新暦079年 8月5日
第1管理世界「ミッドチルダ」
ミッドチルダ中央南駐屯地内A73区画
機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 隊員宿舎
「がぁ~~~」
恋次の大いびきが静寂を破り、部屋中に響き渡る。布団は無造作に蹴散らされ、その無防備な寝顔がさらけ出されていた。
部屋全体は、散らかり放題のまま放置されている。脱ぎ捨てられた衣服、床に転がる酒瓶や食べかけのつまみ、まるで戦場のような惨状だった。
そんな中、施錠がそっと解除される微かな音が響く。やがて扉が静かに開かれ、侵入者の影が忍び込んだ。
「ほえろ、ざびまる・・・・・・へへへ・・・・・・朽木たいちょう、おれの強さがわかったか・・・・・・」
恋次はその存在に気付くことなく、呑気な寝言を呟き続けている。彼の安らぎは、しかし突如として破壊された。
「いい加減起きんか!! この戯けがぁ!!」
鋭い声が室内に響き渡り、次の瞬間、股間に凄まじい衝撃が走る。恋次は弾かれたように飛び起きた。
「いでえええええええええええええええええ」
顔を歪め、潰された急所を押さえながら転げ回る恋次。
「だ、誰だぁ!? 俺のタマタマを踏みやがったのは・・・・・・ぁ!?」
涙目で見上げた先に立っていたのは、予期せぬ人物だった。
「まったく。私が目を離した隙に随分と弛んでいるようだな。そんな事では京楽隊長より仰せつかった任務を全うするなど永劫叶わぬぞ」
黒いセミロングヘアが揺れ、凛とした顔立ちがその毅然とした態度を強調している。彼女は十三番隊副隊長の腕章を誇らしげに身に着け、不敵な笑みを浮かべていた。
恋次はその姿を幽霊でも見るように凝視した。
「な・・・・・・なんで・・・・・・」
「久しぶりだな。恋次」
「なんでお前がここにいるんだよ・・・・・・ルキアぁぁ・・・!!」
突如として現れた妻、ルキア。その姿に、恋次は言葉を失った。彼女がここミッドチルダに現れるとは夢にも思わず、驚きと動揺が入り交じった表情を浮かべていた。
*
「おーい、浮竹ー」
京楽は親友である浮竹の容体を
「ボクだけど、話せそうかい?」
簾越しに優しく声をかけると、布団の中から浮竹がやつれた顔を覗かせた。彼は弱々しく咳き込みながらも、掠れた声で答えた。
「・・・・・・あぁ・・・・・・大丈夫だ・・・・・・・・・・・・・・・」
京楽は親友の憔悴した姿に目を細め、深く案じながらも、彼特有の軽妙な調子を崩さずに話し始めた。
「やれやれ、また随分と痩せこけちゃって」
「すまない・・・・・・」
何度も咳き込みながら、浮竹はその身体の衰弱に申し訳なさを滲ませた。
「無理もない。霊王護神大戦で“
京楽の言葉には、一切の嘘偽りもなかった。その柔和な笑みを伴った真心に、浮竹は胸の内で何かが込み上げるのを感じながら、咳き込みつつも返答した。
「だが、その挙句がこのざまだ・・・・・・最早隊長とは名ばかりの介護人さ・・・・・・げっほ、げっほ」
浮竹はすっかり意気消沈した様子で、さらに言葉を続けた。
「今の十三番隊を実質率いているのは朽木だ。かつての海燕を彷彿とさせる。隊員たちもみんなあいつを慕っているし、これは・・・早くお役目を譲った方が賢明だ」
「ま、気持ちはわかるよ。だがそれをするのはもう少し先だよ」
京楽は話題を転じ、ルキアが異世界ミッドチルダへ出立したことを告げた。
「今日ここへ立ち寄ったのは他でもない――彼女が例の異世界、ミッドチルダに発ったと伝えに来たんだ。スクライアクンにとって、師匠である一護クンと最も繋がりが深く、現世の文化にも詳しい彼女なら、追加の派遣要員として適任だと判断したよ。何より、阿散井隊長と夫婦同士だし、何か彼が無茶をしそうな時はいい歯止めになると思うんだ」
「――――・・・そうか」
浮竹はその言葉を聞き、心の中で様々な感情が交錯するのを感じながら静かに呟いた。
「・・・そうか・・・・・・」
その単純な言葉を何度も繰り返す浮竹を見つめ、京楽は軽く笑った。
「・・・浮竹、ルキアちゃんなら大丈夫だよ」
「・・・ああ。わかってるつもりなんだが、白哉の手前もあるし・・・・・・」
「朽木隊長の事なら心配いらないよ。彼やその家族への説明はボクの方からしっかりしといたし。それに向こうには彼女の旦那もいる事だしね」
京楽の言葉に、浮竹は完全な安堵には至らないものの、心の中の僅かな緊張が解けるのを感じた。彼の頬には少しばかりの笑みが浮かぶ。
「そうだな。年寄りが無駄に重圧を与えるのは良くない。十年前ならともかく、今の彼らならきっと――・・・」
「ああ。君の言う通りさ」
遠く離れた地で未知なる敵と対峙しつつ、アンゴルモアの回収という大任を背負う彼らの未来を、浮竹はただひたすらに祈った。
*
第1管理世界「ミッドチルダ」
機動六課 ミッドチルダ地上隊舎
同じ頃、朝礼の場でユーノは整然と立ち、前線メンバーへ向けて新たな仲間を紹介していた。
「というわけで、以前京楽さんから新しい死神を近々派遣するという話は聞いていたと思うけど・・・・・・彼女がこのたび
ユーノの声が場を満たすと、ルキアが堂々と一歩前に出た。視線には揺るぎない自信が宿り、その動作には一片の迷いもない。
「十三番隊副隊長、朽木ルキアだ。ユーノ殿と京楽隊長から概ねの話は聞いている。不束者だがよろしく頼む」
彼女の簡潔ながらも凛とした挨拶に、場内には温かい拍手が湧き起こった。その拍手の中に混じる歓声が彼女の歓迎を物語っている。
ユーノは微笑みながら補足を加える。
「ルキアさんは、一護さんが死神になるきっかけを与えた人でもあってね。少なからず、ここ数十年の
「いえいえユーノ殿。私はそんな大それたことは何もしておりませぬ」と、ユーノが補足説明すると、ルキアは照れ臭そうに弁明した。
「・・・・・・」
ルキアの控えめな返答に、場の雰囲気はさらに和やかになった。だがその一方で、場の片隅に立つ恋次は動揺を隠せない様子で彼女から視線を外していた。
「えー、ちなみに・・・・・・ルキアさんと恋次さんは同じ
その一言が放たれた瞬間、驚愕の声が場内を駆け抜けた。
「「「「「「「「「「「「「「「「えええええええええええ!!!」」」」」」」」」」」」」」」」
全員の視線が一斉に恋次へ向かう。その鋭い視線に圧倒され、恋次は焦りの色を隠せなかった。
「な、なんだよオメーら!? 俺とルキアが幼馴染なのがそんなに不満か?」
「不満って言うか・・・! なんでよりにもよって恋次さんとなんですか!?」
「あんな清楚で美人な女の子が、野良犬みたいな恋次さんと幼馴染って・・・・・・どういう設定なんですか?」
「設定ってなんだよ!? 文句があるなら帯人にでも言ってくれよ!!」
荒れ狂う恋次。その様子を見て、吉良と白鳥が微笑みを抑えながら彼を宥める。
「まぁまぁ。そう声を荒らげるな阿散井君」
「うむ。皆の気持ちを考えれば至極当然である。主と朽木副隊長――それは譬えるならば『星と野良犬』のようなものだと言えよう」
「ウルセーよ!!! さっきから野良犬野良犬って、人を馬鹿にするのも大概にしやがれ!!」
恋次の怒声が響き渡る。それを遮るように、ルキアが鋭い声を投げかけた。
「やめんか恋次。本当のことを言われたまでだろう」
