ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
そんな日が続く夜、一夏は無心に剣を振るっていた。
相手が神となれば、こちらにとっても死戦となるのは確実。少なくとも、ヴァーリすら超える敵として認識する必要がある。
そんな状態で心身を最適な状態に保つため、一夏は素振りをすることにしたのだ。
ただ無心に剣を振り下ろすことで、動きを磨いて気分を落ち着ける。
なにせ相手は神格。それも北欧神話でも知名度の高さならオーディンやトールに次ぐネームドだ。
そこにフェンリルまで加わっている。天龍に匹敵する戦闘能力を持つという、正真正銘の規格外の化け物が。
しかも初戦ではレヴィアはフェンリルに重傷を負わされた。
守ると誓った主をむざむざと―
「―くそっ!」
嫌な想像をしてしまい、一夏は思わず雑に剣を振るう。
そんな想像をしてしまうほど、今度の敵は強敵だった。
初戦でいやというほど理解してしまっている。このままでは、負けたとしても何らおかしくない。それほどまでに強者のオーラを放っているのがロキとフェンリルなのだ。
やはりこのままでは眠れそうにない。
一度シャワーを浴びようと判断し、一夏は汗をぬぐいながら部屋を出ようとして―
「―良かった、いたのね、一夏」
扉を開けた瞬間、朱乃の姿を見て一夏は動きを止めた。
「朱乃さん? どうしたんですか?」
いつもの口調ではない朱乃の姿に、一夏は不穏なものを感じて声をかける。
その瞬間、朱乃は一夏にその身を持たれかけさせた。
「……抱いて」
言われて、一夏は朱乃を抱きしめた。
言われたとおりにすることにはもう問題はない。
あんなことを行ってしまいフラグを立ててしまった以上、責任はとるしかない。それぐらいの覚悟はいい加減できていた。
まあ、あまり増やすと蘭を怒らせることになるのでできる限り抑える必要はあると思っているが。
だが、その返答として雷光がバチバチなっていた。
「一夏? こんな時にふざけないで」
「え? でも抱いてって―」
そこまで言ってから、一夏はふと気づいた。
そういえば、S〇Xて暗喩で抱くっていうよなぁ。
そこまで思い至って、一夏は顔を真っ赤にさせる。
そして、すぐに落ち着いた。
「……朱乃さん。落ち着いてください」
別の意味で汗をかく中、一夏はとにかく朱乃を落ち着かせようとする。
どう考えても今の朱乃は冷静ではない。
こんな状態で結ばれても、何かが致命的に掛け違ってしまうことぐらいは一夏にだってわかる。
だが、朱乃は強引に押し倒すと、その豊満な胸を一夏に押し付ける。
「ええ、落ち着いたわ。だから、抱いてほしいのよ」
振るえる躰を押し付けながら、朱乃は一夏に体を擦り付ける。
「お願い。こんな気持ちのままでは戦えないわ。今は、貴方の躰に縋りつきたいの」
そんな風に震える声で懇願してくる朱乃に、しかし一夏はうなづかない。
「嫌です」
はっきりと、そういった。
「どうして!? 私の躰は魅力的じゃないの?」
そう狂乱寸前の表情で問いただす朱乃だが、しかしすぐに嫌な想像をしたのか息をのむ。
「あ、やっぱり小さい胸の方がいいのね? レヴィアも小猫ちゃんも蘭ちゃんも小さいし―」
「そうじゃないですよ! それに蘭は年相応はあります!!」
素早くフォローを入れるが、しかしそれは別の意味で難易度が高い。
「それがわかるような経験はしてるのね?」
別の意味で逃げ道がなくなった。
だが、こんなやり方で女を抱く気は一夏にはない。
だから、一夏は真剣に朱乃を引きはがす。
こんな、相手の不安に付け込むような形で女性の純血を奪うような男は、男として最低だ。
だから一夏はそんなことはしない。
それよりも、男として言うべきことを言おう。
「朱乃さん。明日の戦いには出なくていいです」
「それはダメよ。私はグレモリー眷属の女王だもの」
当然の義務感で、朱乃はその言葉を否定する。
そう、朱乃はあくまでリアスの眷属であり、それを誇りにしている。
ゆえに、戦場から離れるという選択肢は朱乃にはない。
「だけど、今のままではきっと足手まといになる。だからこの不安をどうにかして―」
「―朱乃」
一夏は、語気を強くして朱乃の名を呼んだ。
その態度に朱乃が言葉をのむ中、一夏はあえて言葉を選ばず告げる。
「朱乃。朱乃の分まで俺が戦う。だから、朱乃は家で料理を作って待っててくれ」
男は女を守り、女はそんな男の家を守る。
きわめて古い価値観といわれればそれまでだが、しかし一夏にとってはある意味それが理想形でもあった。
そして、今の会話でとてもよく分かった。
朱乃も小猫と同じ普通の女の子なのだ。
自分を愛してくれるそんな女の子を戦場に立たせるのは、一夏にとって本意ではない。
それも、自分の純潔をやけで捨てて、そんなことをしてまで戦場に立たせるなんて男として見ていられるわけがない。
