ユーノ・スクライア外伝   作:重要大事

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第4話「スクライア商店式見極めテスト」

新暦079年 3月31日

ジェイル・スカリエッティ 地下アジト

 

 薄暗い空間。突き抜けた一本道を抜けた先にあるラボラトリー。

 マッドサイエンティスト・スカリエッティは、生体ポッドに入った新たな戦闘機人の完成を心待ちにしていた。

「ふむ・・・もうじきか」

 これまで彼に付き従う戦闘機人は一人の例外も無く女性だった。だが、今回は戦闘機人としては始めとなる男性型の製造を試みている。

 理由として、女性よりも御しやすいという点。戦力として使い勝手がいいと言った点など様々ある。でも結局のところ本当の所はスカリエッティ自身も良く分かっていない。自分が欲するがままに造った結果が目の前の事象であり、特別な意味は然程ないのかもしれない。

 ピピピ・・・。ちょうど、ウーノからの回線連絡が入った。

『地球へ放っていたマカラガンガーの反応がロスト。交戦の末に消滅した模様です』

「思ったよりもやるじゃないか。さすがは次代の管理局を担う陸海空のエース達というわけだ」

『それが・・・倒したのは彼女達ではない様です』

「ほう? それはまた興味深いね。では誰がやったというのかねウーノ」

『マカラガンガー消滅の間際に捕えられた映像が残っています』

送られてきた映像を確かめる。消滅の間際、個体名『マカラガンガー』と名付けた魔導虚(ホロウロギア)が死に際瞳に捕えたのは死神・白鳥礼二の姿だった。

「ほう・・・・・・これが魔導と相反する者の姿か」

 それが「死神」と呼ばれる存在であるという知識はあり、魔導師と対極に立つ者であるという認識は持っていた。だが実際に目にするのはこれが初めてだ。スカリエッティの中での死神に対する興味はこれを機により一層大きくなった。

『今回の件はクライアントに報告致しましょうか?』

「いや。もうしばらく様子を見させてもらうとするよ。私も興味があるのだよ・・・・・・・・・彼ら死神の持つ能力(チカラ)がどれほどのものなのか」

 

           *

 

第97管理外世界「地球」

東京都 松前町 スクライア商店

 

 ユーノの導きで店の地下深くへ案内された恋次と吉良は、一際巨大な空間を目の当たりにする。

「どっひゃ――――――!! なんだこりゃ―――っ!!? この店の地下にこんなバカでかい空洞があったなんて――――――!!」

 二人の気持ちを代弁しているつもりなのだろうか。ユーノは少々大仰(おおぎょう)なリアクションを取ってみせた。

 

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「ウルセーなおい。わざわざ代わりに叫ばなくても充分ビックリしてるよ!」

(どう見ても浦原さんところの地下勉強部屋にしか見えないよな・・・・・・・・・・・・)

 悪乗りをするユーノをやや冷めた表情で見つめる恋次。

 隣に立つ吉良は浦原商店の地下でも今目の当たりしている空間と酷似した物を見ている経緯もあり、驚いた様子と言うよりただただコメントし辛そうだった。

「フフフ・・・こんなに巨大な空間がどうやって作られたと思います? 何をかくそうこの『地下訓練場』! 浦原さんの技術をベースに僕の結界魔法と空間魔法を一部応用・アレンジし完成させた特注スペースなんですよ!」

「誰もんなこと聞いてねえよ。それとも何か、よくがんばったと褒めてほしいのか?」

 敢えて恋次の投げかけには返答せず。ユーノは頭上高く指を差すと、恋次達の視線を自然上へと向けさせる。

「皆さま上をご覧下さい! 閉塞感を緩和させるために天井には空のペイントを施しました!」

「刑務所と同じ考え方ですね・・・」率直な所感を述べる吉良。

「さらに!!」

 次にユーノは、周囲に不自然に植えられた新緑の生い茂っていない木々を見せ付ける。

「心に潤いを与えるために木々も植えときました!」

「一本残らず枯れてるじゃねえかよ・・・」恋次の無味乾燥としたコメントを聞き流し、扇子を広げユーノは飄々と呟く。

「イヤー、これだけのものを道路や他人様の家の地下に内緒で作るのはそりゃあ骨が折れる作業でしたよ! 我ながらよくがんばった!」

「おいユーノ・・・こんな事言うのも何だがそれ犯罪じゃねえのか?」

 一抹の不安を抱えた恋次のストレートな言葉が胸に突き刺さる。金太郎や吉良も同じことを懸念しているらしく、終始憂慮した眼差しで見つめる。

「ま・この際そんな細かいことは気にしねえよ」

 言うと、いつでも戦えるように恋次は軽めに体を解し始める。

「時間が()えんだ。とっとと始めようぜ・・・おめえの言う『テスト』とやらをよ!」

「さすがは護廷十三隊の隊長さん。やる気満々じゃないですか。それじゃお望み通りに・・・お―――い! 浦太郎、用意して―――!」

 声をかけると、恋次の元へ一人の男が歩み寄って来る。

 身の丈を超える長鎗の形状を保つ武器を携え、青を基調とした防護服に身を包んだ魔導師・亀井浦太郎は人当たりの良い笑みを浮かべていた。

「どうぞよろしく♪ 僕は亀井浦太郎。あなたも、僕に釣られてみる?」

 「あ?」と、一瞬頭の中で声を発した。恋次は怪訝そうな視線をユーノへと送り、「なんだこいつは・・・」と率直に問う。

「亀井浦太郎、うちの従業員です。というわけで最初のテストは彼と戦って下さい。ルールはカンタン。どちらかが動けなくなる、または致命傷となる攻撃を受けた時点でテスト終了。浦太郎に釣られる前にのしちゃって下さいね♪」

「コイツと戦うのか!? 石田みたいにひょろそうじゃねえか」

「おやぁ。隊長格ともあろう方が敵の力を見誤りますか? こう見えても浦太郎は強いですよ。比類なきスケベと詐欺師的性格が玉に(きず)ですが」

「なんだか気乗りしねえな・・・」

 テストと言うからには自分に見合った強い相手と戦う事を想定していた。

 だが、そんな期待とは裏腹に対戦相手として出て来たのは一見すると戦闘には無縁そうなインテリキャラで、ハッキリ言って肩透かしを食らった気分。若干沈んだ気持ちではあるがテストである以上受ける必要があった。

 早くもモチベーションが低下しがちな恋次と対峙した直後、浦太郎がニヒルに笑みを浮かべ呼びかける。

「あんまり僕を舐めない方がいいですよ。じゃないとあなた・・・・・・死んでから後悔しますから」

 刹那、ドンッ―――と、浦太郎が踏んだ地面が大きく割れる。

「え?」

 気が付くと、恋次の視界数センチというところまで接近した浦太郎のデバイス《フィッシャーマン》の鋭利な先端が向けられていた。

 ズドンッ!!! 途轍も無い破壊力を秘めた一振りが地面を容易に抉り、舞い上がった土煙によって恋次の姿をすっぽりと覆い隠す。

「ほらね。だから言わんこっちゃない。」扇子で口元を隠し、ユーノは案の定こうなったかと内心恋次を非難する。

 

