ユーノ・スクライア外伝   作:重要大事

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第11話「ジャハンナム・トラップ」

新歴079年 4月21日

第97管理外世界「地球」

東京都 松前町 スクライア商店

 

 人間の体に取り付き、魔導虚(ホロウロギア)化を進行させる未知の物質。その構造には未だ解明されない多くの謎が残されていた。

「重原子や霊子が実に複雑に結合して一つの結晶となってる。これじゃまるで生物というより一個の構造体じゃないか。そう・・・ウイルスの様な」

 得られた解析結果からそのように位置づける。

 店舗地下数十メートル下、ユーノは秘密裡に建設した研究施設で日夜魔導虚(ホロウロギア)に関する研究に没頭していた。

 現在、ユーノはプラスターでのプーカ戦で得られた残骸物、恋次達の手から渡ったアインハルトを魔導虚(ホロウロギア)化させた幼生虚(ラーバ・ホロウ)の死骸から綿密にデータを算定。そこから導き出される事実を一つ一つ紐解いていた。

幼生虚(ラーバ・ホロウ)は、(ホロウ)の姿を模した事実上の【ユニゾンデバイス】だ。生物との融合によって生まれた魔導虚(ホロウロギア)は素体の行動原理に基づき、自らの欲望を満たしながら強固な自我を確立させ進化・成長していく。これまではその成長途中で浄化に成功してきたが・・・」

 熟考し、手元のコンソールに入力作業をしながら難儀そうに眉間の皺を寄せ険しい顔を浮かばせる。

「わからない・・・・・・。幼生虚(ラーバ・ホロウ)が人間に取り付き、進化の触媒とする事に何の意味があるんだ?」

 幼生虚(ラーバ・ホロウ)の組成式について、コンピューターが出した分析結果は「UNABLE TO ANALISE」―――すなわち「測定不能」だ。

 当然だ。この世で発見されて間もない未知の物質を何の前情報も無い機械が正確に分析できる筈がない。

「もしも魔導虚(ホロウロギア)が完全体になったら・・・いったい何が起こるっていうんだ?」

 スカリエッティが何をもって魔導虚(ホロウロギア)を生み出しているのか。その背景に迫ろうとすればするほど思考の迷路へ迷い込む。

 悶々と頭を悩ませていた折、研究室の扉が開かれ、中へ入って来たのは金太郎の導きを受けた一護だった。

「よう。ここにいたのか」

「一護さん。来てたんですね」

「しっかしスッゲー施設だな。よくもまぁ東京の地下にこんだけの物を造りやがる」

 足下で複雑に絡み合った配線に引っ掛からないよう慎重に慎重に歩き、一歩一歩ユーノの下へと近づいて行く。

「で。何か分かったのか?」

「現在考えられる要素を全てデータに入力して計算していますが、これだけの不確定要素ですからね。出力までには時間がかかります」

「やっぱり気になるんだな。魔導虚(ホロウロギア)が人間を取り込んだって事が」

「それもそうですが・・・・・・何より懸念すべきは敵の最終目的です」

 真剣な表情でそう訴えかけると、ユーノは研究室の巨大モニターにある映像を出す。

 映し出されたのは、先日ミッド地上を襲撃した大型魔導虚(ホロウロギア)「バリオスF」による都心への攻撃を如実に捕えたものだた。

「ミッド都心を襲った馬型の魔導虚(ホロウロギア)は、地上本部を個人的な恨みで破壊する為だけに生み出され、街に現れました。もしあの魔導虚(ホロウロギア)が目的を達成したらその後はどうなるのか? 他の魔導虚(ホロウロギア)にしてもそうです。彼らがもし目的を達成していたら一体どうなっていたのか?」

 懸念と不安を顔に露わにするユーノ。

 ちょうどそのとき、スーパーコンピューターによるこれまで得られた要素全てを含んだ計算結果が算出された。

「コンピューターの予測は?」

 ユーノと一護が見守る中、スーパーコンピューターが電子音声で発したのは、

 

               《レギオン粒子の拡散》

 

 ―――という言葉だった。

「非物質粒子レギオンを撒き散らして・・・・・・地上生命を!?」

 このとき、ユーノはある重大な核心へと気づき表情を一変させた。

 

           ◇

 

4月23日―――

第1管理世界「ミッドチルダ」

ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 海上トレーニングスペース

 

「さて、今日の訓練の前に一つ連絡事項です」

 いつものように行われる戦闘訓練。

 スバル達からの視線を受けるなのはは、隣に立ち尽くす黒いトレーニング服を着用したスバル似の女性を紹介する。

「陸士108部隊のギンガ・ナカジマ陸曹が、本日只今をもって正式に機動六課へ出向となります」

 なのはからの紹介を受け、隣に立つギンガは既存メンバーに自己紹介する。

「本局からの勅命を受けてやって参りました。108部隊、ギンガ・ナカジマ陸曹です。よろしくお願いします!」

「「「「よろしくお願いします!」」」」

「恋次さん達は初対面ですよね? ギンガはスバルのお姉さんなんです」

 ギンガを知らないであろう恋次達にフェイトが補足情報を加える。やがて、本人自ら恋次達へと近づき握手を求める。

「初めまして、ギンガ・ナカジマです。魔導虚(ホロウロギア)に襲われた妹を助けて下さってこと、感謝してもし切れません」

 ティアナの兄・ティーダが魔導虚(ホロウロギア)へと変貌した際、スバルが重傷を負った時、現場に居合わせた恋次達の活躍もあり事なきを得た。それを後から知ったギンガは姉として妹の命を救ってくれた死神達へ心からの感謝を述べる。

「あんなの別にどうってこと()えよ。礼を言うなら俺じゃなくてそこの吉良に言ってやってくれ」

「僕だって大したことはしていないさ」

 そうは言うものの、二人は満更でもない様子で顔を綻ばせる。

「あの・・・僕も一応がんばったんだけど・・・」

 恋次達だけが感謝され自分だけが感謝されない事に浦太郎は露骨に悔しく、子供の様に拗ねる。鬼太郎は「哀れだなおまえ」と呆れた態度を取った。

「それから、もう一人紹介したい人がいます」

「どーも」

 フェイトからの紹介を受けた眼鏡を掛けた白衣の女性こと、マリエル・アテンザが軽い調子で返事をする。

「十年以上前からうちの隊長陣のデバイスを見て下さっている本局技術部の精密技術官で、機動六課技術顧問の・・・」

「マリエル・アテンザです」

「地上での御用時があるとの事で、しばらく六課に滞在して頂く事になった」シグナムが出向の背景を簡潔に説明する。

「気軽に声をかけてねー」

 皆一様に「はい!」という潔い返事をし、新たな仲間を歓迎をする。

「おーし! 紹介が済んだところで・・・早速今日も朝練おっぱじめるぜ!!」

「「「「「はい!」」」」」

「あぁ、せっかくだから今日はフォワードチームと恋次さん達とで模擬戦をやってみようかと思うんだ」

「ち、チーム戦だって!?」

「あははは・・・・・・厄介な事になったよ」

「俺らは専ら個人戦が多いからな。集団戦闘なんて割に合わねえよ」

 なのはからの突然の提案に恋次を始め、吉良、浦太郎、鬼太郎の四人は露骨に顔を歪め戸惑いを見せる。と言うのも、彼らの戦い方は集団での戦闘を想定した物ではない。その殆どが個人の技能や経験に依存していた。集団戦闘の経験が皆無とまではいかないものの、彼らにとっては苦手な分野だった。

