ユーノ・スクライア外伝   作:重要大事

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第31話「ラザロたるは、多幸か、薄幸か」

新歴079年 6月29日

第1管理世界「ミッドチルダ」

ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画

機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 食堂ホール

 

「Bセット! Cセット! Aセットおまちどー!」

甲高い声が食堂に響き渡り、テキパキと料理を配るのは、一際目を引く姿の料理人だった。華やかで派手な身のこなし、しかしその立ち居振る舞いはどこか優美な舞台俳優を思わせるほどに堂々としている。

「さーて・・・お次はなにかしらー?」

自分の世界に浸りつつも、次々とオーダーをこなすその姿に、遠くから見ていた鬼太郎と浦太郎は思わず目を見張った。

「またずいぶん濃いーやつがいるなー」

「あれでも料理一筋三十年のベテランらしいよ。昔は三提督や総理大臣相手に料理を振舞ったこともあるんだって」

「うそだろう・・・」

眉唾ものの話に、半信半疑の表情を浮かべる鬼太郎達。その時、ギンガが注文をしにやってきた。

「こんにちはー・・・注文を」

「あらイヤだ! かわいい子じゃないの!」

直後、ギンガを見た瞬間、噂の料理人は目を輝かせた。その輝きに、ギンガは少し引き気味になる。

「あたし、今日からここで働くことになった杏寿郎(きょうじゅろう)・パーガトリーよ。“アプリコットさん”って呼んで♪」

「あ、はい・・・こちらこそギンガ・ナカジマ陸曹長です。よろしくお願いします」

「まっ! 礼儀正しくてス・テ・キ! なに食べたい? なんでも作っちゃうわよ♪」

「なんでも・・・・・・それじゃあ」

するとギンガは、浮かんだ食べたいものを次々に注文する。

「グラタンとポテトとドライカレーと、麻婆豆腐とビーフシチューとミートパイとカルパッチョとナシゴレンと、チキンにツナサラダとスコーンと、クッパにトムヤムクンとライス、あとデザートにマンゴープリントみたらし団子を・・・二十本、お願いします!」

「あんた・・・そんなに食べるの?」

「はい。前線はエネルギー消費が激しいので」

予想を遥かに超えた注文に、アプリコットも思わず呆気にとられたが、ギンガ本人は屈託のない笑顔を浮かべていた。

 

           *

 

機動六課 ミッドチルダ隊舎 アドバイザー室

 

ユーノは、尸魂界(ソウル・ソサエティ)に居る京楽とリモートで対談していた。言わずもがな、議題はアンゴルモアについてだ。画面に映る京楽の穏やかな表情を見つめながら、ユーノは状況報告を始める。

『アンゴルモア回収の進捗はどうだい?』

「現在までに発見・回収できたアンゴルモアは合計七つ。いずれもミッドチルダ以外の異世界で発見されたものばかりです。このところは出現頻度も多く、人員の配置やシフトの調整に手を焼いています」

『この前の報告にあった、アンゴルモアを取り込んだ暴走態とやらについてだけど・・・・・・そこんところはどうだい?』

京楽の穏やかな口調に反して、議題の深刻さが漂う。ユーノは額に手をやり、少し間を置いて答える。

「便宜上こちらでは“Angolmois Monster”と呼称しているのですが、その力は個体差や対象の願いの強さによって凶悪度はまちまちです。ただ、アンゴルモアにはある種の特徴があるように思えます」

『特徴?』

「これまでの傾向として、魔導虚(ホロウロギア)同様に素体の潜在意識下にある強い憎しみや悲しみなどの負の感情面・・・あるいは生物として備えた生存本能に強く反応したアンゴルモアは、それを糧として顕著な身体的強化を促します」

ユーノは、これまでの調査から導き出した演繹的な結論を落ち着いた口調で伝える。京楽もそれをしっかりと受け止めている様子だ。

『なるほどね・・・・・・となると、素体が凶暴であればあるほど、アンゴルモアの力はより顕著に凶悪な力へと変貌する――そう言いたい訳だね?』

「以前ミッド都心に現れた大虚(メノスグランデ)が超ド級の魔導虚(ホロウロギア)へ進化したように・・・・・・あの手の化け物が容易に生まれ出でる可能性を(はら)んでいます。そして何より、アンゴルモアの力を狙い、スカリエッティを始めとする多数の犯罪者や謎の組織が(うごめ)いているのもまた事実。これまではどうにか退(しりぞ)けてきましたが、今後もうまくいくとは限りません。アンゴルモア、もとい崩玉は次元世界にとって正に『パンドラの箱』なんです」

ユーノは、画面越しに京楽の反応を窺う。京楽は笠を深くかぶり直し、難しい表情で熟考する。

『・・・・・・参ったねー。崩玉の怖さは死神が何より知っているのに、ボクらは手をこまねき後手に回ってばかりだ。ボクが言うのもなんだけど、阿散井隊長達の実力は確かだし、信頼もしている。だけど、スクライアクンの言う通り・・・・・・今のままじゃ行き詰ってしまうのも時間の問題だね』

その言葉に、ユーノは一瞬視線を逸らし、窓の外の景色に目をやった。遠くで風が木々を揺らしている。静かな風景が目に映るが、その背後に潜む脅威は消えない。

やがて、京楽の声が再び現実へ引き戻す。

『ん~~~・・・やっぱり、ここはもう一人くらい副隊長以上の死神を派遣した方がいいかもしれないなー』

「確かに、副隊長クラスの方が加わればかなりの戦力になります。しかし、そんな都合よく配置換えなんかできるんですか?」

『まぁ、事が事だからね。なんとかやってみるよ。曲がりなりにも護廷十三隊の総隊長って肩書もあるし、多少強引な手を使わせてもらうかもしれないけど、今回の件はボクら死神側からしても蔑ろには出来ないさ』

ユーノは少しほっとした表情を見せ、丁寧に頭を下げた。

「京楽さん、ありがとうございます」

『いや。礼を言うのはボクの方さ。言ってしまえば君らが今やっているのは、ボクら死神の尻拭いみたいなもんだよ。大昔の話とは言え、元々死神の世界の技術が流出した結果、数多の世界の法則や因果律をかき乱し、(あまつさ)え、本来その世界には存在しなかった魔導虚(ホロウロギア)が生まれてしまった。ボクらがケジメをつけるべき問題を君ら機動六課が請け負ってくれている。それだけでも十分な恩義があるんだ』

「京楽さん・・・・・・」

その言葉に、ユーノは一瞬息を詰めたが、すぐに深く頷いた。

『ま。人員追加については任せてよ。近いうちにイイ子を送れるようにするから』

そう言うと、京楽は不敵に笑うとユーノとの対談を終える。

京楽は軽く笑い、対談を終える。映像が消れた後、ユーノは窓越しに広がる穏やかな世界を見ながら、再び深い考えに沈んだ。

(ゼウスがパンドラに持たせた、あらゆる災いと悪を封じ込めた箱・・・・・・彼女は好奇心から開けてしまい、地上にすべての災いがもたらされてしまった)

そぞろに、ユーノの脳裏に過去の失敗が過る。

(京楽さん・・・・・・これはあなた方だけの責任ではないんです。むしろ、あれを世に放つ直接のきっかけは・・・・・・)

スクライアの集落が壊滅したあの時――あの災いを解き放ったきっかけは自分ではないか、と。

「ユーノ君!」

ふと、扉が開き、なのはが部屋に入ってきた。

その声に振り返ると、眉間に皺を寄せているユーノを見て、彼女は少し心配そうに声をかける。

「どうしたの? 怖い顔しちゃって・・・」

「いや、なんでもない。一護さんの癖が移っただけだよ。それより僕に用事?」

「はやてちゃんから伝言。聖王教会からアンゴルモア発見の報告があったから、司令室に集まってほしいって」

 

           *

 

同隊舎内 総合司令室

 

前線メンバーが集まり、はやてが聖王教会からの報告を共有する。

「ほんなら、時間がないから大筋を手短に説明するよ。聖王教会からの機動六課への依頼が入った。第28管理世界『エヴァリーナ』でアンゴルモアが発見されたそうや」

「エヴァリーナ? 待てよ、どっかで聞いた覚えが・・・・・・」

恋次が眉間に皺を寄せ、思案する。そして、ふと思い出したように声を上げた。

「! 思い出しだぜ! あの糞ルイスが納められた棺桶が運ばれた場所だな!」

その言葉にはやても微笑を浮かべ、「よく覚えてましたね」と言って、首を縦に振る。

「死神の皆さんに配慮して一応説明するけど、エヴァリーナは聖王教の本山にして聖地。さまざま宗教組織を束ねる【エヴァリーナ教皇庁】と呼ばれる聖座(せいざ)機関が設置されておる特別な場所や」

「聖座? それってどういうもんなんっすか店長?」

鬼太郎がユーノに疑問を投げかける。

ユーノは一瞬考え込むが、すぐに平易で適切な言葉で説明を始めた。

「聖座っていうのは、教皇が持つ最も高い権威を指すんだ。エヴァリーナ教皇庁は、聖王教皇を国家元首として扱う独立国家みたいなもので、ここで決められた方針が、各世界に点在する聖王教会や関連組織の基本方針になる」

