ユーノ・スクライア外伝   作:重要大事

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ユ「さぁ、今回より装いも新たに物語が動き出す。およそ1万年前に尸魂界(ソウル・ソサエティ)で造られ、その後消失した世界初の『崩玉』が砕け散り、古代遺物(ロストロギア)『アンゴルモア』となった」
「僕はなのは達と協力して散らばったアンゴルモアを回収することを決めた。アンゴルモアを狙っているのはスカリエッティだけじゃない。僕達はあらゆる脅威と戦いながら失われたすべての欠片を必ず集めるんだ」
「『ユーノ・スクライア外伝 アンゴルモア捜索篇』・・・・・・――――――始まります!」


アンゴルモア捜索篇
第27話「災厄のカケラを追え」


 『ユーノ・スクライア』は生まれ変わった。

 魔導師の力に死神の力を宿したハイブリッド戦士―――“翡翠の魔導死神ユーノ・スクライア”として。

 

 およそ1万年前に消失した『崩玉』が砕け散った際に誕生した古代物質(ロストロギア)・アンゴルモアに端を発する次元世界規模での未曽有の危機。

 その危機から人々を護る為に再結成された時空管理局の特殊部隊『機動六課』。

 嘗ての旧機動六課メンバーの大半が再集結する中、今回新たに多数の民間協力者が機動六課に加わった。

 

 死後の世界―――尸魂界(ソウル・ソサエティ)からミッドチルダへと派遣され、アンゴルモア回収の任を受けた護廷十三隊三番隊隊長『阿散井恋次』と副隊長『吉良イヅル』。

 元・時空管理局本局名誉元帥『熊谷金太郎』を始め、『亀井浦太郎』前一等陸佐、死神の力を持つ『桃谷鬼太郎』。

 そして、魔導師の能力に目覚めた護廷十三隊一番隊第三席『白鳥礼二』。

 さらには、彼らとともにユーノ・スクライア自身も確かな後ろ盾を味方につけて―――新生『機動六課』は、次元世界の平和を乱す脅威との新たな戦いに臨むこととなった。

 

           ≡

 

新歴079年 6月19日

第1管理世界「ミッドチルダ」

ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 アドバイザー室

 

「おっし。こんなところやろうか」

 完成したばかりの部屋を再度見、概ね問題ないことを確認したはやては居合わせたユーノに嬉々として部屋を見せる。

「じゃじゃーん!! 今日からここがユーノくんの仕事場や!!」

 アドバイザー室と称される部屋の内装をぐるりと見渡し、ユーノはその広さと大きさを確認する。

「元は会議室だったところをこの短い時間でよく改造したね。ていうか、僕には少々広すぎるなー」

 正直な感想を漏らすユーノ。横で聞いていたはやては諫めるように口にする。

「なに言うとるんや。元・無限書庫司書長にして天才魔工技師アニュラス・ジェイド、ほんでもって次元世界の英雄・翡翠の魔導死神を機動六課の最高顧問として迎え入れるんやからこれくらいの待遇は当然や」

「いちいち説明が大仰だなー。だいたい最高顧問って・・・別に僕は大したことはしてきてはないけどね」

「いやいやメッチャ大したことしてきたやん! そこはもっと自覚しよう!」

「あれは()()()()だよ。運が良かっただけさ」

 幼馴染同士気兼ねなく会話ができるのはいいとして、はやては昔から自分を過小評価するユーノの性格が好きではなかった。

 若くして上級キャリア組の仲間入りを果たしたはやてよりも前に無限書庫の司書長だったユーノは当時から重要なポストに就くゆえに国家大臣クラス相当の厚遇を受けていた。だが高い地位を与えられながら、彼は自分自身をよく見せる事を殆どしようとしなかった。

 謙虚な性格は嫌いではないし、むしろ好意的に捕らえる。しかし度が過ぎるのも些か不気味に思えてならなかった。

「やれやれ。相変わらず変なところは鈍いゆうか無頓着とゆうか・・・・・・あんまし自分をへりくだり過ぎるんも嫌味に聞こえるなー」

 四年の歳月を経てもあまり改善されていないユーノの悪いところに一抹の不安を覚えるものの、今は一先ず保留する事にした。

 すると、ユーノは宛がわれたデスクに置かれていたネームプレートに疑問を持った。

「ところで、この“エグゼクティブアドバイザー”って肩書はなんなの?」

 ミッド文字で『EXECUTIVE ADVICER』と書かれてあるのが自分に与えられた役割を表す名であることは察しが付いた。ユーノが気になったのは何故そのような名前になったのかという理由である。

「カッコええ響きやろう! 最高顧問やとちょっと堅苦しいし、オブザーバーかアドバイザーかで悩んだんやけど、ユーノくんに一番あってるのはやっぱアドバイザーや! って事で決まったんよ」

「でもエグゼクティブが付くなら、そこは“スーパーバイザー”って言うのが一般的なんじゃないの?」

 管理者や顧問として用いられる『スーパーバイザー』。その接頭語に“最高”を意味する『エグゼクティブ』という単語が付属しているのは珍しい事ではない。気になるユーノにはやては『スーパーバイザー』にしなかった意外な理由を語った。

「いや~・・・スーパーバイザーやとなんやコールセンターの管理職みたいやないか。個人的にはあんま栄誉職って感じがせーへんかったんよ」

「ま。一理あるけどね」

 とりあえず理由が分かったことに納得したユーノは、おもむろに椅子に座ってそこからの眺めを確かめる。

 ぐるっと椅子を半回転させた時、ちょうど後ろには海や六課の訓練場が一望できるベストポジション。広さは部隊長室とほぼ同じという好待遇振りにユーノはどこかしっくりこない感じがしてならない。

「どうやろう座り心地は?」

「見える景色が広くて素晴らしいのはいいとして・・・なんだか不安もあるよ。自分で言い出したこととはいえ、僕なんかがみんなの役に立てるかどうか」

 つい弱音を吐き出す始末。

 それを聞いた瞬間、はやては呆れたように溜息を突く。

「あんなユーノくん・・・その“僕なんか”っていうんはよくないなー。役に立てるかやないんや。ユーノくんは今も昔も私たちをずっーと助けてきたんや。だから自信持ってこう」

「はやて・・・・・・うん、そうだね」

 友人からの激励を受け、少しだけ心が軽くなった。

 そんなユーノの気持ちを表したかのようにやや強張っていた顔の筋肉が弛緩したのを見、はやても笑みを浮かべる。

 やがて、気持ちを切り替え―――はやては凛とした表情で目の前のユーノに対し足を揃え敬礼する。

「ほんなら、改めて今日からよろしく頼みます。機動六課エグゼクティブアドバイザー、ユーノ・スクライア殿」

「善処するよ。機動六課部隊長、八神はやて殿」

 敬意を表す相手の目を見ながら、ユーノも彼女に倣って敬礼をした。

 