「おいおいどうした? やる前から敗北ムードか? 案外死神ってのも大した事ねーんだな」

「・・・・・・あぁ?」

 ヴィータの挑発的な言葉に恋次の琴線が過敏に反応。

 してやったりという彼女へ顔を近づけると、恋次は額に血管を浮かび上がらせたまま啖呵を切った。

「言ってくれるじゃねえかよ!! 上等だぜここで引き下がるのは死神としての沽券に関わるからな・・・・・・売られた喧嘩は買う主義だ。その勝負乗ってやるぜ!!」

 またいつものパターンか・・・・・・。内心吉良はこうなる事を予測していたらしく、嘆息交じりに恋次の単純思考に呆れたという風に肩をすぼめる。

「じゃあ、各自防護服とデバイス用意。ウォーミングアップしてから5分後に模擬戦をはじめます」

「「「「「「「「「はい(おう)(ああ)(オッケイ)(おうよ)!」」」」」」」」」

 

           *

 

 同時刻―――。

 機動六課技術顧問を務めるマリエル・アテンザとともに、八神はやてはミッドチルダを離れ第8管理世界「ファストラウム」へと訪れた。

 

           ≡

 

第8管理世界「ファストラウム」

海上方面 高度1000フィート付近

 

「ここがリンディさんの出身地ですかー。いいところやわー」

 ヘリコプターの上空から拝む澄み渡った海と大地。

 都会の喧騒と仕事のストレスをしばし忘れさせる自然の場景は心身をリラックスさせる

「八神司令! そろそろ目的地に到着します」

 操縦士を務めるヴァイスが呼びかける。

 改めてヘリの外を眺めると、二人が目の当たりにしたのは、湾岸に浮かぶ規格外な大きさを誇る島―――もとい空母艦に酷似した移動要塞が一隻と、その中心に聳え立つ天まで届くかの如く縦長の建造物。

 ヘリの中から一望できる巨大な研究施設に胸躍らせるはやて。魔導科学に携わるマリエルにとっては狂喜乱舞する光景だった。

「噂に聞いとったけど生で見るとほんま大きいわぁ。あれがそうなんですか?」

「ええそうよ! 総面積20平方キロメートルに及ぶ巨大移動要塞に建てられているのがあの次世代型エネルギー魔力駆動路『ザックーム』よ!」

 

『ザックーム』

 

 それは、管理局が創設される以前の旧暦の時代―――人類が発見したエネルギー資源【インペリム】を人工的に作り出す事を目的に、超高速に加速した粒子を衝突させる科学実験を行う施設。

 第8管理世界「ファストラウム」を拠点とする移動エネルギー基地要塞・ジャハンナムに建造された巨大次元航行エネルギー魔力加速器駆動未臨界炉である。

 ここで作られたエネルギーは整流プラントを経由して宇宙空間の静止衛星へと送られ、「エナジーレインシステム」と呼ばれる方法によって世界中へ無線で供給されている。

 

 JF704式ヘリ改は巨大な甲板に着陸。

 ドスンと音がし、ヘリが無事に着陸するとはやてはドアを開けて甲板へと降り立った。マリエルもその後に続く。

 このとき、密かに彼らを護衛していた青き毛並みの狼―――ヴォルケンリッターの盾の守護獣・ザフィーラは空の上から二人の様子を確認する。

「主はやてとマリエル技官の到着を確認―――」

 身辺警護を行いつつ、ザフィーラは来賓である二人を出迎える研究員の姿を確認。データを参照し、その人となりを表面的に分析する。

 

「ようこそ。ザックームへおいで下さいました・・・マリエル技官」

「いえいえ。こちらこそ、御多忙の中でこのような機会を設けて下さった事に感謝しています。ファーブニル主任―――。」

 マリエルの言葉を耳に入れつつ、どこか不敵な笑みを浮かべるジャハンナム在籍の魔導工学者ファーブニル・グレイブ(31)。

「お会いできて光栄です、ファーブニル博士。八神はやて二等陸佐です」

 はやては、ファーブニルの前に出てると溌剌とした声で自己紹介。親睦の証として握手を求める。

「彼女は私が技術顧問をしている部隊・機動六課の部隊長を務めているんです」

 横からマリエルが補足として説明を加える。

「私がこのザックームの設計及び実験主任のファーブニルです・・・。」

 ファーブニルは体裁を取り繕うように握手を返すと、どこか機械的に淡々と自己紹介をした。

 早速、ファーブニルに案内され二人は研究施設の奥へと目指す。

「・・・ジャハンナムにザックームが完成したのはちょうど2年前の事です。ご存知の通り、この施設の最終目標は自然ではほとんど産出されないインペリウム239アイソトープを作り出し、慢性的なエネルギー不足の解決を目指しています」

「素晴らしい話ですね」

「ザックームの質力は30テラ電子ボルト以上です。疑い無くこのザックームこそ、次元世界最大質力の魔力エネルギー駆動機関なのです」

 道中ザックームを我が子であるかの様に自慢気に話すファーブニル。その饒舌振りに苦笑しつつ、マリエルはふと思った事を口にする。

「えーと・・・ファーブニル主任、小娘が生意気な事を口にするかもしれませんが、実験に大事なのは高エネルギーだけではないと思います。観測精度、位相の安定性、粒子ビームの収束度。そこまでの質力が本当に必要なのですか?」

 はやても素人なりに色々と考えていた。これだけ大掛かりな物を作り、かつ膨大なエネルギーが暴発する危険性は無いのか―――と。

 マリエルからの問いかけを受けたファーブニルは暫し沈黙を置くと、彼女から受けた質問には直接答えず返事を返した。

「・・・・・・マリエル技官。八神二佐。もうじきジャハンナムの中枢に着きますよ」

 そうこうしている間に施設の中枢部分に当たるビーム発生制御室へ到着した。

「これが次元世界最大のビーム発生器です。ここでインペリウム陽子と反陽子を発生させ、衝突実験を行います」

「あの・・・実験をしてて万が一暴走する危険性は無いんですか?」

「ご安心を。加速器によって加速された陽子線をターゲットに照射して核破砕反応を起こす事で、生成された中性子を臨界量に達しない核燃料を装荷(そうか)した魔力炉に照射し、それによって核分裂反応を起こしてエネルギーを発生させる魔力炉システム―――それこそがザックームなのです。魔力炉自体は未臨界であるため、異常時には加速器を停止すれば急速に出力が低下するという利点があります。もっとも、これを実現させるのは一筋縄ではいきませんでしたよ」

