新暦076年7月、10年に渡る司書生活に自らピリオドを打ち、住み慣れたミッドチルダを離れた僕は、各地で遺跡発掘を行うかたわら自分の人生について見つめ直すべく旅へと出た。
旅の最中、僕が偶然に発掘したとある結晶物。
紫紺に色づく不気味な、何か強い力を内包していた事を今でもはっきりと覚えている。
この発掘した物こそ、のちに「悪魔の結晶」と称される
≡
四年前―――
第145観測指定世界 スクライアの集落
何十年振りに僕は生まれ故郷であるスクライアの集落へ里帰りした。
里帰りした一番の目的は、族長や一族の皆にも協力してもらい、自らが発掘した
ところが、それが僕にとって大きな誤算となった。
調査を始めたその日の夜、集落は突然の大火に見舞われた。原因は僕が持ち帰った例の結晶物による暴走だった。
「族長ッ―――!! どこですかァ―――!!!」
まるで悪い夢を見ているようだった。生まれ育った故郷が、地獄の業火に包まれ、生きとし生ける命を老若男女の区別なく刈り取ろうとしているのだ。
しかも悪い事に、僕の育ての親でもある族長が炎の中に捕われていた。
矢も盾もたまらず僕は炎の中へと飛び込んだ。
一刻も早く族長を探すして助け出す。頭の中はそれでいっぱいだった。他の事に気を回す余裕など毛頭に無かった。
魔力を練り、探査魔法を発動させ―――現在位置から場所を特定し、位置が絞れると、僕は族長の元へと走った。
燃える障害物を掻き分け、険しい道のりを進み続けた末、ようやく見つけ出した。瓦礫に埋もれてぐったりと地に体を伏せている族長の姿を。
「族長ッ!!」
のしかかった瓦礫を退かして意識を確かめると、呼吸は酷く衰弱していた。早く助けなければ命の危険もあった。
「今すぐに助けますからね!」
急いで治癒の魔法を施そうとしたが、次の瞬間―――辛うじて意識を取り戻した族長が僕の手を握り締めた。
「族長・・・?」
訝しむ僕の顔を族長は憂いを帯びた表情で見つめ、延命処置を施そうとする僕に首を横に振ってきた。
「私のことは構うな・・・・・・おまえはゆくのだ・・・・・・」
「馬鹿な・・・・・・あなたを置いて行くなんて出来る訳ありません!」
「行くんだ・・・・・・おまえは特別だ。お前は『神』に選ばれし者なんだ・・・・・・」
「何言ってるんですか!? 気を確り持ってください!」
「どの道わたしはもう助からない・・・・・・スクライアの未来はおまえに託す・・・・・・どんなに遠く離れても、私はずっとおまえのそばにいるさ・・・・・・・・・・・・おまえは私の自慢の息子だ・・・・・・・・・・・・」
「族長・・・・・・。」
僕と族長に血縁関係は無い。遺伝子レベルでは間違いなく赤の他人だ。
だが、血は繋がっていなくても家族でいる事は出来る。僕にとって族長は紛れもない家族であり、僕にとっての『父親』と言って差し支えない。
そして、族長にとっても僕が彼の『息子』であるという認識は不変のものだった。
「ユーノ・・・・・・・・・最後の最期でおまえに言えなかったことがある」
死の間際、族長・・・もとい父は薄らいでいく意識の中、僕の目をじっと見据え、やがて双眸に涙を浮かべゆっくりと言葉を吐いた。
――――――「おまえを・・・・・・理解したつもりでいて・・・・・・すまなかった・・・・・・」
溜めていた涙が両頬へと流れ落ちた直後―――僕の腕に抱かれながら、族長は静かに息を引き取った。
「族長? 族長?! 族長! 族長ッ! 族長ッ!! 族長ッ!!!」
激しく体を揺すり、語気を上げて呼びかけるも、族長が僕の呼びかけに答える事は二度となかった。
家族を危険に晒したばかりか、父親の命をも奪ってしまうとは――――――。
ただただ悔しい。自分の無力さが。愚かさが。このやり場の無い遣る瀬無さと、沸々と湧き上がる自分自信への怒りの念。
この罪は何としても
動かなくなった族長の遺体を比較的火の勢いが小さい場所へと退かし、火災の原因となった例の紫紺の結晶物へとゆっくりと歩み寄る。
「・・・・・・僕が火種となって起こった事はすべて僕一人で方をつける」
暴走するエネルギーを抑えるべく、おもむろに右手を翳した僕は、足下と前方に魔法陣を展開し、封印の為の詠唱を行う。
「――――――妙なる響き 光となれ 許されざるものを封印の輪に」
十一年前、ジュエルシードを封印し損ねた魔法を使う事に多少の戸惑いと抵抗はある。
ずっと無限書庫にいた為、魔導師としての活動は十年のブランクがあるし、当時の僕にはあの頃のような自信も無く、レイジングハートも無く、本当にただ魔法がちょっと使える程度の男でしかなかった。
だけど、それでもやるしかなかった。これは僕に課せられた『罰』なのだから。
「
練られた翡翠色の魔力が紫紺の結晶全体を膜状バリアで包み込み、暴発を繰り返すエネルギーを内部に閉じ込めようとする。
「!」
しかし、程なくして僕の魔力は内側から発生する強大なエネルギーによって崩壊を始め、膜には亀裂が生じる。
ピキピキ・・・・・・パリン。バリアの崩壊と同時に抑えつけられた力が一気に溢れ、僕を丸ごとを呑み込んだ。
「う、うわああああああああああああ!!!!!!!!」
その際、紫紺の結晶は球状から無数の欠片へと砕け、空高くへ舞い上がるとともにあらゆる場所へと飛散した。
◇
新暦079年 6月16日
第1管理世界「ミッドチルダ」
ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画
機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 総合司令室
なのはとの和解から数日後―――
リンカーエクストリーマーの副作用で眠っていた他のメンバーも順次回復し、ようやくまとまった話ができる状況となった。
集まった機動六課メンバーと死神組、一護や織姫を始めとする面々、その他聖王教会関係者などの注目を一身に集める男―――ユーノは、逃げも隠れもせず堂々と立ち尽くしていた。
