新暦079年5月23日
第3管理世界「ヴァイゼン」
カレドヴルフ・テクニクス本社開発センター
「実験準備完了。浦太郎、いつでもOKだ」
『了解。実験はじめます』
固唾を飲んで見守るCW社・第1魔導機器開発部門下の研究員。
今日は汎用性飛行魔法の最終実験が行われるとなって、現場の空気は一段と緊張感が増していた。
開発者であるユーノや現場主任のウシヤマも刮目する中、浦太郎は愛機フィッシャーマンに組み込まれた汎用性飛行魔法を起動させた。
〈Flighting〉
フィッシャーマンの電子音声が発せられた直後、防護服に身を包んだ浦太郎の足場がゆっくりと浮かび上がる。一定の速度を保ちつつ、重力に反する力が垂直方向へ働き高度を増していく。
「飛翔を確認!」
「反動による床面、設置圧による上昇観測されませんでした」
「上層加速度の誤差は許容範囲内」
「フィッシャーマンの動作は安定しています」
「上方への加速度減少ゼロ。等速で上昇中。上層加速度マイナスにシフト。上昇速度ゼロ。停止を確認」
飛翔した浦太郎の目とユーノの目がピタリと同じ位置に合わさった。
「水平方向への加速を検知しました」
「続けろ」
ウシヤマの言葉を受け、テスターを務める浦太郎は慣れない飛行魔法に緊張しながらも水平方向への移動を実施する。
「加速停止! 毎秒1メートルで水平移動中!」
ここへ来るまでに幾度となく繰り返されてきた多くの実験とそこから得られた膨大なデータ。細かな改良を加えた結果、浦太郎は99.9パーセント完成された飛行魔法の性能をいかんなく発揮させる事が出来た。
『テスター1から観測室へ・・・僕は今空中を歩いてる・・・いや、空を飛んでる! 僕は・・・・・・自由だ!!』
今までに味わった事の無い高揚感に声が弾む浦太郎。
その言葉を聞いた第一開発部の職員は、待ちわびた瞬間に歓喜の声をあげた。
「やったぞー!! ついに新世代・汎用型飛行魔法の完成だ!!」
持ち込んだクラッカーを次々と鳴らし、近くの相手と厚く抱き合う研究員。
ウシヤマも隣に立つユーノと面と向き合い、新魔法の完成を祝して固い握手を交わし合った。
「おめでとうございます。プロフェッサーユーノ!」
「ありがとうございます」
最終実験終了後、ユーノはテスターを務めた浦太郎の労をねぎらい、率直な感想を問うてみた。
「どうだ浦太郎。魔法の連続処理が負担にならなかったかい?」
「大丈夫です。頭痛も倦怠感もありません」
「ウシヤマさんがデバイスのマギオン自動スキームの効率化を図ってくれたおかげで、極めて完成度の高いものに仕上がりました」
「なーに、俺がやったことなんて微々たるもんですよ。汎用型の飛行魔法を作るなんて過去誰にも出来なかったことをやってのけたのはあんただ。もっと自信を持ってください―――あんたこそ現代魔法の革命児『アニュラス・ジェイド』その人なんだから!!」
「恐縮です―――」
差し当たっての用事を終えたユーノは、浦太郎とともに帰りの廊下を歩きながら談話を交わし合う。
「オフシフトなのに無理に付き合わせて悪いね」
「いえ。ちょうどフィッシャーマンのメンテの時期だったし、僕もおもしろい経験ができました。で、本格的な導入はいつ頃になりますか?」
「管理局との最終調整が済み次第だからな・・・最短だったら今年の9月か、10月ってところかな。何にせよ、近いうちなのは間違いない」
「これで空戦魔導師になるための評価基準も多少は優しくなりそうですね」
「実際どれくらいハードルが下がるかは正直わからないけど」
と、そのとき。ふと思い出した様子で浦太郎はある事について、ユーノへおもむろに尋ねた。
「そう言えば・・・・・・前に話してた、例の“LEツール”とやらの完成は、いつ頃になるんですか?」
「開発そのものは既に終了している。だけど、現段階では質力調整が難しくてね・・・・・・並みの魔導師はもちろん、死神ですらその有り余る力ゆえに肉体への反動は大きい。本当ならあんなものを使わずにいきたいところだけど、そうも言ってられない状況だ。僕としては一生使わない事を祈ってるよ」
「もし使用する日が来たら?」
「そのときは・・・・・・―――どうなるかは想像に難くない筈だ」
いつも以上に眉間の皺を深く寄せ、Xデーの到来を心底忌避しているユーノの横顔を一瞥。浦太郎は彼が抱える複雑な心境を察し、やや顔を伏せて呟いた。
「やれやれ・・・・・・難儀な話ですね」
*
第1管理世界「ミッドチルダ」
ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画
機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 隊員オフィス
「ない! ない! ないないない! ないッ―――!!!」
ありったけの声を出して叫ぶ阿散井恋次。
「あーやべーやべー!! マジでやべーぞこれは!?」
宛がわれたデスクの周りは食べ欠けの菓子や飲みかけのお茶、
「あれ? 阿散井くん・・・どうしたの?」
「騒々しいぞ。一体何が無いというのだ?」
騒ぎを聞きつけた吉良やシグナムらが近くまで歩み寄って来た。
「俺の蛇尾丸がどこにもねーんだよ! ちょっと目を離した隙に無くなっちまった!」
「え!? まさか斬魄刀を無くしたのか?」
「へっ。情けねえヤローだ! 斬魄刀の管理も碌に出来ねえ奴がよく隊長なんざ名乗れるもんだぜ。護廷十三隊の名が泣くな」
「鬼太郎に言われるのはすげー癪だが、ぐうの音も出ねえ・・・!!」
いつもなら噛み付いているところだが、斬魄刀を紛失したのは疑いようのない事実。
恋次は悔しい気持ちを抱きながら血眼になって消えた愛刀を捜索する。が、やはりいくら探しても見つからない。
見かねた吉良は恋次の管理不行き届きと思いつつも、あまりに不憫と思い捜索に協力する事にした。
「阿散井くん・・・僕も探すの手伝うよ」
「すまねー吉良! ぜったいどっかにあるはずなんだ!」
吉良にも手伝ってもらい、二人掛かりで蛇尾丸の行方を追う。
「何を必死に探してるんですか?」
すると、今度はスバル達が通りかかり怪訝にデスク周辺を動き回る恋次達の行動を不思議がった。