 長々と専門用語を使って説明しているが、掻い摘んでファーブニルが何を言いたのかと言えば、最新の管理システムによって制御されているザックームで事故が起きる可能性は万に一つも無いと言う事だ。

「ではお二人にザックームの真価をご披露いたしましょう」

 そう言うと、ファーブルニルと施設研究員らは直ちに実験を行う為の準備に取り掛かった。

 

           *

 

第1管理世界「ミッドチルダ」

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 食堂ホール

 

 模擬戦闘を終えた恋次達は消費したエネルギーをがっつり補給する為にいつもよりも多く注文していた。

「あん・・・! ったく・・・胸糞悪いぜ」

 露骨に不機嫌そうな顔を浮かべ、食事を貪り食らう恋次。

 理由は簡単だ。彼は集団戦においてスバル達フォワード陣にあと一歩と言うところで敗北を喫したのである。

 個人戦でこそ高い勝率を誇る死神だが、チームバトルでは普段からチーム戦に慣れている機動六課メンバーに軍配が上がったのである。

 秘かに恋次を笑うヴィータとアギト。どこか罰の悪い表情を浮かべるフォワード陣。吉良と浦太郎は恋次の面目を潰した事に多少の罪悪感がある為に声をかけ辛い。鬼太郎に至っては負けた事が納得いかず恋次同様やけ食いをする始末。

 そんな折、何も事情を知らないシャリオが怪訝な顔を浮かべながらトレイを持って恋次の元へ歩み寄って来た。

「あの・・・恋次さん、どうかしましたか?」

「別に! どうもしてねえよ!」

「その割には食べてる量いつもよりも多くないですか? ひょっとして、何か嫌な事でもあったんですか? 私で良ければ相談に乗りますよ!」

 と、基本人のいいシャリオが恋次の話し相手になったのは良かったのだが・・・これが思わぬ方向にシフトした。

 

 数分後―――。

 周囲が呆然自失と化す中、鬱陶しそうにする恋次を余所にシャリオは上機嫌に素人には決して分からない細かすぎるメカオタクトークをマシンガンの如く放出し続ける。

「つまりですね・・・・・・レペティション・エミッティングというのは、全く同一の魔法を連続で使用する為に最適化された技術の事で、それを世界で初めて実現させたのが彼の天才魔工技師アニュラス・ジェイドなんですよ!! レペティション・エミッティングの実用化をはじめ、僅か1年の間に特化型デバイスやその他のデバイスのソフトウェアを10年は進歩させたと言われている天才技術者なんです!! 何より高い技術力に溺れないユーザビリティへの配慮も徹底していて!! あ~・・・憧れのジェイド様♡♡」

 聞いた瞬間、鬼太郎が盛大に吹いた。その際、口に含んでいた物が全て恋次の顔へと吹きかけた。

「ぶ・・・ぶっははははははは!!!!」

 とんだとばっちりを受けた恋次は沸々と怒りを湧かせ、大笑いする鬼太郎の胸ぐらを掴み恫喝した。

「てめええ!! 何笑ってやがんだ!! 人の顔にメシ吹きかけやがった癖に!!」

「だって!! だって!! っ・・・・・・ぷふははははははは!!!」

 余程笑いのツボだったのだろうか。狂ったように笑い上げる鬼太郎と同じく狂ったように怒る恋次。周りは唖然としながらもその様子を垣間見る。

「鬼太郎さん・・・何があんなにおかしいんでしょうか?」

「さあね。ただ、シャーリーが人並み以上にアニュラス・ジェイドを絶賛した事がちょっとしたツボだったんじゃないかな? この僕も含めて♪」

「でも、アニュラス・ジェイドってどんな人なんですかね?」

「どうせ無精ひげ蓄えた中年オヤジじゃねーのか?」

「えー、なんかロマンがないですよー。私だったらもっとこうギャップ萌えっていうか・・・見た目はどっちかって言うと女子っぽい感じだったりして!」

「案外と僕たちと同じ年ぐらいのミッドの青少年だったりするんじゃないでしょうか?」

「ミッドの?」

「ほら、彼はカレドヴルフ社専属ですから」

「想像はいろいろ膨らむよね」

 このとき多くの者は知らなかった。

 アニュラス・ジェイド、そして翡翠の魔導死神がユーノ・スクライアという同一の人物である事を。

 

           *

 

第8管理世界「ファストラウム」

ジャハンナム中枢 魔力駆動炉ザックーム

 

 超高エネルギーを発する魔力駆動炉ザックーム。陽子と反陽子を衝突した際に得られるエネルギーは想像を絶するものだった。その恐るべき力を目の当たりにしたはやてとマリエルは愕然とし、恐怖にも似た感情を抱く。

 一方、ファーブニルは不敵な笑みを浮かべながらザックームが生み出す圧倒的な質力に感嘆とする。

「―――素晴らしい! 嘗て次元世界でここまで高エネルギーの反応が発生した事はなかった。どうですかお二方。ザックームの素晴らしさをご理解してくれましたかな?」

「え、ええ・・・。確かに途轍もない力だと思います。ですが・・・」

「これほど大きな反応では観測も却って難しいのではないでしょうか?」

 純粋にザックームの力を畏怖するはやて。マリエルは科学者の視点からザックームでの粒子観測の難しさを指摘する。

「どうです? このザックームの粒子ビームはどんな熱い鉄板も薄紙のように貫きます。そう・・・たとえ本局の次元航行船とて一溜まりもないでしょうな」

「ファーブニル主任―――」

 何かに憑りつかれた如く人間味の無い表情と淡白な声色。

 二人は次第にこの男と一緒にいる事が怖くなり始め、身の毛がよだつ思いに駆られる。ファーブニルはそんな二人を見つめ、やがて背を向ける。

「お二方、申し訳ありませんがメインコントロールルームへ行かねばならなくなりました。しばらくご自由に見学して下さい。それでは―――」

 不気味な表情を浮かべ、その場を後にする。

 ファーブルニルが立ち去った後、二人は顔を見合わせると、思うところがあるらしく互いに頷き合った。

 

 一人メインコントロールルームへと向かったファーブニルは、白衣の下に忍ばせていた紫紺に輝くエネルギー発光体を握りしめ口元を緩める。

 ピピピ・・・。ファーブニル宛てに映像通信が入った。発信者はジェイル・スカリエッティだった。

『ふふふ。経過は順調のようだね』

「ドクタースカリエッティ! あなたから提供して頂いたアンゴルモアパワーで、ザックームは次元世界最高の力を得ることが出来ました! “幼生虚(ラーバ・ホロウ)プラント”は順調に稼働中です。ザックームの発生するエネルギーを利用して、続々と幼生虚(ラーバ・ホロウ)が作られています」

 そう―――ザックームがこれだけの力を得られたのはスカリエッティが裏で糸を引いていたからだ。スカリエッティは無限のエネルギーを内包した古代遺物(ロストロギア)【アンゴルモア】から得られたエネルギーをコピーし、技術提供する事を条件に、ザックームを巨大な幼生虚(ラーバ・ホロウ)専用の培養プラントへと作り変えたのである。