「何はともあれ一先ず難は去った。さて・・・・・・ほんならユーノくん、いろいろ洗いざらい話してもらおうか?」
「あはは・・・。まるで尋問されてるようだね。ま、こっちは最初からそのつもりだったわけだし。いいよ。何でも聞いてくれたまえ」
「ほんなら遠慮なく――――――ユーノくん、その変な格好はどうしたんや!?」
真っ先に向けられた質問―――それはユーノにとって実に拍子抜けたものだった。
はやてを始め、恐らくこの場にいるほとんどの者が気になっているであろうユーノの身なりに関する疑問。
格好からして既に普通じゃない。正直お世辞にも似合っているとは言い難い奇抜なファッションセンスを率直に尋ねられ、ユーノも正直溜息を吐く。
「やれやれ・・・・・・まさか服のことからツッコまれるとは思わなかったよ。一護さん、そんなに変ですかねこの格好?」
「いやユーノ。そこはまず気付けよ。みんな変だと思ってるから言ってるんだって」
引き攣った表情の一護が未だ自らのファッションが似合っていない事に気付いていない・・・あるいは気付こうとしていないユーノを嗜める。
「まぁいいじゃないですか。僕の格好なんて二・三日も見てればすぐに慣れますって♪ 人間誰しも最初は慣れるのに時間がかかるんです。よく言うでしょ。新しい仮面ライダーシリーズが始まった時、“こんなん認めねぇー! ドライブの方が良かった!!”って、毎回思うでしょ? なのにシリーズが終わる頃にはゴーストとも別れ難くなってる的な」
「あの・・・譬えが全然ピンとこないんですけど」
「俺はものすごくピンとくるけど、その譬えで説明するのはあんまし好ましくないかと思いますぜ店長」
キャロからすれば難解な、鬼太郎からすれば非常に分かり易い譬えではあるものの、『慣れる』という人間の行動心理を説明するにはあまり相応しい例とは言い難かった。
周りのユーノ・スクライアへのイメージは様々だが、少なくとも十年以上昔から交友を持ってきたなのは達は、四年前とは雰囲気から至るところまで著しい変化の見られるユーノに未だ困惑していた。
ただ、いつまでも戸惑っていては話にならない。咳払いをし、リンディが今一度真面目な声色で話を元に戻す。
「まぁ格好のことはこの際は大目に見ましょう。もっと重要な事があるわ。ユーノ君・・・―――私達にイチから説明してくれる。この4年の間にあなたの身に何があったのか? できれば恋次さん達死神さんとの関係も詳しく―――」
問われた直後、ユーノは先ほどまでの飄々とした態度を一変し、本来の真面目な態度に気持ちを切り替える。
「わかりました・・・・・・では、全てを話します。4年前、無限書庫を辞して故郷へ里帰りしたとき、僕は『世界の意志』との運命的な出会いを果しました」
「世界の意志? 確かスカリエッティも同じことを言っていたけど・・・なんなのそれは?」
一週間前、スカリエッティと対話に臨んだユーノが口にしていた単語である事を思い出したフェイトは、怪訝そうに“世界の意志”と呼ばれるものについて問い質す。
「何とも言い表し難い存在ではあるけど、一言で言えば・・・・・・“時間”と“空間”を超越した超高度な情報思念体だよ。とどのつまり、その知性との接触が僕の運命を一変させた」
≒
気が付いたとき、僕はとても不思議な事象を経験した。
「あれ?」
目に映るものすべてが真っ白だった。純粋な白。背景と言うものが何ひとつない、とても奇妙な空間において僕はポツリと佇んでいた。
「なんだ・・・・・・ここは一体・・・・・・」
―――――――――『やあ』
突然、目の前から声を掛けられた。
意識が眼前に向けられると、それまで僕の意識すら認知していなかった奇妙な存在が唐突に現れた。
それは存在していると言えるモノなのだろうか。安直に譬えるならば、透明人間のようなモノが鎮座している。
どこか偉そう。されどどこか自分に近いものを感じられる、そんな奇妙な何かが僕を見つめている。
「君は・・・誰なんだ?」
『よくぞ聞いてくれました。僕は君たちが“世界”と呼ぶ存在。あるいは“宇宙”、あるいは“神”、あるいは“真理”、あるいは“全”、あるいは“一”、そして僕は“君”だ』
「何を・・・言って・・・」
『ユーノ君。今日は君に特別なプレゼントを用意したんだ。
哲学染みた自己紹介から始まったと思えば、初対面の僕に向かってプレゼントを送りつけると宣言する謎の存在。
『君はこの先、心で強く願った事はどんな事でも叶えることできる。心の底からそうありたいと願った事である限り。だけど・・・たったひとつ叶えられない願いがある。それは
直後、背後から言い知れぬ物の気配を感じ取った。
『祝福を受け取るがいい。光であり闇である者よ―――」
言われた後、恐る恐る後ろへと振り返る。僕の後ろには巨大な扉があり、その扉はギギギ・・・という重低音を響かせながら開かれていき―――
刹那、扉の中から確固たる形状を持たない幾つもの腕や目を持ったモノが現れ、僕の体を絡め取り、扉の中に引き込んだ。
「う、うわあああああああああああああああああああ!!!!」
抵抗する事も虚しく、僕は訳の分からないまま、誰でもない奴曰く「プレゼント」と称する恐怖体験を味わうこととなった。
「あああああああああああああああああああああ」
底の見えない空間へと引きずり込まれ、身体の自由が利かない中、かつて経験した事のもの凄い量の情報を直接頭に叩き込まれたような―――そんな感覚に陥った。
「やめろ・・・やめてくれええええええええええええ!!!!!!!!」
頭が割れそうだった。無限書庫で勤務していたとき、徹夜続きで検索魔法を連続行使する事で似たような経験をした事はある。
でも、今回のそれはあの時とは比べ物にならない膨大とも言える情報量だった。
「やだぁぁぁ!!! やだぁぁぁぁぁぁ!!!」
こんな悪質なプレゼントがあってたまるか。あの誰でもない奴は僕に何の恨みがあってこんな事をするんだ?
