ハイスクールストラトス 風紀委員のインフィニット 作:グレン×グレン
「あ、あれ、匙先輩?」
なんとなく見知ったオーラを感じて、蘭は唖然となった。
そこにあるのは、黒い炎をまとったドラゴン。しかもオーラの出力はタンニーンにも匹敵する。
そのドラゴンが出てきて炎をまき散らしたとたんに、量産型ミドガルズオルムはもちろん、ロキすら動きが悪くなっていく。
とはいえ、それでもロキを倒すには決定打が足りない。
せめて自分が禁手をつかえれば、などと線ないことすら考えてしまう。
とにかくミドガルズオルムだけでも倒そうと意識を向けたその時、蘭に並ぶ二人がいた。
「仕方ねえ。こうなったら博打でもするか」
「そうだねぇ。ま、失敗してもフォローしてくれる大人はいるさ」
どこか険の取れた一夏とレヴィアは、一歩一歩前へと歩き出す。
「い、一夏さん? どうしたんですか!?」
「ああ。ちょっとロキを叩きのめしてくる」
「でもって僕はそのサポート。いつものことだよ」
そういう二人の表情は、むしろ晴れやかといってもいい。
そして、そんな二人を見ていると、蘭もまたなぜか安心してしまう。
ああ、そうだ。いつもの三人だ。
これがセーラ・レヴィアタン眷属のいつもの姿だ。
「わかりました! 私にできることは?」
だから、自分もしっかり混ぜてもらおう。
なんだかんだで暴走しやすい二人のフォローは、五反田蘭のいつもの役目なのだから。
「ミドガルズオルムの足止めよろしく!!」
「任せたぜ、蘭!!」
そういうと、二人は一気に駆け出す。
そこら中から放たれる砲撃を、レヴィアが結界を張ってすべてはじく中、一夏がミョルニルへと向かう。
それは、イッセーが結局使えなかったので放置されていたレプリカのミョルニル。
それを、一夏は躊躇なくつかんだ。
「……さあ、ここからが本番だ!!」
次の瞬間、一夏の右腕とともにミョルニルが輝きに包まれる。
そしてミョルニルは少しずつだが確実に巨大化していった。
さらに、わずかではあるが雷が発生し、周囲に雷撃は発生していく。
その光景をみて、ロキは目を見開いた。
「……ばかな! ミョルニルを制御している……だと!?」
圧倒的出力を発揮するほどではないが、しかし少しずつだが制御し始めている。
それは、心が清らかなものにしか真の力を発揮することができないのだ。悪魔が使えるなどありえない。
「あり得ない、貴様ほどの若き男が、よこしまな心を持ってないというのか!?」
それほどまでに枯れている青少年とかどうよという感情がこもったロキの発言だが、一夏は静かに首を振った。
確かに人から良く枯れているとか言われているが、これでも性欲のせの字ぐらいはあるのである。
「いや、どっかの誰かさんのせいで俺にも少しはあるけどな!!」
「照れるね!」
「「褒めてない!!」」
誉め言葉と勘違いしたレヴィアに蘭とともにツッコミを入れながら、一夏は神器に力を籠める。
一夏のやっていることは、すなわちミョルニルの掌握。
レプリカといえどミョルニルは神々の装備。本来ならそんなことができるわけがないし、何より認められずに弾き飛ばされるのがオチのはず。
そもそも、剣豪の腕が可能とするのは武器の強化。所有者の認証は、その能力の範疇外。できるわけがないのだ。
だが、そんな無茶を一夏は押し通しかけている。
すなわちそれは、禁手の領域に到達していることに他ならない。
「ええい! させるものか!!」
ロキは即座に魔法攻撃を放つが、しかしそれは通らない。
なぜなら、その隣に立つのはこの場で最も硬い者。
金剛すら凌駕するセーラ・レヴィアタンが楯となるからだ。
「ふはははは! そんなことで僕を止めれると思ったら大間違いだよ悪神!!」
何かに吹っ切れた状態で、レヴィアは高笑いをしながらロキの攻撃を受け止める。
間違いなくこの場で最強の実力者であるはずのロキの攻撃を、レヴィアは意にこそ介していてもそれだけですましていた。
ロキがこの場で最強ならばレヴィアはこの場で最硬。最強に相対しうる無敵の存在がここにあった。
「おのれ、レヴィアタンの末裔め!! 我の全力をもってしても攻撃が通らないなど―」
「そこまでです」
そして、それが致命的な隙だった。
一瞬だが、確実にロキはレヴィアと一夏しか見ていなかった。
この場には、無視してはいけない存在が何人もいるにもかかわらずだ。
その一人、五反田蘭が、その好機を逃さず後ろから砲撃を乱れうちで叩き込む。
「ぬぉおおおおおお!?」
砲撃を乱れ撃ちで喰らい、ロキは一気に弾き飛ばされる。
「レヴィアさん!!」
「OK、詰みだ」
そして、弾き飛ばされたロキの周囲を結界が即座に囲む。
この強度の結界に囲まれれば、ロキといえど容易には出られない。
そして、その結界内部には一夏もまた包まれていた。
この瞬間、戦いの趨勢は決した。
「覚悟はいいか、悪神ロキ」
「……っ!?」
鋭い視線と必殺の一撃にさらされ、ロキは戦慄する。
ミョルニルの一撃の破壊力は、アースガルズの神々であるロキがこの場で一番知っている。
ゆえに、彼は理解した。
この戦いは―
「俺の主に手を出して、ただで済むと思ってんじゃねえ!!」
―完膚なきまでに、自分の敗北だと。
一夏の禁手はミョルニルのレプリカの掌握ではありません。
禁手一歩手前の領域に到達したことによる奇跡であり、なおかつ純真なまでに勝とうという意志があったからこその軌跡です。