「オメーはいいよなオメーは! どうせ俺は野良犬で、オメーは星だからな!!」
「野良犬と揶揄されるのが嫌なら、私がお前にピッタリの
「「「だははははははは!!!」」」
ヴィータやアギト、鬼太郎達が笑いの中心となり、他のメンバーも顔を伏せながら笑いを堪えようとしている。しかし、堪えきれる者は殆どいなかった。
恋次の顔は赤く染まり、怒りを溜め込んでいる様子がありありと分かる。
一方、ユーノはルキアに視線を向け、話題を切り替えた。
「ルキアさん、これから六課の施設や人員を詳しく紹介します。そのあとミッドチルダ(こっち)での過ごし方や最低限身につけておく事柄などがありますので、順番に研修していきましょう」
「わかりました。よろしくお願いします、ユーノ殿」
そのやり取りを横目に見ながら、恋次は心の中で小さく不満を漏らしていた。
(けっ。なんだよルキアの奴・・・・・・ユーノにはエラく腰が低いじゃねーか。俺にも一度くらい
しかし、次の瞬間、彼の内心の不満は再び笑い声にかき消された。
「んで・・・・・・いつまでテメーらは笑ってるんだよ!!」
「「「でははははははははは!!!!」」」
ルキアがつけた屈辱的な渾名に、三人は未だ腹筋崩壊中だった。恋次の咆哮にも似た怒号は、そんな彼らの笑いを止めるどころか、さらに笑いを誘うばかりだった。
*
ミッド住宅街 高町家
夕方――仕事を終えたなのはは、夕食を囲むテーブルの向かいに座るヴィヴィオとともに、和やかに会話を楽しんでいた。部屋の中には、母娘の温かな空気が満ちている。
「ママ、新しく来た死神さんってどんな人だったの?」
ヴィヴィオの無邪気な問いかけに、なのはは軽く微笑みながら返答した。
「女の人だったよ。名前は朽木ルキアさん、黒髪の美人さんだった。シグナムさんみたく男勝りで少し古風な喋り方するけど、すごく親しみやすい人だったよ」
その言葉を聞いたヴィヴィオの目が輝く。彼女の興味はますます膨らむようだった。
「へぇー女の人かー。今度わたしも会いに行こうかなー」
「うん、ヴィヴィオの話をしたら会ってみたいって言ってたよ。なんかヴィヴィオのセイクリッドハートにすごく興味津々だった」
「クリスに?」
自分のデバイスが話題に上ったことに首を傾げるヴィヴィオ。その傍らで浮遊しているウサギ型のセイクリッドハートも、同じように頭を傾けた。
「なんでも、昔からウサギ系のグッズに目がないみたい。ヴィータちゃんのバリアジャケットのウサギの帽子を見て、目をキラキラ輝かせていたし・・・・・・死神さんが義骸から抜け出す際に服用する『ソウル*キャンディ』っていうアイテムも、ウサギの形してたんだよね」
「それ聞いたらますます会いたくなっちゃったよー! ウサギ好きの人に悪い人はいないから!」
ヴィヴィオの声が弾む。なのはは娘の熱心な様子を見て、微笑みながら答えた。
「はははは、もうヴィヴィオったら」
ウサギ好きという共通点を見つけたことで、ヴィヴィオの心の中にはルキアへの親近感が広がった。それは、なのはの顔にも自然と笑みをもたらす。
「ところでママ。話は変わるんだけど・・・」
ヴィヴィオの声が唐突に話題を切り替える。その真剣な口調に、なのはは反射的に顔を向けた。
「最近ユーノさんとはどこまで進んだの?」
その問いは、テーブルの上の平穏を一瞬で打ち破るものだった。なのはの顔が一気に真っ赤になり、口に含んでいたご飯を勢いよく吹き出した。
「な、な、な・・・何を言い出すの急に!? 私とユーノ君は別にその・・・・・・」
動揺するなのはの姿を見たヴィヴィオは、不敵な笑みを浮かべながらさらなる追及を続ける。
「ユーノさんとは幼馴染で魔法の先生で、今は恋人同士なんだよね? フェイトママから聞いたよ。この前みんなが見てる前でキスしたって♪」
「あ、あれは私を助けるためにユーノ君がしたことであって・・・!! その・・・・・・救済処置というかなんというか・・・・・・!!」
焦りに満ちた声で反論を試みるなのはだったが、ヴィヴィオのからかい交じりの視線に、その言葉は次第に力を失っていく。
「あ~あ。せっかくユーノさんとイイ感じなのに、肝心のママがそんな奥手じゃ、ユーノさんも大変だなー。ねぇ、クリス?」
ヴィヴィオの言葉に応じ、セイクリッドハートが浮遊したまま困惑の色を滲ませた動きを見せる。
「もう~ヴィヴィオーってば! 大人をからかうんじゃないの!」
なのはは思わず身を乗り出し、顔を赤く染めたまま娘を叱った――その時。
ピンポーン! 玄関のチャイムが響く。
「あ、わたし出てくるよー!」
ヴィヴィオが勢いよく立ち上がり、玄関へと駆け出していく。その背中を見送りながら、なのはは吹きこぼしたご飯粒を布巾で拭き取った。
「まったくヴィヴィオったら・・・・・・イッチョ前に人の恋愛に首突っ込んで・・・・・・」
無遠慮に成長する我が子の言動に日々悩みながら手を動かしていると、玄関から元気な声が聞こえてきた。
「ママー! お客さん、ユーノさんが来たよー!」
「ふぇ!? ユーノ君!?」
突然の来訪に、なのはは声を裏返しながら立ち上がった。玄関へ慌てて向かうと、そこには帽子を手にしたユーノが柔和な表情で立っていた。
「食事中に突然押しかけてごめんね。IDカード、ロッカールームの前に落ちてたって清掃のおばさんが言ってきてさ、届けにきたんだ」
ユーノは差し出したカードをなのはに渡す。そのカードを受け取りながら、なのはは申し訳なさそうに笑みを浮かべた。
「わざわざありがとう。にゃはは、私ったらほんとドジだね」
「次から気をつけてね。それじゃあ、僕はこの辺でお暇させてもらうよ」
長居は無用とばかり、ユーノは早々に立ち去ろうと身を翻すが、なのはは咄嗟に引き止めた。
「あ、待って! せっかく来てくれたんだし・・・コーヒーでも飲んでってよ?」
「でも迷惑じゃ?」
「迷惑じゃない、迷惑じゃないから!! 私がそうしたいから・・・・・・ヴィヴィオもいいよね?」
「うん! わたしもユーノさんと話したいこと、たくさんあるんです!」
迷惑ではないと懸命に伝える母娘の言葉に押され、ユーノは柔らかく頷いた。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらうね」
どうにか家に引き留めることが出来たなのはは、後片付けを済ませると手際よくキッチンでコーヒーを淹れ、ユーノの前に一杯を差し出した。湯気の立ち上るカップから香ばしい香りが漂う。
ユーノはコーヒーを手に取り、ゆっくりと口に含む。そして満足そうな顔を浮かべながら言った。
「うん。やっぱり人気喫茶店の二代目と期待されていただけあって、コーヒーの淹れ方も上等だよ。白鳥さんも気に入ると思うよ」
「ありがとう。でもお父さんのと比べれば、私のなんかまだまだだって」
素直に褒め言葉を受け取りながらも、なのはは控えめに答える。だがその内心には、確かな嬉しさが広がっていた。しかし、それから先の会話はなぜか続かず、静かな沈黙が二人の間に流れ込む。
(どうしよう・・・・・・会話が思いつかない・・・・・・おかしいな・・・・・・ユーノ君とはいつも話してるのに・・・・・・変に緊張しちゃってうまく話せない・・・・・・何か言わなきゃ、でも何を言えば・・・・・・!?)