 そのとき、ブザーが鳴って扉が開かれると―――なのはを始め、フェイトと恋次が挙って部屋の中へ入ってきた。

「あ。もうできてるんだー!」

「おいおいまさかお前一人でこの部屋使うのかよ?」

「なのは。フェイトに恋次さんも」

 部屋に入るなりなのはは上機嫌な様子でユーノの座っているデスクまで歩み寄り、あどけない笑みを見せてきた。

「わぁー! 今日からユーノ君と一緒の職場で働くなんて・・・私なんだか夢みたいだよ♪」

「そうだね。僕も君と一緒の職場で働けるとは思いもしなかった。これからはいつでもそばにいるから」

「うん・・・・・・ありがとう♡」

 二人だけの間に流れる温かく、そして他者を寄せ付けない桃色のオーラ。人はそれを“ATフィールド”や“バカップル領域”など様々な呼び方をする。

 この結界のような力は自然と周りを排除してしまう。そして排除された側は非常に迷惑を被る。恋次とフェイト、はやてもまた例外なく二人だけの世界に入り込んだユーノとなのはに迷惑していた。

「おーい、もしもーし。そこの幸せバカップル共聞こえてるかー」

「これから毎日がこんな調子かと思うと気が重いわー」

「なのは。ユーノも少しは周りを見ようね」

「ふぇ! あ、えーっと、ご、ごめんなさい・・・///」

「ごめんフェイト。自重すべきだったよ///」

 恋次は未だに今目の前で見ているユーノが初めて会った時と同じ人間なのかと心底疑っている。

 世捨て人を装った格好はそのままになのはの前では極めて穏やかで理知的な雰囲気を醸し出す年相応の青年にしか見えない。今まで自分達に見せていた胡散臭さはどこへ言ったのやらと正直ツッコミを入れたかったが、今日のところはやめておくことにした。

「あ、そういえばユーノ君。六課に滞在するってことは、地球にあるお店は閉めてきたんだよね?」

「いや。普段通り営業中だけど」

 何の気なく尋ねたなのはの問いにユーノは当然の如く質問の趣旨を折る返答をした。

「え? でもお店には・・・」

 ユーノを始め、スクライア商店従業員である金太郎、浦太郎、鬼太郎も現在六課に滞在している。当然店はもぬけの殻となる事を指摘したなのは。

 誰もが自然な疑問を抱えていると、ユーノは口端をつり上げる。

「心配しなくても、店には義骸を置いてきたんだ。商売って言うのは自分の都合でやるものじゃないからね。それに僕が店を長期間休みにすると、現世に出張中の死神さん達とかに迷惑かかるし、何か遭ってもいいようにしとかないとね♪」

「何もそこまでやる必要あるのか・・・・・・」

「“備え”をするのにそこまでなどという線引きはありませんよ。少なくとも僕はそう思っています」

 疑問が拭えない恋次にユーノは自分の考えをはっきりと明確に伝える。

「失礼します―――」

 すると、再び部屋の扉が開かれグリフィス・ロウランが入室。上官であるはやてに報告した。

「八神部隊長、フォワードメンバーと民間協力の方々を始め、機動六課部隊員とスタッフ全員をロビーに集合・待機させました」

「ありがとうグリフィスくん。ほんならユーノくん、初日やしみんなにご挨拶しとこか」

「行こう、ユーノ君!」

「うん。わかったよ―――」

 腰を上げ、ここに至るまでともに苦難の道を歩んできた斬魄刀を携え―――ユーノは新たなる一歩を踏み出す。

 

 

 

                   ユーノ・スクライア外伝

                                                                アンゴルモア捜索篇

 

 

 

『デウスマキナ』

 

 管理局によって、第99管理外世界と称される多次元世界。

 管理局外世界の定義付けは「社会性を持つ知的生命体はいるが、次元世界を認識していないか、進出する技術を持たない世界」とされている。

 管理世界の人間は原則として管理外世界への渡航も禁止されており、不干渉の姿勢を維持している。

 デウスマキナも多次元世界からの干渉も無く平穏な日常を享受していた―――悪魔の欠片が現れるまでは。

 

           ≡

 

数か月前―――

第99管理外世界「デウスマキナ」

 

 その日はいつもとは雲行きが明らかにおかしかった。

 鳥達の囀りさえ静まり返り、異様な空気が充満している。何かの予兆かと思っていた折―――予想は的中する。

 ゴゴゴ・・・・・・。大きく揺れる大地。

 嘗て体感した事のない巨大な地響きに老若男女は畏怖する。

 だが、彼らを最も驚かせる出来事がこの後すぐに起こった。次の瞬間―――揺れる地面が突如として隆起し始めた。

「あ、あれは!」

「おいおい・・・えらいっこちゃ!!」

 隆起した大地はやがて浮遊する巨大な島となった。

 雲を突き抜け、ぐんぐん上昇を続ける島を見たとき、人々は昔からこの地に伝わる神々の住まう島そのものだと確信。

 やがて、彼らは浮きあがった島を“マウイ”と呼ぶようになった。

 

           ◇

 

6月20日―――

第1管理世界「ミッドチルダ」

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 小会議室

 

 前線メンバーを対象に、ユーノ主催でアンゴルモアに関する勉強会が開かれた。

「機動六課にとっての最重要課題・・・古代遺物(ロストロギア)『アンゴルモア』について、これまでに判明している事実を含め僕から説明させてもらうよ」

 皆の視線を一身に受けながらユーノはおもむろに言葉を紡ぐ。

「そもそもアンゴルモアとは、およそ1万年前に恋次さん達の故郷である尸魂界(ソウル・ソサエティ)で一人の死神の手によって造り出された『崩玉』がいくつもの欠片となって四散したものだ」

 言うと、いくつかのディスプレイを並行で複数展開。その中からユーノは青色に輝く宝石様の物体が映った画像をクローズアップする。

「これは僕が9歳の頃に発見した『ジュエルシード』と呼ばれる古代遺物(ロストロギア)だ。なのはとフェイトにとっては思い出深いものだろう。アンゴルモアはこのジュエルシードと極めてよく似た性質を持っている。端的に言うと、人の心に思うことを現実にする力だ」