一同が納得したところで、はやてはさらに話を進める。

「現地にはシスターシャッハが出張っているそうやけど、いつアンゴルモアが暴走するかわからへん。早急に六課からも人員を寄越し、無事にアンゴルモアを回収してほしいとの事や」

そう言うと、はやては居合わせたメンバーに目を向け、誰を派遣するか見定める。

「独断と偏見になるけど・・・・・・今回はギンガ、吉良さんの二人に回収をお願いしようかな。詳しい内容は途中資料を確認するように」

「了解しました」

「全力で務めさせてもらうよ」

ギンガはきびきびと返事をし、すぐに行動に移る準備を始める。吉良も頷き、最善を尽くすことを約束した。

ちょうどその時だった。司令室の扉が勢いよく開き、息を切らした様子のマリーが駆け込んできた。

「あぁ! よかった、まだ出てなかったようね!」

「マリーさん?」

唐突な登場に、メンバーは一瞬驚きながらも、マリーに目を向ける。マリーは駆け寄り、ギンガに微笑みながら小型デバイスを差し出す。

「これ、まだ試作品段階なんだけど・・・・・・ギンガとスバルのリボルバーナックルに対応した新機構。お世辞にも使い勝手のいいものとは言い難いけど、きっとギンガの役に立つはずよ」

「これを私に・・・?」

「ユーノくんが第四技術部(ウチ)にかねてより依頼してものがようやく形になったの。スバルとギンガの事は、自分より私たちの方が詳しいからって」

マリーはそう言いながら、近くにいるユーノを一瞥する。ユーノはその視線に気づき、軽く肩を竦めて不敵な笑みを浮かべる。

「事実に基づいた見解を示したまでですよ」

「マリーさん、ありがとうございます! 大切に使わせて頂きます!」

ギンガは深く頭を下げ、感謝の意を示すと共に両手で受け取る。

「名付けて、“ガジェットプロトタイプマリー”! なんちゃって♪」

微妙なネーミングセンスと妙に熱の籠った割に中途半端さが残るノリに、場が一瞬静まり返る。

「ん・・・ん! えーっと、準備はできたみたいやな。ほんなら、早速現場へ急行や!」

場の空気を払拭するようなはやての号令の後、吉良とギンガは任務地へと赴くことになった。

 

ヴァイスのヘリに乗り込んだ二人は、到着までの間、機内で情報の整理を始めた。

「目的地であるエヴァリーナの南側に位置する古代都市アイテール・・・・・・これって、確かずいぶん前に滅びた場所ですね」

吉良と向かい合わせになりながら、ギンガは資料を見ながら、ふと疑問を口にする。

「ターゲットは【聖アマデウス】?」

「これって、人の名前? まさか・・・・・・」

吉良とギンガは眉を顰めながら、考え込む。

『そのまさかや』

すると、機内に映像通信が入り、はやてが二人に報告をしてきた。はやての声に、二人は顔を見合わせた。

『報告によれば、発見されたアンゴルモアはその聖アマデウスっちゅう人が持ってるという話です。二人には今からその人に会ってもらう予定や』

「どういう方なんですか?」

ギンガが素直に質問すると、はやては少し言葉を詰まらせた。

『いや、その・・・・・・なんちゅうかな・・・・・・』

「何か言いづらそうなことでもあるのかい?」

吉良が問い詰めると、はやては困ったような表情を浮かべて言葉を選んだ。

『私自身も未だ信じられへんのやけど、実はその人・・・・・・もうずいぶん昔に亡くなった方なんですよ』

「なんだって?」

「どういうことですか、八神司令!?」

荒唐無稽な内容に、二人は吃驚し挙って声を上げた。

『ん~・・・私じゃどうも、うまく説明はできへんな。ここからはスクライアアドバイザーにバトンタッチしてその人の生い立ちについて説明するよ』

早々に音を上げたはやては、ユーノと即時交代を果たす。即座にユーノが通信に加わり、困惑する二人に向けて聖アマデウスの詳細を語り始めた。

『聖アマデウスこと、本名アウローラ・マリアンはおよそ五百年前――エヴァリーナ教皇庁認可の修道組織『聖王の愛の修道会』に所属した敬虔(けいけん)な聖王教信者でした。彼女は貧しい人や病人を救い、スラム街を訪れ、病院や薬局、孤児院を各地に設立。身体はそれほど丈夫では無かった為、32歳の若さで落命したのち、聖王教皇によって列聖(れっせい)が宣言された聖人の一人です』

「待ってくださいユーノさん! その話が本当なら、僕らはこれから500年も前に生きた人物に会いに行くという事ですよね?」

吉良の驚愕の声に、ユーノは落ち着いた声で返答した。

『ええ。吉良さんの言うことはごもっともだと思います。しかし、彼女は生き返ったんです。アンゴルモアの力で』

「アンゴルモアの力は・・・・・・死んだ人を蘇らせることもできるんですか!?」

信じ難い様子でギンガが口にすると、その瞬間、ヴァイスの声が機内に響いた。

「そろそろ目的地に到着だ! 二人とも、準備してくれ!」

ヴァイスの号令に、吉良とギンガは驚きを抱えたまま、気を引き締める。まだ疑念は拭いきれないものの、任務を果たす為、準備を整えた。

そうしてヘリは目的地である異世界『エヴァリーナ』の地へと静かに着陸する。

 

           *

 

第28管理世界「エヴァリーナ」

エヴァリーナ南部 古代都市アイテール跡

 

暗がりで仄かに光り輝くものが一つ、結界の中でぼんやりと浮かび上がっていた。教会騎士団より派遣された勇姿達は、その「あるもの」を敵の手から守るため、力を結集していた。

「そっちだ。いいか、仮にも相手は聖人なんだからな・・・!」

「分かってますとも」

「我々の意図を組んでじっとしている今のうちに・・・」

騎士達は冷静に呼吸を整え、僅かな時間に賭けた。長い静寂の末、ついに忌むべき対象を立方体型の結界内に閉じ込めることに成功する。

「よし! 結界内に閉じ込めたぞ!」

「これで機動六課の応援が到着するまで時間が稼げるはずです!」

「ならいいが・・・・・・」

騎士達は安堵の表情を浮かべるものの、どこか不安が拭えない。

「おい、未確認(アンノウン)は本当に二体だけなのか?」

「そういう話ですが・・・」

と、灯りを照らしながら口にしたその時――

「うっ!」

不意に騎士の一人が苦しげに呻き声をあげ、唐突に地面に崩れ落ちた。

「おい、どうした!?」

異変に気づいた初老の騎士は、慌てて駆け寄るが、同僚の背中から黒い煙が上がっているのが見えた。

「これは・・・・・・!」

騎士の体は既に冷たく、黒い煙を纏いながら事切れていた。初老の騎士は一瞬息を飲み、足元に落ちたライトを手に取ると、慎重に辺りを照らしていく。

「っ・・・・・・!!」

刹那。彼の視界に忽然と現れたのは、卵型の魔導虚(ホロウロギア)【デスベイト】だった。その不気味な色が全身を覆い、死の予感を漂わせるようにじっと騎士を見つめていた。

「ま、なんだ・・・こいつ・・・! うわあああああ」

死の恐怖が全身を駆け巡り、初老の騎士は叫び声を上げる。無線機に混線した彼の悲鳴が、次々と他の騎士達にも伝わった。

『ダメダ・・・新手だ! 結界が・・・!!』

『わああああああ!』

無線から聞こえてくる仲間の絶叫に、司令部の騎士達は愕然とし、代表は沈痛な面持ちで無線を切る。

「外の部隊は・・・全滅した・・・」

「ど、どうしましょう?」

「何とか敵を結界に閉じ込めれば・・・」

「無理だ。外の部隊より少ない我々に敵を抑える力はない」

「しかし・・・見つかるにも時間の問題です!」

焦燥感が建物の内部に広がり、騎士達は侃々諤々(かんかんがくがく)と口々に対策を議論する。しかし、どれも決定打にはならない。

その中で、聖アマデウスは何も言わず、静かに手を合わせて祈りを捧げていた。状況を理解しているかのように、その穏やかな顔に動揺の色はない。

「――……聖王猊下(げいか)様。どうか吾人(ごじん)をお導きください」

その神聖な姿を一瞥し、騎士団の代表は決意を固めたように口を開く。

「最後の手段だが、私に考えがある・・・・・・何としてでも、聖アマデウス様を守らなくてならない。機動六課の応援が来るまで持ち堪えるんだ!」

 