「ふぁ~~~」

 その頃鬼太郎はと言うと・・・一人留守番を任され、退屈そうに欠伸を掻いていた。

「たく。暇ったらないぜ・・・くそ、亀の野郎・・・じゃんけんで勝ったぐらいで調子に乗りやがって! 俺だって戦いたかったっつーの!」

 腹の虫がおさまらずムシャクシャしていた折、ガラガラ・・・と扉が開く。

「いらっしゃ・・・・・・あ?」

 てっきり客だと思った鬼太郎だが、中に入って来たのはユーノの師である一護とその妻である織姫だった。

「おう。邪魔するぜ」

「こんにちはー!」

「おめぇは・・・・・・オレンジ頭に織姫さんっ!」

「オレ様もいるぜっ!」

「私もな」

 彼らだけではなかった。織姫の背中に隠れていた喋るぬいぐるみであるコン、そして何故か白鳥までもが同伴していた。

「げっ! ライオンのぬいぐるみと・・・なんで鳥までウチに来てんだよ!?」

「たまたま近くを通りかかったものでな。そしたら黒崎夫妻とバッタリ出くわしたというわけだ。して、今日は主だけなのであるかピーチ?」

「誰が()()()だよ!!! マリオじゃねーぞ!!!」

「ユーノは地下か? 恋次達も一緒なんだろ」

「ん、この霊圧は・・・・・・・・・まさか!」

 白鳥も店の地下に一際巨大な霊圧がある事を敏感に感じ取った。

「へっ。そのまさかだよ! 十三隊の隊長格が任務とやらで現世(こっち)に来てるんだよ」

「なんだと? 一体誰が!?」

「行ってみれば判んだろうがっ! ここ降りてきゃすぐだよ!」

 不貞腐れた態度で、鬼太郎は店先にある開かれた畳の下を指差した。

 白鳥は一度逡巡すると、考えた末にいても経ってもいられず、地下深くに掘られた訓練場へと迷う事無く降りていく。一護もその後に続いて降りていく。

 二人が降りていった後、一瞬考え込んでから、鬼太郎もやはり下の様子が気になり、織姫とコンに店番を任せて地下へと向かう事にした。

「だあぁぁぁ!!! 待てよおめぇら!!! やっぱ俺も行くぅぅ!!!」

「お店番は任せてといてー♪」

「ったく。しょうがねえ連中だぜ」

 

「あ、阿散井くん!!!」

 恋次の身を案じた吉良が名前を叫ぶ一方、多少力を入れ過ぎてしまったかと内心憂慮する浦太郎。

 多量に舞う土煙の先を見つめながら、ユーノ達は中から一向に出てこない恋次のこと段々と気がかりとなる。

「・・・阿散井くん・・・出てこないですよ・・・」

「・・・死にましたか?」

「・・・どうだろう?」

 するとしばらくして、土煙の中からゴロゴロゴロと後転しながら恋次がユーノ達の前に姿を現した。

「あっ! 出てきた!」

「死んでいませんでしたか」

「おいてめぇ! 勝手に人を殺すんじゃねーよ!」

 性質の悪い冗談を口走った金太郎の言葉を恋次は聞き漏らさなかった。露骨に怒りをぶつけると、体制を立て直し浦太郎の方へと向かい合う。

「これで分かったでしょう? 無知であることがどれだけ怖いかってことが」

「あー分かったよ! (いや)って程な! 今のはちょっと油断しただけだ! 勝負はこっからだ!」

 語気強く宣言した直後、恋次は大地を強く蹴るなり浦太郎へと接近。手持ちの斬魄刀を思い切り振りかぶる。

「ふおおおおおおおおおおおお」

 カキン・・・。カキン・・・。カキン・・・。

 やや攻撃に傾倒し過ぎている感はあるものの実力は本物であった。斬撃をフィッシャーマンで的確に捌きながら浦太郎は冷静に分析を行う。

〈Sonic Spear〉

 刹那、一秒間に数十と繰り出される高速の連続突きが繰り出される。

 恋次は目前から襲い掛かる変幻自在の槍撃を斬魄刀で捌くとともに、反撃の機会を窺うが、その隙を与えようとしない浦太郎の攻撃に手を焼いていた。

(コイツ・・・ひょろそうな割になんつー攻撃出してきやがる! 俺に攻撃の機会を与えないつもりか!?)

「どうですか? 僕を見くびると痛い目を見ますよ?」

「そうだな。おめえの言う通り俺は魔法使いとやらの力を見誤ってたらしい」

 最後の一撃を躱し、距離を大きく取って浦太郎から離れる。

「こっからは遠慮はしねえ! 全力でぶちのめしてやる!」

「できるものなら是非とも」

 逆撫でを狙った挑発的な口調。恋次はその挑発に乗って浦太郎の懐目掛けて飛び込んだ。

 カキン・・・。カキン・・・。カキン・・・。

 恋次の鋭い太刀筋を受け止めるかたわら、浦太郎は相手の意表を突く為の技を披露する。次の瞬間、瞬く間に恋次の視界から姿を消して見せた。

(消えたっ!?)

 直後、吃驚する恋次の背後へと浦太郎が瞬間移動する。

 気配を感じ取った恋次が瞬時に対応するが、その後も浦太郎は「自己加速魔法」を用いたトリッキーな攻撃で意表を突き、魔法に不慣れな恋次を困惑させ徐々に体力を奪っていく姑息だが確実性の高い戦術で翻弄する。