 純粋に粒子加速エネルギーを探究したいという隙を突かれたファーブニルは、既に精神の大部分を幼生虚(ラーバ・ホロウ)によって乗っ取られていた。現在、施設で秘かに作り出されている大量の幼生虚(ラーバ・ホロウ)のプラントを眺めながら、狂気に満ちた笑みを浮かべる。スカリエッティもそれに便乗し口角を緩める。

『フフフ・・・素晴らしい事ではあるが油断は禁物だ。私の予想ではおそらく、また臭いを嗅ぎつけた機動六課と死神・・・それに例の翡翠の魔導死神とやらが現れるだろう』

「ご安心くださいドクタースカリエッティ。この惑星(ほし)では畑を襲う害虫は必ず駆除されます。このジャハンナムこそ奴らの墓場となるでしょう」

 同じ頃、施設内部を密かに探索していたはやてとマリエル。そこで彼女達は信じられないものを目撃した。

「はやてちゃん!」

「な、なんやこれは・・・・・・!!」

 

           *

 

 ブーッ! ブーッ! ブーッ!

 

 機動六課隊舎全体がその警報音に包まれる。

 急いでメンバーが司令室へ向かうと、メインモニターには以下の様に示されていた。

 

              《EMERGENCY ■ZAFIRA■》

 

「これは・・・ザフィーラからの緊急通信?!」

(あるじ)達に何があったんだろう」

 浮かび上がった文字を見た瞬間、動揺を隠し切れなくなるメンバー。

「みんな落ち着け。一旦冷静になるんだ!」

 クロノは冷静に騒然とするメンバーを一度宥めると、部隊長不在の今、はやての代行として全員に的確な指示を出す。

「こうなる事も薄々予想はしていた。全員身支度を済ませろ。直ちにヴォルフラムでジャハンナムへ向かうぞ」

「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」

「「「「おう(はい)(オッケイ)(おっしゃ)!」」」」

 

 敵の手に落ちたはやて達を救出する為、機動六課前線メンバー総出でヴォルフラムへと乗り込み、第8管理世界「ファストラウム」へと急行する。

「はやての身に何か起きてなきゃいいけど・・・絶対にあたしが助け出して見せるぜ!!」

「ザフィーラからの連絡は?」

「それが・・・あれ以来途切れてしまって」

「おいおい護衛まで捕まっちまったらたまったものじゃないだろう」

「もしそうなったとしたら、敵も相当ヤバイ連中なんだろうな。気をつけねえと俺らもミイラにされちまう」

「はやてちゃん・・・マリーさん・・・無事でいてね」

 一途に二人の安否を気遣い、メンバーを乗せたヴォルフラムは次元の海を越え―――進路を第8管理世界へと定める。

 

           *

 

第8管理世界「ファストラウム」

ファストラウム海上 移動要塞ジャハンナム

 

 前線メンバーがジャハンナムへ到着した時、施設は驚くほどしじまで、人の気配がまるで感じられない。

 ジャハンナムは東西南北に分かれた四つのゲートを設けており、そこから物資や人を運び込んでいる。ヴォルフラム内部で待機していたクロノと吉良、リインが各々の連絡を待っていると、最初にスターズからの報告が入った。

『こちらスターズ・・・ジャハンナム東ゲート前! クロノく・・・ん・・・ザフィーラが・・・』

 電波状態が相当に悪く声は途切れ途切れ。映像も常に乱れるが、なのは達は東ゲート前で満身創痍となって倒れていたザフィーラを発見、保護した事を伝える。

「ご苦労だった。ザフィーラはこちらで回収し手当てをする」

『こちらライトニング・・・ジャハンナム北ゲート前・・・』

 続けてフェイトからの一報が入った。やはり同じく映像は所どころ乱れ、音声も鮮明ではなかった。

『クロノ・・・帯電した空気がイオン化してるみたい。北スロープ一帯、オゾン臭がする・・・!』

「粒子加速用の電磁場が暴走しているんだ。おそらく、突入後は交信が不可能になるだろう。スターズと恋次さん達は予定通り、東と西のゲートより敵の気を引いて欲しい。ライトニングは捕われている人質の救出を最優先に頼む」

『『『了解!』』』

「ではこれより突入開始!! 全員の帰還を信じている」

 

「咆えろ、蛇尾丸!!」

「リボルバー・・・!! ブレイク!!」

「紫電一閃!!」

 閉ざされた地獄へと通じる3つの門が今、開かれた。

 外側から強力な物理エネルギーと魔力エネルギーをぶつけて扉を破壊した3つのチームは北と東、西のゲートから潜入を試みる。

 スクリーンでなのは達の信号を追尾していたクロノだったが、案の定突入と同時に通信不可能となり、彼らの動きが把握できなくなった。

「くっ・・・こんなにも早く通信が切れたか」

「ん? ちょっと待ってくれ・・・・・・あの南側にいるのは誰だ?」

 このとき、吉良がモニターで捕えた不可思議な魔力信号。

 3つしかいない筈の機動六課分隊にもう1つのチーム、あるいは個人単体で乗り込もうとする者が居るとは思えなかった。

 誰もが不思議がる中、南ゲート前に立ったのは神出鬼没の戦士―――翡翠の魔導死神だった。

 堅牢に閉ざされた魔力防壁。これを解除する為、彼は右手を翳すと翡翠色に輝くミッドチルダ式魔法陣を展開する。

「―――(ほど)け」

 たったその一言で発動した錠前を解除する魔法「アンロック」。通常の建物の施設のロッキングユニットには、これらの一般的な解錠魔法に対する厳重な防御がなされており、専門の技術者であっても、アクセスコードがなければその解除には数十分から数時間はかかるのが一般的だ。

 だが、翡翠の魔導死神はこれをわずか数秒、ワンアクションで解錠すると、おもむろに施設の中へと潜入する。

 

           *

 

 東ゲートより潜入を試みたなのは率いるスターズ分隊。

 暗がりに進んでいた折、彼女達を待ち受けていたのは―――地獄の門を守りし怪しげな守り人だった。

「ふふふ・・・おっほほほほ」

 相手を惑わせる幻影の数々。インフューレントスキル【シルバーカーテン】によってなのは達の心を掻き乱すその相手―――機人四天王クアットロは四年前と変わらない独特の甘ったるいしゃべり方で語りかける。

「あら~。侵入者は無粋な白き魔王様とご一行様でしたか」

「てめえは!」

「戦闘機人クアットロ!!」

「どうしてあなたがここに!?」

「うふふふ。あなた方に答える義理はありませんことよ~」

 踊り子の様に舞を舞い、暗闇の中でも縦横無尽に動き回るその姿はまさに地獄の住人であるかのよう。

「だったら力づくでも口を割らせてもらう!」

 一度彼女を力づくで昏倒させた事のあるなのはが愛機を構えると、クアットロは彼女から距離を離す様に暗闇に身を(ひそ)める。

「まぁ~なんて怖い事なんでしょう。でも、所詮管理局のお人形さんにこのわたくしは捕えられませんことよ」

「言わせておけば!」

「さあ御出でなさい。あなた達を待つ地獄へ」

「待ちなさい!」

 優雅に舞を舞いながら施設の奥へと誘うクアットロ。なのは達は導かれるまま、彼女の後を追って行った。

 

