ユーノ・スクライア外伝   作:重要大事

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魔導虚篇
第2話「伝説の死神代行」


四年前―――

新暦075年 12月

第97管理外世界「地球」

日本 北海道 ニセコ町近郊

 

 雪の降る北の大地を走る一台のレンタカー。オレンジ色の頭髪を持つ男性・黒崎一護(くろさきいちご)は高校時代からの彼女で婚約者・井上織姫(いのうえおりひめ)とともに、大学最後の冬休みを利用して北海道へスキー旅行に訪れていた。

 夜間ドライブを楽しみながらニセコの雄大な雪景色を堪能していた折、夜空に輝く星々をすり抜けるかの如く落ちていく流れ星が織姫の目に留まった。

「あっ!! 一護くん、流れ星だよ!!」

「あァ。結構デカかったな」

 織姫は子供の様に弾んだ声を上げ興奮を覚える。一方の一護は運転操作を誤らない程度に顔を覗かせる。

「お?」

 ふと織姫を見れば、熱心に祈った様子で両手を胸の前で組んでいた。

「何してんだよ織姫?」

「流れ星にお願いしてるの。私たちがずっーと一緒に居られます様にって・・・」

「そうか」

 彼女の言葉を聞いて穏やかな表情を浮かべる一護。

 直後、後部座席からライオンのぬいぐるみの姿を借りた生き物・コンが慌てた様子で飛び出し織姫へと尋ねる。

「織姫さん!! オレはその中に入ってねえんすか!?」

「もっちろん! コンちゃんも入ってるよ!」

「よ、よかったぁぁ~~~!!!」

「オマエも案外小心つーか心配性な奴だよな・・・」

 と、言った直後だった。

「ん・・・なんだ!?」

 雪道を運転する一護は、目の前で何の前触れなく強い緑色の光を発しながら空間を裂いて落下してくる謎の物体に目を疑った。

「「「うわあああああああ!!!」」」

 咄嗟にハンドルを切った一護だが、雪道の為に車はスリップし、盛り上がった雪の上で横転、極寒の大地へ弾き出された。

「のあっ!」

「痛い!」

「ブヘッ!」

 一護は織姫とコンの下敷きになる形で雪の中に顔を埋める。

 やがて、三人は体中の雪を払いおもむろに目の前で神々しい光を放つ物の正体を探ろうと怪訝する。

「なんだ・・・あの光は・・・!?」

 眉を顰めていた次の瞬間、緑色の光はその輝きを一層増して一護達の視界を完全に遮ろうとする。

「おい逃げるぞ一護っ!!! 何か滅茶苦茶ヤベー雰囲気だ!!!」

「落ち着けよコンっ!!! つーか毛根から引っ張るんじゃねー!!!!」

 未知なる現象に危機感を抱いたコンは、ぬいぐるみの手で一護の髪を強く引っ張りながらその場を離れようと説得するのに必死だった。

「一護くん! コンちゃん! ちょっと待って!」

 そのとき、織姫が光の中で蠢くものの存在に気が付き二人を呼び止める。

 光が徐々に晴れていき、中から現れたのは――――――満身創痍となって意識が朦朧としている女性にも似た容貌の青年、ユーノ・スクライアだった。

「・・・・・・人間・・・・・・・・・だと・・・!?」

「男なのか? 女なのか?」

 空間を引き裂いて現れた謎の人間。あまりに突拍子かつ性別の区別さえ難しい人間を前にただただ困惑する一護とコン。

 対する織姫は、何の躊躇いも無く怪我をしたユーノの元へと急いで駆け寄った。

「おい織姫っ!」

「危ないっすよ織姫さん!」

一護とコンも織姫を追う様にユーノへと近付く。医学生であった一護と織姫は直ちに傷の具合を確認し、命に別条がない事を理解し安堵する。

「よかった・・・命に別状は無いみたい。ただものすごい怪我しっちゃてる」

「急いで宿に戻ってお前の“盾舜六花(しゅんしゅんりっか)”で治療しよう。目が覚めたらこいつにも詳しい話を聞かないとなんねーし・・・しっかし一体何者なんだ・・・コイツは?」

 

 

 

 四年前のこの日、黒崎一護と井上織姫のもとに突如として現れたこの青年が、全次元世界存亡の重要な鍵を握ることになろうとは――――――このとき、まだ誰一人として知る由も無かった。

 

           ◇

 

四年後―――

新暦079年 2月

第16管理世界「リベルタ」

 

 ドンッ―――! ドドォ―――ン!

 平穏な人々の日常を引き裂く無慈悲な爆発音。

 ドドンッ-――! ドドドォ―――ン!

 平凡な日常生活を享受していた市民へと向けられる無差別攻撃。喧騒としていた都会は白い髑髏を彷彿とさせる仮面を付け、魔導の力を備えた謎の怪物による攻撃を受け火の海へと変貌しつつあった。

 

 ブーッ! ブーッ! ブーッ!

「近いぞ!」

「誰かいないのか!?」

「航空武装隊3班、陸士武装隊5班が現場に向かったとの連絡です!」

「災害レベルの設定を急げ!」

 現地の時空管理局部隊が此度の緊急事態に即時対応しようと各所から迎撃可能な魔導師を手当たり次第に送り込む。

 だが、事件は収束はおろか被害は拡大の一途を辿る。怪物は一個師団レベルに匹敵する魔導師隊を全滅させると、更なる侵攻を続ける。

《ご覧ください! ものすごい爆発です! 謎の怪物による被害はこれまでにない拡大を続けており、現在管理局側で災害レベルを判別中との・・・ザザッ》

 現地の取材班がリアルタイムで起こっている出来事を生中継するが、破壊の規模が大きすぎるあまり自らも被害を受けてしまう。

 絶望的な状況。人々が希望を失いかける中、誰もが待ち望む漫画の様なヒーローが現れる事は無い―――そう思っていた。

 

「うわあああーん!! ま、ママーッ! ママーッ!」

 恐怖と不安のあまり泣き叫ばずにはいられなくなった少女。

 幼い少女の元へ一歩、また一歩と不気味な仮面の下に邪な笑みを浮かべる人ならざる怪物が近づく。

 怪物の気配に少女は気付いてすらいない。怪物は肥大化した右腕に力を込めると、真後ろから少女の脆く小さな身体を捻り潰そうとした、次の瞬間。

 何かが目にも止まらぬ速さで移動してきたと思ったら、風と共に少女を連れて消えた。怪物が微かな物音を感じ取って目を転じると、それはいた。

 気を失った少女を地に寝かせ、深緑色に輝く衣を纏った奇特な人の姿が―――

『何者だ お前は?』

 怪訝に感じ名を尋ねる怪物。

「これから斃される相手に名乗るだけ時間の無駄だよ」

 問われた直後、緑の衣を纏った人間はおもむろに立ち上がると、鋭い瞳を向けながら低い声色でそう呟いた。

 