「つまり・・・願いを叶えるってこと?」

 ジュエルシード集めに協力したのをきっかけに魔導師となったなのはは当時のことを思い出しながら、アンゴルモアの性質を推量する。

「より厳密に言うと、崩玉はそれ自体が意志を持っている。この事から、“崩玉の真の能力”は、自らの周囲に在るものの心を取り込み具現化する能力と言える」

「心を・・・具現化?」

 言っている言葉が抽象的であるためイマイチなのははピンとこない。周りも方々に同じ反応を示していた。

 ユーノはアンゴルモアの性質をより詳しくかみ砕いて説明する。

「願いを叶えると言う点においてはジュエルシードと然程変わらない。しかし、砕け散った崩玉・・・アンゴルモアは持った者の欲望を内側に閉じ込めて存在を保ち、さらには欲望そのものを強く掻きたてる性質がある。純粋に願いを具現化させるその力に善悪の概念は無く、その存在は手に取った者の心に左右される。悪人が持てば汚れが増し、心正しく清らかな魂を持つ者が持てば浄化する力を与える特性を持つ。大霊書回廊から持ち出した資料に書いてあったことを掻い摘んで平たく説明すると以上の通りになる。ここまでで質問はあるかな?」

「はーい、店長っ!」

 質疑応答に対し真っ先に手を挙げた鬼太郎が発したユーノへの質問は。

「アンゴルモアって・・・結局なんっすか?」

「それはいつもジョギングをしている人に向かって『今日もジョギングするんですか?』と同じくらい程度の低い質問だね鬼太郎くん」

 露骨に顔を引きつるユーノの気持ちを安易に察することが出来たなのは達も終始苦い顔を浮かべるばかり。

「ったく。これだから馬鹿は嫌になるんだ。俺が代わりにする」

 的外れな鬼太郎の問を罵り、今度は恋次の方からユーノに問いを投げかける。

 真剣な眼差しでユーノを凝視。思わず息を飲むユーノ。やがて、彼の口が開かれ発せられた言葉は。

「ユーノおまえ・・・・・・なんで尸魂界(ソウル・ソサエティ)の文献を当たり前の様に読めるんだ?」

「カッコつけてるところ申し訳ないんですけど、恋次さんも鬼太郎もどんぐりの背比べですよ。そこ今気になっちゃダメでしょ!?」

 伊達で質問したにしては鬼太郎と差が殆どない始末。ユーノばかりか周りも溜息を突く。

「あのね・・・先輩も恋次さんも真面目にやらないと」

「すみませんユーノさん。せっかく御高説して頂いたのに、この二人が至らずに」

「「てめーら揃いも揃って馬鹿にし過ぎるだろ!」」

「事実馬鹿だろ」

 ヴィータの鋭い毒舌が恋次と鬼太郎の胸に突き刺さったのは言うまでもない。

 

 ブーッ、ブーッ、ブーッ。

 刹那―――事件または大規模災害、あるいはアンゴルモアの発見を報せる第一級警戒警報が発令された。

 けたたましくなる警報に全員の顔色が変化。そして、ユーノ自身もまた平静を装いつつ眉間の皺を顰める。

「・・・さてと、勉強会はひとまず終わりだ。ここから先は今学んだことを如何に実際の現場で活かせるかが重要な課題だよ」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「はい(うん)(おう)(承知)!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 潔い良い返事をし、居合わせた前線メンバーとユーノは総合司令室へ直行する。

 

           *

 

同隊舎内 総合司令室

 

 司令室に集まった六課前線メンバー。

 エグゼクティブアドバイザーに就任したユーノが導入した新型サーチャーによって捜索が難航していたアンゴルモアの探索・発見が飛躍的に早まった。

 全員が中央のモニターを凝視する中、シャリオが全体的な説明を始める。

「アンゴルモアの反応が確認されたのは、第99管理外世界『デウスマキナ』です。デウスマキナは水と緑に恵まれた平和な星です。人々は農業を中心とした幸せな生活を送っています」

 データ上から判明している客観的な事実。その裏でアンゴルモアが現地住民、あるいは世界そのものにどのような影響を与えているかは定かではない。

「ん?」

 ふと、ユーノは衛星軌道を捕らえたデウスマキナの航空写真に映る奇妙な物体―――島のような形をした巨大な飛行体に目を付けた。

「どうかしたのか?」

 眉間に皺を寄せるユーノにクロノが気になって問う。

「妙だとは思わないか。あの衛星らしきもの・・・明らかに不自然な形をしている」

 らしきもの―――言葉の通りユーノは自分の目で見ているものが衛星である事を疑問視している。加えてルキノが訝しんだ様子で補足する。

「データによれば、デウスマキナにはあのような衛星は存在しないはずなんですが・・・」

「ないつったってよ。現にこうして映ってんじゃねーか?」

「八神部隊長、これはしっかり調査する必要がありそうだ。アンゴルモア反応と奇妙な衛星には何らかの因果関係があるのかもしれない」

「そやな・・・・・・スクライアアドバイザーの言う通りかもしれへん」

 ユーノの助言を受け、はやては逡巡した末に決断する。

「おっし、ほんならデウスマキナの衛星を含め現地へ調査員を派遣して詳しく調べる。ヴァイス陸曹長に連絡してヘリの発進準備を。現地にはそうやな・・・・・・スターズ3と4に一任しようかな」

「「了解です!」」

「あ、待って。念のために恋次さんも一緒に同行してくれますか?」

「なんで俺が? こいつらだけでも十分だろう」

 既に三か月、機動六課に身を置く恋次はスバルとティアナの実力をそれなりに知っており、模擬戦ではコンビとして息の合った掛け合いをする二人の攻撃に幾度となく追い詰められるという苦い過去もある。ゆえに自分を敢えてメンバーに加えようとするユーノの真意が理解しかねていた。

 問われたユーノは、自らの考えを恋次の目を見ながら主張する。

「死神であるあなたなら崩玉の恐ろしさは身をもって知っている筈です。何かあったときはあなたが二人を護ってください」

「恋次さん、私からもお願いします。今のスバルとティアナの実力は分隊長の私が一番に把握していますが、スクライアアドバイバーの言う通り何があるかわかりませんから」

 ユーノの言葉に便乗してなのはも恋次に懇願。こうやって頼りにされると恋次としても無碍には断れなくなる。

「ったく・・・・・・わーったよ。そんなに言うなら行ってやってやろうじゃねーか」

「とか何とか言ってほんとは若い女の子と一緒にいられて嬉しいんじゃないですか? 恋次さんも所詮は男の子。二人とも襲われないように気を付けてね♪」

「俺はどこぞのもっこり男と違うんだよ!! ふざけなことヌカしやがるとテメーからぶった斬るぞ!」

 思わず浦太郎の言葉に神経を逆撫でされる恋次。

 怒りに火が点き暴れ出しそうな雰囲気を醸し出す恋次をスバルとティアナがあたふたと宥める。

「れ、恋次さん! どうかその辺にしましょうよ!」

「大丈夫です、私達知っていますから。恋次さんが浦太郎さんと違うってことは」

「ティアナ・・・何気に僕のこと素で貶してるよね」

「事実を述べただけだ」

 ショックを隠し切れない浦太郎の胸に金太郎による指摘がより深く突き刺さった。

 