 西ゲートにて-――。

 道中で恋次と浦太郎、鬼太郎が遭遇したのは薄紫の長髪をした女性だった。

「ようこそ御出で下さいました」

「なんだお前は?」

 本能的に腰に差した斬魄刀に手を掛ける恋次。目の前の女性、ウーノは薄ら笑みを浮かべながら三人を凝視するのみ。

「気を付けてください恋次さん。あの容姿・・・見覚えあると思ったら、四年前に軌道拘置所から脱走した戦闘機人のナンバーワン、ウーノです」

「あいつが!?」

「おや。死神が私達の事を存じているとは意外でした。ひとまず、遠いところからわざわざこの地へ御足労掛けた事に感謝を致します」

「おめえに感謝される為に来たつもりは無え! んなことより、はやて達は無事なんだろうな!?」

 声高に鬼太郎が問い質すと、ウーノは「その答えは知りたければ、これから私がご案内する場所へ来て頂きます」とだけ返し、更なる闇に向かっておもむろに歩き出す。

「罠か? それとも?」

「どうしますか恋次さん?」

「たとえ罠だとしても、後ろに引き下がるのは俺の趣味じゃねえ。ここは相手の口車に乗ってやろうじゃねえか」

「へっ。上等だぜ!」

 救出を念頭に潜入したからには奥へ進まなければならない。

 危険を顧みず、恋次達はウーノの誘いに乗って施設の最深部を目指し歩を進める。

 

 北ゲートにて-――。

「フェイトさん!」

「あの人・・・・・・」

「見た事の無い戦闘機人・・・・・・」

 ライトニングが遭遇した未知なる戦闘機人。前回の事件では確認されなかった男性の個体。

 圧倒的な虚無感を漂わせながら、ひしひしと肌へ伝わる殺意。言い知れぬ恐怖を抱きながらフェイトは恐る恐る問いかける。

「お前もスカリエッティ一味の仲間か?!」

「如何にも。機人四天王の一人、ファイと覚えていただこう」

 名乗り上げた直後、ファイは有無を言わさずフェイト目掛けて突進。隠し持っていた剣で斬りかかり、彼女は咄嗟にバルディッシュで受け止める。

「「「「テスタロッサ(フェイトさん)!」」」」

 シグナムらの懸念を余所に、ファイトとファイは激しく衝突し合い、熱く火花を散らし合わせる。

「この地は我らの物となった。侵入者は抹殺する」

「それは不可能な事だ!」

 強気な態度を取ってくるファイに苛立ちながら、フェイトは得意の空中戦で戦況を打開しようとする。

 だが彼女の予想に反してファイの機動力は自分以上だった。打破するどころか逆に追い詰められていた。

「どうした金色の魔導師よ! お前の力はそんなものか!?」

 挑発的な言葉でファイはフェイトの心に揺さぶりをかける。

「やはりあの白い魔導師の力を借りなければ何もできないようだな」

「なのはの力を借りなくても貴様一人くらい!」

「ふん。おもしろい」

 心を見透かしたように神経を逆撫でするファイの教唆に惑わされまいと必死で平静を装うとするフェイト。

 だが、ファイはフェイトでも気が付かない間隙を突いてくる。いくら彼女が行動を先読みしても、ファイの読みの速さは一枚も二枚も上手だった。

「ぐあああああああ」

 上手投げを繰り出され、空中数メートルの高さから地面へと叩きつけられる。

 これ以上相手に後れを取る訳にはいかなかった。フェイトは形振り構っていられず、出し惜しみしていた力を一気に解放する事にした。

「真・ソニックフォーム!!」

〈Sonic Form〉

 【インパルスフォーム】と呼ばれる通常時のバリアジャケットの一部が弾け飛び、かなりの軽装へと変化。重量を削れるところまで削り速度を極限までに重視した彼女の切り札が満を持して発動した。

「なに?  ぐおおお」

 防御を完全に捨てて攻撃重視に切り替えたフェイトの機動力はファイを大きく上回っていた。回避したと思った瞬間、ファイの肩は魔力刃による攻撃を受けていた。

「今のはフェイントだ!」

〈Sonic move〉

 ソニックムーブで更に機動力を向上させ、先程までとは比較にならない速度でファイを圧倒。形勢は逆転した。

「は、速い!!」

 縦横無尽に動き回って手持ちのライオットブレードで斬りつける。ファイの体に無数の切り傷が刻まれる。

「やるな魔導師!」

 分が悪いと判断、ファイは戦略的撤退を余儀なくされた。

「待てッ!」

 逃亡するファイを追いかけようとしたが、ここでフェイトの魔力・体力も限界に達した。真・ソニックフォームは絶大な力ではあるが、受ける反動も大きい。地に跪いた彼女の額から並々ならぬ汗が噴き出す。

「フェイトさん!」

「だいじょうぶですか?」

 彼女の身を案じるエリオとキャロ。シグナムとアギトも互いに憂慮の眼差しをフェイトへと向ける。

「は、は、は、は・・・・・・あの機動力・・・・・・たった四年で戦闘機人の能力は格段に上昇していた・・・」

「立てるかテスタロッサ?」

「はい・・・・・・」

 シグナムの手を借り立ち上がると、フェイトは焦燥に満ちた表情で訴える。

「急ごう。恐らくこの中にあの男以外の戦闘機人がいる筈だよ」

「「「「はい(ああ)!」」」」」

 

 他の戦闘機人三体が当初の予定通り機動六課メンバーを誘き出している中、南ゲートを守護していた機人四天王トーレは手持無沙汰な状態だった。

「どうやらクアットロ達がうまくネズミを引き寄せたか。私の出番は無さそうだ」

 そう決め込んだ直後、彼女は奇妙な足音を聞きとった。

 コン・・・。コン・・・。前方から一歩一歩近づいてくる。何がいるのかと思い目を細め、機械化された瞳を拡大すると、闇に紛れた生体反応が確かにあった。

「貴様何者だ?」

 問いかけるも、相手からの返事は無い。

 臨戦態勢に入って仕掛けるタイミングを計っていた次の瞬間―――闇に紛れて黒いガス状の霧がトーレの四方を覆い囲んだ。

「なんだこれは・・・!?」

 著しく変化する事態に理解が追いつかない。

 狼狽する彼女の防御への姿勢が疎そかになった一瞬の隙を突き、前方に潜む敵は無数の刃を飛来させトーレの全身を切り裂いた。

「ぐああああああああああああ」

 

           *

 

ジャハンナム中枢 魔力駆動炉ザックーム メインコントロールルーム

 