だけど、それは僕の勘違いだったと直ぐに気が付いた。
ふとした瞬間、僕は頭の中に流れ込んでくる情報から唐突に理解した。
これまでの人生で未だ知り得ずにいた『魔法』の根底にある情報体次元に存在する時間と空間を超越した概念。そしてこれから先の未来に起こり得るビジョンが。
そして瞬時に僕は悟った。これが“真理”なんだ―――と。
≒
現在―――
機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 総合司令室
「それから間もなく・・・・・・僕は時間を遡り、地球で一護さん達と出会い、死神の
「そうだったんだ・・・・・・でもユーノ君、どうしてあのとき“ユーノ君は死んだ”なんてウソをついたりしたの?」
およそ一か月前―――カースドキュラとの戦闘直後、ユーノの安否についてなのはが問い質した際、翡翠の魔導死神に扮したユーノはこう言っていた。
“君の知ってるユーノ・スクライアは、死んだ”と―――。
この発言の意図について、当人はくすっと笑ってから答える。
「別に真っ赤な嘘ってわけでもないさ。実際なのはが知っているのは4年前までの僕であって、翡翠の魔導死神となってからの僕じゃない。旧いユーノ・スクライアは一度死んで、新しいユーノ・スクライアに生まれ変わった。だからあの言葉は嘘であり事実でもあるんだよ」
言われてみれば確かにそうだと思った。なのはの中でユーノのイメージは自身の魔法の師であり、無限書庫司書長の幼馴染―――というある種の固定観念に捕われていたのだ。
「つーかユーノ、おまえ事あるごとにあたしらの窮地に駆け付けて来れたのは・・・どういうわけだ?」
と、これまでユーノが絶妙とも言えるタイミングで仲間の窮地に駆け付ける事ができた理由について、ヴィータは何らかのカラクリがあると睨み問うた。
案の定、ユーノは不敵に笑みを浮かべ扇子を広げるなり、種明かしをした。
「答えは至極単純さ。恋次さんの動きを常に監視してたんだよ。だからみんなのピンチに逸早く駆けつける事ができたんだ」
ブッ―――! 聞いた瞬間、恋次は飲んでいた茶を盛大に吹き出した。
「げほっ、げほっ、げほっ・・・・・・待て待て待て待てッ!!! どういうことだよ!? 俺を監視だぁ!? 初耳だぞ!!」
「そりゃそうですよ。恋次さんに言ったら意味ないじゃないですか」
淡白な口調で返答するユーノの態度が鼻に付いた。
堪らず胸ぐらを掴みかかり、形相を浮かべた恋次は激しく詰問する。
「テメーコノヤロウ! いつから監視してやがった!?」
「ん~~~っとそうですね・・・・・・三カ月くらい前からですかね~」
「つまり最初からってことじゃねーか! いったいどうやって・・・・・・はっ!! そうかコイツか! 俺の伝令神機に細工をした時に!」
一番可能性があるとすれば手持ちの伝令神機だった。
ミッドチルダへ渡った直後、初めてユーノからの入電を受けた時、彼自身が語っていた事を恋次は思い出す。
「やだなあ! 一介のハンサムなのはバカ商人の僕がですよ、盗聴なんてサイテーなマネするわけないじゃないですか!」
「じゃあどうやったんだよ!?」
「ふふふ・・・・・・最初に遭った時、恋次さんはとても素直な性格じゃないかなーって、思いましてね。だから何だかんだ言って僕が渡した物を使ってくれると踏んだんです」
「ユーノさんが阿散井くんに渡した物?」
「ええ。重宝してますよね。その義骸――――――」
言われた瞬間、恋次は察しがついたらしく表情を凍り付かせる。
「ま・・・まさか・・・・・・!」
真っ青となった恋次の顔を見、ユーノは「ふふふ・・・」と、笑みを浮かべてから衝撃的な事実を公表する。
「
「何・・・だと・・・!?」
「あなたの体内に感染させた菌を通して僕は全て見ていましたよ。だからいろいろ備える事ができたんです」
青天の霹靂の如く恋次の脳天に響き渡る衝撃は大きかった。
まさか今着ている義骸にそのような仕掛けが施されているなど微塵も思っていなかったのである。
だが真実を知ってしまった以上動揺しない訳にはいかない。周章狼狽し、恋次は慌てた様子でユーノの胸ぐらを再び強く掴みかかった。
「ま・・・待て!! 監視用の菌だぁ!? しかもよりにも寄って
すると、ユーノは飄々とした笑みを浮かべ答える。
「ご安心ください。恋次さんにしか仕込んでませんから♪」
「俺にならいいって理屈がわからねーよ!! 大体監視ってどの程度まで見えてるんだ!? 普段の俺の私生活も筒抜けだったんじゃないだろうな!? 人権侵害だぞ!!」
「やだなあ♪ 死神は人間じゃないんですから、人権なんてあるわけないでしょう♪」
ブチッ―――。その一言を聞いた瞬間、恋次の頭の血管が切れた。
「殺すッ!! 決めたァ!! こいつ今すぐぶっ殺す!!」
斬魄刀片手にユーノへ斬りかかろうとする恋次。
咄嗟に一護と吉良、金太郎らが三人がかりで恋次を押さえ込む。
「落ち着けって恋次!」
「阿散井くん、やめるんだ。逆らっても無駄だから」
「ウルセー!! 斬らせろ!! 一回斬らなきゃ腹の虫が収まらねーんだ!!」
堪忍袋の緒が切れた恋次を前にユーノは扇子を広げ涼しい顔を浮かべ口笛を吹く始末。
この如何にも他人をおちょくるのに長けた昼行灯が、ユーノ・スクライアだと誰が思うだろうか。少なくとも、なのは達は目の前の男がユーノの皮を被った全くの別人に思えてならなかった。
「えーっと・・・・・・ユーノ君って、こんなキャラだったかしら?」
「いや。たぶん違うと思う」
「4年の間に成りも性格も様変わりしてしまったようだな。悪質な話だ・・・・・・」
次は自分が標的にされるかもしれない。クロノは四年分のしっぺ返しをユーノ本人から受けるのを最も恐れるのだった。
「・・・・・・ま、恋次さんに本当の事を隠して騙していた事は謝ります」
「それ以前に人の体に菌を感染させた事を謝罪しやがれ!!」
「まぁ聞いてくださいよ。僕が恋次さんを監視対象として選んだのは、恋次さんがなのはとの接触回数が最も高い死神と思ったからですよ」
「私と?」
何故そこで自分の名前が出て来るのか。気になるなのはに、ユーノは穏やかな表情で語りかけた。
「強い力を持つ者は強い力を持つ相手に惹かれる。もしくは相手から近寄ってくる。これは自然の摂理だ。事実、恋次さんは機動六課でなのはと行動を共にする機会が最も多く、その度に何らかの事故や事件に遭遇していた。だから、恋次さんの行動を常に見張っていればなのは達の窮地に駆け付けられる・・・そう思ったんだよ」
「そうだったんだ・・・・・・・・・ユーノ君、ありがとう」
と、二人の間で交わされる優しい空気。しかし、その為に実験台にされた恋次は到底承服などするはずも無かった。
「けっ。体のいい言い訳だな。そんなんじゃ俺は納得なんかしねーからな!!」
「でも結構ピンチな状況ありましたよね。聖王教会の一件で限定解除許可を僕が出していなかったら、今ごろどうなっていたことやら~♪」
「くぅ・・・・・・」
痛いところを突くユーノに恋次は返す言葉も無かった。真面に口喧嘩をしても彼に勝てる見込みは無きに等しいものだった。
『あの・・・質問宜しいでしょうか。スクライア元司書長は、あの予言をどこで?』
閑話休題。
映像通信越しに説明会に参加していた聖王教会教会騎士カリム・グラシアからの質問が飛んできた。
彼女が最も気になっている事―――自身の予言能力である【
問われたユーノは一度茶を啜ると、カリムの問いかけに答える。
「世界の意志と遭遇して以来、僕はたびたび災いの前兆を予知夢として見る機会が多くなりました。そして二年前・・・―――見聞を広げる目的で地球のネパールという国を訪れた際、現地で“生きる女神”と称されるクマリ・タルチエからある神託を受けました」
≒
ネパールは国民の80パーセントがヒンドゥー教徒で、何千もの神々が存在する。その中に、クマリと呼ばれる神がいる。
クマリは民間人の中から厳しい状況を満たした2歳から初潮を迎えるまでの美しい少女から選ばれ、生き神して祀るという伝統がある。
クマリは国内に10人ほどいる『ローカルクマリ』と、条件がより厳しい『ロイヤルクマリ』がいる。中でもロイヤルクマリは首相や政府高官でさえ跪く存在で、専用の館で生活している。周りの子どもの様に学校へ行かず儀式以外の日は外にも出ず人々の幸せや健康を願い祈祷している。
ユーノが出遭ったのは、クマリの館で八十年以上初潮を迎えず、容姿も幼子のままという生きる伝説と化したロイヤルクマリ―――タルチエだった。