「ちょうど良かった! スバル達も手伝ってくれ。俺の蛇尾丸が行方不明なんだ!」
「蛇尾丸って・・・恋次さんの刀ですよね?」
「それならさっきシャーリーさんとマリーさんが持っていきましたけど」
「な・・・・・なんだとぉぉ!?」
意外な犯人の正体を知った瞬間、恋次は驚愕とともに強い憤りを露わに怒号を発した。
*
同隊舎内 デバイスルーム
「「ごめんなさいッ!」」
秘かにシャリオとマリエルによって持ち出された蛇尾丸は無事恋次の手元へと戻った。
恋次は鉄拳制裁を加えた二人を目の前で土下座させるも、その怒りは未だ収まらず、終始不機嫌そうに眉間の皺を寄せていた。
「ったくよ・・・何考えてんだ! 人の
「だって・・・正直気になってたんですよ。死神の斬魄刀がどういう構造をしているのかって・・・・・・」
「それでつい出来心で持ち出しちゃいまして。解析機に掛けてみたんですけど、全部エラーになってしまって・・・・・・結局何もわかりませんでした♪」
「わかってたまるか! 人の商売道具に二度と手を出すじぇねー!」
「みんなのデバイス調整の際にどさくさに紛れて持ち出すとは、君らも相当に狡猾というか策士だよね」
グサッと胸に突き刺さる吉良の言葉に軽いショックを受ける二人。
しかし、言われっぱなしはおもしろくない。そこでシャリオは斬魄刀を取り戻した恋次を指差しながら強く反論する。
「で、でも恋次さんだって正直不用心ですよ。いつでも盗んで下さいと言わんばかりにガーガーといびき欠いて寝てたじゃないですか!」
「な・・・何言ってやがんだ!? 俺がいつ職務中に居眠りなんか・・・!!」
あからさまに挙動不審となる恋次。吉良はやや冷めた目で垂涎した痕がくっきりと残る恋次の死覇装を凝視する。
同僚からの冷たい視線に気付くや、咄嗟に恋次は涼しい顔を作って口笛を吹き、自らの職務怠慢を誤魔化した。
「そう言えば素朴な疑問なんですけど、死神の斬魄刀ってどうやって手入れしているんですか?」
ふと、マリエルが今回の一件が切っ掛けで気になった斬魄刀に関する疑問をおもむろに投げかけた。
「どうって・・・普通に自分で手入れするしかねーだろ」
「そうなんですか?」
「
「へぇー。いろいろと不思議な刀ですよねー」
「俺から言わせりゃ魔導師のデバイスの方がわけわかんねーよ。聞いた話じゃ、ここの連中のデバイス全部お前ら二人がかりで調整してるんだってな」
「はい。隊長陣のは主にマリーさんが。スバル達フォワード陣は私が見ています。唯一浦太郎さんのだけ見れないのが残念でなりません」
「私も正直気になるんだよねー。アニュラス・ジェイドがイチからチューンナップしたっていうジェイド・ロッドの非売品モデル~。どんな構造になってるのか分解してみたいわ~~~!!」
「ジェイド・ロッド!! メカニックの憧れですよ~~~!!」
シャリオと言いマリエルと言い、二人はデバイスマスターやメカニックとしては申し分なく優秀だ。ただ優秀ゆえに他人と感覚がずれている節があり、マニアゆえの偏った思考も兼ね揃えていた。
恋次と吉良はメカオタクである二人との温度差を顕著に感じ、やや引き気味に二人から一歩距離を置いた。
と、ここで先程とは逆に恋次がデバイスに関するちょっとした疑問をシャリオ達へぶつけてみた。
「なあ・・・魔導師とか騎士とかでデバイス使わない奴とかいねえのか?」
「最近は殆どデバイス持ちが主流ですからね。いたとしてもごく僅かでしょうね。そうだな~・・・『結界魔導師』とかはその典型かと」
「なんで必要ないんだよ?」
「結界魔導師というカテゴリ自体が稀有でして、その特徴は高い演算能力です。デバイスとは本来術者の演算能力を補助するための装置なんです。結界魔導師は単独での結界・補助・転送・捕縛系統など多くの魔法を高スペックで使用できるんです。そうなると必然的にデバイスを持つ必要性があまりないんですが・・・・・・最近はそんな人も滅多に見かけなくなりましたねー。あ、でも・・・ユーノ君ならこれに当てはまるかしら?」
「そうなんですか?」
ユーノの名が出た後、吉良がさり気無く話を掘り下げるようマリエルを誘導した。
「彼は昔から只者じゃなかったですね。たった9歳の子供がデバイスマスターの資格を持ってるだなんて正直驚きました」
「え!? それ本当ですか?」
「凄いことなのか?」怪訝する恋次が一驚するシャリオに問いかける。
「私だってデバイスマスターの資格を得たのは12歳の時なんです。本業が考古学者である人が全く異なる専門分野の知識を有しているだけでもスゴイのに、それをたった9歳の子がデバイスに関する専門資格を持ってるなんて普通は考えないですよ」
考古学とデバイスなどに関するメカニック技術は、言って見れば正反対のベクトルに位置するジャンルだ。どちらも一朝一夕では身につかない専門的な知識を必要としており、複数の異なる分野に熟達する事の難しさを暗に物語る。
そんな折、マリエルは室内に自分達だけしかいない事を確認してから、今まで積極的に話そうとはしなかったある話を持ち出した。
「これはオフレコにはなるんだけどね・・・八神司令の融合騎《リインフォースⅡ》の制作を請け負って、完成までに至った期間がおよそ2年弱。本来ならば、
「100年って・・・!?」
「気の遠くなるような話だね」
シャリオも吉良も覚えず一驚を喫する話だった。
「それを根本的に覆したのがユーノ君だったわ。彼が無限書庫から発掘してきたのは、当時の古代ベルカの記憶に埋もれていた融合騎の制作過程を表した高度な概念図だった。私たち第四技術部は当初、もたらされた情報の意味を何ひとつ理解出来なかったの。するとユーノ君は申し訳なさそうな顔で『じゃあ、もっと分かり易く書き直してきます』・・・そう言って、翌日分かり易く書き直した資料を持ってきた。そこには私たちに決定的に足りない知識が全て網羅されていた。そして、遅ればせながら気付いてしまったの。今、自分が手にしているユーノ君からの宿題こそ、まだこちらで草案すらもできていなかったはずの
「まじかよ・・・・・・。」
「最新技術の更なる先、次世代技術よりさらに進んだ未来の技術を、たった9歳の少年が選りすぐりの科学者たちの前で解説したという事ですか?」