 一足先にライトニングがザックーム駆動の制御を司る制御棟へ到着した。

 そこで彼女達が目にしたのは、膨大な粒子加速エネルギーを用いて大量に生産されている幼生虚(ラーバ・ホロウ)プラントと化した制御装置だった。

「なんだこれは!?」

「駆動路の制御装置すべてが乗っ取られてる!」

「フェイトちゃん!」

「無事だったか!?」

 ちょうどスターズと恋次達もライトニングと合流。全員が無事な様子だった。

「なのは! 恋次さん達も!」

「敵を追って来たらここに!」

「と言うより、僕には敵がここへ誘い込んでいた様に思えたけど」

「まさか!!」

「最初からそれが狙いで!?」

 敵の真の狙いが自分達をこの場所へ誘き寄せる事だった事に気付いた頃には時既に遅し―――彼らは敵の手中にあった。

「私のザックームの力を見せてあげましょう」

 この機を待ち望んでいたファーブニルは、身も心も幼生虚(ラーバ・ホロウ)に捧げる事で最強の魔導虚(ホロウロギア)へ進化を遂げようとしていた。

 幼生虚(ラーバ・ホロウ)は魔導師ランク「条件付きAAA+」でもあるファーブニルの魂魄と完全に一体化する事で肉体そのものを再構築、新たな姿へと変化させる。

「見ろっ!!」

「あれは・・・・・・!」

 なのは達の前に現れた常識外れに巨大な魔導虚(ホロウロギア)・ミドガルズオルム。

 最早仮面がどこにあるのかすら分からないが、タワー型の本体には申し分ない巨大な孔が空いていた。

 

 一方、ファーブニルの仕掛けた罠に掛かったはやてとマリエルは、捕らわれの研究員とともに今もなお蔓に絡まれ身動き一つ取れない状態だった。

「外では一体何が起こってるの!?」

「こんな時に魔法が使えないなんて・・・・・・」

 魔力を完全に封じ込める力が作用し、はやては魔法による脱出が出来ず歯がゆい思いに駆られるばかりだった。

 

 魔導虚(ホロウロギア)ミドガルズオルムと対峙した機動六課前線メンバーは、前方に聳える巨大な敵を前に臨戦態勢となる。

「へっ。デカけりゃ勝てると思ったら大間違いだぜ!」

「みんな、ここは力を合わせてアイツを倒そう」

「「「「「はい!」」」」」

 だがしかし、ミドガルズオルムは伊達に巨大と言う訳ではなかった。

 タワー中心部に描かれたモノアイが微かに動いた瞬間、周囲一帯に紫紺に輝く粒子が降り注いだ。

「ぐ・・・ぐあああああああ」

「な、なんだこの感覚は!?」

 粒子が降り注いだ途端、悉く戦意を失い次々と跪く機動六課前線メンバー。

 なのは達ばかりではない。恋次や浦太郎、鬼太郎までもが胸を押さえて激しい息切れと動悸を繰り返し、満足に戦える状態ではなくなった。

 この様子を機人四天王クアットロ、ファイ、ウーノは三人揃って別所で観察しており、苦しみ喘ぐ彼らを見ながら自然と口角を釣り上げる。

「ふふふ・・・良い様ですこと」

「奴らを倒し、この移動要塞で大量の幼生虚(ラーバ・ホロウ)を培養する」

「流石ドクターの作戦は完璧だわ」

 最早自分達の勝利は疑いも無い―――そう思っていた矢先。

「安心するのはまだ・・・・・・早い・・・・・・!」

 南ゲートで謎の敵と戦っていたトーレが漸く帰還したと思えば、体は酷く傷つき、息も絶え絶えになっていた。

「と、トーレ姉様?!」

「どうしたのその傷は?」

「奴が勘付いたのだ・・・・・・我々にとっての最大の難敵がな・・・・・・!」

 

 未だ身動き取れずにいたはやて達。

 もうどうする事も出来ないのかと一瞬諦め欠けた、そのとき―――何処からともなく飛んできた翡翠に輝く斬撃が二人を狙ってきた。

「きゃ!?」

「何やっ!!」

 死の恐怖に顔を歪ませる二人。

 直後、飛来した斬撃は二人ではなく体に巻き付いていた蔓のみを切り裂いた。

 数時間振りに身動きが取れるようになった二人が前方を見ると、暗い部屋の中で佇む一人の仮面を付けたフード付き外套を纏いし者が佇んでおり、手には自分達を助けた際に使用したとされる刀が握り締められていた。

「あ、あなたは!」

「翡翠の魔導死神さん!」

 見間違いなどではなかった。紛う事無き本物の翡翠の魔導死神が目の前に立っていた。

「救出が遅れてすまなかった。脱出のチャンスは敵の注意を前線メンバーが引きつけてる今しかない」

「せやけどみんなを放って逃げる訳には!」

「彼女達なら心配いらない。僕がまとめて救い出す」

 冷静ながら熱い思いの籠った一言を口にした直後、翡翠の魔導死神ははやて達を残してなのは達の救出へと向った。

 

「ぐあああああああああああ」

 降り注ぐ正体不明の粒子。

 その粒子を浴びれば浴びる程になのは達の生命エネルギーは低下し続け、意識は朦朧とし始める。

「ダメだ・・・・・・魄動(はくどう)が・・・・・・どんどん低下しやがる・・・・・・」

「こ、これ以上・・・・・・この攻撃を浴び続けたら・・・・・・確実に死んじゃいます・・・・・・」

「そんな・・・・・・やだよ・・・・・・」

 間近に迫った死に恐怖を感じるのは生物として当然の心理だ。

 何とか死を逃れようと思考を張り巡らせるが、その思考すらも及ばない程に低下し続ける生命力。

(死ぬには・・・・・・まだ思い残してる事がたくさんあるのに・・・・・・ヴィヴィオ・・・・・・ユーノ君・・・・・・わたしは・・・・・・)

 地に伏したなのはは頭に靄がかかる中、死ぬまでにやり残している事を脳裏に思い浮かべながら双眸に涙を溜める。

 

           *

 

 翡翠の魔導死神によって解放されたはやて達は機人四天王の手によって捕らわれていたすべての人質を救出。無事施設からの脱出を果たした。

「みんなー! 心配かけてごめんなさーい!」

 脱出した時は既に暮れなずんでおり、現場上空を浮遊していたヴォルフラムに向かってマリエルは研究員らとともに手を振って無事をアピールした。

「はやてちゃん! マリーさん!」

「無事だったか」

 要救護者の姿を視認したクロノ達も安堵し胸を撫で下ろす。

 

(ホロウ)化実験素体用に確保した筈の人間を逃がすとは!」

 まんまと翡翠の魔導死神にしてやられた事に切歯扼腕(せっしやくわん)するウーノ。

「あの高濃度のレギオンの中で自由に動き回れる生物などあり得ない」

 なのは達がそうであるように、生物には極めて有害なレギオンが降り注ぐフィールド内で自由な活動は不可能と断言するファイ。

「どうせみんなまとめてお陀仏ですわ~」

 甘ったるくも冷淡な言葉を吐き捨てるクアットロ。

「あれは管理局の魔導師とも死神とも違う。我々の常識の及ばないバケモノだ!」

 この中で唯一翡翠の魔導死神の怖さをその身に味わったトーレが警鐘を鳴らす。

 

