ユーノ・スクライア外伝   作:重要大事

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第39話「アドバンスハイム」

かつて、一人の若き天才科学者がいた。

彼はその圧倒的な知力を駆使し、世界中に数々の貢献を成し遂げてきた。

しかし、やがて彼は世界に失望することとなる。

人々は彼の天才的頭脳を称賛しながらも、彼の思想には耳を貸さなかった。

“人類の文明”の発展ではなく、“人類という種の人工的な進化”――それこそが彼が追い求めた唯一の夢だったが、彼の考えに賛同する者は現れなかった。

 

「くそっ! サルども・・・何が“危ない考え”だ? 変人扱いしやがって!」

 新聞やテレビなどのメディアは彼を異端視し、批判を浴びせた。そのたびに、天才科学者クレード・ジーナスは研究室で一人憤りを露わにした。

「今まで人類がリスクを避けて前進したことがあるとでも思っているのか!? 自分達に進化の必要性がないと思っている盆暗どもに、遺伝子を残す資格は無い!!」

人類が進化を求めようとしない現代社会――彼はそのすべてに失望し、深い絶望を覚えたのだった。

「そもそも、この計画は私のためのものだ。たとえ一人だろうが実行する!」

 

こうして彼は研究に没頭し続け、やがて70歳を超えた頃、偶然手に入れた未確認物質の恩恵により、計画は急速に進展し始める。

まず彼は『若さ』を取り戻した。

そして、自らの『クローン』を生み出すことに成功したのである。

彼は自分達の研究所を《アドバンスハイム》と名付け、クローン達と共に数え切れぬ動物実験を繰り返し、新たな種を創り出していった。

そして、やがてその実験の対象は――人間にまで及ぶこととなった・・・・・・・・・

 

 

 

「って、バカヤロウ!」

ゴンッ――。アーマードゴリラの壮大な過去話に業を煮やしたドラの拳が、彼の左頬に炸裂した。

顔面が歪むほどの衝撃がアーマードゴリラを襲い、ユーノ達は魔猫の突然の凶行に言葉を失って唖然とする。

「ごちゃごちゃと話が長い!」

「・・・え?」

「・・・え?、じゃないよ! それがどうしたって言うんだ? オイラ達に関係ないだろ、雰囲気ばっかり出しやがってさ」

「いや・・・しかしですね・・・」

殴られて腫れた頬を押さえながら食い下がろうとするアーマードゴリラ。

しかし、ドラの容赦ないプレッシャーが、それを許さない。

「いいから要点を言え! 話は短く二十文字以内で簡潔にまとめる! これ社会人の必須スキルだって、お前のところの博士に教わらなかったのか!? オイラ達も暇じゃないんだ。さっさと答えないと、その頭蓋骨を叩っ斬ってやる、今すぐになぁ」

かつて経験した事のない迫力に押し黙るしかないアーマードゴリラ。この場で要求に応じなければ、確実に獣王達の二の舞となる運命が待っている。アーマードゴリラに残された選択肢はただ一つだった。

「す、すいません・・・・・・」

 彼は小さく謝罪し、簡潔に要点をまとめて伝えることを決心した。

 

           *

 

Another EARTH

北海道 某所

 

人里離れた山間部。誰も足を踏み入れないような秘境に、研究施設《アドバンスハイム》は静かに佇んでいた。

その奥深い研究室で、クレード・ジーナスは機材に囲まれながら静かに作業を進めていた。細かなデータを目で追い、計算結果を見つめる彼の表情には、一瞬の隙もない集中が漂っている。周囲には様々な新型装置が並び、何本ものモニターには生体反応や遺伝子操作の進捗が表示されていた。

「ふむ・・・・・・これで次の段階への下準備は整ったか」

そう呟きながらも、クレードは鋭い眼差しで各実験のデータを次々と確認していく。モニターに映し出される膨大な情報に、微かな笑みが浮かぶが、その眼には揺るぎない決意が宿っていた。

無言のまま動き続けるクローン達は、試料や器具を迅速かつ正確に運び、彼の指示を待っている。施設内にはただ、機械音とクローン達の動作音が響き渡るのみであった。

「さぁ、早く私のもとへ来るのだ・・・・・・サムライ・ドラ」

一人呟くその声には、挑発とも執着とも取れる響きが込められていた。

 

           *

 

北海道 小樽市 築港前マンション

 

「えー・・・つまりですね、我々のボスが、あなたの身体に興味を持ったようです」

 アーマードゴリラは簡潔に要点を説明する。

それを聞いた駱太郎はニヤリと笑い、隣にいるドラの頭に手を乗せて「良かったじゃねぇか、ドラ!」と軽口を叩いた。

「変態マッドサイエンティストから直々の御所望たぁ、おめぇもやるな」

「何がやるな、なわけ? 男に興味持たれても嬉しくないね。まして似非科学者如きなんかには願い下げだよ」

その会話に周囲は苦笑する。フェイトは「えっと・・・・・・きっと話の趣旨がズレてると思うんですけど」と、小声で呟き、ユーノが全員の疑念を代弁する。

「多分、そういうことを言いたいのではなく、クレードは、ドラさんのロボットとしての規格を遥かに超越した身体を、今後の進化の研究に利用しようと企んでいるようです」

「おぉ、そうだったのか! 全然気がつかなかったぜ!」

「いや、普通気づくだろ」

「オイラは冗談に乗ってあげただけだよ」

その後、ユーノは鋭い洞察を示しつつ続けた。

「放っておけば、また刺客を送り込んでくるでしょう。そうなれば、被害は更に広がる。野放しにするわけにもいきません」

 この言葉に、アーマードゴリラの顔は渋くなる。

「ドラさん、今度はこっちから攻め込みましょう」

「優男の意見に同感です。兄貴、全員で変態マッドサイエンティストをぶちのめすんです。完膚なきまでに・・・・・・」

双方の意見は一致していた。無益な闘争を終わらせ、被害の拡大を防ぐための最善の決断だった。

ドラは一瞬考え込み、「考える時間をくれ。十秒でいい」と呟き、尠少(せんしょう)の思考に耽る。

 十秒後。潔く顔を上げ、彼は周りの提案を受け入れた。

「よし、分かった。行こう」

(一体この十秒で何を考えたんだろう・・・)

 なのはは秘かにそんな疑問を抱いたが、ドラの思考回路を理解するのは、凶悪犯罪者や駄々をこねる子供の心理を読むよりも遥かに難しかった。

「待ってろよ、似非科学者め! 二度とオイラ達に歯向かったりできないようズタボロにしてやる!」

 ドラの号令と共に、鋼鉄の絆(アイアンハーツ)のメンバー及び機動六課選抜隊は、アドバンスハイムへと乗り込むべく出発した。

(マズいぞ。博士に報告を・・・)

 その光景を見ながら、アーマードゴリラは密かに頭頂部に隠していた小型パラボラを起動し、施設襲撃の報告をクレードに送ろうとする。しかし――

「おい、お前」

「は、はい!」

 その瞬間、鋭い声に呼び止められ、思わず声が裏返る。前を見ると、幸吉郎が眼光鋭く睨みつけ、刀の切っ先を突きつけていた。

「ちょっとでも妙な真似してみやがれ。あそこのお仲間と一緒に、俺がてめぇをミンチにしてやる」

 ドラによって粉砕された獣王やグランドドラゴン、その他の怪人達の無惨な末路を思い出させるように、幸吉郎は剥き出しの殺意をアーマードゴリラに叩きつけた。

「す、すいませんでした・・・・・・」

 当初、旧人類を見下していたアーマードゴリラだったが、いまや何一つ逆らえず、涙ぐむほどに震えていた。

 

           *

 

北海道 某所 アドバンスハイム

 

「馬鹿な! 『旧人類撲滅用精鋭戦力』が全滅しただと!?」

 耳を疑う報告がクレードに届き、彼は驚愕に目を見開いた。アーマードゴリラを除いた全戦力が壊滅したことに、彼の頭は一瞬真っ白になった。

「アーマードゴリラからの通信によると、奴らはこちらに攻め込んでくるようです」

「奴らがここに来れば、積み上げてきた研究成果を全て破壊されかねません・・・」

「これは一大事かと」

 狙いを定めていたドラだけでなく、異世界からやって来たユーノ達も加えた最高戦力が襲撃してくれば、アドバンスハイムの壊滅は避けられないだろう。クレードの夢は潰えてしまう。

「・・・切り札を使うしか」

 断腸の思いが胸に渦巻く。だが、この状況に至った今、クレードは最後の手段に出る決意を固めた。

「阿修羅カブトを解き放つ準備をしておけ・・・」

「「「「「「「「「「な、なにっ!?」」」」」」」」」」

 クレードが「阿修羅カブト」という単語を口にした瞬間、百体ものクローンたちが一斉に戦慄した。彼らの顔には動揺が色濃く表れ、平静を装おうとするも、明らかな狼狽が隠しきれない。