 数分後―――。

 状況は終了し、怪物は緑の衣を纏いし人間の手により駆逐された。

 破壊による瓦礫で覆われた街中にポツンと佇む人間。その戦い振りを目の当たりにしていた現地の管理局員は挙って言葉を失っていた。

 なぜならその人間は、たった一人で傷はおろかダメージ一切を負うことなく敵を殲滅してしまったのだから。

「ま、待ってくれ!!」

 戦いが終わり、現場から立ち去ろうとしたとき―――咄嗟に武装士官の一人が目の前の人間に制止を求める。

「貴様・・・もしやとは思うが、近頃あの怪物の前に姿を現す謎の戦士か!?」

「―――だとしたら?」

「なぜ我々を助ける・・・貴様は魔導師なのか? どこの何者だ!?」

「僕が何者かなんてどうでもいいです。僕の目的は飽く迄もあなた方では対処し切れないあの怪物を一匹残らず駆逐する事。もっとも、それもそろそろ限界に来ていますが」

 端的に自分の目的だけを明かし、素性については決して公開する意思を見せない。要点を確りと伝えて再び立ち去ろうとする。

「ま、待ってくれ・・・せめて名前だけでも教えてもらえないか!?」

 素姓はわからなくてもいい。命を救った英雄の名は覚えておきたかった。そんな思いからダメもとで尋ねると、彼は問いかけに答えてくれた。

「―――二つ名なら教えてあげてもイイです。誰が呼び始めたのかはわかりませんが、ある種的を射ていて怖い」

 言うと、武装局員達の方へと振り返る。背面から向けられる太陽のせいで顔は逆光して見えないが、局員はその名をしかと聞いた。

「僕の名は《翡翠(ひすい)魔導死神(まどうしにがみ)》―――」

 

 

 

                                                             ユーノ・スクライア外伝

                                                                魔導虚(ホロウロギア)

 

 

 

 連続殺人「マリアージュ事件」の終結からおよそ1年が過ぎた頃―――時空管理局は拘置所から脱獄したジェイル・スカリエッティティと戦闘機人ウーノ、トーレ、クアットロらの行方を追うとともに、昨今次元世界各地で報告及び被害が相次ぐ謎の怪物の対応に手を焼いていた。

 

           ≡

 

新暦079年 3月某日

次元空間 時空管理局本局内部 法務局

 

「八神司令。お久しぶりです」

 オレンジ色のストレートヘアを靡かせる黒い執務官の制服に身を包む女性―――元・機動六課スターズ分隊所属ティアナ・ランスターは、凛々しくも穏やかな笑みを浮かべ敬礼。これに答えるのは、元・機動六課部隊長にして海上警備部捜査司令となった八神はやて二等陸佐である。

「いやー。しばらく見のうあいだにティアナもすっかり執務官姿が板についてきたな」

「いえ。まだまだ若輩者です。もっともっと強くならないといけません」

「頼もしい限りや。さすがは元・機動六課のフォワード、エース・オブ・エースの教え子だったことはある」

 あの頃が懐かしなぁー・・・と、昔話に花を咲かせながら二人は局の廊下を歩く。

「そう言えば最近直接はお会いしていませんけど、なのはさんはお元気でしょうか?」

「うん。なのはちゃんは相変わらず変わりないよ。ヴィヴィオの子育てで忙しいさかい、前よりも仕事量は減らしてるみたいやけど実力は健在や」

「ブラスターの後遺症を負っていても本気のなのはさんに勝つのは並大抵の事ではありませんからね。たぶん、チーム戦ならともかく個人戦では勝てる気がしません」

「そうかな? ティアナならいいとこいくと思うけどなー」

 主に機動六課時代の出来事や最近の近況、仲間内の色恋沙汰の話などで盛り上がりながら二人は久しぶりの再会を祝して昼食を共にする。

「そう言えば・・・」

 ふと、ティアナがある事を思い出した様子ではやてに尋ねる。

「八神司令はもう聞きましたか? 『翡翠の魔導死神』の話?」

「『翡翠の魔導死神』? なんやそれ知らんな」

「人の名前である事は確かです。仇名と言いますか、異名と言いますか、最早通り名になっています。緑色の衣を纏った魔導師という噂なんですが、あまりに強すぎて規格外な事から誰が呼び始めたのか、付いた名前が『翡翠の魔導死神』―――だそうです」

「ふーん・・・翡翠の魔導死神なぁー。白き魔王とやったらどっちが強いんやろう」

「あははは。こればかりは私にも正直わかりません」

 性質の悪い冗談だと思いつつ、ティアナは局内で白き魔王=高町なのはと言うイメージがすっかり定着しつつある事態を本人に代わって秘かに憂い苦笑する。

「ほんで? その翡翠の魔導死神ゆうんはどんな人なんや?」

「素姓に関してはほとんど分かっていないそうです。ただ噂をよく聞くようになったのはちょうど一か月くらい前ですかね。最近多発している謎の怪物騒ぎに便乗して現れている様でして、神出鬼没ながら管理局が現場入りした時には既に状況は終了。怪物被害を受けた現地の人達からは絶賛され英雄扱いされてます」

「その怪物騒ぎなら私も小耳に挟んでるよ。なんや魔導師の力を使う自立行動型の正体不明の生物が次元世界各地で出現してるいうあれやろ?」

「ええ・・・警防部でも秘かにマークしていていた事案で警戒はしていたんですが、ここ最近になって怪物の出現頻度も日を追うごとに増しています。ただ不思議な事に、怪物が出現する時には必ず翡翠の魔導死神が目撃されていて、それを逆手に取って翡翠の魔導死神を捕えようとしたんですが・・・・・・」

「まさか逆に襲われたんか!?」

「その逆です。怪物の襲撃を受けた局員を翡翠の魔導死神が助けたんです。一個師団の武装隊50名が束になっても勝てなかった怪物をたったひとりで倒したそうです」

「たった一人で?!」

 俄かには信じ難い話ではあった。怪物の詳しい実力を知らないはやてでも、一個師団50名ですら叶わなかった怪物をただの一人の人間が討伐したとなれば、容易に翡翠の魔導死神が持つ力の巨大さを理解出来る。

「あとで聞いたところ・・・その気迫はまるで鬼の様であり、あながち“死神”という表現は間違っていなかったとも言っています。事実、翡翠の魔導死神は傷ひとつ負う事無くその手に持った剣一本で怪物を退治したそうですから実力は相当なものかと」

「そやけど実際に翡翠の魔導死神と武装隊の人達は顔を合わせてるんやろ? なんで誰も正体を知らないんや?」

「どうやら仮面で素顔を隠してるみたいです。おまけに声も変声機のようなもので加工していて、誰も正体を掴めていないんです」

「そうか・・・・・・せやけどスカリエッティ一味の脱獄に加えて謎の怪物騒ぎ・・・・・・ほんでもって翡翠の魔導死神か。この次元世界はかくも事件の芽が絶える事は無いんやな」

 

           ◇

 

3月下旬―――

第97管理外世界「地球」

東京都 松前町 スクライア商店

 