「迅いな。だが調子に乗るなよ。似たような事なら俺にだって出来るんだぜ」

 言った途端、恋次は浦太郎の自己加速魔法に負けず劣らずの高速移動技術『瞬歩』を披露する。

「・・・っ!」

 思わず目を見開く浦太郎。瞬時に背後へ回った恋次が頭上より斬りかかると、咄嗟にフィッシャーマンを盾にして斬撃を防ぐ。

 さすがの浦太郎も恋次が自分と同等、あるいはそれ以上の速さで移動する術を会得しているとは夢にも思わず、柄にもなく焦りを抱いた。額には冷や汗が浮かぶ。

「わぁーお。まさか僕の間合に一瞬で入り込むなんて・・・・・・やりますね♪」

「そういうおめぇもな。人間のくせに死神と互角にやり合うなんて大したもんだぜ」

 互いに強さを認識し合う。

 傍から見れば、テストと言う割に二人はこの戦いをどこか楽しんでいる様に思えてならなかった。ユーノは静かに観戦をしつつ口元を緩める。

「ユーノ!」

 すると後ろから自分へと呼びかける一護の声が聞こえ、振り返ると傍には鬼太郎と白鳥もおり、一緒に歩み寄って来た。

「一護さん、白鳥さんも来てたんですね♪」

「こら鬼太郎。店番はどうしたのだ?」

「織姫さんが代わってくれたんだよ。別にいいだろう?」

「まったくお前という奴は・・・」

「で、状況はどうなってんだ?」

「ご覧の通り。現在浦太郎と交戦中です」

 ユーノ達の直ぐ目の前で繰り広げられる恋次と浦太郎の熾烈を極めた戦いを傍観する一方、白鳥は恋次が纏っている隊長羽織の存在に目が行った。

「あの羽織は・・・・・・なぜ三番隊の阿散井隊長がここにいる? そしてよく見れば主は同隊の吉良副隊長か!?」

「そうだけど・・・・・・君は?」白鳥との直接的な面識のない吉良は彼を見ながら訝しむ。

「お初にお目にかかる。私は一番隊第三席の白鳥礼二である。ひとつお聞かせ願いたい。なにゆえ隊長格が二人も現世にいるのであるか?」

 当然の疑問を投げかける白鳥に対し、吉良はどこか言い辛そうな顔を浮かべてから「上からの指示でね・・・」と、当たり障りない言葉を口にする。

 そんな中、恋次と浦太郎の戦い見ていた一護は意外にも真剣なやり取りをしている恋次の様子を見て率直な所感を呟く。

「なんだよ。あいつ結構マジじゃんか」

「マジぐらいでやってもらわないと困りますよ。そもそも浦太郎相手に手抜きしようものなら、それこそアイツ自身が許しませんから」

 

「破道の三十一、『赤火砲(しゃっかほう)』!」

 掌から赤々と燃える火の弾を放つ恋次。

 対する浦太郎は、口元を緩めると手持ちのフィッシャーマンの先端から高圧の水を勢いよく放ってこれを打ち消した。

「なっ・・・・・・!」

 武器の先から水が出るとは思ってもいなかった。恋次は、ただただ目を見開き言葉を失い欠ける。

「僕の魔力変換資質は世界でも稀少な『水』でしたね。その極意、今から篤とお見せ致しますよ」

〈Load Cartridge〉

 フィッシャーマンに組み込まれたカートリッジシステムが起動し、一発の薬莢(やっきょう)が根本部分から飛び出す。

 足下に浮かび上がる青い円形と逆三角形型の魔法陣。デバイスを掲げ、片手首を軸として浦太郎は愛機を回転させ、先端部分に螺旋に渦巻く水の塊を形成する。

 短時間で起きた爆発的な魔力の上昇は、魔力と言う概念すら知らない恋次ですらも威圧感という形で感じ取る事が出来た。

〈Spear Tornado〉

「そーら!」

 掛け声とともに渦を巻き圧縮された水の塊が恋次目掛けて一気に押し寄せる。その勢いは想像以上に重く、全体重をかけても恋次は塞き止める事が出来なかった。

「ぬおおおおおおおおおおおおお」

 後方へ吹っ飛ばされたと同時に水の波濤(はとう)が周囲の木々や岩を巻き込みながら一切合財(いっさいがっさい)呑み込んだ。

「阿散井くん!」

「スピアトルネード・・・だったか。あの魔法って?」

「ええ。魔力を水流に変換させ、デバイスの先端から圧縮された竜巻を噴射し、敵を射抜く。浦太郎が最も得意とする技です」

 渇いた大地を潤す鉄砲水。一時的に水浸しとなった戦闘フィールドと、岩場に激突した状態で倒れる恋次は濡れ鼠となりながらも辛うじて無事だった。

「げっほ! げっほ! クッソ・・・水も()えところで溺れかけたぞ・・・・・・なんなんだよ。これが魔法だって言うのか!?」

「ほらほら余所見してない」

 ユーノが忠告した矢先、浦太郎の容赦ない攻撃が仕掛けられる。

 息つく暇も無く襲い掛かる敵の攻撃。未だ理解し難い魔法と呼ばれる超常現象にも似た物へ終始戸惑いながら、恋次は一つの決断を下す。

「く・・・・・・止むをえねえか。そっちがその気ならこっちにだって隠し玉ってもんがあるんだよ!」

 対峙する浦太郎を見据える恋次。おもむろに刃に手を添えると、恋次は寝食を共に過ごしてきた愛刀の名を口走る。

「咆えろ、『蛇尾丸(ざびまる)』!!」

 解号(かいごう)と呼ばれる個々に固有の能力を持つ斬魄刀の力を引き出す為のキーワード。恋次は浅打だった頃から自らの魂を写し取って作り出した「蛇尾丸」の力を顕現。それに伴い、日本刀の形状を保っていた恋次の剣は、刀身にいくつもの節を持つ一護の斬月と同程度の大きさの大剣へと変貌する。

「つらあああああああああああああああ!!!」

 叫び上げた瞬間、伸縮された刀身を思い切り伸ばして遠く離れた位置に立つ浦太郎目掛け直接的な遠距離攻撃を仕掛ける。

 刀の形状が変化した事に加え、予想だにしなかった能力を身に付けた恋次の攻撃に吃驚する浦太郎。咄嗟にフィッシャーマンで攻撃を受け止めるが、その威力は段違いであり、受け止める事すら叶わなかった。

「ぐ・・・ぐあああああああああああああ!!!」

 ドド―――ン!!!

 先ほどは逆に今度は自分が吹っ飛ばされ岩場へ激突する。クリーンヒットを入れられた恋次はこのとき確かな手応えを得る。

「どうだ! 今のは効いたんじゃねーのか!?」

 しかし、これが恋次にとって命取りとなる。危惧を抱いた様子のユーノが土煙の向こう側で息を顰める浦太郎を気に掛ける。

 やがて、土煙が晴れると浦太郎が姿を現した。だが先ほどまでとは違い、醸し出す雰囲気はどこか重苦しく周辺の空気はピリピリしていた。

(なんだ・・・・・・この違和感は?)

 恋次も眉を顰め本能的な危機感を抱いて浦太郎を見つめていた、次の瞬間―――

「こっ・・・・・・のオオオオ!!! このクソボケがアアアア!!!」

人が変わった様に突然憤慨。血走った目つきとなり、野太い声で怒号を発する浦太郎に恋次はもとより、彼について何も知らない吉良もまた呆然自失と化す。

「あぁ~あ・・・切れちまったぜ」

「切れたであるな」

「切れちゃったよ」

 豹変する浦太郎を見るや、スクライア商店メンバー全員が諦観に満ちた声色で呟き、事の顛末(てんまつ)を終始懸念する。

「許さない許さない許さない許さない!! 絶ッ対に許さねえぞォオオオオオオッ!!!」

「な、何なんだよ一体・・・・・・急に性格変わってないかお前!?」

 大いに当惑する恋次を余所に、(いきどお)りが頂点に達した直後、浦太郎はフィッシャーマンの先端を変化させ砲門を作り出す。

〈Divine Buster〉

 魔力カートリッジが三発ロードされる。

 途端、青色に輝く魔力が収束され始め強大なエネルギーへと徐々に変わり始める。

「一撃滅殺っ!!!」

(何だ!? こりゃちったーやべえかも・・・!)

