「これから始まる物語は、そんな僕・・・ユーノ・スクライアの身に起こった、出会いと、絆と、人を愛することの素晴らしさを伝えるための物語・・・・・・」
「『ユーノ・スクライア外伝』・・・・・・――――――始まります」
第1話「消えた天才」
すべてはあの時より始まった――――――
「これは――――――・・・一体?」
一人の青年が、
その『青年』もまた同じように――――――
「う、うわあああああああああああぁぁぁあぁあぁぁあ!」
ユーノ・スクライア外伝
数多の次元世界を管理・維持するための巨大治安維持機関―――通称「管理局」。その組織構造を一言で説明するならば、「警察と裁判所が一緒になった様なところ」である。管理局はこの他にも文化管理や災害の防止・救助を主な任務としているが、【
社会正義を執行する機関として、強大な権力を有する組織であるが、設立から百年近くが経つゆえ不透明な部分も少なくない。内部は決して一枚岩とは言えず、「自分達の考える正義のためであれば犠牲もやむなし」という国粋主義的な極右思考を持つ者が末端のみならず、上層部、特に地上本部にその傾向が強いなど、日本の大日本帝国陸軍の関東軍の如く上層部の意向を無視し、一方的に暴走しかねない危険性を孕んでいる。
そんな時空管理局の部署の一つに、本局・地上部隊すべての要となり得る情報機関をご存じだろうか。
『
本局の一施設であり、管理局の管理を受けている世界の書籍や情報の全てがストックされる、次元世界最大のデータベース。「無限」の名の通り、書物は日々増え続け、底が見えない長い縦穴型の施設で、壁は全てが本棚となっている。
内部は無重力で、広さの割に移動に然程の問題は無い。だが余りの物量故にほぼ全てが未整理かつ、目当ての情報を得るにはチームを編成して年単位での調査が必要。
こうした特性から無限書庫は使い勝手の悪いところと誰もが口を揃えていたが、今となってはもう昔の話。嘗ては物置同然として扱われていたそこも、今は見違えるほどその機能を全うしている。
全ては、彼・・・無限書庫司書長【ユーノ・スクライア】の手腕によって――――――
≡
新暦076年 5月某日
時空管理局本局 無限書庫
「司書長、またハラオウン提督から追加の依頼が!」
「また!? 全くあいつときたら少しはこっちの身にもなれっていうんだ! こっちだって二課の捜査資料のまとめで手いっぱいだっていうのに・・・・・・分かったよ。とりあえず、僕のところに回しておいてくれる?」
「は、はい!」
静謐な空間ながらも喧騒漂う無限書庫。配置された司書達を束ね無限書庫を管理統括する若き天才―――青年ユーノ・スクライアは悪友から届く依頼を嫌味と思いながらも、与えられた仕事を確実にこなしていく。
彼を慕う古参から新参の司書達も申し訳ないと思いつつも、彼の寛大な心と非凡なる事務処理能力に無理難題とも言える資料請求を任せてしまうのもまた事実。
ちなみに、そんな彼の友人もまた時空管理局の行く末を担う未来の超有望株―――俗に【エース】と呼ばれる者達が集まっている。
管理局のエース・オブ・エースと謳われる戦技教導官【
本局所属のエリート執務官【フェイト・
古代ベルカの
時空管理局提督にして艦船クラウディア艦長【クロノ・ハラオウン】―――。
ユーノにとって、四人は戦友であり大切な仲間である。
中でも高町なのはとはユーノが9歳の頃からの幼馴染。とある事情で命を救われ、魔法を教える切っ掛けを与えた彼女とは、立場こそ違えど今でも強い絆で結ばれた古き良き理解者である。
異性同士その良好すぎる関係は傍から見れば、さながら恋人同士と大差ない。
しかし本人達は飽く迄も仲の良い“友人”同士であると称している。二人の関係を古くから知るフェイトやはやてらからは未だ何の進展の見られない二人の距離感に若干の戸惑いを抱いている。
時折、ユーノはそんな彼女達の事を考えながら無限書庫で仕事をする。
ユーノ・スクライアにとって、自分の幸せ=彼女達の幸せであり、それが自分にとっての全てだった。だから、例え自分一人が立ち止まり、無限書庫という場所に閉じ籠ることが日常になったところでどうでもいい事なのだ。
そう・・・どうでもいいことだと、この時までは思っていたのだ――――――。
*
午前0時過ぎ―――
同無限書庫内 司書長室
「ふう~~~なんとか間に合った・・・」
「・・・もう12時回ってたのか・・・―――」
そう呟き、何となく天井を仰ぎ見る。
別に真上から何かが降ってくる訳でもなく、特別面白い訳でも不自然なものがある訳でもない。ただ、頭上を仰ぎ見たい気分だった・・・それだけだった。そうして、何も語りかけない頭上を見ながら、脳裏に思い浮かべるのはなのはの事だった。
ユーノが知る限りこの世界において、高町なのはこそ最も空の似合う女性だと自負している。その気持ちは9歳の頃から何一つ変わってない。
「なのはは、もう眠ってるよな・・・・・・ヴィヴィオもいる訳だし、いくら仕事熱心な彼女も、昔ほどの無理はしない・・・・・・ハズだけど」
自分程ではないにせよ、彼女もまた自分と負けず劣らず仕事一筋の人間だった。
決して損得ではなく公務員として昼夜世の為人の為、市民の財産と幸福、安寧の生活を守る為に戦っている。そう言った意味では非常に感心する事だが、ユーノには少々の不安と不満があった。
それは、なのはが今どきの若者には珍しいまでの恋下手―――恋愛と言うものに関して異常なまでに鈍感かつ無頓着であるという事だ。
ユーノはなのはが好きだった。周りには仲の良い友人と言っているが、心の底から彼女を愛していた。
だが飽く迄もそれはユーノの片思いでしかなかった。なのはは未だに自分を恋愛対象として見ていない。それどころか異性として見ていない彼女にとって、他人を「好き」になるという事は、恋愛も友情も関係なく一括りに「好き」と決めつけている節がある。それがユーノとの仲をなかなか進展出来ないでいる最大の要因だろう。
もちろん、なのはがユーノを嫌いと言う訳ではない。むしろ周りから見れば仲睦ましい恋人の様に見えなくもないが、これが彼ら二人の長年の「友情」であり、好意を持とうがそうでなかろうが、彼女が・・・なのはがユーノを恋愛感情として「好き」になるのには、今しばらく時間がかかるだろう。
だが、この状況にユーノは些か焦りを感じ始めていた。