タルチエは一国の命運を占星術で測る預言者であり、千年に一人の逸材として政府高官にも重宝されていた。
ユーノの場合、一般の参拝客に交じって偶然「クマリの館」を訪れた折、彼女自身の御眼鏡に適ったことがきっかけだった。
≡
二年前―――
第97管理外世界「地球」
ネパール 首都カトマンズ クマリの館
「詩に曰く混沌未だ別れずして、天地乱れ
不思議な雰囲気を醸し出す少女から言い渡された神託を、ユーノは怪訝な顔で聞き及んだ。
タルチエは無表情にユーノを凝視―――手に持つ転経器と呼ばれる仏具を突きつけ、おもむろに呟いた。
「遠き地より現れし魔導と死を司る者の力を操る男。よくぞここまで五体満足で辿り着いたものだ。敬意を表する」
「ど・・・・・・どうしてそれを?」
先見の能力によってタルチエが見通した未来。それは魔導死神であるユーノが必ずやこの地を訪れるというものだった。
困惑するユーノに依然として錫杖を突きつけたまま、タルチエはある不気味な事を語りかけてきた。
「だが油断するでない。お主の命運も直に尽きる・・・その覚悟をもって進むのならば、それもまた星の道だ」
「それは・・・・・・あなたの先見の
「星は違えぬ。その円環は断ち切る事は、仏の意志をもってしても不可能だ」
「生々流転、すべての存在は絶えず移り行き、因果は巡りまた繰り返す。一万年前と同じ軌道を、な――――――」
≒
現在―――
機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 総合司令室
「実に意味深長な言葉だった。そしてその夜、僕は予知夢を見て、朝目覚めると・・・・・・あの言葉を一筆
「じゃあ・・・あの手紙はお前が夢で見たものを書いたっていうのか!?」
「信じられない!」
誰もが衝撃を受けるのも無理はない。
ユーノが予言したものは、彼自身の予知夢が見出した未来の出来事だったのだ。
聞いていた一同は騒然と化す一方、ユーノは極めて冷静な態度を取った。
「どう信じるかは君達次第だけど、あの予言は決して寝ぼけて書けるようなものじゃない。兎も角、この先きっと何かあるに違いない―――そう確信を持ったからこそ、早くに備える事にした。やがて数か月後、地球で
「えっと・・・・・・スクライア元司書長は、いつから今日までの対策をしていたんですか?」
恐る恐るティアナが問いかける。
「予言を知った直後だから、大体二年前だね。各世界の様相を知る必要があったから、色んなところにコネを作る事にした。僕が【アニュラス・ジェイド】として、世に売り出したのもその頃だった。そうして少しずつ情報を得つつもスカリエッティの動静を探り、なおかつ各世界で現れる
言うとユーノは、恋次と吉良、白鳥の方に視線を向けつつ笑みを浮かべる。
「そうだったんですか・・・」
「相変わらずユーノ店長は策士であるな」
「そやけど、こんな短期間にこれだけ万端に近い準備をできたのはどうしてなんや?」
はやてはあまりにも準備が良すぎる状況を却って疑った。
確かにユーノならば自分達よりも多くの情報を得る事はできるだろう。だが、情報を得た=万端の準備となるわけではない。用意周到過ぎるのには、確固たるカラクリがあるだろうと踏んだ。
すると、予想に反してユーノの口から思いがけない言葉が返ってきた。
「ざっくりだが計算していたんだよ。スカリエッティの手元にある
「計算しただと?!」
「だが、
疑問に思うクロノを見ながらユーノは「難しい話じゃない」と口にし、予測した方法について言及する。
「実際の状況と照らし合わせて想定されるいくつかの手掛かりを元に計算した。フェルミ推定という思考ゲームだよ」
「フェルミ・・・なんやて・・・?」
「あとでウィキペディアで調べて欲しい。詳しくは言わないよ」
端的に説明した後、ふぅー・・・と、溜息を吐く。
やがてユーノは周りを見ながらこの数年間に実践してきた事をありのままに語り出す。
「僕はね、今回の事件で起こり得る様々な可能性とそれらへの保険を全て用意し“備えてきた”。いずれ戦いにおいてなのは達の役に立つかもしれないと思ってね」
「“かもしれないと思った”って・・・一体どれくらいの?」
「そうだな・・・確実に1000は超えていた事は自負するよ」
「1000って!?」
「いくらなんでもそれはムチャクチャやで!」
「ムチャクチャ? 馬鹿なこと言わないでよはやて」
刹那―――とりわけ怖い顔を浮かべたユーノは、危機意識の低い周りを嗜めるつもりで低い声で言い放った。
「戦争は遊びやゲームとは違うんだ。敗けたらコンテニュー不可で死ぬんだ。自分達が死なない為に死ぬほど準備することなんて誰だってやってることだろう」
聞いた瞬間、なのは達は挙って絶句した。
このとき、全員がユーノの本当の「怖さ」が何なのか実感した。
ユーノ・スクライアを構成する要素の中で最も畏怖すべきは、予測可能な情報に対して余すことなく備えを行うという周到な性質そのものだった。
どれだけ強大な力を手に入れたかはさしたる問題ではない。ユーノにとって重要なのは使える知識と情報を用いて戦争に臨むという事だった。
ドイツの哲学者ショーペンハウアーの著書『余録と補遺』にこんな言葉がある。
“天才とは、狂気よりも1階層分だけ上に住んでいる者のことである”―――と。
ユーノ・スクライアは確かに、ジェイル・スカリエッティと同じく一般人とは住む階層が異なる稀代の天才であった。
「誰に何と言われようと構わないさ。臆病者とか、小心者とか揶揄するなら大いに結構。ただ・・・物事の着地点を逸早く見極めてそれに対して万全の備えを行う。さらには持ちうる思考能力をフルに使って活路を見出す。僕はそうやって戦ってきたんだ。今も昔もこれからも・・・・・・とはいえ情報は生ものだからね、常に現場で新しい情報が欲しかった。だから翡翠の魔導死神の仮面を被ってみんなの前に時折現れていたってわけだ」
情報を司る部署の元長らしい思考―――いや、これらの思考はすべてユーノが幼少期に過ごしたスクライアの里での経験、無限書庫司書として勤務していた経緯、そして魔導死神として数々の戦いや様々な死地を乗り越えてきた際に培った事だと自負している。
最早驚きや呆れを通り越して、称賛すべき話だった。聞いていた全員が自然と拍手をしてしまう。
「まったく・・・大した男だな」
「たった一人でよくもそこまでの事を」
「一人だったわけじゃありませんよ。一護さんや織姫さん、それにいろんな人に助けられてきたからこそ、ここまでやってこれたんです」
「つってもユーノ、お前言うほど俺らに頼ったりしてねーじゃねーか」
「心外ですね。頼ってるじゃないですか。現に今回は」
「今回以外も普通に頼れって話だよ。ったく・・・お前の今後の課題はもう少し他人を信頼することだな」
「努力しまーす」
自然と交わされる一護とユーノのやり取りを見て、なのははおもむろに聞いてみた。
「えっと・・・ユーノ君と一護さんはいつから師弟関係に?」
「あぁ。こいつと出会った頃から俺がユーノに死神の戦いを教えて来た」
「で、そこからさらに高度な闘い方を覚える為に一護さんの師に当たる方々にもご教授を願ったわけだね」
「つーことは浦原さんや夜一さんにか?」
「浦原さんはともかく、夜一さんにはいろいろ引っ掻き回されましたよ。僕・・・生理的にあの人のあの姿苦手なんですよね・・・」
ふと思い出す修行時代の一コマ。そこで黒猫の姿に変化した夜一から受けた仕置きの数々はユーノにとってトラウマレベルであった。
思わず身震いした直後、腕を見れば発疹が現れていた。
これはマズイと思った瞬間、ユーノは別の話題に話を切り替える事にした。
「さてーと・・・・・・魔導死神として僕が何をしてきたかって言う経緯はこれくらいにしようか。あとはアンゴルモアのことだね」
「アンゴルモア・・・!」
機動六課の重要な役割―――第一級捜索指定の
なのは達は再び気を引き締める様に険しい表情となる。ユーノは周りを見てから、アンゴルモアについて語り出す。
「みんなには知っておいてほしい。あれはただの
「俺らと?」
「どういうことですか?」
訝しむ恋次達を一瞥し、ユーノは周りを見渡しある物を呼び寄せる。
「コンさーん。ちょっと来てくれますか?」
「おいまさか、おまえオレに変なことする気じゃねーだろうな?!」
「大丈夫ですよ。直ぐに終わりますから」
不安に思いながらいつものぬいぐるみ姿で行動するコンがユーノの元へ歩み寄っていく。その様を見ていたなのは達は共通して驚いたことがある。それは―――
((((((((((ぬいぐるみが普通にしゃべってる―――!!!))))))))))