ちょうどその頃、現場に到着した吉良とギンガは、走りながらシスターシャッハと合流した。

「シスターシャッハ!」

「状況はどうなんですか?」

「それが・・・・・・捜索隊からの連絡が途絶えました」

無線機からは、砂嵐のような雑音だけが耳に響き、不安が一層募る。吉良とギンガは顔を見合わせ、気を引き締めた。

「急ぐぞ」

「はい!」

シャッハを伴い、三人は古代都市アイテールへ向かって駆け出す。道中、シャッハはこれまでの経緯を(つぶさ)に話し始めた。

「数日前、エヴァリーナ教皇庁認可『聖王の愛の修道会』のトップであるルカ・フローライト氏より直々にミッド教会騎士団へ依頼が入りました。古代都市アイテールで古代遺物(ロストロギア)が発見された為、回収に人員を派遣してほしいと」

「修道会のトップ自らが? 何だか腑に落ちないですね・・・・・・そもそも、聖王教会と修道会は同じ教会の組織ではないのですか?」

素朴な疑問を口にする吉良だったが、シャッハは「厳密に言えば違います」と言って、首を横に振る。

「私たち騎士団は、古代遺物(ロストロギア)の調査と保守を担うのが主な仕事ですが、修道会はより聖王教に傾倒し、世俗から離れて教育や社会活動を通じて教えを広めるのが役目です。直接的な武力を持たない組織です」

「つまり、教会は教室そのもので、修道院は研究室って感じですか?」

「その通りです。修道会は儀式や冠婚葬祭も行いますが、それはあくまで修道活動の一環に過ぎません」

「それで、シスターシャッハや騎士団が現場に派遣されたというわけですか。でも、他の誰でも良かったんじゃないですか?」

ギンガの疑問に対して、シャッハは少し躊躇(ためら)った後、続けた。

「ここからは政治的な話が絡んでしまうのですが・・・・・・依頼主であるフローライト氏は聖王教会唯一の女性主教であり聖王教枢機卿(セイクリッド・カーディナル)、そのうえ“教皇の侍従(チェンバレン)”と呼ばれる役職に就いています。彼女は教会内で強い権威を持ち、その政治手腕は教皇猊下も頼りにしているほどです。つまり、彼女からの依頼は、聖王教皇からの依頼に等しいものなのです」

一連の説明を聞いた吉良とギンガは、管理局宛然(えんぜん)の一枚岩とは程遠い教会内部の構造に、複雑な思いを抱かざるを得なかった。それでも、深い矛盾と含みを(はら)むその現実に対し、仕方なく納得の色を(にじ)ませる。

「少し話が逸れてしまいましたが、私が現地で目の当たりにしたのは、古代遺物(ロストロギア)とは到底思えぬ姿をしていました。聖アマデウス――シスターであれば誰もが一度は耳にした事のある偉大なる聖人。それがまさか、死の淵から蘇ったなど。(にわ)かには信じられませんでした。しかし、あの見る者を安堵させる微笑。誠実な言動。彼女は紛れもなく聖アマデウスその人です」

実際に目で見て、耳で声を聴き、彼女と接触したからこその確信。シャッハは自身の体験を、言葉にして伝える。

「シャッハさん。アンゴルモアは今も彼女が所持しているのですか?」

吉良が問いかけると、シャッハは一瞬言葉を詰まらせ、苦い表情で答える。

「所持している、と言えばそうかもしれません。ただ・・・・・・」

「ただ?」吉良が疑問を浮かべた。

「この任務の遂行は果たして、我々にとって正しい行いなのかどうか・・・」

「どういう事ですか?」

ギンガが困惑する中、前方から俄然大きな音が聞こえた。直後、吉良が周囲の空気に敏感に反応する。

「この冷たい空気・・・間違いない、奴らだ」

次の瞬間。土煙を上げる古代都市から出てきたのは、嘗てミッドでも目撃された魔導虚(ホロウロギア)、デスベイトだった。

魔導虚(ホロウロギア)! なぜここに!?」

シャッハは驚きを禁じ得なかった。

魔導虚(ホロウロギア)は元々アンゴルモアから造り出された存在。そして、その力を欲しがる人間もまた僕たち同様に次元世界各地を巡っている」

「ジェイル・スカリエッティ・・・・・・っ!」

忌まわしき次元犯罪者の名に、ギンガが顔を曇らせる。

「あの一件以来、鳴りを潜めていた男が再び我々の前に立ち塞がったというわけですね」

シャッハもまた、魔導虚(ホロウロギア)の出現が何を意味するかを理解し、顔を引き締める。

 

「う・・・うわああああああ!」

騎士団員はデスベイトの圧倒的な存在に恐れを成し、反射的に魔力弾を放ちながら悲鳴を上げた。

しかし、その攻撃は虚しくもデスベイトに一切通じない。魔力弾はただ無力に弾かれ、デスベイトは無慈悲に襲いかかってくる。

「くっ・・・・・・」

必死に立ち向かおうとするも、その巨体が発する不気味な光に呑まれ、次々に倒れていく騎士団。冷酷な銃弾が容赦なく彼らの体を貫く。

騎士の一人が膝をつき、その場に崩れ落ちる。断末魔の悲鳴を上げながら、体は無惨に自壊し、消え去っていった。

 

空気に溶け込むかのように響く人々の悲鳴。吉良は無言のまま、腰に据えた斬魄刀に手をかけた。

「僕が空から遊撃する。ギンガとシャッハさんは地上から援護を頼む」

「「了解ッ!」」

鋭い声に応じて、二人は迷いなく地上から古代都市へと続く道を駆け抜けていく。吉良は軽やかに上空へと舞い上がり、宙を蹴りながら通信を開いた。

「機動六課総合司令室! こちら吉良イヅル! 古代都市アイテール(あと)を襲撃する魔導虚(ホロウロギア)数体を確認した! ユーノさん、敵戦力が魔導虚(ホロウロギア)数体だけとは限りません。限定解除許可をお願いできますか?」

『了解しました。護廷十三隊総隊長代行権限に基づき、三番隊副隊長・吉良イヅル殿――限定解除を許可します』

ユーノの応答と共に、吉良の胸元に輝く金盞花(きんせんか)の隊章が眩い光を放つ。封じられた霊力が瞬く間に解放され、空高く伸びる柱状の霊圧がその圧倒的な力を示す。

限定解除を終えた吉良は、瞬歩で中空を疾駆し、一気に古代都市の中心部へ降り立った。

「あれは・・・・・・」

吉良の視線の先に見えたのは、結界で守られている一人の女性。その姿を見た瞬間、吉良は直感した。

(聖アマデウス・・・・・・あれがそうか。どうやら教会騎士団は、彼女の保護を最優先に行動し、返り討ちにあったのか)

状況を理解した吉良は小さく呟きながら、静かに斬魄刀を引き抜いた。

「急がないと――結界が持たない」

彼の声が静かに、しかし確実に緊張を高める。時間は僅かだ。

 

「もうすぐポイントです!」

地上で援護をしていたシャッハが声を上げた瞬間、近くで爆炎が轟く。

「あの光は!」

ギンガは一瞬で状況を察し、強い光を放つ方角に向けてローラーを蹴り込んだ。

「! ギンガさん!」

シャッハの制止も耳に届かず、ギンガは本来の援護を放棄し、その場を駆け抜ける。

 

同じ頃、デスベイトの襲撃から逃れようとする騎士団の一人が、息を切らせて荒れ果てた大地を走っていた。

「は・・・は・・・は・・・」

手の甲から血を滴らせ、疲弊した体が限界を迎えようとしている。その背後には、魔導虚(ホロウロギア)が冷酷に忍び寄っていた。

騎士が頭上を見上げると、そこにはウィングロードで月明かりに映えるギンガの姿。(わら)にも(すが)る思いで、彼は手を伸ばす。

「あぁ・・・・・・魔導師・・・・・・」

だが、その希望は無情にも打ち砕かれる。次の瞬間、デスベイトの攻撃が直撃し、騎士は瓦礫の下に沈んでいった。

「っ!! うわあああああああああああああああああ!!」

ギンガは、あと一歩のところで救えなかった自分に愕然とし、怒りと悲しみを胸に爆発させる。

激情に突き動かされ、戦闘機人モードで突進し、デスベイトに向けて全力の手刀を振り下ろす。

「はああああああああああああ!」

その強烈な一撃がデスベイトの頭部を真っ二つに割り、敵は爆発音と共に消し飛んだ。

しかし、デスベイトはなおも群れを成し、執拗に襲撃を仕掛けてくる。ギンガは息を潜め、建物の影に身を隠した。

 