普段は自然と出てくるはずの言葉が、意識することで一向に浮かばない。その事態に戸惑いを隠せないなのはの表情が、僅かに硬くなる。
ユーノは彼女の変化に気付き、優しく問いかけた。
「どうかしたのなのは?」
「え!? あぁ、うんうん! 何でもないの!!」
なのはは慌てて取り繕い、言葉を急ぎ足で並べた。その時、ヴィヴィオが宿題帳を抱えてリビングに戻ってきた。
「ユーノさん!! すみません、宿題でわからないところがあるんですが・・・・・・厚かましいお願いなんですけど、見てもらえませんか!?」
「全然厚かましくなんかないよ。僕でよければ教えてあげるね」
ユーノは席を立ち、ヴィヴィオのそばに移動する。そして宿題帳を手に取りながら彼女の隣に腰を下ろした。
「この高速詠唱の際の方陣制御方程式の変化についてなんですけど・・・」
「へぇー、けっこう複雑なところやってるんだね」
「選択授業で出た課題なんですけど、それが思いのほか難しくて」
ヴィヴィオの話を丁寧に聞きながら、ユーノは問題の解き方をゆっくりと説明し始めた。
「これはね、圧縮した詠唱文に対して生成する魔法陣の式をこう・・・こう・・・で、最後に一括でコード変換すると」
「あー! そうか!! こうすれば解けるんだ!!」
「ついでだから、詠唱破棄の時のエンコード方法も教える?」
「はい! お願いします!!」
なのはは、そのやり取りを少し離れたところから見守っていた。自然と頬に笑みが浮かぶが、その中にはふとした孤独感も混じる。
〈Are you all right, Master?(だいじょうぶですか、マスター?)〉
「あ、うん。大丈夫だよ・・・・・・多分ね・・・・・・」
見かねたレイジングハートの問いかけに、なのはは曖昧に応じる。視線は再び楽しそうに話すユーノとヴィヴィオに戻った。その場に加わりたい気持ちはあるのに、一歩を踏み出すことを躊躇わせる感情が胸を締め付ける。
(ヴィヴィオはユーノ君をとても信頼してる。私には、あんな風に勉強を教えたり、話を聞いてあげたりする余裕なんてあっただろうか・・・・・・)
〈By the way, those two look like a picture-perfect father and daughter having a typical conversation.(それにしても、あの二人を見ていると絵に描いたような仲睦まじい父と娘の日常会話に思えますね)〉
「うん・・・ほんとにそう・・・・・・」
なのはは曖昧に同意しながらも、胸中では複雑な感情が渦巻いていた。家族としての絆、自分の役割への不安――それが彼女の中で静かに交錯している。
(戦いの中でしか役に立てない自分が情けない。だけど、あの二人が笑顔でいてくれるなら・・・・・・それだけでいいのかな)
深く息を吐きながら、なのはは自分を落ち着かせる。心の中で、僅かな希望と不安が入り混じりながらも、新たな未来への期待が静かに芽生え始めていた。
(いつか、あんな風に三人で暮らせる日がくるといいな・・・・・・)
その思いを胸に抱きながら、なのはは二人の笑顔を静かに見つめ続けた。
◇
8月6日――
機動六課 ミッドチルダ地上隊舎 休憩スペース
吉良が休憩室の前を通りかかると、恋次が神妙な顔つきで座り込んでいるのが目に入った。その表情には、彼にしては珍しく深い思案の色が浮かんでいる。
「どうかしたのかい?」
彼らしからぬ態度に疑問を抱いた吉良が声をかけると、恋次は一瞬目を逸らした後、重々しい口調で答えた。
「・・・・・・なんつーかな。京楽隊長の判断は正しかったのかって思ってよ」
その言葉から察するに、彼の心はルキアのことで揺れているのだと吉良は悟る。
「彼女は此処に来るべきじゃなかった、とでも言いたいのかい?」
「だってよ・・・・・・護神大戦の一件で浮竹隊長はずっと寝込んじまってるし、今ルキアを動かすのは適切じゃねーだろ?」
恋次の声には、彼自身も抱えきれない不安が滲んでいる。その様子に吉良は静かに応じた。
「そうだとしても、全てのアンゴルモア回収には彼女の力が必要だった。総隊長はそう判断したんじゃないのかな? 君だって、今の彼女の実力ぐらい知っているだろう?」
「わかってる! わかってるんだけどよ・・・・・・素直に喜べねーだろ」
恋次の言葉には、夫としての複雑な心情が込められていた。未知なる脅威と立ち向かう妻を送り出すのは、決して気楽なことではない。
ブーッ、ブーッ、ブーッ。
ちょうどその時、アンゴルモア発見を報せる警報が鳴り響いた。
「アンゴルモアが見つかったようだね」
「あぁ・・・・・・おっし! 気合いれるぜ!」
自分を奮い立たせるように、恋次は両頬をパチンと叩き活を入れた。そして、休憩室を飛び出そうとした瞬間――
バンッと、扉が勢いよく開き、そこにルキアが現れる。勢い余った恋次と正面衝突し、互いに額をぶつけ合う結果となった。
「「痛っ!」」
吉良が呆気にとられる中、二人は尻もちを突き、涙目になりながら額を押さえる。
「ててて・・・恋次、貴様どこを見ているのだ!?」
「そりゃこっちの台詞だよ! オメーこそ何やってる、ここは休憩室だぜ!?」
「す、すまぬ。司令室へ向かおうとしていたのが・・・・・・まだこの隊舎の中を把握して切れていないものでな、あちこち走り回っておった」
「ったく。司令室ならこっちだよ。連れってやるから」
恋次はさりげなくルキアを起こし、そのまま司令室へ向かって歩き出す。その後ろ姿を見送っていた吉良は、ふと口元を綻ばせた。
(なんだかんだ言いつつも、彼女が来て一番喜んでるのは阿散井君本人みたいだけど)
*
同隊舎内 総合司令室
アンゴルモアの新たな反応先が確認され、前線メンバー全員が総合司令室に集まり、メインモニターに目を向けていた。
「今回の場所は・・・また厄介なところやな・・・」
はやてが呟く言葉に、フェイトや隊長陣達も同意するような表情を浮かべていた。次なる世界の状況は、これまでと比べてもかなり勝手が違っていた。
「第24管理外世界『パスタル』。惑星の八割が密林で形成されています」
アルトの説明に、隊員達は険しい表情を隠せない。
「アンゴルモアの反応はどのあたりだ?」
クロノの問いに応じ、ルキノがタッチパネルを操作して正確な位置の特定を試みる。
「密林の奥深く・・・この辺りです!」
メインモニターに表示されたマップの中央付近に赤い斑点が浮かび上がる。それを見つめながら、ルキノは続けた。
「大気中に濃密な微粒子が浮遊しています。平均して300メートル以下・・・これは?」
「どうした?」
「電波障害が発生しています。ただの霧では無いようです。各種センサーモニターに切り替えます」
映像を切り替えても、霧の深さと複雑な地形が視覚的な把握を難しくしていた。
「かなり複雑な地形のようだな」