彼が自身の気持ちに気付いたのはずいぶん昔の事・・・―――とある事情で紛失した
彼には自分を生んでくれた母親もいなければ、父親もいない。血の繋がった本当の家族がいない。だから、なのはと一緒に居る時に感じた心の安堵感は、きっと母親のそれによく似たものだと、その時までは思っていた。
しかし、決定的な変化を迎えたのは彼女と知り合ってから二年ほど経過した頃だった。なのはが任務中に
当時ユーノは司書として、多忙極める無限書庫でひっきりなしに舞い込んでくる資料請求と格闘していたが、上司でありクロノの実母―――リンディ・ハラオウンから報せを受け、顔を真っ青にしながら集中治療室の前に駆けつけた時、彼女と親しい多くの仲間となのはの家族が意気消沈とした様子で集まっていた。
愕然としながらICUのドアの前に佇んだユーノは、まるでこの世の終わりにでも遭遇したものとばかり力が抜けた。同時に湧き上がる悔恨の念から止めどなく涙を零した。
幸いにも手術は成功に終わり、なのはは一命を取り留めることが出来た。
しかし、これがトラウマとなりユーノは心に大きな傷を作った。
なのはを魔法という危険な世界に引きずり込んでしまった―――という負い目。罪悪感。自責の念。彼の心に刻みつけられたトラウマは、やがて彼自身の気づかぬところで膿となり、のちに彼自身の「心の闇」となった。
「あの司書長・・・」
物思いにふけり、ぼんやりとしていた時だった。唐突に居残っていた無限書庫副司書長である男―――アッシュール・D・ギルガメッシュが恐る恐る声をかけてきた。
「あぁ。ごめんなさい。なんですか?」
「いえ・・・その、何か御考え事ですか・・・?」
「あ・・・ああ、いえいえ。なんでもないですよ。ちょっとここのところ寝不足でして・・・」
「それでしたら直ぐにご帰宅されるべきではないでしょうか? もう夜も更けてきた事ですし、就業時間を過ぎた徹夜とはいえ、ユーノ司書長の場合は程度がひどすぎます。万が一あなたが体を壊した時は、我々もさることながら、何よりも高町一尉が悲しまれるかと思いますが・・・」
「―――っ!」
なのはの名前が司書の口から出た瞬間、ユーノの頭が一気に覚醒する。
「・・・―――そうですね。分かりました。では、僕も帰ります。すみません、
「いえ、とんでもありません!! 私たちはユーノ司書長の様な素晴らしい上司の下で働けるだけで、この上もない幸せです!! あなたがいなかったら、
「ありがとうございます。僕も嬉しいですよ。アッシュールさんみたいな素晴らしい部下や仲間に恵まれて―――」
表面上では作り笑いをするが、内心こんな風にも思っていた。
それでも僕には、本当の家族なんていない――――――・・・・・・。
優秀な彼がここにやって来た時、未整理状態の無限書庫にはそれこそ指折り数えるぐらいの司書だけが配属されていた。
ユーノが持ち前の発掘・調査能力でこの無限書庫を使いこなしていくと、次第に局もその功績を鑑みて司書の数を増員した。数年後に司書長となったユーノは司書の増員だけでは飽き足らず、より効率的で安定した情報提供を確立すべく人材育成の為の教育プログラムを作成した。今となっては、このプログラムによって司書達一人一人の検索スキルも格段に向上し無限書庫は名実ともに情報の要となった。
一人の少年によって無限書庫はその後も改革が進み、情報検索を始め、未整理区画の開拓、一般開放区画の利用と、用途は多様化し、今ではミッドチルダ国民にもその名が知れ渡るまでに至った。
管理局としては司書の数が増え、情報伝達がスムーズになる事は非常に喜ばしい限りだったが、ユーノには一抹の寂しさもあった。
昔は自分を必要としていた無限書庫も、もう僕を必要としなくてもいい部署になったのではないか――――――・・・・・・。
*
午前1時08分―――
時空管理局本局内部 局員宿舎・男性寮
無限書庫での激務を終え、ユーノは自分が暮らす宿舎へと戻ってきた。
「ただいま・・・・・・と言っても誰もいないんだけどね・・・・・・」
普段が普段だけになかなか帰宅することも無いユーノの部屋は、生活感が殆ど感じられ無い殺風景且つ必要最低限の家具のみが置かれた、文字通り「寝るために帰ってくる部屋」―――そんな場所と化していた。
寂しさと空虚に満ち満ちた部屋の様子を見渡した後、ユーノは誰もいないその部屋の中へと足を踏み入れ、カバンを埃の被った机の上に置いてからシャワーを浴び、直ぐに寝間着に着替えると一日の疲労を
窓際から差し込む月明かりが、疲れ切ったユーノの乾いた
ふと、枕元に置いてある携帯端末を取出し待ち受け画面を見つめる。
待ち受け画面は、彼がこの世界に生きる誰よりも尊く、自らも恋心抱いてやまないエース・オブ・エース―――高町なのはと一緒に仲間が写った彼女の19歳を迎えた際に元アースラーメンバーで企画された誕生日会の時の写真。
真ん中に主役のなのはが笑顔で佇み、左右には親友のフェイト・T・ハラオウンと八神はやてら彼女にゆかりのある面々が写真に写る中、ユーノだけがその姿を写していない。
と言うのも、彼はこの時カメラマンだった。被写体で無い彼が写らないのは至極当然なのだが、彼はこの役を率先して引き受けたのだ。
このとき、ユーノは自分の気持ちを隠して無意識に自分となのはとの距離をとって遠慮をしていた。彼は自己と言うものに関しての興味関心が希薄であり、自己主張や欲望が全くと言っていいほど無い。それどころか、無意識に自分の中で押し殺していた。
幼い頃、生まれてすぐに両親に先立たれ親の愛情を受ける事なく育ったユーノは“スクライア”という部族を “家族”と称している節がある。だが、実際は一族の者達でさえも無意識の壁を作って知らず知らずに遠慮をしてきた。そうやって自分と他人の間にそれそこ見えない壁を作り出す事で、自分が他人に干渉する事も干渉される事も出来ないようにしてきた。何よりも他人の幸せに自分が首を突っ込む事を毛嫌いした。
自分が介入することで、関わった人の幸せが崩れてしまうのではないか。あるいは変わってしまうのではないかという懸念が常に脳裏を過り、念頭に置いていたが故に、いつしかユーノは自分の存在意義そのものを希薄化させてしまった。
結果として、ユーノはこの上も無い “孤独”の穴に陥る遠因となってしまった。