 恋次が危惧する中で、極限まで圧縮・収束された直射魔力砲撃を殺傷レベルで設定。その一撃を以って止めを刺さんと躊躇せず豪快に放つ。

「ディバイン・・・・・・・・・バスタァァァァァァ――――――!!!」

 

 ドガァァァ—――ン!!

 

 砲撃の瞬間、巨大な爆風と衝撃が拡散。その破壊力は凄まじく、周囲の岩場と地面が大きく抉り取られていった。

 砲撃が収まり、我に帰った浦太郎が気付いたとき―――隣にはユーノが立っており、咄嗟に砲撃の軌道を少しずらした事で恋次への直撃を回避した。

「セ――――――フ♪」

 一方、射線上に立っていた恋次は砲撃を完全に防ぎ切る事が出来なかった。岩場に激突していたが、間一髪のところで身を挺し金太郎が庇い大事には至らずに済む。

「・・・・・・・・・チクショウ・・・・・・俺の・・・負けか・・・・・・」

 自身の敗北を察し、改めて浦太郎を見つめる恋次の表情は曇っていた。

 どうしても諦め切れなかった。恥を忍んで頭を下げて再戦の申し出を要求する。

「もう一遍お願いします! 次こそは勝てる!!」

「いーえ! もうテストは終了ですよ」

 そう言うと、ユーノは不敵に笑い恋次に思わぬことを口にする。

「オメデトさんですよ。第1テスト、見事クリアです!」

「はァ!?」

 意味が分からなかった。恋次は何が何だかわからず、ただユーノの言った言葉が聞き違いではないかと己の耳を疑う。

「な・・・なんでだよ!? 俺、そいつに負けたんだぞ!?」

「おやァ。僕は『浦太郎に釣られる前にのしちゃって下さいね』と言っただけで、『浦太郎を倒したらテストクリア』とは一言も言ってないですよ?」

「で、でもよ・・・」

 納得がいかず思いあぐねる恋次。ユーノは口元を緩めたまま更に言葉を紡ぐ。

「・・・意外と手こずったでしょ? 魔法の力に。これで無知である事の怖さがよーく身に染みた筈です」

「おまえ・・・・・・まさかそれを分からせる為に?」

「このテストの目的は相手を“制圧する”為のものじゃない。相手の力を“見極める”為のものです。さすがに数多の場数を踏んでいるだけはあります。短時間で元エース級魔導師の浦太郎と互角にやり合っていました。途中から浦太郎もかなり本気出してましたから。もっとも、最後に限っては正直キレちゃって暴走してましたけど・・・」

 テストの目的が相手を倒す事が目的だったのではないと説明し、その裏にある真のポイントを掘り下げながら、ユーノは恋次に言い聞かせる。

「死神だから強いとか、魔導師だから大したこと無いとか・・・そんな慢心から生まれる憶測や固定観念は捨てた方がいいですよ。世界にはまだまだ僕らの常識の通用しない力がごまんとあります。了見が狭いままだとさっきみたいに足をすくわれますから」

 忠告のつもりなのだろう。ユーノの言葉が痛いほど胸に突き刺さる。

 だが事実先ほどの攻撃を真面に食らっていたら、ただでは済まなかった。それが分からない程恋次も愚かではなかった。

 とは言え、テストには合格した。一護と吉良は無事にテストに受かった恋次を互いに労う事にした。

「ま。何はともあれクリアできたんだし良かったんじゃねえのか」

「おめでとう、阿散井くん。」

「お、おーよ! まぁ当然といえば当然だけれどもよ。あァ? つーか思ったんだが、何で俺だけやらせといて吉良はやんねえだよ!?」

「安心して下さい。吉良さんにはこの後鬼太郎とやってもらう予定です。さてどうです? 合格祝いです! 恋次さんにはこのまま・・・」

 と、ユーノは口にしながら視線を向けたのは巌の如く巨大な存在感を醸し出す大男―――・・・熊谷金太郎の方だった。

「このまま第2テストへと参りましょうか?」

 

           *

 

次元空間

時空管理局本局 本局運用部

 

 魔導虚(ホロウロギア)との戦闘を終えたなのは、フェイト、はやての三人は今回の件を報告すべく統括官リンディ・ハラオウンの元へと足を運んだ。

「休日中に災難だったわね。でも三人とも怪我がなくて何よりだわ」

「それにしてもまさか地球で例の怪物と遭遇するとはな・・・しかも、噂通り魔法の力に精通しているとは」

「それで、フェイト達を助けたっていう黒衣の男性なんだけど・・・」

「はい。魔法を使うだけじゃなくて、私たちが見た事の無い術を使って怪物と戦っていました。主な武器は刀でしたけど、それでもあの怪物相手に物怖じひとつせず立ち向かっていたのは確かです」

 ありのまま見た事を具に伝えるフェイト。同席していたクロノは彼女から伝え聞いた「シラトリ レイジ」と言う名前を念の為データベースへアクセスし、魔導師登録が無いかを確認するが、当然検索結果は照合不一致となる。

「シラトリレイジ・・・という名前で管理局のデータベースにアクセスしてみたが、該当する名簿は見つからなかった」

「ん~・・・一体何者なんやろうか?」

 時空管理局は現状死神の存在を認知していない。

 当然である。彼らは魔法使いというだけであり、霊体を視る為の力―――即ち「霊力」は備えていない。

 従ってなのは達を除いて、殆どの魔導師は霊体事体を視た事がないのである。

 魔法を扱う術を心得ている白鳥の存在が気がかりである一方、ふとリンディは先ほどから顔を沈めているなのはの事が気になった。

「なのはさん? どうかしたの?」

「白鳥さんの事なんですが・・・・・・」

 ややか細い声を発した直後、なのはは膝の上で手をぎゅっと握ってから、数時間前の戦闘で目の当たりにしたとある事実について言及する。

「その人は・・・・・・ユーノ君の技を使ったんです!」

「なに!?」

「どういうことなの?」

「わからないです・・・・・・だけどあの技は間違いなくユーノ君が編み出した魔法だったんです。入局して1年くらい経ったとき、たった一度だけですがユーノ君と模擬戦をした事があって、そのときに使っていた技・・・・・・それがアレスターチェーンでした!」