 

「そいつだけは・・・」

「それは無理だ!」

                   「いや、たしかに、それしか方法がない・・・」

「やめたほうが良いのでは!?」

「しかし・・・それでも危険すぎないか?」

「嫌な予感しかしない・・・」

「それしかないのか?!」

 

「落ち着け! あくまで最終手段だ」

 クレードは混乱するクローン達を一喝して静かにさせた。彼自身も、アドバンスハイムを守るためとはいえ、この「最終手段」を使うことは可能な限り避けたいのだ。だからこそ、敵を迎え撃つための準備を万全にする必要があった。

クレードは即座に対迎撃プログラムを作動させ、セキュリティレベルを最高まで引き上げる。

「まずは地上1から8階まで無数の罠を仕掛ける。そして、対迎撃用戦力としてベゼルブを配置。運が良ければ、それで終わる」

額から脂汗が滲み出る。クレードの脳内で繰り返された内なる決断は、満場一致でドラ達を正面から迎え討つことに決まったのだ。

「失敗した時に、私がどうなるかは理解している・・・」

 

           *

 

 アンゴルモアの力を用いて人類の進化を促し、「新人類の、新人類による、新人類のための世界」を創造しようとするクレード・ジーナス。その野望を阻止するため、九人の戦士達が立ち上がった。

ユーノ・スクライア、高町なのは、フェイト・T・ハラオウン、八神はやて、サムライ・ドラ、山中幸吉郎、三遊亭駱太郎、龍樹常法、八百万写ノ神、朱雀王子茜――彼らは、特殊粒子「DR」の発信源を追い、道内を北へと進む。

「それにしても、うちの部隊にも竜使いの子はおりますが、まさか茜ちゃんにもこんな力があるとは思わんかったですよ」

 魔法で空を移動するユーノ達と異なり、ドラ達は茜が召喚した竜の背に乗って目的地を目指している。まさかこんな場所で召喚術を操る者に出会うとは、はやては勿論、他の仲間も予想していなかった。

「別に茜は竜の使い手ってわけじゃない。畜生祭典はその気になれば、妖怪や怪物だって出せちまうんだぜ」

「よ、妖怪を!?」

驚くフェイトに、ドラは事実だけを淡々と告げる。

「オイラ達、つい最近まで茜ちゃんの家系からのお家騒動に首を突っ込んでね。今にして思えば、今回の怪人共なんて、全くもって大した脅威じゃないよ」

「あのときの写ノ神君は、本当に素敵で格好良かったです♪ 思い起こすたびに、私の股下が疼くんですよね・・・」

「これ茜、妙齢の女子が公然と卑猥な言葉を使うでない」

「おい見えたぞ。あれだ」

 そんなやり取りをしているうちに、目的地らしき建物が遠くに見えてきた。地上8階相当の高さを持つ研究施設――アドバンスハイム。その手前で着地し、メンバー全員が建物を仰ぎ見る。

「ゴリラの言っていたポイントですね」

「DR探知機もここで反応しています。間違いなく、ここがクレード・ジーナスの拠点・・・アドバンスハイムです」

「1、2、3、4、5、6、7・・・8階建てくらいはあるな」

「しかしのう、誠にクレードという男が此処に潜伏しておるのかも、正直眉唾ものじゃぞ。(そもそも)そやつの顔をこの目で拝んだことがないのじゃからな」

「信じるしかねぇさ、爺さん。だが些か不安もあるな・・・何しろ男五人と女四人人じゃ、な・・・」

「あ・・・ん、ん!!」

駱太郎が呟くと、ユーノが咳払いをして彼に目を向けさせた。鋼鉄の絆(アイアンハーツ)の面々は一瞬ユーノを見つめた後、また施設に目を戻し白々しく無視を決め込む。

「・・・・・・さぁーて、どうしたもんかな」

「他にまともに戦える奴、いねぇもんか」

 しかしユーノは、駱太郎が自分を「女」としてカウントしていたことを決して聞き逃さなかった。仕込杖を握りしめ、怒りが沸き上がる。

「駱太郎さん、まさか僕を女としてカウントしているんじゃないでしょうね・・・僕は男ですからね、紛ごうことなく・・・!!」

「すみません、ユーノさん。後できつく叱っておきますので」

深い溜め息をつきながら、ドラは仲間の失言を代わりに謝罪した。

 

 アドバンスハイムへの侵入を開始した一行。仄暗く湿気の漂う施設内は驚くほど静まり返り、つい数時間前に戦っていた怪人達の気配すら感じられない。

「人の気配が全くしないね」

「静かすぎる・・・」

「おい、それを口にすると碌な事にならないぞ」

「生きて出られるんでしょうか?」

「なーに。出てきてから後悔すればいいさ」

 すると、その時――場の空気が一変。言い知れぬ気配と殺気を感じ取り、全員が襲撃に備えて身構える。険しい表情で身を固める中、ドラだけはマイペースに欠伸(あくび)をしていた。

 ふと周囲を見渡した幸吉郎は、はやての様子が気になった。平静を装っているものの、手にするシュベルトクロイツが微かに震え、今にも杖を落としそうだ。

「手、震えてないか、タヌキ娘?」

 これから戦いだというのに、何を臆しているのだ、と呆れ顔で彼女を見る幸吉郎。

はやては咄嗟に強がり、「ちゃんと人一倍の訓練は受けてますから。心配ないよぉ」と返した、その瞬間――

「わあああああ!」

 突然の悲鳴が響く。暗がりから何者かに襲われたのだ。

「「「「「「「「「「なっ!?」」」」」」」」」」

目の前に現れたのは、黒い昆虫のような改造生物。クレードが対迎撃用戦力として配備したベゼルブである。

「この!! 離して!!」

「「はやて(ちゃん)!!」」

 なのはとフェイトが叫ぶと同時に、ベゼルブの足元から突如水が湧き上がり、意思を持つかのようにベゼルブの口内に流れ込んでいった。

「な、なんや!?」

 理解が追いつかない状況に困惑するはやてを余所に、ベゼルブは溺れるように藻掻き、やがて静かに息絶える。

「大丈夫か?」

 声をかけたのは写ノ神だった。手には淡い光を放つトランプ大の赤いカードを握りしめている。そのカードには「WATER」、「水」と英語と漢字で表記されていた。

「今の、写ノ神くんがやったんか?」

「なんなの、そのカード?」

 フェイトが問うと、写ノ神は淡々とカードを見せつつ言う。

「『魂札(ソウルカード)』つってな、こいつには八百万の神の力が宿っている。俺はそれを操って戦うカードマスターなんだよ」

すると、はやてが少し思案顔で口を開く。

「こう言っちゃなんやけど、不人気ですぐに打ち切りになりそうな漫画みたいやね」

その瞬間、空気が一変した。写ノ神の妻である茜がゆっくりとはやての方に振り向き、ニコリと笑みを浮かべるが、その目は氷のように冷たい光を放っている。

「はやてさん、写ノ神君がせっかく助けたあと申し訳ありませんが・・・・・・怪物に斃されるか、私に斃されるか、今すぐ選んで貰えますか?」

はやてはその威圧に圧倒され、思わず一歩後ずさりするが、ニコニコとした茜の笑顔が逆に怖さを増幅させる。

「す、すみません・・・・・・だからぶたないで・・・・・・!!」

だが、茜の手はすでに伸びていた。あっという間にはやては捕まり、茜の背後から繰り出される「愛の制裁」がはやてを直撃する。

「ま、待って・・・・・・ああっ! ぐはっ!」

「ちゃんと写ノ神君への敬意を込めて話すように、ですよ♪」

「いたっ! ごめ、いやっ、ほんまに・・・・・・いたぁぁ!」

笑面夜叉とは彼女のことを言うのだろう。ニコニコしながらも的確に痛みを与えてくる茜に、はやてはひたすら謝るしかない。

ユーノ達は、ドラとはまた別の意味で恐ろしい茜の暴力性を目の当たりにし、圧倒的な威圧感に手を出せず呆然としていた。

だが、その場に漂う張り詰めた空気が途切れる間もなく、全員が次なる敵の気配を感じ取る。ベゼルブと同種の改造生物達が集まり、一斉に押し寄せてきたのだ。

「ひぃ!! またさっきの気持ち悪い虫です!!」

ベゼルブを視認した瞬間、さっきまで笑顔で平然と人を殴っていた茜が、途端に虫に怯えるか弱い少女の表情へと変わった。

「ったく、弱い奴ほど数に物を言わせてきやがるな」

「アンゴルモアから生じた特殊粒子『DR』のせいで、ここまで凶悪な姿になってしまったんですね」

「無駄な力は使いたくないけど、こうなった以上やるしか・・・」

 

三法印(さんぼういん)諸行無常印(しょぎょうむじょういん)!!」

 

