ユーノ・スクライア外伝   作:重要大事

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第24話「遅れてきた賢者」

一か月前―――

次元空間 時空管理局本局 第四技術部

 

 スカリエッティと機人四天王によって引き起こされる魔導虚(ホロウロギア)事件の渦中―――機動六課首脳陣は挙ってリンディの呼び出しを受けた。

「あなた達に集まってもらったのは他でもないわ。みんなには事前に知っていてほしいの。このLEツール―――通称“リンカーエクストリーマー”の危険性について」

 ミッド文字で『LINKER EXTREAMER』と表記された前方に鎮座するポット型の弾丸状の巨大装置。

 それを目の当たりにしたなのは、フェイト、はやて、クロノらは思わず息を飲む。

「これが絶対的勝利をもたらす鍵!」

「見た目からしてごっつすごそうやわ」

「リンディ統括官、これが翡翠の魔導死神さんから提供された管理局(こちら)側の『切り札』と言うわけですか?」

「ええ・・・。製作者曰くその性能は人智を遥かに超えるとの事よ」

 聞いた途端、挙って目を見開くなのは達。その後マリエルが使用上の危険について詳しく言及する。

「使用回数は一回きり。つまり、万が一このツールを使用しても敵に勝てなかった時はそれこそ、私達の真の敗北を意味するわ。絶大な力と引き換えに生命体の急速な細胞分裂を引き起こすから、使用者の命をも奪いかねない禁断の力でもある」

「リンカーエクストリーマー・・・・・・・・・こんなものを使わなくてもきっちり方をつけたいところです」

 額に汗を掻き、率直な所感を述べるなのはに居合わせた全員が同意する。

 だが、彼らはこのひと月後に遭遇するのである。リンカーエクストリーマーの力を持ってしか斃せないほど強大過ぎる史上最悪の敵と――――――

 

           ≒

 

新暦079年 6月6日

第1管理世界「ミッドチルダ」

首都クラナガン ミッドチルダ首都地上本部跡地

 

 隆起現象を続けるクラナガンの大地の底から浮上する超巨大な物体。

 ヴォルフラムや機動六課のモニターでそれを見ていたなのは達はあまりのスケールに絶句する。

「信じられません・・・高さ300メートル以上!?」

「前に戦った大虚(メノスグランデ)の比じゃない!」

「あの巨大さ・・・そしてこの尋常ならざる霊圧と魔力は!?」

「間違いあらへん・・・・・・あれがノストラダムの予言した、アンゴルモアによってもたらされる恐怖の大魔王や・・・・・・!!」

 確信を持ったはやての顔から噴き出る汗。

 地上本部跡地からその姿を現した地上空前絶後の魔導虚(ホロウロギア)・ジャガンノートは山鳴りのような声を発し、時空管理局やミッドチルダに住まう人間達に宣戦布告する。

『ナッハハハハハハハ!!!!!! クソカスどもが!!! 時は来たぜぇぇ!!!』

 黄昏(たそがれ)に染まるの空の下、身体の至るところから極太の触手のような器官を放ち、ジャガンノートは町全体へと張り巡らせる。

 そうして触手を通じて都市のエネルギーを全身隅々に到るまで吸収―――更なる巨大化と進化を促す。

 瓦礫の町の中、ジャガンノートの姿を間近で見ていた恋次と一護はただただ呆然と立ち尽くし、露骨に顔を引き攣らせる。

「おいおい・・・アイツまだデカくなるつもりかよ!!?」

「・・・十年前、虚圏(ウェコムンド)で戦ったヤミーってつう破面(アランカル)みたいに、どこまでも巨大化していきやがる・・・!!」

 手当たり次第に取り込んだ周囲の機械や魔法物質、空気中を漂うマギオンの粒子を加えて自身の身体を構築する魔王。

 巨大な塔と巨人が融合したような敵の背中に生えた巨大な翼。顔は単眼の生物的なものを連想させる仮面、異様に長く伸びた両腕には十二支を模った仮面のようなものが付いている。極め付け胸部に当たる箇所には巨大な孔が空いていた。

 少しずつ進化を遂げる敵の様子を観察していた機動六課メンバーは終始唖然。今見ている光景が、悪い夢とばかり思いたくなる。

「クラナガンを・・・丸ごと取り込んだのか!?」

「こいつまるで要塞だぜ!!」

「というより宇宙船・・・いえ“次元船”よ! 魔導虚(ホロウロギア)は首都圏に張り巡らされたライフラインと元からある霊力と魔力を使って、巨大な次元船を造ろうとしているわ!」

「くっ・・・吉良さん、恋次さんとの連絡は!?」

 切羽詰った様子で投げかけるはやてだが、吉良の反応は芳しくなく、ただ難しい顔で首を振った。

「シグナム、シャマルにも連絡して、直ぐにヴォルフラムに合流するよう伝えてくれへんか!?」

「了解しました」

「急がなあかん・・・・・・このままではクラナガンに残された住人達は、あの魔王諸共・・・!」

 はやての脳裏に思い浮かぶ最悪の顛末―――ジャガンノートが取り残された人々を連れて次元空間へ飛び出し、その強大な力を持ってして全次元世界を破壊すると言うシナリオだった。

 

 同じ頃―――。

 肥大化を続けるジャガンノートを離れた場所で観察していた魔導死神、白鳥礼二にも緊張が走った。

「ジーザス・・・・・・シューベルトはあのバケモノを『魔王』として思い浮かべたのだろうか。いずれにせよ、あれを倒すのは骨が折れそうだ。果たして我々に魔王を倒すだけの力があるのだろうか・・・・・・」

 敵対するにはあまりにも大きすぎる身体。大きすぎる物質量。大きすぎる霊圧。

 白鳥は全人類を蟻同然として見下ろす遥か巨大な魔王を仰ぎ見ながら、震える腕を必死に抑え込んだ。

 

           *

 

時空管理局LS級艦船 ヴォルフラム内部

 

 ヴォルフラムで治療を受けていた六課メンバーは、モニター越しに映るジャガンノートを観察。かたわら操舵主として搭乗していたルキノがロングアーチと連携して、敵の体内解析を同時並行で行っていた。

『解析したところ、敵・魔導虚(ホロウロギア)は霊力や魔力エネルギーに加え発電所からの供給網を使い内部に膨大な電力をも蓄積させているとのことです!』

「次元空間に逃走する為の膨大なエネルギーを掻き集めてるんだ!」

「我々は、ただ見ている事しか出来ないのか!?」

 

「そいつは違うぜ―――」

 