ユーノは、自分と親しい仲であるなのはやその幼馴染達の前でも、偽りの仮面を被り続け、その干渉を出来るだけ避けてきた。
花見の席や、全員が集まってパーティーを開く時も、常に自分が積極的に間に立ち入るといったことはせず、決して周りに怪しまれない程度にある一定以上の距離を作って彼女達を遠ざけてきた。
特に、なのはの前になると彼は余程の事がない限り自らの意志で近づこうとはしなかった。何故なら、彼は“高町なのは”に対して
奇しくも、なのはを魔法の世界に導いたのはユーノに他ならない。彼はこの時ほど、自分の情けなさと非力さを深く痛恨した事はなかった。
ユーノは自分が密かに抱くなのはへの淡い恋心を、この事件を機に全てを胸中に封じ込めた。そして二度と自分の所為で彼女が傷つかない様に、泣かない様にという事を決意した上で、ユーノ・スクライアは高町なのはに心を閉ざしてしまった。
半年にも及ぶ過酷なリハビリの末に奇跡の復活を遂げたなのはが事故から得た教訓として“無茶をすると危険・他人に迷惑がかかる”という事とは反して、今度はユーノがしばしばば無茶を繰り返すようになっていった。
そんな無茶を続けた結果、今のユーノの身体と精神は
「はぁ・・・・・・。いつまでも僕は女々しいな・・・・・・」
なのはへの想いを完全に封印した筈なのに、つい彼女の笑顔を見るとその決意が揺らいでしまう自分に憤りを感じる。ユーノは溜息交じりに端末を閉じ、所定の場所へ戻すとそのまま就寝する。
深い眠りに入った直後、夢の中では幼い頃の自分の想い人であるなのはが歳を重ねるごとに容姿端麗な女性の姿へと変わっていく様が目に映ってきた。
『なのは・・・・・・』
満面の笑みを浮かべ、なのははユーノに向けて言葉を発するが、何を言っているのかは分からなかった。
暫くするとユーノの元を去っていき、親友であるフェイトやはやての手を取ってどこかへと消えてゆく。
『待ってくれ! なのは、僕をおいて行かないでよ!!』
焦燥を感じ必死にその手を引き戻そうと手を伸ばすが、結局彼女には決して届かない。そればかりかなのははユーノに一瞥もくれず、闇の向こう側へと静かに去って行った――――――飛び切りの笑顔を浮かべながら。
「いかないでよ・・・なのは・・・―――」
夢を見た直後、彼の双眸から一筋の涙が零れた。
◇
7月某日―――
時空管理局本局内部 食堂ルーム
書庫での業務もひと段落し、いつもの様に局員が多く利用している食堂で昼食を摂っていたユーノ。
「ユーノ先生」
ふと、自分へと話しかける軽快な声。気が付くと新緑の長髪に純白のスーツを着こなす好青年が笑顔を向けていた。
男の名はヴェロッサ・アコース―――時空管理局本局査察部所属の査察官。ユーノの数少ない男の友人だった。
「アコース査察官!」
「御無沙汰しています。ご一緒にしてもよろしいですか?」
「ええ。どうぞ」
ヴェロッサは軽く会釈してからユーノの正面の席へと座る。よく見ると彼の昼食は食堂のメニューではなく、自作物のお菓子やパンであり、ユーノは内心「本当にお菓子作りが上手い方だ」と感心する。
それはそうと、仕事柄あまり接触の機会が無いユーノは久しぶりの交流に会話が弾み、無意識に笑声で話した。
「アコース査察官、最近はどうですか?」
「僕は変わらないですよ。そういう先生は順調ですか?」
「そちらと同じですね。それよりもアコース査察官・・・公式の場というわけではありませんし、
階級や身分と言った上下関係をあまり気にしない性格のユーノは、ヴェロッサから「先生」と敬称されるのがどこかむず痒かった。これに対し当人は・・・・・・
「お言葉を返すようですが、そういうあなたも査察官なんて堅苦しい肩書ではなく
ぐうの音も出ない反論。見事に論破されたユーノはただただ苦笑し、アコースは若干勝ち誇った様に「お相子ですよ」と穏やかに笑った。
そこからは他愛もない談笑をしながら比較的楽しい食事だった。
「あ、そうだ。この前局で偶然高町一尉に会ったときなんですが・・・」
「なのはに?」
不意にヴェロッサの口から幼馴染の名が飛び出す。ユーノの意識はプレートの食事からヴェロッサへと向けられる。
「例の聖王の器にされた小さな女の子・・・ヴィヴィオと一緒だったんですが、いやーなんとも微笑ましい姿でしたね。傍から見れば理想の親子そのものでしたね」
「そうですか。確かにあの二人が親子である事に僕も納得です。ヴィヴィオがなのはを必要としている様に、彼女にとってもヴィヴィオが必要なんです。たとえ血は繋がっていなくても、家族は家族ですから」
「ご家族と言えば、先生のご両親はご健在ですか?」
「え・・・あぁいえ・・・僕は物心ついた頃には両親はいませんでした。顔も名前もわからないです」
「す、すみません! 無神経な事を聞いてしまいました!」
慌てて謝罪するヴェロッサ。ユーノは穏やかな表情で「気にしないで下さい。僕は平気です」と呟き、更に言葉を紡ぐ。
「ご心配には及びません。家族ならスクライアのみんながいますし・・・・・・でも思えば20年か」
「何がですか?」
「スクライアの部族に育てられてから歴史を探求する道を歩み、かたわら司書として10年そのレールに乗って走り続けて来ましたが、結局のところ・・・・・・僕は何も考えていなかったのかもしれません。そのレールに乗っかってしまえば、何も考えずにそこに行ってしまう。わかりますか?」
「えーと・・・・・・どういうことでしょうか?」
話している言葉の意味が理解しかね困惑するヴェロッサ。ユーノは出来るだけ分かりやすい譬えは無いかと思案し、数秒の内に思いついた例で説明する。
「例えば小さな子供がいたとします。その子は将来『あ、美容師になろう。あとは何も考えない』と言ったら、端的には美容専門学校に行くしかありません。つまり美容師になる為のレールに乗り、その為の電車に乗りました。電車はずっと走ってます。でも何も考えてないから『辞めたいな』とか・・・そういう事があったとしても、なんだかんだ言ってそのレールに乗り続けて行った結果、美容師になれるわけです」
そこまで言うと、ユーノはどこか影を落とした表情を浮かべ、自嘲した様に呟く。
「だからもっと考えればよかったって話ですよ。だけど何も考えたくなかったんだ・・・・・・それが今の停滞した現状を生み出しているんだと常々思います」
「先生・・・・・・あなた」