突如、龍樹が言霊を唱えると、奇声を発しながら九條錫杖(くじょうしゃくじょう)を地面に叩きつけた。

すると、龍樹の背後から現れた亜空間から釈迦の腕が伸び、ベゼルブの群れを次々に貫く。圧倒的な力で屠り去り、龍樹は僧侶らしく「南無三(なむさん)」と唱え、敵の来世での安らかな転生を願う。

「た・・・た・・・龍樹さん、すごい!」

「ちゅうか、なんですの今のは!?」

茜に殴られて腫れ上がった顔を押さえながら、はやては苦笑いを浮かべつつ尋ねた。

「龍樹さんはね、元々功徳(くどく)を得て各地を行脚(あんぎゃ)していた伝法阿闍梨。厳しい修行を行い解脱(げだつ)の末に見出した力・・・それが『三法印』ってわけだ」

「見たか、おいぼれとてやるときはやるんじゃ。どうじゃ、少しは拙僧に惚れたかのう? どぅははははははは!!!」

 勘違いを起こしている老人の世迷言はともかく、ここに来てからというもの、ユーノ達はただただ驚愕する。茜や写ノ神、龍樹ら、鋼鉄の絆(アイアンハーツ)のメンバーが次々に見せる異能の力に圧倒されるのだった。

「ここの部隊の人達は、みんな不思議な力を持っているんですね!」

「えーと、幸吉郎さんは、一応普通の力だと思うけど」

 そう語っていると、再び別のベゼルブの群れが押し寄せてくる。

茜は懐に入れていた苦無と畜生扇を手に構え、ドラ達に先へ進むよう促した。

「ここは私達が食い止めます。ドラさん達は先に上の階へ急いでください。写ノ神君!  龍樹さん!」

「おう」

「うむ、久し振りに暴れるかのう」

すると、はやては顔をさすりながら、「ほんなら、私も手伝うよ!」と、意を決して協力を申し出た。

しかし、一瞬茜の方へ恐る恐る目を向け、懇願するように続ける。

「お願いやから、茜ちゃん・・・・・・私に間違って攻撃せんでね?」

その言葉に、写ノ神と龍樹も頷き、はやての加勢に賛同する。はやてはまだ顔の痛みが引かないのか、少しビクビクしながら、なのは、フェイト、ユーノの三人に促すように声をかけた。

「なのはちゃん、フェイトちゃん、ユーノくんは、ドラさん達と一緒にクレードを押さえてくれるか!!」

「わかったよ!」

「気を付けてね」

「三人とも、チビタヌ隊長を任せたぜ!」

 厚意に感謝しながら、ユーノ達は建物の奥へと突き進む。残ったはやてに写ノ神が声をかけた。

「・・・なぁあんた、ほんとにここに残って良かったのか?」

「心配してくれてありがとう。せやけど、これでも管理局員の端くれで機動六課の部隊長さかい。現地の協力者さんばかりに負担を強いるわけにはいかん」

「どぅはははは。これはおもしろくなってきたわい!」

 圧倒的な数を誇る虫の軍団に対するは、異能の力を宿した四人の人間。

ベゼルブの威嚇の鳴き声が響く。即席のチームを組んだ四人は地を蹴り、敵陣に向かって突撃した。

「いくで!」

「おっぱじめるか!!」

若人(わこうど)よ、老爺(ろうや)に後れをとるでないぞ!」

「大嫌いな虫は早々にすべて片付けさせてもらいます!!」

 

           *

 

同アドバンスハイム内 二階

 

はやて達がベゼルブの足止めをしている間、建物の奥へと進んでいたユーノ達一行は、二階部分で最初の罠と遭遇する。

真っ直ぐな廊下を進んでいると、不意に左右に分岐した道が現れた。分岐点には、右を指し示す男性と左を指し示す女性の彫刻が、背中合わせに立っている。

「さーてと、どっちに行こうかなぁ?」

駱太郎は思案に耽り、やがて決断した。

「やっぱ女の子の言う通りに行かなきゃな!」

「そう言う決め方でいいんですか?」と、フェイトが疑問を口にするが、

「いいんだいいんだ。この世の中女がいないと子供もつくれねぇからな!」

根拠のない自信を胸に抱き、駱太郎は気にせず女性が指し示す方向へと進む。ユーノ達も仕方なく彼の後に随伴する。

ところがしばらく進んだ後、気が付くといつの間にか分岐点に戻ってしまっていた。

「どうやら駱太郎、女には縁が無いみたいだな」と、幸吉郎が冷やかす。

「うっ、うるせー! うるせーよ! 女なんか大嫌いなんだぁ!! ふん・・・仕方ねぇ。男の方に進んでみるか」

 諦めて進路を変えて男の彫像が指す道へ進むも、またしても分岐点へと戻ってしまう。

「男運も無いんだね、R君」

ドラが真顔で呟くと、駱太郎は一瞬沈黙したのち、思考を切り替える。

「仕方ねぇ。来た道戻るか」

ここまで来ると、運が無いどころか、まるで迷路のように道が自ら彼らを翻弄しているようだ。

その後も何度か試みても結果は同じで、先へ進むどころか一行は必ず分岐点へと戻ってしまう。完全な袋小路に陥った事に、駱太郎は次第に苛立ちを隠せなくなってきた。

「んにゃろう! 人を物理的におちょくりやがんのも大概にしやがれってんだ!!」

「まぁ落ち着けよ駱太郎。いつものことだろ」

「いつもじゃねぇし!!」

「ユーノ君、何かいい手はないかな?」

幸吉郎が宥めつつ、なのはがユーノに知恵を借りようとする。

「長年遺跡発掘の経験から、この手のトラップには幾度か遭遇したことがある。トラップの前に記された古代文字にはこんな風に書かれていた・・・・・・“相異なる者同士の融合。それを無くして神秘の道は開かない”って・・・・・・」

「相異なる者同士の融合?」

「それってつまり・・・・・・」

 聞いた直後、駱太郎はピンと来たように手を叩き、

「なーるへそ、要するに男と女の“合体”ってわけだ!」

「「合体言うな!!」」

 もう少し言い方を工夫出来ないものかと思ったが、駱太郎がそこまで気の利いた言葉を選べないことは最初から分かっていた。

 身内の破廉恥な発言に必要以上に羞恥心を抱くドラと幸吉郎は、紅潮しつつも早速男性の彫像を動かすことにした。なのはとフェイトも女性の彫像を操作し、互いに向かい合わせる。

「やっぱよ、男と女はよぉ、そっぽを向いてちゃいけないよな・・・!」

そして、互いの指先が触れ合うまでの距離までゆっくりと近づけていく。

彫像の指先が触れ合う瞬間――分岐点の柱が沈み、隠された三階への道が現れた。

「なるほど。確かに“神秘なる道”だな」

「幸吉郎、それってつまり男性器を女の・・・」

 と、口走りかけた瞬間、首筋にバルディッシュの魔法刃が押し当てられた。

「駱太郎さん、それ以上喋ったらどうなるかわかりますか?」

 茜同様に、フェイトは笑顔を浮かべながらも、明らかに殺気を帯びている。

「どうもすんませんでした・・・・・・」

駱太郎は震えながら謝罪するほかなかった。

           *

 

同アドバンスハイム内 地下空間

 

「ぐあぁぁぁぁぁぁ・・・」

 地下の奥深くから、クレードのクローンと思われる断末魔が響き渡る。そこには、他の怪人とは一線を画す規格外の化け物が潜んでいた。

ダダダダダダ・・・・・・。

前方に聳える巨大で凶悪な敵を前に、機関銃を乱射するクローン体。しかし、銃弾は悉く跳ね返り、ポップコーンのように弾け飛ぶ。

「や、や、やめろぉおおおおお!」

 バコンッ――。

 クローンの叫びも空しく、地下室の主は拳を振るい、一瞬でクローンを木端微塵に砕き散らす。血飛沫が床に飛び散り、無数のクローン達が次々と屠られてきた証となっていた。しかし、地下室の主の怒りは微塵も収まらない。

硬い外殻に覆われた巨体は幾重にも鎖で封じられ、何年も陽の目を見ることなく放置されていた。そんな現状に鬱屈していた折、本物のクレード・ジーナスが緊張の色を浮かべながら近づいてきた。

「やぁ、阿修羅カブト・・・元気にしてたかい? また私のクローンをたくさん殺してくれたな・・・気は済んだか?」

冷や汗を浮かべるクレードの表情からは余裕が感じられない。彼の呼びかけに応じ、阿修羅カブトが苛立った声を上げる。

「バァァァカ! お前気が済むわけねぇだろ! 人を地下深くに閉じ込めやがってよぉ。アドバンスハイム最強戦力の俺をよぉ!」

「お前は精神が不安定だ・・・我々でもコントロールできないから仕方が無かったんだ」

「コントロールだぁ!? でひゃはははは! バァァァカ! 俺はお前らの求めた新人類の完成型なんだぜぇ。知能も肉体レベルも、お前ら旧世代とは比にならねェ! だから、お前らが俺の言うことを聞くのが正しいんだよぉ!」