「レーダースキャンの精度を上げられないのか?」
シグナムが厳しい声で問いかけるが、シャリオとルキノは共に難しい表情を浮かべて答えた。
「レーダー波が乱反射してこれが限界です。最新のサテライトですら全く映らない程の濃霧・・・・・・まさに現代の魔境ですね」
「あまつさえ、電波障害を伴う変質した大気は人体にとって有毒な微粒子を豊富に含んでいます。あまり長居したくない場所です」
「少数人数での捜索は危険かもしれへんな・・・・・・よし、全員十分後にヴォルフムへ搭乗! 前線メンバー全員で捜索に当たる!」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「了解(おう)(ああ)(承知)」」」」」」」」」」」」」」」」」」
はやての指示に全員が潔く応じた。その後、ユーノは初めての異世界任務となるルキアに対して申し訳なさそうに言葉をかける。
「ルキアさん、いきなりハードな初出動になってしまい申し訳ありません」
「いえ、私の事はお気になさらず。死神たるもの、危険な任務には慣れております。これでも十三番隊上位席官ですから」
だがその時、恋次は不安げに口を開いた。
「だがよルキア。異世界は
「戯け。貴様に心配されるほど軟弱ではない。むしろ私は貴様の方が心配でならん」
「おいおい、俺のどこが心配なんだよ!? 俺だって立派に隊長職に就いてるっつーの!」
「元来無鉄砲な性格の貴様の事だ。不調法に敵の術中に嵌まったり、要らぬ攻撃を受けたりしていそうなものだが」
「そ、そんなわけねーだろう! 俺はそこまで間抜けじゃねーよ! なぁ、オメーらもなんか言ってやれ!」
恋次が助けを求めるように周囲を見回すが、苦笑いを浮かべる者や声を押し殺して笑う者ばかりで、誰一人として彼の弁護をしようとはしない。
その様子を見て、ルキアは勝ち誇ったように口を開いた。
「どうだ。これが貴様への嘘偽りのない評価だ。今までどうにかなっていたのは、貴様単独の力ではない。傍で見守っていた吉良副隊長やユーノ殿のサポート、それに機動六課の優秀な人員がいたからなのだ。恋次よ、上に立つ者ならば常日頃から周りの人間には感謝の意を述べねばならぬぞ」
「ぬぅぅ・・・・・・」
まるで母親の如く説教を喰らう恋次。その光景を見て、全線メンバーは微妙に同情しつつも笑いを堪えていた。一方で、なのはは念話越しにユーノへ問いかける。
(なんだかルキアさんって・・・・・・恋次さんのお母さんみたいだね)
(ま、恋次さんからすればあまり良い思いはしないだろうけど・・・・・・)
*
第24管理外世界「パスタル」
成層圏 高度60キロ付近
「間もなく降下ポイントです!」
操舵手ルキノの掛け声が響く中、ヴォルフラムが降下ポイントへと向かう。しかしその時、ゴン、と船体に鈍い音と衝撃が走る。
「なんだ!?」
「機外に何らかの障害物が接触した模様。動力、操舵、いずれも問題ありません」
「障害物だと?」
一体何が接触したのか、メンバーの間に不安が広がる。それでもヴォルフラムは足場の比較的良い場所を探りつつ、無事に降下を完了させた。
カモフラージュシステムを作動させ、森の中に着地したヴォルフラム。前線メンバーが次々と船外へ出ようとする中、ユーノが声を張り上げる。
「はいはい! 死神のみなさーん、注目でーす!」
その呼びかけに応じ、恋次達は一旦ユーノの方へ視線を向ける。
「現地の大気構成はミッド地上とは異なります。酸素マスクなしに外に出れば窒息してしまいますので、これを――」
ユーノは簡単に説明を終えると、小さな固形物を配り始めた。
「これは?」
ルキアが疑問を口にしながら、その小さな物体を手に取って観察する。
「『食用防護服』です。食べれば見えない防護服を身にまとった状態となり、過酷な環境でも活動できます」
「ほー。そりゃすげーじゃねーか」
感心する恋次の隣で白鳥が一口食べると、その味に驚嘆の声を上げた。
「うむ、美味であるな。ブルマンのコーヒー味を再現しているぞ」
「こっちはチョコレート味だ」
「おぉ!! 私のは白玉あんみつ味ではないか!!」
吉良とルキアもそれぞれ口へ運び、味を確認して感想を述べる。特にルキアは、自分の好物の味に感動した様子を見せた。
「ちょっとした遊び心です。さ、恋次さんもどうぞ♪」
「ま。俺は別に味なんてなんでもいいんだが・・・」
ユーノが微笑みながら勧めると、恋次は少し警戒しながらも固形物を口に入れる。
だが、その瞬間――
「ぶおおおおおおおおおおおおおお!!!
突如として口いっぱいに広がる凄まじい刺激。恋次は思わず口から火を噴きそうな勢いで叫び声を上げた。唇がただれるような辛さに顔を歪める。
「あちゃ~、デスソース味に当たったみたいですねー」
ユーノは扇子で口元を隠しながら、運悪くハズレを引いた恋次を憐れむような目で見ていた。
「頼んでもいねーオプション付けんじゃねーよ!! 携帯会社かテメーは!!」
恋次の怒号が森の静寂を切り裂いた。
散々な目に遭った恋次は外に出て地面に足を踏みしめ、深呼吸を一つ吐く。隣ではルキアも新たな異世界の空気を感じ取り、目を見張った。
この世界は、大部分が密林によって構成された未開拓地。深い霧が一帯を覆い、太陽の光さえも殆ど届かない。人間が住んでいる形跡は全く見当たらず、辺りには静寂と未知が広がっている。
「ほう・・・・・・さすがは異世界。ミッドチルダとはまた様相もかなり異なるもののようだな」
ルキアがそう感想を漏らすと、恋次が得意げに鼻を鳴らしながら言った。
「この程度で驚いてんじゃねーぞ。異世界っつーのは、俺らの常識が通じねーことが山ほどあるんだよ。異世界経験豊富な俺が言うんだから間違いねぇ!」
「なぜそんな上から目線なのだ貴様は?」
呆れたようにルキアが返す中、吉良が彼女にそっと耳打ちをした。
「君の前だからカッコつけたいんだよ」
「あ。なるほど」
その一言で恋次の意図を理解したルキアは、小さく頷いて笑みを浮かべた。そんな中、なのはが全員に向けて声を上げた。
「この先は数人単位で捜索にあたります。電波障害で機器類がほぼ役に立たないから、何か見つけた時や危険を察知したら、スクライアアドバイザーから渡された閃光弾を放って自分の位置を知らせるようにしてください」
「「「「了解!」」」」」
「ルキアさん、初参加という事であなたは恋次さんとペアを組んでもらいます」
「恋次とだと?」
「おいおい、それマジで言ってるのか? なのは・・・今のはお前の独断か? それとも誰かの差し金か?」
「え、えっと・・・・・・はやてちゃんが」
申し訳なさそうに答えるなのはを見て、案の定はやての仕業だと悟った恋次は、内心で憤りを募らせる。
(あのヤロウ、完全にオモシロがりやがって! 帰ったらただじゃおかねーからな!)