           *

 

 機動六課はデウスマキナへの調査に、スターズ分隊所属のスバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、そして阿散井恋次を派遣した。

 

           ≡

 

第99管理外世界「デウスマキナ」

中央大陸上空 高度14000フィート付近

 

「見えてきたぜー。あれがそうだ!」

 ヘリパイロットを務めるヴァイスからの報告を受け、三人はモニター画面越しに空中に浮かぶ巨大な島を目の当たりにする。

「うっへー。ほんとに陸地が浮かび上がってるんだ!」

「クラナガンが隆起した時も驚いたけど、こうして見ると圧巻ね」

「ヴァイス。何か変わったものは見えるか?」

「目で見る限りじゃなんにも・・・・・・お?」

 そのとき、ヴァイスはヘリの前方に浮かぶ浮き島を遮るかの如く突如として現れた巨大な人影を目撃する。

「なんだぁ!?」

「ヴァイス陸曹長、どうかしたんですか!?」

「どうしたもこうしたもねー! 目の前にスゲーのが出やがった!」

 言われてディスプレイを注視。

 直後、恋次はヴァイスが目撃した巨大な人影に我が目を疑った。

「こいつは・・・・・・!」

 見た瞬間から額から噴き出る汗。

 重々しい漆黒のコートに身を包んだ長髪と髭面の男は不敵に笑みを浮かべながら島に近づこうとする恋次達を凝視している。

「ユーハバッハ・・・だと!?」

 忘れもしない忌まわしき存在。恋次を始め死神が目の前の光景を見れば思い出し、そして口走るだろう。嘗ての霊王護神大戦における大悪の名を。

《我こそは世界の神なり。お前達に告げる。ここは神聖なる神の星。決して近づいてはならない》

 ユーハバッハの姿に酷似したそれは警告を発する。

 次の瞬間、JF704式ヘリ改に異常が起きた。

「「「うわあああああ」」」

 激しく揺れる機体。捕らえどころのない不思議な力が加えられたヘリはたちまち姿勢制御を失った。

「操縦不能!! 高度低下!! 墜落するぞー!!」

 何とか機体制御を行いつつ、乗員の命を護る為―――ヴァイスは長年培った高度な操縦技術で以て、辛うじて機体を陸地へと不時着させる。

 森林地帯へ不時着した704式ヘリ。地面との衝突時に機体は激しく損傷し、煙をあげながらも急場を凌いだ。

 ヴァイスは命からがら助かったことを実感。安堵のため息を着くと、すぐさま恋次達の安否を気遣う。

「全員無事かぁー!!」

 大声で呼びかけるヴァイス。

 すると、歪んで変形したハッチをこじ開け、恋次を始めスバルとティアナがげっそりとした顔で飛び出した。

「た、助かったぜ~!」

「ヴァイスさん・・・できればもっと安全なやり方なかったんですか~」

「あんたは・・・命が助かっただけでもありがたいと思いなさ―――!」

 と、スバルの言動を注意していた折―――ティアナは最悪な状況を目の当たりにする。

 破損したヘリの燃料タンクからドロドロとした黒い液体が、止めどなく零れ落ちていたのであった。

「燃料が漏れてるわッ!!」

「「「え!!」」」

 事実を知った四人は一目散にヘリから距離を取ろうと全力疾走。

 次の瞬間、漏れ出た燃料に火花が引火し大爆発。凄まじい爆風と轟音が付近の木々をなぎ倒した。

「だぁ~~~!! 俺のヘリがあぁ~~~!!」

 悲痛な叫びをあげるヴァイス。恋次は炎上する704式ヘリの末路を見ながら素朴な疑問をぶつける。

「なぁ、やっぱヘリコプターって高けーのか?」

「そりゃローターだけでも1千万G(ギルト)は下らないんっすよ・・・・・・くぅ~~~///」

 帰りの移動手段が絶たれた事に投げているのではない。身体の一部同然だったヘリが無残に散っていく様を見るのが切なかったのだ。

 嘆くヴァイスを忍びなく思いつつ、ティアナは状況を整理してから迅速に対応。機動六課へ連絡を取る。

「スターズ4からロングアーチへ。アクシデント発生により704式ヘリ改が大破しました。至急帰りの機体をお願いします」

 

「それにしてもなんだってユーハバッハの野郎が」

「誰なんですか?」

 当然スバルはユーハバッハを知らない。自然な反応を見せた彼女に、恋次は険しい顔で答える。

「十年前、尸魂界(ソウル・ソサエティ)を滅茶苦茶にした滅却師(クインシー)の親玉だよ。一護の奴が止めを刺したから、てっきり死んだものだとばかり思ってたんだが・・・・・・」

 恋次としても自分で見たものがユーハバッハ本人だとは100パーセント思っていない。

 だが彼は知っていた。人知を超越したユーハバッハの絶大な能力を。ゆえに不安を拭い切れずにいた。

「ユーハバッハという人物が何者かはこの際置いといて・・・ヴァイス陸曹長のお陰で私たち全員の命が助かったことは間違いありません。ヴァイス陸曹長、本当にありがとうございます」

「あぁ・・・どういたしまして~~~///」

 律儀に感謝の意を示すティアナに対して、ヴァイスはどこか上の空のように返答する。

「とりあえず、私たちは私たちの仕事を全うしましょう」

「ユーハバッハの事が気になるところだが、まずはアンゴルモアについてだ」

「ヴァイス陸曹長は応援が来るまでここで待っててもらえますか? ロングアーチから何かあったらすぐに連絡して下さい」

 しかし、ティアナの呼びかけにヴァイスは反応を示さない。

 見れば彼はショックのあまり、すっかり自暴自棄になってしまい、愛機《ストームレイダー》に対し卑屈な言葉を並べていた。

「なぁストームレイダーよ・・・ヘリを死なせちまうヘリパイロットは正直死んだ方がいいと思わねーか・・・」

《Master, please bear up.(マスター、気を確かに持ってください)》

「どうせ俺なんか・・・どうせ俺なんか・・・///」

 相当に重症だった。今のヴァイスにかける言葉すら湧いてこなかった。

「あいつのことは放っておいた方がよさそうだな」

「「あははは・・・・・・」」

 

           *

 

第1管理世界「ミッドチルダ」

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 総合司令室

 