聞かされた衝撃の内容に恋次は身震い。シャリオは驚きを通り越して、恐怖すら感じられるユーノの信じ難い話の真偽の程を確かめる。
全て事実だと伝え、マリエルは自嘲した笑みを浮かべながら語り出す。
「なかなかに非現実的な話でしょ。科学者の大人が揃いも揃って考古学者の少年から説法を受けたのよ。あんな恥辱は初めてだったわ」
「・・・・・・改めて聞きますが、すごい人なんですね」
分かっていた事だが、一護や浦原に準ずる・・・あるいはそれを凌駕しているかもしれないユーノを吉良は改めて評価した。これにはマリエルも強く同意した。
「彼は間違いなくなのはちゃん達同様の“天才”・・・・・・いえ、見方によってはそれ以上の“怪物”なんです」
*
一時の喧騒から解放された平穏な世界・ミッドチルダ。
機人四天王ファイは乾いた笑みを浮かべながら、偽りの平和を享受する世界と人間達を遥か上空より見下ろした。
「・・・
言うと、おもむろに取り出したのは瓶の口金を思わせる王冠のような
「地獄を愉しむがいい」
それがスタートの合図だった。
バキンッ―――。手の中で砕かれ万遍なく散布された撒き餌は青空を覆う。やがて、それに導かれた悪しき魂が次々と亜空間より出現。
作戦が実行に移された瞬間、残りの機人四天王も静かに様子を伺っていた。
「始まったわね」
「あぁ。今まさに賽は投げられた」
「プロジェクト・コンキスタドールの始まりですわ~♪」
*
午後2時30分―――
ミッドチルダ市内 A101地区
学校帰り。談笑交じりにヴィヴィオ達はいつものように練習場へと向かっていた。
「もうすぐ中間テストだけど、ヴィヴィオはだいじょうぶ?」
「ん~・・・ちょっと自信ないなー。コロナはバッチリだもんね!」
「そんなことないよ。最近は結構遊びすぎちゃったから、そろそろ本気で勉強しないと」
「あ~ぁ、いいよなー学年トップ20に入る秀才共は。オレらなんか50位以内にすら入ったことねーんだぜ」
「
「るっせー! ミツオのくせに生意気だぞー!」
「うわぁぁ!!! ば、バウラ!! 暴力反対っ!!」
些細な事に上げ足を取ったミツオにバウラが割と本気の怒りを露わにする。無抵抗のミツオへ理不尽な暴力を振るう。
「ちょ・・・よしなよバウラ!」
「バウラさん、どうか落ち着いてください」
いつもながら頭に血が上りやすいバウラと、無意識に恨みを買い易いミツオの軽薄な言動を宥めようとするヴィヴィオ達。
「あれ?」
すると、リオが不意に空を見上げながら訝しげに声を発した。
「リオ、どうかしたの?」
「ねえ・・・あの空、なんだか変じゃない」
周りに言いながら、リオが空の上を見上げると、かつて拝んだ事のない異様な光景が目に映った。
生まれてこの方、リオは空が歪んだ様を見た事が無かった。あまつさえ空がひび割れて一カ所に縮むように集まっているなど思いもしなかった。
*
同時刻―――
機動六課 ミッドチルダ地上隊舎
「「「!」」」
死神はこの異変を逸早く察知した。
霊圧知覚能力の高い隊長格である恋次と吉良、ついでに鬼太郎も街で起こっている異常事態を感知し、吃驚した表情を浮かべる。
「この霊圧・・・」
「まさかな」
「いや。いくらなんでもこんな短時間で・・・」
ブーッ! ブーッ! ブーッ!
そう思っていた矢先、緊急事態である事を皆に告げるけたたましいアラート音が隊舎中に鳴り響いた。
今の仕事を中断させ、前線メンバーが司令室へ向かうと、シャリオ達がコンソールを操作しながらメンバー全員へ報告する。
「レギオンセンターで調べたところ、ミッド全域の43パーセントの区画から非物質粒子レギオンの反応が検出されています!」
「なんだと?」
「ってことはつまり・・・・・・」
ピピ―――ッ。ピピピッ。ピピピピッ。ピピピピピッ。
街に異変が起こった直後、恋次達が所持する伝令神機からも
だが、計器が示す反応は明らかに普通ではなかった。恋次と吉良は双方目を見開き、些か信じ難い事実に唖然とした。
「・・・・・・な・・・・・・何だこりゃ・・・・・・!?」
「どうしたんですか?」
「
余程の事が無い限り短時間に
しかし、伝令神機は毎秒その数を爆発的に増やし続ける
「おい、外を見てみやがれ!!」
強烈な悪寒を抱いていた折、鬼太郎が隊舎の外で異変の前兆とも言うべき光景を目撃。皆にそれを報せた。
慌てて外を覗いてみた六課メンバー。ミッドチルダの遥か上空―――黒ずんで重く歪んだ空が忽然と姿を現したのだった。
「何だよアレ・・・・・・」
「この重く乱れた魄動は・・・まさか?!」
「一体、何が起こっとるんや・・・!?」
*
同時刻―――
ミッドチルダ市内 A101地区
「なんだろうあれ?」
「見た事ない空だなー」
初めて見る自然現象とも言えぬ奇怪な空模様に子供達は挙って注目する。
(・・・・・・このイヤな感じ・・・・・・前にもあったような・・・・・・)
友人の殆どが怪訝する中、ヴィヴィオだけが悪寒を感じていた。本能からくる生命の危機をひしひしと肌に感じ、額から一筋の汗を浮かべる。
―――ズドン!
刹那、背後から突如として轟音が鳴り響いた。それに伴って巨大な衝撃と多量の土煙が辺りを舞う。
「え・・・・・・・・・・・・!」
「っわ・・・びっくりした・・・」
「な・・・何だァ!? ガス爆発かよ!?」
驚き返る子供達。近くにいた人々も前触れなく訪れた異常事態に驚愕する。
しばらくして、土煙の中からうっすらと影が見え、思わず息を飲むコロナ。
次第に煙が晴れ、満を持して現れた未確認生命体―――逆向きのタマゴ型のボディにぽっかり空いた孔、中央部には老人のようにしわがれた仮面、首元を鎖で繋がれた異形の怪物・
「ひいいいい!!! 出たぁぁぁ!!!」
「なにコイツ!?」
「わたし分かるよ! これは・・・・・・
「怪物だァ」
「警邏隊を呼べ、警邏だ!!」
「急いで逃げなくちゃ!」
近場にいた人々は我先にと命欲しさに一斉に逃げ惑う様には目もくれず、
奇妙な唸り声のような音を発する不気味な怪物に目をつけられた事を自覚し、後ずさりながらヴィヴィオ達は念話を交わし合う。
(どうなってるのさ!! なんでコイツボクらの方ばかり見てるの!?)
