ユーノ・スクライア外伝   作:重要大事

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第28話「スピリチュアル・ビブラート」

新歴079年 6月22日

第97管理外世界「地球」

東京都 海鳴市 バニングス邸

 

 午前6時半―――。

 初夏の日差しがカーテン越しに淡く差し込む。その光に促された彼女―――アリサ・バニングスは深い眠りからゆっくりと目を覚ます。

「ふぁ~・・・・・・。」

 大きく伸びをしながら欠伸をする。すぐに部屋のカーテンを開け、日の光をたっぷりと浴びて脳の覚醒を催す。

 やがて部屋を出るとすぐに寝汗をさっぱりさせる為に朝シャンを済ませ、それが終わるとリビングへと向かう。

「おはようー。」

「おはようございます。アリサお嬢様」

「鮫島、コーヒーブラックでね」

「かしこまりました」

 広いリビングには長年執事として仕えてきた鮫島が一人で食事の用意をして待っていた。両親とも同居している、生憎朝早くから留守にしている。

 父が経営する会社の跡取として日々仕事に追われるアリアにとって、朝のコーヒーブレイクは多忙な時を束の間忘れさせる貴重な(いとま)。最高級の豆を挽いた焙煎コーヒーを手に取り、コクのある香りを十分に堪能してからおもむろに口へ運ぶ。

 そんな折、鮫島がプレートをテーブルに運びながらアリサへふと気になった事を問う。

「しかしお嬢様はいつからコーヒーをブラックで飲むようになったのですか?」

「え? んーっと・・・たぶんアイツが家に来てからじゃないかしら。昔はちょっと苦手意識があって飲むの敬遠してたけど、今じゃ殆どブラックで飲んでるわね」

 などと言っていた折、この家でアリサと衣食住を共にし、彼女の嗜好にまで影響を与えた同居人がやってきた。

「おはよう。今日も素晴らしい朝であるな」

「おはようございます白鳥様」

「あんたねー。家主よりも遅くに起きて堂々としてるって結構いい根性してるわね」

 呆れた様に言いながら、アリサは同居人の男―――白鳥礼二をジト目で見つめる。これに対して白鳥はアリサに言い分に自信満々に言い返す。

「世界は常に私を中心に回っている。たとえどのような場所でも私はいつだって神の寵愛を受けている。白鳥礼二とはそういう男なのだ」

「あー、はいはい。そういうのいいからさっさとテーブルついて朝ごはんにしましょう」

「うむ・・・鮫島よ。私にもコーヒーを一杯頼む。ブルマンのピーペリーで頼むぞ」

「承知しました」

 アリサ同様に鮫島は白鳥にもこの家で暮らす者と同じ態度で接する。

 鮫島がコーヒーを淹れるかたわら、白鳥はアリサと向かい合うように宛がわれた席へと着く。

「そういえばアンタ、ユーノから聞いたけどこのあいだからなのは達の部隊で厄介になってるんでしょ? ぶっちゃけ大丈夫なの?」

「誰に向かって口を利いているのだアリサ嬢。私こそ、護廷十三隊一番隊第三席にして“白翼の魔導死神”―――私が居る限り下々の安寧は確約されたのも同然。如何なる敵をも我が刃の前にひれ伏せて見せよう」

 怖いくらいポジティブ、もとい自信過剰。泰然自若を通り越して傲慢不遜とも取れる言動をとった白鳥は悠々とコーヒーブレイクに移る。

「ほんとまぁ・・・・・・どっから来るのかしらね。この根拠の無い自信は」

「それもまた白鳥様の利点かと思います」

 白鳥との同棲を始めて数か月―――アリサと鮫島は彼のこうした言動を聞くたび、正直どうリアクションを取っていいのか未だに分からなかった。

 

           *

 

第1管理世界「ミッドチルダ」

ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 部隊長室

 

 地球からミッドチルダまでユーノが設置した転送ポートで直接バニングス家から出勤していた白鳥は、出勤後直ぐにはやてから呼び出しを受けた。

「嘱託認定試験だと?」

 聞きなれない単語に小首をかしげる白鳥にはやてとリインは説明する。

「簡単にいうと、この試験に合格すれば異世界での行動制限がぐっと少なくなるんです」

「そのうえミッド(こちら)側での白鳥さんの身の上も保障されるんですよー」

 時空管理局嘱託魔導師認定試験―――慢性的な人手不足を補う目的で、管理局が民間の魔導師に職務を依頼する事が多々ある。試験合格者には管理局から一定水準の魔法使用に関する制約の撤廃が許され、更には仕事に応じた報酬を得られる。

 現在、機動六課で民間協力者として護廷十三隊から出向中の阿散井恋次、吉良イヅルを始め―――熊谷金太郎、亀井浦太郎、桃谷鬼太郎が特別な条件の元に嘱託認定試験を受けており、いずれも合格をしている。

「やれやれ何を言うかと思えば・・・・・・なにゆえ私がそのような面倒なことをしなければならんのだ?」

「なぜって・・・一応白鳥さんも民間協力者いう立場やし、受けといて損はないと思いますよ。浦太郎さんや金太郎さん、あの恋次さんや鬼太郎さんだってテストに合格してここにいるんですから」

「私はゴールデンベアーやブルータートルのように純粋な魔導師ではない。元来死神である私がお主等の言うルールに従う義理もない」

 話を聞いていた白鳥の反応は予想に反して大分冷ややかなものだった。これには二人も面を食らってしまった。

「えーと、正直それ言われるとこっちも痛いところを突かれますといいか・・・せやけど、魔導師ランクを持たへんあなたの身辺を保護する責任が私にはありましてね」

「はやてちゃんも私たちも白鳥さんにもしもの事があってほしくないだけなんですー」

「要らぬ心配だな。自分の身の上は自分で護れる」

 きっぱりと口にした途端、踵を返し白鳥ははやて達に背を向け歩き出す。

「あ、ちょっと白鳥さん! まだお話が・・・!」

「お主はそうでも私は終わったのだ。ブルマンコーヒーが私を待っている」

「ちょ!! 待ってください!!」

 咄嗟に声を荒らげ制止を呼びかけたが、白鳥は早々に部隊長室を出て行った。

「行っちゃいましたね」

「かぁ~~~・・・なんやめんどくさい人がうちに来たもんやなー!」

「でも困りましたね。白鳥さんがこのまま嘱託試験を受けてくれないと、異世界任務で何かあった際に私たちが助けてあげられなくなってしまいます」

「実を言うとな、私もあの手の人の扱いはあんまし得意やないんよ。さて・・・どないしたものかな」

 何とか白鳥に試験を受けさせるいい方法はないか―――はやては両手を組んでその方法を模索し始める。

 

           *

 

同隊舎内 隊員オフィス

 

 就業時間―――。文字通り働く為の時間を指す。殆どの者は好むと好まざるとに関わらずこの時間を労働に費やすのが普通だ。

 しかし、白鳥礼二にとってその言葉はあってないようなものだった。

 就業が始まって一時間が経過していながら、彼は職務を全うするどころかコーヒーに現を抜かしていた。

「ふむ・・・この苦味の中にやわらかでスムーズな口当たり。やはり仕事の合間に飲むブルマン58は格別であるな」

 他人の目など一切気にしない。自分だけの空間を形成する。

 周囲から困惑の眼差しが向けられる中、白鳥は空になったコーヒーカップを近くに居たキャロへと差し出した。

「キャロとやら。すまないがおかわりを頼む。ブルマン炭焼58にしてほしい」

「あ・・・はい・・・」

「じゃねーだろう!!」

 最早我慢の限界だった。サボタージュどころか仕事すらしようとしない白鳥の言動に鬼太郎は業腹―――鬼の如く抗議する。

「おい鳥野郎、テメーここに来てからまともに仕事なんかしてねーだろう! さっきから見てりゃなんだよ!? ずっとコーヒー飲んでるだけじゃねーかよ!! そういうの惰眠を貪るって言うんだぜ!」