「お待たせしましたー♪」

 元・無限書庫司書長、ユーノ・スクライアは今日もしがない駄菓子屋の主として平凡ながらも充実な生活を享受していた。

「いつもすまないねー」

「この店は安くて品ぞろえがいいからほんと助かるよ」

「あはは♪ それがうちのモットーですから♪」

 多少胡散臭いところはあるものの、基本的に温和な人柄で整った顔立ちからか客足も良く、近頃は遠方から噂を聞きつけた者も足を運ぶほどの盛況ぶり。のんびり仕事をするつもりでこの店を開いたユーノも想定外な状況だった。

 しかし本人は忙しいことに満更でもなく、むしろ来店する全ての人に対し分け隔てなく接する。そんなユーノをサポートする為に副店長の熊谷金太郎、従業員の亀井浦太郎、桃谷鬼太郎がいる。

「あ、そうだ。松原さんと村山さんはいつも買ってってくれるお礼にサービス♪ 金太郎、あれ持ってきてー!」

「承知」

 指示を受けた金太郎が店の奥からある物を抱えてきた。訝しむ常連客を見ながら、ユーノは飄々と笑いながら瑞々しいまでの夕張メロンを見せる。

「へへへ。ちょうど食べごろの夕張メロンがあるんですけど、良かったらどうぞ。今日は特別ですから」

「まぁこんなに高価な物もらっちゃって!」

「ユーノちゃん、これじゃ赤字になっちゃうわよ」

「いいんですよお二人とも。どうせこんな店店長の趣味でやってるようなものですから♪」

「お前が言うな♪」

 ゴンッ―――。満面の笑みでユーノは浦太郎の頭部に拳骨を振り下ろす。その痛さの余り浦太郎は声を押し殺して双眸に涙を溜める。

「毎度ありがとうございまーす!」

「「「またのお越しをお待ちしてまーす!!!」」」

 客は皆総じて笑顔になって帰っていく。現代では失われつつある昭和の光景を垣間見れるという理由から中高年の客層が多く、確実に客足はここ数年の間に増えている。司書を辞めたユーノの意外な商才がここで発揮されていた。

「あ、そうだ。イイこと思いついた。今度この近くの買い物難民の高齢者相手に宅配サービスしよう♪ きっと喜んでくれるよ」

「素晴らしい名案ですな」

「えー、でもそれじゃ俺らの仕事量が増えるっすよ!?」

「何もそこまでしなくてもいいと思うな。どうせ趣味の延長みたいな店なんだか・・・「浦太郎君・・・二度は言わないぞ♪ 僕をあまり怒らせない方がいいよ」

「あ、はいすみません・・・・・・!!」

 笑顔で怒気を向けられるほどの恐怖は無い。この店でユーノに逆らえる者は一人としていないのである。

「相変わらず仕事熱心であるな」

 すると、聞き慣れた声が聞こえてきた。声のする方へ視線を向ければ、スクライア商店の裏の常連客―――白鳥礼二が立っていた。

「おやま? 誰かと思ったら白鳥さんじゃありませんか♪」

 飄々として出迎えるユーノ。白鳥は「邪魔をするぞ」と一言だけ呟き、ずけずけと店の中へと入ってきた。

「っておい!! この手羽野郎! まだ入っていいとは一言も言ってねェぞ。勝手に俺ん家に入るな!!」

「お前の家ではないがな」金太郎からの指摘が静かに呟かされた。

「私は客だ。客は神だ。神をもてなすのが接客業を営む主らの役目ではないのか?」

「誰がてめぇを客としてもてなすって!? デケー口叩いてるのもいい加減にしやがれってんだ!!」

 大柄な態度の白鳥に業を煮やした鬼太郎が身を乗り出そうとする。すかさず金太郎と浦太郎が二人掛かりで取り押さえる。

「まぁまぁ落ち着きなよ先輩。これでも大事なお客さんなんだから」

「ご無礼をお許しください白鳥殿。さぁ、遠慮せずに店長は白鳥殿と商談を進めてください」

「そうさせてもらうよ。さぁ白鳥さん、ご注文なら何なりとお申し付けください。自慢じゃないですが、品揃えに関しては他のどの店にも負けてませんので―――」

 

 スクライア商店―――表向きはやや古びた駄菓子屋兼雑貨屋。しかしてその実態は現世にいる白鳥などの死神に対して霊的商品などを売る、任務遂行の賞金を渡すなどの援助を行う闇のブローカーだと知る人物は雀の涙しかいない。

 ユーノは魂の故郷とも称される異世界《尸魂界(ソウル・ソサエティ)》から派遣され長期滞在中の白鳥とは旧知の仲であり、彼への援助も積極的に受け入れ現在に至る。

「・・・瀞霊廷(せいれいてい)通信の最新版号1冊に伝令神機(でんれいしんき)のスペア燃料1本・・・と」

 ピッ、ピッ、注文品を電子帳簿に入力しながらユーノは「えーと、ランクは?」と重要な点を聞き出す。

「一番高いので頼む」

「ムダにSですね・・・それから内魄固定剤(ソーマフィクサー)を60本・・・と。あっ、余計なお節介ですけど、固定剤(コレ)の使いすぎは体に毒ですよ? 義骸(ぎがい)とあんまり同調しすぎると抜けるとき物凄く辛いそうですから」

「それは分かっておるのだが・・・最近、義骸(ぎがい)との連結が鈍くてな・・・体が動かし辛くて仕方ない」

 拳をぎゅっと握りしめたり、肩をぎこちなく回したりと、義外との同調率の悪さからくる連結不良を如実に見せつける。

「ま・無理もない。私の様な格式高く懐の大きい男には安物の支給品などという小さき器には収まり切らんのだからな」

「おい亀公、何言ってんだコイツは?」

「言わせてあげなよ。白鳥さん、プライドだけはイッチョ前の小心者だと思うんだ」

「ゴールデンベアー副店長・・・そこの二人を黙らせてくれないか?」

 誰よりも気にしている事を周りから指摘されるのだけは露骨に嫌う。白鳥は一旦咳払いをすると、話を元に戻す。

「・・・兎に角、窮屈ではあるが現世にいる間はこれで我慢するしかないのだ」

「そんなに動かし辛いなら僕が検査しましょうか? 全身255か所がたったの4980(かん)。白鳥さんの出世払いって事でサービスしておきますよ♪」

「結構である! このぼったくり商店め!」

「へ~~~い」

 ぼったくり商店とは酷い言われようだな・・・・・・内心そう思いながら、ユーノは露骨に不満気な声をあげる。

「で、お支払いは・・・カードですか?」

「いいや、()()で頼む」

 そう言うと、白鳥は懐からスマートフォンの形状に酷似した連絡用端末『伝令神機(でんれいしんき)』を取り出し見せた。

追加給金(インセンティブ)・・・ですか」

 追加給金システム―――死神が現世において《(ホロウ)》と呼ばれる悪霊を退治するごとにランク分けされた賞与が得られる。このシステムで得られた賞金はそのまま死神の給金となり、白鳥はこれを用いてスクライア商店で買い物をしている。