(恐らくですが、魔力を持ってる私たちを狙っているのではないかと・・・)
(どうするつもりだよ!?)
(決まってるよ。わたしたちじゃこいつには勝てない。ここは全力全開で―――)
方針が決まった途端、ヴィヴィオ達はデスベイトに背を向けるや、一目散に全力疾走を決め込んだ。
「逃げまぁ―――す!!!」
「「「「うわあああああああああ」」」」
他の事は一切考えず、全力で走る事に全神経を費やした。
デスベイトは奇声を発してから、体を浮遊させた状態で前を走るヴィヴィオ達を追いかける。
*
機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 総合司令室
「レギオン反応、依然増大し続けています!!」
「誤認じゃないのか!?」
「全て同一波形です!」
「近隣の警邏隊より市街地各地に
メインモニターには伝令神機と同じく多数の
鳴り止まない警報。増え続ける敵の数。嘗てない事態に見舞われるミッドチルダの様相を危惧する六課メンバーはしばし呆然と化す。
「どうなってるの? どうして一度にこんなにたくさんの
「スカリエッティめ・・・・・・とうとう本気でミッドを潰すつもりなのか?!」
だとすれば一刻も早くこの不測の事態を収める必要があった。
分かり易く焦燥を顔に表した恋次は、あまりにも唐突すぎる状況に困惑気味なはやてに活を入れるつもりで大声で呼びかけた。
「はやてッ! いつまでも手をこまねいてる暇なんか
「!」
聞いた途端、はやての霞がかかった脳が覚醒。
刻々と迫る世界の危機を改めて認識すると、おもむろに立ち上がり集まった全員へ声高に命令を発する。
「機動六課前線各員に通達。直ちに現場へ急行し、出現した
「「「「「「「「「「「了解!!」」」」」」」」」」」
*
機人四天王ファイによって撒かれた撒き餌の効果で、続々と街へ集まる
最大の特徴は、集まっているのは全て思考パターンも姿も完全同一の
街を脅かす外敵を排除しようと、既に機動六課を始め、多くの管理局関連機関が市街地防衛の為に尽力していた。
≡
午後15時11分―――
ミッドチルダ東部 H75地区
「撃てー!!」
陸士部隊の勇士による攻撃をその身に受けるデスベイト。
だが、周知の通り通常魔力兵器では
放たれる魔力弾のことごとくがポップコーンのように弾かれる。魔導師達は終始苦い顔を浮かべた。
「ダメです! 攻撃が効きません!」
「諦めるなッ! 何としてもここで食い止めるんだッ!」
防衛ラインを越えられれば、
しかし、それが彼らの運の尽きだった。デスベイトは奇声を発すると、自らの体を銃器にコンバートした弾丸を眼前の敵目掛けて撃ち込んだ。
タタン。タタン。タタタン。
「「「「「ぐあああああ」」」」」
防御を破り、紫色を帯びた弾丸に貫かれる魔導師達。
撃ち込まれた弾丸には特性のウイルス「
「あ・・・あ″ァあ」
「ぁぁぁああああ・・・・・・」
得も言われぬ苦しみに喘ぐ声。
刹那、ペンタクルが全身を覆い尽くすと同時に肉体が強制的に霊子分解を起こした。着ていた衣服をそのままの形で残し、跡形も無く消滅した。
「うあぁ・・・・・・うわああああああ・・・・・・!!」
血の気も引くようなおぞましい光景を目の当たりにし、死の恐怖から本能的に逃げる魔導師。
デスベイトが背を向けて逃げる魔導師へウイルスを込めた弾を一発撃ち込むと、やはりその魔導師も同様の症状を見せてから消滅した。
「くそぉ・・・バケモノめ!!」
人間を原型を留めず死に至らしめる凶気の怪物相手に必死で応戦するも、敵は無機質に死の弾丸を撃ちまくる。
「
多くの人々の叫喚を耳に入れながら、ウーノは空の上から静かに人が殺されていく様を観察していた。
*
広範囲に出現した
≡
ミッドチルダ西部 T22地区
「エクセリオン・・・バスター!」
「ハーケンセイバー!」
「うりゃあああああああああああ」
「咆えろ、蛇尾丸!!」
なのはとフェイト、ヴィータ、恋次の四人はデスベイトの大軍を前にしても怯まず、攻撃の手を休めない。
彼らほどの手練れの手にかかれば、デスベイトも形無しだった。しかし倒すのは決して容易とは言えなかった。
個体としての戦闘能力はそれほど高くない反面、デスベイトはどれだけ倒されても問題ないくらいの数を誇っており、じわりじわりと四人の魔力と霊力を消耗させていった。この状況に恋次は焦りを抱く。
(・・・おかしい・・・幾ら何でも
と、思案に暮れるあまり隙が生じた。
直後に一体のデスベイトが恋次へと急速接近してきた。
「「「恋次(さん)!!」」」
「しまっ―――」
デスベイトの狂気を宿した瞳が標的の姿を捕えた、次の瞬間―――。
「でりゃあああああああああああ」
大きな唸り声とともに、蒼い衣服を着こなす筋肉質の大男がデスベイトの仮面を豪快に殴りつけた。
恋次は間一髪のところで救われた。
そして、恋次を救ったのは他でもない―――動物の毛並みの様な白い頭髪と獣の耳を生やしたヴォルケンリッターの盾の守護獣・ザフィーラ(人型形態)だった。
「油断するな。阿散井」
と、物静かに諌めるザフィーラを見た恋次は・・・・・・
「・・・・・・・・・・・・だ・・・・・・・・・・・・ッ。誰だ・・・・・・・・・・・・・・・!?」
「「「ザフィーラです(だよ)!」」」
生憎恋次は人型の姿になったザフィーラを見た事が無かった。
素で呆けた表情を浮かべる恋次の反応に、なのはとフェイト、ヴィータが大声でツッコミを入れる始末。