「アレスターチェーン・・・・・・その技なら僕も知ってる。機会こそ少なかったが、アイツと戦闘訓練をした時に僕も受けた事がある」

「せやけどクロノくん、そない珍しい技なんか?」

 技の性質自体を知らないはやてが何の気ない疑問から問う。

「同時展開した魔法陣から幾重もの鎖を出して相手を雁字搦めにし、その鎖を引くことで爆発を起こす。技の性質自体は特に珍しくも無い。問題はそれを()()()()()()()()()でやってしまうという点だ」

「え・・・?」

 戦闘魔導師の多くは、己の魔法を効率よく行使・運用する為にデバイスを演算補助機械として、あるいは武器そのものとして使っている。演算能力が高ければ高いほど魔力を効率よく運用でき、その分少ない魔力運用で魔法の発動を行使出来るというメリットがある。

 結界魔導師と呼ばれる系統に分類されるユーノは、なのは達の知る魔導師の中で最もこの魔法演算能力に優れた人物である。元来結界魔導師は自衛目的以外に攻撃魔法を行使する事が少ない。代わりに防衛の為の魔法行使に多くの演算を行使する。

 魔法の「処理速度」、「演算規模」、「干渉強度」―――これら三つを魔法の評価基準で測るとき、ユーノは断トツでトップクラスに位置する。

「デバイスに一切頼らず多変数化を伴う魔法の連続行使、それを短時間でやってのける処理速度、演算規模、干渉強度―――これらを瞬時に実行できるバケモノが居るとすれば、僕はアイツ以外の魔導師を知らない」

「クロノ君の言う通りだよ・・・・・・一朝一夕とかじゃ出来ない高等技術を、ちょっと魔法が使えるってだけの人がだよ、目の前で堂々とユーノ君の技を使うなんて・・・・・・どう考えてもおかしいですよ!? どうして赤の他人がユーノ君の技を使えるんですか!?」

 納得など出来る筈がない。見知らぬ者が師の技を盗み取ったかの如く我が物顔で使っている事に到底承服できる筈がない。

 身を乗り出し興奮するなのはに迫力に思わずたじろぐリンディ。見かねたはやては、和らいだ表情で見つめながらそっと肩を置く。

「なのはちゃんの気持ちはよーくわかった。せやけど一旦ちょう落ち着こか」

「っ! ・・・・・・うん。ごめんなさい」

 我に返ったなのはも冷静さを取り戻しその場に座り込む。

 やがて今迄の話を思案していたクロノは顎に手を当てると、三人を見据えながらどこか消極的な言葉を述べる。

「もしも本当にその白鳥という人物がユーノと何らかの接点を持つキーパーソンだとして・・・・・・果たして僕たちが今さらアイツに何をすればいいんだ?」

「え・・・」

 この言動に思わず耳を疑うなのは。フェイトとはやて、リンディも終始耳を傾けるとともに、クロノの口から一言一句飛び出す単語に正直耳を疑った。

「あれから四年近くが過ぎた今、僕らがアイツに出来ることなんて何がある? たとえユーノが今回の件と何らかの関わりを持っていたとしても、結局僕らはこの期に及んでアイツの力に縋ろうとしているんじゃないか」

「クロノ、なに言って・・・」

「そないなこと・・・・・・クロノくんはユーノくんと会いたくないんか!?」

「会いたい、か・・・・・・そうだな。会うことが出来るとしたら、まずは一発アイツの顔を殴りたいさ。だが、そんなのはただの八つ当たりだ。それが終わったら何をすればいいんだ? 君達はユーノとの再会を楽観視しているかもしれないが、僕は到底昔みたいな関係でいられるとは思えない」

「どうしてクロノ君はそんなこと言うの!? ユーノ君に限ってそんな―――!!」

「永遠に変わらないものなどない。事実、君や僕たちは等しく子供から大人へと変わり、それによって得る物と失う物があると知っている筈だ。ユーノだけが変わらないなどと言うのはただの幻想だ。君は目の前の現実を受け入れ難いが為に、正常な判断が出来なくなってる」

 聞き捨てならなかった。クロノの言葉に痺れを切らしたなのはは、机をバンっと叩き、声高に訴える。

「私はいつだって冷静だし正常だよ!! おかしいのはクロノ君の方だよ!!」

「なのはさん・・・どうか落ち着いて」咄嗟にリンディが仲裁に入るがまるで焼け石に水とばかりに効果が無い。

 そんな彼女の神経を逆撫でする様にクロノは悲観的な事を語りかける。

「君が誰よりユーノに会いたがっているのは知ってるつもりだ。だが万が一・・・再会したユーノが君の思っているのとは違う人間になっていたとしたら? 君はそれを受け入れる事が出来るのか? 君の好いている人間が最早過去の遺物となっていたら君はどうするつもりだ?」

「クロノ! もうよして!」

「ええ加減にせぇへんと私らだって―――!」

 きな臭さを機敏に感じ取ったフェイトとはやてがこれ以上なのはを刺激しないでと、指摘をしようとした直後だった。

 パチン―――。なのはの右手がクロノの左頬を叩いた。この瞬間、周りの空気は凍りつき一瞬の静寂に包まれた。

「何がわかるの・・・・・・クロノ君に私の気持ちの何がわかるの・・・・・・」

 声は酷く震えており、左手は終始力が籠りっぱなし。クロノは叩かれた頬を静かに添えながら、目の前のなのはを凝視する。

「私は・・・・・・どんな形でもいいからそれでもユーノ君に会いたい! 会ってちゃんと謝りたいし、きちんと今の自分の気持ちだって伝えたい! ユーノ君がたとえ私のこと嫌いだったとしても・・・・・・わたしは・・・・・・わたしは・・・・・・」

 これ以上弱々しい自分を晒したくなかった。気持ちを抑え切れず、なのはは部屋を飛び出し脱兎の如く走り出した。

「なのはっ!」

「なのはちゃん!」

 咄嗟に追いかけようとしたが、場の空気を呼んだリンディが二人に「今はそっとしておきましょう」と自制を促す。

 対するクロノは、軽く腫れあがった頬を触りながら終始沈黙を貫いた。

 

           *

 

第97管理外世界「地球」

松前町 スクライア商店 地下訓練場

 

 現在、恋次は第2テストの真っ最中。

 第1テストでの役目を終えた浦太郎は、これから実施する吉良イヅルと桃谷鬼太郎との戦いを取り計らう任をユーノより仰せつかった。

「といーわけで吉良さん。恋次さんと同様にこれからあなたにもテストを受けてもらいます。審判は不肖亀井浦太郎が勤めさせて頂きます。で、吉良さんのお相手となるのが・・・ここにいる先輩が勤めさせてもらいます」

「へっ。俺に前置きはねえ! 最初から最後までクライマックスだぜ!」

 漲る闘気を惜しげも無く放出する赤髪の男こと、桃谷鬼太郎はやや後ろ向きな表情の吉良を見ながら己が持つ『斬魄刀』を突き付け、声高に宣戦布告。

「よ・・・よろしくどうぞ」

 水と油。テンションの違いが露骨に表面化。

 正直言って吉良はこの手の好戦思考の相手をするのは苦手であり、そうした相手のテンションと自分のテンションの低さを指摘されるたび、元来好きではない戦闘行為がますます嫌いになる。

 

 ドカ―――ン!!