「私はピーチのように年中惰眠を貪っている訳ではない。それに惰眠とは本来怠けて眠っていることを言うのだぞ。私がいつ居眠りなどした?」

「ああ言えばこう言いやがって・・・もう我慢ならねー! こうなったら白黒つけてやろうじゃねーか!! テメーと俺、どっちが強いのかな!!」

「ちょ、ちょっと先輩! 気持ちはわかるけど落ち着きなって」

 頭に血が上った鬼太郎を落ち着かせようとする浦太郎だったが、意外にも白鳥が鬼太郎の提案を受け入れたのだ。

「やれやれ。これだから知能指数の低い者と関わり合うのは骨が折れる。よかろう―――私とお主とでは天地ほどに実力が隔たっている事を証明して見せよう」

「言ってくれるじゃねーか。その減らず口二度と利けなくしてやる!!」

 一触即発の危機。元々仲の良い関係ではない両者が激しい火花を散らし合う。

 どこかで見た構図だと思ったフェイトはふと思い出す。ユーノとクロノが一昔前までこんな風に言い争っていた光景を。

 それはそれとして、仲間内で衝突し合うのは決して穏便とは言えない。不安になったスバルが二人の事をよく知る金太郎に助け舟を出す。

「き、金太郎さん・・・止めた方がいいんじゃないですか?」

「放っておかれよ。当事者同士が納得しない限り我々がいくら説得したところで収まりませんゆえ」

「でもこの際だから白鳥さんの魔法戦の記録を取っておくのもいいかもしれませんね。そしたら、今度白鳥さんにも教導に参加してもらえるきっかけになりますし♪」

「おめーは隙あらば誰でも教導したがるんだな」

「だってユーノ君と同じ魔導死神なんだよ! きっと鍛えれば強くなると思うんだ!」

 違う意味で二人の戦いを奨励するなのはの目の輝き様には流石のヴィータも露骨に顔を引き攣ってしまう。

「生憎私は鍛えなくても既に強者である。ピーチなど我が眼中には無いことをお主達の前で篤とご覧に入れようぞ」

「上等だぜッ!! 表に出やがれー!!」

 

           *

 

 同日―――機動六課エグゼクティブアドバイバーであるユーノ・スクライアは日中、黒崎一護を連れてある場所へと向かった。

 

           ≡

 

第145観測指定世界

荒野地帯 スクライアの集落跡

 

「四年か・・・。それだけ経っても・・・ここは少しも変ってないな」

 しんみりとした表情で呟くユーノの手には花束が握りしめられていた。

 一護はユーノの後ろに立ち、目の前に広がる光景―――荒廃し焦土と化した大地と集落の残骸、ところどころ苔の生えた人工物が点在するものを見る。

「ここが―――お前の故郷だった場所か・・・・・・・・・・・・」

()()()ではありません。今も昔もここは、僕の故郷。そして――――――結界魔導師ユーノ・スクライアの墓標です」

 背中越しに語ると、ユーノは自身を残して管理局からほぼ全滅したと認識されているスクライア一族の鎮魂に仏花を供え、持参した線香を地面に刺して火を点ける。

 ビューっと、やや強い風が吹く。一護はじっと手を合わせたまま黙祷を捧げるユーノを見、おもむろに問い質す。

「四年越しの墓参りに・・・どうして俺みたいな部外者を同行させたんだ? 第一この四年間ずうっと放ったらかしにしてたのが、今になってどういう風の吹き回しだよ」

 問いかけた直後は応答がなかった。一護はユーノからの返答をじっと待つ。

 しばらくして、合掌を終えたユーノはゆっくりと立ち上がり―――心中の想いを赤裸々に告白した。

「魔導死神になって四年・・・見聞を広げる目的で僕が地球全土と次元世界の多くを流れたことはご存じの筈です」

「ああ。知ってるぜ」

「ただどうしてもここだけは無意識に避けて来たんです。僕は一族を裏切っただけじゃない。見殺しにしたんです」

「・・・・・・・・・意味が分からねーな。なんでお前が見殺しにした事になるんだ?」

 問われた直後、ユーノが一護の方へおもむろに振り返った。

「一護さんには話しておきます。僕がみんなに隠している事を――――――」

 ビューっと、再び強い風が吹いた。

 一護はその間にユーノの口からある信じ難い話を聞かされ絶句した。

「なん・・・だと・・・・・・!?」

 一護のリアクションを見越していたユーノは自嘲っぽい笑みを浮かべ、眼下に備えた花を一瞥し、脳裏に鮮明と浮かぶ四年前の出来事を思い出す。

「辺り一面が炎に包まれ、僕は育ての親も同然だった族長を目の前で失った。死の間際、族長は僕にこう言いました。“おまえを理解したつもりですまなかった”と・・・・・・むしろ、それは僕の科白だ。あの人を十分に理解していなかったから失った。僕は・・・・・・とんでもない親不孝者だ!」

「ユーノ・・・・・・」

 声を殺しているのは咽び泣いているのを誤魔化す為か。師弟と言えど複雑な弟子の気持ちのすべてを理解することは一護にも出来ない。

「一護さん・・・・・・これはぜんぶ僕のエゴです。本当なら、僕のエゴにあなたやなのは達を巻き込むつもりじゃなかった。でも、ここにきてようやく気持ちが固まりました」

 言うと、瞳に溜まっていた雫が風とともに流され―――確固たる決意のもとにユーノは一護に宣言した。

 

「この先どんな事があっても、不都合な事実から逃げるのはもうやめようって思ったんです」

 

           *

 

第1管理世界「ミッドチルダ」

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 海上トレーニングスペース

 

「えー・・・とゆーわけで。これから鬼太郎さんと白鳥さんの模擬戦をはじめます! 審判は不肖・高町なのはが務めさせてもらいます」

 決戦の火蓋が切って落とされる。

 桃谷鬼太郎と白鳥礼二による一世一代の勝負に前線メンバーの注目が多く集まる。なのはは対峙する両者に安全の為のルールを説明する。

「勝負はどちらかが致命傷になる打撃を受けるか、あるいは自ら負けを認めるか明らかに反撃不能と判断されるまで。白鳥さんは魔法も非殺傷ならば何でも可です。ただし本人への直接的な攻撃の使用は禁止。いいですか?」