寝ている間、コンの事についてほとんど話を聞かされていなかった者からすれば、ぬいぐるみが人の言葉を話すのはもとより、一人で歩き回る事も異様でしかない。
ユーノはなのは達のリアクションは敢えて無視すると、コンを抱き上げ、嫌がるコンに笑いながら右手の人差し指と中指を突き立てる。
「ほんのちょっとだけの辛抱ですから♪」
刹那、ブスッ―――という音を上げ、ユーノはコンの眼球を直に突いた。
「いやぁあああ~~~~~~~~~!!」
ぬいぐるみが発する甲高い絶叫。
妙に生々しいと思いつつコンを凝視していた折、彼の瞳から光が放たれる。
漏れ出た光はその場に投影され―――皆が注目すると、派手な女物の着物を纏った一人の男性死神が映像越しに話しかけてきた。
『どぉ~~~もォ。イヤ――――――スクライアクンの言うとおりタイミングピッタリだったね、他の皆も揃い踏みでなにより』
「な、なんや?」
「この声は・・・・・・!」
乱れてた映像が徐々に補正されて鮮明になった途端、恋次達は目を見開き驚愕する。
『やぁ、阿散井隊長。吉良副隊長。それから白鳥クンも元気だったかい?』
「「「きょ、京楽(総)隊長!!」」」
映像に映し出されたその死神こそ、恋次達の上司にあたる死神・京楽春水一番隊隊長兼護廷十三隊総隊長だったのだ。
『イヤイヤイヤイヤイヤ、すっかりご無沙汰だったね。まぁ君達の活躍や健勝振りはスクライアクンから届けられる報告書を通じて知ってはいたけど、やっぱり顔を見ない分には分からない事もあるからねー。それにしても阿散井隊長も隅に置けないなー。まさか機動六課がこんな可愛い女の子ばかりのハーレム部隊だったとはねー。是非とも今度ボクに何人か紹介してくれ・・・イテテテ!!』
露骨に鼻の下を伸ばしていた京楽の頬に痛烈な感覚が走る。
見れば、京楽の補佐を務める一番隊副隊長・伊勢七緒が手厳しく制裁を加えていた。
『総隊長。話が逸れています。本題に戻っていただけますか?』
『あたたた。ひどいなー七緒ちゃん。あ、もしかして七緒ちゃん、拗ねちゃったりしてるの? だいじょうぶだよ。ボクの一番は七緒ちゃんだからさ♪』
『セクハラで訴えますよ!』
映像越しに何の夫婦喧嘩なんだ・・・そう思った者は少なからずいた。
事情も分からず突然上司と回線を繋ぐ事となった事態に困惑しながら、吉良は恐る恐る問いかける。
「あ、あの・・・総隊長。事情を説明してもらえませんか?」
『あぁ、ごめんごめん。え―――っと、とりあえず機動六課の責任者はどの子かな? 挨拶ぐらいしたいんだけど・・・』
「あ、はい! 私です! 時空管理局海上司令並びに二等陸佐、機動六課部隊長の八神はやてです!」
京楽に指名を受けたはやては、やや緊張した面持ちで前に出るなり敬礼。
『はじめまして。ボクが
「い、いえいえ! 迷惑だなんてそんな! 恋次さんも吉良さんも私達にとっては貴重な戦力です! 助かってます!!」
「さっきからおまえ緊張しすぎじゃねーか」
「ムリも無い。相手はあの総隊長だ。外見以上に彼女の何百倍もの人生を歩んだ歴戦の勇士なんだ」
「それはそうと京楽総隊長。アンゴルモアが我ら死神とどういう関係が?」
率直に尋ねる白鳥。
すると、京楽は飄々としていながらどこか厄介だと言わんばかりに難しい表情を浮かび上がらせる。
『・・・・・・ボクも未だに信じられない話なんだけどね。阿散井隊長、吉良副隊長。君達に質問するけどさ・・・・・・もしも『崩玉』を最初に造り出したのが浦原喜助以外に存在した、って言ったら驚くかい?』
「「な・・・・・・・・・」」
聞くや目を見開き唖然とする恋次と吉良。
対する機動六課メンバーは、京楽が発した『崩玉』という言葉の意味が解らず、きょとんとしていた。
「あの・・・崩玉って、なんですか?」
「恋次さん達死神の世界で造り出された物質の名前さ。僕らで言う
「どういう事ですか!? 最初に『崩玉』を造り出したのは浦原さんじゃないって事ですか?」
『その通りだよ』
「どうしてそんな事が解るんですか? 確かに、以前ユーノさんからたとえ話を聞かされた事は有りましたが・・・・・・」
「ええ。だから自分で言ってみて気になったんです。そこで
「調べるたってどこを調べたって言うんだ?」
「まさか・・・・・・」
「ええ。そのまさかです。中央四十六室地下議事堂・
≒
三か月前―――
中央四十六室 地下議事堂 大霊書回廊
『
霊王府に次ぐ権力を持つ、
ユーノは京楽に事情を説明し、彼の伝手で大霊書回廊の筆頭司書として四十六室の賢者として名を連ねる
並みの死神でも文献の調査でここへ立ち入った場合、欲しい情報を得るのは至難の業だ。
しかしこの男―――無限書庫初代総合司書長を務めたユーノ・スクライアであれば話は別。彼が操る「探索魔法」と「読書魔法」にかかれば、あらゆる書物が意のままに引き寄せられ、次々と得たい情報を手に入れる事ができるのだ。
「それが自慢の探索魔法と読者魔法かい?」
仄暗い書庫の中で単身捜査に臨んでいた砌―――ユーノの様子見がてら、京楽と七緒が筆頭司書であるナユラを連れてやってきた。
「京楽さん。伊勢副隊長にナユラさんも」
「時間が空いたので私達もお手伝いに参りました」
「というわけでよろしくねー・・・と言いたいところだけど、君の捜索能力にかかればボク達の手伝いは必要ないかもね」
「そんなことありません。ここは無限書庫とは勝手が異なります。正直助かりますよ」
会話をしつつも手は休むことなく書物と言う書物を手繰り寄せ、マルチタスクをフルに使った読書魔法と探索魔法を並行して操る。
四十六室の構成員の中で最年少の存在として、見た目はまだ十歳前後にしか見えない少女・ナユラはユーノの頭上で円環状に浮かぶ書物をマジマジと見ながら目を見開き―――やがて気になった事を問いかける。
「噂には聞いておったが、ユーノ・スクライア・・・貴様は一度にその魔法とやらの力で何冊の本を読んでおるのだ?」