などと一瞬沈黙した場だったが、再び数を集めたデスベイトが恋次達へ挙って殺気を飛ばしてきた。
「ここは一気に通させてもらう。“
足元に
*
ミッドチルダ北部 J45地区
「クラールヴィント、防いで!」
湖の騎士シャマルも出張るほどの緊急事態。風のリングと異名をとるアームドデバイス《クラールヴィント》によって強固な防御を展開し、デスベイトが撃ち込むウイルスの弾丸を完璧に防ぐ。
「今よみんな!!」
「「「「「はい!」」」」」
シャマルの号令を受け、安全圏に隠れていたスバル達が一斉に飛び出す。
彼女が作ってくれた絶好の攻撃の機会を逃さぬよう勇気を持って前に出た若い魔導師達。磨き上げた魔法でデスベイトの機能を即時停止させた。
だが、デスベイトは幾らでも補充が利くのが最大のメリットだ。倒した矢先にまた別のデスベイトが集まってきた。
「こいつら!」
「一体何体いるの!?」
「キリがありませんよ!」
際限なく増える敵に本気で嫌気が差すスバル達。
気味の悪い奇声を放ち続けるデスベイトが次々と集まり、烏合の衆と化す。これだけの数を相手にどう対処すべきか思案に暮れていた砌―――あの男が満を持して動いた。
「みなさん、二歩ほど下がっていて下され」
「金太郎さん?」
新たに機動六課の戦力となった元武装隊名誉元帥の熊谷金太郎。手には愛機アックスオーガが握り締められていた。
「おい熊。まさかとは思うが、
「冗談を言っていられる余裕が今の状況であるとでも? 馬鹿も休み休み言う事だ」
野太い声で鬼太郎を嗜めると、金太郎は足下にベルカ式魔法陣を展開。全身の魔力を一気に解放させた。
〈Extream Charge〉
電子音が発せられた途端、溢れた金色の魔力が奔流となる。
全員が注視すると、金太郎は右の利き手で持ったアックスオーガを大きく後ろへ反らしてから、刃に対して集められる魔力素を集束能力の限界ギリギリのところまで高密度に圧縮させていく。
「ティア・・・・・・これってもしかして!?」
「ええ。間違いないわ―――
核心を持ってティアナが口にした瞬間、頃合いと見た金太郎が凄まじい圧縮率によって極限まで押し固めた集束魔力の斬撃を眼前の標的目掛けて豪快に放った。
「スイング・オブ・ハデス―――」
―――ドドォォォン!!!
刹那に全てを飲み込み、破壊し尽くす金色の斬撃。
天地に轟くほどの常軌を逸した破壊力はアスファルトを削るばかりか、周囲のビルの窓ガラスを吹き飛ばし、車をも木端微塵と化す。
「「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」」
その伝説級とも呼べる桁違いな魔法と威力を目の当たりにしたスバル達は、ただただ開いた口が塞がらなかった。
*
ミッドチルダ南部 U93地区
「こここ、こっちくんなァァァ!」
高い魔力を持つ者は
ヴィヴィオ達も漏れなくそれに該当した。どこまで逃げても執拗に追って来た挙句、逃げ場を失くした彼女達は絶体絶命のピンチを迎えた。
「もうダメだ~!!」
「あたしまだ死にたくな―――い!!」
「くっ・・・。私たちの日頃の修練が役に立たないなんて!」
死の恐怖に直面し泣き出すミツオとリオ。一度
やがて、土壇場に立ったヴィヴィオ達にデスベイトの群れが一斉に向かって来た―――次の瞬間。
「面を上げろ、侘助!」
「紫電一閃!」
デスベイトの群れを切り裂く閃光が目に入った。ヴィヴィオ達の窮地を救ったのは、吉良とシグナムだった。
「シュターレンゲホイル!」
二人を支援する烈火の剣精アギトは、魔力弾をデスベイトの周囲に放って魔力爆発を引き起こす。
「間一髪ってところやったなー」
〈ギリギリセーフです!!〉
空の上から声が聞こえた優しい声色。
頭上を仰ぎ見れば、ヴィヴィオ達を見下ろす淡い銀色の髪を靡かせる最後の夜天の書の主・八神はやてがリインフォースⅡとのユニゾンをした姿で立っていた。
「八神司令!! みなさん!!」
「助かったー!」
地獄で仏の出来事に遭遇した子供達ははやて達の救援に心から感謝した。
破顔一笑し、おもむろに地上へ降り立ったはやて。ヴィヴィオ達の周りに結界を強く張ると、鋭い眼光で前方のデスベイトを見据える。
「いたいけな子どもを狙うなんて許さへん。シグナム、アギト、吉良さん、即行で片付けるよ!」
「「「はい(おう)(ああ)」」」
四人は敵との距離を取りつつ、隙を見つけるや一気に攻め込んだ。
吉良とシグナムは得意の剣技でデスベイトを直接攻撃し、アギトとはやては魔法特化で二人を支援しながら自らに襲い掛かる敵を殲滅する。
子供達にとって四人の強さは
そうこうしている内に戦いは終わった。
デスベイトは一匹残らず駆除され、ヴィヴィオ達へ降りかかる脅威はいなくなった。
「さてと。ヴィヴィオ達はどこも怪我とかしてへんか?」
「だいじょうぶです! 八神司令、それからシグナムさんに吉良さん、アギトもこの度は助けていただきありがとうございます!」
「「「「ありがとうございます!!」」」」」
助けてくれた相手への感謝を素直に表すヴィヴィオ達はとても誠実で、誰の目から見てもいい子だった。
吉良は子供達の素直な態度に心が洗われるようだった。一瞬顔を綻ばせたのち、直ぐに空を見上げ、現在の状況を観察する。
(“
その様を捕えた吉良は深く眉間の皺を寄せると、この状況をどこかで見て楽しんでいるであろうスカリエッティに対する強い怒りが湧き上がった。
(スカリエッティ・・・・・・君は自分が何をしようとしているのか、分かっていてこの状況を楽しんでいるのか・・・・・・!)