「相分かった。ピーチよ、我が力の前にひれ伏すがよい」

「へっ。開始10秒でケリをつけてやらぁ! あといい加減そのピーチって言い方もやめさせてやる!」

 片や己の力を誇示する為。片や相手に一泡吹かす為。そんな二人の戦いを見守っていた恋次が怪訝そうに呟いた。

「そういや白鳥って実際のところ強いのか? クラナガン決戦じゃほとんど真面に見た事なかったな」

「あれでも一応三席らしいからね」

「ユーノ先生と同じ魔導死神の力を持った特異な存在・・・か」

「ま。どっちが勝っても僕らには正直どうでもいい話だけどね」

 浦太郎の言う事は的を射ていた。どちらに軍配が上がったところでつまるところ不毛なのである。

「準備はいいですね? それじゃあ・・・レディー・・・ゴウ!!」

「熾きやがれ、烈火!!」

 開始直後―――声高に解号を唱えた鬼太郎。封印状態の斬魄刀を身の丈ほどの大剣へと変化させ、火焔を滾らせる。

「先手必勝!! うらあああああああああ」

 と、勢いよく飛び出そうとした矢先。

「摩擦よ。我が意に従い消失せよ―――」

 右手を翳した白鳥が呪文を唱える。すると鬼太郎の足元に白色に輝くミッドチルダ式の魔法陣が現れた。

「どわぁぁあああ!」

 魔法陣の出現とともに足元が突然滑り易くなった。鬼太郎はあたふたとしながら前のめりに転倒する。

 転んだ拍子に頭を打った鬼太郎。痛みを堪えて体を起こそうとした直後、前方に立っていた白鳥に切っ先を突きつけられていた。

「審判? 勝敗は?」

「ふぇ? あぁ・・・えっと・・・勝者、白鳥さん!」

 一瞬呆けていたなのはも状況を確認。明らかな白鳥の勝利を宣言した。

「ちょ、ちょっと待ったぁ! 何だよ今のは!?」

 納得のいかない鬼太郎が白鳥へ詰め寄る。当人は至って冷静な物言いで先ほどの出来事について説く。

「見てわからぬのか。魔法を使ってお主の足元の摩擦を無くしただけである。魔法ならば何でも有りとのことだったからな」

「いやいやいや! 勝負とかそれ以前の問題だろ!」

「ルールはルールだ。私は主との決闘を制した。そして主は私に敗北した。これ以上他に何があるというのだ?」

「くぅ~~~! 納得できるか!! おいなのは! もう一回! もう一回だ!」

「えー・・・でも勝負は勝負ですよね?」

「あんなの勝負って言えるかよ!! おい鳥、もう一回やらせろ!!」

「悪いがピーチの妄言に付き合う義理は無い」

「あ、おい待てコノヤロウ!! 逃げんじゃねーぞ!!」

 面倒ごとを早々に片付けた白鳥は鬼太郎に一切の温情もかけず、踵を返し隊舎の方へ歩いて行く。鬼太郎は声を荒らげながらその後を追いかける。

 一方、先ほどの試合結果を間近で見ていた前線メンバーはというと―――肩透かしを食らったかの如く手応えの無い結果に全員が微妙な表情を浮かべる。

「今の・・・ありなんですかね?」

「一応ルールの中で従ってはいるから反則じゃないんだけど」

「正直せこいよな」

 

           *

 

 鬼太郎と白鳥の模擬戦闘から数時間が経過した後―――異世界に散らばった新たなる《アンゴルモア》の反応が確認された。

 

 

 

『リゼンブルグ』

 

 第81管理世界と称されるこの世界では音楽興行が盛んに行われている。

 次元世界屈指の音楽都市として、その道に進もうとしている者達が挙って集うことからリゼンブルグはいつしか【音楽の都】と呼ばれるようになった。

 

 先んじて現地へと赴き、調査に当たっていたフェイト達は―――地元住民の聞き込みからアンゴルモアの仕業と思しきある奇怪な事件を追って主要市街地郊外に位置する旧市街へと向かった。

 

           ≡

 

第81管理世界「リゼンブルグ」

旧市街地 廃棄区画

 

 旧市街―――嘗て栄華を極めた町の中央には巨大なシティホール、シンボルである時計台が佇んでいる。

 やがて区画整理によって人がいなくなり、町からは音楽が消えた。そしていつの頃か人々はゴーストタウンと化したこの町へ近づこうとはしなくなった。

 だが、ここ数か月―――時計台より奇妙な音が鳴り響くようになり、以来何の前触れもなく人が蒸発するという事件が日増しに増えていったのだ。

 不可思議な事件を調査する為、旧市街を訪れたフェイト達はあまりに閑散として不気味なまでに静謐な街並みに緊張の糸を張り巡らせる。

「華やかだった街並みが・・・・・・ここへ来て一変したな」

「どこの世界でも光あるところに闇はあるって感じだぜ」

「町の人が言うには、このあたりで最近奇妙な音が聞こえて、その音が聞こえ始めてから何人もの人が失踪してるとは言ったけど・・・・・・取り立ててなにも」

「さしずめ人を常世へと誘う死の音・・・・・・といったところか」

「迷信染みた話だよなー」

「! 待って二人とも・・・物影に何かいる」

 不意に異質な気配を感じ取り、フェイトはシグナムとアギトに注意を促す。

 三人が警戒していた砌、暗い路地裏から明らかに正気を失い目が虚ろな者が一人、また一人と湧いて出てきた。

「なんだよコイツら!?」

「わからん。ひとつ確かなのは彼らが普通ではない状態だという事だ」

 シグナムの言う通り、人々は普通ではなかった。

 常時人語ですらない奇声を放つ様は西洋のゾンビを彷彿とさせる。おまけによく見れば彼らの手には剣や斧、ハンマーなどといった凶悪な武器が握りしめられていた。

 フェイトは万一に備えてバリアジャケットを装着。バルディッシュを突きつけ毅然とした態度で警告する。

「管理局機動六課です。大人しく武器を捨てて今すぐ止まりなさ―――」

「ウオオオオオオオォォォォォ」

 途端、警告を無視して一人の暴漢が襲い掛かる。

 ハンマーを手に襲撃していた男性目掛けて、フェイトは正当防衛として魔力弾を放ち昏倒させる。

「フェイトさん!」

「テスタロッサ、だいじょうぶか!?」

「大丈夫。私は何ともない」

 眉間に皺を寄せ、三人は眼前で奇声を放ちながら一歩一歩ゆっくりとした足取りで近づく生きたゾンビ達を見据える。

「こいつら目が完全にイっちまってるぜ! まさかと思うけど、みんなしてドラッグ中毒とかじゃねーのか?」

(違う。これはドラッグによる症状じゃない。もっと別なものが起因している可能性が極めて高い・・・・・・まさか、アンゴルモア?!)

 フェイトの推察は正しかった。彼ら生きたゾンビ達は全てアンゴルモアによる作用で意識を奪われた状態だった。

 ゾンビ達は次々と仲間を呼び集め、気が付くと数十人近くが周りに集まっていた。

「考えている暇は無さそうだ。ここは一先ず退くぞ」

「う、うん!」

 正面を塞ぐゾンビ達が一斉に襲い掛かった途端、三人は飛行魔法で回避。そのままゾンビ達との距離を離す。

 しかし、ゾンビは空を飛んで逃げるフェイト達を仰ぎ見ながら執拗に後をつけてくる。その異常さにアギトは強い恐怖を感じる。

「あ・・・あいつらどこまで追いかけてきやがる気だ!」

「なにゆえ我々を追い回すのか―――」

 不思議に思っていたとき、唐突に三人の耳に奇妙な音が飛び込んだ。

「な・・・なんだこの音は!?」

「うわああああ・・・なんかわかんねーけど、頭が割れそうだ!!」

「これ・・・は・・・・・・!!」

 耳鳴りのように響き渡る不快な音はフェイト達の思考をおかしくする。

 次第に音は強さを増し、音が大きくなればなるほど三人は自我を保つことが出来なくなっていった。

「「「ウアアアアアアアアアアア」」」

 このとき、叫喚する三人の様子を古びた時計台の上から見下ろす者がいた。

 

『経過は順調です。このままもうしばらく様子見と行きましょうか―――』

 

           *

 

第1管理世界「ミッドチルダ」

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 総合司令室

 

「―――32分前、リゼンブルグで調査中のライトニング隊との応答が途絶えた。非常事態につきシフトをA-3へ移行。それに伴い同隊所属のエリオ・モンディアル二等陸士とキャロ・ル・ルシエ二等陸士、フリードは直ちに現場へ急行してもらう」

「「「はい!(キュクー)」」」

 と、話を聞いていた人物が意外なことを要求してきた。白鳥礼二である。

「八神部隊長、その調査私も是非とも同行させてもらいたい」

「え! 白鳥さんが・・・ですか!?」

「おいおいどういう風の吹き回しだよ?」

 恋次は強く疑問に感じた。今朝の言動から自分の興味の無い事に関して一切手を付けようとしない男の気まぐれな言葉にしか思えてならず眉を顰める。

「音楽の都という響きにシンパシーを感じた。貴族であり音楽を嗜む私としても異世界の音楽事情には興味があるのでな」

 問いに対する白鳥の回答は案の定、周囲の予定調和にあった通りだった。

「よーするに自己欲求を満たしたいっていうテメーのエゴじゃねーか!」

 鬼太郎から厳しく糾弾されるも、白鳥は「エゴではない」では無いと反論し、捕捉的にもっともらしい言葉を付け足した。

「それに―――あの生真面目なフェイト隊長から連絡が途絶えた以上、現地で何か遭ったかは明白。かといってそこの子供二人と竜一匹だけでは正直心許ない。仮にもフェイト隊長はエリオ達にとっては育ての親も同然。私情に捕らわれた際、歯止めが利かない可能性もゼロとは言い切れん」