「すみません。ただの不毛な愚痴です。聞き流してください」
このとき、ヴェロッサは嫌な予感がしてならなかった。もしかすると眼前に見据えた青年は自分達の想像も及ばない心の闇を抱えているのではないか。今引き留めなければ二度と彼とは会えなくなるのでは無いか。
そんな懸念を掲げたものの、当初ヴェロッサは杞憂に終わるものだとばかり思っていた。だが直後、痛い目を見る事となった。
ヴェロッサの悪寒は暫くしてから現実のものとなった。
ユーノ・スクライアは、一切の痕跡を残すこと無く、無限書庫司書長の座を退き―――・・・誰にも気付かれぬままミッドチルダから消息を絶ったのだ。
◇
時空管理局では毎年多くの局員が採用されては、同じ数だけの人間が退職または殉職と言った形で登録が解除される。
綻びの発端は、たった一人の退職通知から始まった。
本局運用部の所に届けられたそれは、決められた手順に則って
「・・・・・・どういう事なの、これっ!?」
数多く接する、しかしありふれた形式文書の一つでしかないそれを見た直後、レティの表情は驚愕に染まる。
やや時を置き真相を知っていそうな友人の元へ連絡を入れるべく端末を動かす。
端末を繋げると、長年の友人であり本局統括官リンディ・ハラオウンは怪訝そうな顔でディスプレイの向こうの友人を見つめる。
『あらレティ、どうしたのよそんな血相変えて?』
「リンディ、ちょっと聞きたいことがあるんだけど・・・・・・」
『聞きたいこと? 今ちょっと手が離せない状況だから手短にしてちょうだいね・・・』
「たった今、管理局の退職者名簿に目を通していたんだけど・・・・・・ユーノ君が“退職届”出したの知ってたの?」
『・・・・・・・・・はい?』
同僚から発せられた信じられない単語に思わず手を動かすのを止め、リンディは露骨に表情を一変させ聞き返す。
「いやだから、ユーノ君が辞めたこと知ってたのって聞いてるんだけど・・・・・・まさかリンディ、このこと知らないの?」
『し、知るわけないじゃない! 私だって初耳をそんなの!? それで、ユーノ君はいつ辞めた事になってるの?』
「ええと・・・書類の日付には7月31日と記載があるから・・・ちょうど一週間前ね。7月付で辞めていることになるわ」
『そ、そんな・・・・・・でも現に、無限書庫は今迄どおりちゃんと稼動してるじゃない? もしユーノ君が辞めたというのなら、それこそ無限書庫の運用が著しく低下するはずじゃない?』
リンディが言うように、その殆どの機能を掌握していたのはユーノ・スクライアその人であり、大半が彼の能力に依存し動いている場所だという認識が強かった。無論、正式に稼働し始めた当初、司書になったばかりのユーノ一人にそう言った重荷を背負わせまいと、毎年リンディやレティらの働きかけもあり、無限書庫への司書の増員を頭の固い上層部へと具申してきた。
「その事なんだけど・・・さっき調べて見て分かった事があるわ。どうもユーノ君、自分がいつ居なくなっても困らないようにって、どの司書でも使える自動情報検索・処理を同時に行うとんでもない装置を作っていたらしくてね・・・稼動効率も彼の穴を埋めるには充分なほどにちゃんと機能しているそうよ」
「ほ、ホントに? でもユーノ君、どうしてそんな手の込んだことを・・・・・・・・・」
伝えられた内容にリンディは溜息をひとつ零し、同時に悲嘆に暮れる。
突然の辞職、しかも相談も無しとなれば様々な出来事に対処してきた彼女にも突き刺さるものがある。
「泣きっ面に蜂のところ悪いんだけど・・・・・・状況は私たちが思ってる以上に深刻よ。手配した局員が使っていた寮の自室を確認したところ、既にもぬけの殻。私物も完全に整理され痕跡になるようなものは何ひとつなかったそうよ」
淡い希望を打ち砕くかの如くレティの言葉。聞いた途端、リンディは、沈痛な面持ちでその場に重い腰を下ろす。
「全てにおいて徹底しているというわけね・・・・・・」
『連絡も全くつかない状況。一週間も経ってるからどこか別の世界にでも流れてるんじゃないかしら? ほら、スクライアは元々漂流部族だし、民族特権で異世界移動に関しても特別制限とか設けられてるわけじゃないから、彼を探すのは雲を掴む様なものね』
「でもどうしてかしら・・・・・・・・・ユーノ君が私たちに何の相談も無しに辞めるなんて・・・・・・それで、なのはさんやフェイト達はこのこと知ってるの?」
『私やあなただって今日初めて知ったんだから知るはずないわ。で、どうするの? この後のこと?』
「・・・・・・そうね、取り敢えずフェイト達を呼び集めるわ。何かユーノ君が辞める様な手がかりを聞けるかもしれないしね」
*
その頃、一躍時の人となったユーノ・スクライアは―――ミッドチルダから遠く離れたとある観測指定世界に身を置いていた。
【観測指定世界】とは、常駐する者がいない世界という意味。ゆえにそこは、手つかずの自然と遺跡がそのまま残っており、晴れて自由の身となったユーノは一度は訪れたいと考えていた。
「ふぅ・・・・・・やはり自然のまま残されている世界はいいな。管理局がしゃしゃり出てる場所は空気が悪いよ」
スクライアの民族衣装を纏ったその身を大地に預け、雲の行きかう空を目的もなくただぼーっと眺める。
「僕はみんなのいる空の上まで駆け上がることはできなかった。いや、それ以前にもっと考えればよかったとつくづく思う。だけど結局僕は怖くて、臆病で、みんなから―――なのはから見放されるかもしれないと思って何も考えたくなかった・・・・・・」
そう呟くと、トレードマークの眼鏡を外し、ユーノは静かに目を瞑る。
「今からでも遅くない。これからの人生をどう生きるか、ゆっくりと考えるとしよう―――」
◇
数日後―――
時空管理局本局内部 運用部・第3会議室
急遽リンディからの招聘を受け、ユーノと近しい者達―――なのは、フェイト、はやて、クロノ、アコースは、忙しい日程の合間を縫って一堂に会する。
しかしながら、5人は今回自分達がどんな理由で集められたかを事前に知らされておらず、その理由は未だ分からずの状況。
「さて、何かと忙しいのは重々分かっているつもりだけど・・・今日はちょっとショッキングな話をしなくちゃいけないの。心してちょうだいね・・・」
真剣な眼差しで5人を見つめるリンディを見た途端、なのは達はただ事じゃないと直感する。