「だいたい30冊前後ですかね。調査を初めて3時間でたった300冊程度ですよ」
「さ・・・三百冊じゃと!? 貴様、それだけの書籍の情報を一度に脳に入れて何も体に異常はないのか?」
「ええ、大丈夫ですよ。無限書庫で勤務してれば誰だってこれくらいの量はこなしますから。でもさすがに司書長時代より精度は鈍ってますよ」
ナユラはナチュラルにカルチャーショックを受けていた。
自らもこの大霊書回廊の司書として多くの書籍や情報を取り扱う者の長として勤務しているが、この男はまるで自分とは別格の存在であると悟らざるを得なかった。
まるで書籍と言う書籍がユーノの手足の如く引き寄せられ、彼の思うがままに情報は取り出されている様は客観的に見ても圧巻であり、ナユラばかりか京楽や七緒もさすがに言葉を失うほどだった。
「つくづくすごい職場なんですね・・・・・・ユーノさんが勤めていた無限書庫と言うのは」
「で、スクライアクン。肝心の発掘状況は?」
「はい。いくつか気になるものは見つかったんですけどね・・・・・・」
そう言うと、探索魔法と読書魔法を一旦中断させ、ユーノはこの3時間で発見した有力な書物を優先度の高い順にリスト化にしたものを三人に見せてやった。
「これは・・・崩玉とそれに付随する研究記録だな?」
一目見て、ナユラはユーノが探し出した情報についてそれが何を示しているのかを言葉にした。
「浦原さんも藍染惣右介も何も無いところから未知の物質を造り出す事は至難の業かと思います。だから、できるだけ古い記録を遡ってそれらしい参考文献を見繕っているんですが・・・」
「しかし本当にあるのかね? 喜助クンよりも前に崩玉を造り出した死神なんて・・・・・・」
「京楽総隊長! これを見てください!」
そのとき、猜疑心を募らせていた京楽の脳に響き渡る七緒の甲高い声。
恐る恐る漢数字で記された書籍の情報を見てみると、ユーノを始め、居合わせた全員がその中身を見て驚愕した。
「この記録は、まさか・・・・・・」
「信じられん。こんな事が!」
「スクライアクン・・・・・・君はつくづくスゴイ男だよ。まさか君の危惧していた事が本当に起こっていたとはね」
「ええ・・・・・・・・・僕自身も怖いくらいですよ」
≒
現在―――
機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 総合司令室
「あの大霊書回廊から情報を探し出したっていうのか!?」
「あそこには
未だ信じられぬ話に狼狽えている恋次と吉良を見、ユーノは不敵に笑いかける。
「発掘と調査は僕の専門分野ですからね。それに、お二人も知らないわけじゃないでしょう。僕が無限書庫の初代総合司書長だった事を―――」
『いやー。スクライアクンの探索スキルはまさに神業と言わざるを得なかったよ。七緒ちゃんやナユラちゃんも正直目を疑っていたからねー』
「
一時期ナユラと関わりを持った吉良も心底驚く話だった。
大霊書回廊の管理を任されている彼女ですら舌を巻くユーノの探索スキルを一度この目で見てみたいと思ってしまった。
「僕はそこで崩玉に関する過去の事象と、そこに付随する可能性の全てを一つずつ細かに調べ上げました。恐らく、浦原さん以前にも同じような研究をしていた者の記録またはそれに関係したものが少なからずあるんじゃないかって。そして見つけました。遥か一万年前―――・・・世界で初めて『崩玉』と呼ばれるものの概念とそれを具体的な形を持った物質として造り出した研究者の記録をね」
言いながら、懐から取り出した透明な袋に入った古びた一冊の資料。それこそ、ユーノが大霊書回廊からナユラの許可の元特別に持ち出した重量文献だった。
「だけど、その『崩玉』というものと・・・アンゴルモアがどういう関係にあるというの?」
「! まさか・・・・・・」
訝しむリンディの隣で、何かを察した一護の表情が一変した。
「察しがついたようですね一護さん。そう――――――アンゴルモアとはすなわち、1万年前に造り出された『崩玉』がこの世界へ流出した折、バラバラに砕け散ったものなんです」
「「「「「「「「な・・・・・・!」」」」」」」」
「「「「「「「「「「「「「なん・・・・・・・・・・・・」」」」」」」」」」」」」
「「「だと(だって)・・・・・・!?」」」
衝撃。
機動六課隊舎に走った衝撃は瞬く間に空気となって部屋全体を支配する。
遥か一万年前、
あまりの事実に言葉も失いかける周りの反応を窺い、ユーノは重い口を開いた。
「・・・見つけた資料に目を通したところ、アンゴルモアの元となった『崩玉』を造り出した死神の名前まではわからなかった。だが、紛れも無くこの資料は当時『崩玉』開発に携わっていた研究者の一人が書き留めた日誌だ。それによれば、『崩玉』は筆頭研究者とともにあるとき忽然と行方を眩ませたという。おそらく、異世界に流出した切っ掛けもその事が原因に違いない」
「じゃあ・・・・・・あの年代測定が示した1万年前っていうのは本当に正しかった!?」
「信じられん・・・・・・」
マリエルとクロノはアンゴルモアの年代測定時期には些か疑問を呈していたが、今回ユーノが発見した資料によって、間違いが無いという事が立証された。
「あの日・・・スカリエッティは世界の意志によるメッセージを受けとったと言っていた。おそらく、死神や
「じゃあ、アンゴルモアの力で造られたのが
スバルを発端として、大勢の者がその話に耳を疑い騒然とする。
「スカリエッティの最終目的は言うまでも無くアンゴルモアの完全採取だ。すべてのアンゴルモアが奴の手に落ちたとき、管理局や護廷十三隊の力だけでは手がつけられなくなるやもしれない。それこそ、奴自身が望む“欲望による世界の破壊と再生”が為されるだろう」
『と言うわけでさ・・・・・・スクライアクンの話したとおり、阿散井クン達には引き続きミッドチルダに留まって機動六課と協力しながら散らばった『崩玉』の欠片・・・アンゴルモアを集めてもらいたい。無論、全ての欠片を集めるまでが任務だよ』