 力強い言葉が響き渡る。

 重く淀んだ空気を払拭するかのような男の低い声色が聞こえると、一斉に全員が声のする方へ振り返る。

 見れば、ロングコート状に変化した死覇装を着た男・黒崎一護が満身創痍の恋次を肩に担ぎながら立ち尽くしていた。

「一護くん! 阿散井くん!」

「あなた、だいじょうぶ?」

「あぁ。ちょっとヤバかったけど、なんとかな」

 安否を気遣う妻・織姫のもとへ歩みよると、すぐに恋次を吉良へと託し、一護はなのは達の元へ目線を合わせる。

「あなたは・・・・・・いったい何者ですか?」

 ただならぬ霊圧を発し強者たる貫禄を醸し出す一護を見ながら、恐る恐る問いかけるエリオ。

「死神代行、黒崎一護だ。恋次の旧い知り合いで、翡翠の魔導死神の師だ」

「翡翠の魔導死神さんのお師匠さん!?」

「マジかよ・・・!!」

 誰しもが驚き返る話だった。

 無理も無い。魔導虚(ホロウロギア)事件解決の要である翡翠の魔導死神の師匠がこんな年若い男だとは誰も思っていなかった。そもそもの話、彼に師匠がいるとさえ思っていなかった六課メンバーはただただ仰天し動揺する。

「それで一護さん・・・でしたか。肝心の翡翠の魔導死神さんは今どこに?」

 眼前に立つ男の姿を凝視しながらフェイトがおもむろに尋ねる。

「あいつは準備があるっつってまだ来てねえ。だが、あのバカ弟子がクライマックスを見逃すはずがねえ。心配しなくても直に来るさ」

 一護の口から飛び出た言葉ひとつひとつに呆気に取られるなのは達。

 あの翡翠の魔導死神を指して「バカ弟子」と称する豪胆さから、彼と翡翠の魔導死神が深く通じ合っているのだと確信する。

「ま。本命の魔導死神は遅刻しちまってるが、代わりにもう一人の魔導死神を連れて来た」

 と、一護が口にした直後に扉が開かれ―――皆の前に姿を現したのは、白鳥礼二だった。

「うむ・・・皆の衆、ご機嫌いかがかな?」

「げっ! てめーは鳥じゃねーかよ!?」

「久しいなピーチガイ。私がいなくて淋しくは無かったか?」

「誰がてめーがいなくて淋しいだと!? 寝ぼけたことぬかしてんじゃねー!」

 大して会いたくもない男がいきなり現れたと思えば、悪しざまに変な仇名で罵ってくる白鳥を前に憤慨する鬼太郎。

 浦太郎は金太郎とともに、「やれやれ・・・またいつものパターンか」、と呆れ返る反面、このどこか懐かしくも思える喧騒に頬の筋肉を緩める。

「部隊長はそこのちびダヌキだっか?」

「ちびダヌキじゃありません! 八神はやてです!」

「どっちでもいいだろう。状況はよく分かってる。今ここでじっとしてても意味がねえ! 俺たちがここでヤツをぶっ潰さねーと、何をしでかすかわかったもんじゃねえ! この数ヶ月の―――いや。二年前の決着をつけるためにも!!」

「でも一護さん、私たちもそうですけど、恋次さんだって治療を受けないと万全な状態で戦うことなんて・・・!」

 と、傷ついた恋次の体調を懸念しなのはが相槌を入れて強く主張する。

「心配すんな。ここには織姫がいるんだ。織姫、恋次の治療とアジャストを頼む」

「任せて」

 一護の言葉を聞き入れた織姫は、盾舜六花が持つ治癒能力『双天帰盾(そうてんきしゅん)』を使って恋次の周りを結界で囲み、即時治療を開始した。

「時間は差し迫ってるんだ! 今戦わなきゃ、また振り出しに戻っちまうんだ! もしもこの場に翡翠の魔導死神がいたら奴も俺と同じ事を言うはずだ。お前らの力は何のためにある? 理不尽な運命を撃ち抜く為の力なんじゃねえのか!?」

「「「!!」」」

 檄を飛ばされ、なのは達の脳は覚醒する。

 自分達がこれまで磨きに磨き上げた力が何の為にあるものなのか。また、その力を磨いて自分達が何をすべきなのか。それを思い出した。

(そうだ・・・・・・私たちの力は理不尽な痛みや運命を切り開くためのものなんだ・・・・・・こんなところで燻ってなんかいられない!)

 改めて魔導師としての責任と成すべき事を思い出したなのは達の瞳に光が灯る。

 先ほどまでと違って覚悟を見出した様子の六課メンバーを目の当たりにし、一護は安堵した様子で表情を和らげる。

『たった今、クロノ提督とシャマル先生も本艦に到着しました。八神部隊長―――こうなったら何が何でも勝つだけです!』

 報告とともに勝利への強い決意を口走るルキノ。

 それを聞いた直後、固い表情ながらはやては戦う決心がついた様子で、閉ざされた口をゆっくりと開いた。

「・・・―――わかった。前線メンバー諸君・・・これより敵・魔導虚(ホロウロギア)との最終決戦に挑む。今この場にいる一人一人が、次元世界の希望だと言うことを忘れないでほしい。機動六課の全勢力を投入する。何としてでも、魔導虚(ホロウロギア)が次元空間に逃走するのを防ぐんや。私達に残された道は・・・・・・“勝利”しかあらへん!」

 すぅーと、息を吐く。

 そして目を見開き、はやては目の前にいる前線メンバーに対し力強く宣言する。

「時空管理局本局機動六課、最終作戦開始ッ!!!」

「「「「「「「「「「「「「「「了解!」」」」」」」」」」」」」」」

 

 救援に駆けつけた一護達は、機動六課メンバーと協力して魔導虚(ホロウロギア)・ジャガンノート殲滅に向けた作戦を開始した。

 日がすっかり沈んだ夜のクラナガンに向けて飛び立つ複数の魔力光。

 管理局による炊き出しで食事を摂っていたヴィヴィオ達の瞳にもしかと、その光景が映った。

「見ろ! 機動六課の魔導師だぜ!」

「クラナガンとボクたちを助けに来てくれたんだね!!」

「「機動六課、ファイトォ―――!!」」

「なのはママ・・・みんな・・・必ず勝って、戻ってきてね」

 一途になのは達の勝利を信じ、ヴィヴィオは天と星、それに聖王にも祈りを捧げる。

 

「勝利を―――・・・信じるしかないわね」

 ヴォルフラムで全員の帰還を信じ、一途に勝利を信じようとするリンディ。

 その隣で、織姫とコンは大切なものを護る為に再び戦う事を決意し、見知らぬ土地で強大な脅威と真っ向から立ち向かおうとする一護の身を案じていた。

「一護くん・・・・・・どうか死なないで・・・・・・」

「織姫さんを泣かせるような事があったら、そんときは一護・・・・・・オレさまはおまえをぜってーに許さねーからな」

 

           *

 

午後8時12分―――

首都クラナガン ミッドチルダ首都地上本部跡地

 

 首都中からエネルギーと言うエネルギーを掻き集め、巨大な体を構築したジャガンノートは空間を歪ませる大音声を発する。

『ナハハハハハハハ!!!!!! こんだけ喰えば問題ねえだろう!!! このまま次元世界も喰っちまおうか!!!』

「そんなことは絶対にさせない!!!」

 やや掠れた声で大魔王の言葉に反発する女性の声。

 ジャガンノートの目論みを死守すべく夜のミッドチルダに集まった高町なのはを始め、機動六課前線メンバーと死神及びスクライア商店従業員で構成された勇士達―――22名がどっと集まった。