 早速白鳥から伝令神機を拝借し、ユーノは端末に記録されている昇華済みの(ホロウ)のデータを事細かくチェックし始めた。

「『コザァートK』追加給金0環。『リリムタックス』追加給金70環。『レックスボーン』追加給金100環。どれもこれも小物ですね・・・白鳥さんらしくないですよ」

「私だっていつも大物を仕留められている訳ではない。プロの釣り師が毎回素晴らしい釣果を出せないのと同じ理屈だ」

「そうですか? 僕は釣った魚は絶対に逃がしませんけどね」

「誰も主には聞いておらぬのだがな・・・」

 例え話で釣りの話をすれば、何故か浦太郎が食い付いてきた事に白鳥は若干の戸惑いを見せた。

「お」

 するとしばらくして、ユーノはリストの中に入っていた一際値段の高い(ホロウ)を見つけ驚愕する。

「すごいですよ白鳥さん、やるじゃないですか。『インフェルス』追加給金30000環。これはかなりの大物ですよ!」

「ああ。そやつは生前所謂サイコパスで死神と魔導師をそれぞれ喰らっているからな・・・斬った瞬間、地獄の門が現れ番人共に連れて行かれた」

「へぇ――――――地獄へですか。あそこやっぱり怖いところですよね・・・・・・」

 どこか棒読みのユーノ。そんな彼を些か不審げに見ながら、白鳥は話題を変える。

「・・・ところで、前々から注文しておいたモノが届いていると思うのだが?」

「ああ! 届いてますよ! 浦太郎ー! 持ってきてくれるかい♪」

「えー・・・僕がですか?」

「持ってきてくれるよね♪」

「はっ・・・はいっ! 喜んで持ってきまーす!」

 二度目は無い・・・先ほどのユーノの言葉が脳裏を過る。

 笑顔の威圧を向けるユーノの命令に従い、浦太郎は冷や汗をかきながら急ぎ足で倉庫へ白鳥が注文していた物を取りに行った。

 浦太郎が取って来た物の中身を確かめる為、白鳥は茶色の包みに入って梱包されたものを恐る恐る覗き込む。

「・・・ふむ。確かに私のもので間違いないようであるな・・・」

「・・・あんまり疑った言い方しないで下さいよ・・・それを取り寄せるのに結構苦労したんですから・・・」

「・・・・・・・・・わかっておる。では、ありがたく貰っていくぞ」

 目的を果した白鳥は、大事そうに包みを抱えながら商店を出て行った。

 店から離れていく白鳥の後姿を見つめていた鬼太郎は、ふと気になった事をユーノに尋ねる。

「店長・・・前々から気になってたんすけど。鳥のヤツ、毎度毎度なにを注文していくんすか?」

「あぁ。コーヒー豆だよ」

「コーヒー豆!?」

 てっきりいかがわしい霊的商品でも取り寄せ、人知れず自慰行為にでも励んでいるとばかり決めつけていた鬼太郎の予想の斜め上をいく回答だった。

「ブルーマウンテンの丸豆を厳選した物なんだ。白鳥さん無類のコーヒー好きでね。知り合いの喫茶店を通じて取り寄せたんだ」

 ユーノが説明した直後、遠く離れたところで、白鳥はふと足を止める。そして梱包された袋から微かに薫るコーヒー豆の臭いを堪能する。

「ん~。やはりブルマンのピーベリーは最高であるな・・・」

 

           *

 

 松前町から然程遠くない東京の中央近く、都会の喧騒を離れた郊外に【空座町(からくらちょう)】という町がある。

 ごくごく平均的な街並。平穏な空気に包まれた日常に、住人達は平和な日々を過ごしている。

 この町の中心部に位置する小さな診療所があった。

 名を「クロサキ医院」―――・・・。

 

           ≡

 

空座町 南川瀬 クロサキ医院

 

「はーい、次の方どうぞー」

 少々不貞腐(ふてくさ)れた様な返事で次の患者を迎え入れるオレンジ色の頭髪の医師で診療所の院長・黒崎一護。医療大学を卒業した後、内科医であった父・一心(いっしん)と同じく医者の道を志し、僅か25歳で実家である病院を継いで院長となったやり手。

 現在は高校時代からのクラスメイトで恋人だった織姫と結婚し、夫婦でこの診療所の切り盛りをしている。

 今日も忙しなく病を抱えた老若男女を診察していく。常に眉間に皺を寄せる表情から初めて訪れた者は若干怖がったりもするが、ぶっきらぼうに見えて気遣いのある丁寧な仕事振りから徐々に患者が心を許していくと言う。

「大分良くなってきてるな・・・よし、今日から薬減らそうな坊主!」

 力強い一護の言葉を聞くなり、診察を受けていた子どもは嬉しくなり、満面の笑みを浮かべる。

「わーい! ありがとうございます、黒崎センセー!」

「先生、本当にありがとうございます」

 隣に座る母親も顔を綻ばせ一護に感謝する。

「別に礼なんかいらないっすよ。俺は特に何もしてないし・・・病気が良くなったのはその子が頑張ったからです」

 あまり他人に褒められる事に慣れていない一護は、ややはにかんだ笑顔を浮かべその場を乗り切る。

 やがて、午前の診療が終了した。カルテのチェックをしていた折、妻の織姫が一護の元へとやってきた。

「あなたー! 電話入ってるよ、ユーノさんから!」

「おお。サンキューな織姫」

 一護は机の上に置かれた内線用の受話器を手に取り、おもむろに耳へと当てる。

「おお、俺だ」

『あ、どうも一護さん。ユーノです・・・お久しぶりです』

「久しぶりつってもちょくちょく電話もメールもしてんじゃねえか・・・ひょっとしてあれか、俺の声が恋しいとか言うんじゃねえだろうな? まさかと思うけどお前にそんな趣味があったとは思いたくねえんだけど」

『ひどい! ひどいすぎる! 一護さんにそんな風に思われていたなんて~~~!! 確かに僕は一護さんと違って男っぽくないし、女顔だし・・・』

「わ、悪かったよ! 冗談だよ今のは! 気に過ぎなんだよ! あぁ・・・・・・よーしわかった! 今度一緒に飯食いに行こう! 俺のおごりだ! 好きなもん食わせてやるぞ!」

『あはは・・・別にそこまで気を遣わなくていいんですよ。師が弟子に気を遣うなんて聞いたことありませんから』

「俺だって弟子に気を遣うような事なんてしたくねえよ。俺がそうしたいって言ってるんだからおごらせろよな」

『ではありがたくご享受いたします。()()