「リアス先輩やレヴィアには俺から説明する。だから、朱乃は待っててくれ」
「一夏、でも―」
なをも言い返そうとする朱乃に、一夏は最後の切り札を切る。
「朱乃。レヴィアから事情は聞いた」
その言葉に、朱乃は固まる。
「……朱乃。俺は両親に捨てられたことは言ったよな」
「ええ」
「でも、バラキエルさんは朱乃のことを捨ててないだろ? ………はっきり言うけど、過失はあっても本当に恨まなきゃいけないのは五代宗家の方じゃないか」
朱乃はそれに応えない。
答えられるわけがない。
ずっとそう思い込むことで心を守ってきたのに、今更それを捨てるなどということは―
「もう、そんなこと思って心を守らなくていい」
だから、一夏は朱乃を抱き寄せた。
「俺が守ってやる。守れるぐらい強くなってやる。だから、無理して戦うな」
そういって、痛くならない程度のギリギリまで力を込めて抱きしめる。
「無理しなきゃ戦えないなら、素直に俺に守られててくれ。俺はその方がうれしいから……さ?」
「………ずるいわ、一夏」
そう漏らしながら、朱乃は涙を流しながら抱きしめ返す。
「そんなこと言われたら、もう私………っ」
そういって泣き出す朱乃を抱きしめながら、一夏は呼吸を整えて決意する。
もう悩むのは終わりだ。
勝つ。何が何でも誰一人犠牲を出すことなくロキを倒す。
そうでなければ、きっと朱乃はもう動けなくなるのだから。
そして次の日の深夜。会談の時刻。
会談が行われるホテルの屋上で、レヴィア眷属とリアス眷属は集まっていた。
そこにはタンニーンやバラキエル、そしてロスヴァイセの姿もあったが朱乃だけはいない。
「……一夏君、この状況下で朱乃ちゃんの心をある意味でおらなくていいだろうに」
「う、うるさいな。大体男がいるのに女が戦うのが本来間違ってるだろ?」
「いつの時代なんだか」
などと言い合いながら、一夏とレヴィアは静かに空を見上げる。
「言い出したからにはもう負けれないからね。そのうえ誰一人死なせられないからね?」
「ああ、速攻でロキを倒して終わらせる」
そう言い切る一夏に、レヴィアは軽く肩をすくめる。
「まったくもう、言い出したら聞かないんだから」
「本当です。一夏さんは頑固すぎます」
そういって、蘭もまたため息をついた。
「守られてばかりなのもつらいんですからね? むしろ少しは守らせてください」
「いや、蘭ちゃんは今のところ一夏君より強いから守ってばかりだと思うよ?」
「「それは言わない」」
レヴィアに茶化されて、シンクロでツッコミが飛んできた。
そんな風に雑談する中、リアスが苦笑を浮かべながら三人のところへと飛んできた。
「まったくもう。こんな時に朱乃が脱落だなんて、ちょっと聞いてないわよ?」
言葉の内容こそ非難だが、しかしリアスの口調は険がない。
「……でも、少しはスッキリしていたみたいね。そこはありがとうと言っておくわ」
「はい。もう、朱乃さんに無理をさせてまで戦わせたりなんてさせませんから」
そう速攻で一夏はいい、軽くにらむぐらいの目力でリアスを見返した。
「小猫もそうです。俺は、女が無理してまで戦いに出ることを良しとしません」
「ごめんねリアスちゃん。一夏君頭が古いところがあって」
「まあ、守ってくれる男っていうのにあこがれる気持ちはわかるけどね」
そういって苦笑し合う中、しかし時は無情にも進む。
「……そろそろ時間だ」
バラキエルが、会話を中断させるように声をかける。
ここから先は戦闘の時間。雑談をしている余裕などない。
しかし、一夏はそんな中バラキエルに体を向ける。
「バラキエルさん。一つ言っておきたいことが」
「なんだね?」
愛娘の懸想する男ということで、バラキエルは一夏にいい感情を持ってない。
それをわかったうえで、一夏はあえてこの言葉を言った。
「朱乃さん、肉じゃが作って待ってます。……一緒に食べましょう」
それは、つまり和解の第一歩。
男に守られることを半ば受け入れた朱乃は、一歩だけ前進して見せたのだ。
その事実にバラキエルは静かに一瞬だけ震え―
「そうか、ならば死ねないな」
そういうと、一夏の胸に軽く拳を当てる。
「君も死ぬなよ。そんなことになれば朱乃は立ち直れないだろう」
「わかってます。必ず生きて朱乃を守ります」
それが男の誓いだと、一夏は暗に言い切った。
「蘭も小猫も、全部まとめて守りきる。それが男の本懐です」
「あらあら、白音はいい男をひっかけちゃったにゃん」
「いやいや蘭ちゃんが正妻だからね?」
黒歌とレヴィアはそういって蘭と小猫をからかう中、空間に少しずつ穴が開いていく。
そして、そこからロキが姿を現した。
「……やはり邪魔をするか、愚か者が」
「もちろんだとも、愚神」
レヴィアは不敵に笑いながら答える中、転移の光が発生した。