 

 テストを始めようとした矢先。少し離れた場所で戦闘行為を繰り広げているであろう恋次と金太郎の戦況がふと気になった。

「あっちもだいぶ派手にやってやがるな」

「相手があの金ちゃんだからね。恋次さんも僕とやるよりずっと大変だと思うよ」

「阿散井くん・・・・・・死ぬなよ」

 

「うおおおおおおお!!!」

 懸念する吉良の事など露ほども頭にすらない程に恋次はこの戦いに集中していた。

 対戦相手であるスクライア商店副店長・熊谷金太郎は金色を基調とした戦国武将が着用する鎧に酷似した防護服を纏い、手には体躯に見合った重さ10キログラムにも及ぶ身の丈ほどの(まさかり)こと、アームド系インテリジェントデバイス《アックスオーガ》を握りしめる。

「つらああああああああ!!!」

 カキン・・・。カキン・・・。カキン・・・。

 力いっぱい剣を振りおろし攻撃一辺倒に傾きがちな恋次。だが今の今まで金太郎へのクリーンヒットは取れていない。その悉くが彼の所持するアックスオーガの巨大な刃によって弾かれてしまう。

 舌を打ち、焦燥を滲み出す恋次。

 一方でポーカーフェイスを保つ金太郎は、間隙を突くと同時に力いっぱい手持ちの斧を振りかざす。

「ぬん!」

 斧を振り切った瞬間、猛烈な突風と金色の魔力の波動が斬撃となって飛び出す。

 既に蛇尾丸を解放していた恋次だったが、それを真正面から受け止める事は叶わず、前方から押し寄せる圧力に屈し岩肌へと叩きつけられる。

「ぐっは!」

 脊髄を通って全身へと回る衝撃と痛み。熊谷金太郎という男が有する技の破壊力は恋次の想像を遥かに超えていた。

「今のも魔法か? んなもの使った形跡すらなかったぜ」

 観戦中の一護がふと疑問に感じた点をユーノへと伝える。一護が最も気になったのは、魔法を発動したとさえ感じられない金太郎の技そのものだった。

 通常、魔導師・騎士は魔法を行使する際には必ず体内に保有する《リンカーコア》から供給される魔力を自身のデバイスへ流し込み、魔法の術式展開とそれによる構成によって初めて魔法を行使できる。

 しかし、今の戦闘において金太郎がそうした基本原則に従った魔法行使をした様子は無かった。これについてユーノが明朗な回答をする。

「あれは『逐次展開(ちくじてんかい)』と言って・・・魔法の術式展開と、次に発動する魔法の起動術式の読み込みを同時進行させることで、魔法の継続発動が可能となるんです。もっとも、その技術が流行ったのは20年くらい前の話。それを今でも愛用してるアナクロな魔導師は僕の知る限りあの男くらいですよ」

「このぉぉぉ!!」

 金太郎の一撃を受けて頭に血が上ったらしく、恋次は躍起になってとことん攻めの姿勢を貫いた。頭上より狙いを定め、鋭く尖った蛇尾丸の刀身を力いっぱい振り下ろす。

 カキンッ! 金太郎は無表情のままに恋次の攻撃を全身で受け流す。

(か、固てぇぇ!!)

 決して手を抜いたつもりは無かった。全身全霊の力で振り下ろした筈だった。なのに・・・金太郎は傷一つ負っていないどころか、逆に刃の一部に皹が入ってしまった。

「くそ! なんで効いてねえんだよ?!」

 当然の疑問に思う恋次を見かね、ユーノは「普通に攻撃したってダメですよ」と、釘を刺しておく事にした。

「金太郎の全身には『硬化魔法(こうかまほう)』が施されています。自分が身に付けているものごと硬化させ、肉体的な強さに物を言わせる戦い方を得意とする―――熊谷金太郎とはそう言う男なんです」

「確かにあの体ならどんだけ武器を乱暴に扱っても平気ってわけだ」

 一護と白鳥も思わず納得してしまう。

 改めて恋次は対峙する相手を見据え、牽制し構えを取り直す。今までの失敗や周りからの忠告を参考に、無鉄砲な突撃思考は捨てて慎重に策を練る。それだけ相手は一筋縄ではいかない確かな実力を秘めていた。

(ぶ厚い胸板・・・広い肩幅・・・防護服越しにも分かる隆起した筋肉・・・肉体だけじゃねえ。ヤツを構成するすべての要素が、存在感の密度が桁外れに濃い。(いわお)の様な男だぜ・・・・・・!)

「どうしましたか恋次殿? 私が怖いのですか?」

「はっ。馬鹿言ってんじゃねーよ! 顔の怖さと不気味さなら(くろつち)隊長の方が勝ってんだよ!」

 などと言う冗談を口にした直後、恋次は辺り一帯無造作に転がる岩石に目をつけ、それを利用する。

「破道の五十七、『大地転踊(だいちてんよう)』!!」

 言霊を無視した「詠唱破棄」で発動した鬼道。その効果により周囲の岩石は一様に浮かび上がり、金太郎目掛けて一斉に投擲する。

 金太郎は飛翔してくる岩石をアックスオーガで木端微塵に粉砕。恋次の元へ猪突猛進。持ち前の機動力と破壊力を活かした戦法で徹底抗戦を貫いた。

 恋次は金太郎の攻撃を受けながらも思考を常にフル回転させ、打開策は無いかと必死で思案。そんな戦いの様子をユーノ達は静観する。

「ダイナミッククロス!!」

 名の通りに豪快な技が繰り出される。圧縮した魔力による十字の斬撃が懐へと飛び込み、恋次はこれを紙一重で回避。反撃の機会を窺がう。

(クソッ・・・! デケー図体とパワーだけじゃなくて意外と機敏な動きしやがる! にしてもあの人間離れした破壊力・・・・・・あんなバカでけえ斧を片手で軽々と振り回しやがって!! てめえは歩く人間兵器かっつーの!?)

 心中性質の悪い冗談を口にする恋次。

 しかしながら、秘めたる思いはただ純粋にしてひとつ。勝利への「渇望」、もとい「執念」である。

(ここで負けるわけにはいかねえ・・・そう簡単に俺がやられてたまるかよ!!)