「わかればいいんだよ。()()()()。はははははははは」

『はははははははは』

 初めて出会ってから月日は四年も過ぎている。

 しかし、二人の間に出来た師弟と言う名の絆は今なお強く繋がっている。この二人の間にどんな師弟関係があるのかを垣間見るのは、また別の機会に取っておくとしよう。

『・・・ああ、ところで話は変わるんですが、実は例の件で一護さんに相談しておきたいことがありまして。今晩お時間いただけないでしょうか?』

「今夜か?」

 言われた一護は、机の上に置かれた手帳を捲り上げスケジュールを確認する。

「え~~と・・・ちょっと待てよ・・・・・・おお、特に予定もないし大丈夫だと思うぜ。分かった、晩飯食ったらそっちに行くわ」

『ありがとうございます。ではお待ちしておりますね』

 ピッ・・・。電話を切り終えると、ナース服姿の織姫が近付き訝しげに一護へ尋ねる。

「ユーノさん、何だって?」

「例の件で俺に相談したいことがあるから今晩来てくれって。晩飯食ったらちょっくらユーノのところに行って来るからよ」

「うんわかった。でも・・・あなたに相談したいってことは、ひょっとして死神絡みのことかな・・・? それとも・・・?」

「なんだっていいさ。弟子が相談乗って欲しいって言ってんだ。師がそれに応じない理由は()えだろう」

 どこか嬉しそうな表情を浮かべるとともに、一護は机の上に飾られてある一枚の写真立てを見つめる。

 写真立てには以前にユーノと一緒に撮った写真があり、一護の隣に写る彼の表情はとても穏やかで、曇りのない笑みを浮かべていた。

 

           *

 

 次元世界には《古代遺物(ロストロギア)》と呼ばれる人知を超えたオーバーテクノロジーがいくつも存在しており、管理局は次元世界の平和の為に古代遺物(ロストロギア)を保守・管理している。

 だが広域指名手配された技術者型の次元犯罪者は、こうした古代遺物(ロストロギア)を秘かに使って大規模な実験を行っている。

 ジェイル・スカリエッティはその典型であり、彼の新たな計画の始動はたった一つの小さな欠片にも満たない物質から始まった。

 

           ≡

 

ジェイル・スカリエッティ 地下アジト

 

 巧みに管理局の行方を掻い潜り逃亡を続けるスカリエッティは、現在地下に造られたアジト件ラボラトリーにいた。

 ラボには生体兵器と思しき物がポッドと呼ばれる容器に入れられ瓶詰にされている。

 常時不敵な笑みを浮かべる彼だったが、そのとき一報が届いた。

 モニター画面が映し出されると、画面中央には拘置所から共に脱獄を果たした戦闘機人の一人で初期制作機(ファーストロット)のナンバー1《ウーノ》が報告する。

『ドクター。アンゴルモアの反応が出ました』

「そうか。して、クライアントからは?」

『管理局にアンゴルモアが捕獲されれば我々の努力も水の泡。何としても管理局よりも先にアレを見つけ出せとの事です』

「やれやれ・・・芸術に時は存在しないという事を少しは理解して欲しい物だ。アレの力は私の理解と想像を遥かに超えている。あのような物を作りだした人間が本当にいるのかと些か信じがたい話だが・・・・・・いずれにせよ焦らせないでほしい、そう一言伝えておいてくれるかい?」

『承知しました。それからもう1つ懸念が』

「なんだね?」

「翡翠の魔導死神と呼ばれる者が我々の邪魔を』

「ふむ。管理局の刺客か・・・いや、彼らならもっと公に動く筈だ」

『巧みに管理局と我々の追跡をブロックし、各世界での出現記録自体もすべて抹消されています。誰にせよ、敵に回したくない存在かと』

「気にはなるが、今は放っておこう。アンゴルモアを探すことが先決だ。そしてその為の戦力は既に整いつつある」

 決して遅れは取らない。それが彼のモットーであり、策略である。

 無限の欲望をこの身に宿した歴史上類を見ない天才―――その野望の果てに彼が見ている未来とは何か。

 それを知る者は彼をおいて他にいない。

 

           *

 

第97管理外世界「地球」

東京都 松前町 スクライア商店

 

 午後7時―――。

 営業時間が終了したスクライア商店メンバー、居間で食事を摂りつつのんびりテレビを見ていた。

『ワイハンスプレゼンツ! WBO世界ヘビー級タイトルマッチ! 世界チャンピョン・茶渡泰虎(さどやすとら)のこれまでの戦いを振り返っておきましょう!』

「おい熊、亀も視ろよ。()()()が映ってるじゃねーか!」

「あぁホントだ。間違いないね」

「凛々しい御姿ですな。まさに世界王者の名に相応しいです」

 三人の注意を引いたのは、日本人ながら全階級を通じて“世界最強”と評価されている《茶渡泰虎(さどやすとら)》、通称チャドという男の存在。50戦負け無し、KO率は91.8パーセントと言う驚異的な数値に世界中が震え上がった。

「店長は茶渡泰虎選手はご存知でしょうか?」

 金太郎が興味本位で問いかけると、ユーノは「もちろん知ってるよ」と即答し、意外な事を口走る。

「だってその人、一護さんの中学時代からの友人だもん。僕もたまにメールでやり取りしてるしね」

「え・・・えぇぇ―――!!! あのオレンジ頭と世界のチャドがまさかのマブダチ!?」

「しかもちゃっかり店長、世界チャンピョンと連絡取り合ってるって言ったよね・・・・・・!」

「最近は忙しくてほとんど返事は無いけどね。でも都合が合えばいくらでも話す機会はあるから・・・ごちそうさま」

 一人食事を済ませると、ユーノは身支度を整え外靴を履く。

「ちょっと外出てくる。風呂は先に入っててくれ」

「いってらっしゃいませ」

 外出したユーノを見送った後、浦太郎と鬼太郎は互いに顔を見合わせ、今以て分からない事だらけのユーノについて思案する。

「つくづくうちの店長って・・・謎めいていると言うか・・・素姓の知れないというか・・・」

「たぶん俺たちの知ってることなんてほんの僅かなんだろうな」

「だけどあの胡散臭さはそうそう醸し出せるものじゃないと思うんだよね」

 

           *

 

 松前町のとある森の奥。地響きのような轟音(ごうおん)が鳴り響いていた。

 ドドォーン! ドゴォーン!

 周りの木々は薙ぎ倒され、無惨にも大木が地面に横たわっている。

 そんな森中で、黒装束の着物で腰に帯びた《斬魄(ざんぱく)(とう)》を携えた男が木に衝突、満身創痍の状態でいた。

 黒装束の着物を纏いし者は畏怖の念を込められ、霊達、もとい現世の人間達からはこう呼ばれる―――《死神(しにがみ)》と。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ、はっ、くそ!」

 死神は空ろな目を正面に佇む巨大な存在へと向けながら、震える手で《浅打(あさうち)》と称される刀を握り締める。

 その巨大な存在―――所謂魑魅魍魎(ちみもうりょう)の類である悪霊、(ホロウ)は胸に空いた孔と白い髑髏(どくろ)のような仮面が必ずある。

 (ホロウ)は恐怖に怯える死神に一歩ずつ近付き、不気味な笑みを浮かべる。

『死神でも・・・目の前の死には恐怖するらしいな・・・滑稽(こっけい)なことだ・・・だが、それも次で終わりにする。俺が貴様の命、途方も無い闇の奥底に沈めてやろう』

 (ホロウ)は巨大なその腕を振り上げると、勢いをつけて死神の下へと振り下ろした。

 死神もこのときばかりはもう駄目だと、死を覚悟し目を瞑る。

 しかしそれは、二者にとって思いもよらぬ形で覆されることになった。

 

 ドンッ—――!