一方、ユーノはヴォルフラムの外で一人、気になるものに目を留め立ち尽くしていた。
「どうしたの?」
気になって声をかけたのはフェイト。ユーノは彼女の声に反応し、ヴォルフラムにできた傷跡を指差した。
「さっき言ってた障害物がさ・・・・・・どんなものかと思ってね」
「! これって・・・」
フェイトもその跡を目にして驚愕する。それは、まるで何かが引っ掻いたかのような鋭い爪痕に酷似していた。
メンバー各位が移動を開始する。部隊長のえり好みでペアを組まされた恋次とルキアは、死神としての身体能力を活かし、瞬歩で軽快に森を駆け抜けていく。
しかし、道中で恋次が明らかに自分を避けるようにしていることがルキアの目に留まった。
「恋次。さっきから何を不貞腐れているのだ?」
「不貞腐れてなんかねーよ」
ぶっきらぼうな返答をよこす恋次に、ルキアは岩肌に足を下ろして隣に立つと静かに言った。
「ならば少しは私の方を見ろ。夫婦だろ」
次の足場へ飛ぼうとした恋次は、その一言に思わず力が抜けそうになる。そして渋々ルキアの方を見て答えた。
「あのな! ここではそういうプライベートな話は控えろ! 仮にも任務中だぜ。だいたいなんでオメーまで派遣されるんだよ、
「苺花なら元気に過ごしておる。霊術院での成績も上々だし、近頃は斑目副隊長のところで稽古に励むのが楽しいようでな。新しい技にも挑戦しているらしいぞ。心配が無いと言えば嘘になるが、お陰で、私も安心して十三番隊副隊長としての職務に専念できるというものだ。お前こそ、そういう子供染みた心配はやめたらどうだ?」
「だ、誰が子供染みてるってんだよ!? ・・・・・・けど、無茶だけはするんじゃねーぞ。お前がいなくなったら、苺花が寂しがるからな」
「・・・あら、恋次さん♪ あなたも意外と殊勝な心掛けをお持ちなのですね♪」
「どこの家のおばさんだよテメーは! 茶化してんじゃねーぞ!」
その直後――。
「! 待て、恋次!」
突然のルキアの制止に、恋次が足を止めて振り返る。ルキアは周囲の霧を鋭く観察していた。
「・・・この霧、何か妙だ」
「妙って・・・ただの霧じゃねえのか?」
「いや。この濃さ、風の動き、そして・・・足元の感覚」
ルキアは地面にしゃがみ込み、草や土を探るように手を伸ばした。その手が何かを掴むと、慎重に引き上げる。
「なんだよそれ?」恋次が怪訝そうに聞く。
「かなり原始的な罠だ。この蔓草を引けば、どこかで仕掛けられた落とし穴や重りが作動する。見た目は単純だが、この霧が罠を巧妙に隠している」
ルキアは蔦をそっと地面に戻し、周囲を観察しながら冷静に言葉を続けた。
「この霧はただの自然現象ではない。我々の視覚だけでなく、霊覚すら狂わせている・・・さながら、死神を殺すために設えた、見えざる
「なんだそりゃ・・・罠だらけの迷路に、んな厄介なもんまで混じってるのかよ!?」
話を聞きながら、恋次が唾を飲み込む。
「おそらく、この霧は現地の生態系か、それに影響を受けた“何者か”が作り出しているのだろう」
ルキアの冷静な分析に、恋次は複雑な表情を浮かべた。
「霧のおかげで、ただの罠がこんなに厄介になるなんてな・・・」
「恋次、私に感謝するのだぞ。もしもお前一人だったら、間違いなく現地人に捕らえられていたところだ」
「って! 俺はそこまでとんまじゃねー!」
感情的に言葉を荒らげたその瞬間――草鞍の底が芝で滑り、恋次は体労を崩す。
「ぬああああああ!」
「恋次!」
叫び声と共に地面へと落下した恋次を、ルキアは息を呑んで見守る。彼女の眼差しは憂慮に満ちていた。急ぎ駆け寄るその姿は、片時も夫を見放さぬという妻としての決意そのものだった。
「大丈夫か!?」
「あぁ・・・・・・チクショー、俺も焼きが回ったもんだぜ」
その声には、己の不甲斐なさへの苛立ちが滲んでいた。恋次が身を起こすや否や、ルキアは無言で手拭いを取り出し、躊躇いなく顔に伸ばす。
「動くな」
その一言に促され、恋次は驚きと困惑を隠せない。彼の頬を拭うルキアの指先は、どこか優しさに満ちていた。
「まったく貴様という奴は。出会った頃から何も変わってない。粗野でぶっきらぼうで、直ぐに調子に乗って」
「う、ウルセー」
「だが、ぶっきらぼうながら人を思いやる気持ちは誰よりも強い。私が好いた男はまこと罪深き男だ」
「・・・・・・・・・」
思わず照れ隠しをする恋次。その仕草はどこか不器用でありながらも、誠実さが滲んでいた。やがて、泥を拭った後にルキアが恋次の方を見ながら言葉を紡ぐ。
「恋次。お前は私がここに来た事を内心快く思っていないだろうな。だがな、私も十三隊の一角を担う死神だ。危険は常に取り合わせだ。お前が私の身を案じるように、私も戦地に赴く恋次の身を常に案じている」
「ルキア・・・・・・・・・すまねぇ」
片意地を張っていた自分を愚かだと思い、恋次はルキアに謝辞を述べる。
「何を謝る必要がある。家族の身を案じぬ亭主がどこにいるというのだ?」
その時――恋次の耳に微かに奇妙な物音が届いた。それは不気味な唸り声のようであり、森の静寂をかき乱すものだった。
「ルキア・・・何か変な音が聞こえねぇか・・・?」
「変な音だと?」
恋次に促され、ルキアも耳を澄ませる。すると、その奇妙な音は徐々に大きくなり、確実にこちらへ迫ってきた。
「何だろうな・・・この気味わりー音・・・!?」
「分からぬ。だが、果てしなく危険な予感がしてならぬ・・・・・・」
次の刹那――森を突き破り、二人の眼前に姿を現したのは巨大な生物だった。その体表は岩のようにごつごつした皮膚で覆われ、丸い口には無数の鋭い牙が並び、地面と木々をなぎ倒しながら猛然と突進してきた。
「「うおおおおああああ!!!!!!!」」
世にも恐ろしい存在に直面した二人は、反射的に全力でその場から逃げ出した。任務のことなど頭の片隅にもなく、ただ逃れることだけに集中する。
「んだよありゃー!?」
「私に
だが、逃げる途中で恋次は足元に生えていた植物の蔦に絡まり、勢いよく転倒した。
「ぐああああ!!」
「恋次っ!!」
ルキアはすぐさま恋次の元へ駆け寄り、起こそうとする。だが、巨大生物は彼らに追いつき、その凶悪な顎を振り上げた。
「く・・・っ! 破道の三十三 『
咄嗟の判断で、ルキアが破道の一撃を放つ。蒼炎の奔流が生物を吹き飛ばし、彼方へと弾き飛ばした。
「今だ!! 逃げるぞ!!」
恋次を抱え上げたルキアは瞬歩を使い、その場を離脱する。
「助かったぜ、ルキア!」
「あんなところで転ぶ奴があるか。貴様にもしもの事が遭ったら、苺花に顔向けが出来ん」
「そうだな・・・・・・」
辛くも窮地を脱した二人だったが、安堵する暇もなく、新たな危機が迫る。
「おっと!」
突如飛来した矢に驚愕する恋次。
「誰だ!」
ルキアが声を張り上げて呼びかけると、森の奥から現れたのは褐色の肌を持つ人型の種族だった。彼らの肌には白い紋様が浮かび上がり、全員が木製の仮面をつけ、武器を構えて二人を取り囲んでいた。
「こやつら・・・・・・」
「まださっきの奴よりは話が通じそうな感じだが」
淡い期待を抱きつつも、恋次が見る限り、彼らの武器は二人を狙ったまま微動だにしない。ルキアは結末を察しながら、恋次に問いかけた。