(違う。お前は失敗作だ。確かに、圧倒的な性能を持つが、阿修羅カブト・・・お前は何よりも品性が足りない)

 傲慢な発言は今に始まったことではない。忠誠心の欠如、そして何よりも新人類に求められる品格が欠けている――それこそが阿修羅カブトの致命的な欠陥だった。目の前の創造主に対しても、彼は自分の尻を掻きながら会話を続ける有様である。

「俺を殺しても構わん。代わりはいくらでもいる」

「あぁ~?」

「だが、一つだけ聞いてほしい。なんとしても入手したいサンプルがある」

 クレードは不本意ながらも阿修羅カブトの力を借りざるを得ない現状に唇を噛み締め、モニター画面に映し出されたドラ達を示す。

「だが、恐ろしく強いのだ。お前にしか倒せん・・・奴を捕まえてほしい」

「ぐへへへへへ」

「生死は問わない」

 

           *

 

アドバンスハイムの内部には無数のトラップが仕掛けられており、ユーノ達はその理不尽とも言える仕掛けの数々に苦しめられ続けていた。

「なんだってこんなものがあるんだよ!!」

「良いから走りやがれ!!」

 背後から巨大な鉄球が迫る中、駆け抜ける一行。さらに・・・。

「大丈夫ですか、駱太郎さん!?」

「いやなのは、大丈夫だと思うんなら心配はいらないと思うよ」

「ま、マジで死ぬかと思ったぜ///」

 突如として飛んでくる串刺しの罠に駱太郎は青ざめる。

「落ちたら一巻の終わりだ!」

「ほら、落ち着いてフェイト」

「いやぁー! ヘビは嫌だぁぁぁー!」

 さらに毒ヘビがひしめく谷を細い丸太橋で渡る恐怖の道が行く手を阻む。

「くっは~・・・草臥れた」

迷宮洞窟かと錯覚する幾多の試練を乗り越え、ユーノ達は体力も精神力もすり減っていく。

「こりゃ確かに、命がいくらあっても足りゃしねーな」

「一体あとどれくらい?」

「もうかなり近づいてると思うけど」

 本分は考古学者で遺跡発掘の専門家でもあるユーノも、過去これだけのトラップが仕掛けられた施設に入ったことは一度も無かった。このことから、クレードが相当に用心深くて臆病な男であるのが何となく分かってきた。

「ふぅ~・・・」

心身限界に近づく中、ドラが一休みしようと腰を下ろした瞬間――

「「「「「「うわあああああ!」」」」」」

カチャッという音と共に、足元が崩壊し、全員が暗闇の底へと落下していった。

「こんなところでゲームオーバーなんていやだぁぁぁ!!」

 悲痛な叫び声を上げる駱太郎。暗がりの中、ユーノは目を凝らして摑まれそうな場所を見つけ、博打覚悟で術を発動させる。

「縛道の三十七、『吊星(つりぼし)』!!」

 掌を下部へ翳した瞬間、霊圧の床を出現し五方向にユーノの霊圧が広がり、落下の衝撃を和らげるクッションが現れる。

「ふぅ~・・・。死ぬかと思った」

「ユーノ君、ありがとう」

 皆は辛うじて命拾いしたが、どうやら最下層まで落下したらしく、八階は遥か上空にあった。

「クソー、せっかく最上階まであと少しだと思ったのによ・・・・・・どっかの魔猫のせいでよ」

「わざとじゃないよ! 恨むなら罠をつくった変態科学者に言ってよね」

「でもここは一体・・・」

〈Master!(マスター!)〉

するとその時、レイジングハートが、強いエネルギー反応を感知した。

〈Biological response sensed behind this・・・2 people approaches here.(この奥に生体反応を感知・・・2体ほどこちらに近づいてきます)〉

 ドドドドドドドド・・・・・・。

「ん?」

急速に前方から聞こえてくる重い足音。狭い通路である事など歯牙にもかけず、その先に現れたのは阿修羅カブト。血塗れのクレードを無造作に手に握りしめていた。

「おぉーいたいた! 六匹いるけどどっちだ?!」

「ぐは・・・右だ・・・右の一番端のヤツだ」

「じゃあ、残りの連中は要らねぇんだな!」

 ドカン――。凄まじい音と共に巻き起こる土煙によって、視界が一時的に奪われる。

「なんだ?」

 恐る恐る目を開けてみれば、ドラの瞳に映ったのは信じ難い光景だった。

 駱太郎の顔面が壁に深くめり込んだまま体はピクリとも動かず、真横には満身創痍のクレードが倒れていた。

「・・・え? R君・・・どったの?」

「いやあああああああああああ!」

「駱太郎さんがぁぁぁ!」

「普通にやられたぁぁぁ!!」

 度肝を抜く事態に愕然とする一行。そんな彼らの前に立ちはだかった阿修羅カブトは高笑いをしながら言い放った。

「俺は阿修羅カブトってんだ! 戦闘実験用ルームがあるからよぉ、そこでヤろうぜ~」

「このカブト野郎ぉぉぉ」

 阿修羅カブトによって身内を一撃で倒された事に、幸吉郎の頭の血は完全に上った。駱太郎の仇を取らんと、刀を振りかざして突進したが――

「ふん」

 軽く叩かれた幸吉郎もまた壁にめり込み、続くユーノ達はその圧倒的な力に言葉を失った。

「幸吉郎さん!!」

「こいつ、今までとは比べ物にならないくらい強い!」

「ドラさん! 狙いはあなたです!」

「・・・幸吉郎やR君を現代アートみたいにしやがって」

ユーノの話を聞いたドラは、自分をふてぶてしい笑みで見下ろしてくる阿修羅カブトを睨みつけ、眉間に皺を寄せる。

「上等だ! 魔猫に喧嘩売ったからには必ず死んでもらうぞ」

 

           *

 

同施設内 地下空間・戦闘実験用ルーム

 

阿修羅カブトの挑発に応じたドラは、彼の案内で広大な戦闘用実験ルームへと足を踏み入れた。その殺風景な真っ白い空間は、施設内で最も広く、まるで戦闘を楽しむために作られたかのように見えた。

「広いだろ~? この施設で一番デケェ場所だ。戦力として使えるかどうか、ここで戦わせて実験してんだぁ」

 空間の中央で阿修羅カブトと対峙するドラ。実力はどちらも計り知れない。

「んじゃ殺し合いま・・・」

緊迫した雰囲気の中で、阿修羅カブトが戦いを宣言しかけた瞬間――

――ドカン!!! 高火力の炎が阿修羅カブトを襲った。

「あぁ?」

 全く無傷で振り向いた阿修羅カブトの視線の先には、顔を血に染めた駱太郎の姿があった。

「まーだ生きてやがったのか」

「く・・・・・・うおおおおおおおおおおおおお!」

 駱太郎は叫びながら阿修羅カブトに突進し、両拳に灼熱の炎を宿らせながら四方八方から技を繰り出す。

「炎砕・旋回弾!!」

大火炎に包まれる阿修羅カブトの肉体。駱太郎は脚を強く蹴って天高く舞い上がると、炎に包まれた敵目掛けて拳を降り下ろそうとする。

「ブワァ~~~~~~~カ!」

しかし、それを嘲笑う狂気の怪物が目を見開き挑発する。

乱万砕(らんばんさい)!!」

 一撃一撃が凄まじい破壊力を秘めた拳を、目にも止まらぬ速さで打ちまくる。しかし、それでも阿修羅カブトの外殻にはひび一つ入らない。

「・・・・・・・・・ッ!」

 次の瞬間、目の前に迫った阿修羅カブトの炎を帯びた巨大な拳が駱太郎を捉え、彼は地面に叩きつけられた。後退する彼をドラが受け止め、大事には至らなかったものの、駱太郎は再び突撃しようとした。

「まだ・・・だ・・・俺はまだやれる・・・」

「そういうのは、自分の身の程を弁えてからいう台詞だよ。直情的になるのは良くない」

 阿修羅カブトに一方的に甚振られる駱太郎の様子を見て、なのはとフェイトは二人がかりで倒そうと長距離砲撃を準備する。

「アイツは一人じゃ倒せない。なのは!」

「うん!」

〈〈Load Cartrigde〉〉

 レイジングハートとバルディッシュに装填された魔力カートリッジを三発にセットし、二人は一点放火で阿修羅カブトへと砲撃を放つ。

「いくよフェイトちゃん!」

「最大出力でアイツに叩き込む!」

 二人の元に集まる高質力の魔力エネルギー。桜色と金色に輝くそれを阿修羅カブトは不敵な笑みで見つめており、まるで警戒心を抱いていない。

「トライデント・・・」

「エクセリオン・・・」

 次の瞬間、タイミングを見計らった二人の同時砲撃が放たれた。

「「スマッシャ(バスタ)ァァァ――!!」」

 桜色と金色のエネルギー砲撃が一直線に阿修羅カブトに向かって飛んで行く。どちらも最高位に近い上級魔法であり、二人の魔導師としての抜きん出て高い実力を証明する技として十分すぎるものだった。