 

 振り下ろされたはずの(ホロウ)の腕は死神に当たる直前、何処からともなく飛んで来た青白い衝撃波によって遮られ攻撃を無効化された。

『!!!』

「・・・・・・・・・い・・・・・・・・・今のは・・・・・・・・・」

 死神にも理解出来ない異常事態。訳が分からずただただ困惑していた時、何者かが足音を立てて二人の許へと近付いてきた。

「・・・まったく・・・妙な霊圧が涌き出てるから来て見れば・・・案の定趣味の悪い奴だぜ。それに、そこに居るのはこの町の担当死神だろ?」

 巨大な(ホロウ)を仰ぎ見ながら、歩み寄ってくるその人物は―――夜でもはっきりと視えるオレンジ色の頭髪と、死覇装(しはくしょう)と呼ばれる死神の衣装を身に纏い、背中には巻き布で巻かれた出刃包丁の様な身の丈ほどの大刀を下げていた。

「・・・よう()()()()()。俺のこと憶えてるか?」

 不敵に笑いながら訝しげに自身を見つめる(ホロウ)へと問いかける。

『・・・誰だっ・・・お前は・・・?』

「おいおい、人の顔もう忘れちまったのかよ。まだ四年年しか経ってねーっつうのにつれねえな。まぁいいや。忘れたなら改めて自己紹介してやるぜ」

 言うと、その男は(ホロウ)を見上げながら堂々とした態度で名を名乗る。

「・・・俺は死神代行(しにがみだいこう)―――黒崎一護だ」

『「・・・!!!」』

 名前を聞くなり、死神と(ホロウ)はともに吃驚した表情へ変貌する。

「黒崎・・・一護・・・!? まさかひょっとして、十年前の藍染惣右介(あいぜんそうすけ)の叛乱と霊王護神大戦(れいおうごしんたいせん)でユーハバッハを封じるのに尽力した伝説の死神代行・・・!?」

「お? 何だよ、俺の事知ってるのか?」

「知ってますとも! あなたのことは学院の教材にも載せられておりますし、我が十番隊隊長、日番谷冬獅郎(ひつがやとうしろう)からもお聞きしておりますゆえ!」

「おおそうか。お前冬獅郎のとこの隊の奴だったのか! いや~そうかそうか。連中とも暫く会ってないから俺のこと忘れられてるんじゃないかと思ってたけど、その様子じゃ大丈夫そうだな」

 

 ズドン―――!!

 

「ひっ!?」

 一護が(ホロウ)を忘れて素の笑みを浮かべた時、痺れを切らした(ホロウ)―――サトゥルルナスが腕を地面に叩きつけ一護を威嚇する。

 地鳴りの如くその振動に松前町担当の死神は度肝を抜かれるが、対する一護は至って平静を保っていた。

『・・・成程・・・貴様が()()()()の死に損ないか・・・久しく聞かく名前だったから忘れておった。かれこれ四年も姿を眩ませていたのはどういうつもりかは知らぬが・・・生憎と黒崎一護よ・・・俺は既に貴様になど興味が無い。今宵(こよい)俺が此処に来たのは、あの優男、それに白鳥礼二を捕食するため。貴様にかかずらっている暇は無い。そこを退いてもらおう』

「退けと言われて退く馬鹿が何所にいるかよ。アホかてめぇは」

(うわ~~見た目通りに口の悪い人だな・・・この人・・・)

 若い頃からの口の悪さは幾つになっても直っておらず、その事が客観的に物事を見ている死神をより呆気にさせてしまう。

 そんな折、一護は「それに―――」と口走り、サトゥルナスを見ながら挑発した口調で次のような事を語った。

「てめぇが俺に興味なくても、こっちはてめぇを斬りに来たんだ。相手してもらわないと困るんだよ」

 一護の言葉を聞いた途端、サトゥルナスは山鳴りにも似た不気味な笑い声を上げる。

『ヒ、ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒイヒヒヒヒヒイヒヒヒヒ!! 斬りに来ただと!? 人間風情が大層な口をきくものだ!! よもやお前、俺の事を忘れた訳じゃないだろう? その身に恐怖を刻み込んだのは誰だ!? それに今の俺はお前が思っているようなただの(ホロウ)ではない!! ならば見ろ、これが俺の―――力の姿だ』

 語気強く宣言したサトゥルナスの足元から、霊力とは異なる力―――魔法を発動した際に現れる魔法陣が出現する。銀色に輝くベルカ式魔法陣を展開させると、サトゥルナス自身の体が急速に肥大化。右手には巨大な西洋の剣を握り締める。

 あまりに常識外れ、規格外な光景に死神は冷や汗を流し硬直する。

「な・・・なんてデカさだよ・・・前に教本の挿絵で見た大虚(メノスグランデ)と同じか・・・いやそれよりも・・・」

大虚(メノス)・・・だと? そんな下等種と一緒にするな。俺は―――』

 

「『魔導虚(ホロウロギア)』」

 サトゥルナスが自身と言う存在について説明しようとした折、それよりも先に一護が横槍を入れ、詳しい説明を補足する。

「魔力を手に入れ、死神の力と魔導師の力を併せ持った新種の(ホロウ)の一団。そうだろ?」

『・・・なんだっ。案外博識じゃあないか。ならば・・・』

 言いながら、魔導虚(ホロウロギア)サトゥルナスは右手に握り締めている巨大な剣を天に(かざ)すが如く振り上げ、一護へと見せ付ける。

『この剣に勝てぬことも分かっているだろう』

「何だよその剣!? 斬魄刀・・・なのか!? それよりもムチャクチャなデカサじゃないか・・・」

『そうだっ! ちなみにこの剣は斬魄刀ではなく《デバイス》と言ってな・・・俺の魔力と霊力を限界まで磨き上げて作ったものだっ! 我がデバイスの巨大さは即ち魔力と霊力の巨大さを表す。貴様のその出刃包丁のような 斬魄刀で勝てぬことは自明の理だ、黒崎一護!!』

「・・・そうかよ」

 すると、話を聞いた一護は再び不敵な笑みを浮かべる。やがて余裕そうな態度でこれまで数々の危難を潜り抜けて来た自身の斬魄刀―――『斬月(ざんげつ)』の持ち手に手を掛ける。

「そんじゃ、いっちょやってみるか!」

『・・・どうやらものは知っていても、死神と魔導師の常識も通じぬ馬鹿らしい・・・・・・よかろう。あのときと同じ―――無様に敗北するがいい!』

 一護の誘いに乗ったサトゥルナスはその巨大な剣を一護目掛けて振りかざし、一護もまた斬月をもってサトゥルナスへと斬りかかる。

 

 バシュン―――!