「この場合、相手を刺激せず穏便に事を済ますにはどうするのが正しい?」
「多分“手を挙げろ”だな」
恋次とルキアは大人しく両手を挙げ、降参の意志を示す。だが、彼らを囲む者達は何事かを呟きながら、慎重に二人へと近づいてくる。その動きはまるで儀式のように規則正しく、不気味な静けさを纏っていた。
「・・・俺達を“余所者”として警戒しているな」
恋次が声を低くする中、ルキアも静かに呟く。
「文化的背景が絡んでいるのかもしれん。下手に抵抗すれば、ただの捕虜から“敵”に変わるぞ」
「だからって、こんな奴らに簡単に縛られるのはどうにも気に食わねえな・・・」
恋次の不満が零れる中、相手の包囲網はますます狭まり、ついには二人の手に縄が投げられた。身柄を拘束された恋次とルキアは、思わぬ襲撃者達の手に完全に囚われることとなった。
*
密林地帯 東エリア
一方、別の付近を偵察しながらアンゴルモア反応を追っていたスバル、浦太郎、ユーノの三人。
「信じられないなー。どういう進化の過程を経てこんな植生になったんだ?」
「明らかに普通の進化じゃないことは確かですね」
浦太郎の感嘆に応えるユーノ。その言葉は、目の前の異常な植生が科学的に説明できないことを示唆していた。そんな中、スバルがふと好奇心から周囲の植物の葉に手を伸ばそうとする。
「っ! ダメだ!」
瞬時にユーノが語気を強めて制止する。その鋭い声に驚き、スバルは一瞬動きを止めた。ユーノは懐から取り出したカッターナイフを手に、葉っぱにそっと刃を当てる。だが次の瞬間、刃があっさりと折れてしまった。
「場所によっては刃物のように鋭利だ。やたらとその辺お触りしない方が身のためだよ」
「す、すみません!」
スバルが恐縮して謝る中、浦太郎が近くの木に目を留めた。そこには、船で見つけたものと酷似した引っ掻き傷が刻まれている。
「これは・・・」
浦太郎が低く呟いたその時、森の向こうから閃光弾が空へと放たれるのが見えた。
「あれは!」
「行ってみよう」
ユーノの指示に従い、三人は急いで閃光弾の発射地点へ向かう。そこには既に召集された仲間達の殆どが集まっていた。
「どうしたんだい?」
訳を尋ねるユーノの視線の先に広がっていたのは、すっかり廃墟と化した人工建造物だった。
「あれは!」
「まさか、この星にもかつて文明が栄えていたってこと?」
周囲の異様な光景に驚きつつ、六課メンバーは探索を開始する。ユーノは苔むした地面を調べ、その場所に刻まれた時間の痕跡を読み取った。
「なるほど。はじめは遺跡の表面を苗床としていた地衣類が化石化したものだね。その後に建材は完全に風化したが、石灰化した
「これが・・・この星の文明? ここに人間が暮らしてた?」
「必ずしも人間であったという保証はどこにも無いがな」
その時、森の奥から激しい気配が急速に接近してきた。ユーノは素早く異常を察知し、目を見開いて刀を抜き放つ。
「ユーノ君、どうしたの?」
「何か来る・・・全員用心しろ!」
ユーノの警告が響き渡る刹那、森を薙ぎ倒しながら全長十数メートルの翼竜型生物が突進してきた。そのあまりにも突然の事態に、一瞬場が凍りつく。
「何こいつら!?」
「熱烈歓迎って、言うわけでもねーよな!!」
一匹を皮切りに、何十匹もの群れが次々と現れ、メンバーに襲い掛かる。彼らは即座に自己防衛のため迎撃を開始した。
「うらああああああ」
ヴィータがアイゼンを振り下ろし、翼竜を叩きつける。
「シューット!!」
「ウォーターホイッパー!」
ティアナと浦太郎も攻撃を加えるが、怪物達の皮膚は金属のように硬く、通常の魔力弾や水流魔法では殆ど効果を与えられない。
その時、別の翼竜がティアナの背後から大口を開けて襲い掛かる。
「アルケミックチェーン!」
咄嗟にキャロが錬鉄を召喚し、怪物を縛り付けた。
「ありがとうキャロ!」
「いえ! これくらい・・・・・・!」
だが、キャロ一人の力では怪物を完全に抑えることはできなかった。凄まじい力で錬鉄を引き千切り、怪物は拘束を逃れる。
「きゃあ!」
反動でキャロがよろめく隙を突き、怪物が再び襲い掛かる。
「キャロ!! 危ない!!」
フェイトの警告も間に合わず、キャロが捕食されそうになったその瞬間、彼女の懐から神々しい光が放たれた。
「え?!」
キャロと周囲の視線が光に奪われる。その輝きは怪物達の目を眩ませるだけでなく、彼らを恐怖に駆り立て、一目散に逃げ去らせた。
「なにが・・・・・・あったの・・・・・・?」
全員が急な展開に困惑する中、キャロは懐から物を取り出した。それはスプールスで遭遇したエカテリーナの魂が結晶化した宝玉であり、ほんのりと熱を帯びていた。
「・・・・・・守ってくれてありがとう、エカテリーナ」
キャロは薄ら涙を浮かべながら、宝玉に込められた厚意に感謝した。
*
時空管理局LS級艦船「ヴォルフラム」
窮地を脱し、六課メンバーはヴォルフラムへと一旦帰還した。
「全員無事で良かったですー」
リインの声には、心底からの安堵が滲んでいた。仲間達の無事を確認し、彼女はホッと息をつく。
「えらいのに遭遇したもんや。ほいで、スクライアアドバイザーはこれをどう見る?」
はやてがユーノに問いかける。その視線には信頼と期待が込められている。
「恐らくは、この
ユーノは持ち帰ったデータを解析しながら、慎重に推測を述べる。
「地上で見つかった廃墟についてはどうだ?」
すると、今度はヴィータが質問を投げかけた。
「遺跡表面の苔を採取して調べたところ、炭素年代測定からあの遺跡は今から五五〇〇年から誤差五十年の範囲で滅亡したってところだね」
「よくあの短時間で調べられるねー」なのはが感心した様子で声を上げる。
「これでも考古学者の端くれだからね。とりわけ興味深いのは、この猛獣と森の植物の細胞の特性だ」
そう言いながら、ユーノは怪物と植物から得られたデータを基にしたゲノム解析の結果をモニターに映し出した。
「動物・植物の違いはあれ、共通する要素が多岐に渡る。とりわけ金属に極めて酷似した特性と強い磁気を発生させる生態活動。驚くべきは、植物までもが似たような特性を備えているという点だな」
「じゃあ、電波障害を起こしているこの霧って言うのは、まさか・・・!」
クロノが何かに気づいた様子で問いかける。ユーノは冷静に答えた。
「空気中の微粒子は、この森の植物が放出する花粉だ。さながら“天然のチャフ”とでも言ったところだな」
「ただの気象現象じゃなくて、生物が由来となれば、この霧は森を丸ごと焼き払わない限り解消されないってことだね?」
「なら、あたしとシグナムが居れば一太刀で焼き払える!」
顎に手を当てながら状況を整理するフェイト。その隣で、アギトが自信満々に楽観的な提案を口にする。しかし、ユーノはすぐにその意見に釘を刺した。
「いや、事はそう簡単に解決できるものじゃない。森を焼き払ったところで、あれを更に上回る怪物が出てきたらどうする? それこそアンゴルモアの力を取り込んでいたとすれば・・・・・・」
「んだよ、翡翠の魔導死神のクセしてずいぶんと弱腰だな!」
「いや、スクライアの言う通りだ。異世界では軽はずみな行動が命取りとなる。ここは慎重に行動せねばならぬ」
シグナムが毅然とした態度でアギトを諭す。その言葉に、場の空気が引き締まる。