「とにかく、ここは危ないさかい。早く安全な場所へ―――」
リインとユニゾンを解除したはやてが避難誘導を促した、そのときだった。
「!」
背後から街を徘徊していたデスベイトの一体がはやてに狙いを定め、勢いよく接近してきた。
「はやてちゃん!!」
「八神司令!!」
回避不可能な距離まで詰められた瞬間、横から加わった強い力ではやては真横へと飛ばされた。
ガブッ―――。
「ぐっ・・・」
咄嗟に彼女を守ろうとしたシグナムがはやてを庇った結果、デスベイトの噛み付き攻撃を自らの体に受けた。
「「「シグナム!!」」」
「てめぇぇぇ―――!!!」
シグナムを傷つけた事に腹を立てたアギトは、怒りの炎を全身から噴き出し、その炎をもってデスベイトを跡形も無く焼き払った。
一方、はやてを庇って攻撃を受けたシグナムは咬まれた箇所を押さえていたが、やがて急速に体の力が抜けてしまい、力を失い倒れ込んだ。
「どうしたんやシグナム!!」
「しっかりして下さい! どこか痛む―――」
慌ててシグナムを仰向けにさせると、彼女の胸に現れた特異なものに全員目を奪われた。
小さいながらも紛れも無くそれは
「・・・これは・・・・・・・・・・・・・・・そんな・・・・・・・・・・・・」
*
ミッドチルダ南部 C29地区
デスベイトの動きに変化が見られ、一旦合流を決め込んだスターズとライトニング分隊。
攻撃力をほぼ結集したにも関わらず、未だ完全な殲滅には至っていない。むしろ敵は彼らを嘲笑うように数を増やし続けた。
「ダメだ!! 数が多すぎる!!」
「でも何とかしないと・・・」
「なんとかつってもよ、こいつら俺たちの力を絞れるところまで絞って、へばったところを一気に叩くつもりだぜ」
「まるで真綿で首を絞めるように・・・」
どれだけ強力な魔法や力を持っていても、それを上回る数で攻められてはシシュポスの岩に等しい。
巧妙に計算された相手側の知略になのは達は険しい表情を浮かべる。
〈Water Slasher〉
刹那、水で出来た薄く伸ばされた刃がデスベイト達を次から次へと切り裂いた。
「っ!!」
身に覚えのある魔力。そして魔法。
「ふぅー、間に合ってよかった。みんな、待たせてね」
吃驚し振り返ると、その男―――亀井浦太郎は愛機を肩に乗せながらなのは達へと歩み寄って来た。
「浦太郎さん!」
「僕だけじゃないよ」
そう言った直後。瞬歩とともにデスベイト達の前に姿を現したのは、翡翠の魔導死神だった。
「“
次の瞬間、晩翠の刀身より八千本に相当する翡翠の斬撃が飛び出した。
無数のデスベイトは強い浄化の力を宿した斬撃を浴びるや、たちまち霊子分解によって昇華された。
「翡翠の魔導死神さん! どうして!?」
何故ここにといるのか? 暗に問い質すなのはに翡翠の魔導死神は答える。
「“僕はいつだって君たちの傍にいる”。前にそう言ったのを忘れたのかい?」
「あ、いえ! そう言う訳じゃなかったんですけど・・・・・・でも、ありがとうございます!」
何故だかはわからない。だが少なくとも、なのはは彼が自分の傍にいる事が何よりも心強く、そして安堵できた。
他の仲間や親友のフェイトが側にいるにもかかわらず、なのはは誰よりも翡翠の魔導死神が近くにいる事に強い安心感を抱く事が出来た。その理由を当人は未だ気付いているようで気付いていない。
「ここは僕に任せて。ちょうど試したいものがあるんだ」
そう言うと、浦太郎は翡翠の魔導死神に扮したユーノに念話を送る。
(あれを使ってもいいですよね。店長?)
(いいよ。ただし、あんまり飛ばしすぎない事だ。汎用型とは言え、陸戦魔導師が使うにはまだ少しハードルが高いものなんだ)
(僕をそこらの魔導師と一緒にしてもらっちゃ困るなぁー。大丈夫ですよ。いざってときに安全装置が働くようにできてるって事は承知済みですから)
ユーノからの使用許諾を得ると、浦太郎は敵を前にフィッシャーマンに組み込まれた汎用型飛行魔法を発動させた。
「え!」
なのは達は挙って目を見開き、縦横無尽に空を舞ってデスベイトと戦う浦太郎の姿を凝視した。
「あれは!」
「まさか飛行魔法!?」
「でも確か浦太郎さんって空戦スキルは持ってない筈じゃ・・・!」
「アニュラス・ジェイドの汎用性飛行魔法!」
フェイトが気付いたように呟くと、その事実を知る者は須らく一驚を喫する。
「そんな馬鹿な! だってあれって先月発表されたばかりの新魔法だぞ!」
「だがあれは紛れも無く飛行魔法!!」
「飛行・・・してる・・・!」
陸戦魔導師が空を飛ぶと言う前代未聞の珍事。
否、既に正規の術式として大成され飛ぶのに苦労していない様を見せつけられれば、最早それが完成されたひとつの「魔法」であるという事は疑いようの無いものだった。
周りから向けられる驚きと感嘆の視線をとても心地よく感じながら、浦太郎は中空を自由自在に飛び回る。
(みんな呆けた顔で僕に注目してるな。よーし、ここはもっとカッコいいところ見せてやろうっと!)
〈Water Net Surfing〉
カートリッジをロードし、中空を高速で飛行しながら、浦太郎は前方に固まっているデスベイトの軍勢にフィッシャーマンの先端を向ける。
「そーらっ!」
先端部より吹き出す網目状に張り巡らされた水流魔法。釣竿を大きくしならせ海へ投擲するようなモーションで敵へと放り投げる。
放り投げた網目状の水は対象を捕獲。絡め取られた相手は身動きを奪われ、その瞬間巻起こる水の流れによって体ごと押し流された。
陸のエース・オブ・エース改め、陸空のエース・オブ・エースへと進化を遂げた亀井浦太郎。その実力とポテンシャルの高さに誰もが脱帽した。
「すごい・・・・・・」
「まさか浦太郎さんが空戦をするなんて思ってもいなかった」
「シャマル!! シャマルはおるか!!」
デスベイトの一団が浦太郎の手で倒された矢先、切羽詰った声をあげるはやてがシグナムを抱えて飛んできた。
「はやてちゃん!!」
「どうしたんですか!?」
「シグナムが・・・・・シグナムが!!」
震える声で抱きかかえたシグナムの容体をシャマルへと見せる。
全員がシグナムを見ると、酷く苦しそうにしていた。しかも、胸に開かれた
「・・・・・・・・・なに・・・・・・これ・・・・・・・・・」
「・・・