 死神としての矜持を胸に今一度柄を強く握りしめる。

 依然金太郎は濃厚な存在感をぶつける様に恋次の前に立ち塞がる。このぶ厚く巨大な壁を乗り換えない限り、このテストに受かる事は出来ない。

 何としてもテストに受からなければならない。意を決した恋次は地を蹴って飛び出すと、利き手に構えた愛刀を勢いよく振りかざす。

「蛇尾丸!!」

 刃節(じんせつ)を伸ばした一撃も金太郎に傷を負わせる事は出来ない。その軌道を容易に見切られアックスオーガによって防がれる。

(やっぱダメかぁ!)

 まるで手応えが無い状況に焦りを露わにする。

 サングラス越しに恋次を凝視する金太郎は、巨体を器用に捻ってから恋次の体をそのまま体重差で押さえ込む。

「ぬおおおおお」

 ホールドした恋次を軽々と持ち上げ前方へと投擲。中空を舞って防備な相手へと狙いを定め、金太郎はアックスオーガにカートリッジを一発読み込ませる。

〈Dynamic Hurricane〉

 足下に展開される金色のベルカ式魔法陣。斧を大きく振りかぶり、語気強くトリガーとなる言葉を唱える。

「ダイナミック、ハリケ―――ンッ!!!」

 手持ちの斧を瞬時に振り切る。それに伴い凄まじい勢いの突風が吹き荒れる。恋次は押し寄せる突風に飛ばされた際に受けた衝撃、岩肌に激突した時の衝撃と相まって大ダメージを受ける。

「がっ!!」

 ぶ厚い岩を砕きながら地面へと叩きつけられ転がり込む。桁違いな威力で訓練場の地面は大きく抉り取られ、多量の土煙が辺り一帯に充満する。

「ぐ・・・」

 辛くも立ち上がるだけの余力は残されていた。だが次の瞬間、強烈な嘔吐感とともに吐血。忽ち恋次の手は己の血で染まった。

「あの吐血量・・・内臓のどこかに痛手を負ってやがるな」

「一撃で大打撃であるな・・・」

 死神を殺しかねない魔法使いの存在。一護も白鳥も思わず顔を引きつってしまう光景だった。

「ハァ・・・。ハァ・・・。ハァ・・・。」

 息絶え絶えに刀を握りしめ、辛うじて意識を保って地面に足を付ける。

 現世に来る際、隊長格である事から本来の力の80パーセントをセーブせざるを得ないとは言え、恋次もまさかここまで自分が追いつめられるとは正直思わなかった。

(最小の労力で最大の効力による最強の攻撃力・・・・・・・・・熊谷金太郎・・・コイツは一体何者だ!?)

 ただ純粋に金太郎と言う存在に対し向けられる畏怖や疑心、といった感情が恋次の苦悶に満ちた表情に現れる。

「どうしましたか? これしきのことでへばったとは言わせませんぞ」

 言った直後、自己加速魔法を用いた金太郎が恋次の背後を完璧に捕えた。

(これは浦太郎(アイツ)と同じ!? 背後(うしろ)を取られた―――)

 気付いた時には既に金太郎の手中。振り上げられた巨大な斧が、無慈悲にも振り下ろされる。

 ダンッ―――! 舞い上がる多量の土煙で恋次の姿はすっぽりと覆い尽くされた。金太郎はどこか悲嘆そうにひと言「・・・他愛の無い」と呟く。

「誰がだ?」

「っ!」

「おめぇの言う通りだ。この程度でへばったりなんかしねえんだよ」

 聞き違いなどではなかった。金太郎の瞳が捕えたのは首の皮一枚で金太郎の攻撃を蛇尾丸で受け流して立つ恋次の雄々しき姿だった。

(・・・ダイナミックハリケーンを一度喰らい深傷を受けているにも関わらず、一瞬たりとも遅れること無く最速且つ最適の動き! さすがは一護殿とともに戦った歴戦の盟友。侮り難し!!)

 恋次が倒れなかった事を悔しいとは思わなかった。寧ろこの状況は金太郎にとって喜ばしい限りである。

 出来ればこの戦いを心行くまで味わい尽くしたい。この男の本当の実力を味わいたい。そんな欲が金太郎の中で湧き上がる。

 両者は一進一退の攻防を展開、拮抗する力と力を見せつけ衝突を繰り返す。

 客観的に戦いの行く末を見守っていた一護。しかし戦況を見る限り、アドバンテージを得ているのは金太郎であり、恋次は終始圧されがちに思えてしまう。

「恋次のヤツ圧されてねえか・・・」不安に駆られユーノにも意見を求める。

「確かにぱっと見はそう見えますけど、金太郎の攻め手は全て見切ってます。けど・・・打撃斬撃が効かない状況は依然変わりない。このまま長引けば体力を消耗する恋次さんの方が徐々に不利になるのは明らかです」

「・・・阿散井隊長に他の攻め手はないのか?」白鳥も観戦のかたわら気になった。

「有る事にはあります」

 冷静な分析をしていたユーノが恋次を見つめると、彼の中で想定していた通りの展開が待ち受けていた。

「勝負だ!!」

 金太郎と対峙する恋次がとった行動は、刀を水平にした状態から一撃必殺の威力を誇る刺突(つき)の構え。これこそが恋次に残された起死回生の打開策だった。

(狙い所は一つ。あの巨躯の中の一点―――水月!!)

 防護服に身を包む金太郎の体の中心部分を凝視。恋次が狙うのは、「水月」または「鳩尾(みぞおち)」と呼ばれる人体急所部分。神経が多く集まった場所であれば、威力こそ間違いない限り確実に相手を昏倒させる事が出来る。

「おおお!!」

 覚悟を決め、躊躇一切を振り切って前へ出る。

「「「仕掛けた!!」」」

 固唾を飲んで見守るユーノ、一護、白鳥ら三人。

 金太郎も甘んじて恋次の勝負を受け入れた様子で前に出る。恋次は突き立てた刃の切っ先部分に全神経を集中させる。

「終わりだっ!!」

 

 ドカ―――ン!!