「それで
意を決して、フェイトがリンディに尋ねる。質問を受けると、暫くの間を置いてからリンディはおもむろに話し出す。
「・・・・・・ほんの一週間ほど前なんだけど、ユーノ君が辞表を提出、無限書庫司書長の役を終え自主退職したのよ」
「「「「「え・・・・・・!?」」」」」
青天の霹靂である。リンディの言葉を聞いた途端、5人は一瞬の錯乱状態に陥った。
「ゆ、ユーノが・・・!」
「管理局を辞めた・・・やって!?」
「そんな!! 一体どうして!? 私たちには一言も!?」
「あのフェレットもどきが・・・・・・どういうつもりなんだ!」
「・・・・・・・・・・・・」
古きよき理解者であり大切な幼馴染が自分達に相談も無く自主退職をした。それだけでも衝撃は大きい。だが同時に裏切られたと思う気持ちもある。クロノにしてみれば今回のユーノの行動はまさに重大な裏切り行為であり、思わず悪態を突く。
一方で、最後にユーノと接触していたヴェロッサはあの時の杞憂が現実の物と化した事実に言葉を失くし唖然とするばかりだった。
なのはにフェイト、はやてにしても今回の一報は想定の範囲外だった。特にユーノとの接点が最も多いなのはは、【JS事件】と呼ばれるテロ事件を機に養子にした少女―――ヴィヴィオの事で一緒に居る回数が比較的にも多かったから、尚の事ショックを隠し切れなかった。
「やはりその様子だと、誰もユーノ君のことは聞かされて無いようね。今日あなた達を呼んだのは、最近のユーノ君について何か思い当たる言動をしていたかどうかを聞きたくてね。もしくはあなた達の所に相談とかなかったか聞きたいの」
リンディは早速一人ずつ順に話を伺うことにした。
「僕の場合は、任務上で必要な調査資料をユーノ個人に請求する事は頻繁にありましたが、それでアイツが辞めたいといった愚痴を零した事はありませんでした。最近は目立った資料請求もなかったですし取り立ててなにも・・・・・・事実、ユーノの件もたった今初めて聞かされましたから」
「私もクロノと同じです。別件の捜査で忙しかったから、ユーノと最後に会ったのは・・・二、三か月前だと思いますけど、特に変わった様子も無かったです」
「私もフェイとちゃんと似たようなもんですわ。最近はユーノくんともそう会う機会もありませんし、会っても精々廊下で挨拶交わして他愛ない話くらいで・・・」
「なのはさんは・・・どうなのかしら? 最後にユーノ君と会ったのはいつ?」
「確か・・・・・・ひと月ほど前だったと思います。ヴィヴィオの授業参観に一緒に行ったきり、お互いに忙しくて・・・そのときもいつもと何ら様子は同じでしたから・・・」
「ロッサは・・・・・・ロッサ?」
クロノは先ほどから何やら青ざめた表情を浮かべるヴェロッサに気がついた。
「アコース君、何か思い当たることでもあるの?」
「どうなんやロッサ!?」
リンディとはやてからの追及を受け、ヴェロッサは遣る瀬無い感情を孕んだ声で言葉を紡ぎ始めた。
「二週間前に局の食堂で偶然見かけたもので、一緒に食事を摂りました。他愛ない話をしていたんですが、あの時のユーノ先生はどこかいつもと様子が違っていました」
「様子が違っていた?」
「何となく
「じゃあそのときの会話の中で、無限書庫、ひいては管理局を辞めるなどという言葉はあったのか?」
「それは無かったよクロノ君。ただ―――『結局のところ僕は何も考えていなかったのかもしれない。だからもっと考えればよかった。だけど何も考えたくなかった・・・・・・それが今の停滞した現状を生み出している』・・・・・・そう口にしていたよ」
「何も考えていなかった・・・・・・?」
話の概要からして見えて来ないが、なのは達からすればユーノほど思案に明け暮れる人間を知らない。その彼が何も考えていないという言葉を口にする意図が、全く以て理解出来ない。
「アコース査察官、他にはなにか言っていませんでしたか?」
フェイトが話を深堀りすると、そういえば・・・と言って、アコースはユーノが口にしていた事を思い出し、その時の言葉を語り出す。
『人間には「ジェット機型」と「プロペラ機型」と2通りあるんですよ。人間の人生にはジェット機みたいになかなか飛び立たないで滑走路を長いこと走ってやっと飛ぶ者と、プロペラ機みたいに200メートル走っただけで直ぐに飛んで高度をあげてぐっと飛ぶんですけど、飛行距離が短い。スピードも出ない。だから一瞬すごい覚えたように思うんですが、意外とその先が行き詰りがある。でもジェット機はなかなか飛ばない反面、一度飛んだら距離も長くスピードもある。これを僕とクロノに当てはめるなら・・・・・・クロノはどちらかと言えば前者で、僕が後者。ちなみになのはとフェイト、はやての3人は「スペースシャトル型」で、二つの長所を持っているんです。あぁでも・・・・・・僕はもうプロペラも故障してますから、空を飛ぶこと自体出来ないと思いますがね』
「アコース君、もういいわ。辛いこと思い出させてごめんなさい」
言葉に隠されたユーノの心の闇を垣間見た気がした。飽く迄も気がしただけであり、本当の所はわからない。今となっては彼に会って確かめる事すらできないのだから。
「ユーノ君・・・・・・ずっと苦しんでるのに、それを一人で抱えていたのに私、気付こうともしなかった」
大切な幼馴染が人知れず苦しんでいる姿を想像しただけで、なのははその場に項垂れてしまう。
そんな彼女を複雑な心境で一瞥、リンディは渋い顔を浮かべながら両手を前に組んで一先ず状況を整理する。
「・・・直接的に辞めるという事は言わなかったものの、思うところはあったみたいね。確かにユーノ君の性格からして、『辞めたい』って事をみんなの前で口に出すようなタイプじゃないわね。彼ほど責任感の強い人はいないもの」
ユーノ・スクライアは6人が認識している中では、誰よりも責任感が強く、強い意志を持った青年だった。若干9歳で発掘調査隊のリーダーとしての実績経験があり、統率力に長けていた彼は自分の部下や仲間の為なら、我が身を厭わず守り抜こうとする。
無限書庫が稼動するようになってからは、自分の部下がこの職務をもっと気楽にやっていけるためにと常に寝食を忘れ黙々と仕事に従事し、幾度と無く栄養失調と睡眠不足で倒れ医局へと運び込まれた事がある。ワーカーホリック気味ななのは達ですら呆れるほどのユーノと言う人間は超がつく利他主義の持ち主だった。