 

 刹那の出来事。死神が状況を理解しかねる中、サトゥルナスの懐へ飛び込んだ一護は、眉間に皺を寄せながら次のように語る。

「基本から教えといてやるぜ。隊長クラスの死神は、全員斬魄刀のサイズをコントロールしてんだ。それにデバイスってのは力を誇示したものじゃない。魔導師が持つ元々の力をより効率的に引き出す為の道具なんだよ。ちなみに俺の知ってる魔導師は、そんなものに頼らなくても巨大な力に振り回される事無く完璧に制御できてるがな」

『・・・ば・・・馬鹿な』

 一護が斬月を所定の位置へと戻した瞬間、サトゥルナスの体は真っ二つに引き裂かれ、そのままその巨大な体を地面に叩きつける様に倒れ込む。

「死神や魔導師の類語るのはそれからだ―――人食い野郎」

身に起きた信じ難い事象に終始理解することなく、サトゥルナスの魂と肉体は斬魄刀によって洗い流されその場から消滅する。

「・・・い・・・一撃・・・・・・ですか・・・」

 サトゥルナス消滅の瞬間をその目に焼き付けていた死神は、噂以上に桁違いな一護の戦闘能力にただただ言葉を失い唖然とした。

(ムチャクチャだ・・・ムチャクチャ強い・・・これが本当にあの伝説の・・・黒崎一護なのか―――・・・?)

「―――やはり此処でしたか。どうです、討てましたか? (かたき)は」

 すると、死神と一護の耳にもう一人別の人物の声が入ってきた。

「・・・来てたのか・・・」

 一護はその声が聞こえた方へと視線を向け、その主の名をおもむろに口にする。

「ユーノ」

 トレードマークの帽子と作務衣と羽織を身に纏い、右手に杖を持ったユーノは一護へと歩み寄り、帽子を押えて軽く会釈する。

「・・・お久しぶりです・・・一護さん」

 

「いやァ。腕は鈍ってなかったみたいですねぇー。安心しました」

「何だよォ? えらく不安タラタラなこと言うじゃねえか」

「そりゃもう♪ 霊圧シボんでて僕のせいにされちゃたまりませんよ」

「あーそうかよ。別に(しぼ)んでてもてめぇの所為にしやしねえよ。それも含めて俺の実力だ」

 飄々とした様子で扇子を広げるユーノに、一護は少々めんどくさそうな表情を見せながら、改めてユーノの格好に対する苦言を口にする。

「つーかユーノさ、いい加減その浦原さんみたいな格好やめろよな」

「いいじゃないですか。僕気に入ってるんですよこれ」

「お前が気に入ってても俺が気に入らねえんだよ。なんか見てるだけであの人のコト思い出すんだよ」

「・・・何かされたんですか?」

「何もされてねえよ! 深読みしてんじぇねえ!」

 妙にムキになっている節が益々怪しい。きっと過去に自分の想像の及ばないようなことをされたのだと内心思いながら、ユーノは話題を切り替える。

「で・・・どうですか? 四年ぶりの死神の体は」

「まあまあだ」

「・・・心は・・・・・・晴れましたか?」

 その問を受けた直後、一護は少しの間を作り、思案した末に「・・・まぁまぁだ」と、やはり同じ答えを口にする。

「・・・今となっちゃそれほど恨んじゃいねえんだよ。あんな人食いのことは。俺が、この四年の間で欠片も晴れねえほど恨んでることがあるとすれば・・・・・・それはあの日、織姫を守れなかった俺の無力だけだ」

 聞くや、ユーノは“ああ、やはりか・・・”といった表情を見せる。どこか安堵した答えを聞けた後、帽子に軽く手を添える。

「変わらないですね・・・そういうとこ。でも少しほっとしました」

 ようやく自分が強烈に憧れ羨望した男が自分の目の前に戻ってきたと安堵し、ユーノは表情を和らげる。

 閑話休題。帽子を押さえ雰囲気を一変させると、ユーノは真面目な表情と声色で一護に電話で話した事を持ち出す。

「・・・それより、今日会って相談したいことの中身なんですけど・・・多分もう気付いていますよね?」

 ユーノに言われるや、一護も眉間の皺を寄せて「・・・ああ」と返事をする。

「お前の読み通り、接触しようとしてきたんだよ・・・“白鳥礼二”。それに“お前”にもな」

「やはりそうですか・・・」

「白鳥は護廷十三隊一番隊所属の死神で、突発的に魔力を手に入れてしまった死神兼魔導師―――所謂“魔導死神(まどうしにがみ)”だ。おめぇが突発的に霊力と死神の力を手に入れたのと同じようにな。何故そうなっちまったのか原因も一切不明。厄介だぜ」

「・・・けど、僕や白鳥さんに接触しようとしてきたということは・・・」

「あァ。連中も何らかの戦いの準備をしてるってことだ―――俺たちと同様にな」

 二人の間に一時の沈黙が流れる。死神はただただ事の成り行きを見守るしかなかった。

「・・・恐らくお前や白鳥を引き込み戦力を整え詳しく研究するつもりだったんだろうぜ。それに、今回の件に関しては恐らく尸魂界(ソウル・ソサエティ)の連中も感付いてるだろうさ。ただの(ホロウ)からの突然変異―――とどのつまり“魔導虚(ホロウロギア)”への変貌にな」

「やっぱりさっきの(ホロウ)は・・・魔力を手に入れた(ホロウ)・・・“魔導虚(ホロウロギア)”なんですね」

「あァ。今迄も、輪廻の理に外れて自然発生した魔導虚(ホロウロギア)らしき存在は時々感知されてきたが、今回のは今まで確認されてきたどの魔導虚(ホロウロギア)()()()共とは完成度がまるで別物だった。《魔法》と《霊力》・・・相反する二つの力。本来出会うはずの無かった二つの世界の境界が人為的に打ち破られ魔導虚(ホロウロギア)なんて化物が生み出された」

「・・・・・・」

「・・・お前だって解ってんだろ? この異常事態はつまり―――」

 ふぅと溜息を吐くと、一護はユーノに向って一人の次元犯罪者の名を口にする。

 

【挿絵表示】

 

「『ジェイル・スカリエッティ』―――稀代の天才にして次元犯罪者であるそいつが何らかのやり方で“(ホロウ)”や“魔導虚(ホロウロギア)()()()に接触し、真の“魔導虚(ホロウロギア)”を作り出そうとしてるってことだ。『古代遺物(ロストロギア)』の力を使ってな」