『ハッ、来たか・・・クソ虫どもが・・・!!』

 遥かに巨大で大地に根を下ろしたか如くどっしりと構える規格外のバケモノを前に武者震いを起こすメンバー。

 恐怖の余り発汗が一向に収まらない。

 だが、ここで引き下がるという選択肢は元より持ち合わせなどいない。覚悟を決め―――なのは達はデバイスを手にジャガンノートと対峙する。

「全員配置は完了したな! 準備はいいか?」

「俺たちはとっくに準備万端だぜ!!」

 クロノの呼びかけに恋次が力強く返答すれば、各所に点在するメンバーも同様に返事をする。

『ナハハハハハハハ!!!!!! この日が来んのをドンだけ待ち望んでいたことか・・・・・・クソカスどもが、すべての魔導虚(ホロウロギア)の戦闘データを蓄積させたオレっちの力を篤と受けてみやがれッ!!!!』

「こっちこそ今迄の借りをまとめて返してやるぜ・・・―――狒骨大砲ッ!!!!」

 刹那―――狒狒王蛇尾丸を操り、恋次は初手から全力の狒骨大砲を前方の敵目掛けて発射する。

 それに続く形で一護達も各々の必殺技を繰り出す。

 

「ハイペリオン、バスターッ!!!!」  「トライデントスマッシャー!!!」  「〈石化の槍、ミストルティン〉!!」

 

「ブレイズキャノン・フルバースト!」  「〈火龍、一閃ッツ〉!!!!」  「シェアシューテルングスハンマーァァァ!!!!」

 

「一撃必倒ォォォ!!! ディバイン・・・バスター!!!!」  「ファントムブレイザーァァァ!!!!!」  「ストームシュゥゥ―――トッ!!!」  「ライトニングスピアァ!!!」  「フリード、ブラストレイ!! ファイア!!!」

 

「月牙、天衝―――!!!!」  「破道の六十三 『雷吼炮(らいこうほう)』!!!」  「琴線斬奏楽(きんせんざんそうがく)鼓瓜田(つづみかでん)”―――!!」

 

「ダイナミックハリケェェェ―――ン!!!!」  「クラケーントライデント!」 「俺の必殺技、パート4!!!!」

 

 全員一丸となって技を眼前に聳える巨大な敵へとぶつける。

 機動六課による一斉攻撃を受けたジャガンノート。だがしかし、爆風が晴れた先―――彼らの淡い希望を軽々と打ち砕くように無傷の姿を曝け出す。

『ナッハハハハハハハハハハ!!!!!! 何だ今のは!? 痒いぜぇ!!!!』

 

「駄目です! 敵の防御力が高すぎます! こちらの攻撃は全く効果ありません!!!」

「そんな・・・・・・一斉攻撃をもってしてもなの!?」

 機動六課メンバー全員の攻撃を直撃していながら、痛みはおろか痒みとさえ錯覚する常軌を逸した防御能力。

 ヴォルフラム内部でジャガンノートの解析を進めていたシャリオ達だったが、計算結果を遥かに凌駕する基本スペックの高さに戦慄を覚える。

 

『ナーッハハハハハハ!!!』

 戦慄を覚えるのは管制官ばかりではない。

 現在、その無傷の相手と間近で交戦していたなのは達はシャリオ達以上にこの信じ難い事実に衝撃を受けていた。

「今迄の魔導虚(ホロウロギア)とは明らかに核が違う!!」

「あのときのメノスがかわいく思えてきた・・・・・・こいつは神の化身を上回る存在!!」

「まさに魔王・・・・・・恐怖の大魔王や!!」

『ハハハハ・・・・・・クソ虫どもが!!!! これでも食らいやがれ!!!』

 異様に長く伸びた左腕をゆっくりと上げ、ジャガンノートは眼前で呆然自失と化す機動六課メンバーに対し、肥大化した腕を振り下ろす。

 刹那―――腕の一振りで発生する衝撃波【ソニックブーム】によって大地はたちまち抉り返り、今まで体感した事のない衝撃と風圧がなのは達を容易に吹き飛ばす。

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「うあああああああああああああああ!!!!!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 瓦礫の如く無惨にも吹き飛ばされてしまった六課メンバー。リンディ達はあまりに常識の範疇を越えるジャガンノートの力に唖然。

「な・・・何ですって・・・!?」

「腕の一振りで・・・・・・」

「一護たちを弾き飛ばしやがった・・・!」

 

 廃墟と化した真夜中のクラナガン。

 凄まじい振動を発しながら満身創意のなのは達へ近付く大魔王ジャガンノート。

「作戦変更!! みんな、フォーメーションSに移行よ!!」

 直ちにリンディは状況を打破する為の作戦変更を通達する。

 辛うじてリンディの言葉を聞き入れたはやては、傷ついた体を何とか奮い起こし、メンバーの安否を気遣いながら作戦を実行に移す。

「了解です・・・・・・機動六課各員に注ぐ・・・フォーメーション変更! 右翼・スターズと金太郎さん、浦太郎さん。左翼・ライトニングと鬼太郎さん、吉良さん、白鳥さん。一護さんと恋次さんは間隙を突いて中央からの攻撃開始です!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「了解(おう)(ああ)! 」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 新たなフォーメーションシフトへ移行し、スターズ分隊とライトニング分隊は左右からの一斉攻撃を。援護に回った金太郎と浦太郎、鬼太郎、吉良、白鳥の攻撃がジャガンノートの注意を引き付けながら、恋次達の攻撃の隙を作る。

「今よ! 中心を狙って!!」

 充分にジャガンノートの注意を引き付けたのを確認したリンディは、待機していた一護と恋次に攻撃命令を出す。

「いくぜ恋次!」

「おう!」

 一気に加速し、敵懐へと向かって飛んで行く二人の死神。

 狒狒王蛇尾丸の頭頂部に乗った一護は愛刀・斬月に霊力をふんだんに食らわせ、月牙の威力をそのまま刃に留めた状態でジャガンノートの元へと突っ込む。

「月牙―――!!!!!」

「狒牙―――!!!!!」

 

「「天衝ッツ!!!!!!」」

 互いの霊圧を極限にまで高めた二人が編み出した即席の合体技。

 灼熱の炎を燃やすかの如く赤く染まった狒狒王と、その頭部に乗った一護自身から溢れ出る赤黒い霊圧が混ざり合い、膨大な質量へ変化。肥大化した霊圧ごと敵に向って体当たりを決め込む。