しかし、彼は人前では決して弱みを見せないという強情さを兼ね揃えていた。それを思い出した様になのは達は思案に暮れる。
「確かに・・・あいつは僕らが思っている以上に強情で頑固な奴だ。それに、他人に迷惑をかけてまで管理局を去るような無責任な人間でもない・・・」
「何か私たちには言えないようなストレスを抱えていたのかな?」
「無限書庫司書長ともなれば責任も提督、下手したら国家大臣級や。身体的にも精神的にも追い詰められていったって不思議やないよ」
「でも・・・だからって突然居なくなることないのに・・・せめて、私たちに相談のひとつくらい、私にひと言言ってくれてもいいのに・・・ユーノ君・・・どうして・・・」
声を震わせるなのはの双眸に浮かぶ涙が粒となり、膝の上で握り締める手の甲に零れ落ちた。
フェイトは、そんななのはを横目で見るとハンカチを取り出し、顔を拭く様に言う。
「ほら、なのは・・・」
「ありがとう・・・フェイトちゃん・・・」
「いずれにしても、管理局にとってユーノくんの損失は甚大ですよ。無限書庫の事についても、私たちの事についても・・・今まで頑張ってこられたんは、ユーノくんの影の努力があってからなんですわ!」
語気強く言いながら、はやては嘗てユーノの力を借りて造り上げた現在のユニゾンデバイス―――初代リインフォースの意思を継ぐ二代目、リインフォース
「そうだな。僕も何だかんだいって・・・あのフェレットもどきにはいつも世話になっていた。事件が起こるたびにあいつの資料がどれほど救いになったかしれない」
クロノは、凶悪な次元犯罪が起こる度事件解決の鍵となる資料を毎回ユーノに頼んでいた。扱う規模の大きさから毎度膨大な量であり、ユーノや他の司書からは相当冷たい目で見られていた。それでもユーノは文句の一つも言わずに資料を送ってくれた。
「私だって・・・執務官になる為にユーノにはつきっきりで勉強を見てもらったから、今こうして事件に立ち向かっていけるんだよ」
フェイトの場合、執務官という超難関クラスの役職に就く為の勉強を若くして大学を飛び級で卒業していたユーノに見てもらい、頻繁に教えを乞うていた。
「私だってそうだよ・・・ユーノ君が居てくれたから、今の私は此処にいる! 魔法をユーノ君が教えてくれたから、ユーノ君がずっと傍にいてくれたから、私はたくさんの友だちや先輩、後輩に支えられて空を飛ぶことが出来るんだもの! 一度飛べなくなるかもって言われた時だって、私が諦めずにいられたのも・・・全部・・・ぜんぶ・・・ユーノ君がいたからなんだよ!! なのに私は・・・・・・ユーノ君に甘えてばかりで、ユーノ君を支えることが出来なかった・・・・・・うううううううぅぅぅうぅ」
なのはの内から込み上げるユーノに対する贖罪の念。それが深い後悔の涙となって止めどなく零れ落ちる。
幼い頃、行き場の無い焦燥と遣る瀬無さに不安を抱いていたなのはに、魔法と言う自分にとってのアイデンティティとも言えるかけがえのないものを与えてくれた。
たとえ、歩く道は違えども二人の絆はずっと繋がっているものとばかり、なのはは心の片隅で思っていた。
だが、現実は彼女が考えるほど思い通りにはいかなかった。
ユーノはなのはとの絆を断ち切り、何も言わずに姿を消した。彼女自身そんな大切な絆の象徴とも言うべき誰よりも大切な幼馴染で、特別な存在を喪失した。
今までの甘えのツケが、まるでしっぺ返しとなって返って来るかのように・・・今日まで、なのはの背中を支え続けた優しかった青年は・・・・・・もう、戻ってこない。
フェイトやはやてと言ったなのはの両隣を預ける者は多くいたかもしれない。
しかし、彼女の背中を安心して預ける事ができた者などユーノ以外に居たのであろうか。皮肉にも魔法と出会って人を救う事を何よりも生き甲斐としてきたなのはにとって、その出会いを与えてくれた青年を救うことが出来なかった。
目に見える事実と、その裏に隠された真実を見通せるものはそうはいない。それができる人間がいるとすれば、おそらく彼女が知る限りユーノ・スクライアだけだろう。
ポタッ、ポタッ・・・・・・。なのはの後悔と悲しみはより顕著に顔に現れ、チャームポイントのあどけない笑顔は鳴りを潜める。
全ては漆黒の闇の彼方に追いやられた。
目の前に置かれた紙コップの冷めたコーヒーの如く、まるで底が見えない―――
*
第97管理外世界「地球」
東京都 海鳴市 ハラオウン家
「ゆ、ユーノが辞めたって!?」
フェイトの使い魔である狼を素体とした子犬のような耳を生やした少女・アルフはあまりに
「やっぱりアルフも知らなかったんだ・・・ユーノが無限書庫を辞めたってこと・・・」
アルフは前線から退くのをきっかけに、ユーノの所へと赴き無限書庫の手伝いをしていた。その為、他のメンバーと比べればユーノとの接触時間が多い。
にも関わらず、ユーノは戦友である筈のアルフにも何も告げなかった。立つ鳥跡を濁さず忽然と姿を消したのである。
「どうしてなんだい!? どうしてユーノが・・・あいつは・・・あんなに無限書庫での仕事に誇りを持っていたはずだ! 仕事は大変だけど凄くやり甲斐のあるもんだって言ってたのに・・・!! なんで・・・なんで急に辞めちまうんだい!!」
自分の考えとは裏腹に、前触れもなく無限書庫司書長と言う職を退いたユーノに、アルフは深い疑念と憤りを覚える。
フェイトは興奮気味なアルフを
「でねアルフ。最後にユーノと一緒だったとき、ユーノ・・・何か変わったところとかあった?」
「え・・・・・・あ、いや。特に何もなかったと思うけど・・・・・・」
「そっか・・・・・・」
特にこれといった情報も聞き出すことが出来なかった。フェイトは忽ち暗い顔を浮かべる。
すると、主人と同じく暗い表情を浮かべていたアルフが、ふとなのはの事が気がかりとなった。
「そう言えばフェイト。なのはは・・・どうしてるんだい?」
「それが・・・・・・ユーノが居なくなったって知ってから、すっかり塞ぎ込んじゃって。なのは・・・・・・私たちやヴィヴィオの前では気丈に振る舞ってるけど、毎晩一人で自分の部屋に入るたび・・・・・・声を押し殺して泣いてるんだ・・・・・・」