「確かに筋は通ってはいるけど・・・」

「どうしますかはやてちゃん?」

「せやけどな。白鳥さんは嘱託試験も受けてへんし、もし何かあったときは部隊長の責任問題やし」

 

「その心配はないよ」

 すると、判断に迷うはやての不安を拭うかのように留守にしていたユーノが戻るなり言葉を投げかけた。

「白鳥さんに何か遭った際の責任はぜんぶ僕が背負うから」

「え? それどういうことなのユーノ君?」

 言っている意味がわからないなのはは困惑した様子でユーノの言葉の真意を問い質す。

「現在の機動六課の組織図上、民間協力者として配置されている者は全員六課という組織ではなくアドバイザーである僕の庇護下に置かれている。スクライア商店メンバーは元より、恋次さん達十三隊の死神も僕が監督責任を負っている。形だけとはいえ僕は京楽さんから正式に総隊長代行権限を預けられているからね」

 わかりよく説明すれば、スクライア商店従業員並びに護廷十三隊所属の死神はいずれも機動六課という組織に属しながら、ユーノを監督責任者と据えた構図を保っている。

 換言すると、ユーノは機動六課の中に独自の実働部隊を有している状態を作り出しているのである。

「というわけだからさ。はやては何も心配しなくてもいいんだよ」

「そ、そんな・・・! なにもユーノくんがそこまでせーへんでも!?」

「そうですよ。ユーノさんも間違いなくここの所属なわけであって・・・」

「アドバイザーという立場上それを管理する人間はいない。つまり僕自身もまた機動六課という所属ではあっても、誰の監督下にも置かれていないんだ」

 アドバイザー、顧問として籍を置くユーノの六課での立ち位置は実に曖昧である。

 民間協力者という立場を利用する事によって正式な管理局とは見なされない為、何か不備が発生した時のアフターフォローが利かないというデメリットはある。反面、全てを制約される訳ではない為、ある程度の自由が保障されている。ユーノはこうした契約の裏や隙を突くことを誰よりも得意としていた。

「うー・・・・・・ほんま痛いところ突くなー。せけやどユーノくんはそれでえんんか?」

「僕的にはこういう役回りは慣れてるんだ。少なくともはやてよりはね」

「しかしユーノ店長。私に何か遭った際、一切の責任を負うと言ったが・・・その言葉に決して嘘と偽りはないと言えるのか?」

 完全に信用し切れない故か、白鳥は釘を刺すように問いかける。

「やだなー♪ あなたと知り合ってからこの四年間、僕がいつ白鳥さんに嘘なんてついてたんですか?」

 真意の掴みにくい飄々とした笑みを浮かべながら、ユーノは白鳥へ近づき彼の手の中に何かを含ませる。

「とりあえず、これ渡しておきますね。ほんのお守りとして」

「これは・・・・・・」

 

           *

 

第81管理世界「リゼンブルグ」

主要市街地 ミュージックストリート

 

 消息を絶ったフェイト達を捜索すべく―――エリオ、キャロ、フリード、白鳥はリゼンブルグの中心市街地へと降り立った。

「着きましてね」

「ここがリゼンブルグです」

 俗に【音楽街】と呼ばれる場所へと転移した三人。周囲から聞こえる多種多様な音色に耳を澄ませる。

 ビートの利いた音や控えめな音、聞くだけで気分が高揚する音など、それぞれの個性が調和した独特の共生空間が形成されている。

 人々はこうした音楽の中で日常生活を営んでおり、誰一人として音楽を邪険に扱おうとする者はいないのである。

「うむ・・・・・・素晴らしい。実に素晴らしい。ここには様々な音が互いを主張しながら絶妙なハーモニーを奏でている。訪れた者の心を弾ませ、穏やかな気持ちとする。まさしくここは音楽の都!」

 強烈に刺激を受けた白鳥はいつになく上機嫌に鼻歌を口遊みながらステップを踏む。まるでミュージカル映画の世界に入ったかのように。

「そして何よりも―――コーヒーが旨い世界に悪い場所はない」

 確信した様子で近場のコーヒーショップのカフェテラスで当然の如くコーヒーを愛飲する白鳥。彼の突飛な行動にエリオとキャロは吃驚する。

「って!! いつの間に!?」

「あの白鳥さん、お金持ってるんですか?」

「金だと? よもや主らこの私に金を払わせるつもりか?」

「いや! 自分で注文して飲んでるんですから!?」

「経費で落ちるだろう。出張経費ぐらいケチっていてどうする」

「そんな経費ありませんよ!!」

 

「ありがとうございました―――」

 結局、白鳥が勝手に注文したコーヒー代全額をエリオとキャロが半額ずつ所持金から支払う事となった。

 二人は軽くなった財布の中を見ながら白鳥の散財に意気消沈とする。

「まさかコーヒー代で2万G(ギルト)も支出する羽目になるなんて」

「白鳥さん、普段どんなコーヒー飲んでるんですか?」

「私は自分の舌に適った真に旨いコーヒー以外はコーヒーとは認めない性質なのだ。コーヒーとはすなわち私の人生そのものだ」

 行き過ぎた嗜好も困りものである。エリオとキャロは絶えず溜息を吐き続ける。

 とはいえ、道中決して悪い事ばかりではない。華やかな町の雰囲気はその都度三人の表情を和らげほっこりとした気持ちとさせてくれた。

 だが同時にこれが任務である事を思い出すと、エリオとキャロは互いに真剣な顔つきとなる。

「鑑賞に浸るのはまた今度だ。今はフェイトさん達を探そう」

「そうだねエリオ君!」

「して、消えた三人はいったいどこへ向かったのである?」

「確かここから北側にある旧市街の方だと聞いているんですが・・・・・・」

 

「もしや、シティホールへ行くつもりですかな?」

 不意に前方から話しかける声がした。

 現地の住民と思しき男―――かなり醜い顔つきの初老の男がおもむろに声をかけてきた。

「そうですが・・・あなたは?」

「これは失礼。私は20年ほど前まで、旧市街で市長を務めていた者だがね」

「ほう市長とは。こう言うのも失礼なのだが、あまりそういう仕事をしてきた人間には見えんのだがな」

「白鳥さん、失礼ですよ!」

「だから『失礼』と前もって断ったではないか」

「だからと言って良いというものでもないですよ! あ、すみません! 大変失礼なことを言ってしまいました!」

「いいんですよ。この顔の事は昔から言われ慣れています」

 亡状(ぼうじょう)極める白鳥の発言にも男は破顔一笑。全てを水に流してくれた。

「して。そのシティホールとやらに何があるのだ?」

「ええ・・・旧市街の市庁舎に併設されている一際大きな時計台がありましてね。昔はあの時計台から美しい音楽が聞こえたものです。時計台は町のシンボルとして長きにわたって人々から重宝されてきました」

「今はどうなっているのだ?」

「区画整理で市庁舎が今の場所に移されてからというもの、まるで時が止まったかのようにあの時計台から音楽が聞こえることは二度とありませんでした。元々老朽化もしていましたしね。以来、町の人間も時計台の事など忘れてしまったかのように振舞っている・・・・・・私にはそれが些か寂しくて仕方ありません」

 まるで時計台の気持ちになったように、男はどこか遠い眼差しで物寂しそうに白鳥達に話をするのだった。

 

 話を聞いた一行はミュージックストリートから数キロ離れた場所に位置する旧市街へとやってきた。

 静謐さで満ちた旧市街の入り口からでもはっきりとわかるように、嘗ての町の象徴たる時計台が今でも中央に佇んでいた。

「アレがその時計台ですか」

「旧い建物だが今なお言葉には言い表せぬ情緒が感じられる。ただ・・・」

「ただ?」

「あれの蕭索(しょうさく)たる様を見ると何ともな・・・・・・」

 うまく言葉では言えなかったが、前市長が言わんとしていたことが白鳥にも何となく感じ取ることが出来た。一時代を築いた町のシンボルも時代の流れとともに今やすっかりうらぶれてしまった。白鳥は時計台を見ながら建物から伝わってくる思いを汲み取ったかの如く寂しい眼差しを向ける。