「―――輝け、晩翠!」

 ミドガルズオルムへと放たされる高密度に圧縮された霊気の刃。

 タワー型の為、自由な動きに制約がかかったミドガルズオルムではその攻撃を避ける事など不可能。大威力の斬撃を真面に食らった。

『ぐああああああ』

 思わぬ襲撃という全く計算外の事態に直面する。攻撃を受けた事で、ミドガルズオルムからレギオンの放出が止まり、その影響下にあったなのは達は体の自由を取り戻す事が出来た。

「は、は、は、は、身体が・・・・・・楽になった」

「どうなっているの?」

 不思議がる六課メンバーだったが、直後目の前に現れた助っ人―――翡翠の魔導死神を目の当たりにする。

「おまえは・・・・・・!」

「翡翠の魔導死神・・・さん?!」

「みんな、この施設で捕われていた人々は全員脱出したよ」

「助かったぜ・・・・・・ありがとよ」

 

『おのれえええええ』

 激昂したミドガルズオルムはザックームのエネルギーを取り込み自身の霊圧と魔力エネルギーを飛躍的に高める。

「な、なに!?」

 激しく轟き揺れる地面。

 ミドガルズオルムはザックームの高質力を利用した陽子および反陽子ビーム端子を取り込み、その先端をドラゴンの頭部を彷彿とさせるキャノン砲へと変形させた。

「あいつ・・・ザックームを体の一部にしやがって!!」

「今攻撃されたら私たちは!」

 レギオン粒子の影響で生命エネルギーの多くを消費し、体内のマギオンが著しく枯渇した事で魔法の満足な使用が出来ない状況を危惧する六課メンバー。

 刹那、陽子ビーム端子が変形したドラゴンキャノン砲が眼前のスターズ目掛け高質力のビーム砲を発射した。

「・・・・・・縛道の八十一、『断空(だんくう)』」

 咄嗟に翡翠の魔導死神が前に飛び出し、飛んできたビーム砲を鬼道による特殊な防壁でもって防ぎ、なのは達の窮地を救う。

 その後もミドガルズオルムは元来が持つ雷の魔力変換資質で周囲に強力な電磁波を放出させながら、二つのドラゴンキャノン砲による攻撃を続行する。

 だが、翡翠の魔導死神は向けられる攻撃の悉くを巧みな魔法操作術と優れた身体能力、申し分ない攻撃力を誇る斬魄刀を使い分ける事でいなしていく。

()()()も大概にしてほしいものだよ」

 瞬歩の移動速度を高め、一気にミドガルズオルムの本体へと突進。

 なのは達が固唾を飲んで見守る中―――翡翠の魔導死神は刀身に極限にまで研ぎ澄ませた霊圧と魔力を一気に解放する。

 

「―――月光一閃(げっこういっせん)

 

 瞬間、剣先から巨大な一撃が放出された。

 ミドガルズオルムの頭上より降り注ぐ半月を思わせる翡翠の刃は敵の悲鳴を掻き消す程の大威力を誇り、ドラゴンキャノン砲も竜の(いなな)きを彷彿とさせる声を発するかの如くバラバラに破壊された。

 さらに、翡翠の魔導死神はザックームのエネルギーを利用して作られていた幼生虚(ラーバ・ホロウ)プラントを全てひとつ残らず破壊。

 これによって当初スカリエッティと機人四天王が目論んだ計画はおじゃん―――全てが御和算となった。

「何という事を・・・・・・我々の苦労が全て水の泡!」

「あ~~~ん!! 大事な大事な幼生虚(ラーバ・ホロウ)プラントがぁ~~~!!」

「翡翠の魔導死神、この借りはいつか必ず返す」

 今回は失敗に終わったが、次こそは必ず成功させて見せる―――そう心に近い、機人四天王は須らくこの地を去った。

 

           *

 

 魔導虚(ホロウロギア)化したファーブニルは無事に解放された。

 ジャハンナムから脱出した機動六課メンバーと翡翠の魔導死神は互いを見合う。

 日もすっかり暮れ、夜空に煌々と映える満月が浮かぶ中、翡翠の魔導死神は彼女達の無事を確認すると、早々に目の前から立ち去ろうとする。

「本当に行ってしまうんですか? まだ話したい事がぎょうさんあるのに」

 名残惜しく留まってくれと暗に主張するはやて。周りからもまだ行って欲しくないという視線を向けられるが、彼の意思は固かった。

「・・・・・・言った筈だよ。こちらにも事情があるんだ。僕には僕のやるべき事がたくさんある。またいつかそう遠くない未来に会う時が来るよ」

「翡翠の魔導死神さん・・・・・・わかりました。ほんなら、お気をつけて!」

 六課メンバー一同が感謝の意を込め、翡翠の魔導死神へと敬礼。

 正体を知る恋次は敬礼こそしなかったものの、朗らかに笑い表情越しに「あいつらにバレねーよにな」と訴える。

「翡翠の魔導死神よ。機会があれば、是非とも私と一戦交えてもらえるか?」

「シグナム・・・お前な・・・」

 強者を前にした際のシグナムの熱く燃える闘争心。居合わせた全員が一様に呆れた様子で肩をすぼめる。

「そうですね。機会があれば是非―――」

 社交辞令とも取れる言い方でそう口にした直後、翡翠の魔導死神は瞬歩を用いて颯爽と夜の世界へと消えて行った。

「翡翠の魔導死神・・・ほんまあれは風のように現れて、風のように去って行ってしもうた・・・」

「でもお陰で、私たちは窮地を脱する事が出来た」

「確かにアイツには感謝してもし切れねえわな」

「うん・・・。」

 ―――ありがとうございます、翡翠の魔導死神さん。

 ―――次に会えた時は、ユーノ君の事を聞かせて下さい。

 胸中でそんな願いを抱くと、なのはは翡翠の魔導死神とユーノの面影は無意識のうちに重ね合わせ、肌身離さず持ち歩いていたペンダントを強く握りしめる。

 

           *

 

第97管理外世界「地球」

空座町 南川瀬 クロサキ医院

 

 自らを偽り、仮面を被り【翡翠の魔導死神】としてなのは達の窮地を救ったユーノ。ジャハンナムから帰還すると、報告も兼ねて師である一護の自宅へと足を運んだ。

「しっかし一人でよくやるぜ。少しは俺を頼ってもいいだろうに」

「すみません。あの大量のレギオン粒子の中では生物は真面に行動が出来ません。レギオンは言わば現代の『瘴気(しょうき)』です。だからこそ―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()僕の能力じゃなければ駄目だったんです」