「ご推察お見事です」

 見事な一護の洞察に脱帽するユーノだが、事態は極めて由々しきものであり、この状況を野放しにする事は出来ないでいた。

「別世界の軌道拘置所から戦闘機人っつーのと一緒に脱獄したって言うのは本当だったらしいな・・・」

「・・・僕も正直驚いてますよ。まさか、スカリエッティ一味が鉄壁と称される軌道拘置所から脱獄を成功させるとは・・・到底思ってもいませんでしたから」

「そりゃそうだろうぜ。まぁ、それはともかくだ。現状では魔導虚(ホロウロギア)は完成した力じゃねえさ。レベルは桁違いにハネ上がったが、霊圧と魔力の濁り具合で判る。あの人食い野郎は未完成だった。恐らくは『このレベルでどの程度戦えるか』ってデータ集めの為に出してきた試作品だ。今でこそあのレベルだが、『古代遺物(ロストロギア)』の力は絶大なんだろう。奴はすぐに実戦で使えるところまで研究を進めるだろうぜ。そして完成した真の『魔導虚(ホロウロギア)』と、強化された戦闘機人を従えて・・・」

 一拍呼吸を整える。そして一護は、スカリエッティが思い描く最悪のシナリオをおもむろに唱える。

「世界を潰しに現れる」

 世界征服―――などと言う夢想話、そう捕える者はここには一人もいない。ユーノと一護の間にはただならぬ空気が満ちていた。

「・・・どうするよ。俺に隠れてこそこそ動いてるみたいだが、いい加減お前ひとりじゃ限界に来てる筈だぜ?」

 真顔の一護から向けられる鋭い指摘。確かに、ユーノとしても現状を考えれば隠密活動を続けるのにも限界があると感じ始めていた。

 一度帽子を深く被り直し、「・・・なんとかしましょう」と呟く。

「いずれにしろこの事態だ。敵味方はともかくとして、皆動きますよ。尸魂界(ソウル・ソサエティ)も、僕たちも。そして―――時空管理局も」

 

           *

 

 ユーノの思惑通り、二つの異なる組織同士が今回の異常事態に対してある動きを見せ始めていた―――・・・

 

 

尸魂界(ソウル・ソサエティ)

瀞霊廷(せいれいてい) 一番隊舎

 

「今日君をここへ呼んだのは他でもないんだ」

 死神の死神による死神のための治安維持組織《護廷十三隊(ごていじゅうさんたい)》。それを総括する背中に《一》と書かれた隊長羽織の上に女物の着物を羽織り、女物の長い帯を袴の帯として使うなど派手な格好をした無精ひげを蓄えた男―――京楽次郎総蔵佐春水(きょうらくじろうさくらのすけしゅんすい)こと、京楽春水(きょうらくしゅんすい)一番隊隊長兼護廷十三隊総隊長は、おもむろに言葉を紡ぐ。

「今現世において(ホロウ)の突然変異―――えーと・・・七緒(ななお)ちゃん、アレなんて言ったっけ?」

魔導虚(ホロウロギア)です、総隊長。」

 京楽を補佐する副官の一人にして、京楽の右腕とも称される眼鏡を掛けた生真面目な女性・伊勢七緒(いせななお)一番隊副隊長が即答する。

「おぉ、そうそう。その魔導虚(ホロウロギア)とか呼ばれる未確認体が多数出現してるみたいなんだ。既に多数の死神が現世で交戦し殉職者すら出ている。護廷十三隊としてはこの由々しき事態をいつまでも放置しておくわけにはいかない状況でさ・・・」

 言葉を紡ぐとともに、京楽は眼前で恭しく頭を垂れ、片膝を突いて控える背中に《三》と刺繍された隊長羽織に身を包む赤髪の男を見据える。

「護廷十三隊並びに中央四十六室総意の許に本日只今をもって―――“現世における魔導虚(ホロウロギア)の実態調査”及び“魂魄調整の歪みの原因の実地調査”を命じるよ」

「はっ! 護廷十三隊の名に恥じぬ様謹んでお受け致します」

「ふふ・・・君の活躍に期待してるからね。三番隊隊長―――阿散井恋次(あばらいれんじ)

 

           *

 

次元空間

時空管理局本局内部 運用部・第1会議室

 

 同じ頃、時空管理局ではJS事件解決の鍵となった伝説の機動部隊―――《機動六課》の元メンバーだった者達が、クロノ・ハラオウン呼びかけの許、緊急招聘され続々と集められていた。

 部隊長だったはやてを始め、なのは、フェイトを始め、嘗ての苦楽を共にした者達が一堂に会する。

 主だったメンバーが会議室へ集まったのを確認し、クロノは統括官リンディ・ハラオウン、空間ディスプレイの向こう側で列席する聖王教会教会騎士カリム・グラシアに目配せをしてから口火を切る。

 

「―――急な召集に、全員よく集まってくれた。感謝する。それではこれより、ジェイル・スカリエッティ及び古代遺物(ロストロギア)アンゴルモアに関わる緊急対策会議を執り行う」

 

 

 

 

 

 

 動き始める三つ巴の勢力。

 事件は、ここより動き始める――――――・・・

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:久保帯人 『BLEACH 2・21・22・74巻』 (集英社・2002、2006、2016)

原作:小森陽一 作画:藤堂裕『S -最後の警官- 1巻』 (小学館・2010)

 

用語解説

※1 環=尸魂界(ソウル・ソサエティ)における貨幣単位

※2 WBO=世界ボクシング機構の略

 

 

 

 

 

 

魔導師図鑑ハイパー!

 

虚「グアアアアアアアアアアアア!!!!」

 松前町に(ホロウ)が現れる。それに立ち向かうのは――――――

観「喰らえ!! ゴールデン観音寺弾(キャノンボール)!!!!」

 人気タレント「ドン観音寺(かんのんじ)」は、手から霊力の塊をぶつけるが軽く弾かれてしまう。そこへすかさず・・・・・・

ジ「ジン太ホームラン!!」

 後ろからジン太が殴りかかる。そして、止めの一撃。

夏「いくぜ! たつきちゃん直伝!!! 夏梨流絶命(かりんりゅうぜつめい)シュート!!!!」

虚「ホ、ギャアアアアアアアア!!!!」

 自前のサッカーボールで(ホロウ)を消滅させる。

観「ミッションコンプリート!!」

夏「やりー!! 絶好調!!!」

 そんな三人の様子を物陰で覗く白鳥。と、そこへ・・・

有「何コソコソ見てるのあんた? 気持ち悪い」

白「な、何っ!?」

 死覇装姿であり、霊力の無い人間には視認する事さえできないはずの白鳥は、冷ややかな目で自分を見つめる女性・有沢たつきに大いに驚愕する。

一「おい。魔導師図鑑じゃなかったのかよ?」

ユ「て言うか、全然魔導師関係ないし」




次回予告

ユ「いや~なんだか大変な事になって来ましたね」
一「大変なのは次の回の方だ。鬱陶しい奴が尸魂界(むこう)からやってくるんだよ・・・」
ユ「鬱陶しい奴? ああ! はいはい! もしかして、あの人ですね♪」
一「ったく・・・なんで毎回毎回俺の家に来るんだよ・・・」
ユ「案外織姫さん目当てなんじゃ?」
一「だとしたらマジでぶっ殺す!!」
ユ「次回、ユーノ・スクライア外伝・・・『野良犬隊長、見参!』。お楽しみに♪」
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