「やれやれ。感情に流され易いのも禁物だな」

近くで爆発音を確認した吉良は、援護から離れたギンガに対して溜息を漏らすと共に、静かに敵を見据え――愛刀に静かに手をかけると、低く宣言する。

「いくぞ・・・――」

デスベイトが襲い掛かる刹那、吉良は背後から瞬歩で現れ、月明かりを背に斬魄刀を振り払った。

「無に帰れ」

デスベイトの急所を正確に捉えた迅速の剣閃が敵を一掃する。

爆発が再び響き、吉良は静かに刀を納刀すると、結界で護られた聖アマデウスと、それを守る騎士団の生き残りに問いかける。

「まだ喋れますか? 結界の解除コードは何です?」

「きてくれたのか・・・・・・機動六課の魔導師・・・・・・」

「生憎と僕は死神だ。それよりも早く答えるんだ。君たちの死を無駄にしたくないのなら」

「・・・・・・“Have a hope”・・・・・・“希望を持て”・・・だ」

騎士が微かに口にし、吉良はそれを確認して結界へと歩み寄る。

「ありがとう・・・・・・死神よ・・・・・・」

騎士は感謝の言葉を最後に、静かに息を引き取った。

「これが・・・・・・聖アマデウス・・・・・・」

解除コードを入力し、結界内に保護された聖アマデウスの姿をじっと見つめる吉良。その時、彼女が静かに言葉を投げかけた。

「・・・・・・助けに来てくださったのですか?」

「どうかな。僕はあなたが所持しているというアンゴルモアを回収しにきたんだ」

吉良は彼女の手を取り、率直に問いかける。

「単刀直入に問う。アンゴルモアはどこにあるんですか?」

 

同じ頃、ギンガは建物の影に身を潜め、出方を窺っていた。

巨体を宙に浮かせ、悠然と移動するデスベイト。その瞬間、シャッハが鋭く駆け込む。

「烈風一陣!!」

双剣を手に、得意の一撃で敵を切り裂く。ダメージを負ったデスベイトに、ギンガは絶好の機会を逃さず、ウィングロードを展開して飛び出した。

「キャリバー・・・ショット!!」

だがその時、異変が起こった。ギンガの攻撃がクリーンヒットしたはずにもかかわらず、デスベイトは無傷のまま、逆にギンガを弾き飛ばした。

「ギンガさん!」

すかさずシャッハが救援に向かう。ビルに激突したギンガは、デスベイトの異常な強さに驚愕する。

「つ・・・強すぎる・・・・・・前に戦った時はこれほど強くなかったはず・・・・・・」

思考を巡らせる中、デスベイトの体に(ひび)が入り始めた。

そう思っていると、デスベイトの体が罅割れ始める。

「なに? 一体なにが起こってるの?」

当惑するギンガの目の前で、デスベイトの外殻が崩れ落ち、その中から新たな個体が姿を現した。

『ワタシハ・・・仮面ヲ()ギシ者・・・!』

現れたのは、人並みの大きさに縮小し、道化師を彷彿とさせる容姿を持つ新種の個体。特筆すべきは、(ホロウ)の象徴である仮面の一部が剝がれ落ちていた

『ワタシハ魔導虚(ホロウロギア)改メ――― “破面魔導虚(アランカルロギア)”! (ハグク)ンデクレテアリガトウ』

破面魔導虚(アランカルロギア)・・・!?」

ギンガは驚愕のあまり、瞳を見張り、その事実を理解する。そこへ、シャッハと聖アマデウスを保護した吉良が駆けつけた。

「ギンガさん!」

「大丈夫か?」

「ええ。それより、厄介な事になりました」

三人は揃って、デスベイトとは比肩にならない霊圧と殺気を醸し出す破面魔導虚(アランカルロギア)に進化した敵を見据えた。

「仮面が、割れてる・・・・・・破面(アランカル)か!?」

「吉良さん。何なのですか、その“破面(アランカル)”とは?」

意外な敵の出現に動揺する吉良と、正体不明の敵に困惑するシャッハを余所に、破面魔導虚(アランカルロギア)はけらけらと不気味な笑みを浮かべる。

「くっ・・・」

「未知数の敵ですが、三人がかりなら――」

ギンガとシャッハが身構えるが、吉良が手を出して二人を制止した。

破面(アランカル)の事は死神の方が詳しい。二人にはもっと重要な使命がある。聖アマデウス(彼女)を連れてここから離れるんだ」

「しかし!」

「危険です、どんな力を持っているか・・・」

「早く行くんだ」

吉良の低く圧の籠った言葉に、二人は渋々従い、聖アマデウスを連れてその場を離れた。

『フフ! アンゴルモアは逃ゲタカ。まぁいい・・・ソッチはあとで捕まエルサ。とりあえず、お前を殺シテカラダ! フハハハハハハ』

狂気を内包した高笑いを響かせる破面魔導虚(アランカルロギア)『クラウン』。その嘲笑に動じることなく、吉良は鋭い瞳で敵を見据え、斬魄刀を構えた。

「斃すのはこちらだ」

宣言と同時に、吉良は瞬歩でクラウンの間合いへ飛び込み。激しい攻防が展開させる。

「破道の五十四、『廃炎』!」

高出力の火球の一撃がクラウンを直撃し、その掌に大きな穴を穿(うが)つ。クラウンが呆気に取られた隙を縫って、吉良は斬魄刀で斬りかかった。

辛うじて紙一重で回避したクラウンだが、吉良はマユリの改造を受けて施された膂力(りょりょく)を用いて遺跡の壁を破壊し、それを投げつける。

「ふおおおおおお」

投擲された壁に対し、クラウンは拳を振り上げ、力任せに迎え撃った。

『ウオオオオオオオオ!』

壁を拳打で破壊した直後、吉良が中空から一太刀を見舞うべく突っ込んできた。

「はっ」

だが、その一撃でクラウンを真っ二つに斬り伏せたかに見えたが、吉良は一瞬の違和感を覚える。

(違う。これは本体じゃない・・・偽物か?)

『ココ。こ・こ!』

卒爾(そつじ)に、吉良は胸に鋭い痛みを感じた。血が滴り落ち、振り返ると、突き刺さる爪と瓜二つの自分の顔がそこにあった。

「僕が・・・・・・ふたり・・・・・・だと?!」

奇襲を受けた吉良は、胸に鋭い痛みを抱えながら、目の前の敵――自分と瓜二つの姿をしたクラウンを睨みつけた。クラウンは、左右が逆の吉良の姿を保ちながら、不敵な笑みを浮かべて見つめ返す。

「・・・・・・何故・・・・・・僕が二人いるんだ・・・」

『写したゾ。お前の姿、お前の能力』

クラウンは薄く嗤うと、ゆっくりと吉良の姿から本来の破面魔導虚(アランカルロギア)の姿へと戻っていく。その左手には、吉良から写し取った斬魄刀が握られていた。

『これが私の能力さ。破面(アランカル)化した魔導虚(ホロウロギア)は新しい能力に目覚めるんダ。そして私の能力は触ったモノを写し取り、自分のモノにする。コレだ! ハハハハハ!』

吉良から奪った力を使い、本来の力と組み合わせて、吉良の姿を借りたクラウンは、凶悪な一撃を放つ。

『ヌラアアアアア!』

吉良は必死に愛刀で防御を試みるが、クラウンがコピーした斬魄刀による一撃は凶暴で圧倒的だ。その力に押され、次第に追い詰められていく。

「く・・・これが、破面魔導虚(アランカルロギア)の力なのか・・・!」

自身の限定解除後の力にも引けを取らない攻撃力に、吉良は苦戦を強いられる。

その様子を遠くから見守る影がひとつ。顔を外套で隠した人物は、僅かに狂気の笑みを浮かべており、その瞳は、狂気と歓喜が交々(こもごも)していた。

「ふふふ・・・・・・死神が防戦一方とは・・・・・・あの強さ、あの姿、実に素晴らしい。やはり私の作品はいつだって佼しい」

『死ネエエエエエエエ!!』

次の瞬間。狂気に染まった形相でクラウンが突進し、空気を(つんざ)咆哮(ほうこう)と共に、吉良へ向けて強烈な一撃を繰り出す。

「ぐああああ」

その攻撃は、吉良の膂力と同等か、それ以上の力で紙鳶(しえん)の如く吹き飛ばす。吉良は遺跡の壁を次々と破壊しながら後方へと叩きつけられた。

『ハハハハハ!! キモちぃ~!!! イイもの手に入れちゃったな・・・・・・ン?』

力の余韻に浸っていたクラウンだが、ふと異変に気づく。瓦礫の中に埋もれているはずの吉良の姿が、忽然と消えていた。

『逃げたか・・・・・・フハハハハハハハハ、殺スッ!!!』

狂気を帯びた笑みを浮かべながら、クラウンは吉良を追跡するべく、その巨体を動かした。

 

一方、どうにかしてギンガ達の元へ逃げ(おお)せた吉良は、シャッハの癒しを受けつつ傷の痛みに耐えながら、状況を説明し始めた。

「――“破面(アランカル)”とは、仮面を剝いで死神の力を手に入れようとした(ホロウ)の事だ・・・・・・あれはその魔導虚(ホロウロギア)版というわけだ。(ホロウ)よりも知能が高く、そして格段に強くなる。かつて死神を裏切り、謀反を起こした大逆の罪人・藍染惣右介(あいぜんそうすけ)の手によって大量の破面(アランカル)が生み出された。僕らは一護君らと共に協力して戦い、どうにか世界転覆を画策した藍染の野望を阻止することができたが・・・・・・奇しくも同じ崩玉から造り出された存在と、こうして異世界で相まみえるとは思ってもいなかった」