「これもおまけだ!!」

 加えてクロノは氷結の杖・デュランダルを用いた冷凍魔力ビームをジャガンノート目掛けて発射する。

 三人が繰り出す大威力攻撃。その直撃を受けそうになった瞬間、ジャガンノートの前方に現れた紫色の魔力障壁。

 飛来するエネルギーを寸でのところで打ち消し、そればかりか―――害意をぶつける三人を左手の一振りで遥か彼方へと弾き飛ばしてしまった。

「「「のはあああああ!!!!!」」」

 勢いよく吹き飛んだ三人は地面へと叩きつけられる。

 離れた場所で観察していたメンバーは依然として無傷のままのジャガンノートを見、冷や汗を流す。

「信じられません! あの三人の攻撃を弾き返すなんて!?」

「それだけ膨大なエネルギーを体内に蓄積させている事なの!!」

 

『ナッハハハハハハハハ!!!!!! もっとオレっちを楽しませろよ!!!!!!』

 鼓膜を(つんざ)くほどの大音声をあげた直後、ジャガンノートは両の手をゆっくりと掲げ始める。それに伴い、瓦礫の山と化した街のあちこちで無数の光が集まり始めた。

「これは!?」

「目くらましのつもりか? 姑息な手使いやがって!!」

「いや違う。これは――――――」

 表情を強張らせ、シグナムが何かを察した直後―――。

 無数の光の粒、厳密に言えばビルの倒壊に伴って生み出された無数のガラス片がジャガンノートの周囲に展開される。

 何をするのかと、固唾を飲んで凝視する六課メンバー。

 すると、ジャガンノートの口腔に集められる赤み帯びた霊圧。これを見た一護は目を見開き全員に警鐘を鳴らす。

虚閃(セロ)だ! 全員気を付けろ!!」

「ここは私たちに任せてちょうだい! ザフィーラ!」

「心得た!」

 虚閃(セロ)を察知した瞬間、シャマルは風のリング《クラールヴィント》を操り、指定空域に発生した攻撃に対し自動で防壁を展開、対象物を護る防御する魔法―――『風の護盾』を展開。ザフィーラも彼女の防御の上に重ねる様に白い結界を張った。

 正確性と強度が高くかなり堅牢な防御魔法。それでも完璧に防ぎ切れるとは思ってもいない。緊張の面持ちの中、いよいよジャガンノートが虚閃(セロ)を放つ。

 だがそのとき、予想外の事態が起きた。

 放たれた虚閃(セロ)は宙に舞い上がる無数のガラス片に反射しながら複雑な軌道を描き、正面にバリアを張ったシャマル達の意図に反して、周囲のなのは達の武器やバリアジャケットを攻撃した。

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ぐああああああああああああ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「「はやてちゃん(主)!!」」

 弾道予測不能な攻撃が六課メンバーを襲撃。これにはシャマルやザフィーラも面を食らうばかりだった。

 

「そんな馬鹿な!! 虚閃(セロ)が曲がるなんて!?」

「マリー、まさかあの光の粒が!」

「そのようです。ビルのガラス片にアルミニウムを瞬間蒸着(じょうちゃく)させ、レーザー反射板として使っています!」

「信じられないわ! すべてを一瞬で計算しているというの!?」

「しかもエネルギーはクラナガン中のエネルギー全てです!!」

 リンディ達も愕然とする人智を超えた驚異的な能力。

 あらゆる物質を体に融合させた事で魔王・ジャガンノートはおよそ人の手では行えないような複雑な演算処理をこなすだけでなく、それによって生み出される強大な力を手に入れたのである。

 

「やってくれるぜ魔導虚(ホロウロギア)のヤロウ・・・・・・だが、勝負はこっからだぜ!!!」

 言うと、恋次は傷ついた体を叩き起こす。

 それに触発された一護やなのは達も傷ついた体を気力でもって無理に起こすと、再びジャガンノートへ向かっていった。

『だははははははは!!!! 何度やっても無駄だぜ!!! オメーらじゃオレっちには一生勝てねーよ!!!』

 天地を轟かせる巨大な咆哮を発し、ジャガンノートは自分を攻撃しようと飛んでくる目の前の羽虫を屠る為、ガラス片を用いた弾道予想不可能な虚閃(セロ)―――【魔王の審判(サタンズ・レフリー)】を再び発動。

 放たれた虚閃(セロ)がレーザー反射板としてのガラス片を伝って予測不能な弾道を描きながら、中空を舞うなのは達、さらには地上のフォワードを情け容赦なく襲撃する。

「「「きゃあああああああああああ」」」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「うああああああああああああああ」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 幾ら攻撃を仕掛けようとも、ジャガンノートの前では全て意味を為さない。

 攻撃しようものならば虚閃(セロ)の餌食となり、攻撃したとしても強力な魔力障壁によって遮られ傷を与える事さえままならない。

 ただいたずらにエネルギーと体力を消耗させ、六課前線メンバーは僅かな時間でダメージを蓄積させていく。

 多くの者が痛みで体を起こすのもやっとの中、なのはは無理を押してレイジングハートを文字通り杖として使って体を起き上がらせ―――この危機的状況に苦虫を踏み潰した表情を浮かべる。

「このままじゃ・・・・・・このままじゃ先にこっちがやられちゃう!! どうすればいいの!?」

 と、口にした矢先―――なのははその身に違和感を覚える。

「なに!? この感覚は・・・―――?」

 今し方彼女が感じた違和感は全員の身にも起こった。

 全身の力が急激に抜け、エネルギーを吸い取られていくような感覚を味わう。

 体を辛うじて立たせていたなのはだったが、次第にそれすら危うくなり、やがて膝を突いて息をあがらせ始める。

「これは・・・・・・レギオン粒子の反応・・・・・・!?」

 発信源は言うまでも無くジャガンノートである。

 敵は甲高い(わら)いをあげながら、全身から強大なレギオン粒子を放出―――この影響を受けた全ての魔導師、死神は悉く戦う力を奪われた。

「何だ・・・・・・力が出ない・・・!?」

 一護も初めて味わう感覚だった。霊力を絞り出そうとしても体に力が一切入らない。意識も次第に遠のき朦朧とし出す。

「くっ・・・これはあのときと同じ・・・俺たちの力が削ぎ落とされていやがる・・・!?」

 苦痛に顔を歪めながら恋次は思い出す。魔力駆動炉ザックームにおいて、以前にも経験した忌まわしき出来事を―――

 

「いけないわ!!」

 モニターを見ていたマリエルは切羽詰ったようにバンっと、手を強く机に叩きつけた。

「マリーさん、これは一体!?」

「何が起こっているというのマリー?」

 織姫とリンディが怪訝に尋ねると、険しい表情でマリエルはジャガンノートの狙いを看破し、説明した。

「体内の非物質粒子レギオンをフルに放出しているんです。元々レギオンとはマギオンを消費する事でしか生成されないもので、マギオンとは相反する性質を持ったエネルギー・・・言わば反物質の関係。両者がぶつかり合えば、対消滅が起こって、お互いに消し合ってしまうんです!!」