「ま。別に心配はしてねえけどさ・・・一人で何でも抱え込むバカ弟子を持つ師匠の気苦労もちったぁー分かってもらいたいもんだぜ」

「胸に刺さります・・・。」

 ユーノとしても出来る事なら一護を巻き込みたくは無かった。

 だが、自分一人で抱え込む事で一護に余計な心配をかけてしまっている事。何より人の力を頼らない姿勢が彼を余計に傷つけているという自覚はあった。

 罰が悪いユーノはあまり師の意向を無視した出過ぎた真似は良くないと思いつつ、織姫が淹れた紅茶をゆっくりと啜る。

「それにしても、魔導虚(ホロウロギア)の培養プラントを作るなんて・・・・・・敵の作戦も徐々に巧妙さを増していきますね」

「けどよ、魔導虚(ホロウロギア)はなんでそのレギオンっていうのを出してやがるんだ?」

 コンが怪訝そうに尋ねる。

 ユーノはカップをコースタへ置き、真剣な表情で三人へと語った。

「確かな事が一つあります。レギオンが地上に蔓延したら、地上生命は一匹残らず(ホロウ)または魔導虚(ホロウロギア)になってしまうんです」

「「「・・・え・・・・・・!?」」」

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:都築真紀 作画:緋賀ゆかり『魔法戦記リリカルなのはForce 1巻』 (角川書店・2010)

 

用語解説

※1 重原子=酸素、窒素、硫黄などの炭素より質量数が大きなもの

※2 量子コンピューター=量子力学的な重ね合わせを用いて並列性を実現するとされるコンピューター

※3 アイソトープ=同位体の意。陽子数が同じで中性子数の異なる物質を指す

 

 

 

 

 

 

教えて、ユーノ先生!

 

ユ「スクライア商店の従業員紹介第三回目♪ 今日は桃谷鬼太郎について」

「鬼太郎は浦太郎とは同い年で、誕生日が早いから浦太郎からは『先輩』とは呼ばれているけど、実際に浦太郎が鬼太郎を敬う気持ちは皆無に近い」

「金太郎と浦太郎とは違って鬼太郎は純粋な死神。ただ、どのような経緯で死神の力を手に入れたかは本人も良く分かっていないんだ」

「ちなみにあんなバリバリのヤンキーなキャラで通してるけど、ああ見えて大の風呂好きだったり、おやつはプリンが死ぬほど好きだったりと、どこか子供っぽくで憎めないかわいらしさもあったりする」

鬼「うわああああああああああ!!!! 俺の・・・俺のプリンがなぁ―――い!!!」

 おやつに取っていたはずのプリンが無くなっている事に気付いた鬼太郎。

 この世の終わりかと言う叫びを上げると、ユーノへと詰め寄りプリンの在り処を泣きながら問い質す。

鬼「店長ッ!!! 俺のプリンどこにいったか知らないっすか!?」

ユ「え!? いや・・・そもそもどうして僕が鬼太郎のプリンを在り処を知ってると思ったの?」

鬼「あのプリンはそこらで売ってるような安っすいプリントは訳が違うんすよ!! 一個500円もする超高級プリンで寝る前に食べようとずっと楽しみに取ってたんすよ!!」

ユ「そ、そうなんだ・・・それは残念だったね」

 哀れがりながら、ユーノがその背中に隠しているのは誤って食べてしまった鬼太郎のプリンのカップ。

ユ(言えない・・・・・・実は食べちゃいましただなんて・・・・・・ぜったい言えないよな・・・・・・)

 

 

 

魔導師図鑑ハイパー!

 

 翡翠の魔導死神との邂逅を初めて果たしたスバル達フォワード陣は、ふとある話題で盛り上がった。

ス「ねー。翡翠の魔導死神さんってどんな顔してるのかな?」

キャ「そう言えばフードと仮面被ってて素顔はわかりませんでしたもんね」

 顔が見えないからこそ膨らむ様々な妄想、もとい想像。彼女達が想像した翡翠の魔導死神の素顔とは・・・

ス「やっぱアレじゃないかな! 二枚目の音楽家っぽい顔だよ!!」

ティ「私はもっと渋い感じのおじさんキャラじゃないかと思うわねー」

エ「僕は戦闘経験豊富な軍隊肌の男性だと思いますね。額に傷とかありそうです」

キャ「私は逆に女の人で、ちょっとサバサバした感じかもしれません」

ギ「みんなー、もっと想像力を広げてみてここは敢えて人間じゃないって選択肢はどうかしら?」

ス「あ! それちょっとおもしろいかも!」

 人間じゃないという選択肢を広げようとするギンガにスバルが一定の共感を示し、他のメンバーも次々と自身の想像を言い合う。

 この様子を傍で眺めていた浦太郎と鬼太郎はどこか複雑な気持ちだった。

浦(店長・・・・・・これ聞いたらなんて思うかな?)

鬼(つーか人間じゃねえ選択肢まで入れてくるなんて・・・・・・あいつらの中の翡翠の魔導死神ってつくづく何なんだよ?)

 果たして、翡翠の魔導死神の正体を知った彼女達がどんな反応を示すのか―――是非とも見物である。




次回予告

フェ「突如と現れた謎の巨大魔導虚(ホロウロギア)。大きさもさること、私たちのどんな攻撃も全く効かないなんて・・・!」
な「だいじょうぶだよ。きっと全員の力を合わせれば何とかなるよ!」
恋「次回、ユーノ・スクライア外伝・・・『Power to Protect』。つーかここの連中ときたら揃いも揃って脳筋ばっかじゃねえか!!」
ユ「恋次さんだって人のこと言えないでしょう」






登場人物
ファーブニル・グレイブ
声:佐藤拓也
31歳。第8管理世界「ファストラウム」を拠点とする移動エネルギー基地要塞・ジャハンナムに建造された巨大次元航行エネルギー魔力加速器駆動未臨界炉ザックームの研究所長で魔導工学者。魔導師としても優秀で、魔導師ランクが「条件付きAAA+」で保有している。自身の探究心を突かれ魔導虚化したが、翡翠の魔導死神との戦いによって心身共々浄化され、元の姿へと戻った。
名前の由来は、北欧神話及びドイツ北部のゲルマン神話等に登場する架空の生物「ファフニール」から。






登場魔導虚
ミドガルズオルム
声:佐藤拓也
新型魔力駆動炉ザックームの運用責任者であるファーブニル・グレイブが幼生虚と融合して誕生した魔導虚。
タワー型の本体に粒子加速用ケーブルを取り込んで変形したドラゴンのようなキャノン砲を持ち、強力なEMPと加速ビーム砲を武器とする。さらにザックームが生み出すその絶大なエネルギーにより、同時に幼生虚プラントの生成も行っていた。
機人四天王によって誘き寄せられた機動六課メンバーを体内から放出する高濃度のレギオンによって活動不能状態に陥らせ、あわよくば魔導虚化を目論むが、駆けつけた翡翠の魔導死神による妨害を受け、最期は月光一閃の一太刀を受けて倒された。
名前の由来は、北欧神話に登場する毒蛇「ヨルムンガンド」の別呼称から。
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