 エリオは白鳥の横顔を物珍しく一瞥すると、やがて気持ちを切り替え仕事に専念する。

「キャロ、フェイトさん達の魔力残滓はあるかい?」

「待ってね・・・・・・うん。間違いない。フェイトさんとシグナム副隊長、アギトのものと一致したよ」

「やはり三人は此処へ来て、その後すぐに行方不明となったらしいな」

 

「ウアアアアアアアアアアアア」

 突如、背筋も凍るような奇声を放つゾンビのような風体の人間が三人の目の前に複数で現れた。

「きゃあ!」

「これは・・・!?」

 想定外の事態に当惑するエリオとキャロ。白鳥に至っては襲い掛かってきたゾンビの一体の手首を掴みかかり、怒りを露にする。

「なんと汚らわしい事か。図が高いッ!」

 相手が醜いという理由からゾンビの腹部を蹴撃。鋭い一撃で以ってゾンビを一遍に吹っ飛ばした。

「白鳥さん!」

「案ずるな。加減はした。気を失っているだけだ」

「奥からも出てきます!」

 エリオが警告すると、旧市街に潜伏していたゾンビ達がぞろぞろと様々な場所から出現。気が付くと周りには数百という数のゾンビが集まっていた。

「どうしますか?」

「致し方ない」

 不承不承とばかり、白鳥は義魂丸を服用し死神化。腰に帯びた斬魄刀をおもむろに引き抜いた。

「ここは私が食い止めよう。エリオ達は引き続きフェイト隊長達の行方を追うのだ」

「でもそれじゃあ白鳥さんが!」

「私を見縊らないでもらいたい。これでも京楽総隊長より第三席の地位を与えられている身。そう易々とは倒されん」

 次の瞬間、ゾンビ達の頭上を飛び越え―――彼らの注意を自分へ向けさせる。

「こっちだ!」

 ゾンビ達を引き離す為、白鳥は旧市街を疾走する。

「白鳥さん!」

「キャロ。ここは白鳥さんを信じよう。僕たちはフェイトさん達を」

「うん」

 

「ひええええええええええええ!!! カッコつけたはいいけど、このあと正直なんにも考えてなかったぁ!!! お助けぇぇ~~~!!!」

 子供の手前格好をつけたのが仇となった。

 白鳥は己を誇示したいが為に大見得を切った。結果として自分の身を危うくする事態になると分かっていたとしても―――。

「あああぁぁぁ!!! 前からも来たぁぁ!!!」

 数の暴力でゾンビ達は白鳥を前後で挟み撃ちにする。

 逃げ場を失った白鳥は険しい表情を浮かべ、この場を乗り切る方法を必死で模索。

「こうなれば―――!!」

 生き残る方法は一つだけ。それを実行し成功する確率は決して低くはない。だが、使うタイミングを間違えれば再起不能は必至。白鳥は決死の覚悟で臨む事を決意する。

 前方と後方からゾンビ達が勢いよく向かってきた頃合い、白鳥は地面に両手をつくと霊力を集中―――起死回生の鬼道を発動させる。

「縛道の二十一!! 赤煙遁(せきえんとん)!!!」

 赤色の煙幕が地面からどっと噴き出した。ゾンビ達の視界を奪った白鳥は煙に紛れて彼らの手の届かない空へと脱出する。

「ふぅ~。間一髪であったな。それにしても今のは一体・・・・・・ん?」

 そのとき、白鳥の視界にゾンビとは異なる不思議なものが映った。

 一見すると何処にでもいそうな少女だった。ただ不思議な事に、白鳥は少女から生命体としての波長―――すなわち魄動を感じることが出来なかった。

「誰だ?」

 人の様で人でない生物。言い知れぬ不安を抱える白鳥に、少女は何も語らずおもむろに右手人差し指を時計台の方角へと向け―――蒸発するように跡形もなく消えた。

 直後、時計台に視線を向けた白鳥は先ほど見た少女の行動がどうにも気になって仕方なかった。

「あれはいったい・・・・・・」

 

           *

 

同時刻―――

旧市街 シティホール時計台

 

 エリオとキャロはフェイト達の魔力残滓を追って時計台へと到着。

 ちょうどケリュケイオンも三人の魔力反応が時計台の中から強く反応を示している事を主張していた。

「フェイトさん達の魔力反応が強くなってる。間違いない。この中だよ!」

「無事でいてほしいな」。

 憂慮を抱きながら恐る恐る時計台へと潜入を開始する。

 古びた時計台は町中よりも静まり返っており、靴底を擦り付ける音が嫌によく響いてならなかった。

 と、次の瞬間。移動していたエリオ達目掛け金色に輝く閃光が飛んできた。

「キャロあぶない!」

 咄嗟にキャロを守ろうと、エリオは彼女を抱きかかえ体を地面に打ち付ける。

 しばらくして、二人の前に予想外の敵が姿を現した。先ほど襲ってきたゾンビと同じ目に豹変した女性―――フェイト・T・ハラオウンだった。

「フェイトさん!?」

「どうして?」

 なぜ彼女が自分達を攻撃するのか。不思議に思う二人に、フェイトはまるで人が違ったかのように手持ちのバルディッシュで襲い掛かる。

「「うわああああ」」

 紙一重で攻撃を避けるも依然として二人には状況が理解できない。フェイトは鋭い眼光で狙いを定め、豊富な魔法で攻撃し続ける。

「やめてください!」

「フェイトさん、私たちが分からないんですか?!」

 自分達の上司で家族であるフェイトの正気を取り戻そうと必死に訴えかけるエリオとキャロ。

 しかし、現実は非情だった。二人の決死の呼びかけにもまるで反応せず、虚ろな瞳のままフェイトは魔力光弾を放つ。

 攻撃を躱した二人は埒が明かないと判断。力尽くで彼女の目を覚まさせるべくデバイスを起動する。

「明らかに普通じゃない。フェイトさんは何かに操られてる!」

「でも、何がフェイトさんを操っているの?」

「わからない。でも今はフェイトさんを正気に戻さないと」

 手持ちの愛機ストラーダを握る力を強めたエリオは、内心複雑な心境を抱いていた。

「・・・こんな形でフェイトさんと戦うのは本意じゃないけど。仕方がない。いくよ、ストラーダ!」

〈Load Cartridge〉

 魔力カートリッジを装填して力を研ぎ澄ませる。足元に浮かぶ黄色の魔力光からバチバチと音を立てる微弱な電気が放出する。

「でやあああああああ」

 初速からのソニックムーブでフェイトとの間合いを一気に詰め、一撃の元に昏倒させるのがエリオの狙い。だが―――

「エリオ君、ダメ!」

 キャロが声を荒らげた途端、真上から猛烈な炎の斬撃がエリオ目掛けて振り下ろされた。

「ぐああああああ」

 大ダメージを追うエリオ。焦げ付くバリアジャケット、体は激しく強打する。

 頭上を見上げれば、フェイト同様に正気を失い生きたゾンビと化したシグナムとアギトが立っていた。

「シグナム副隊長! アギトまで!」

「一体どうなってるの!?」

 立て続けに起きる異常な状況。

 仲間だった筈の者が次々と敵の手に落ちてしまった。

 フェイトを始め、地に降り立ったシグナムとアギトは満身創痍のエリオに的を集中し―――脱兎の如く飛び出すとその首を狙ってきた。

 

「連鎖悉く捕縛せよ。我が意のままに」

 絶体絶命と思われた瞬間、現場へ駆け付けた白鳥がユーノから直々に教えを受けた魔法―――アレスターチェーンを用いてフェイト達の動きを封じ込める。

「大事は無いか?」

「白鳥さん・・・・・・助かりました」

「あとは私に任せろ。キャロはエリオの手当てを頼む」

 負傷したエリオの治癒をキャロに一任し、白鳥はフェイト達を正気に戻すべく手持ちの斬魄刀の封印を解く。

「琴線斬 第一章 十三節“安楽と康寧”」

 解放状態の斬魄刀に備わった弦を爪弾き、奏でられる音色を時計台の隅々まで拡散。

 しばらくして、音色を聞かされたフェイト達は徐々に気持ちが鎮まり、錯乱状態を脱すると同時に気を失った。

「ふむ。どうにかなったな」

「白鳥さん、あの人達は?」

「何とか巻くことができた。しかしこのような不可解な事態は何が原因で?」

 