「これからどうなるんでしょうか?」

ギンガは不安を隠し切れない表情で問いかける。

吉良は治療を終え、ゆっくりと死覇装を着直しながら答えた。

「遅かれ早かれ、あの破面魔導虚(アランカルロギア)はここに来る。僕たちの所に――」

「つまり・・・・・・あなたの言いたいことは、怪物が来る前に私が持つアンゴルモアが欲しいというわけですね?」

鋭い勘を働かせたアマデウスが、静かに吉良の言葉を読み取る。

「ああ。できれば今すぐに」

「吉良さん、しかしそれは!」

シャッハが動揺し、言葉を紡ごうとしたが、アマデウスは穏やかに「いいのです」と言い、シャッハを遮った。彼女の視線は静かに覚悟を帯びていた。

「私の命を差し出せば、この凄惨な戦いは終わる。それに私は一度主の元へ召された身・・・・・・もう十分なほど長く生きました」

「聖アマデウス・・・・・・」

シャッハは複雑な表情を浮かべ、言葉を失う。アマデウスは、微笑と共におもむろに語り始めた。

「岩と乾燥した気候、照り付ける厳しい陽光・・・・・・このアイテールは、かつて人々から【神に見放された地】と呼ばれていました。絶望と苦しみに生きる民を救うため、『聖王の愛の修道会』の命を受けた私はこの地に参りました。“もっとも貧しい人々のために働くこと”――それが吾人のモットーでした。私は持ちうる知識と経験の全てを以ってこの地に暮らす民の為に心血を注ぎました。やがて、一度目の生を終えてから復活・・・・・・その後この町が滅び、人々が消えても、私は生き続けた。そう、私は亡霊です」

「資料によると、この町が滅びたのは五百年前。あなたはそれからずっと生きていたのですか?」

「はい。アンゴルモアを心臓にして」

「なるほど。アンゴルモアの力か、あり得る話だ」

吉良は言葉をかみ締めながら、斬魄刀の鞘に手をかけ、アマデウスをじっと見つめた。

「巻き込んですまないが、その心臓を頂きたい」

「待ってください! いくら何でもアンゴルモアを心臓から抉り出すなんて・・・こんなの間違ってます!」

ギンガがすかさず前に立ち、吉良を制止する。吉良は冷静にギンガを見つめ、静かに(いさ)めた。

「ギンガ・・・・・・私情を持ち込むなとは言わない。だが、こうするより他に選択はない。ぐずぐずしていると敵に見つかる」

「わかってます、私だってそれくらい・・・・・・でも、他に方法があるはずです! こんな悲しい結末、誰も望んでなんかいません!」

「ギンガさん・・・・・・」

シャッハが声をかけようとした瞬間、アマデウスが優しく破顔し、ギンガに向かって言葉を紡いだ。

「もういいのです。貴方のその優しい言葉だけで、私を十分に救われました」

「聖アマデウス・・・・・・」

 

〈Caution! Unconfirmed reaction is approaching quickly!(警告! 未確認反応が急接近!)〉

刹那、ブリッツキャリバーのセンサーが急激な変化を捉えた。全員の顔に焦燥の色が浮かぶ。

『へへへへへ!! どこだ!! どこに隠レタ!! 聖アマデウスとアンゴルモアはどこに隠レタ!!』

狂気に染まったクラウンが、辺りを走り回りながら建物を手当たり次第に破壊していく。その様子を遠くから見ていた吉良達も、徐々に切迫感を強めた。

「いよいよ、時間が無くなってきたか」

「しかし敵の能力は未知数です。吉良さん、何か戦った時に気づいた点などありませんか?」

吉良は顎に手を当て、クラウンとの戦いを思い出し、ふと気づいたことを口にした。

「・・・・・・姿見のようだった」

「なんですって?」

「逆さまってことさ。奴が僕に化けたとき、髪の分け目や刀の持ち手が逆になっていた。僕が斬った際にも左右逆だった。しかも中身が空で外見だけという巧妙なトリックまで披露して」

「ただ単に化ける能力じゃない、というわけですね」

「何かで対象物を写し取っているように思えます。しかも写し取ったそれを装備すると、能力まで自分のモノにできるようだ。僕の斬魄刀をコピーしたばかりか、(くろつち)隊長に半ば嫌がらせのように追加された膂力も抱き合わせで手に入れてね」

「だとすれば、真正面から戦うのはそれこそ敵の思う壺ですね」

写真のように能力を写し取るクラウンの特殊な力に、三人は警戒心を強めた。その時、不意にアマデウスが口を開く。

「あの・・・・・・」

彼女の声は柔らかくも、決意を感じさせるものだった。吉良達に向けて、アマデウスは一つの提案を持ちかけた。

「私に考えがあります」

 

『ハハハハハハ!!! どーこーだー!! 全員まとめて狩ってヤルぞー!!』

奇声を発し、クラウンは瓦礫を次々と破壊しながら、周囲を探し回る。その恐ろしい魁偉(かいい)を遠くから窺う吉良達は、アマデウスの案内に従って地下通路へ向かう。

「行きましょう」

アマデウスの導きで、三人は月明かりすら届かない暗い地下通路をひたすらに歩み続けた。

「真っ暗ですね」

「この道は私しか知りません。あの怪物も、すぐには見つけられません」

「何も見えない・・・・・・こっちで大丈夫なのか?」

「大丈夫です。だって私、ずっとこの地下で生きてきたのですから。そう――この世に復活してから、ずっと」

彼女の静かな声が響く中、ようやく月明かりが差し込む場所に辿り着いた。

「着きました。ここです」

着いた先は、かつてアイテール人が建てた朽ち果てた礼拝堂だった。

「成程。身を隠すにはうってつけだ」

「ここならば、しばらく身を休めることが出来るはずです・・・・・・」

そう言ってアマデウスが岩場に腰を下ろそうとした、その瞬間――

「っ! ぶっほ・・・」

前触れも無く、彼女は激しく咳き込み、血反吐を吐いた。

「!? 聖アマデウス!!」

「だいじょうぶですか!?」

容体の変化を受け、焦燥感に駆られる一同に対して、アマデウスは従容として静かに語り始めた。

「・・・・・・いよいよ、わたくしのこの体も限界を迎えつつあるようです・・・・・・」

吐血した後、アマデウスは布で隠していた胸部を見せる。そこには腐りかけた肉体に埋め込まれ、アンゴルモアと一体化した心臓がうっすらと垣間見えた。

「これは・・・!」

「どういう、ことですか?」

三人は困惑しながらも、彼女の説明に耳を傾ける。

「いかに古代遺物(ロストロギア)の力と言えど、永遠の命を得るなどというのは土台無理な願いだったのです。アンゴルモアは私の心臓に埋め込まれることで、停止した私の肉体を再び動かしました。アンゴルモアによる作用なのか私は決して老いることなく当時の姿を保ち続けた。ですが、元々が病弱なこの身は年月と共に徐々に朽ち始めていたのです」

血で真っ赤に染まった手を見つめながら、彼女は自らの死期を悟っていた。

「厳しい気候と、強い日差しが一年中降り注ぐ乾燥地帯。そんな環境で私達は生き残るために、地下に住居を広げて行きました。長い長いあいだ・・・・・・ずっと掘り続けて・・・・・・そして、ここを造ったのです」

言うと、アイテール人と共に造り上げた朽ちた礼拝堂を見渡し、さらに続けた。

「絶望と苦しみ、滅びに向かうこのアイテールの町。その辛い日々をほんの一時忘れさせてくれる場所が必要でした。ここはそんな彼らの思いが集まる場。私は彼らの為に祈りを捧げ、疲れた人々の心を癒し続けた。町も人も消え、私以外に誰もいなくなっても・・・・・・私は祈り続け・・・・・・げっほ!!」

「「聖アマデウス!!」」

ギンガとシャッハがさらに血反吐を吐く聖アマデウスを介抱する。

「アイテールの町が滅んでから五百年・・・・・・私はずっとこの町で祈り続けてきました・・・・・・ですがその役目ももうすぐ終わる・・・・・・私はもうじき二度目の死を迎えます、最早限界は近いのです。私が動かくなった時、その時はどうか私の心臓を持って行ってください・・・・・・ですから最後まで、この場所で彼らの為に祈らせてください」