「一旦全員を集めて、今後のプランを練り直さなあかんな」
はやてがまとめに入るが、なのはがふと気づいたように口を開いた。
「全員って・・・・・・恋次さんとルキアさんがまだ戻ってきてないけど?」
「なんだって!?」
なのはの言葉に、ユーノは驚きと不安を露わにした。
*
密林地帯 北エリア
謎の人型種族に連行された恋次とルキア。二人が案内されたのは、人型種族が
「地底の王国・・・なのか?」
「さながらアリの巣だな」
眼前に広がる異様な光景を見ながら二人は移動を続ける。しかし、ルキアはこの世界の大気について疑問を抱いた。
「それにしても、この世界の大気は人体にとって有毒なはずなのに・・・なぜ彼らは平気でいられるんだ?」
「こういう時ほど、偉大なユーノ様が居てくれたらどれだけ心強い事だろうな」
恋次はユーノの存在がいかに頼りになるかを思いながら答える。
「早くここから脱出して、皆と合流しないとな」
「アンゴルモアもまだ見つけてもいねぇ。手ぶらでなんて帰れねぇだろ」
二人がそんな会話を交わしているうちに、到着したのは洞窟の中でも一際異彩を放つ空間だった。岩肌には謎めいた壁画が描かれ、数名の人型種族が祈りを捧げている。
「何をするつもりなのだ?」
「生贄なら願い下げだぜ」
二人は警戒を強めながら状況を見守る。その時、人型種族が壁画に描かれた神に向けて祈りを捧げると、淡い光が広がり、恋次とルキアの頭に突き刺さるような痛みが走った。
次の瞬間――言葉が頭の中に流れ込む。
【ハルモニアを称えよ。大地の祈りこそレムニアの意向。宵闇を照らす光を、内なる眼に注げ】
「これは・・・頭の中に言葉が流れ込んでくる!? 思念通話の一種か?」
「どっちかって言うと“
突如始まったテレパシーでの会話に戸惑いながらも、二人は冷静に状況を見極めようとする。やがて、人型種族がさらなる言葉を投げかけてきた。
【ハルモニアの歌を歌い、ワタリガラスに問う。何故この地へ現れた? ワタリガラスは死の翼か?】
「我々は・・・・・・お前たちと敵対する意思はない! アンゴルモアを探す為にここへ来たのだ!」
ルキアは簡潔に目的を伝える。すると、彼らは「アンゴルモア」という言葉に反応し、互いに精神感応でその意味を探り始めた。
【アンゴルモア・・・・・・キラムの類か。破壊、恐怖。我らが神、敵。ワタリガラスはキラムに
「キラム? それは一体何だ?」
「もしかすると、そいつがアンゴルモアモンスターなんじゃ?」
恋次は、現地人が口にするキラムがAM体ではないかと推測する。その中でさらに続くレムニアの言葉。
【ワタリガラスは死の翼に
「なんだと?」
「俺達じゃ勝てない・・・とでも言いてーのか?」
【レムニアの神もキラムに敗れた。挑む者、抗う者、全て炎に呑まれ消える】
「そんな事は無い。我々は課せられた使命を果たす。それだけだ!」
ルキアの力強い声が洞窟に響く。レムニアの種族は、そんな二人に対してさらなる言葉を贈った。
【旅の終わりは、ワタリガラスの望むがままに。それでもレムニアは、調和と命の道を示す】
「調和、ね・・・・・・」
その言葉が自分たちにどのような意味をもたらすのか。恋次は険しい表情を浮かべながら、深く考え込んだ。
*
密林地帯 機動六課ベースキャンプ
消息を絶った恋次とルキアの霊圧を追跡するため、吉良は
「吉良さん、恋次さん達の霊圧は追えますか?」
ユーノが術を行使する吉良に静かに問いかける。その声には一抹の焦りが滲んでいた。やがて、術式が完成し、吉良は結果を報告する。
「ここから北北東・・・・・・大分離れた場所みたいですね。おそらく、アンゴルモアを探そうと森の奥まで入っていったんでしょう。阿散井君の悪い癖だ。朽木さんの前だとついカッコつけたくなるんですよ」
「なるほど。でもその気持ち、わからなくもありません。男だったら誰しもが持ってしまう非合理的な感情かと」
ユーノは頷きながら答えた。その一方で、彼はふと隣に立つなのはを一瞥。自分自身も彼女の前でつい無理をしてしまう傾向があることに気づき、苦笑が漏れた。
「ルキアさん・・・初めての異世界任務なのに、大丈夫かな?」
一方、なのはは静かに心配を口にする。その表情には、異世界という未知の環境で行動を共にするルキアの安全を案じる気持ちが現れていた。
不安げな彼女の顔を見て、ユーノは眉間に皺を寄せつつ、毅然とした口調で答える。
「とにかく早く二人を探さないと。いつあのバケモノが出てくるか分からないからね」
*
密林地帯 北エリア レムリアの住処
一方、レムニアの厚意で解放を許された恋次とルキアは、洞窟の外へと足を踏み出していた。
「ずいぶんあっさり解放してくれたもんだな」
「元来、争いを好む種族ではないのかもしれん」
ルキアはそう言いながら、彼らを外まで案内してくれた幼いレムニア人の子供に視線を向け、その背丈に合わせて屈み込み、優しく声をかけた。
「ありがとう。私達だけでも大丈夫だ」
「ルキア、言葉は通じねーぞ」
「我々がアンゴルモアを・・・・・・キラムとやらを倒しに来たことは伝わったはずだ」
「どうだろうな」
「解放の許可と刀まで返してくれた長老に、心から感謝するぞ」
警戒心を解けない恋次とは対照的に、ルキアは子供の頭を優しく撫でる仕草を見せた。
「行くぞ、ルキア」
「あぁ」
二人が出発しようとしたその時――
「いこう・・・」
突然、レムニアの子供が人語を発した。その声に驚いた二人は、思わず振り返った。
「ぼく・・・いっしょ・・・」
「私たちが発した言葉を覚えたのか!? だが、なぜ一緒に?」
「監視じゃねーのか?」
恋次の疑念をよそに、ルキアは子供の純粋な瞳をしばし見つめた後、静かに頷いた。
「・・・わかった。一緒に来てくれ」
ルキアが同行を許可すると、恋次は少し不満げな表情を浮かべながらも渋々それを受け入れた。
レムニア人の子供「ウンパ」と共に、二人はユーノ達の元へ戻ることにした。密林の中を歩きながら、恋次がベースキャンプとの距離について尋ねる。
「ルキア。ベースキャンプの位置までどのくらいだ?」
「この磁気異常の所為でコンパスも測位システムも役に立たん。すっかり方向感覚が狂ってしまった」
ルキアは、ユーノが改造した旧型伝令神機に搭載された最新のGPS機能がエラーを起こしていることを伝える。
「おまえ、まだ旧式だったのかよ・・・・・・いい加減換えたらどうなんだ?」
「旧式で事足りるのだ。別にいいだろう」
時代に迎合せず、十年以上前の旧式を使い続けるルキアの頑固さに恋次は呆れる。
「しっかしどうしたもんかな・・・・・・おぅ、そうだ! 鬼道があるじゃねーか! 掴趾追雀を使えば一発じゃだろ?」
「すまぬ恋次。あのバケモノから逃げる際、霊媒を落としてしまったようだ。それにこの森の中では頼みの霊覚すらも冴えん」
「ちっ・・・・・・ツイねーな」
追跡用の縛道を使えるのがルキアだけだったため、八方塞がりの状況に恋次は頭を抱えた。すると、心配そうに見上げるウンパの視線に気づき、恋次は表情を和らげた。
「ん・・・? あぁ、心配してくれんのか。えっと・・・・・・名前がねーと不便だな」
「・・・ウンパ」
その時、困った様子の恋次に、はっきりとした口調で名乗る。