 予想だにしなかった不慮の事故の報せを受けたロングアーチに衝撃が走る。

「まさかヘリが墜落するだなんて・・・」

「なんとも幸先の悪い話であるな」

「だけど四人ともよく無事だったよなー。高度4000メートルから落ちたら普通死んでるだろ!?」

 至極真っ当なアギトの疑問。これを対しユーノがある意外な話を口にする。

「704式ヘリ改には緊急時に備えてスタビライザー部分に『魔力フローター発生装置』を取り付けて強化を施してある。いくらヴァイス陸曹長の熟練の腕を以てしてもあの高さから落ちれば即死は免れない」

「もしかしてユーノ君が・・・!?」

 なのはを始め居合わせた全員が察してしまった。ユーノが自分達の知らないところで保険を用意していた事を。

「悪い夢は見るものじゃないね。もしかしてと思って備えておいたいんだ。とはいえ、この先何も起きない保障は無い・・・・・・」

 どれだけ備えをしても予測の出来ないことはある。

 ユーノは自分の及ばないところで恋次達の身に危害が及ばないでほしい―――ただそればかりを考えていた。

 

           *

 

第99管理外世界「デウスマキナ」

中央大陸 農村地帯

 

 調査に出かけた三人は大陸中央の空に浮かぶ巨大な浮き島を発見した。

 見れば見るほど島は荘厳なものに思えてならず、人影を一遍に覆いつくしてしまう程の面積。恋次達の首は常に上へと向けられる。

「近くで見るとさらにデケーな」

「大地が丸ごと削り取られていますね」

「これが本当にアンゴルモアによる影響なんでしょうか?」

「ユーノの奴が言ってた話を覚えてるか? 崩玉、もといアンゴルモアは相手の心を取り込み具現化するものだってな。俺は崩玉の力で生まれた破面(アランカル)や、そいつと融合した元死神の強さと恐ろしさを知ってる。大地が隆起して浮かんじまうことくらいわけねーんだよ」

「では、この浮き島はこの世界の人々が願ったことが現実になったということですか?」

「だとしたら我々が見たあのユーハバッハという男も恋次さんが心の中で思ったことをアンゴルモアが具現化したものでは?」

 などと憶測を呟いていた折、ふと恋次はある物を発見した。

「おい。ありゃなんだ?」

 島のちょうど真下辺りに当たる大地を凝視する。三人は何かがうず高く大量に積み上げられているのを目撃。

 気になって近づいてみると、段々と馥郁(ふくいく)とした香気が鼻に入ってくるとともに、幅が広く缶詰状の大きさの物が何百個とストックされていた。

「なにかしらこれ?」

「すげー柑橘っぽい匂いだな」

 オレンジに極めて似た芳香を放つ。試しにスバルが缶の隙間から漏れ出たドロッとした液体を嘗めてみる。

「あ、これオイルだ! しかもかなり上質っぽい」

「どうしてこんなところにオイルが置いてるのかしら?」

「この世界の風習かな?」

「んな風習あるかよ。ま、よくわからねーがアンゴルモアとは関係なさそーだな」

 と、尚早に結論付けようとした直後―――恋次の尻に鮮烈な痛みが走る。

「いってえええぇぇぇえええ!!!」

 前触れもなく襲ってきた痛みに悲鳴を上げる恋次。

 よく見ると、袴の上から恋次の臀部(でんぶ)に噛みつく小さな子供がいた。恋次は痛みに堪えながら噛みつく子供を強引に引き剥がした。

「れ、恋次さん!」

「だいじょうぶですか?」

「このガキ、思い切り噛みつきやがって・・・なんなんだよ!?」

 突如として現れた現地住民と思しき子供。スバルは警戒心を抱かれないよう注意を払い、柔らかい表情で問いかける。

「きみはこのオイルの持ち主なの?」

「ちがうよ! このオイルは神さまのものなんだい!」

「神さま!? 神さまって・・・黒いコートみたいな格好の神のことかしら?」

「ちがう! デウスマキナの猫神様のことだ!」

「猫神だぁ!? なんだそりゃ?」

「きみ名前は? よかったら詳しく話してくれないかしら?」

 

 第99管理外世界「デウスマキナ」の住民・ミケスは―――ある日突然、この地方に根付いた土着の神・猫神が巨大な姿となって現れ、神の島マウイを空中に浮かび上がらせた事件の事を三人に話した。

「じゃあ、あの島は数か月前からずーっとああして浮かんでやがるのか」

「で、村で作ったオレンジオイルを毎日のようにここへ献上していると・・・・・・」

「でもその神さまがそのうち、オイルをすべて納めろって言いだしたもんで、実のところ村は大変なんだ。今まで村のエネルギーはぜんぶオレンジオイルに頼ってたからね」

 神の島マウイに住まうとされる猫神を信仰する村人達の生活は困窮していた。話を聞いた恋次達はこの不透明な話に眉を顰める。

「妙だな。同じ神なのに現地の連中が見たのと俺たちが見た神が違うなんて・・・いやそもそも俺は神なんてもんは信じちゃいねーけどな」

「それにオレンジオイルを貢がせているっていうの何だか気になります。私はアンゴルモアの背後に隠れた陰謀の臭いを感じます」

「恋次さん、ミケスやこの世界の人々を助けましょう! その為の私たち機動六課です!」

「しゃーねー。正体探るには面倒だが、あの神の島とやらに乗り込むしかなさそうだな」

「ミケス。オレンジオイルはどうやってあの島まで運ばれてるの?」

 おもむろにスバルが問う。するとミケスの口から些か信じ難い話が飛び出した。

「光の柱が島から注がれて、その光がオイルを持っていくんだよ」

 

 半信半疑の中、三人はオイルが島に運ばれるその瞬間を待ち伏せる事にした。

 やがて、待機すること小一時間―――恋次達の目に神秘的とも思える光景が飛び込んでくる。

「こ、これは・・・!」

 閉ざされていた瞳も思わず開けてしまうくらいの衝撃だった。

 三人は島から注がれる光線によって積み上げられた大量のオレンジオイルが次々と空を上っていく様を見、呆然とした。

「ほんとに浮かんでる!」

「信じられない」

「って。なにぼさっとしてやがる! この機を逃すわけにはいかねー。あの光線に乗って俺たちも神の島に潜入するぞ!!」

 語気強く言うと、恋次は行動に慎重なスバルとティアナをなおざりにして、血気盛んに飛び出した。

「あ、待ってください!」

「恋次さん! 勝手に行かないでください!」

 独断専行する恋次の後を追うスバルとティアナも慌てて光線に向かって走る。

 そして、オイルと一緒に三人も宙へ浮かぶ島に向かって飛んでいく。このとき―――島の上から恋次達の姿を見ていた者がいた。

 