 しかし、目の前の戦敵・阿修羅カブトを仕留めには些か火力不足であった。

「ブッゥゥゥ――!!!」

阿修羅カブトはその攻撃に全く怯むことなく、大きく息を吸い込むと豪快に吹き飛ばし、二人の砲撃を逆流させた。

「息で!?」

「そんな――」

 なのはとフェイトはその光景に絶句し、対処が遅れた。だがその時、ユーノがすかさず鬼道を発動した。

「縛道の八十一、『断空』」

 ユーノが展開した防御壁が、押し戻された砲撃の威力を完全に防いだ。

「二人とも、大丈夫かい?」

「う、うん・・・」

「ありがとうユーノ・・・」

「へへへへ。バァ~~~~~~」

 ユーノの助けで窮地を脱したものの、目の前の阿修羅カブトは笑みを浮かべて見下す。

「ずいぶんと危ないモンスターだな。とてもじゃないけど、あのバケモノを倒せるのはバケモノ級の実力を有する者だけ――つまりは、オイラとユーノさんだ」

ドラがそう告げると、ユーノが冷静に頷く。

「なのは達は下がっていて。こいつは僕達で片付ける」

 

 規格外の力で挑む者をねじ伏せてきた阿修羅カブト。その存在を誤って生み出してしまった天才科学者、クレード・ジーナスは、負傷した腕を押さえつつ壁に寄りかかり、よろよろと歩を進めながら戦闘実験ルームを目指していた。

(ずっと・・・人間の能力の低さに疑問を抱いていた・・・自分以外の人間が頭の悪い動物にしか見えなかった。私にはそれが苦痛だった)

 肉体の痛みなど些細なもの。クレードにとって真の苦痛は、人類の限界が彼を取り巻いていたことにあった。

(そうだ、確か15歳の時だ。あの時、私は人類を進化させ、自分の馴染める世界にする計画を思いついた。自らの手で築き上げる私の為の理想郷。人類を超越した我々新人類のみで構成される新たな世界!)

 不意に膝が折れ、クレードは床に崩れ落ちる。立ち上がることさえ辛いが、彼の意志は折れなかった。叶えたい夢が、彼を奮い立たせる。

(見届けねば・・・あの頃の苦痛と比べれば、この程度の肉体の痛みなど・・・)

 自らの理想郷を実現する夢がある限り、決して精神は挫けない。傷だらけの身体に鞭打ち、引きずるようにして歩き続け、ついに戦闘用実験ルームへと到着した。

「おらァ! とっとと掛かってきな。全力でな」

そこではすでに阿修羅カブトが、ドラとユーノに対峙していた。

(アドバンスハイムが作り出した史上最凶の悪魔、阿修羅カブト・・・・・・人口進化最終形態の怪物を相手に、旧人類が作りだした一介のロボットと優男が果たしてどう戦うか? お前達が人類の新たな進化のトリガーと成り得るのか・・・・・・見せてもらうぞ)

 ドラとユーノは力強く、その一歩を踏み出した。果たして、進化の意味を示すのはこの戦いなのか――。

「わかる・・・わかる! おめぇら、強えなぁ?」

「ガッカリさせんなよ。お前ここの最終兵器なんだろ。昼間の連中とは明らかに違う。自信に満ちた表情してってからな」

「だからと言って、僕達が負けるつもりは毛頭ないから、そのつもりでいろ」

「へへぇ・・・」

 二人に不敵な笑みを浮かべ、次の瞬間には阿修羅カブトの姿が二人の視界から消えた。奇声を発しながら壁を伝う高速移動を展開する。

(はや)い!)

(あの図体でどうして!?)

 戦況を見守っていたなのは、フェイト、駱太郎もそのスピードに目を奪われる。

刹那、阿修羅カブトはユーノの背後へと回り込み、拳を振りかざす。だが――。

 カキン! ユーノは振り向きもせず、愛刀で一撃を受け止めていた。

「な・・・・・・」

(阿修羅カブトの一撃を目視せず、刀一本で受け止めただと!?)

 予想の斜め上をいく結果に、阿修羅カブトとクレードの心に驚愕が走る。

「このぉぉぉ・・・」

 腹が立った阿修羅カブトは今一度距離を取ってから、今度は完全に無防備状態なドラに対し攻撃を加えようと背後から殴りかかろうとした。

だが攻撃の直前、阿修羅カブトの本能が途方もない戦慄を抱く。ぞわっ、という感覚に襲われ、気が付くと攻撃を中断し大きくドラとの距離を取っていた

「何してんだ、おい?」

 ドラの呼びかけに、阿修羅カブトは全身に冷や汗をかき、今まで感じたことのない恐怖を覚え動揺していた。

「逃げた! あの阿修羅カブトが!?」

 クレードも想定外の結果に愕然としていた。先ほどのユーノに加え、ドラからもただならぬ気迫を感じ取った阿修羅カブトの内心には、言い知れぬ畏れが響いていた。

(今手を出せば()られていた! なんなんだ・・・あの優男とドラえもんは! 片や俺の一撃を刀で受け止め、片や隙だらけなのに・・・俺の直感が大音量で危険信号を発している!)

 沸き上がる生物としての悔しさ。圧倒的な力を持つはずの自分が、二人の目の前で動けなくなっている。阿修羅カブトは自身を凌駕する強者を前に、自らの唇を噛み締めると共に咆哮を発する。

「貴様らァァァ! それほどまでの力ぁ! 一体、どうやって手に入れたんだよォォォオ!」

甲高い声で問われ、ユーノとドラは思わず顔を見合わせる。

暫し沈黙すると、やがてユーノは溜息を吐きながら口を開いた。

「そんなに知りたいのか・・・いいだろう」

 ちょうどその時、ベゼルブ掃討を終えた龍樹たちが幸吉郎を伴い、戦闘ルームに到着した。

「間に合いました!」

「なんやこの状況は!?」

すると、ユーノは「外野が揃ったね」と口にするや、仲間にも聞こえるようにゆっくりと告げた。

「この際だ。みんなもよく聞いておくといいよ。翡翠の魔導死神ユーノ・スクライアの強さの秘訣を・・・」

 一瞬、場に緊張が走った。

(今・・・なんつった!?)

(ユーノさんの強さの秘密?)

(魔導師であり死神でもあるユーノ君・・・常軌を逸したあの強さの秘訣を・・・この場で教えるつもりなの?)

 

「俺にも聞かせてくれ・・・」

 直後、若干一名聞き慣れない声がした。振り返ると、当たり前のようにクレードが目の前に立っていた。

「え? 誰お前?」

おもむろに、ドラがクレードを見て訝しげに問いかけた。

「クレード・ジーナスだ」

(なんでこのタイミングで出て来るんだろう)

 と、一瞬思いながらも、ユーノは寛容な心で受け止めると共に、包み隠さず全てを明かすことにした。

「まぁいいだろう。全員心して聞くんだ」

(危険だ。こいつらにユーノのそんな重大な秘密を教えていいの?!)

 一抹の不安を抱えるフェイトだが、当人は一切と言っていいほど警戒を抱いていない。それが逆に不思議と怖かった。

「まず大切なのは、このハードなトレーニングメニューを如何に続けられるかどうかだ」

(トレーニング? 改造手術でも、遺伝子操作でもなく、トレーニング?)

(いったいどんな・・・?)

 翡翠の魔導死神が積んできたトレーニングメニュー。誰もが想像し難い内容、ユーノ本人の口から語られる瞬間を固唾を飲んで見守った。

「いいかみんな、何事も根気よく続けることだ。たとえそれが、どんなに辛くてもね。僕は四年でここまで強くなった」

 スーッと息を吸う。そして、ユーノは自らが実践したトレーニングの全貌を暴露する。

「腕立て伏せ1000回! 上体起こし1000回! スクワット1000回! そしてランニング40Km! これを毎日やる!!」

「「「「「「「「「な・・・・・・」」」」」」」」」

「勿論、一日三食きちんと食べるんだ。朝はバナナでもいい。極めつけは、精神を鍛えるために夏も冬もエアコンを使わないことだ」

脳裏に蘇る当時の辛い記憶。スパルタ教師陣によって組まれた地獄の特訓メニューは、当時のユーノにとっては、あまりに無謀とも言える内容だった。

「最初は死ぬほど辛い。一日くらい休もうかとつい考えてしまう。だが、僕は強い男になるためにどんなに苦しくても、血反吐をぶち撒けても毎日続けた。脚が重く動かなくなってもスクワットをやり、腕がプチプチと変な音を立てたが、腕立てを断行した。そして四年の歳月を経て、僕は強くなっていた。何が言いたいか分かるか?」

 周りは無反応だった。対するユーノは口端を釣り上げる。

「つまり、狂ったくらいに一つの目標に向かって努力し、そのために死に物狂いで己を鍛え込むんだ。それが凡人が強くなるための唯一の方法だよ」

 冗談か、本気か、どちらかと問われれば、ユーノは後者を選ぶ。極め付け、動揺する阿修羅カブトとクレードに語気強く言い放った。

「新人類だの、進化だのと遊んでいる貴様らとでは、決してここまで辿り着けん。自分で変われるのが人間の強さだ!」

(なん・・・だと・・・?)