レムニア人の子供が自らの名前を名乗る。その声にルキアは微笑みながら目線を合わせ、自分の名前を教えた。
「私はルキアだ。こっちの変なマユ毛の赤髪が恋次だ」
「変なマユ毛は余計だ! つーか変なマユ毛でもねーし!」
「る・・・きあ・・・・・・」
「そうだ。私の名前はルキアだ」
ルキアは穏やかに語り掛け、意思疎通を図る。その様子を見て、恋次はどこかおもしろくなさそうに距離を取った。
「なんだよあいつ。原始人なんかと仲良くしやがって」
嫁であるルキアが自分以外の者、しかも会話もおぼつかない子供と甲斐甲斐しく接するのを見ているのがどうにももやもやしてならなかった。その時、不意に霧が立ち込め、恋次は発生した霧に驚きながら視界を遮られる。
「・・・・・・嫌な霧だな」
霧の出現と共に身の危険を感じ取る恋次。冴えないと分かっていながらも、神経を集中して霊覚を研ぎ澄まし、ルキアの霊圧を追って元来た道を戻ろうとする。
その時、
「のああああああああああああああああ!」
「恋次っ!!」
恋次の悲鳴を聞き、慌てて彼の元へ駆けつけるルキア。彼女が辿り着くと、この星に自生する奇怪な植物が恋次の体を絡め取っていた。
「この!! 放せぇ!!」
必死にもがく恋次を助けるべく、ルキアとウンパが急いで応戦する。
「恋次! 今助ける!」
ルキアが斬魄刀を抜いて植物を斬り裂き、ウンパとその仲間のレムニア人も弓矢で攻撃を加えた。
「くっ・・・咆えろ、蛇尾丸ッ!」
恋次が蛇尾丸を解放し、ようやく蔓を振りほどいてルキアの元へ駆け寄る。
「ルキア! 大丈夫か!?」
「戯け! こっちの
そう思った矢先、空から翼竜型の怪物が群れを成して襲来した。
「こやつら!」
「何が何でも逃がさねーって訳か。上等だぜ、一匹残らずぶった斬ってやる!」
「ウンパ! 我々から離れるでないぞ!」
ルキアがウンパに声をかける中、恋次と彼女は互いに背中を合わせ、迎撃の構えを取る。そこに、一匹の怪物が鋭く飛びかかってきた。
しかし、次の瞬間――木々の間を縫って翡翠色に輝く斬撃が放たれ、翼竜の首を吹き飛ばす。
「あれは!」
斬撃が飛んできた方向に目を向けると、ユーノと共に恋次達を捜索していたなのはが駆け付けた。ユーノは無事な二人の姿を確認し、声をかける。
「恋次さん! ルキアさん! ご無事でしたか!」
「ユーノ殿・・・!」
「地獄で仏とはこの事だぜ」
心強い仲間の登場に、二人は安堵した。だが、翼竜型の怪物はなおも鋭い牙を突き立てて襲い掛かる。
「
ユーノは複数の防御を同時展開して怪物達を防ぐと共に、魔法の鎖で縛り上げて群れを搦め取る。
「なのは、これ使って!」
そう言いながら、ユーノは懐から取り出した拡張型アイテムをなのはに投擲する。受け取ったなのははそれをレイジングハートに装填した。
〈Upgrade complete(アップグレード完了)〉
「ありがとうユーノ君! いくよ・・・・・・マニューバ、S-S-A(シューティングスターアサルト)ッ! ファイア!」
なのははレイジングハートから回避不可の複雑な軌道を描く砲弾を放つ。強力な魔法が怪物を蹴散らし、ユーノから受け取ったアイテムの効果も相まって、貫通力が大幅に向上した砲撃が怪物たちの体を穿つ。こうして恋次達は窮地を脱した。
「おし、やったぜ!!」
「見事な連携だ」
敵を倒した後、ルキアはユーノとなのはを見やり、その絆の深さに感慨を覚えた。
(お互いを信頼し合える関係・・・・・・人の絆とは何よりも尊いものだな)
なのはは嬉々とした様子で敵を倒したことをユーノに報告し、ユーノも穏やかな表情でそれを聞く。その様子を見たルキアの顔にも、自然と柔らかな笑みが浮かんだ。
教えて、ユーノ先生!
ユ「今日は護廷十三隊についてだ♪」
「死神を育成する霊術院を卒業すると同時に多くの者が配属されるのが、死神による実行部隊である護廷十三隊。その名の通り、全部で十三個の部隊で構成されていて、隊ごとに特徴がある」
「二番隊なら暗殺業務を請け負い、四番隊は救護担当、十一番隊は戦闘集団と・・・どこの隊に配属されるかによって変わってくる。ちなみにルキアさんが所属する十三番隊は、隊員同士の結束が強く最も仲の良いという事で有名だ。これもルキアさんの手腕あってのことかもしれないね」
解説の後、ルキアが現れる。彼女は照れた様子でユーノに言って来た。
ル「私は特別何もしておりませぬ。隊長である浮竹隊長を慕った隊員が多くていて、その影響が大きいんですよ」
ユ「でも京楽さん言ってましたよ。その浮竹隊長が病に伏している今、実質的に隊を先導しているのはルキアさんだって」
ル「私などまだまだ若輩です! 小椿三席や隊士みんなのサポートがあって、なんとかなっているんです」
ユ「いやー、謙遜しますね♪ どこかの高慢で強欲な白鳥何とかさんとは大違いです」
するとこれを聞き、白鳥礼二が怒り心頭に文句を言う。
白「おい!! 白鳥何とかさんって、そこまで言うなら私の名前を出したらどうなんだ!! 却って陰険である!!」
ユ「あれ? 白鳥さん、どうして生きてるんですか?」
白「どうして居るんですか? であるぞ、そこは!! 私を陥れないでくれ!!」
どんどん雑な扱いをされる事態に白鳥は嘗てない焦りを抱くのだった。
魔導師図鑑ハイパー!
機動六課に迎え入れられた、朽木ルキア。
女性の死神という事で、女性比率が高い六課前線メンバーは好意的に接する。
な「ルキアさん、遠路遥々ようこそいらっしゃいました」
フェ「分からないことがあったら、何でも聞いてくださいね」
ル「ありがとう。何分異世界は初めてなものだからな・・・・・・そう言えば、お前達は数か月恋次達と一緒に過ごしているようだが、正直どうだ?」
ティ「どうとは・・・?」
発言の意図が分からないティアナがおもむろに尋ねると、ルキアは腕組みを組みながら語り出す。
ル「吉良副隊長はともかく、恋次は見ての通りガラが悪い上に、ファッションセンスは絶望的。おまけに変な眉毛をしておるし、そんな男と毎日顔を合わせなければならない。普通の人間だったら、まず仕事へのやる気を失っていたかもしれない」
ルキアが最も懸念していたのは、恋次という存在が機動六課メンバーの仕事に対するモチベーションが低下させたりするなど悪影響をもたらしているかもしれないというものだった。
それを聞き、女性人はこれまでの恋次の言動や振る舞いなどを思い返しながら、今さらながらお世辞にも彼が良識的な社会人とは少しずれているような気がしてならなかった。
ス「あははは・・・・・・私たちって結構節穴だったかも」
キャ「根はいい人だとは思うんですが・・・さすがに全身刺青だらけっていうはちょっと・・・」
は「ほんまに、あんな人がなーんで死神の実行部隊の隊長やってるのか、私にはちーっとも理解できへん。大体にして私への口の利き方が横柄・・・」
裡に秘めた恋次へのうっ憤をはやてが口に出そうとした、次の瞬間――
は「あ痛っ!!」
頭頂部に鋭い痛みが走るとともに、不機嫌な顔つきの恋次が手刀を下ろしていた。
恋「悪口なら聞こえないように言ったらどうなんだ!!」
は「ぐぅ~~~・・・いつから聞いてたんや・・・・・・!」
とばっちりを受けるのが、自分ばかりなのが腑に落ちないはやては痛んだ頭部を押さえながらしゃがみ込んだ。