「でもそれなら、あの魔導虚(ホロウロギア)だって条件は同じハズでは!?」

「忘れちゃ駄目よシャーリー!  あの魔導虚(ホロウロギア)は、首都中のあらゆるエネルギーを味方につけているのよ!」

 疑問を呈するシャリオを見ながら、マリエルは語気強く諫言(かんげん)する。

「大変です!! 全魔導師及び死神さん達の魔力残量と霊力残量が残り26パーセントにまでダウン! は・・・・・・!! どんどん低下していきます!!」

 アルトは著しく逓減していく前線メンバーの力を数値で見ながら焦りを露わにする。

「早く手を打たないと、全員の力のすべてが消え失せてしまいます!!」

 

 隆起現象を続けるクラナガンの地に根を下ろすジャガンノートが発する死を誘う現代の瘴気・レギオン。それを大量に散布する攻撃【レギオン・レーゲン】を浴びた機動六課メンバーの生命力は著しく弱まり、戦う力を殺ぎ落としていった。

『ダーッハハハハハ! アリんこの分際でオレっちに楯突こうとするからこうなるんだよ!! てめーらの残りの力もぜーんぶオレっちがもらってやるぜ。てめーらの体が干からびるまで喰らい尽くしてやる!! ナッーハハハハハハハ!!』

 本来ならば自分の命すらも投げ打つような危険を孕んだ大胆不敵な戦術でもって、なのは達の魔力と霊力を喰らい尽くそうとするジャガンノートが発する非情な言葉。

 さらに攻撃に拍車がかかった様子でなのは達の意識は急激に遠のき、苦しむ余力すらも奪われ始めていた。

 

「前線メンバーの魔力残量、及び霊力残量ともに7.5パーセントにダウン!」

「東クラナガンの送電システム、止められません!!」

「まさか敵が・・・このような捨て身の戦法に打ってくるなんて・・・!?」

 完全に敵の力を見誤ったと後悔しても遅い。

 事態を目の当たりにしてなお碌に思考が追いつかないリンディだったが、そのとき―――急報が入った。

『リンディ・・・統括官・・・!』

 信じられない事だったが、今まさにレギオン粒子の影響で瀕死とも言うべきはずのなのはからの入電だった。

「なのはさん!!」

 次から次へと予想外な事が続き、最早考える事を放棄したくなるリンディ。そんな戸惑いを抱く彼女になのはは険しい顔で言って来た。

『目には目を・・・・・・エネルギーにはエネルギーです・・・・・・!! こうなったからにはアレ(・・)を使うしかありません!!』

「まさか!!!」

 なのはの言葉を聞いた途端、リンディはたちまち顔を引き攣った。

 脳裏に浮かんだ究極のメガトンツール。使い用によってはアルカンシェルをも上回るとされるそのツールの名を、マリエルは吃驚した声で口にする。

「“リンカーエクストリーマー”を使うつもりなの!?」

『あの魔導虚(ホロウロギア)に勝てる手段があるとしたらそれだけです・・・・・・!』

「「「「「!!」」」」」

 リンディとマリエル、さらには管制官全員の表情が凍り付く。

 当然と言えば当然だ。リンカーエクストリーマーを使えばどうなるかを知らない訳ではなかったからだ。

 だがそれでも、なのはは使用する事に躊躇はおろか、積極的な使用を求めて必死に懇願し続ける。

『おねがいですリンディさん・・・! 使わせてください・・・! だいじょうぶです・・・! 私は不屈のエース・オブ・エース、それに機動六課は最高のエースとストライカーで構成された管理局最強部隊です! 必ず生きて帰ってきます!! ・・・・・・だからお願いです・・・・・・リンカー・・・エクストリーマーを・・・・・・・・・・・・・・・――――――』

 刹那、なのはとの通信が途絶。モニター画面は砂嵐へと変わった。

「なのはさん!!」

「通信質力低下・・・音声・・・届きません・・・」

 悲しみを堪え切れないシャリオは、声を押し殺し双眸から一筋の涙を流す。

 深刻な表情を浮かべ、リンカーエクストリーマーの使用承認を躊躇するリンディ。

 すると、そんな彼女の背中を押したのは他でもない。技術者としてリンカーエクストリーマーの危険性を第一に訴求し続けたマリエルだった。

「統括官・・・なのはちゃん達を信じましょう・・・敵のパワーを上回るには・・・リンカーエクストリーマー・・・・・・それしかありません!!」

「マリー・・・・・・」

 断腸の思いで使用の許諾を訴えかけるマリエルの覚悟の籠った瞳を見、リンディもようやく決心が付いた。

「・・・―――私は賭けるわ。これまでも、幾度と無く奇跡を起こしてきた彼女達の・・・・・・機動六課の可能性に!」

 訊いた直後、リンディの言葉に管制官一同。それに織姫やコンも信じようという強い気持ちを持つに至った。

「では、今こそ封印を解きます!」

 その場に専用コンソールを出し、慌ただしくタッチパネルを操作。マリエルは遠隔でリンカーエクストリーマーの起動画面を出現させる。

「各部問題無し! リンカーブースター、機動開始!!」

「場所を確認! 射出角度算定します。軸合わせ用意!」

 起動が開始され、ヴォルフラム内部に搭載された巨大な弾丸状の最終兵器―――リンカーエクストリマーがゆっくりと動き始めた。

 やがて射出準備が整い、落下地点の算出を終えたマリエルはその旨を伝える。

「準備オーケーです!」

「わかったわ―――・・・リンカーエクストリーマー、出撃、承認ッ!!!」

「了解ッ!!!」

 承認という言葉を聞くや、マリエルは二つの機動スイッチを全身全霊の力で殴りつけるように強く押す。

 その様子を見ながら、織姫や他の管制官はひたすらに祈るを捧げていた。

「いけええええええええええええ!!!!」

 二つある機動スイッチすべてが押された瞬間―――ヴォルフラムの射出口から勢いよく弾丸状の物体が勢いよく飛び出した。

 

「なんだ・・・ありゃ!?」

 真夜中、突如として飛来する一発の巨大な弾丸。

「来た・・・!」

 届けられた最後の希望。地面へと突き刺さった一発逆転の切り札・リンカーエクストリーマーを見たなのは達は一縷の望みを抱く。

『下らねーよ。死ねやカスが!!!』

 リンカーエクストリーマーを見たジャガンノートは鼻で笑い、それを破壊する為に両拳から霊圧を固めたものを直にぶつける技・虚弾(バラ)を連発。

 しかし、ジャガンノートが繰り出す虚弾(バラ)を金太郎の強壮結界が防いだ。

「私の結界はそう簡単には破られませぬぞ!!! 今です、白鳥殿!!!」

「私に命令を出すなど十年早いわゴールデンベアー!!!」

 こんな時でも頑として我を貫く白鳥は空中へ上がるや、解放した琴線斬の『音色辞書』の中から珠玉の一曲を選択―――その音色を披露する。

 

「琴線斬 第六章 十五節『貪欲の家畜(ライブストック)』―――!」

 