(こいつ・・・本気か?)

(ユーノ君・・・やっぱりユーノ君はすごいよ。さすがは私の先生・・・)

 誰よりも努力家で真面目な師であり幼馴染、そして恋人である男の背中を見つめてきたなのはは、そんなユーノを心から称賛し、惚れ直そうとした・・・その時だった。

 

「ふざけんじゃねぇぞ!!」

「「「「「「「「「えっ」」」」」」」」」

 この言い分に強く反論したのは幸吉郎だった。

「格好つけて何を言うと思えば、それは一般的な筋力鍛錬だろうが! しかも大してハードでもない、通常レベルだぁ! そんな冗談を聞くために貴重な時間を無駄にしやがって! 俺の数分間を返しやがれ!!」

「なんかメチャクチャ全否定されてるんですけど――!!!」

「ユーノさんがかわいそうです」

「というか、筋力鍛錬でも常人ではとてもこなせるメニューではなかったと思うがのう」

 幸吉郎の反応はユーノの予想外だった。自分でも少し大げさに言ったつもりではいたが、ここまで非難されるとは思っていなかったのだ。

「えっと・・・ドラさん、僕・・・何かまずい事言っちゃいましたか?」

「いや、ストイックな幸吉郎の肌にはちょっとあわなかっただけですよ。でもまぁ、ユーノさんの強さは、明らかに身体を鍛えた程度のものじゃないのは確かです。魔導死神の力って、本来そういうものでしょう?」

 ドラの言う通り、ユーノの強さは単純な肉体の鍛錬だけで説明できるものではなかった。

しかしその「真実」を語るには、ユーノも躊躇いがあった。彼の強さの根底にあるのは、かつての壮絶な経験に基づくものであり、恋人や友人の前でそれを易々と語ることは気が引けるのだった。

「そーかい」

 すると、阿修羅カブトが話を聞き終えた途端、その様子が一変した。

「な・・・おい、阿修羅カブト!」

クレードは、今までとは明らかに異なる雰囲気を放つ阿修羅カブトに不安を覚えた。そんな中、阿修羅カブトは固い外殻に自ら亀裂を入れ、体をさらに肥大化させ始める。

「秘密を教える気がねぇなら、俺は構わねぇぜ」

「よせ・・・また暴走するつもりか!?」

「どうせ俺よか強くはねぇんだ! ただし、ムカついたからテメェは(なぶ)り殺す!!」

 ブーッ! ブーッ! ブーッ!

けたたましく鳴り響くアラート音。阿修羅カブトの異変に反応したシステムが、実験用ルームの全ての出入口を自動的に封鎖した。

「見て、みんなっ!」

なのはが阿修羅カブトの胸部に注目し、周りに呼びかける。その体色が茶色から紫を基調としたものへ変わり、胸部から赤み帯びた光と途方もないエネルギーの波動が漏れ出していた。それは彼らがよく知る物質の反応に酷似していた。

「阿修羅カブトの胸が赤く光ってる!」

「そうか、あそこにアンゴルモアが埋め込まれているんだ!」

「うおおおおおおおおおおお」

 実験ルームに轟く、圧倒的強者の雄叫び。アンゴルモアという無限エネルギーサーキットを得た阿修羅カブトは、全てを滅ぼす破壊の神へと最終進化を遂げていく。

 

「――阿修羅モード――!」

 

(こ、これは・・・・・・)

 ドラが受けた衝撃は半端なかった。一回りも二回りも肥大化した体は紫を基調とし、ところどころに緑色のラインが刻まれており、角や肩部分は鋭く尖っていた。しかし、ドラが何よりも驚いているのはその見た目だった。

(これ・・・・・・明らかに、エ○○初号機じゃん!!)

 以前、昇流と一緒に見た某SFアニメに登場した架空の兵器。阿修羅カブトはまさにその兵器と瓜二つの外見をしていたのだ。

「はっはー、こうなるともう丸一週間は理性が飛んで闘争本能が静まることはない! お前を殺した後は町へ降りて、来週の土曜まで大量殺戮が止らねぇぜ!」

怒りが頂点に達した阿修羅カブトは、凶悪な瞳で眼前の敵――ユーノ・スクライアを指差し、「強い男だったら俺を止めてみろ!!」と宣戦布告した。

「ひょぉおおおおおおおおおおおお!」

 奇声にも似た咆哮と共に、瞬く間にユーノの懐へと飛び込んだ阿修羅カブトは、目にも止まらぬ拳打を炸裂させる。ユーノは正面から技を受け、実験ルームの壁に深く体がめり込んだ。

「がああああ・・・」

「ユーノ君!」

「「「ユーノ(くん)(さん)!!」」」

 想像を絶する破壊力。並外れた防御力を持つユーノがまともに傷を負うほど、阿修羅カブトの攻撃は急激に上昇していた。

(ふふふ・・・もう終わりだ! 奴を止める者は、この世に存在しない!)

さすがのユーノも、あの化け物相手に勝てる見込みは万に一つもない――それが戦況を見て感じたクレードの所感だった。

事実、ユーノは圧倒的な力を秘めた阿修羅カブトの攻撃を辛うじて捌いてはいるものの、終始防戦一方。翡翠の魔導死神として鍛え上げた肉体は次第に悲鳴を上げ、出血も目立ち始める。

「な、何て攻撃や!? ユーノくんが完全に押されとる!」

「何とかして助けないと!!」

「でも下手に飛び込めば奴の餌食に・・・どうすれば・・・!?」

 険しい顔を浮かべ、フェイトが絶望と悲嘆に満ちた声色で呟く。ドラ達も途方に暮れ、助太刀できない状況に手詰まり感を抱いていた、まさにその時だった。

 

「君達、何してるの?」

低く響く声が八人の耳に飛び込んできた。

その声の主は、黒い軍服を身に纏い、ドラ達の横を素早く駆け抜けていく男――螻蛄壌(けらじょう)だった。彼は阿修羅カブトの元に辿り着くと、無表情から僅かに口元を釣り上げた。

「君・・・強そうだね。折角だから僕と戦おうよ。そして完膚なきまでに蟲の息にしてあげる」

壌はそう言うと、虫の力を封じ込めた(はこ)を取り出し、両腕にカマキリの鎌を装備した。

「“蟲融術(インセクトフィージョン)”」

 鋭い鎌を掲げた壌は、命の危険も顧みず、素早い動きで阿修羅カブトの身体に傷を刻み込んでいく。

「ぐああああああああ!」

阿修羅カブトは悲鳴を上げた。一方、ユーノは突如現れた正体不明の男に目を見張っていた。

蟷螂真空斬(とうろうしんくうざん)

壌の鋭い一撃が、阿修羅カブトの装甲を瞬く間に剥がしていく。なのは達は息を呑み、阿修羅カブトに臆することなく立ち向かう壌の肝っ玉と、その神業的な戦闘能力に圧倒されていた。

「なに・・・あの人!?」

「一体どうなってるの?」

「壌のヤツ・・・戦いのニオイを嗅ぎつけてきやがったか」

「壌? それって、たしか・・・」

「あいつが鋼鉄の絆(アイアンハーツ)の最後のメンバー、螻蛄壌だ! 奴自身もここの怪人共と同じ戦闘兵器だよ。いけ好かない野郎だが・・・この状況は地獄で仏だぜ」

「幸吉郎の言う通りだ。こういう時の戦闘狂は実に役に立つ」

勝算は整った。ドラは壌の参戦で戦況が変わり始めたのを見逃さず、負傷したユーノやなのは達に声をかけた。

鋼鉄の絆(アイアンハーツ)ならびに魔導師諸君、最後くらいはしっかり決めてやろう!!」

「「「「「「「了解!!」」」」」」」

全員の士気を高めたドラは、満身創痍のユーノに向かって声をかける。

「ユーノさん、怪我してるところすみませんけど・・・・・・しばらくその力、お借りします」

「え? それはどういう意味で・・・」

「話は終わってからします! 今は黙って貸してください。ドラ佐ェ門(ざぇもん)、“魂魄(こんぱく)兵装(へいそう)”!!」

語気強く唱えた直後、ドラの愛刀の鍔に施された装飾が光り、ユーノの肉体が粒子に変換され、その力が吸収され始めた。

「えっ!? ちょ、これは・・・!!」

理由もわからぬまま吸収されていくユーノ。それを目の当たりにして、なのは達も目を見開き絶句する。

(すっご・・・これがユーノさんの力・・・体中から感じてくる・・・これならイケる!)