 

 ―――許サナイ。

 ―――絶対二許サナイ。

 ―――ワタシヲ忘レルナンテ、絶対ニ許サナイ。

 

 

 どこからか聞こえてきた不気味な声。怨嗟の念に満ちたそれを聞いた途端、三人は挙って鳥肌を立てる。

 やがてゴゴゴ・・・という音を立てながら時計台を支えていた基礎が大きく揺れ動き、建物自体が動き出そうとしていた。

「まずい状況であるな」

「一旦ここから離れましょう!」

 危険な状況を察した三人は、フェイト達を担いで建物からの脱出を図る。

 やがて、古い時計台の中に隠されていたアンゴルモアが強く反応―――結果として凶暴極まりない異形の怪物をこの世に生み出した。

「緊急連絡! 緊急連絡! ライトニング3よりロングアーチへ! 現地にて巨大な怪生物が突如姿を現しました!!」

 エリオから送信されてきた映像のインパクトは強烈だった。

 元が時計台だったとは思えないメカメカしく相手に威圧感を与えるには十分なフォルムにメンバーは唖然。何より特筆すべきは、怪物は元々の時計台よりも二倍近くある大きさへ変貌を遂げていた。

「で、デカい!」

「何がどうなってやがるんだ!?」

「あの怪物の中心部より極めて巨大なエネルギー反応を確認! 波長分析・・・間違いなくアンゴルモアです!」

 分析の結果を具に報告するルキノ。やがて、ユーノがアンゴルモアの力で変質した時計台の怪物を見ながら口にする。

「アンゴルモアは人の心を読み取り具現化する力を持つ。だが、それは飽く迄も人の認識できる範囲にしか過ぎない。無機物に宿る心さえも読み取り具現化・暴走させてしまった結果、生まれ出でる異形なるもの―――言わば、Angolmois Monster!」

「アンゴルモアモンスター・・・!」

「現時刻を以て奴を、【AM-01】と認定呼称する」

 

 旧市街のシンボルだった時計台が変化し、アンゴルモアの大王が人類へと差し向けた刺客―――AM-01はミュージックストリートへの移動を試みようとしていた。

「うぅ・・・・・・ここは?」

 ちょうど、気を失っていたフェイト達が一斉に意識を取り戻し状況を確認する。

「気が付きましたか?」

「フェイトさん、シグナム副隊長、アギトも大丈夫?」

「あぁ。どうやら揃いも揃ってあの怪物が生み出す音に踊らされていたようだな」

「チキショウ、なめた真似しやがって! 今度はきっちり借りを返させてもらうぜ!」

「エリオ達は町の人達を避難させて。あれは私たちで食い止める」

 汚名を返上し、名誉を挽回せんとフェイト達は挙って空へ舞い上がると、市街地へ移動を開始したAM-01の進路に立って行く手を阻む。

「ファイア!」

「飛竜・・・一閃!」

轟炎(ごうえん)ッ!!」

 フォトンランサーと蛇腹状の剣撃、巨大な火球のトリプルパンチが炸裂する。

 爆発の規模こそ大きかったが、敵の装甲はフェイト達の予測に反して堅牢であり、焼き焦げ以外に目立った損傷は見られない。

 すると、攻撃を仕掛けたフェイト達にAM-01は超音波を放ってきた。

 人間の耳では聞き取れない高周波の音は彼女達の体に著しいダメージをもたらす。

「ぐああああ」

 次の瞬間、フェイトが前触れもなく吐血。そればかりか体のあちこちから血を吹き出すという身体異常を発症した。

「テスタロッサ!」

 フェイトの身の上を心配した矢先、シグナムとアギトにも同様の症状が起こった。

「ぐああああああああ」

「全身から血が噴き出して・・・!!」

 体内の血液が噴き出したことで飛行制御不可となり、三人の体は重力に従って旧市街へと落下していった。

「フェイトさん!」

「シグナム副隊長! アギト!」

「何がどうなっているのだ!?」

 困惑していた折、白鳥達が居るミュージックストリート目掛けてAM-01は超音波砲を発射―――町は高出力の超音波砲によって無差別に被害を受ける。

「「「「うわあああああああ」」」

 運悪く白鳥達がいる場所も被害を受けた。超音波砲の威力は強力であり、車から窓ガラス、屋内にある物ですら木っ端微塵に破壊する。

 

「AM-01による攻撃、市街地を直撃!!」

「まずい! 全員そこから早く脱出するんだ!」

 現場の状況をモニタリングしていた機動六課に戦慄が走った。切羽詰まった顔でユーノは直ちに避難を促すが―――

「ダメです! ライトニング並びに白鳥さん、こちらからの呼びかけに応答ありません!」

 という、アルトの残酷な報告だけが返ってきた。

「ユーノくん、何が起こってるんや!?」

「超音波による局地攻撃だよ。超音波を利用した加湿器は水を微細な粒子にしたものを放出する。同じように超音波干渉を受けると体内を流れる血液が瞬時に沸騰する」

「フェイト達の血が噴き出たのはその所為か!」

「しかも、あのAM-01は超音波の出力を自在にコントロールする事で非常に強力な超音波砲を作り出しています!!」

「くそー。あのデカブツ、なめた真似しやがって!」

 

「こっちに向かってくるぞ!」

「踏みつぶされる!」

 町を襲う巨大な超音波の怪物に人々はたちまち恐怖に飲まれる。

「みなさん落ち着いてください! 慌てないでください!」

「どうしよう・・・このままじゃ」

 超音波砲の被害を最小限に抑える事が出来たエリオ達だが、死の恐怖でパニックに陥った人々を宥め、事態を収拾するのは一筋縄ではいかなかった。

「狼狽えるでない」

 が、弱気な彼らに力強く声をかけたのはいつの間にか空へと上がった白鳥だった。

「何してやがる白鳥! 死ぬ気か!?」

 モニター画面に映る白鳥に恋次は大声で怒鳴り散らすも、彼は毅然とした様子で『今ここで我々が立ち向かわなければどうなるか?』と反論。

「おまえ一人でどうにかなる相手じゃねーだろ!」

 恋次の言葉を聞いた直後、白鳥は嘆息を突く。その後すぐに弱腰の彼を激励するかのように思いの丈を述べる。

一死以(いっちもっ)て大悪を誅す―――護廷十三隊創設者である山本前総隊長はそうして我々死神のあるべき姿を追求してきた。この美しい世界をあのような卑しい怪物に壊されるなど業腹極まりない。私は私の命を賭してでもこの美しい世界を守る!」

 声高らかに力強く宣言した白鳥は懐に手を突っ込み、ユーノから手渡されたお守り―――鳥の翼をあしらったインテリジェントデバイスを起動させる。

 

「参るぞ。ジークフリート、セットアップだ!」

〈Standby ready〉

 電子音が発せられた瞬間、白鳥の全身を白色の魔力光が包み込む。

 エリオ達が固唾を飲んで見守る中、光から出てきたのは―――白を基調とした優雅なバリアジャケットに身を包み、ミュージックキーボードを備えた琴線斬を装備した全く新たな白鳥礼二だった。