自分を救い出してくれた大切な親友であるなのはの事となると、フェイトは自分以上に過敏に反応する。なのはが悲しみに暮れているのを少しでも和らげたいと情報収集に励むが、結局何の収穫も得られない。朗報を携える事すらままならない。
高町なのはにとって、ユーノ・スクライアという男は彼女自身の心の支え―――時にアクセルであり、ブレーキであった。
アクセルとブレーキを同時に失った事で、なのはは心のバランスを崩し、笑顔を失ってしまった。
クロノはしばらくすれば吹っ切れるだろうと高をくくっていたが、彼の楽観論に反してなのはの心は日増しに悪化していった。支えの無い彼女の心は、非常に不安定且つ今にも屈してしまう程に摩耗し弱り切っていた。
不屈のエース・オブ・エース―――と言われる彼女だが、ユーノがいなくなった今、不屈の心から一変、まるで幼い少女の様に脆弱いものへと退化する。
幸いにも、彼女の周りにはフェイトを始め気にかけてくれる友人や上司、そして後輩達、そしてヴィヴィオという娘の存在によって最悪の事態は回避できた。
しかしそれでも彼女は一人になると心細くなり、つい彼のことを思い出し、その度に涙を流し続けた。
そして、ユーノがいなくなった事でなのははようやくある答えに気が付いた。
「あぁ・・・そっか・・・私・・・・・・こんなにもユーノ君のこと・・・・・
人間は抱えている内には分からない。失ってから、初めて本当の価値を初めて理解する。なのはとて例外ではなかった。
ユーノが居なくなってから、高町なのはは初めて彼の存在の大きさと恋慕に気づき、曖昧模糊だった彼への想いが、今はっきりとした気持ちになった。
しかし、気付いた時には彼は彼女の傍からいなくなっていた。もう二度と、ユーノは彼女の前には現れない――――――
そう考えると、なのはは益々この事実を許容し難くなる。
「そんなの・・・・・・いやだよ・・・・・・! 私は・・・・・・ユーノ君とずっと一緒にいたいのに・・・・・・! 私だけ・・・・・・取り残されるなんて嫌だよ・・・・・・! ユーノ君・・・・・・何処に行っちゃったの!? どうして連絡してくれないの!? どうして・・・・・・私を一人にするの!! うわああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁあぁぁあぁ!!」
彼女もまた、心の奥に潜む「孤独」に強い恐怖を抱く一人の少女に他ならなかった。
その後、なのはを始めユーノと親しかった幼馴染と友人達は仕事の合間を見ては、人知れず消息を絶ったユーノの行方を懸命に捜そうとした。
しかしそれでも、ユーノの行方は分からなかった。探しても探しても消息はおろか徒に時間だけが過ぎていくばかり。
だが、なのはは決して諦めてなどいなかった。
必ずどこかに居ると信じ、ユーノが居なくなって初めて気付いた彼への恋心を胸の奥へと抱え、一途に彼の帰りをいつまでも待ち続ける事にした。
首からは常に、ユーノの顔写真が収められたロケットをぶら下げて。
(ユーノ君・・・・・・私は絶対に諦めないよ。いつか、必ずユーノ君を見つけて、ちゃんと・・・・・・この気持ちを伝えるから)
ほんの少しでも近づける様に――――――なのはにとってのユーノは、遥か遠い場所で光り輝く月に似ていた。
◇
ユーノが管理局を去ってから三か月が経過した頃、嘗て管理局とミッドチルダ全土を震撼させた広域次元犯罪者が収監された監獄で前代未聞の事態が起きた。
≡
新暦076年 10月半ば
第9無人世界「グリューエン」
軌道拘置所 最重要次元犯罪囚収監エリア
ブーッ! ブーッ! ブーッ!
拘置所内でけたたましく鳴り響く警報。刑務官が増員され、牢獄から脱出を果たした一人の囚人を武装兵が取り囲む。
「もう逃げられないぞスカリエッティ!」
「観念するんだな!」
四方を取り囲まれる紫の髪を持つ痩せ形の男―――広域次元犯罪者ジェイル・スカリエッティは、この状況でも一切の笑みを崩さない。
「フフフ・・・私の意見は反対だな」
「こっちは大勢だぞ!」
「ここは暑い。窓を開けてもいいかな」
パチン―――と、指を鳴らした直後。
拘置所の壁が唐突に破壊され、内部の空気が外側の宇宙空間へと吸い出されると同時に、武装兵達が一斉に真空の宇宙へと放り出された。
「「「「「「うわあああああああああああああああ」」」」」」
壁が壊れると言った事態を想定していなかった武装兵達の断末魔の悲鳴を心地よいと思いながら、スカリエッティは宇宙服を一切身に付ける事の無い軽装備で、穴の空いた壁から拘置所と外へと飛び出した。
無重力の宇宙では身のこなしは実に軽い。衛星軌道上に位置する拘置所の屋根へと上り、スカリエッティは声高に宣言する。
「ふふふ・・・さぁ、再び歴史を席巻しようじゃないか。私こそが無限の欲望!! 《アンリミテッド・デザイア》なのだからっ!! ふははははははははは!!」
◇
3日後―――
XV級次元航行艦船「クラウディア」 艦内応接室
「変わりなさそうだな。フェイト執務官」
「クロノ提督から呼び出しを貰うなんてちょっと内心ドキドキはしていますが・・・・・・」
公式の場という事もあり、当初はぎこちなく敬語を使っていたが、やがて話しづらさからフェイトとは咳払いをしてから、フランクな口調で
「えっと・・・いったい何があったの? なのはやはやてにはまだ話していない事だって聞いたから余程の重大事だとは思ってここに来たつもりだけど」
「ああ。確かに重大事だ。いいか、心して聞くんだ。3日前―――ジェイル・スカリエッティ他、収監されていた戦闘機人3人が軌道拘置所より脱獄した」
「な・・・・・・!」
思わず絶句し欠けた衝撃の一報。フェイトにとってJS事件の首謀者であるスカリエッティの脱獄は想像すらしていなかった事である。
「こちらで把握している脱獄者は、スカリエッティとウーノ、トーレ、クアットロの計4人。もう一人の戦闘機人セッテは脱獄の途中で局員に撃たれ、間もなく息を引き取ったとの事だ」
ありのままに淡々としてクロノは事実のみを伝える。
「そんな・・・・・・スカリエッティが脱走だなんて・・・・・・! でもあり得ないよ! 軌道拘置所のセキュリティは盤石だって事はクロノも知ってる筈だよ。ましてあの男の様な超広域指定を受けた次元犯罪者の脱獄をそう簡単に許すなんて・・・」
「僕も母さんから聞かされたときはフェイトと同じことを思ったさ。だがこれは厳然たる事実だ。受け止めなければならない」