ユーノの力を一時的に取り込むことに成功したドラは、その強大な力に驚きつつも、すぐに次の行動に移った。

「幸吉郎、お前も全力で奴に向って行け!! 剛金狼撃、解放承認!!」

「その言葉待ってましたよ兄貴!! よっしゃー、久し振りに行くぜ!!」

ドラの承認を得た幸吉郎は、腰からケースを取り出し、『狼雲』専用の強化パーツを取り出し、愛刀に装備する。

「武装強化!! 狼猛進撃・改!! 剛金狼撃(ごうきんろうげき)!!」

さらに、ドラは幸吉郎の装備に見とれるなのは達にも声をかけた。

「なのは! フェイト! はやて! お前らも全力全開で行け! 今、ここに力を一つに結集させろ! 鋼鉄の絆(アイアンハーツ)と時空管理局、その力を一つになっ!!」

「「「はい!!」」」

 すると、阿修羅カブトと対峙しながら、壌が不満げにドラに話しかける。

「サムライ・ドラ・・・こいつは僕の獲物だよ、余計なことしないでくれる?」

 それに対し、ドラは鼻で笑い、あっさりと反論する。

「嫌なこったぁ。前に言ったろうが。お前はオイラの言う事を聞かなくていいから、自分の好きなようにしなよ。その代わりに、オイラもお前のいうことは聞かない。こっちも自分の好きなようにやらせてもらう・・・って。それがオイラとお前の契約だ」

「・・・・・・・・・ふん。なら好きにしなよ」

渋々ながら壌も納得し、契約を守って今回だけの共闘を認める。

「ウオオオオオオオオオオオオオオ」

唸り声を上げる阿修羅カブトと正面から向かい合い、チーム一丸となって最後の攻撃に転じる。

「いくぜ・・・剛金狼撃・肆式(よんしき)・“狼咆撃(ろうほうげき)”!!」

「万砕拳、(ふう)圧砕(あつさい)大嵐(たいらん)!!!」

「三法印・諸行無常印・参之型(さんのかた)釈迦(しゃかの)(かいな)』!」

 狼雲に装備されたブースターによって、超高速で移動することが可能となった幸吉郎から繰り出される、牙狼撃の強化版。

周りの空気を圧縮させそれを一気に爆発的に解放し、巨大な竜巻を起こす、駱太郎の正拳突き。

そして、釈迦の腕を異空間から出現させて腹部を貫通させる、龍樹の三法印の能力。三つの力が阿修羅カブトを直撃し、大きなダメージを与えた。

「『小槌(ハンマー)』、『(アイアン)』、魂札融合(カードフュージョン)!!」

 三人の後に続き、写ノ神は二枚のカードで術式を構築。天に掲げた瞬間、異なる二つの力が合さりあって巨大な金槌へと変貌を遂げる。

「“鉄槌重撃(アイアンヘビーショット)”!!」

頭上高く飛び上がり、金槌をおもむろに振り上げた写ノ神は、阿修羅カブト目掛けて豪快に振り下ろす。ゴーンという鈍い音を立てると、阿修羅カブトの頭部を直撃し、角が凹むほどの衝撃が走った。

「畜生祭典・巨の陣!」

 さらに、それに追い打ちをかけん茜が畜生祭典で呼び出したのは、中国の伝説上の神獣の一体にして、南方を守護する四神・朱雀。自らと同じ名を冠する神獣の力を借り、茜は阿修羅カブトに大きな一撃を加える。

朱雀蓮舞(すざくれんぶ)――食らいなさい!」

唱えた言霊に従い、召喚された朱雀は全身を灼熱の業火に包み込み、そのまま阿修羅カブト目掛けて体当たりする。加えて、壌も黒い炎を生み出し、自ら炎と化して攻撃を加える。

「黒火ノ迦具士神(くろひのかぐつち)

 全てを焼き尽くす聖なる炎と、それと対を成す黒い炎が交互に阿修羅カブトに衝突し、容赦なく装甲を削り取っていく。

「ほんなら、私達も!」

「「うん!」」

 上空へと飛翔し阿修羅カブトへと照準を定め――なのは、フェイト、はやての三人は、全ての魔力を一点に集中させて超弩級の一撃を放った。

「全力全開っ!!! スターゲート・ランチャー!!!」

「サンダー、スラッシュ!!!」

「デアボリック・バーン!!!」

 三人の最上位魔法が悶え苦しむ阿修羅カブトへと注がれる。理性無き怪物はただただ絶叫し、いよいよ窮地に追い込まれる。

「兄貴!! 止めをお願いします!!」

「ユーノ君、お願いっ!!」

「というわけです。いきますよ、ユーノさん!!」

『はい、ドラさん!!』

 ドラは刀の中で意識を保つユーノに呼びかける。ユーノもそれに潔く応えた。

自身の持つドラ佐ェ門の力と、ユーノの持つ翡翠の魔導死神の力を一つに融合し、ドラは会心の斬撃を阿修羅カブトへと放つ。

「『輝け、“晩翠ドラ佐ェ門”!!』」

 次の瞬間、ドラの刀から放たれる翡翠と青白い光を帯びた斬撃。相異なる者同士の融合が生み出す奇跡の力は、特大かつ大威力を秘めた攻撃であった。

 阿修羅カブトの肉体は光に包まれ、大爆発を起こして粉々に散った。その壮絶な最期を目の当たりにし、クレードの口は驚愕で開いたまま塞がらない。

(バ・・・バカな・・・・・・阿修羅カブトが・・・・・・やぶれた、だと・・・・・・)

 やがて、阿修羅カブトの体内に埋め込まれていた赤みを帯びた結晶体――アンゴルモアが分離し、静かにドラの足元へと転がり落ちた。

「クレード・ジーナス、異世界における違法研究と大規模騒乱罪未遂により逮捕します」

 執務官であるフェイトは毅然とした表情で、力なく膝を突くクレードに手錠を嵌める。その冷静さに微かに揺れる葛藤が見えた。

「もうやめよう・・・こんな研究は・・・変わるべきは私なんだ・・・」

 クレードは、自らの研究が間違いであったことを素直に認めた。その言葉を聞いたフェイトは、少し複雑な思いを抱きつつも、内心ではその方が彼のためになると思った。

 

           *

 

激動の末、ついにアンゴルモアの回収任務を完遂したユーノ達。幾多の困難と戦い、鋼鉄の絆(アイアンハーツ)の仲間と力を合わせたことで、彼らは過酷な戦地から無事に生還を果たした。互いの信頼をさらに深めた一行は、異界での経験を胸に、安堵と達成感に包まれつつミッドチルダへと帰還した。

 

           ≡

 

新暦079年 7月18日

第1管理世界「ミッドチルダ」

ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画

機動六課 ミッドチルダ隊舎 アドバイザー室

 

「ふぅー」

夕方、ユーノが背もたれに深くもたれ掛かりながら息を吐くと、対面に立っていたクロノが口元を綻ばせて微笑んだ。

「なんだ、溜息なんて吐いて。魔導死神化した君でも、疲れることはあるんだな」

「おかげさまでね・・・・・・。それにしても、まさか、現地で三日間滞在したつもりが、こっちではたったの五時間しか経っていないとは驚きだよ」

ユーノは、異なる次元での時間の流れを改めて実感しながら肩を竦めた。Another EARTHでは三日が過ぎていたが、ミッドチルダの時間の流れは僅か数時間。その差があまりにも大きく、奇妙な感覚が残る。

「こっちで君が不在になった時間が短く済んだのは助かるけどな」と、クロノが軽く肩を竦めた。

「ところで、なのは達はどうした?」

クロノが何の気なく尋ねると、ユーノは遠い目をしながら、全てを見透かしたような表情で口元を僅かに緩めた。

 

           *

 

同隊舎内 医務室

 

「「「う~~~~~~~~~!!!!!! 痛くて動けない(へん)(よ)~~~~~!!!!!!!!」」」

医務室のベッドで全身筋肉痛に苦しむなのは、フェイト、はやての三人を、フォワードメンバー達は呆れと驚愕の顔でじっと見つめていた。

「なにが、どうなってるわけ?」

「ユーノからはいろいろあったとは聞いちゃいるが、まさか、あいつらがあぁなるとは思ってもいなかったぜ・・・」

言うまでもなく、この惨状の原因は、鬼教官ドラによる過酷なレンジャー訓練にある。三人の体は、今になってそのツケを払わされているのだ。

「あんなの、もはや訓練じゃなくてただのイジメだよ! 鬼の所業だった!」

なのはがベッドで呻きながら叫んだ。

「本当だよ・・・・・・ドラさん、私達に何の恨みがあるっていうの!?」

フェイトも顔をしかめて抗議する。

「もう堪忍ならへん! 落ち着いたら、ぜーったいにあの魔猫と、ついでに茜ちゃんを直訴するんやからな! 覚悟しておくんやで!!」

はやても拳を握りしめ、大いに不満を募らせていた。

三人の視線が一致する先、そこにはいないはずの魔猫――サムライ・ドラへの怨みにも似た決意が込められていた。

 

 

 

 

 

 

教えて、ユーノ先生!