 

 衝突時に起こった衝撃が粉塵を巻き上げる。

 舞い上がった土によって視界が覆われ、二人の姿が一瞬見えなくなる。

「勝負は・・・!?」

「どうなったであるか!?」

 どちらが勝っても負けてもただでは済まない雰囲気がひしひしと伝わる。

 徐々に煙が晴れていくと、薄ら見えてきた恋次達と思しき人影が二つ。三人が目を凝らすと、恋次の刀身は金太郎のバリアジャケットの中心にある水月をしかと捕え、対する金太郎は手持ちのアックオーガを手放した状態で終始動こうとしない。

 これにて勝負を決した。勝ったのは阿散井恋次だった。そしてこの戦いの勝利こそがテストの合格条件だった。

「おめでとうさんです! 恋次さん、見事第2テスト合格です!」

 長らく続いた戦いに終止符が打たれ、ユーノは扇子を広げ恋次の合格を言い渡す。

「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・。へっ! まぁ当然の結果だけどな!」

 明らかに強がっている恋次の態度が気に食わなかった。一護は恋次の元へ歩み寄ると大口を叩く彼を冷罵する。

「何が当然の結果だよ。散々圧されまくってた癖してよ・・・」

「う、うるせーよ!!! だったらおめぇなら直ぐに倒せたっていうのかよ。あァ!?」

「んだとーっ!!! てめえもう一遍言ってみろコラぁ!!!」

 売り言葉に買い言葉。つまらぬことで二人はムキになっていがみ合い、鋭い剣幕を浮かべて火花を散らし合う。

 すると、二人を見かねた金太郎がおもむろに顔を近づけ・・・。

「喧嘩は・・・いけません!!!」

 ゴンッ!

「「ぐっほ!!」」

 二人の頭を鷲掴みにして、相互の頭部をぶつけ合わせ一気に鎮める。これまでに味わった事の無い痛みに一護と恋次は悶絶する。

 彼らを横目に呆れ返る白鳥と、そんな二人を飄々とした笑みを浮かべ見つめていたユーノは忘れないうちに次なるテスト内容を恋次に伝える。

「それじゃ丁度いいですから・・・このまま、第3テストへと参りましょう! いよいよ次が最後のテストです。なんと時間無制限!! あなたの全力で僕の帽子を落とせばクリア!」

「な・・・何っ!? そんな簡単なことでいいのか・・・?」

 今までの試験内容に比べればはるかに簡単そうに思えてならず、恋次は逆に拍子抜けをしてしまう。そんな恋次とは対照に、一護はその内容が決して簡単ではないという事を知っていた。むしろ最終テストに相応しい最難関課題であると心中思った。

 

 やがて、金太郎との戦闘で負傷した傷を癒し、広い場所へと移動した恋次はユーノと向き合う。一見貧弱そうに思えてならないユーノを積めながら、恋次は口元を緩め斬魄刀を突き付け宣戦布告する。

「つくづくおめぇは運がねえ男だよ。この俺が本気になったら、てめぇの帽子を落とすどころか怪我すらさせちまうだろう。時間無制限なんて悠長なコト言ってねえでよ! 1分でカタ付けてやるぜ!! そして無様に跪かせてやる!!」

「・・・――――――そうですか」ニヒルな笑みを浮かべ、ユーノは持っていた仕込み杖から細身の直刀をおもむろに引き抜いた。

 

「それじゃあ、1分でカタ付けてみて下さいね」

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

参照・参考文献

原作:和月伸宏『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 22巻』 (集英社・1998)

原作:久保帯人 『BLEACH 7・8・65巻』 (集英社・2006、2014)

 

 

 

 

 

 

教えて、ユーノ先生!

 

ユ「と、言う訳で今回から始まったこのコーナー♪ 記念すべき第一回目は『魔法』と『魔導師』について教えるよ♪」

「魔法とは、魔力を消費して発動される現象の総称を指すんだ。いわゆる『幻想』や『おとぎ話』の産物ではなく『超科学』として扱われているのが、僕らの世界における魔法の概念となっている」

「魔法には多数の種別が存在し、その効果は攻撃から治療、拘束、移動と多種多様で、魔導師はこれらを操る術を持つ者の総称で俗に『魔法使い』って呼ばれているんだ」

一「こう考えると結構複雑なんだな」

恋「いつから魔法ってのはこんなにもガチャガチャとしたものになっちまったんだ? 俺の中での魔法使いつったら、杖の先からなんかビームみたいなもの出したり、箒で空を飛んでたんだ!」

ユ「まぁ一般的にはそれが所謂『魔法使い』って奴ですけどね」

一「つーか恋次、お前の手に持ってるそれは何だよ?」

 一護は恋次が手に抱えているぶ厚い察しの本を一瞥。表題には「ハ○○・ポ××××と賢△△△」と表記されていた。

恋「ば、バカヤロウ!! これはチゲーよ!! たまたま古本屋を覘いた時に気になって買ったものでな・・・別にこの日の為に勉強してきたわけじゃねぇからな!!」

一「だからいろいろ間違い過ぎなんだよお前は・・・」

ユ「あははは・・・・・・決してそれも間違いではないのですけどね」

 

 

 

魔導師図鑑ハイパー!

 

 スクライア商店地下で試験が行われる中、店番を任されていた織姫とは言うと・・・

織「えーっと・・・・・・もう一度教えていただけますか?」

客1「じゃから餅焼き用の網と、片手鍋が欲しいんじゃが・・・・・・」

客2「ママが庭ぼうき買ってこいって!」

 思わぬ来客に困惑する織姫。

 老婆が求めている物は網と片手鍋。小さな少女が求めているんは庭ぼうき。

 織姫は露骨に苦笑いを浮かべると、「しょうしょうお待ちくださーい!!」と言って、店中を探し回る。

織「よわったなー・・・まさかユーノさんが居ない間にお客さん来るなんて・・・・・・えーと、どこにあるんだろう・・・」

コ「織姫さん、織姫さん!」

 すると見かねたコンが小さな声で呼びかけ、織姫に商品がある棚を指し示す。

織「あ! ナイスだよコンちゃん♪」

 コンの心遣いに感謝し、織姫はお客の元へ注文を受けた品を持って大急ぎで戻る。

織「すみませーん! お待たせしましま・・・・・・!」

 と、笑顔を浮かべながら走っていた矢先。

 足下がふらつき、織姫は商品を手にしたまま前方の棚目掛けて倒れ込む。

織「あれぇぇぇ~~~!!!」

 ガシャン―――。

 二人の客が思わず目を瞑る。恐る恐る目を開けると、商品棚の下敷きとなった織姫が目を回して気絶していた。

織「ハレホレハレホレ~~~///」




次回予告

恋「はは! 最終テストは楽勝だな! この勝負もらった!」
一「つくづくアホな男だぜアイツは。ユーノの力を見誤ると火傷じゃ済まねえぞ」
恋「な、何だあの野郎・・・とんでもなく強えじゃねえかー!? しかもあの刀はまさか・・・・・・!!」
ユ「さぁ、いきますよ恋次さん♪ 僕の力の一端を見せてあげます・・・」
一「次回、ユーノ・スクライア外伝・・・『我が手に斬魄刀を』。お楽しみに!」






登場魔導虚
マカラガンガー
なのは達が最初に戦った龍、またはワニに似た頭を持つ魔導虚。スカリエッティによって制作された為、ガジェットドローン同様にAMFを発生させる機能を持っており、虚特有の超速再生と響転で彼女達を苦しめるが、突然現れた白鳥礼二によって倒される。
名前の由来は、インド神話に現れる怪魚「Makara」から。
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