 音色が奏でられた瞬間、金太郎の結界の上から施される強化防御膜。ジャガンノートが繰り出す虚弾(バラ)の嵐を完全に防いだ。

「さあ、今がチャンスである!!」

「急いでこの中へお入りくだされ!!! 一護殿もです!!!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「了解・・・!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

「おっしゃー! 一丁やってやるぜ!!」

 六課前線メンバーと恋次と吉良、浦太郎と鬼太郎、さらには救援に駆けつけた一護も送り届けられたリンカーエクストリーマーの中へ次々と入り込む。

 最後に入ったはやては、猛烈な攻撃を必死で防いでいる白鳥達を見ながら堪えるよう懇願する。

「金太郎さん、それに白鳥さん! すまへんけど60秒だけでええんで守り抜いてくれませんか!?」

「60秒だと? 造作もない事だ!」

 自信に満ちた言葉を聞き、はやては安堵したのか全員が待つポットの中へ入り込む。

 彼女が入った直後、扉は完全に閉ざされ―――緑色に輝く特殊なスポットライトを浴びながら、クロノは真剣な表情で全員に語りかける。

「みんな・・・分かっているな。このリンカーエクストリーマーは・・・」

 そう言って手を差し出すクロノ。その上にフェイトが手を重ね合わせる。

「覚悟の上だよ。クロノ」

 フェイトに便乗し、なのはとはやて、この中に入った前線メンバー全員の掌が重なり合わさった。

「管理局のエースとして望むところだよ。クロノ君!」

「それであの魔王を倒せるなら本望や」

「さっさとおっぱじめようぜ!!」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「すべては、魔導虚(ホロウロギア)を倒すために!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 刹那、力強く宣言した全員の身体が神々しい翡翠色の光を帯び始め、これまでに失った魔力と霊力が魂の奥底から蘇る。

 

 

『リンカーエクストリーマー』

 

 それは、人間の体内に封印された高エネルギー集積体を爆発的に高めることによって、魔力や霊力と言った生命エネルギーから派生した特定の力を限界以上まで解放させるアニュラス・ジェイドが造りし最強最後のミラクルマシンなのである。

 

 

「くっ!!!! これ以上はもたん!!!」

 ジャガンノートが繰り出す虚弾(バラ)のパワーに圧倒され、ついに白鳥もその力の前に敗北を喫した。

「のああああああああああああああ」

 白鳥が吹き飛ばされた途端、強化結界が破壊された。ただ一人残った金太郎はこの場を切り抜けようと孤軍奮闘する。

「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」

 アックスオーガ片手にジャガンノートへ単身斬り込むものの、やはり一人ではどうあっても太刀打ちする事は出来なかった。飛んできた虚弾(バラ)を喰らい、敢え無く白鳥同様吹き飛ばされてしまう。

「金太郎さん!!!」

「白鳥ィィ!!」

 モニターで見ていた織姫とコンが悲痛の叫び声を上げた、そのとき。

 リンカーエクストリーマー内部から溢れ出す常識では考えも着かないほど強大な魔力と霊力が一本の光柱となってぶ厚く覆われた雲を突き破る。

 リンディ達が固唾を飲んでで見守る中、リンカーエクストリーマーから出てきたのは―――神々しいまでの翡翠に輝く光を全身に纏った機動六課前線メンバー一同。

 翡翠の柱として形成された魔力と霊力によって雲が突き破られ、隠れていた月明かりが大地を照らし出す。

 

「―――・・・行くぞぉぉぉ!!!!!!」

 究極にまで高められた霊力をひしひしと感じながら、恋次の掛け声とともに全員はジャガンノートへの攻撃を開始した。

 全員は通常の瞬歩や自己加速術式などでは到底辿り着けない高速移動技を披露。ジャガンノートの感知能力をすり抜ける速さで懐へ潜り込む。

「「「はあああああああああ!!!!!!!」」」

 一護と恋次、クロノが先陣となってジャガンノートを攻撃する。

『クソガアアアア!!!』

 三人の攻撃を防ごうとする防御壁を張るジャガンノート。

 だが、今迄の力とは明らかに異なる事をその身をもって実感する。

 しばらくして、堅牢な防御壁に穴が空き、小さな亀裂が走った瞬間―――パリンとガラスが突き破られるように砕け散った。

『何だと!?』

「―――月牙天衝!!!!」

「狒骨大砲ォォ!!!!」

「スティンガーブレイド・エクスキューションシフト!!!」

 リンカーエクストリーマーの作用で爆発的に高められた一護が放つ最強最大の月牙天衝、恋次が繰り出す最強最大の砲撃、クロノは攻撃力を秘めた光弾を刃状にして、それを複数生成・対象を一斉に串刺しにする最強無敵の魔法攻撃をジャガンノートに向けて放つ。

 三人の一斉攻撃によって、ジャガンノートの固い外皮が傷つき、勢いよく血を噴き出す事態に敵は驚きを隠し切れなかった。

『まさか!!!!』

 三人の攻撃に続いでヴォルケンリッター、フォワードメンバー、浦太郎と鬼太郎の怒涛の攻撃がジャガンノートを襲う。

「「「「「でやああああああああああ!!!!!」」」」」

「「「「はああああああああああああああああ!!!」」」」

「「ほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」

 先程までとは何もかもが別格。

 格段に能力が向上した機動六課の攻撃を全身に受け、ジャガンノートの体内を循環する膨大なエネルギーが暴走する。

『ヌオオオオオオオオオ!!!!!! ヂクショウが!!!!!!!!!!!』

 傷つく体を省みず、全員を振り払おうとするジャガンノート。そこへ吉良がすかさず侘助の能力を使って動きを封じにかかる。

「はああああああああああああ」

 振り払おうとする腕を幾度と無く斬り付け、重みの比重で腕が完全に使えなくする。

 腕が封じられた途端、頃合いと見た機動六課メンバーは更なる攻撃を行い、ジャガンノートの肉体を傷つける。

「「「「せやああああああああ!!!!!!」」」」

「「「「「「「はああああああああ!!!!!!」」」」」」」

『ドアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!! クソ虫がぁぁぁぁぁあああああ!!!!!!』

 超速再生能力をもってしても追いつかない怒涛の攻撃。ジャガンノートにとって、今の状態は正に生き地獄そのもの。

 

「これが・・・リンカーエクストリーマーの力なの!?」

 ヴォルフラム艦内で想像を絶する攻撃力を手にした六課メンバーの規格外な強さに終始唖然とするリンディ達。

「反エネルギー体同士がぶつかりあえば、お互いに消滅するのみ。しかし、パワーが上であれば、最後に残るのは・・・―――」

「私は信じます―――最後に勝つのは絶対に一護くん達だって!」

 織姫は神へ願いを捧げる。世界で最も愛する男の勝利を。彼とともにこの世界を護ろうとしている者達の勝利を。

 