「どういう事だよ?」
「さっきはやてちゃんを庇って
「なぁシャマ
「落ち着いてアギト。だいじょうぶ。私が必ず治して見せるから」
そう言って、シャマルが不安に満ちた表情でシグナムの治療に当たろうとした折、後ろから制止を求める声がかけられた。
「止してください」
「!?」
振り返ると、翡翠の魔導死神が立っていた。
「そこから先は素人の出る幕じゃありません。」
「翡翠の魔導死神さん!?」
「ちょっと・・・今のどういう意味なの? 私はただシグナムを助けたいだけで―――」
「その症状が現れた時点であなたじゃ何もできない。そう言ってるんですよ」
「馬鹿にしないでちょうだい! 私だって医者よ! シグナムは私たちの大切な将で家族なの! 彼女の体調の事は私が一番知ってる! あなたなんかにはわからないのよ!!」
「ではあなたには治せるんですか? “
「
信じ難い言葉を聞かされ、瞬時に思考が凍りつく六課メンバー。
翡翠の魔導死神は状況を飲み込めず呆けてしまったシャマルに代わって、自らが治療を行おうと前に出る。
「彼女は僕が助ける。どいてもらおう」
「で、でも!!」
「言う通りにしろ」
凄んだ声で威圧された瞬間、シャマルは全身の力が抜け、抵抗するという意思事態を殺ぎ落とされた。
「・・・・・・はい」
大人しく引き下がるシャマル。彼女を下がらせた後、翡翠の魔導死神はシグナムの現在の状態を注意深く診察。
(高熱に昏睡・・・何よりも胸部に空いた孔・・・紛れも無く
「おい、どうするつもりだよ!?」
横で恋次が切羽詰った声で問いかける。
「―――
「理屈なんてどうでもいい!! 早く治してくれ!!」
ヴィータに急かされた翡翠の魔導死神は、おもむろに黒衣の中からケースに入った一本の注射器を取り出した。
「『
そう言いながら、注射針をシグナムの腕へと刺し込み
「あ!」
ワクチンが打たれた直後、みるみるとシグナムの
「もっとも・・・前者は現実的に不可能だから、後者の方法を取るしかない。こんな事もあろうかと浦原さんから頂いた
備えあれば憂いなし。それを見事に体現した結果、シグナムの体を蝕む
「うぅ・・・・・・ここは・・・」
「「シグナム!!」」
意識を取り戻したシグナムは、嬉し涙を流して自分へと抱きつくはやてとアギトから伝わる熱を体中で味わった。
「心配かけやがって!!」
「せやけどホンマによかった。無事で何よりや」
「・・・ご心配をおかけして申し訳ありません。我が主。アギトに皆もすまなかった。それと・・・ありがとう。翡翠の魔導死神」
「あ・・・あれは!?」
そのとき、不意にキャロが空を仰ぎ見ながら今起きている異変を皆に伝えた。
「空のひびが・・・・・・一箇所に集まってきてる・・・!!」
「それだけじゃないよ。周りをよく見てるんだ」
翡翠の魔導死神が補足し、周りの様子を見てみたとき、なのは達はデスベイトの動静の変化に気が付いた。
自分達へ敵愾心を向けていた敵が、いつの間にか空紋へ視線を合わせ、そこから何かが現れるのを期待する様に奇声を発していた。
「・・・
「ほんとだ。まるで何かに祈っているような・・・」
バリッ・・・。バキバキバキ・・・。
「「!!」」
次の瞬間、恋次と吉良はともに目を疑った。
ひび割れた空間より白くて巨大な指先が出て来ると、その奥から鼻の尖った白い仮面を付けた巨大な何かが狭い穴より顔を覗かせたのである。
「な・・・何だよあれ・・・!?」
「空間が引き裂かれて、中から出てきたのは・・・
「バカ言え! あんなデカすぎる
目視で確認する限り、体長は超高層ビル一戸分に相当する。これまでに似たような相手と戦って来た六課メンバーだが、目の前で空間を引き裂いてこちら側の世界へと入りこんでくる未知なる侵入者の存在に背筋が凍らせる。
すると、敵の大きさと存在感に言葉を失い欠けるなのは達に恋次と吉良がその正体を暴露する。
「ありゃ
「・・・メノス・・・?」
「幾百の
「だがわからねえ。メノスがどうやって
全身を黒い布のようなもので覆われた巨躯と、その下には白くて細長い脚が隠れており、ひび割れた空間を跨いでゆっくりと現れる。
メノスが外側へ出た途端、ミッド中のデスベイト達が一斉に空へ上がり、メノスの元へ向かうように飛び立った。
「あっ!
デスベイト達が一斉に
と、次の瞬間―――巨大な口を開くなり、メノスは周りに集まったデスベイト達を長い舌で串刺しにして捕えた。
「!!!」
思わず目を剥く六課メンバー。長い舌で貫かれたデスベイト達を引き寄せたメノスは、バリバリという嫌な音を立てながら彼らを捕食し始めた。
「ッわ・・・っ」
「な・・・なんて奴なの・・・
“
すると、不意に吉良は今回のスカリエッティ一味の目論見を看破した。
「そうか! スカリエッティの狙いはこれだったんだ。街に大量の
「なんだと・・・!?」
「そんな・・・・・・あのバケモノ相手にどうやって戦えばいいんですか!?」
「幸い奴は隊長格ならば倒す分には問題ないレベルだ。あいつは俺らに任せてお前らはここで休んで・・・「待ってください」
すると、恋次の言葉に割って入ったなのはが真剣な眼差しで訴えた。
「恋次さん、私達にも手伝わせて下さい!」
「なのは・・・だがこれはだな!」
「“これは死神の仕事だ”。そう言いたいんでしょうけど、事はもう死神だけの問題じゃありません。私たち魔導師にとってもあれは倒すべき相手です」
どこまでも混じり気のない純粋な瞳だった。恋次は躊躇ったが、やがて彼女達の強い覚悟を認める事にした。
「・・・・・・わかった。そこまで覚悟があるなら俺は止めねえ。やるなら徹底的にやるぞ。そうだろう、はやて!!」
「もちろんです。なのはちゃん、フェイトちゃん。三人であのデカブツに一発大きいのをお見舞いしよう!」
「「うん!」」
自分達の手で自分達の世界を護る―――強い決意と覚悟をもってメノスとの戦いを望んだなのは、フェイト、はやての三人は互いを見合って頷き合う。
「翡翠の魔導死神さん、あなたは負傷した人達や逃げ遅れた人々の救護をしてもらえませんか?」
「わかったよ」
なのはからの懇願を聞き入れた翡翠の魔導死神は踵を返し背を向けた。
「高町一尉」
直後、背を向けたままで彼はメノスとの戦いへ臨もうとするなのはの身を案じ、切実な願いの籠った言葉を紡ぐ。