「「・・・・・・」」

「どうかお願いです・・・私の最後の願いを聞いてほしいんです・・・!」

ギンガとシャッハは、その言葉に呆然とし、何も返すことができない。無力感が静かに、しかし確実に二人の心を締め付けていた。

だが、その空気を切り裂くように、吉良の冷ややかな声が響く。

「駄目だ」

吉良は険しい表情を浮かべ、否定の言葉を放つ。厳然たる現実を突きつけるようなその声音は、誰の耳にも鋭く届いた。

「自分が死ぬまで待てというのか? いつ破面魔導虚(アランカルロギア)が来るか分からないこの状況で、そんな時間はない!」

「吉良さん・・・ですが・・・」

シャッハが迷いあぐねながら声を上げるが、吉良は聞く耳を持たず、強く言い放つ。

「僕たちは何のためにここに来たんだ!? 今すぐ彼女の心臓を取るんだ、ギンガ!」

その言葉に、ギンガはおもむろに立ち上がる。そして――

「とれません」

絞り出したのは、吉良に対する必死の反論だった。

「私はとりたくありません」

声は酷く震えていたが、その一言に込められた決意は揺るぎないものだった。吉良は目を細め、ギンガの甘さに苛立ちを募らせる。

「馬鹿を言うな! 僕たちが何のためにここへ来たのか、思い出すんだ!」

「イヤです! こんなの絶対イヤです!! 彼女は生きている、だけどアンゴルモアを取り出したら彼女はまた・・・・・・」

アンゴルモアの回収、それはすなわち――アマデウスの死を意味する。間接的にも人殺しをするような感覚なのだ。

ギンガの声は次第に嗚咽に変わり、その場に崩れ落ちるように膝をつく。乾いた砂の上に涙を零しながら、吉良に対して懇願する。

「ギンガさん・・・?」

「それは何のつもりだ、ギンガ?」

当惑するシャッハと、ギンガの取った行動に静かに怒りを募らせながら、吉良が彼女の行動の真意を問う。

「――無理を承知で言います。どうか彼女の願いを聞き入れてください! 私は彼女を殺したくない! 彼女を殺さないでください! お願いします! お願いします・・・!」

何度もぬかづき、啜り泣くように懇願する。そんなギンガの姿に、吉良は怒りを抑えきれず声を荒らげる。

「生殺与奪の権を他人に握らせるな!!」

その一言が聖堂に轟き、全員が驚きと共に吉良の怒号によって我に返った。彼の声は冷たく、容赦がなかった。

「惨めったらしく(うずくま)るのはやめろ!! そんなことが通用するなら誰も殺されたりなどしない。奪うか奪われるかの時に主導権を握れない弱者の意志や願いを周りが尊重してくれると思うなよ。当然、僕も君を尊重しない。それが現実だ」

「だったら・・・・・・私はどうすればいいんですか!?」

厳しい言葉で責め(なじ)る吉良に、ギンガの声が震えながらも高まり反論する。

すると、吉良は彼女へ歩み寄り、冷ややかに呟く。

「ならば――証明してみせろ」

「え?」

「もし、あの破面魔導虚(アランカルロギア)を君一人の力で倒せたなら、要望通りにしよう。ただし、僕やシスターシャッハは一切手出しはしない。たとえ、君が奴に殺されることになってもだ」

「っ!!」

刹那にギンガの呼吸が止まった。シャッハもまた、その提案の無謀さに愕然とした。

「吉良さん! それはいくらなんでも――」

シャッハは反射的に反論するが、その一方で、吉良が求めているものが何かを察していた。彼は、ただ同情で命を救おうとするのではなく、その行動の裏にある戦士としての覚悟を問うていたのだ。

「それでも、覚悟はあるのか? 自分の身を(いと)わず、あらゆる脅威から彼女を守り通すという覚悟が」

「それは・・・・・・」

ギンガは、胸の奥で渦巻く感情を必死に抑えようとしたが、言葉が詰まる。その沈黙は彼女の決意の不確かさを露呈していた。吉良の目が鋭く光り、冷徹な言葉が突き刺さる。

「やはり君には無理だな。本当に覚悟があるなら、今の僕の問いには迷わず『ある』と答えるべきだった」

「・・・・・・・・・」

何も言い返すことができない。痛烈な指摘がギンガの内心を貫き、言葉が失われる。吉良は通り過ぎざま、静かに告げた。

「犠牲があるから救いがあるんだ。ギンガ」

その言葉に、ギンガは目を見開いた。彼の鋭い眼光が彼女を射抜き、斬魄刀が抜かれる。聖アマデウスの方へ向けられたその(きっさき)が、冷たく光を反射する。

「お願いです! どうか一時の猶予を!」

「吉良さん、おやめください!」

アマデウスとシャッハの声が緊迫した空気を裂いたが、その瞬間――

「じゃあ・・・なりますよ」

ギンガの呟きは、凍りついた空気の中で不意に響いた。彼女は一歩、吉良の前に進み出ると、毅然とした表情で言葉を続けた。

「私がこの人の犠牲になればいいんですか? 彼女はただ、自分が望む最期を迎えたがってるだけなんです。それまで彼女からアンゴルモアはとりません。私が、破面魔導虚(アランカルロギア)を倒せば問題ないはずです。犠牲ばかりで勝つ戦争なんて空しいだけですよ!」

言い終わると同時に、吉良の拳が容赦なくギンガの頬を打ち抜いた。

「吉良さん! ギンガさん!」

シャッハは驚愕し、殴られたギンガを案じながらその場で動けなくなった。

「とんだ甘さだな。可哀想なら他人の為に自分を切り売りすると言うのか? 君には、大事なものが無いのか!?」

いつになく感情を昂らせる吉良だが、その言葉には冷たさが満ちており、怒りと失望が交じり合っていた。殴られたギンガは、唇を噛みしめ、目を伏せながら体を起こし反論した。

「・・・可哀相とか、そんな綺麗な理由なんかじゃないです。自分がただ、そういうとこを見たくないだけなんです。私はちっぽけな人間だから、大きい世界より、目の前のものに心が向いちゃう。切り捨てられません。ですから、守れるなら守りたいんです!」

全員がギンガの言葉を聞き、その場は一瞬、静寂に包まれる。

 

しかし、その沈黙は次の瞬間、聖アマデウスの胸を貫く衝撃音によって打ち破られた。

「が・・・・・・」

ドン、という鋭い音と共に、聖アマデウスの胸に走った一撃。彼女はそのまま砂の中へと引きずり込まれた。

「奴だ」

吉良は瞬時にクラウンの奇襲を察知し、シャッハも即座に武器を構える。

しかし、その瞬間、狂気の笑みを貼り付けたクラウンが勢いよく現れ、砂の中から聖アマデウスの心臓――アンゴルモアを握りしめて飛び出した。

『アンゴルモアも~らい!』

下半身を砂と同化させたクラウンは、聖アマデウスから奪い取ったアンゴルモア付きの心臓を握りしめたまま、気が触れた笑みを浮かべる。一方、聖アマデウスは力尽きたようにその場に崩れ落ちていた。

『ほう~? これがアンゴルモアか?』

クラウンは奪取したアンゴルモアを手に持ち、まじまじとその異様な光を宿す心臓を顔に近づけ、しげしげと観察する。

「聖アマデウス!!」

シャッハがその悲痛な声で叫ぶと、ギンガは感情の昂ぶりを全身に感じながら、マリーから受け取った新機構を組み込んだリボルバーナックルを構えた。装置のギアが激しい音を立てて回転し、ギンガ自身の魔力と同調するかのように輝きを増していく。

「返しなさい・・・そのアンゴルモア」

刺々しいまでの魔力功を放ちながら、ギンガの瞳には戦闘機人モードの冷酷な光が宿り、その怒りが刃のように鋭く、クラウンへと向けられている。

「返しなさい!」

直後、リボルバーナックルの構造が一変し始めた。シャッハと吉良も、その異変に気付いて目を凝らす。

「ギンガさんの・・・リボルバーナックルが!」

「マリエル技術官が渡した例の新機構の作用か。ギンガの怒りに反応して、武器の機構そのものが作り変わろうとしているんだ。それにしても、戦闘機人モードとは言え、あんな禍々しい殺気を放つなんて! 武器がその姿を形にしているようだ!」

吉良が感嘆混じりに呟く。その言葉通り、武器は猛り狂う炎の如き殺気を放ちながら姿を変えていく。ギンガはその力を手に、凄まじい速さでクラウンへと飛び込んだ。

「はあああああああ!」

「ダメだ! まだ武器の造型が出来ていない!」

吉良が警告を発する間もなく、リボルバーナックルのスピナー部分が変形し、回転盤が露わとなった籠手に姿を変えた。

(あれは!?)

「スプレッド・・・キャノン!!」

ギンガが放った正拳突きは、中空で魔力を凝縮し、六つの魔力弾となって敵に向かって一斉に発射された。機関銃を彷彿とさせる連射された魔力の弾丸が、クラウンの砂の体に直撃する。

『ぐあああああああ!』

思いもよらぬ攻撃に悲鳴を上げるクラウン。その周囲が砂で覆われ、視界を遮る。

「やったのですか?」

シャッハはその場が沈黙し、クラウンの気配が途絶えたかのように思えた。だが――

『へへへへへへ。そんなんで砂になってる私は壊せナイヨ』

砂と同化したクラウンは地面に潜伏し、ギンガの足元から不意に襲いかかった。

「! うああああ!」

『はははは! 捕まえた! もうダメだ! もうダメだお前は!!』

ギンガを砂の体で捕らえ、閉じ込めると、クラウンは狂気じみた笑みを向け、鋭い爪を振りかざす。

『あはははははは! 何回刺したら死ぬかな?』

鋭い爪が何度もギンガの腹を突き刺し、深々とその体を貫く。

「ギンガさん! 今助太刀に!」

シャッハが前に出ようとするが、吉良が冷静に彼女を制する。

「大丈夫です」

「え」

「彼女の殺気はまだ消えていない」

吉良が確信を持って告げたその瞬間、クラウンの腹部が膨れ上がり、次の刹那――激しい音と共に破裂した。

『ぐあああああ!』

破裂した腹部から飛び出してきたのは、ギンガの鋭い黄色い瞳だった。

「中で、撃ったのですか?」

シャッハが驚愕する中、ギンガはなおもスプレッドキャノンで怒濤の如く攻撃を繰り出し続ける。クラウンも必死に応戦するが、ギンガの勢いは止まらない。

(認めない・・・私はこんな悲しい物語の結末を、絶対に認めない!)