「・・・オイルに混じって変な奴らが上ってきやがるぜ。まぁいい。また一発驚かせてやるか」

 

           *

 

中央大陸上空 神の島マウイ

 

 島の潜入に成功した恋次達。

 意外にも神の島と言われながら、至って平凡な環境が整っていた。地上と同じく現生の動植物が存在し、静謐な雰囲気を醸し出す様相に肩透かしを食らう。

「神の島とかいう割にはなんてことはねー。ただの島じゃねーか」

「気を付けてください。どこから見張られているかわかりません」

「ったく。そんなに年中気を付けてたら、疲れちまってしょうがねーだろう」

 ティアナの言葉を軽く受け流そうとした砌―――ズシンと、足元から伝わる巨大な地響きに恋次は肝を冷やした。

「うぉおお!? な、なんだ!?」

「あ、あれは!!」

 慄くスバルが指さす方向に現れる巨大な物影。

 紛れも無い。この世界へ来た当初、恋次達が見たのと同じユーハバッハの姿を象った神と思しき巨人だった。

 畏怖する三人に向かってユーハバッハはずっしりとした足音を立てながら一歩ずつ歩み寄ってくる。

「出やがったな!! ユーハバッハ!!」

 嘗ての仇敵を前に興奮した恋次は懐から刀を抜いて飛び出そうとする。

「コノヤロウ!!」

「待ってください恋次さん!」

 飛び出そうとし矢先、スバルとティアナによって制止させられた。

「なんでだよ!?」

「無暗に飛び出さないでください! 耐えるんです! 今出たら狙い撃ちにされます!」

「だがよ、あれはただの目の錯覚なんだろ!?」

 自らを死神と名乗るゆえに目に見える神に対して不信心である恋次がそう思っていると、ユーハバッハの踏んだ大地が勢いよく捲れ上がった。同時に巨大な岩が衝撃によって破壊される。

 見た途端、三人は到底幻とは思えない事態に挙って息を飲む。

「さ、錯覚じゃないみたいですね・・・」

「本物みたいね・・・」

「おい! このままじゃ踏みつぶされちまうぞ!」

「敵はきっと私たちの考えを読めるに違いありません。そして、それを元にして巨大な実体を作り出す力があるんです!」

「ティア、説明してるあいだに戦った方がよくない!?」

「神は心の中に宿るもの。あんな巨人は実在しないと考えるのよスバル!」

「そんな急に考えられないよー!」

「だったら何も考えなければいいじゃない! 心を無にするのよ!」

「えぇ~、余計難しいよ!!」

「言ってる場合かおまえら! 来たぞー!」

 現実ではあり得ない事態にティアナですらパニックに陥る。そうしている間にも目前に迫まったユーハバッハの巨大な右脚がおもむろに上げられる。

「そんなぁー!!」

 三人を覆いつくす影。呆気にとられる恋次達に狙い定めたユーハバッハの右脚が勢いよく下される。

「「「うわあああぁぁぁ!!!」」」

 死を覚悟し目を瞑る三人。

 しかし、いつまで経っても押し潰されるような感覚を味わう事はなかった。

 不思議に思いながらおもむろに目を開けたとき、三人の前に居たはずのユーハバッハはいつの間にか居なくなっていた。

「い・・・いない・・・」

「どうやら助かったみたいだなー」

 理由は分からないがユーハバッハを模した巨人の脅威から逃れられた。命拾いした三人は揃って安堵の溜息を突く。

「はぁ~・・・寿命が十年くらい縮まったわ」

「しかしわからねー。デウスマキナの連中には猫の神に視えて、俺たちにはユーハバッハの姿に視えた。結局のところありゃ実体を持ってるようで持っていない幻・・・言わば“有幻覚(ゆうげんかく)”のようなものだったわけだ」

「誰がそんなことを?」

 この奇怪な現象が自然なものではないことは明白だった。何者かの干渉によって幻は作り出されていると確信に迫る恋次達。

 

 パンッ・・・。パンッ・・・。

 刹那、空の上から唐突に三人を襲う銃撃が飛んできた。

「今度はなによ!?」

「上かァ!」

 驚愕し頭上を仰ぎ見ると、原付バイクを模した宙に浮かぶ乗り物に搭乗し、アサルトライフル様の銃器を構えた男が三人を見下ろしていた。

「時空管理局の連中か・・・。道理で虫唾が走ると思ったぜ」

 バンダナを巻いた男の顔には髑髏を模した刺青が彫られ、その風貌と立ち振る舞いから悪人である事を微塵も隠そうとしない不敵な笑みを浮かべていた。

 降下してきた男―――ハッグスと対峙した三人は警戒心を露わにする。

「あなた何者? 見るからに善人には見えなさそうだけど」

「そのとおり。お前達の言うところの悪人さ。次元海賊ネメシスって言やぁ聞き覚えあるだろう?」

「ネメシスですって!?」

「知ってるのか?」

 声色を変化させたティアナに恋次が問い質す。

 ティアナはハッグスが口にしたネメシスの言葉の意味をおもむろに説明する。

「次元海賊ネメシス―――次元世界で最大の規模を誇る犯罪シンジケートです。目ぼしい世界を見つけては略奪行為を行っていると聞いていましたが、まさかこの世界にまで・・・」

「その次元海賊とやらの狙いはオレンジオイルを根こそぎ奪うことか?」

「いかにも。この世界の連中はとても信心深く、何よりこの世界のオレンジから作り出される良質なオイルはいろんな場所で高く売れる。だから奴らに神を見せてやった。連中はこの神の島にありもしない神が住むと思い込み、毎日タダでそのオイルを供えている。俺は連中からオイルを搾り取れるだけ搾り取ってやるのさ。この力を使ってな―――」

