生き残るか。……二つに一つだ」

 

 その言葉は普通なら信じられないが、しかし納得できる。

 

 なにせ、彼女は人知を超えた力を発揮したのだ。なら、そういうこともできるのだろう。

 

 その言葉に、蘭も一夏も息をのんだ。

 

 そしてそれ以上に、今の少女の姿に息をのんだ。

 

「こんな選択肢しか与えられない僕を、うらんでくれていい」

 

 肩を何度も大きくふるわせて、少女は泣いていた。

 

「だけど、お願いだからせめて選択肢を見せてほしい」

 

 プルプルと震えながら、少女は泣いていた。

 

 心から後悔している表情だった。

 

 あまりにも油断して舐め切った行動をとった結果がこのざまだ。

 

 せめて護衛も一緒に連れてきていたら。うかつに仕掛けずに二人を守ることに集中していたら。結界を遠隔位に張る能力を獲得していたら。

 

 蘭にはわからずとも、少女はそんなことばかりが頭に浮かんでいる。

 

 そんな、泣きじゃくる小さな子供を思わせる少女をみて、蘭は思った。

 

 ………あ、この人泣かせちゃだめだ。

 

「あの、一夏さん」

 

 すでに視界が暗くなり始めている中、蘭は一夏を伺い見る。

 

 そして一夏も、また決意を決めた表情だった。

 

「……大丈夫さ。あいつ等なら、人間やめたぐらいで俺たちを嫌ったりなんてしない」

 

 それに、このまま泣かせちゃだめだろう?

 

 そんな心が通じ合い、二人は思わず苦笑した。

 

 そして、判決を待つ犯罪者のように恐怖に震える少女の、口そろえて答えを返す。

 

「「……生きたい」」

 

 その言葉に、少女は心から救われた表情を浮かべた。

 

 そして、同時に心から悔やむ表情も浮かべた。

 

 そんな複雑な表情を浮かべ、少女は駒を取り出した。

 

「……選ばせる、こと…しかできなくて、ごめんなさいっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それが、彼女たちの始まりの日。

 

 この日、眷属を作りたがらないことで有名だったセーラ・レヴィアタンは初めて眷属悪魔を作った。

 

 それが、レヴィアの双璧であり最も近しい眷属、織斑一夏と五反田蘭である。

 




レヴィアも子供のころなら失敗の一つや二つは経験して当然。それは、子供ならよくあることで、むしろ一つや二つぐらいなら経験した方が人生の糧になるものです。

ですが、失敗の仕方が悪すぎた。
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