「今だなのは、フェイト、はやて!!! お前たちの最強コンビネーションで止めを刺せ!!!」

「「「はい!!!」」」

 リンカーエクストリーマーによる効力が切れるのも時間の問題だった。

 恋次は十分にジャガンノートへダメージを与えたのを機に、止めの一撃を加えるべく空に上がって控えていたなのは、フェイト、はやてに向けて合図を送る。

 空高く上り詰めた三人のエース魔導師は、魔力を限界以上まで上昇させ―――メノスグランデ・エンカルナシオンの時には失敗に終わった最強コンビネーションを眼下の標的・ジャガンノートに対し使用する。

「受けてみい!!!」

「これが私たちの!!!」

「全力全開ッ!!!」

 なのは、フェイト、はやてのデバイスに集められる同じ色の魔力光。その輝きは何よりも美しく神々しかった。

「スターライト・・・・・・!!」

「プラズマザンバー・・・・・・!!」

「ラグナロク・・・・・・!!」

 

「「「ブレイカァァァ―――!!!!!!!!!」」」

 

 刹那―――三人の呼吸が整い、正真正銘最強にして最後の合体砲撃(トリプルブレイカー)が撃ち出された。

 大空より降り注ぐ翡翠に色づく超絶的な破壊能力を秘めた集束砲撃。ジャガンノートは左腕に全エネルギーを集中させ、三人の攻撃を受け止めようとする。

『ノオリャアアアアアアアアアア!!!!!』

「「「はああああああああああああああああああああ」」」

 凄まじいエネルギーとエネルギー同士の衝突合戦。真夜中のミッドチルダに猛烈な閃光が奔った。

『ダアアアアアアアアアアアアアアア』

 純粋な魔力エネルギーの塊であるトリプルブレイカーを己が放つレギオンをぶつけ相殺させていくうち、徐々にブレイカーの威力が弱わり始める。

 勝利を確信したジャガンノートはほくそ笑む。

 だがしかし―――

 

『何だとぉぉぉぉぉ!!!』

 ジャガンノートは目の前の敵に気を取られ過ぎるあまり気付かなかった。

 三人の攻撃をサポートする為に他のメンバー全員がジャガンノートの左腕に向けて集中攻撃を仕掛けていた事を。

 これにより左腕は切り落とされ、三人の攻撃が貫通する。

『ノアアアアアアアアアアアア!!!!!!』

「「「魔導虚(ホロウロギア)よッ!!!! 永遠に眠れぇぇぇ!!!!!!」」」

 勝利への想いと、全員の心が一つに重なり合ったとき―――ジャガンノートの体は全てを呑みこむ砲撃によって姿を消した。

 

           ◇

 

6月7日―――

首都クラナガン ミッドチルダ首都地上本部跡地

 

 新暦はじまって以来最も壮大な激戦が行われたミッドチルダに新しい朝が訪れる。

 クラナガンで起こった異常隆起現象も収まり、街は再び静けさを取り戻した。

 その中心ににて転がり込むジャガンノートの体はバラバラに砕け散っていた。再生する気配のない敵を見ながら、同じ場所に集まり、機動六課メンバーは戦いが終わった事を実感する。

「・・・おわったな・・・」

「・・・ああ・・・・・・・・・ぐっ・・・・・・」

 すべてが終わったとき、全員が苦痛の声を発すると体に共通の痛みを覚える。

 リンカーエクストーマー使用による副作用が出始めたのだ。急激な細胞分裂によって老化現象を引き起こし、その結果皮膚は爛れ、顔を歪め、体中の節々が悲鳴をあげる。

「・・・どうやら・・・リンカーエクストリーマーの副作用が来たみたいや・・・もうこれ以上力を使うことは・・・できへんな・・・・・・」

「俺たちの霊圧も・・・既に無いに等しい状態だしな・・・」

「でも・・・本当に良かった・・・・・・・・・もう・・・・・・ほんとうにこれで・・・・・・・・・」

 

『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ』

 刹那―――全員の目の前に信じ難い光景が映し出された。

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 悪夢の再来とはこの事だろう。リンカーエクストーマーを用いて命からがらの力で倒したはずのジャガンノートと思しき声が耳を劈いた。

 肉片と化した体を一カ所に集め、再生しながら最小限のエネルギーで活動できるよう体のサイズを萎縮させ構造を作り変える事で復活―――なのは達の前に五体満足の姿で立ち塞がった。

「そんな莫迦な・・・!! リンカーエクストリーマーを使ったあの攻撃でまだ死なないのか!?」

『フヘ・・・フヘヘヘヘヘヘヘ・・・イイぜえおめーら・・・最高だぜ・・・まさかオレっちをここまで追い込むとは大したもんだぜ・・・・・・だがよ!! 惜しかったな。完全体でなくてもこれぐらいの力さえ残ってれば、干物みてーなおめーら倒すのなんざわけねえんだよ!!!!』

 ジャガンノートは反動に耐える為、その場に両手を突くと―――口腔内で虚閃(セロ)を生成し、身動き一つ取れない機動六課メンバーへ直に発射しようとした。

「おい・・・この距離で虚閃(セロ)かよ・・・・・・!」

「そんな・・・もうこれ以上戦う力なんて残ってないのに・・・!?」

「くっ・・・ここまでなのか・・・!!」

 誰しもが運命の壁を超えられると信じていた。

 しかし、世界はいつだってこんな筈じゃない事ばかりが起きる。それを身を持って味わう事となった。

 絶望を乗り越える為に戦い続けた戦士達の瞳が諦観に満ちたものへと変わる。

 悔しさに顔を歪める者。死の恐怖に涙する者。何も護れない事への苛立ちを募らせる者。

 そんな中、なのはは掌の中にユーノの写真が収められたロケットを強く握りながら、走馬灯のように今迄の出来事を振り返る。

 

 ―――どうして・・・こんなことになっちゃんだろう。

 ―――どうして置き去りにしてしまったんだろう。

 ―――どうして自分の気持ちに気付かなかったんだろう。

 ―――あんなに大好きだった人を、(ないがしろ)にしてしまったのはいつからだったろう・・・。

 ―――あの頃の方が、余程見えてた気がする。大切なものがなんなのか・・・。

 ―――私の方だった。大切な家族を捨てたのは。あの人は・・・・・・ユーノ君はどんなときだって、ずっと私の事を見守っていてくれた。

 ―――行き場のない寂しさに溺れていた私に・・・魔法と言うかけがえのないものを教えてくれた。

 ―――たくさんの大切な仲間や愛する娘と私を引き合わせてくれた。

 ―――なのに・・・・・・私は・・・・・・。

 

(ユーノ君・・・・・・あなたはもう、こんな薄情でひどいバカ弟子の事は忘れちゃったよね。二人でたくさん魔法の練習をして、PT事件や闇の書事件に立ち向かっていったことも。でもいいの。それでも・・・いいの・・・)

 目前に迫る死にも恐怖など無かった。なのはの胸中にはいつだってユーノがいた。彼の笑顔を思い出すだけで恐怖など消し飛んだ。

(今度は私が絶対に忘れないから・・・もう二度と見失ったりしないから・・・・・・だからお願いユーノ君! もう一度だけ・・・もう一回だけ・・・・・・私に謝るチャンスをください。あなたに本当の自分の気持ちを伝えたいから!)