「くれぐれも無茶はしない事だよ」
聞いた瞬間、なのはは幼馴染の師から向けられる言葉のように思えてならず、この上も無い嬉しさで胸がいっぱいとなった。
「――――――はい!」
街に現れたデスベイトは全て
空間をも歪ませるほどの巨大な咆哮をあげるメノスだったが、空へと上った三人の魔導師と一人の死神によって四方を包囲される。
恋次の陣頭指揮の下、なのはとフェイト、はやては弱点であるメノスの頭部を狙い打ちするつもりだった。
「いいか! 的はデカい! 狙い損ねるなよ」
「「「はい!!」」」
眼下の標的を見据えた四人。
そして今、地上に降り立った虚無なる征服者を倒すため、四人は力のすべてを結集させる。
「狒狒王蛇尾丸!! 狒骨大砲・・・!!」
「ブラスター2、リリース!! 集え星の輝き、スターライトォォ・・・!!」
「雷光一閃、プラズマザンバー・・・!!」
「響け、終焉の笛。ラグナロク・・・!!」
それぞれのデバイスに桜色、黄色、白色の魔力が、狒狒王の口腔内に赤色の霊力が集まっていく。
強烈な輝きを放ちながら十二分に魔力と霊力を集中させ、なのはとフェイト、はやて、恋次の四人は今の自分達が持てる力の全てを乗せた一撃を繰り出す。
「「「「「ブレイカぁぁぁ―――!!!!」」」」
それぞれの魔力光と霊圧色が入り交じりながら真っ直ぐにメノスに飛来する超弩級の特大砲撃。
これまでに見た事のない大きさの砲撃。四人の出鱈目な攻撃は一瞬にして
「やったか!!」
爆炎が広がる中、手応えを感じる四人。
しかし、煙が収まるとそこには信じられない光景が広がっていた。
「「「「な!」」」」
四人の特大の攻撃を受けてもなお、
「そんな・・・・・・馬鹿な・・・・・・」
「私たちの攻撃が効いてない!?」
「闇の書の闇を吹っ飛ばした“トリプルブレイカー”じゃ太刀打ちできんゆうんか!?」
強い自信を木端微塵に砕いた敵の力量。下で様子を見ていたスバル達も四人の攻撃を真面に受けながら、決して消滅しない驚愕の相手に畏怖を抱いた。
「ウソでしょう・・・!」
「なのはさん達の攻撃で倒せないなんて!!」
隊長格であれば通常の
だが、今回ミッドチルダに初めて姿を現した
「なのは・・・・・・・・・・・・」
「! この霊圧は・・・・・・」
すると、吉良はメノスから伝わる禍々しい霊圧に違和感を覚えた。
「阿散井くん、三人もすぐに離れるんだー!!」
咄嗟に四人へ警告を発した直後、メノスは天高く咆哮をあげながら、急激な変化を遂げ始めた。
黒い布のような体にゴツゴツとした突起物が無数に現れ、背中には魚の鰭を思わせるものと尻尾のような細長いのが体から生えて来た。
「すごい・・・・・・まるで進化だ・・・・・・!」
最早そのように形容する事に何ら間違いは無かった。
大量のデスベイトを捕食した事によってもたらされた突然変異、もとい急速な進化を遂げた結果、
予想外の事態に終始唖然とするなのは達。
と、そのとき。はやて宛てに機動六課隊舎から通信が届いた。
『はやて! 大変だ!』
柄にもなく焦燥の表情を浮かべるクロノ。次の瞬間、彼の口から飛び出た言葉に度肝を抜いた。
『突然ミッド地上に体長100メートルを超える巨大な
「「「え!!」」」
「ま・・・・・・まさか!!」
彼らは気付いてしまった。一般市民にも視認できる
突如現れた巨大生物の襲来にパニックに陥る市民。
このとき、遥か上空より街を見下ろす機人四天王ファイは冷笑を浮かべながら、あちこちから聞こえる人々の恐怖と絶望の声を拾っていた。
「ふふふ・・・・・・機動六課。貴様達の誤算が招いた絶望を思い知るがいい」
参照・参考文献
原作:久保帯人 『BLEACH 5、6、60巻』 (集英社・2002、2013)
用語解説
※1 空紋=
※2 虚圏=
魔導師図鑑ハイパー!
ある日、スバル達が談笑をしながら隊舎を歩いていたとき―――
ス「それでですね! ・・・あれ?」
鬼「どうした?」
ス「あれって・・・ザフィーラと金太郎さん・・・ですよね?」
廊下の影から窺う二人の大男。
ヴォルケンリッターの守護獣であるザフィーラ(人間形態)とスクライア商店副店長の熊谷金太郎が面を向かい合ったまま互いに無言を貫いている。
金「・・・・・・・・・」
ザ「・・・・・・・・・」
いったい何があったのかとこっそりと様子を伺う中、不意に金太郎が胸筋に力を込め始め、鍛え抜かれた筋肉を披露する。
金「ふん!!」
巌の如く隆々とした筋肉はピカピカに光り輝いていた。
すると、それに触発されたザフィーラも全身に力を籠め、金太郎に比肩を取らない自慢の肉体を披露する。
しばしボディーアピールを行った後、二人は互いの実力を認め合い、固く握手を交わし合う。
ザ「見事ですぞ」
金「お互いによき友になれる事を確信いたしました」
感極まり涙する金太郎と清々しい笑みを浮かべるザフィーラ。
その暑苦しい絵面に、見ていたスバル達はただただ微妙な表情を浮かべるばかりだった。
ス「な、なにやってんでしょうあれ・・・・・・」
シャリオ「筋肉で友情が生まれちゃったのかしらね?」
鬼「やっぱただの変態じゃねーか」
次回予告
ユ「史上最大規模の
「そしてついに、なのははブラスターモードに代わる最強の力を手に入れる!! ARカートリッジ、発動承認!!」
「次回、ユーノ・スクライア外伝・・・『神の化身』。君は伝説の目撃者となる」
登場魔導虚
デスベイト
ミッド市街地に大量に出現した集団型の魔導虚。
本体は基本的に逆向きのタマゴ型で、ボディ中央部に顔がある。人格を持たず、知性はプーカ以下で、ほとんど無いに等しい。死神でなくても魔導師として訓練を積んだ者であれば、単独で複数を撃破することもそれほど難しくない。
老人のようにしわがれた仮面に覆われており、首を鎖で繋ぎ止められている。
スカリエッティが虚圏からメノスグランデをミッドチルダへと呼び出すために制作した個体で、体に流れている血は生物にとって猛毒であり、これを弾丸に成形して撃ち出すことができる。魔導虚の血の成分が体内に入った生物はみるみるうちに黒いペンタクルに侵され、そのまま魂魄自殺してしまう。
名前の由来は、餌を意味する英語「bait」から。名前の通りメノスグランデを誘き寄せる餌として利用された。