ギンガの心の中に響くその言葉に呼応するかのように、彼女の左腕に装備された新兵器が再び変形し、今度は剣の形を模していく。

「今度は剣だと!?」

驚愕する吉良とシャッハの目の前で、ギンガはクラウンに向かって突進した。

「はああああああああああ」

ギンガの剣がクラウンを一刀両断すると、砂で覆われていたクラウンの皮膚が剝がれ、本体が露出した。

『砂の・・・砂の皮膚が?!』

防御が崩れたクラウンは、慌てて再び砂を集めようとする。

『す、砂ぁぁ!!』

「写し取る時間は与えません」

その時、シャッハが移動系魔法を使い、クラウンの前に飛び出した。

「烈風一陣!!」

ヴィンデルシャフトによる一撃を避けるためにクラウンが必死で動こうとした瞬間、吉良がその動きを読み、先回りして攻撃を仕掛ける。

「面を上げろ、侘助!」

『く・・・舐めるなァァ!!』

クラウンは怒声を上げながら、吉良の攻撃に応じようと能力を発動させたが、それでも防御は限界に達しつつあった。

「はああああああああああああああ!」

ここに来て、ギンガが再びスプレッドキャノンでクラウンを挟撃する。クラウンは焦燥を醸し出し、藻掻くようにして抵抗する。

『くそくそくそくそ!! コピーすりゃ同じことだァァ!!』

追い込まれたクラウンは、触れていたギンガから写し取った改造リボルバーナックルを現出させた。

「ギンガさんと同じ武器を・・・・・・!」

『うおおおおおおおおおおおおおお』

二つの力が激突し、互いに衝突を繰り返す中、ギンガは再び聖アマデウスのことを思い起こす。

(聖アマデウスは、この町を、ここに住まう人々を愛していたんだ! だから私は――あなたを許さない!)

すると、ここにきてギンガの技の威力が急上昇し、クラウンはその違いに驚愕した。

『クソ! なんで、同じ武器で戦ってるのに・・・負けるんだヨ!!』

(同じ武器? たとえ同じ武器だとしても使い手が違う。ニセモノになくて本物にあるもの・・・・・・貴様とギンガでは背負っている重みが違う!)

吉良は内心でそう確信しながら、クラウンを睨みつけた。

だが、その時、あと一息というところでリボルバーナックルが元の形状に戻ってしまった。

「う・・・・・・なんで・・・・・・?!」

ギンガも、突然の事態と体の異常な疲労感に理解が追いつかないでいた。

「リボルバーナックルが? まさか、武器の機構にギンガさんの身体が追いついていなかった!?」

シャッハが冷静に分析したが、その間隙を突いてクラウンは再び攻撃を仕掛けてきた。

『お? ふふ・・・ふはははははは!! もらったァァ!!』

しかし、その瞬間――吉良が割って入り、間一髪のところを侘助で防ぐ。

『お、オマエは・・・・・・!』

「吉良さん・・・・・・!」

左腕を押さえながら吉良を見上げるギンガ。吉良は必死に抑えながら、言葉を投げかける。

「君の覚悟というのはその程度なのか? その程度で彼女を守ると大見得を切ったつもりか? 僕は法螺吹きが好きじゃない。一度決めた事は死んでも守れ、立ち上がるんだギンガ・ナカジマ!!」

吉良の激励を受けると、ギンガの顔には感謝の色が浮かんだ。

「・・・・・・吉良さん、ありがとうございます」

ギンガは重い体をゆっくりと立ち上がらせ、静かに告げた。

「だいじょうぶです。私はまだ立って戦えます。ただちょっと、休憩していただけです」

(あと一回だけ・・・もってちょうだい!)

ギンガは最後の力を振り絞り、再びリボルバーナックルを解放する。

それに乗じて、吉良も全霊圧を解放し、衝撃波を刃に乗せて、ギンガと共に乾坤一擲(けんこんいってき)の一撃を放つ。

「「消し飛べ!!」」

二人の一撃がクラウンを襲い、その断末魔の叫びが響き渡る。

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! く、クソどもがあああああああああああああ!!』

クラウンの肉体は木っ端微塵に吹き飛び、都市の城壁を突き破って月明かりに消えていく。同時に、奪われていたアンゴルモアが静かに地面に落ちた。だが、その戦利品の代償はあまりにも大きかった。

聖アマデウスの体は既に動かず、冷たい(むくろ)と化していた。

アンゴルモアを失った彼女の肉体は、その瞬間から急速に朽ち始め、命を失ったかのように崩れ落ちていく。シャッハはその変わり果てた姿に心を痛め、吉良は何か言葉を発するも、喉元で詰まり、それ以上言うことができない。

ギンガは震える手で恐る恐るミイラ化した彼女に触れた。その瞬間、彼女の体は砂と化して崩れ去り、地面と同化した。彼女が身に纏っていた祭服だけが静かに残された。「・・・・・・」

ギンガは、込み上げる遣る瀬無さに押し潰されるように祭服を手に取ると、声を押し殺し、その場に(うずくま)った。

「吉良さん・・・・・・私って、甘いですよね」

自嘲を込めたその問いに、吉良は一拍置いてから静かに答えた。

「そうだな・・・・・・大甘だよ」

しかし、それだけで終わらなかった。吉良はさらに続ける。

「僕達の力は誰かを護る為に誰かを壊してしまう。救済者などとはほど遠い存在だ。破壊することでしか、未来を守る方法はない」

「それでも・・・・・・」

ギンガの瞳から一筋の涙が零れ、彼女は自分の心の内を正直に口にした。

「それでも私は、誰かを救える破壊者になりたいです――――・・・・・・」

 

           *

 

第1管理世界「ミッドチルダ」

機動六課隊舎 小会議室

 

その夜、エヴァリーナでの任務を終えた吉良とギンガが遭遇した破面魔導虚(アランカルロギア)・クラウンに関する報告が行われ、六課隊長陣は緊急の話し合いに臨んでいた。

魔導虚(ホロウロギア)の次は破面魔導虚(アランカルロギア)か・・・・・・。厄介な相手だな」

腕を組んで深く嘆息するシグナムの声が会議室に重く響く。

「恐らく、今回出てきたのは試作体だろう。近くより精度を高めた個体・・・・・・『成体(せいたい)』が現れるのは必至だ」

「時間の問題ちゅうわけですな」

吉良の冷静な指摘に、はやてもまた険しい表情で頷いた。

ふと、なのはは不安に感じたのか眉間に皺を寄せるユーノに尋ねる。

「ユーノ君、破面(アランカル)って死神さんの力を持つ(ホロウ)なんだよね? 正直今の私達に対処できる相手なのかな?」

問いかけに、ユーノは一瞬口籠るが、すぐに険しい表情を浮かべて答える。

破面(アランカル)は確かに(ホロウ)の仮面を剝ぐことで生まれ出でる。だけど、すべての(ホロウ)破面(アランカル)化に適応するキャパシティを有する訳じゃない。当然、能力の低い(ホロウ)では精度の高い個体は望めない。だからこそ、殺傷能力に優れた破面(アランカル)を用意するなら、その対象は自ずとメノス以上に限られる」

「ま。そうだろうな」

「一番の問題はそこですね」

恋次と吉良が納得の様子を見せる一方、聞いていた面々は困惑。クロノはやや驚いた様子で尋ねる。

「ちょ・・・ちょっと待ってくれ! 今“メノス以上”と、そう言ったか?」

「あぁ、言ったよ」

ユーノがあっさり答えると、ヴィータがさらに詰問する。

「メノスって前にミッドに出現したあの黒いノッポな奴だろ? まさか、あれより上のヤバい奴がいる訳じゃねぇよな!?」

部屋に緊張が走り、全員が不安そうな表情を浮かべる中、ユーノ、恋次、吉良は無言で顔を見合わせ、ついに恋次が厳しい現実を口にする。

「・・・期待を裏切るようで悪いが、いるんだよ」

「「「「「え!?」」」」

愕然とするなのは達に、ユーノが情報を補足する。

「・・・まぁ。正確に言えばメノスの中に更に三つの階級が存在しているんだ」

そう言うと、なのは達の為にメノスの細かな階級について説明し始めた。

「一つ目は『ギリアン』。メノスの中の最下層に位置し、人間に例えるなら雑兵に近い。数も多く全て同じ姿をしているのが特徴で、尸魂界(ソウル・ソサエティ)で一般に『大虚(メノスグランデ)』として教本などに掲載されている。ミッド都心に現れて進化を遂げたのがその『ギリアン』なんだ」