 一滴の雫がなのはの眼から零れ落ちたとき、神は乙女の願いを聞き入れた。

 

 

「――――――破道の八十九・改変 『燬鷇剿滅神炎炮(きこうそうめつしんえんほう)』」

 赤み帯びた二重の円環より放たれる霊子の大波導が彼方より飛んでき―――。

 虚閃(セロ)を放とうとしていたジャガンノート目掛けて、豪快な轟音をあげて衝突した。

『ノアアアアアアアアアアアアアアア』

 標的ごと呑み込み、大爆風を引き起こすその技はジャガンノートを軽々と吹っ飛ばした。

 突然の事態と自分達の命を救った強大な力の干渉になのは達は一瞬声を出す事さえ忘れかけた。

「今のは・・・・・・・・・」

「私たち・・・・・・助かったの・・・・・・?」

 と、そのとき―――周囲からとある人物の霊圧を感じ取るや、一護は鼻で笑い、ようやくかと言わんばかりに声を発した。

「・・・ったくよう。散々待たせやがって。遅すぎるんだよ! 準備にどんだけ手間取ってんだこのバカ弟子が!!」

 甲高く罵倒しながらもどこか嬉しそうに言う一護。

 刹那、一護から悪罵されたその人物―――翡翠の衣と仮面を身に付けた人物・翡翠の魔導死神は瞬歩でなのは達の元へと移動してきた。

「翡翠の魔導死神さん!!」

 地獄で仏という状況で颯爽と現れた次元世界最強の戦士。

 喜々とするなのはを一瞥したのち、翡翠の魔導死神は背中越しに師である一護へ遅れたことを謝罪する。

「―――すみません一護さん。出来る限りのバックアップを済ませてから来るつもりだったので。しかしさすがに今回は大遅刻みたいですね。このお詫びはきちんと清算致します」

 そう言うと、翡翠の魔導死神はおもむろに被っていたフードを下ろし、隠れていた緑のリボンで結んだブロンド色の長い髪を露わにする。

「あッ!!」

「あれは・・・!」

「まさか・・・・・・!?」

 見覚えある光景が目の前に映ったとき、フェイトにはやて、クロノは目の前の人物と四年前に失踪した人物とを重ね合わせる。

 無論、彼らだけじゃない。彼を知るヴォルケンリッターや恋次達、さらにはスクライア商店従業員、そして何より―――なのは自身が最も驚いていた。

「無事で良かった」

 静かに呟き、翡翠の魔導死神は顔を覆っていた仮面を外すと、おもむろになのはの方へ振り返って見せた。

「―――よくがんばったね、なのは。4年ぶりだね・・・・・・おそくなってごめん」

 優しい声色で呼びかける男を凝視し、夢だとばかりおもいながら、なのはは目を見開きその人物の名前をおもむろに口にする。

 

「・・・・・・・・・ゆ・・・・・・・・・ユーノ・・・・・・・・・君・・・!?」

 

 

 

 

 

 

教えて、ユーノ先生!

 

ユ「今日は、一護さんについてだよ♪」

「僕の師である一護さんは表向きは空座町で町医者を務める開業医(外科医)だけど、その正体は嘗て尸魂界(ソウル・ソサエティ)で大罪を犯した藍染惣右介元五番隊隊長の叛乱を鎮圧し、滅却師(クインシー)の始祖であるユーハバッハによる世界の崩壊を防いだ伝説の死神で、その特異な出自ゆえに霊力の高さは群を抜いている」

「諸事情で二年ほど死神代行業を休止していただけど、今年の三月から再び活動を再開。現在は高校のときのクラスメイトで盾舜六花の霊能力を秘めた井上織姫さんと結婚して、一緒に医療の道に携わってるんだ♪」

 あ、そうだ―――。そう呟いたユーノはこの場に一護がいないことを確認してから、にししし・・・という笑みを浮かべる。

ユ「おっほん。ここだけの話をしてあげようか・・・一護さんが織姫さんと結婚を決意した際に言ったプロポーズの言葉はね―――・・・」

一「だあああああああああああああああああああああ!!!!!」

 明るみになろうとした瞬間、赤面した一護がどこからともなく走って来た。

一「おいやめてくれユーノッ!!!!! それだけはぜってー言わないでくれ、お願いだから!!!!!」

 かなり必死の一護の懇願を敢えて聞き流し、ユーノは一護の声色を真似て当時のプロポーズを再現する。

ユ「俺が・・・・・・どんなときでも・・・お前のそばを全力で・・・」

一「わ、分かったぁぁぁ!!!!!! おまえんところの商品全部買ってやるからよ、見逃してくれッ!!!!」

ユ「へへ。毎度どうも~♪♪」

一「くうぅ~~~!!」

 浦原喜助並みに性質の悪い性格になってしまった愛弟子の手のひらに踊らさせる惨めな立場を心底呪いたくなる一護なのであった。

 

 

 

魔導師図鑑ハイパー!

 

 ジャガンノートとの死闘の末に意識が朦朧とする白鳥。

白(もうダメだ・・・・・・私はここで死ぬのか・・・・・・・・・華麗なる私の活躍をもっと多くの者に見せてやりたかったのに)

 後悔を募らせ目を瞑らせようとした折、白鳥は幻を見た。

 天上より神秘的な光が降り注いだと思えば、純白な翼を生やした天使と思しきものがゆっくりと舞い降りて来た。

白(そうか・・・・・・私を迎えに来てくれたのか。最期の最後に天使の導きを受けられるならば本能と言うもの・・・・・・我が人生に一片の悔いも無し!!)

 天使の加護を受け入れ、身も心もすべて委ねようとした直後―――白鳥は見た。

白「ん?」

 天使の顔がやけにいかつい。

 よくみると、天使は筋骨隆々の肉体にサングラスをかけた大男であり、白鳥の記憶に嫌と言うほど深く焼きついた熊谷金太郎そのものだった。

白「ぬおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 一気に意識が覚醒する白鳥。

 気がつくと、瓦礫の上で倒れていた自分に人工呼吸を施そうとしている金太郎とばっちり目が合った。

金「ム? 気がつきましたか?」

白「いやぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!!!!!!!!!! 夢じゃなかったぁぁぁぁああああああああああああ!!!!!!!!!!」




次回予告

な「いつの間にか忘れてしまっていた大切な人。置き去りにしてしまったあの優しい笑顔」
「だから、もう一度会いたい。会って謝りたい。自分の口で、自分の本当の気持ちを伝えたい―――」
ユ「次回、ユーノ・スクライア外伝・・・・・・『涙』。」
な「ユーノ君・・・・・・こんな私を許してほしいとは言いません・・・・・・だけど、この気持ちは・・・・・」
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