 言うと、ハッグスは懐に隠し持っていたある物を取り出し堂々と頭上へと掲げる。

 三人が見たのは頑丈に密閉された透明な容器に保管された紫紺に輝く小さな欠片状の物体―――捜索指定遺失物(ロストロギア)『アンゴルモア』に相違なかった。

「それは・・・アンゴルモア!」

「なるほど。今まで俺らが見てきた幻は全部テメーがそいつを使って見せていたものだったのか」

「今すぐそれを渡して投降しない。ただでさえ海賊行為っていう罪があるのに、そのくせ質量兵器保有並びに危険使用の罪まで上乗せしたいのかしら?」

 執務官であるティアナの厳しい追及にも決して屈せず、ハッグスは勝気な笑みを浮かべ反論する。

「ごちゃごちゃウルセーんだよ。逮捕されるのが怖くて海賊なんてやってられっか! こいつは神をも作り出すスゲーお宝なんだ! お前たちには渡せねー!」

 強気な態度を取りつつも管理局にアンゴルモア奪取をされる事を恐れ、ハッグスは近場に隠れていた仲間を呼び寄せる。

 ハッグスの応援に駆け付けた者達の手には管理局法によって保有と使用が固く禁止された質量武器が握られ、いずれも殺傷能力の高い重火器のオンパレードだった。

「な・・・こいつら!?」

「こんなにたくさん隠れていたなんて!」

 一斉に周りを数十人の海賊に取り込まれる。

 ハッグスを始め、海賊達は下種な表情で三人を見つめ―――頃合いを見計らうと一斉に銃撃を開始する。

 四方八方と飛び交う銃声。

 銃弾の雨に晒されながら、スバルとティアナは手際よく防護服を身に纏いデバイスを起動させる。

「リボルバー・・・キャノン!!」

「クロスファイアーシューっと!!」

 次元犯罪者相手に一切の手は抜かない。相手が殺傷能力の高い武器を使用しようとも、管理局の一員である以上魔法での戦いは基本的には非殺傷設定。

 “傷つけずに制圧する”―――を念頭とした従来の方針に従い、スバルとティアナは毅然とした態度で手荒な相手に立ち向かう。

「咆えろ、蛇尾丸!!!」

 管理局の一員ではない恋次も二人の力になれるよう極力体格が大きく、手強そうな相手を自身の力でもってねじ伏せる。無論、斬り伏せるのではなく飽く迄も逮捕を主眼とした昏倒が目的。蛇尾丸を絶妙な力加減で調節しながら敵を次々と打ち倒す。

 だが、そのうち三人は思い知らされる。一人一人の敵の力は弱くてもそれを遥かに上回るだけの数が相手にはある事を。

 多勢に無勢という状況を痛感させられ、恋次は終始険しい顔でスバルとティアナと背中を預け合う。

「くそっ。いくらなんでも数が多いぜ!」

「敵の数がこれほどとは・・・」

「完全に見誤っちゃった感じだね」

「フフフ・・・ネメシスを相手にしたのがオマエらの運の尽きだったようだな。ここで全員蜂の巣にしてやるぜ!」

 

「そうはさせないよ」

 絶望的な状況下、真上から響き渡る凛とした女性の声に居合わせた者全員が驚いた。

 刹那、桜色に輝く巨大な砲撃が空の上から飛んできた。砲撃はネメシスの構成員のほとんどを無慈悲にも飲み込んだ。

「なのはさん!」

 嬉々とした表情を浮かべ、スバルは上空を舞う純白の防護服に身を包んだエース・オブ・エース―――高町なのはと、その近くを浮遊する次元航行船ヴォルフラムを仰ぎ見る。

 ヴォルフラムからは八神はやてを始め、フェイト、ヴィータらが次々と飛び出し、なのはとともに眼下の敵を見据える。

「機動六課スターズ&ライトニング、出撃や!」

「「「「了解!」」」」

 はやての合図でなのは、フェイト、ヴィータの三人は散開し―――ネメシス討伐の為に各々は技を披露する。

「ラケーテンハンマー!!」

「ジェットザンバー!」

「ハイペリオン・・・バスター!!」

 破竹の勢いで次々と敵残存勢力が制圧されていった。

 管理局が誇る陸海空のエース達の実力を目の当たりにしたハッグスは肝を潰される思いだった。

 気が付くと、先ほどとは真逆の状況―――恋次とティアナ、スバルらによって四方を囲まれていた。

「形勢逆転ね」

「まだ抵抗する気か? 大人しくアンゴルモアを渡してもらうか」

「ちっ・・・・・・捕まってたまるか!!」

 何としても逃げ仰せる気で隠し持っていた閃光弾で三人の目を眩ませる。

 一瞬の隙を突く形で現場からの逃走を決め込もうとしたが、次の瞬間―――

「ぐああああ」

 強い何かの力によって足首を引っ張られ転倒。

 転んだ衝撃で手元からアンゴルモアが零れ落ちる。それを拾い上げたのは斬魄刀・晩翠を手にした翡翠の魔導死神―――ユーノだった。

「アンゴルモアは確かにいただいたよ」

「「「ユーノ(先生)!!」」」

「チキショウ・・・なんだよこいつは!?」

 いつの間にかその場に現れたユーノに驚く恋次達を余所に、ハッグスは脚部に纏わりつく異様な物体―――足元にある影から伸びた無数の腕のようなものに戦慄を抱く。

 すると、ハッグスを縛り付けているものについてそれを作り出した張本人たるユーノがおもむろに語った。

「“闇討晩翠・影従足枷(えいじゅうあしかせ)”―――君の影は完全に捕えられた。地獄の番人共の拘束からは決して抜け出せない」

 人に恐怖を与えるような不気味な笑みでそう語りかけるユーノを見、おもわず背筋がぞっとする。

 やがて、ユーノが話している間にハッグスの仲間はなのは達によって悉く殲滅された。

 完全なる敗北―――それを悟った途端、ハッグスはどこか強気を装ったように声高に笑いあげる。

「フハハハハハ。テメーら終わったな! 完全にネメシスを敵に回したぞ! 今世界中に散らばるネメシスがテメーらを殺しに来るだろうぜ! 相手が管理局だろうが関係ねー、テメーらはいずれ死ぬんだ!!」

「言いたいことはそれだけかい? どちらにせよ先に終わるのは君だよ」

 低い声で呟くユーノはうつ伏せになったまま動けないハッグスへと晩翠の切っ先を突きつけ―――威圧的な雰囲気を醸し出しながら言葉を紡ぐ。

「君達がどこで何をしようと構わない。だけど僕のこの剣が届く範囲は僕の絶対守護領域だ。そこに無粋なものが入ってきたのなら、たとえ神様だろうが隕石だろうが―――斬る」

 宣言した瞬間、ユーノの意思を汲み取ったかの如くハッグスを拘束していた腕という腕が全身へと絡みつき、より強固な力で縛り付ける。

「ぐああああ・・・・・・!!! わ、悪かった!! 俺が悪かったから・・・・・・だから・・・たすけ・・・・・・!!」

 ハッグスの切願も空しく、腕は相手の意識が完全に沈黙するまで決してその力を緩める事は無かった。

 

 こうしてユーノ達の活躍により次元海賊ネメシスの末端組織は壊滅。頭目であるハッグス以下構成員129名全員が逮捕された。

 アンゴルモアの影響によって浮かび上がった神の島マウイはその後―――デウスマキナの元の場所へ軟着陸した。

 島の着陸を見届けた村の人々は大いに歓喜。

 そうして機動六課によって取り戻されたオレンジオイルは、すべてミケス達の村に返された。

「お陰で村に昔のような平和が戻りました。ありがとうございました!」

「それは良かった。何よりだよ」

 村の人々を代表してミケスはユーノ達に感謝の言葉を述べる。

 やがて、ユーノは今回の一件を通して村人に一つの箴言(しんげん)を口に贈る事にした。

「“人事を尽くして天命を待つ”という言葉がある。誰かに頼ろうとする心が、アンゴルモアに反応して間違った神を生み出してしまったんだ。誰かに頼る前に、自分で出来るだけ努力をすることを怠っちゃいけないよ」