「・・・あれが・・・・・・雑兵・・・」

「うそでしょう!?」

身の毛もよだつ話に、なのはもフェイトも信じられないように声を漏らす。

「彼らは巨大ではあるが、動きは緩慢で知能も獣並。だから隊長格であれば倒すのにはそう苦労しない。問題は次からだね」

吉良が淡々と続け、ユーノが再び解説に戻る。

「二つ目の階級が『アジューカス』。メノスの中間に位置する存在。『ギリアン』よりもやや小型で数も少ないが、知能が高く、戦闘能力は『ギリアン』の数倍。数の多い『ギリアン』をまとめ上げる存在だ。そして三つ目の階級が『ヴァストローデ』。最上級のメノス。(ホロウ)としては極めて小型で、人間と同程度。数は極めて少なく、虚圏(ウェコムンド)全域に数体しかいないと言われるが――ハッキリ言おう。この『ヴァストローデ』級の戦闘能力は、隊長格よりも上さ」

ユーノの言葉に、死神を除く六課の面々は凍りつくような表情を浮かべた。沈黙が流れる中、恋次が自らの経験をもとに語り始めた。

「ま。破面(アランカル)の強さは十年前の戦いで嫌というほど味わってるからな。俺ら当事者からしても、この状況は好ましいとは言えねぇ」

吉良も同意しながら言葉を続けた。

破面(アランカル)化によって既存の魔導虚(ホロウロギア)、あるいは魔導虚(ホロウロギア)となったメノスが手に入れる力は未知数だ。スカリエッティの手元にアンゴルモアがある以上、彼は遠くない未来にヴァストローデ級の戦力を揃えるだろう」

ユーノは厳しい表情を崩さぬまま、声を落として続けた。

「もしも現時点において・・・・・・スカリエッティの下に先ほど話した『ヴァストローデ』級のメノスが十体以上揃っていて、いずれも破面(アランカル)化されていた場合――――・・・」

 

「僕たちに勝ち目はないだろう」

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:久保帯人 『BLEACH 22』 (集英社・2006)

 

 

 

教えて!ユーノ先生!

 

ユ「今日は破面(アランカル)についてだ♪」

破面(アランカル)(ホロウ)が仮面を剝ぎ死神の力を手に入れようとした一団だ」

「BLEACH本編では、藍染惣右介が(ホロウ)側に寝返った際、崩玉の力を使う事でその数を爆発的に増やし自らの手駒とした」

「今回登場した破面魔導虚(アランカルロギア)は、魔導虚(ホロウロギア)自体が仮面を剝いで進化した存在だ。こんな奴がこれから先まだまだ出てくるのかと思うと、先が思いやられるよ」

恋「へっへー! 翡翠の魔導死神も存外臆病風に吹かれてやがるな。安心しろ、破面魔導虚(アランカルロギア)の一体や二体、この阿散井恋次様がいれば即解決よ。なんたって俺は破面(アランカル)の上位種『十刃(エスパーダ)』と藍染のヤロウをぶっ飛ばした男だからな!」

 と、自信満々に戦歴をアピールする恋次。これを聞いたユーノはおもむろにBLEACH単行本21巻~48巻までを取り出し、その隅々までを読み返してから、恋次に投げかける。

ユ「恋次さん、嘘吐いちゃいけませんよ。確かに十刃(エスパーダ)と戦ったのは間違いありませんが、藍染を倒したのは他ならぬ一護さんですよね?」

恋「ぎくっ!」

 嘘がバレた瞬間、恋次は露骨に表情を歪め脂汗をたらたらと掻く。

一「聞いたぜ恋次・・・・・・誰が藍染をぶっ倒したんだって? 誰のお陰で尸魂界(ソウル・ソサエティ)空座町(からくらちょう)の平和が守れたと思ってやがるんだよ!?」

 さらに一護も登場し、戦歴を都合よく塗り替えようとする恋次を睨みつける。

恋「う、うるせーな!! ちょっとぐらい大袈裟に言ってみただけだろう!!」

一「ちょっとどころか完全に事実捻じ曲げてんじゃねーか!! あぁ、もう(あったま)きた!! 今すぐ勝負しろ恋次!!」

恋「上等だ!! おっさんのテメーと、現役の隊長の格の違いを思い知らせてやる!!」

 こうしてちょっとした嘘から始まった些細な争い。

 遠く離れた所で死闘を繰り広げる一護と恋次を見ながら、ユーノは苦笑いを浮かべる。ユ「あははは・・・・・・やれやれ、あの二人にも困ったものだよ」

 

 

 

魔導師図鑑ハイパー!

 

 破面魔導虚(アランカルロギア)との戦闘で発揮されたギンガのポテンシャルに合わせ、マリエルはガジェットプロトタイプマリーの更なる改良に成功した。

マ「はいギンガ。前回のデータを元に大幅に修正を加えておいたわ」

ギ「ありがとうございます、助かります」

マ「スバルの方も近々納品する予定なんだけど・・・・・・試しに、改良したそれをここで使ってみてくれないかしら?」

ギ「はい、いいですよ」

 快く承諾をしたギンガは、早速本局の訓練設備を利用して改良されたガジェットをリボルバーナックルへ組み込むと、クラウンとの戦闘で発揮した時のように左腕に装備された自身の武具に力を籠める。

ギ「いきます――はあああああああああ!」

 すると、リボルバーナックルがギンガと同じ魔力色を放ち機構を変える。

 そして機構が変化した次の瞬間、肥大化した左腕が勢いよく前に飛び出した。そのまま直進すると仮想敵として想定した人形の体を粉砕。

 だがそれだけに留まらず、勢い余った際に訓練設備の壁を豪快に破壊・貫通させてしまった。

 この結果にはギンガを始め、他の研究員や職員も唖然とする。

ギ「あ・・・・・・あの・・・・・・マリーさん・・・・・・私の腕が・・・・・・」

マ「ふふ。これぞ私のロマンのすべてを詰め込んだ、名付けて“ガジェットサイクロンマリー”よっ!!」

ギ「ただのロケットパンチですよね!? 今すぐ元に戻してくださいよ~~~!」

 マリエルの科学者としてのロマンなど、ギンガには一ミリも理解する事は出来なかった。




登場人物
アウローラ・マリアン(Aurora Marian)/AM-05
声:桑島法子
およそ500年前、「聖王の愛の修道会」に所属していた修道女で殉教者。また聖王教会の聖人。聖アマデウスとしても知られている。
敬虔な聖王教信者であり、身体はそれほど丈夫では無かったが、その生涯を賭けて貧しい人や病人を救い、スラム街を訪れ、病院や薬局、孤児院を各地に設立した。
かつて修道会の命を受けて、厳しい気候故に「神に見なされた土地」と言われたエヴァリーナ南部にあるアイテールを訪れ人々を先導し、地下に都市を建造した。その後一度は寿命を迎えるが、アンゴルモアを心臓に埋め込む事でこの世に復活した。しかしその力も完全ではなく、500年の月日を経て肉体は急速に朽ち始め余命幾許もない身となる。アイテールが滅びて無人となった後も500年もの間、廃墟と化したアイテールを守り続けていた。
アンゴルモアを有する為にデスベイトらに命を狙われ、駆けつけた吉良とギンガの奮闘も空しく、最期はデスベイトから進化した破面魔導虚(アランカルロギア)・クラウンによって心臓を貫かれ、アンゴルモアを奪われ事で肉体は砂となり二度目の死を迎えた。
登場破面魔導虚(アランカルロギア)
クラウン
『無印』期 第31話「ラザロたるは、多幸か、薄幸か」に登場。英字表記はCLOWN。
声:宇垣秀成
魔導虚であるデスベイトから進化した破面魔導虚(アランカルロギア)の試作体。
破面化することで、全身が道化師を彷彿とさせる姿へと変貌を遂げる。またデスベイトの頃には無かった人格感情によって自律的に行動するようになり、言葉も流暢に喋る。性格は残忍かつ凶暴であり、一切の躊躇なく敵を殺害する。
破面魔導虚(アランカルロギア)となった際に身に着けた固有能力として、触れたものと同化したり、戦った相手の容姿や能力をコピーし、自分の力と融合させる事で殺傷能力が飛躍的に上昇する。
アンゴルモア奪取の為にスカリエッティの手により古代都市アイテールへと放たれ、ギンガとの戦闘で破面化する。その後、吉良との戦いでその姿と霊圧、斬魄刀をコピーし窮地へ追い込むほどの強さを発揮した。
その後地下聖堂へ逃げ込んだ聖アマデウスからアンゴルモアを抉り取る事に成功。しかしこれに激昂したギンガの猛攻と吉良の追撃を受け、最後は二人の渾身の一撃を浴びせられ木っ端みじんに吹き飛び消滅を迎える。
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