由々しき事態となった。再び世に狂気を撒き散らす悪の種が放たれたのだと、フェイトはこの先待ち受ける危機を想定し不安になる。
「・・・・・・本局からの発表はあるの?」
「今のところ未定だ」
「どうして!?」
「JS事件からまだ1年しか経っていないんだ。安易に発表すれば、いたずらに諸世界に混乱を撒き散らす事になる。ただでさえ最高評議会を失った管理局の内政はガタガタ。そこに来てスカリエッティの脱獄などと知れたら、局への風当たりはより一層悪くなり信頼はがた落ちだ。上層部はこの事を世間に露呈されるのを恐れている」
「そんなこと言ってる場合じゃないよクロノ! あの男を野放しにするってことはだよ・・・・・・また罪もない無関係な人が大勢傷つき悲しむって事なんだ。管理局は次元世界の法の守護者なんでしょ? だったら、人を守ってこそが私たちの仕事なんじゃないの?」
義妹の言う通りだ。時空管理局とは本来そう言う組織であるべきだと、常々クロノも思っている。
しかし、現実はいつだってこんな筈じゃない事ばかり起こる―――自分達が思っている以上に管理局という組織は一枚岩とは言えない構造をしている。そんな組織を変える事は決して容易ではない。
「・・・・・・この件については追手通達をする。今はまだ動くな。僕から言えるのはそれだけだ」
静かに語りかけ、クロノは先に応接室を後にする。
「・・・・・・・・・スカリエッティ・・・・・・」
一度は捕えた因縁の相手が再び世に放たれた。フェイトはただただ遣る瀬無さともどかしい気持ちに駆られるばかりだった。
◇
ユーノ・スクライア失踪から、およそ四年の歳月が流れた。
管理外世界の97番・・・現地惑星名『
店の名前は「スクライア
その店の前で現在、開店準備の傍ら掃除をしている二人の男が会話をしていた。
≡
新暦079年
第97管理外世界「地球」
東京都 松前町 スクライア商店
「バッター四番、鬼太郎選手―――ピッチャー振りかぶって投げた!! かっこいいバットスイングから―――だらあああ!! ナイスショット!!!」
「先輩・・・遊ぶのは勝手だけどちゃんと掃除しないと金ちゃんに怒られるよ・・・」
大仰かつ大声を上げながら
「うるせーぞ、亀っ! 熊が怖くて掃除なんかできるか!!」
「いやだから・・・先輩は怖いから掃除するんじゃないの?」
「怖くねーっつの! 大体てめえは一々癇に障るんだよ亀公のくせに!!!」
「痛い、痛い!! てか全然理由になってないからね!! だいたい先輩は僕より誕生日が早いだけなのに頭空っぽで態度がデカいんだ!!」
「んだと!! もう一遍その台詞吐いてみろ!!!」
短気な性格の鬼太郎とそれとは対照的に冷静な性格の浦太郎は水と油だが、どちらもこのスクライア商店の従業員。仲がいいかどうかは別として、開店前はいつも喧騒としていた。。
「止さぬか」
すると、浦太郎を箒で叩き続ける鬼太郎の手を何者かが止めに入った。
「ああ!? 誰だ・・・!」
竹箒を掴んだのは、真っ白なワイシャツに身を包んだインテリジェンスな雰囲気を醸し出す男。
「お主らは何をしているのだ、みっともない。これだから下々の者ときたら、いかんぞそのようなことでは」
「ちっ! 何の用だよ鳥!! まだ営業時間じゃねーぞ」
「ユーノ店長は居られるか? ちょうど仕入れ時でな・・・」
「あっ、そうですか! 分かりましたよ・・・ささ、どうぞどうぞ!」
不貞腐れる鬼太郎の代わりに、浦太郎が鳥と呼ばれた上流階級の如く立ち振る舞いをする男を店の中へと案内する。
シャッターを潜って扉を開けると、中で大荷物を抱えるサングラスに筋骨隆々の大男が開店準備で忙しなく動いていた。
「むっ。こら鬼太郎、浦太郎。まだ開店時間には早い―――・・・!」
「だってしょうがねーだろうが! 鳥が店長に用があるって言うんだからよ!!」
不承不承に鬼太郎がそう言うと、大柄な男・
「少々お待ちを―――今、店長を起こしてまいります故」
「ザーンネンでした。今日はとっくに起きてるよ」
その時―――・・・奥の方から帽子、作務衣、羽織という格好をしたこの店の店主が姿を現す。
「ふああああああああああああああ~~~~~~~~~・・・」
客を目の前にしても一切気にせず大欠伸をかく店主―――ユーノ・スクライアは、靴を履き、目を擦りながら前へと歩いていく。
「お
四年の歳月を経たユーノは、まるで別人だった。
面影こそはさほど変わらず髪留め用のリボンと、円い眼鏡をつけているが―――雰囲気はどこか飄々と胡散臭く、それでいて言い知れぬ雰囲気を醸し出すようになっていた。
この物語は、まだ始まったばかりに過ぎぬ。
物語は・・・―――ここから大きく狂い始めるのであった。
-斯くて 刃は振り下ろされた-
参照・参考文献
原作:和月伸宏『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 9巻』 (集英社・1996年)
原作:久保帯人 『BLEACH 2巻』 (集英社・2002)
魔導師図鑑ハイパー!
白「私の名前は白鳥礼二。護廷十三隊一番隊第三席の死神である。現在、私はこの松前町の担当として任務に当たっているのだが・・・」
誰に聞かせるのでもなく独白しながら、自分の仮の肉体・
白「今は職務遂行の為の標的もおらず暇を持て余している。にしても・・・・・・本当に暇であるな~」
と、その時。悪霊の発見を報せる一報が手持ちの携帯端末・
白「
現場に急行しようとした瞬間、謎の一段に踏みつけられる。
観「カラクラスーパーヒーローズ! 十年ぶりに復活!!! 行くぞ、皆の者!!」
ジ「よっしゃ!! 十年ぶりに行くぜ!!」
夏「待ちやがれ、クソ餓鬼!」
白鳥、踏み台にされながら去っていく三人を見る。
白「な・・・何だ・・・!?」
次回予告
ユ「僕の名前はユーノ・スクライア♪ 仕事はしがない駄菓子屋の店主・・・なんだけど、その正体は・・・!」
?「おっとストップだ!! 今はまだ話すときじゃねぇ。それは次の回迄のお楽しみって奴だ」
ユ「ええ~~~一護さんのいけず!!! じゃあ、早く次回予告でもするかな・・・って時間もうないし!!!」
一「次回、ユーノ・スクライア外伝・・・『伝説の死神代行』」
ユ「リリカル・マジカル、頑張ります♪」
一「って、それお前の呪文じゃねぇ!!!」