「わかりました! その言葉に誓ってこれからがんばります!」

「スバル達も今のユーノ君の言葉、心して聞くんだよ」

「「はい!」」

「僕としたことが・・・つまらない説教をしてしまったよ」

 自分でも何故こんな話をしたのかと不思議に思う胸中、為すべき事を終えて踵を返そうとした折―――ユーノはふと何かの気配を感じ取った。

「!」

 勢いよく後ろを振り返る。だが、そこには誰も居なかった。

「ユーノ君、どうかしたの?」

「なにしてんだよ。早く帰ろうぜ」

(気のせいか・・・・・・)

 魔導死神化した事であらゆる感覚が鋭敏になった所為で時折ありもしない物に対する気配まで抱きがちな自分の思い過ごしだと断定。なのは達の後に続いてヴォルフラムへと帰還する。

 だが、このときユーノが感じた気配は思い違いなどではなかった。彼を始め機動六課の戦いの模様を秘かに観察していた者が確かに居たのだ。

 去り行くユーノ達の後姿を見ながら、その観察者―――黄金の甲冑に身を包んだ騎士を模した姿の怪人は意味深長な言葉を呟いた。

『戦争の始まりです・・・・・・』

 

『アンゴルモアを巡る私達との戦争がね・・・・・・ユーノ・スクライア』

 

 

 

 スカリエッティの脱獄から4年

 世界を滅ぼす強大なエネルギーが秘められたアンゴルモアを巡り

 今、ユーノ達の新たな戦いが幕を開けた!

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:久保帯人 『BLEACH 46巻』 (集英社・2008)

 

用語解説

※ スタビライザー= 船、飛行機、自動車、自転車などの乗り物に取り付けられ、外乱や操縦によって発生する不規則で不要な揺れを抑える装置

 

 

 

 

 

 

なのはさんのユーノ君大全♪

 

な「今日は、私がユーノ君について紹介するね♪」

「ユーノ君は遺跡発掘をお仕事とするスクライア一族出身の結界魔導師さん。ジュエルシードを発掘したのもユーノ君で、私が魔法と出会うきっかけになった大きな節目」

「女性とも思える端正な顔立ちに、責任感がとっても強い真面目で優しい考古学者さん。そして私の魔法の先生で、今では恋人同士・・・きゃっは♪」

 時折惚気とも言える発言でなのはは自分で自分の頬を染める。

「噂によると、管理局に勤めていたときは毎年結婚したい男性ランキングの上位に入っていたとか。言われてみると方々で女性人気が高かったような・・・・・・む~~~、ユーノ君は私だけのものなのに~~~!!!」

一「何がむ~~~、だよ。つーか、ユーノの許可なく勝手にこんなコーナーはじめて大丈夫なのかよ?」

 度重なるコーナージャック騒動の結果、ユーノによる報復で当事者がどんな目にあっているかを知っていた一護。

 あとの事を懸念する一護に対して、なのはは嬉々とした笑みを浮かべる。

な「だいじょうぶですよ、一護さん♪ ユーノ君は私には特別優しいですから。きっと許してくれますよ♪」

一「あ、さいですかい・・・・・・」

 愛弟子の恋が実ったことは素直に喜ばしいものの、一護はどうにも不安が拭い切れないものがあった。

 

 

 

魔導師図鑑ハイパー!

 

 休憩室で談笑をしていた時だった。不意にはやてがある疑問をユーノにぶつけた。

は「ところで気になるんやけど・・・・・・ユーノくん駄菓子屋さんやってるみたいやけど、ぶっちゃけ駄菓子屋って儲かるん?」

恋「そりゃ俺も思ったぜ。浦原さんといい、お前といい、もうちょっといい商売あるだろうが」

ユ「わかっていないんだー。僕からすれば駄菓子屋ほど気楽な商売は無いね。いつも忙しいわけじゃないから、自由時間はたっぷりあるし、僕みたいな色んな仕事を掛け持ちしてる人間からすればいい食い扶持だよ♪」

な「でもさすがに駄菓子や雑貨を売ってるだけじゃ食べていけないと思うよ」

フェ「確かに、お得意様がいるからって一日当たりの売り上げだって一万円いくかどうか・・・・・・ねぇユーノ、年収いくらくらいなの?」

 核心を突くフェイトの質問に対し、ユーノはおもむろに答える。

ユ「去年だったらそうだな・・・・・・年収1億円くらいかな」

な・フェ・は・恋「えぇぇぇ――――――っ!!!」

 予測計算を凌駕する収入を聞かされ、堪らず声を上げる四人。

 ユーノは扇子を広げ、驚天動地の四人を見ながら、飄々とした笑みを浮かべる。

ユ「フッフッフッ・・・・・・公務員一筋の君たちにはわかるかな~、僕がどうやってそれだけの収入を得ているのか♪」

 次回、ユーノが語る荒稼ぎの方法の実態が明らかとなる!!




次回予告

白「私の名は白鳥礼二。またの名を白翼の魔導死神。皆の衆、次回は私が大活躍する話となる。その活躍に刮目するのだ!」
エ「音楽の都・リゼンブルグで新たに発見されたアンゴルモア。旧市街にたたずむ古びた時計台から聞こえてくる恐怖の音とは?」
キャ「次回、ユーノ・スクライア外伝・・・『スピリチュアル・ビブラート』。災いの欠片がもたらすちょっと切ないお話です」



登場人物
ミケス
声:小松未可子
第99管理外世界「デウスマキナ」の中央大陸にある村に住む子供。
信心深く、村特産のオレンジオイルを神の島マウイに毎日供えているが、それが原因で村が困窮する自体に危機感を抱いていた。
機動六課の活躍によってネメシスに奪われたオレンジオイルが返された後、ユーノの箴言を聞き入れ、事件での教訓を活かす事を決意する。
ハッグス
声:興津和幸
次元海賊「ネメシス」の末端組織の頭目。
デウスマキナで手に入れたアンゴルモアを使い、ミケス達に神の幻を見せてオレンジオイルを貢がせ高値で売りさばいていた。
島へ乗り込んできた恋次達と対峙し、一時は多勢に無勢による優勢を見せたが、なのは達の加勢によって形勢は逆転。最後はユーノによって倒される。
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