「「「はい!」」」
『それとスクライアクン。君には現地で死神と管理局が摩擦を起こさないよう緩衝材となってもらいたいんだけど・・・いいかな?』
「ええ。むしろ僕もそのつもりです」
『いやー、話が早くて助かるよ。じゃあ君には迷惑料というわけではないけど、ボクから総隊長代行権限を与えるよ。これでいつでも君の意思ひとつで阿散井隊長と吉良副隊長の限定解除許可を出せる』
「ありがとうございます」
「えぇぇぇ―――!!!」
話がとんとん拍子に進むあまり、ツッコミを入れるタイミングを逸しそうになった。恋次は京楽の軽薄とも取れる発言に堪らず水を差す。
「きょ、京楽隊長ッ!! こいつなんかにそんな重要な権限、さらっと与えちゃってだいじょうぶなんすか!?」
『スクライアクンなら安心して任せられるよ。それに何かあったら総隊長であるボクが責任を取ればいいしね。だから何も心配いらないよ』
「いや・・・却って心配だらけなんすけど・・・・・・」
「だいじょうぶですよ恋次さん。あなたが心配するような事は決してありませんよ♪」
「おまえが言うととことん胡散臭いだよ!!」
「えーっと・・・・・・よくわからないけど、要するにユーノ君が京楽総隊長さんと同じ権限をミッドで行使出来るってこと?」
おもむろに問うなのはに、ユーノは「平たく言えばね」と呟き、補足した。
「無論すべてでは無いけど、少なくともこれまで暫定的にしか認められなかった隊長格死神の限定解除許可をいつでも承認できるというメリットは大きいと思うよ」
「スクライア・・・・・・おまえはいつから向こうの総隊長殿にそれほどまで厚い信頼を置くに至ったのだ?」
「備えですよ。使えるコネは徹底的に使わないと、この戦争には勝てませんからね。でも、備えはこれだけじゃありません」
そう言うと、ユーノは別のディスプレイを呼び出しある物を表示する。
なのは達が見たのは、未だ一般には公開されていない次世代魔導端末並びに対魔力無効化状況でも行使可能な武装端末の完成予定図だった。
「これは現在僕がCWと共同開発している『AEC武装』と『第五世代デバイス』だ。現在、七割方完成している」
「AEC武装に・・・第五世代デバイス!?」
「これからの戦いにおいて、必ず役に立つはずだよ。そうだな・・・・・・フェイト、近いうち君とバルディッシュには第五世代デバイスの
「私が?」
ユーノからの指名を受け、困惑するフェイト。
「第五世代デバイスは現状では魔力変換資質保有者か極めて精緻な魔力コントロール技術を有する者でないと出力が安定しないという技術上の欠点を抱えている。そうなると自然適任者は君しかいない。引き受けてくれるね?」
「ユーノ・・・・・・・・・・・・うん。わかった。私で良ければやるよ」
天才魔工技師アニュラス・ジェイドとして数々の画期的発明を世に送り出したユーノから直々の願いを無碍にする事などあり得なかった。
フェイトは自分の腕を見込んで依頼をしてきたユーノの願いを聞き入れ、必ずやその期待に答えようと心に誓った。
やがて、ユーノはひと通りの話を終えると―――窓際に佇んで、しみじみと語った。
「僕のフェルミ推定が仮に寸分違わず正しければ、異世界に散らばったアンゴルモアの総数は108つ。これらすべてを早急に見つけ出し、対処しなければならない」
「
*
通常とは異なる位相に存在する世界。
何処までも広がる空。しかし、その色は見渡る限りの赤。
空には不気味で珍妙な生き物が空を行き交い、大地は荒廃し、壊れた建物がいくつか点在している。
この地に足を踏み入れし外界からの生物―――ジェイル・スカリエッティは念願だった夢を果たしたと言わんばかりに狂喜乱舞する。
「ふはははははははは!!!! ついに辿り着いた。前人未到の境地!! 嗚呼・・・・・・これこそ私が求めていた理想の地!! ここから始まるのだ。私の欲望は――――――!!!」
「忘れ去られし都―――アルハザードよ!!」
完
参照・参考文献
原作:久保帯人『BLEACH 26・34・73巻』 (集英社・2007年、2008年、2016年)
原作:久保帯人 『BLEACH13BLADEs』 (集英社・2015)
原作:久保帯人 著者:成田良悟『BLEACH Can't Fear Your Own World 1』 (集英社・2017)
用語解説
※1 転経器=主にチベット仏教で用いられる仏具。マニ車と呼ばれる。円筒形で、側面にはマントラが刻まれており、内部にはロール状の経文が納められている。
※2フェルミ推定=実際に調査するのが難しいようなとらえどころのない量を、いくつかの手掛かりを元に論理的に推論し、短時間で概算することを指す。
教えて、ユーノ先生!
ユ「というわけで、
一「そこは
ユ「細かい事は気にしないでくださいよ♪ じゃあ、気を取り直してナンバーズについて教えるね」
「ナンバーズは、スカリエッティの手により生み出された12名の戦闘機人の事で、開発順に基づく数字を擬えた名前が付けられており、名前の由来になった数字の書かれたプレートを首元に着けている」
「今回の
恋「そういや気になってたけど、ファイってどういう意味なんだ?」
な「たしかに数の名前じゃないですよね? ユーノ君、あれってどういう意味なの?」
ユ「あれは『空集合』を意味してるんだ」
な「空集合?」
ユ「数学の集合の概念のひとつ―――集合の要素を含まないものを指す。ギリシャ文字で『
一「なるほど! そう言う事だったのか」
恋「しっかしスカリエッティも皮肉な名前を付けるな? つーかユーノ、なんでアイツの考えてることわかったんだ?」
ユ「いやー・・・何と言いますか。自分で言うのもなんですが、わかるんですね。あの手の奇人・変人の考えてる事が。何しろ僕も変人ですから♪」
な・一・恋「え・・・・・・」
変人を自覚するユーノの発言に三人の思考は一瞬停止した。
魔導師図鑑ハイパー!