「我が名は白き翼の勇者―――白翼の魔導死神・白鳥礼二である!」

 ユーノと違ってその呼び名は自称である。

 だが、そんな些細な事さえ歯牙にもかけず白鳥はバリアジャケットの背中から翼型に形成された魔力エネルギーを羽ばたかせ、大空へと舞い上がる。

「と・・・飛んだ!?」

 縦横無尽に翼を鳥のように動かし飛翔する白鳥。ロングアーチで観戦中のなのは達も度肝を抜いてしまった。

「し、白鳥くんの背中に翼が生えてる!」

「もしかして、あれってユーノ君の汎用性飛行魔法じゃ?!」

 指摘するなのは。ユーノは口角をつり上げ「Exactly!」と、発音よく返答。

「ジークフリートにはあらかじめ汎用性飛行魔法をプリセットしているんだ。だからと言ってすぐに発動して使いこなせるかといえばウソになる。あれは紛れも無く白鳥さん自身の才能だよ」

 

「アンゴルモアモンスターとやら。私が相手だ」

 倒すべき相手に宣戦布告。真の魔導死神となった白鳥はジークフリートを装備した愛刀を構えると、AM-01に対して音色を放つ。

「琴線斬 第二章 七十九節“報復の船頭(ボートマン)”!」

 奏でられる大音声の音色。霊力と魔力が織り交ざった事で生まれる新たなる音楽は鮮烈であり、凶器そのものである。

 護廷十三隊一番隊第三席・白鳥礼二の斬魄刀『琴線斬』と愛機《ジークフリート》によって奏でられる楽曲は、特定の相手―――アンゴルモアモンスターを麻痺させる驚異的なマイクロウェーブを発していた。

 思わぬ相手の攻撃によって動きを封じられ、マイクロウェーブ自体によるダメージでAM-01の内部から爆発が起こる。

「ジーク、スタンドマイク!」

 当然の如く【ジーク】という愛称を用いる白鳥。そんな主人に対し忠実に従う愛機は琴線斬との分離合体を解き、スタンドマイク型に変形する。

「続けて、第三章 二十一節“有頂天の欲望(デザイア)”!」

 マイクを手に白鳥は琴線斬の音色と合わせて魂を込めて歌う。

 そのビブラートは空気に乗って伝わり、旧市街で倒れ伏せていたフェイト達の耳にもしっかりと届けられた。

「この・・・歌は?」

「なんだか・・・体中に力がみなぎってくるぜ!」

 大量の血液を失い生命活動の危機に瀕していた彼女達は不思議な力によって意識を取り戻していった。

 白鳥礼二が奏でるこの音楽は、人間の魂魄に直接を干渉し、カンフル剤の如く急速に生命エネルギーを活性化させるエネルギーウェーブを放っていた。

 奇跡とも言える復活劇に人々は嬉々とし、なのは達も大いに安堵する。何よりも白鳥礼二への評価が著しく変わった瞬間だった。

「すごい・・・白鳥さんってあんなに凄かったんだ!」

「白鳥さんだけじゃありません。彼の魔法制御を司っているあのデバイスが凄いんです!」

「なのは以上に白鳥さんの能力はピーキーだからね。魔法に関して不慣れな白鳥さんを最大限カバーする目的で開発したのがジークフリートさ」

 端的に説明した後、ユーノは白鳥のデバイス《ジークフリート》についてその詳細を解説する。

「魔法制御を主体としたデバイスの多くは、オーディナルナンバーと呼ばれるに序数管理よって決められた枠組みの中で魔導師の選択行動を優先順位の高いものへと誘導している。対してジークフリートはカーディナルナンバー、即ち基数管理方式を採用した。これによって白鳥さん自身が何か行動を起こそうとした場合、デバイス自身に備わったディープラーニングシステムによって白鳥さんの言動や仕草から瞬時にそれらを読み取ることができるんだ」

「な・・・なんかよくわかんねーが・・・・・・とりあえず一つだけわかったことがある。ユーノ、おめーは紛れも無く天才ってことだ!」

「さすがはアニュラス・ジェイドその人! 私たちの想像の及ばない事をやってしまうんですから!!」

 恋次自身の中のユーノの評価は大きく一新され、元々アニュラス・ジェイドであるユーノを尊敬していたシャリオからの好感度はより高くなった。

 

「イエエエエイ!!!」

 有頂天に音楽を奏でる白鳥。

 彼のピーキーかつ強力な攻撃を受けたAM-01の動きは当初に比べて鈍くなり、受けたダメージも相当に蓄積されていた。

「こやつの超音波攻撃は私が食い止める! その間に主らで態勢を整えるのだ!」

「はい。シグナム、アギト、いけるね?」

「「ああ(おう)」」

 復活したフェイト達は白鳥の厚意に答えるべく、残り全ての魔力を一点集中させ、一気に事態の鎮静化を図る。

「―――〈火龍一閃〉ッツ!!!」

 ユニゾンしたシグナムとアギトは殲滅戦に最適な大火力の斬撃をお見舞いする。

「フリード、ブラストレイ!!」

「サンダーレイジ!!」

 援護に回っていたキャロとエリオも緩慢な動きのAM-01に集中砲火。あと一歩というところまで追いつめる。

「アルカス・クルタス・エイギアス。疾風なりし天神、今導きのもと撃ちかかれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル―――」

 AM-01の装甲もかなり剥げ落ち、最早消滅も時間の問題となったとき―――大規模な儀式魔法の発動に備えていたフェイトも詠唱を完了。止めの一撃を仕掛ける。

「フォトンランサー・ファランクスシフト。撃ち砕け!!」

 生成されるフォトンスフィア38基から毎秒7発の斉射が4秒継続されることで、合計1064発のフォトンランサーがAM-01を襲撃する。

 なのはですら戦慄を抱いたフェイトの最強クラスの儀式魔法。全員が固唾を飲んで戦況の様子を伺う。

 爆煙が少しずつ晴れていき、次第に姿を見せる物影。

 フェイト達が見たのは、アンゴルモアモンスターではなく、ボロボロに壊され今にも崩壊を始めようとしている時計台だった。

「アンゴルモアは!?」

 懸念するシグナム。すると、先んじて白鳥が時計台と融合していたアンゴルモアを手にした状態で中空に浮かんでいた。

「アンゴルモアはここだ。それにしても素晴らしい。実に素晴らしかったである。これぞ我々の結束がもたらすベストパフォーマンスだ!」

 先程までの戦いを大いに評価する白鳥。

 と、そのとき―――再び彼の眼前に謎の少女が姿を現した。

「お主は・・・・・・」

 正体不明の少女に身構える白鳥だが、少女はどこか清々しい表情で彼を見、やがておもむろに口を開いた。

『ありがとう。あなたのお陰で私は私を止めることができた』

「なにを・・・言っている?」

『私の名はカンパネラ。時計台のAIプログラムがその不思議な欠片の力で擬人化した存在。かつて栄華を極めたこの町も人が居なくなればただのゴーストタウン。人々に音楽を休まず送り続けた私の役目も終わった。でも、彼らの心から私自身が忘れ去られるはどうしても許せなかった。そんなことを思ってしまったばかりに私は町の人々を苦しめてしまった』

 白鳥はこのとき漸く理解した。カンパネラと名乗る少女こそが、これまで町を騒がしていた疾走及びゾンビ化を始めとする奇怪な事件の黒幕であり、アンゴルモアの被害者だったのだと。

 カンパネラは町の人間達の記憶から自分という存在が忘れられるのが怖かった。忘れられるということは存在そのものを否定される事に等しい。言うならば記憶からの消滅=死を意味していた。

 自分が居たという証を少しでも彼らの記憶に刻み付けたかった。その思いに惹かれたアンゴルモアが作用した結果、カンパネラを怪物へと変貌させた。

『私は間違ってしまった。だから誰かに止めてほしかった。そんなときあなたを見つけた。あなたなら私を止めてくれると思ったから』

「お主・・・・・・」

『ありがとう・・・・・・これでようやく私も眠りに付ける』

 感謝の意を唱えつつ、相貌に溜まっていた薄ら輝く光の雫を白鳥は見逃さなかった。

 カンパネラの消滅とともに、崩壊寸前だった時計台もついに決壊。時代の趨勢を受け入れるかの様にその役目を全うした。

 

           ◇

 

6月23日―――

第1管理世界「ミッドチルダ」

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 部隊長室

 