 

ユ「今日はサムライ・ドラさんのプロフィールについてね♪」

「5521年の3月9日生まれ。身体の色は黄色で服装は名の通りの侍装束だが、黒い着物と黒袴で上に白い羽織を着ている」

「腰には『ドラ佐ェ門』という刀を携えており、履物は足袋と草鞋。人侍剣力流(じんじけんりょくりゅう)という我流剣術を自ら生み出し、これまで数多くの難事件を解決に導いてきた、優秀な捜査官でもあるんだ」

「好物は白米と目玉焼き。嗜好品はカカオ豆100パーセント、糖類0パーセントのブラックチョコレート。毎朝五時に起床し、ジャージに着替え地元をロードワークし、その後、公園に寄りごみ拾いをし、高齢者と混じりラジオ体操をするのが日課らしい」

「飲酒は基本的に鹿児島県産の芋焼酎をストレートで飲むことが多く、酒は相当に強い。あと、何かしら色んな資格を持っているらしい」

「幸吉郎さんら過去から来たメンバーには現代教育のために、毎日特別講義を行っているとのことだよ♪」

ド「なお、今後もオイラの活躍が見たいという人は、別途掲載中の『サムライ・ドラ』をご覧ください!」

 

 

 

魔導師図鑑ゴールデン!

 

 動けない三人に代わって、ユーノがはやての買って来た土産をメンバー全員に手渡す。

ユ「ささ♪ Another EARTHで買って来たお土産だよ♪ ちゃんと全員分あるからね!!」

 そう言うと、スバル・ティアナ・エリオ・キャロ・ギンガ・ヴィータ・シグナム・リイン・アギト・クロノの順に品物を渡していく。

ユ「『かまえい』の蒲鉾だろ。小樽市役所のペナント。杯さんの作ったボトルシップ。ドラさん特性の非売品人形『毛玉くん』。熊の彫刻。盾。地元の牛から作ったアイスクリーム。ジンギスカン。それと・・・」

 そう言いながら、ユーノはクロノに一枚の紙を手渡す。

 怪訝するクロノがおもむろに目を通すと、そこに書かれていた内容に絶句する。

ク「なっ・・・おい、ユーノ!! これって土産どころか、単なる請求書じゃないか、しかもこんな高額な!!」

ユ「いやー、結構値が張っちゃってさ♪ はやてからの伝言、今回のお土産代はみんな経費でつけといてだって」

ク「絶対駄目だぁ!!!!」




登場人物
首領
クレード・ジーナス(Clade Genius)
声:加藤将之
ミッドチルダから来た遺伝子学者。「アドバンスハイム」の首領。実年齢は70歳を超えるが、実験の過程で偶然手に入れたアンゴルモアの力によって若返っており、自身のクローンを何十人も従えている。類稀な天才性から幼少の頃から自分以外の人間を見下し、15歳の頃に「人類という種全体の人工的進化」という夢を持ち続けているが、それを社会に危険視され続けたことから人類に失望する。研究の実現の為に「Another EARTH=ドラ達が暮らす世界」へと辿り着き、人里離れた山奥に「アドバンスハイム」を創設し、計画を実行する。
品性以外は全てにおいて最高傑作であった阿修羅カブトをドラ達によって倒されたことで自身が追い求めてきた研究の敗北を悟り「自分が変わるべきなんだ」と研究を断念、「アドバンスハイム」は壊滅した。
名前の由来は、分子系統学の用語で系統群を意味する言葉「clade」から。
怪人
全てクレードによって生み出された改造生物。
カニランテ
声:徳本恭敏
AM体の亜種で、蟹を食べすぎて突然変異した怪人。蟹のようなハサミや甲殻を持った身体にブリーフ一枚の姿が特徴。「プクプクプク」などと笑う。ユーノ達がAnother EARTHで最初に遭遇した怪人でもある。ユーノに目を引きちぎられ倒された。
モスキート娘(-むすめ)
声:沢城みゆき
蚊の能力を持つ女性型の怪人。
無数の蚊の群れを自在に操り(指示が届く範囲は半径約50km)、標的の血を吸い尽くしてミイラ化する。
そのままでは蚊を操るだけの貧弱な怪人(クレード曰く「試作品」)に過ぎないが、蚊に集めさせた血を大量に吸収してパワーアップすればSランク魔導師相手でも後れを取らない。
ニセコを襲いユーノ達と交戦。当初は押されていたが血を吸ってパワーアップし、彼女の実力を侮っていたユーノ追い込むが、救援に駆け付けた幸吉郎と駱太郎の加勢で形勢逆転し、最期はドラに全身を切り刻まれ倒された。
カマキュリー
声:長谷川芳明
脳髄がむき出しになった頭部を持つカマキリの怪人。
クレードの命によりドラ捕獲を狙う怪人軍団「旧人類撲滅用精鋭戦力」の先鋒としてハリーの自宅を襲撃するが、団子を台無しされたことに激怒する駱太郎に名乗る前に倒された。
ナメクジャラス
声:浜添伸也
テレパシーが使えるナメクジの怪人。一人称は「オデ」。
カエル男と共にドラによって頭から地面に埋められ、出ようとしたところを獣王に切り刻まれた。
カエル男
声:後藤ヒロキ
ナメクジャラスとコンビを組んでいたカエルの怪人。
ナメクジャラスと共にドラによって頭から地面に埋められ、出ようとしたところを獣王に切り刻まれた。
アーマードゴリラ
声:山本祥太
サイボーグ手術を施されたゴリラの怪人。普段は無機質な片言で話すが、実は普通に話せる(本人曰く「格好つけてました」)。自称組織のナンバー3。
旧人類撲滅用精鋭戦力の中でユーノ達と交戦して完敗。当初は自分より格上の獣王の存在を強みにユーノ達の尋問に応じなかったが、肝心の獣王がドラによって肉片にされたと知るや否や素に戻ってあっさりと降伏し、ドラに他の怪人が全員一撃で倒されたことをクレードに報告した。
獣王(じゅうおう)
声:斉藤次郎
「アドバンスハイム」ナンバー2の実力を持つ怪人。アーマードゴリラ曰く「(当時の)ユーノ達では敵わない」ほどの実力。ライオンの顔に、筋骨隆々とした人間の肉体を持つ。
爪から衝撃波を飛ばして相手を切り裂く「獅子斬」と、凄まじい速さで獅子斬を連発する「獅子斬流勢群」が必殺技だが、ドラには全てかわされ、覇気を纏った「弩羅惨百裂拳」で腰から上を粉砕された。
グランドドラゴン
声:浜添伸也
獣王をサポートするモグラの怪人。自在に地中を掘り進む能力を持つ。
獣王を瞬殺したドラに恐れをなし、潜って逃げようとしたが地中に先回りされ、空高く吹っ飛ばされた。
名前はモグラの漢字表記「土竜」を英訳したもの。
ベゼルブ
「アドバンスハイム」の対侵入者迎撃用に作られた昆虫型の怪人。複数体おり、尻尾から相手を操る事が出来る毒を注入する。
作中では茜に毒を注入しようとしてそれを庇った写ノ神を支配下に置き、周りと戦わせたが、龍樹によって写ノ神の洗脳は解かれ、逃亡を図ろうとしたが最終的にはやてによって止めを刺される。
阿修羅カブト(あしゅら-)/AM-09
声:石塚運昇
カブトムシの怪人。クレードが造り出した人工進化の最終形態にして「アドバンスハイム」最強の戦士。内部にはエネルギー核としてのアンゴルモアが埋め込まれている。
なのはとフェイトの同時砲撃を一息で押し返したり、ドラの高すぎる戦闘能力をすぐさま察知するなど圧倒的な能力を持つ。
精神が不安定かつ傲慢で品性に欠けるため、クレード本人ですらコントロールできず、仕方なく「アドバンスハイム」の地下に閉じ込められていたが、ドラを捕らえる最終手段として解放された。
理性を失う代わりに闘争本能と戦闘力を極限まで増強させる「阿修羅モード」を発動させユーノ達を追い詰めるも、途中参加した壌を加えたドラ達の連係攻撃によって徐々に追いつめられ、最後は翡翠の魔導死神であるユーノの力を取りこんだドラの一刀により斬り倒された。
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