白「京楽総隊長。ひとつ尋ねたいのだが・・・・・・なにゆえ三席である私が無期限の現世出張任務を仰せ遣ったのか、その経緯を問いたい」
本来ならば席官クラスの死神が現世で長く留まることはほとんどない。にもかかわらず、白鳥は例外とばかりこの数か月一度も帰投命令が出されていない。
この機会に追及する白鳥に、京楽は罰の悪そうに頬を掻く。
京『いやー・・・その・・・それを説明できるのはボクじゃなくて、七緒ちゃんしかいないんだけどー・・・・・・』
そう言うと、見かねた京楽は白鳥の勤務態度に詳しい七緒に代わってもらい説明をしてもらう事にした。
七『白鳥第三席。あなたの勤務態度は知っています。普段から碌に職務を果たさず、コーヒーを飲んでは実家の商売の事ばかりに現を抜かす・・・・・・そのような体たらく振りを見せられて、よくもまぁいけしゃあしゃあとしていられますね』
白「ギク・・・・・・いやぁ・・・・・・そう見えたのであれば誤解であるぞ! 私は誠実かつ実直に死神としての職務を全うしているのだよ伊勢副隊長!!」
明らかに引き攣った表情で、上ずった声。誤魔化しが利かない七緒に必死に弁明する白鳥だが、ユーノが追い打ちをかける。
ユ「白鳥さん。申し訳ないですけど、あなたの現世での素行もすべてあなたにお貸ししている義骸を通して全部僕が把握しています。七緒さんにも逐一報告していますよ♪」
白「なにぃぃぃ―――!!!」
七『というわけです。今後は三番隊と協力してミッドでサボらずに職務に当たってくださいね。一番隊のエリートとして、期待していますよ』
冷たい笑顔で言い放った七緒の言葉が実に印象的だった。
白鳥は完全に見なされてしまったのだと確信。周りはそんな彼を不憫に思った。
次回予告
一「異世界に飛び散った崩玉の欠片・アンゴルモアを捜索するユーノ達の新たなる物語が幕を開ける!!」
な「ユーノ君を最高顧問に迎えた新生機動六課と、私とユーノ君の恋路ルート・・・きゃ♡ 私ったら何いってんだろう~♡」
恋「いやほんと何言ってんだよおまえ!? 真面目にやれよ! 俺たちの手で全てのアンゴルモアを回収するんだ!」
ユ「ユーノ・スクライア外伝 新章・アンゴルモア捜索篇―――」
「第27話・・・『災厄のカケラを追え』。お楽しみに♪」
魔導虚篇
登場人物
機人四天王
ウーノ(Uno)
声:木川絵理子
ナンバーズの1にして、機人四天王の1人。ウェーブがかった薄紫の長髪をした女性。クローン培養。
スカリエッティの秘書を務める彼の側近にして最大の理解者であり、実務だけではなく精神面からも支えている。実務指揮を執るナンバーズのリーダー格だが、デスクワーク主体の機人であるため戦闘能力は低い。初期に作られた戦闘機人だが、その体内パーツは妹達のデータを元にした最新の物へと更新されている。
インヒューレントスキル(以下IS)は隠蔽と知能加速の能力で「不可触の秘書(フローレス・セクレタリー)」。
クラナガン幼生虚プラント化の際にはマッコウクジラと融合し魔導虚「カストラ」へと変化。幾度と無く自分達の邪魔をしてきた機動六課フォワード部隊との激戦の末に、ユーノが用意した罠にかかって敗れる。
トーレ(Tre)
声:木川絵理子
ナンバーズの3にして、機人四天王の1人。長身で他のナンバーズよりも頭一つ分大きい。純粋培養。
稼働歴の長さから来る豊富な実戦経験故にナンバーズの実戦指揮を執り、前線での独自行動も許されている。厳格な性格で他のナンバーズを叱りつけることも多く、また無意味とするものに対してはかなり冷淡。四天王の1人であるファイとは反りが合わず、互いに反目し合っている。
固有武装は虫の羽に似たエネルギー翼「インパルスブレード」で、ISは高速移動能力「ライドインパルス」。
クラナガンを幼生虚プラント化する時はセントラレルレールウェイと融合し魔導虚「セクメ」へと変化。吉良、ザフィーラ、金太郎との決戦に臨むが敗北し、最後は一護の斬月によって斬られ魔導虚化が解かた事に感謝しつつも自分が戻れないことを悟って消滅の運命を受け入れた。
クアットロ(Quattro)
声:斎藤千和
ナンバーズの4にして、機人四天王の1人。大きな丸メガネと独特の甘ったるい喋り方が特徴。純粋培養。
幻惑等による敵の行動妨害を主体とする実働部隊の後衛だが、それ以上に参謀としての色が強い。ナンバーズの中でも最大の独自行動が許されており、JS事件では機動六課に対する情報収集を行い、後の行動を操り易いように様々な裏工作もした。伊達眼鏡である。
固有武装はステルス機能を有するマント「シルバーケープ」で、ISは電子を操る「シルバーカーテン」。
スカリエッティによく似た考え方をしており、愛想のいい振舞い方の下に非常に危険な思想を隠している。他者の人生に対して毛程にも価値を見出さない残忍な性格で、命の尊厳にも一切の配慮はなく、敵対者への言動も極めて嘲笑的であるなど、その本性は極めて凶悪である。
クラナガン決戦時、首都ハイウェイや自動車群と融合し魔導虚「ワルター4」へと変化。トーレとともに計画を推し進めるも敗北。行動不能になった吉良達へ襲いかかるも、駆けつけた織姫が使用した四天抗盾を受けて消滅した。
ファイ(Phi)
声:小野友樹
機人四天王の一人。痩身で真っ白な肌をした黒髪の男性。ナンバーズには含まれず、同時に初の男性タイプの戦闘機人。
空をこよなく愛し、戦士としての誇りを持ち、戦略家としての一面も持つ。稼働の長いトーレを凌駕する戦闘力を持ち、仲間内では使えない魔法の力を唯一扱える。反面、性格は冷淡であり仲間意識は非常に薄く、トーレやクアットロとは反りが合わない。主人であるスカリエッティに対しても忠誠心は殆どなく、懐疑的な言動さえ垣間見える。
本名は「シエロ(Cielo)」。元は金によって力を得た魔導師の一族のひとりだったが、その力を恐れた者たちによって嵌められ、違法研究施設で一族郎党を皆殺しにされる。 そしてその際自らの兄が目の前で死んだ事で力に目覚め、自身や兄、一族を皆殺しにした局員全員を惨殺した。その後は次元世界で流浪の旅を続けた末、戦士として生きて死にたい一心から、スカリエッティの誘いを受け戦闘機人となった。このため、四天王では戦闘機人歴が最も短い。
固有武装は「フェザーブレード」。ISは背中に身の丈を超える翼を生やして空を高速で滑空する「ダイダロスウイング」。空戦と魔法に長けた一族の出ゆえに、空戦を主な戦闘手段に使い、高度な魔法すらも使いこなす腕前。
最終決戦では超音速戦闘機と融合し魔導虚「ニルヴァーナ」へと変化。クラナガン幼生虚プラント化をサポートするが、敗北後は地下アジトで恋次と対戦。その後駆けつけた一護の力に圧倒され、最期は爆発から一護達を逃がしたのち、火の鳥の姿で死を待ちながら消滅を受け入れた。
名前の由来は、要素を一切持たない集合を意味する空集合を表す際に用いられる記号「∅ 」の日本語の通称から。