「え!? 今・・・なんて?」

 一夜明け、はやてとリインは些か信じ難い話を白鳥から聞かされた。

 度肝を抜いてあんぐりと口を開ける二人を見、白鳥はやや呆れたように呟いた。

「二度も言わせないでほしい。嘱託試験を受けると言ったのだ」

 昨日の今日で何があったのだろう。白鳥の心境の変化にはやてとリインは正直付いていけず、互いの顔を見合うばかり。

「あの・・・急にどういう風の吹き回しで?」

「なんでもよかろう。ただ受けねばならぬというのなら仕方がない・・・・・・そう思ったに過ぎん」

 悟ったかのように言い、白鳥ははやて達に背を向けて部隊長室を後にした。

 

 部隊長室を出た直後、ドア近くで腰かけていたユーノに呼び止められた。

「昨日の事を引きずってるんですか?」

 言われるや、白鳥は自分自身に腹を立てながら拳を強く握りしめ―――胸中の思いを暴露する。

「私は未熟だった―――・・・・・・自分の力に慢心し、世界を救うと謳いながら大切なものを見落としていた。結局私は何もできなかった・・・」

 カンパネラの消滅が白鳥の根拠の無い自信を打ち砕いた。同時に彼は痛感した。世界を守るという事が如何に難しい事なのかを。

 今の白鳥の姿はユーノが知る同じ白鳥礼二とは思えないほど弱々しく思えた。何より昔の自分を見ているかのような感覚だった。

 だからこそ、ユーノは救いの手を差し伸べる。

 悲嘆にくれる彼の顔を見、今の状況にぴったりな箴言を口にした。

「とかく大切なものは見えにくいものです。誰もがそれを見つけようとして、失敗して、そうやって人は強くなっていくです。今が未熟ならそれを乗り越えて前へ進みましょう。白鳥さんは後ろ向きな自分に決着をつけて、少しでも前へ進もうとしているんです。じゃなきゃ、嘱託試験を受けるなんて言わない筈です」

 まるで自分の心を見透かしたような的確な言葉だった。

 ユーノの言葉を聞いて、白鳥の中で燻っていた心のもやもやは次第に晴れ―――険しかった表情も緩んでいった。

 

「ユーノ店長・・・・・・・・・・・・もしもよろしければ、これからも私の為に精度の高い魔法の扱い方を享受してはもらえないだろうか?」

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:和月伸宏『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 18巻』 (集英社・1997)

 

 

 

 

 

 

教えて、ユーノ先生!

 

ユ「今日は白鳥さんのデバイスについてだ♪」

「デバイスの名前は『ジークフリート』。白鳥さんの魔法適正と死神本来の能力を引き立たせる為に組まれた特注品だ」

「最大の特徴は『ディープラーニングシステム』と呼ばれる自立式の高度学習機能。これによって魔法に不慣れで他力本願な白鳥さんを最大限サポートすることが出来るようになっているんだ」

な「うわー。すっごい便利だねー。白鳥さんの魔法使用もさることながら、こんな凄いデバイスを作っちゃうユーノ君もすごいよねー。さすがは私の魔法の先生!」

ユ「お褒めに預かり光栄だよ」

 と、笑顔で答えたユーノは全く別の事を尋ねた。

ユ「ところでなのは。少し聞いてもいいかな?」

な「なーに?」

ユ「この前一護さんから聞いたんだけど、君も無許可で人のコーナーを勝手に乗っ取ったらしいじゃないか♪」

 聞いた瞬間、なのはは露骨に顔を歪ませ引き攣った笑みを見せる。

な「あー、あれはその・・・・・・ごめんなさい! 悪気は無かったんだよ! ちょっとした出来心であって・・・・・・」

 過去にユーノのコーナーを乗っ取ろうとした者がどのような末路を辿ったのかを知らないわけじゃなかった。

 ガクガクと足元を震わせ恐怖に慄くなのはだったが、ユーノは意外にも穏やかな笑みで言葉を返した。

ユ「しょうがないな。今回だけは大目に見逃してあげるよ」

な「ほ、本当に!? よかったー」

 と、安堵したのも柄の間。満面の笑のユーノから圧力を加えられる。

ユ「でも次からはきちんと届け出を出してもらうからね。じゃないとどうなるかはわかっているよね♪」

な「あ、はい・・・・・・ごめんなさい・・・・・・///」

 このとき、なのはは悟った。どのような事があっても決してユーノを怒らせるべきではないことを。

 

 

 

魔導師図鑑ハイパー!

 

 前回、ユーノの口から明かされたスクライア商店の年収。

 当初の予測を遥に上回る高額な年収になのは達は挙って驚きを露わにした。

な「ね、年収1億って・・・!?」

恋「どう考えても計算が合わねーぞ!!」

フェ「何かの間違いじゃないの?」

は「あれやろ!? 株か! 株で大儲けしとるんか!!」

ユ「ははは。もっと確実な方法があるんだよ」

 様々な憶測が飛び交う中、ユーノは破顔一笑してから、高額年収の秘密を暴露する。

ユ「まぁ駄菓子屋さんの場合はほぼ100パーセント持ち家でやってるから、家賃がかからないんだ。もちろんそれだけじゃないよ」

な「じゃあ・・・たとえば?」

「例えばジュースやタバコの自販機を一緒に設置すれば、相乗効果で売れるから1台あたり一カ月で50万円近く、年間だと約600万円の稼ぎになる。ウチの場合は都内全部で10台稼働してるから、6000万円にはなるね」

 補足すると、タバコの場合は利益率が1割である為、年商が1億円だとしてもその利益率は1000万円にしかならない。

ユ「他にもインターネット経由で商品を販売したり、企業みたいな大口のところで取引したり、あとは死神相手に様々な諸手続きを仲介するブローカーとなって、あとで浦原商店を通じてマージンを得ると大体億は超えるね♪」

 その他にも色々な仕事をやってるらしいが、全部が全部合法なものであるかはユーノの口から語られなかった。

 話を聞いたなのは達は、大まじめに体を張って凶悪犯罪と闘い収入を得ている事が何となく馬鹿みたいだと思ってしまった。

 そして、秘かにユーノの話を聞いていた浦太郎と鬼太郎は長年の疑問が解けた様子で納得していた。

浦(そっか・・・駄菓子屋にしては一カ月当たりの手取りが30万円って高すぎると思っていたけど・・・・・・)

鬼(うまいこと考えてやってんだな店長は・・・・・・)




次回予告

な「次なるアンゴルモアが発見され、その回収に向かった私とヴィータちゃん。だけどそこでとんでもない敵が現れた」
恋「黄金甲冑に身を包んだ怪人の正体とは? そして、ユーノの怒りの剣が唸る!」
ユ「次回、ユーノ・スクライア外伝・・・『誰がために愚者は踊る』。たとえ愚者でも僕はなのはを守れるなら本望だよ」






登場人物
カンパネラ
声:加藤英美里
第81管理世界「リゼンブルグ」の旧市街にある時計台の機能をコントロールしていたAIプログラム。アンゴルモアの作用で疑似生命体のような形で徘徊しているところを白鳥と出会う。
人間並みに高度な知性を持ち、町のシンボルである時計台で一日も休まず音楽を届けていたが、次第に人々の記憶から時計台=自分を忘れ去られた事が許せず、その思いがAM化を招き暴走へと走らせた。だが一方で、町の住民に手を上げてしまったという罪悪感から自分を止める為の存在を探し続けていた。
AM-01の打倒とアンゴルモア回収ともにプログラムが初期化され、白鳥とフェイト達一行に感謝の気持ちを伝え消えていった。
・AM-01
時計台とアンゴルモアが融合して誕生したアンゴルモアモンスター。
超音波により人間の体内から血液を噴出させて能力を無力化し、さらに超音波砲を発射してミュージックストリートへ攻撃を仕掛ける。音波の出力は自在に調節できる。
当初はフェイト達を追い詰めるが、ジークフリートの力でパワーアップした白鳥の干渉を受け、最後はフェイト達の一斉攻撃を受けて倒された。
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